雀の鳴く朝。障子からぼんやりと朝日の差し込む。そんな中、起きた水心子が見たのは、あまりに美しいフォームの土下座をかます清麿の姿だった。
「き……きよまろ、げほっ」
親友兼恋人のその姿に驚きが隠せない。彼の名を呼ぼうとして、その声が掠れていることに気付く。喉を押さえながら立ち上がろうとすると、腰が痛いことにも気付いた。ついでに頭も痛い。さらに、寝間着は羽織っているだけで裸だ。なので蒲団の中でへたり込んだまま清麿を見つめていると、彼は沈鬱な声で言った。
「ごめん。無理させた」
「むり……?」
「昨夜のこと憶えてない?」
「ゆうべ……」
掠れた声で鸚鵡返しをしながら、水心子は言われた通りに昨夜のことを思い出そうとする。
昨日は、確か飲み会だった。特に理由がなくても宴会が行われる本丸である。未成年の審神者は決まってソフトドリンク、そして22時には退席する。それを見送った辺りまでは憶えている。さて、そのあとはどうだったか。昨夜は夜戦帰りで疲れがあったから、酒が回るのも早かった気がする。そして、隣にいた清麿に――
「……!」
「あ、思い出した?」
「……私は……酔ってお前に絡んで……」
「そう。僕も酔っ払ってた」
そう。酔っ払った水心子は、隣に座っていた清麿に絡んだ。首に腕を回し、しな垂れかかって。甘い声で呼んだ。「清麿ぉ」と。人前で。仲間の前で。思い出すと首から耳にまで熱が点りそうだ。両頬を押さえる水心子に、清麿は追い打ちをかける。
「僕も酔っ払ってたから……しな垂れかかってくる水心子に我慢が利かなくて……」
「何をした」
「……皆の前でディープキスをして、おっぱじめようとした」
「……!!!!!!」
想像すると眩暈がしそうだ。今度は頭を抱える水心子は、恐る恐る尋ねた。
「……シなかっただろうな」
「さすがに周りに止められた」
「止められなかったらそのままスるつもりだったのか……!」
「その、あの、ごめん」
「……で、部屋に戻ってきて、事に及んだ、と」
「そういうことです」
終いには敬語になる清麿を、水心子は呆れ半分羞恥半分で見遣る。昨夜の自分たちがどんな淫らな行為に耽ったのか、憶えていないのが不幸か幸いか――そこまで思い至って、はたと気付く。
「清麿」
「はい」
「無理をさせた、と言ったな。ということは、お前には昨夜の記憶があるということだな……?」
「全く以てその通りで」
「敬語をやめろ」
溜息が混じる。なんとなく、悔しかった。それがどういう気持ちに由来するものかは定かではなかったが。
数十秒の沈黙ののち、清麿が言う。
「……前に水心子が言ってたよね」
「え?」
「酒の席での性交渉は強姦罪だ、と」
「……」
「僕も酔っ払っていたとはいえ、記憶は残ってる。意識もあった。だから、部屋に連れ帰って事に及んだのも僕の意思だ。だから、その、水心子は僕を罰する権利がある。僕たち刀剣男士には人権がないから法律は適用されないけど……」
こうべを垂れたままの清麿は、そのまままた沈黙した。水心子は内心で嘆息する。
この友は、変なところで律儀だ。そこは好ましいところではあったが。水心子は言った。
「たしかに強姦罪だな」
「……」
「でも、強姦罪というのは親告罪だ」
「……?」
「つまり、被害者が訴え出なければ成立しない」
清麿がゆるゆると面を上げる。それに、水心子は笑った。苦笑だったと思う。
「清麿、お前には心も体も許している。訴え出るとか、そういうことはしない」
「……水心子……」
「ただ」
水心子は指を突きつけた。
「さすがに今後、皆の前でキスというのはやめて欲しい」
「全く以てその通りです」
清麿は再び畳に額を擦り付けた。
さて、その日の朝食の席で酒宴に並んでいた者達が彼らをどうからかったかは省略しておく。
了