pixivより転載
冬なのに、一片の桜が落ちてきた。それに呼応するように、花びらが霧散する。その中央に、男が立っていた。脚の長い、白いスーツ風の陣羽織を羽織ったサングラスの男だ。彼はにこりと微笑んだ。
「ああ、小鳥に呼ばれたか。上杉家御手選三十五腰のひとつ、無銘一文字。号して山鳥毛だ。我が家の鳥たちは集まっているか?」
「あー、上杉連中だったらそこそこいるぞ。一文字も一振りいる」
彼の言葉に呼応したのは、ふわふわとした茶髪の青年だった。恐らく男――山鳥毛より背が高い。緑色のジャージの胸には「御手杵」と記されている。それを見て、山鳥毛は尋ねた。
「まさかとは思うが……君が私の小鳥か?」
「小鳥が主を示しているっていうんなら、違うぜ。俺は今日の近侍。で」
近侍だと名乗った青年は、首を斜め後ろに向けた。釣られて、山鳥毛も見る。
手が伸びていた。見たところ、少年の手だと思われる。それが、山鳥毛の方に向けられていた。その手が、不自然な体勢で無理矢理伸ばしているためか、それとも怯えか。微かに震えていた。青年――御手杵は、呆れた様子で「彼」を見下ろした。
「こっちがウチの主。主、びびってないで俺の後ろから出て来いよ」
「無理!!!!!!」
「うるさっ大包平かよ」
馬鹿でかい声が、部屋に響いた。
小鳥と仲良くしたいんだが系刀剣山鳥毛v.s.ビビリ倒している系男審神者
山鳥毛は途惑った。響いた声はここの審神者のものだろう。声質は低く20代以上の男性を思わせたが、この高身長の御手杵の背後にいると小柄な少年にも思える。ぷるぷると突き出されたままの腕も未発達だった。いくつなのだろう。そしてなぜ怯えているのだろう。困惑する彼の前で、御手杵の傍らに立っていた、長い黒髪をひとつに括った赤い眼の青年が溜息を吐く。
「なんで今日急に俺から御手杵に近侍を交代させたのかと思ったけど、こういう理由だったの」
「どういう理由なのかな……?」
「壁」
「壁?」
「あんたと自分の間にできるだけ高い壁が欲しかったんでしょ」
そういわれて、改めて御手杵を見遣る。確かに背が高い。本霊の頃に聴いた話では御手杵は天下三名槍の一振りと謳われていた。残念ながら焼失したが、レプリカも多く存在し、そして5年前に刀剣男士として復活したという。その刀剣男士とやらという呼称は古めかしくて恥ずかしいのだが、と思いながら、再び視線を落とした。腕しか見えない当代の主。彼に御手杵が語りかける。
「なぁ主、いつも組織犯罪系ブラ本の摘発に乗り出してるだろ。そのときに暴力団やマフィアに接することもあるだろ。それなのに山鳥毛の何が怖いんだ」
言外にヤクザかマフィアと言われた。傍にいる黒髪赤目の青年も否定しない。フォローが欲しかったが、この場には彼らの他に誰もいなかった。自身を手に入れられるということはそこそこの戦力を持つ本丸のはずだが、あとで挨拶に回されるのかも知れない。そう思いながら山鳥毛が眺めていると、御手杵の背後から審神者らしき声がする。
「ガサ入れのときに遭遇するヤクザやマフィアは大人しい。こちらからの拘束力もある。でも山鳥毛は制限がないから怖い」
「襲わないというのに……」
山鳥毛が嘆息すると、審神者が再び怒鳴る。
「うるさい! ヤクザってのは人をびびらせるためにあるんだぞ! 人をびびらせるための存在にびびってなにが悪い!!!!!」
「主、逆ギレするなよ」
「主、お化け屋敷に対しても同じ理論を適用してるよね」
誰もヤクザというのを否定してくれない。少しはフォローして欲しい。自身の見た目が威圧的な自覚はあったが、それはそれとして。
再び息を吐き、山鳥毛は腰を屈めた。恐らくこの辺りに審神者の頭があるだろうという位置に目線を固定する。
「小鳥よ、私はヤクザではない」
「ヤクザはみんなそういう……」
「何をそこまで怯えているのかはわからないが……私は君の声に応えてここに来た」
山鳥毛は、できるだけ優しく笑った。
「それで信用してくれないか」
「……」
審神者はしばらく黙っていた。他の2振りも声を出そうとしない。
やがて、突き出されていた手が振られる。
「……ん」
「なにかね」
「握手」
そっと、審神者が御手杵の背後から出て来た。顔立ちは幼い。背の高い脇差男士という印象だ。そんな彼は、半身ぐらいは御手杵の背後にまだいたが、真っ直ぐに手を差し出していた。
「ウチの本丸に来た刀剣とは握手することにしてるの。だから、山鳥毛。握手」
それを見て、山鳥毛は目を瞬いた。
怯えてはいたが、握手をしてくれるつもりはあったらしい。つまり、友好を示してくれていたということ。それに、山鳥毛は破顔した。手を握り返す。剣を鍛えているような、やや堅い手だった。
「こちらこそ、宜しく頼む」
「……ん。ヤクザとか言って悪かったね。でも怖いよ、特にそのサングラス」
「私の今の体の1部のようなものだからお目こぼしいただきたい」
手は冷たい熱を持っていた。緊張が解れてきているようだった。
それを見守っていた2振りは、やっと微笑んだ。
なお、こののち1週間で審神者は山鳥毛に馴染むことになる。
了