5月。暦の上では既に夏だ。吹く風が心地良い。天気も良く晴れている。最高の昼寝日和だ。
なのに午睡に誘いに来た審神者は、ホロのモニターの前で手を組んで口を添えている。所謂ゲン○ウポーズだ。纏う雰囲気は、暗い。あまりにも思い詰めた空気を放っているから、声をかけるのが躊躇われた。そもそも人の気配に過敏な審神者が、特に気配を隠してきた訳ではない自身に気付かないのもおかしいかった。
「おーい、主……」
小声で声をかける。しかし反応はない。審神者のいるこの執務室は障子を開け放って明かりを採っているが、自然光のみのため薄暗い。そのせいで、まだ大して厚くもない背中が余計に薄く見えた。
何が、そんなに審神者を思い詰めさせているのか。気になって、自身はそっと、審神者の背後からモニターを窺った。
モニターには、1通のメールの画面が開かれていた。画像が添付されている。その1番下には――
「……無理」
呟きが漏れた。思わず見ると、審神者は視線をモニターに固定したままだ。そこから、経文のように声が漏れ続けた。
「マジ無理。本当無理。見送るの絶対辛い。でも見送らなきゃ……ああああ今まで最高にやばかったのは今剣だけど今回は別枠でやばい。めっちゃやばい。死ぬ。俺が死ぬ。もう今から6月末のことを想像するとやばい。暑くなるなとか考えてる余裕は絶対ない。普通に考えて修業先は結城家だろうけどもしあの日に向かうことになったらそしてもし御手杵が」
「主、俺がどうしたって?」
「!? 御手杵!? いつの間に!?」
「さっきからずっといたんだけどなぁ」
自身の名が出たので思わず声をかけた。すると審神者はひっくり返るような勢いで振り向く。そしてはっと慌てた様子でモニターを消した。改めて、恐る恐るといった様子で審神者は振り向く。
「……画面見た?」
「見たけどなんかあったか」
「ああ……わかんなかったならいいや。正式な通達じゃないし」
「おぉ……? ところで何ぶつぶつ言ってたんだ? びびったぜ」
「ああ、うん、なんというか」
自身が見つめている前で、審神者は顔に陰を落とす。
「御手杵クラスタの心の叫びかな」
「俺? くらすた? なに?」
「何でもない。ただね、御手杵」
そういって、審神者は自身の肩を掴んだ。何やら胃痛を堪えるような表情で。
「……生きて帰ってくれればそれでいいから……!」
「え? 俺練度最高値だぞ? 夜戦とか屋内戦以外だったら大丈夫だぞ? 修行に行った連中とは比べられないけど」
「うん、うん、そうだね、うん……!」
「あんた大丈夫かぁ……? よしよし」
終いには涙ぐみはじめた審神者を、自身は抱き締めた。頭を撫でてやると、肩に埋もれた審神者は「御手杵とうとい」などと呟いた。何なのだろう。そう思いながら、昼日中から審神者を宥め続けたのだった。
自身の修業先の準備が整ったという話が届く数週間前のことだ。
(もし彼が燃えた日に辿り着いてしまったらどうしよう、そう考えては胃を抱える)
了