pixivより転載
小豆長光には気になって仕方ないことがある。それは彼がこの本丸に顕現してからそこそこの年月が経って、はじめてのことだった。一文字一家の長、嘗て上杉家に共にあった刀――山鳥毛のことだ。
「そんなに山鳥毛くんのことを眺めてると、彼に穴が空くよ」
とは、長船派の祖の言だ。台所仕事の最中、燭台切は籠いっぱいの野菜を、小豆は小麦粉の袋を担いで歩いていたときのことだ。小豆は驚いて燭台切の方に顔を向ける。
「そんなにみつめていたか」
「あれ、自覚なかった? 視線で射殺すいきおいだったよ」
「そういうつもりはなかったのだが……」
言いながら、小豆は再び顔を向ける。庭で、山鳥毛は謙信や五虎退と共に池の鯉を眺めていた。その端正な横顔を見つめる。正確には、サングラスで覆われた目を。ただでさえサングラスで覆われた目は横顔だとよく見えなかったが。
小豆が気になっているのは、山鳥毛の目のことだった。夕焼け色の目は美しいと思う。しかし、刀剣男士として顕現した彼はサングラスでその目を覆っていた。内番をこなすときなどは外しているが、小豆としてはそれでも目を覆いがちの山鳥毛に不満があった。もっと目を見せて欲しい、と。それが愛しい恋刃のことだから尚更だった。山鳥毛らの姿が見えなくなり、厨に入ったところで小麦粉の袋を置きながら小豆は嘆息する。その姿を見ていた燭台切は、小豆と山鳥毛の関係の委細は知らなかった。仲が良い、とは認識していた。なので、何の気なしに言ったのだ。
「そんなに見つめるぐらい気になることがあったら、本刃に言えばいいじゃないか」
小豆は、その言葉に、しばし黙っていた。黙って小麦粉の袋を開けながら、振り返って言った。
「それもそうだな」
「そういうわけで、山鳥毛。きみのめがみたい」
「ここまで呼び出したのはそういうわけか……」
本丸の中にあるいくつかの空室。そこに山鳥毛を呼び出した小豆は、彼に迫りながらそう乞うたのだった。直球である。対面して座していた山鳥毛は、このときも戦闘着のためサングラスをかけていた。小豆はそれが邪魔だった。なぜ色眼鏡ごときが自身と彼を遮るのか。殺意さえ湧いてくる。物騒な思考に占められかけた小豆の脳を、山鳥毛の言葉が止めた。
「その、だな。恥ずかしいんだ」
「なにが、どうはずかしいんだ」
「……君が刀剣男士として先に本丸に来ているだろうと聴かされて……その、久方振りに君に逢うとなったら……」
左頬の、刺青が仄赤く染まる。
「サングラスでもないと、君と直接視線を合わせるのは、恥ずかしくて……」
「………………そうか」
「あ、小豆? 目が据わっているぞ」
「あぁ、いまはさんぐらすごしだからわたしのめがみられるのか。でも」
小豆は山鳥毛の片手を取る。もう片手で、彼の体を押した。畳の上に倒れる山鳥毛。ぽかんとした顔。サングラスがずれて、目が見える。無防備なその様に、小豆は喉の奥で笑った。
「わたしはきみに、ちょくせつめをみてほしい。……あぁ、ほら、しせんをそらさないで」
サングラスを取り去り、刺青を指先でなぞる。小豆が熱心に見つめると、首の辺りの刺青まで赤く染めた山鳥毛は、視線を逸らすばかりだ。小豆は、夕食まではこの愛しい刃の視線を独占しようと考え、まずは目元に唇を落とすのだった。
了