※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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小豆がじわじわ怖い話。大人が子どもに相談しているという図式に萌える。そんなあずちょもに巻き込まれる審神者です。普段の病弱審神者シリーズの現代パラレルなので審神者は審神者です。ここだと審神者は「はにわ」ってあだ名です
pixivより転載


【あずちょも+男審神者現パロ】「とりあえずいい大人が10代の子どもに相談することではなくない?」

 そこは喫茶店だった。

「で」

 と、はにわとあだ名される少年は頬づえを突いた。お冷やの入ったグラスを揺らしている。

「うむ……」

 相対するのは、夕焼け色の目をサングラスで隠そうとして隠し切れていない青年。顔や首、手に入っている炎を表しているような刺青がとても特徴的だ。おまけに白いスーツ。はっきり言って、彼は浮いていた。相対する少年は傍らにエナメルバッグを置いているので、野球チームに所属することが傍からも知れた。どう見てもその筋の男と、野球少年がどういう関係なのか。それは傍から覗うことはできなかった。

 男は口を開いた。

「それで……小豆に、バレンタインに何をあげればよいか……わからないんだ」

 何てことはない。2人は友人だった。はにわは答えた。ついたて越しに新たに客が座ったのが窺えた。

「とりあえず地域密着型の医院の院長という社会的立場のあるいい大人が10代の子どもに相談することではなくない? 自分のところの看護師にあげたいプレゼントの相談なんて。吃驚したよ、部活帰りにここに引っ張り込まれて」

「すまない……悩んで歩いていたところに、咄嗟に君の顔が見えたものだから……」

「もう少し交友関係を開いていこう? ね? ほら、南泉とかさあ。あいつなら話は訊いてくれると思うけど、良い奴だし」

「子猫は身内の庇護対象であって、こういうことは相談できないんだ……」

「俺ならいいってか。おい、俺なら何してもいいってか。別にいいけどさ。あ、カフェオレは俺です。有り難う御座います」

「ブラックコーヒーは私だ。有難う」

 女性店員がやや怯えた様子ながら、恙無く飲み物を配膳してくれた。それに礼を述べながら、はにわはカフェオレに砂糖を3杯入れる。それをかき混ぜながら、熱いコーヒーを飲む山鳥毛に言う。

「で、小豆だっけ」

「あぁ」

「小豆なら甘いお菓子でいいんじゃないの。買うのが恥ずかしいっていうんなら聴かないよ」

「将にその、それだな」

 気まずそうに肯く山鳥毛に、はにわは溜息を吐いた。

「ネットで頼めば……ってもう明日じゃん。何でせめて3日前に相談に来なかったの」

「君に会えたのが去年の暮れのインフルエンザ予防接種以来だったものでね……」

「LINE教えたじゃん」

「いまだにスマホがうまく使えない……」

「大丈夫? 電子カルテとかちゃんと使えてる?」

「それは…………なんとか………………」

「患者として不安になる間はやめてくれない? ああもう、それじゃお菓子案は廃棄するとして。ネクタイとかタイピンとか財布とか腕時計とかハンカチとか万年筆とか傘はどうなの。そこそこビョーイン儲かってんでしょ、良いの買えるでしょ」

「それらはもうこれまでの誕生日やクリスマスやバレンタインに渡しているんだ……」

「なんてこったい。っていうか付き合いはじめたのって去年の春からじゃなかったっけ」

「それでも渡していたんだ……」

 カップを置いた山鳥毛が顔を覆った。それにはにわは再び小さく嘆息する。

 さて、はにわの家は道場である。地元では有名なところで、ひと言で道場と言っても剣術だけではなく、弓術、槍術、薙刀なども取り扱っている。地元の有名医院一文字の跡継ぎ息子だった山鳥毛も、幼い頃は剣道部門に通っていた。同時期に、剣道部門に通っていた少年がいた。小豆長光である。

 2人がどういう関係であったかは、はにわは知らない。少なくとも最初は友人同士だったのだろうと推察している。その後の関係の推移は、10才以上年の違うはにわは知らない。そこで何があったかはわからないが、山鳥毛が医学部に進んだ頃と時同じくして小豆も医療の道に進んだ。ただ、彼の進んだ道は少々毛色が違った。小豆は「国境なき医師団」の看護師として海外に行く道を選んだ。残された山鳥毛は大学病院で実績を積み、比較的早くに亡くなった父の跡を継ぎ30代前半にして実家の医院の院長となった。その1年ほど前に、小豆は日本に戻ってきていた。山鳥毛は医院を継ぐに辺り、小豆を引き抜いたのだった。かくしてどう見てもその筋の人といわれる院長と、どう見ても元傭兵か外人部隊上がりじゃないかと囁かれる看護師が一文字医院に着任したのだった――というのが2人のあらましだ。なぜ2人が通っていた道場の主の息子であるだけのはにわがここまで詳しいのかと言えば、なぜか山鳥毛の方がはにわに友誼を感じており、会う度にぽつぽつと語っていたからだ。

 今にして思えば惚気相手が欲しかったのだろうとはにわは述懐する。

 小豆と山鳥毛が付き合っていたのは、一目瞭然だった。幼かったはにわの目にも、2人の関係が出来上がっているのは知れた。なにせ小豆の方があからさまだったからだ。「さすが長船」「あいつも長船だった」と周囲から囁かれていた。はにわや同年代の友人たちにとっては「美味しい手作りお菓子を作ってくれる優しいお兄さん」だったが、今にして思えば、はにわたちは「恋の敵になり得ない」から優しくされていたのだろう――進路が別たれてから再会し、そして晴れて「お付き合い」をはじめた2人を偶々街頭で見かけたとき、山鳥毛の腰に手を添えて歩いている小豆を見かけた。そのとき、はにわに気付いた小豆が、ふっと微笑んだのを見た。それを見て、「ああ、小豆は山鳥毛を完全に手に入れたんだな」とはにわは悟った。そして、同時にあることに気付いて、はにわは背筋を寒くしたものだった……。

 そんな経緯など露知らずという様子で、山鳥毛はカップを片手に息を吐いた。

「友人にはプレゼントをするものだと思っていたし、離れていた分良い物をあげようと、そういったラインナップのプレゼントは既に贈ってしまったんだ」

「で、いざ恋人になったらネタ切れで困ってしまった、と」

「……何か妙案はないだろうか」

「簡単だ。俺一押しの店がある。今からそこにチョコを買いに行け」

「それが恥ずかしいから困っているんだろう……! 三十路過ぎの、こんな目立つ外観の男が女性溢れるバレンタインの店に行けると思うか」

「目立つ自覚はあったんだね。で? もしかして俺に代わりに買いに行って欲しいとか言わないよn」

「行ってくれるか小鳥」

「行かないよ? 自分で行け?」

「頼む小鳥、私にはもう頼れるのは君しかいないんだ」

「それもかなしくない? 俺しか友達いないのかなしくない? いい年こいた大人が高校生に頼むしかないのってかなしくない?」

「あまりそういうことは連呼しないでくれ、私もかなしい」

「なら自分で行こう? こういうことは恋人自身に選んでもらった方が小豆も喜ぶと思うよ」

「ぐっ……し、しかし……」

 次第に顔を俯かせていく山鳥毛。はにわは見ていて哀れになってきた。山鳥毛は医院を営む一文字一家の長となるべく育てられてきた。そのために彼の周りに従えるべき人間はいても隣に立つ友人と呼べる人間はほとんどいないのだ。少なくとも、今すぐに彼と連絡が取れる範囲にはいない。そして山鳥毛が幼い頃から相談を持ちかけていた唯一の存在の小豆は、今は最も実情を知られてはいけない敵だった。あの柔らかな微笑みを思い浮かべながら、はにわはカフェオレを啜った。そして言う。

「……小豆はお菓子好きだから、十中八九チョコ菓子は作ってるでしょ。バレンタインは小豆からもらって、ホワイトデーにお返しするという形でいいんでないの」

「それは私も考えた。が……」

「が?」

 山鳥毛はソーサーにカップを置いた。そして、刺青を赤らめて言う。

「……やはり、バレンタインという特別な日には、その……贈り物をしたいんだ」

「へーーー。だってさ、小豆」

「そうか」

「!?」

 がたん、と音が立つ。山鳥毛が顔を上げると、ついたて越し。隣の席から男が立ったのが見えた。スーツを隙なく着こなした、筋骨逞しい青年がそこにいた。小豆長光その人である。動揺してカップを引っ繰り返しそうになった山鳥毛は、小豆がコートを羽織りながら伝票を手にこちらに席に来るのを見守ってしまった。山鳥毛は尋ねる。

「いつから」

「『とりあえず地域密着型の医院の院長という社会的立場のあるいい大人が10代の子どもに相談することではなくない?』とはにわがいったあたりからかな」

「ほぼ最初からではないか……! 小鳥、君は気付いていたならなぜ」

 はにわはカフェオレを飲み干した。そしてソーサーに置く。立ち上がりジャケットを羽織った。

「お前らのプレイに巻き込まれたくなかったけど、小豆の邪魔をするのも怖かったからね。まあそういうわけで、小豆、山鳥毛も散々悩んでたんだからその辺汲んであげてね。俺から言えるのはそれだけ」

「あぁ、わかっているよはにわ。それではいこうか、山鳥毛。きみとはにわのぶんのこーひーだいもはらうから」

「こ、小鳥……!」

 常の彼ならばまず聴けないような、悲鳴に近い声がかけられる。しかし、はにわは振り返らず、「あ、会計はあの人達がするんで」とレジの店員に声をかけて店を出た。

 外に出た途端、寒風が吹く。それに身を震わせて、家路を急ぐことにした。エナメルバッグを揺らす。まだ出て来ない2人のことを考えた。

 小豆と山鳥毛の関係について、詳しいことは知らない。山鳥毛の方から見た断片的な情報しか聴かされていないのだ。しかし、それでも、だからこそ、ふと思ってしまったことがある。

 小豆は、山鳥毛を手に入れるために海外に行ったのでは、と。

 山鳥毛は、医院を営む一文字一家の長として育てられた。ゆえに舎弟のようなものはいても、対等な人間は少ない。そして学校という狭い世界の中で、小豆は恐らく対等な友人のひとりだっただろう。もし、そこに小豆の作為があったら。――小豆が、山鳥毛を囲い込んでいたとしたら。

 そして、そこまでしておいて、海外に行って山鳥毛をひとりにした。ひとりになった山鳥毛は、温かい部屋から、今この季節のような寒い屋外へと放り出されたようなものだろう。それでも彼は成長した。孤独を託ちながら。その孤独を託つのに慣れた頃に、小豆は戻ってきた。

 もしこの推測が正しければ、小豆は賭けたに違いない。山鳥毛が、小豆をどう扱うかを。そして、彼は恐らく賭に勝った。山鳥毛はまんまと小豆を引き抜いて、自分の医院に勤務させた。そして今、ぬけぬけと山鳥毛の恋人の座に座った。そう、ぬけぬけと。

(1度失いかけたものが自分の手近に戻ってきた。それを自分の手元に引き寄せることを躊躇う人間はいまい)

 鈴の音が聞こえた。はにわが振り返ると、喫茶店から2人の男が縺れ合うように出て来たところだった。小豆と山鳥毛だ。山鳥毛はこちらに気付かない。が、きっと恐らく刺青を赤くしていることだろう。振り返っていたはにわに、小豆が気付いた。

 小豆は、微笑んだ。

 そう、あのときも微笑んだのだ。

 その微笑の意味するところを考えて――それ以上、はにわは思考を止めた。

(山鳥毛も気の毒に。あんな質の悪い男に、子どもの頃から捕まっているんだから)

 せいぜい、幸せになればいい。たとえそれが鳥かごの中の幸せだったとしても、互いに満足していればそれでいいではないか。はにわはやけっぱちに考え、そして、そういえば自分はバレンタインになにかもらえるだろうかと想いを馳せるのだった。

 

「ざいりょうはわたしがそろえたから、きみといっしょにちょこがしをつくる。ことしはそうしよう」

「……あぁ……あまり経験はないが……頼む……」

「ふふ、山鳥毛はあいらしいな、ほんとうに。むかしから」

 

 

 

 

 

了

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