pixivからの転載
そういう雰囲気になった。だから、唇を重ねて、そのまま事を致そうとした。
「あ、そうだ」
その雰囲気をぶち壊して、覆い被さっていた自身から立ち上がったのは国広だ。体温が上昇してすっかり顔が蕩けていた長義は、国広の突然の行動に頭がついてかない。ぽかんとしていると、国広は迷いなく障子を開き、開けはなったままどこかへと駆けていった。置いていきぼりの長義が今の状況をぼんやりと整理している間に、国広が駆け戻ってくる。そして、部屋の前に何かを置いた。障子を閉める。長義の体に跨った。
「さて、続きをしよう」
「その前に、今何を持ってきた」
やや正気に戻った長義が、国広の体を押し退けた。抵抗はなかったので、そのまま障子の方へと這いずっていく。そして、障子を開いた。
そこには看板が置かれていた。公共施設などでトイレの掃除中などに置かれるような、小さなフロアユニスタンドだ。否、形状がそれに近いだけで、よく置かれているようなものほど洗練されてはいない。工事現場の危険を促す看板のようだった。それが置かれていること自体は、不思議だがまだいい。問題は、その内容だ。長義は冷めた頭で、唸るように言った。
「偽物くん」
「写しは偽物とは違う」
「今はそんなのどうでもいいんだよ。それより、この看板は何だ」
「見ればわかるだろう」
「わかるから言ってるんだ!」
立ち上がり、障子を大きく開いてそれを示した。
それは注意を促す内容の看板だった。そう、元々デフォルメされているこんのすけがさらにデフォルメされ、彼が「性交渉中です。ご理解とご協力をお願いします」と言っている体で書かれていた。
「何だよこの看板は!!」
「見ての通りだ。俺たちはこれから性交渉に及ぶ。しかし自室とはいえ、まだ昼だ。誰かが来ることがあるかも知れない。そのためのお知らせ看板だ」
「誰がいつこんなものを作った! お前か? お前なのか?」
「主が鶴丸と一緒に日曜大工で作っていた。トラップ作成で鍛えた技術で他にも同じようなものをとりあえず5つほど作っていたな。今は試作段階で、使用者からのコメント次第で改善すると言っていた」
「無駄に器用だな、主と鶴丸め……! ……ちなみに他のもこれと同じ内容なのか」
「いや、『自慰中です。ご理解ご協力をお願いします』という看板もある。文字通り自慰の現場に踏み込まれないように事前に告知しておくというやり方でな。そもそも主が審神者会議で知り合った六つ子の審神者に『ほも多いんだねー。それじゃうちのやり方教えようか』って看板の画像を提供してもらったこの自慰注意の方の看板の画像が元になっていてな」
「そういう経緯はどうでもいい! こんなもの不可だ不可! 置いておけるか!」
「待て、長義」
立ち上がって看板を退かそうとする長義の肩を国広は掴む。その顔は、ごく真剣だったので思わず長義も見入る。声音も、真剣そのものだった。
「考えてもみろ、長義。俺たちがこういう関係を結んでから、何回主に現場に踏み込まれたと思う?」
「…………」
「憶えていられないぐらいだろう。しかも主にはガサ入れする気も邪魔する気も一切ないというのに! ……他の衆道ップル連中も多かれ少なかれ同じ目に遭っていると聞く。だから、必要な犠牲だ」
「……」
「な、わかったら看板を」
「それでも! 不可だ!」
そういって、看板を部屋の中へ引っ張り込む。投げ出さないだけましか、と国広が嘆息していると、長義は彼の元へとつかつかと歩み寄る。そして彼の顔を両手で挟み――口付けた。舌を絡め合い、互いの腔内の味を確かめ合う。口を離すと、透明な糸が口の端から垂れた。それを拭う国広。長義は、熱っぽい目で国広を見遣る。
「主はそう簡単には来やしないさ」
「長義、そういうのをフラグt」
「本歌ー。今度政府に提出する書類だけどさあ、確認して欲しいところがあるんだけど」
立ったフラグは速やかに回収された。半開きのままだった障子から、書類を数枚握った審神者がそこに立っていた。固まった審神者は、抱き合っている長義たちを見て、何気なく障子の脇に置いてあった看板を見て――
「……看板のデザインの改善の余地があったら教えてね。書類の件は夕食のあとでいいや。それじゃ」
そういって審神者は障子をぴしゃりと閉めると、足早に去っていく音が遠離っていった。しばし呆然とそれを見送った2振り。先に口火を切ったのは国広の方だった。
「ネットで拾った言葉なんだが」
国広は続けた。
「こういうのを、フラグ回収乙、というらしい」
「そんなものを拾ってくるな。捨ててこい! ~~……仕方ないな……」
長義は、看板の必要性はわかってしまった。わかってしまったので、今日のところはこれで勘弁してやろうという悪役の捨て台詞のような気持ちで、部屋の前に看板を立てることにしたのだった。
結局、国広と「そういうこと」をしたい気は収まらなかったのだから。
その後、「どうせフロアユニスタンドとして置けるなら、『起こさないで』ってホテル風の内容にしておけばいいんじゃないか」という至極尤もな意見が1部から出て、その案に基づいた看板が制作。改善を重ねて、現在10個ほどの看板が常に準備されることになったのだった。
犠牲が、その礎にあった……。
了