pixivより転載
それは清麿と水心子が畑内番を済ませた途次、庭を横断しようとしたときに目撃した光景だった。それに先に気付いたのは水心子だった。
「ん? あれは主か」
「あぁ、そうだね。主だね」
「あちらかは御手杵……」
向こうからは審神者、こちらからは御手杵。両者共に手ぶらだ。御手杵はともかく、やることの多い審神者が手ぶらというのは珍しかった。仕事をしているか本を読んでいるか、あるいは陸奥守に剣の稽古をつけてもらっているのが審神者の常だ。休憩中なのだろうか。そんなことを2振りが思っていると、審神者と御手杵が鉢合わせた。立ち止まり、しばし見つめ合う両者。
先に、両手を広げたのは審神者の方だった。
「ぎゅーってして」
甘えきった声だった。普段は、少なくとも清麿たちはまず聴くことのない、甘えに甘えきった声だった。それにギョッと目を剥く水心子と目を瞬く清麿。対して、御手杵はといえば。
「わかった」
とだけ答え、審神者を抱き締め返した。どうやら力の限り抱き締めたらしい、蛙を轢いたような審神者の声が漏れた。それでも、審神者は御手杵の背中に手を回した。
1分ほど経過したところで、彼らはどちらともなく離れ、そのまますれ違って各の目的地と思われる方へと歩み去っていった。その光景をずっと眺めていた清麿と水心子。清麿は呟いた。
「何をしているんだ、彼らは」
「仲が良いねぇ」
そのときはこれで終わったと、清麿は思った。
その話が蒸し返されたのは、その日の夜だ。
「あ~今日も良いお湯だったねぇ、水心子」
「そうだな」
この本丸の刀剣男士は基本的に大浴場を使う。個人風呂があるのは審神者の私室のみだ。性交渉の前の「準備」と事後の「後始末」が必要なモノのみ使用が許可されているが、それ以外は審神者ですら大浴場を使う。本人曰く「湯船に湯を貯めるのがしんどい」。この日も審神者が大浴場にまだ入っていたのを遠慮して、清麿と水心子は風呂から上がったのだった。温まった体を寝間着が包む。ほかほかとした体で、冷たい縁側を歩く。爪先から冷えるようだ。そう思ったから、早足の水心子に歩調を合わせて部屋に戻ろうとしていた。
その水心子の足が止まったのは唐突だった。
「水心子? どうしたんだい」
危うくぶつかるところだった清麿は、蹈鞴を踏みながら尋ねる。水心子は直ぐには答えない。なので、清麿は辺りを見渡し――ふと気付いた。この縁側は、昼間、審神者と御手杵が抱き締め合っていたところではないか。
そう清麿が思っていると、唐突に水心子は振り返った。
そして、両手を広げてくる。
「清麿、その」
夜目にも、水心子の頬が赤いのは風呂上がりだからだけではないだろう。清麿は察した。
察したので、遠慮なく抱き締めた。ぴゃっと水心子の体が跳び上がったが、抱き締めて固定する。そして首筋に顔を埋めた。深々と呼吸をする。
「水心子、石鹸の香りがするね」
「~~~~風呂上がりだから、なっ。なぁ、もういい、もう満足したから」
「うーん、僕はまだ満足してない。もう少し」
「清麿っ……!」
「……湯冷めしないうちに2振りとも部屋に戻って欲しいものだけどねえ」
「若いっていいよなぁ」
その光景を、通りすがりの審神者と御手杵は眺めていたのだった。
翌朝、2振りがクシャミをしていたのを、近侍の加州が報告に来たので審神者は「しょうがないなあ」と嘆息するのだった。
「ま、若いうちの特権だね」
了