※この作品はR-18です。

ブラコン病弱審神者の強かな本丸日和   作:駒由李

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もしもとうらぶの世界が「輝/夜/姫」(清/水/玲/子先生著)ののちの時代だったら。
▼あの話のあとだったら、三日月じーちゃんの名前もピンとこなさそう。「え? みかづき? 何それ。月って200年前に離れた星でしょ。満ち欠けとかあったんだ?」
▼大体の概要:色々あって月が地球から離れた21世紀。環境の激変により当時の人口の1/10を失ったものの、科学の力もあって何とか人類は生存。その後の世代は、過酷な環境に耐えるようにあらゆる身体能力を獲得していった。
(こっからとうらぶ)→その中でひょんな拍子に、のちに「審神者」と呼ばれる能力を持つ者も現れた……が、諸刃の剣。同時期に時間遡航技術も開発され……っていう話 あちらの話を考えると日本の歴史を守るのは結構だいぶ重要そうですが 特に平安
▼すいません好きなんですこの作者さんの話 前に書いたのと似たようなのになっちゃったな…… 少しクロ/スア/ンジュ意識 社会的弱者が「審神者」になる例が多いとしたら、というifです


月知らず、【男審神者+三日月】

 それはまだ、三日月がやって来ていなかった頃の事だ。執務室。資料を読んでいた審神者が、こんのすけの隣でぽつりと呟いた。その時、清光は茶を淹れてきたところだった。

「『三日月宗近』って、どんな刀剣なの。相当強力な戦力になるみたいだけど」

「あぁ、貴男もですか」

 首を傾げる審神者。こんのすけは、心得た様子で肯く。茶を持ってきた清光に礼をいう審神者。その足下をすり抜け、こんのすけは縁側へと出て行く。それを目で追うと、こんのすけは「それ」を示した。

 時刻は既に日が暮れている。「月」が、空に浮かんでいた。ほとんど天候の変化がないそれは、きちんと月が満ち、欠ける。今は、丁度その「三日月」の形をしていた。それを示して、開けられたままの障子の向こうの審神者へ、こんのすけはいう。

「『三日月』。丁度、あのような形の星が、嘗て地球の夜空を照らしておりました。あのような形の打ち除けが多いゆえに『三日月宗近』と名付けられたそうです」

「へえ。……だよねえ。刀剣達が主流だった頃は、まだ月があったんだもんねえ。ピンとこないや」

「私もですよ」

「……月が、どうしたって」

 何とか平静を保ち、盆を卓袱台に置く。彼らの会話の意味が、理解できなかった。月が、どうした。最初の近侍としてやって来た時は、建物の中だった。そのまま、この本丸へとやって来た。だから、夜になれば当たり前のように昇る月が、ないなど――それに、こんのすけも審神者も頭を振った。

「俺達の時代じゃ、月はないのが当たり前になっちゃってるんだけどね。200年前……21世紀に、色々あって月が地球から離れちゃったんだって。さながら、三行半を突きつけられたようなもんかな」

 あぁ、だから最初の頃、夜になるとよく物珍しそうに夜空を眺めていたのか――清光がひとまず抱いたのは、審神者の行動の理由についての感慨だった。

 

 三日月の浮かぶ瞳。それを瞬いて、三日月は空を見上げる。この日も、同じ三日月が浮かんでいた。

「それでは、あの月は偽物か」

「一応は本物らしいよ。本丸は、時空間の特異点だから」

 茶をすする。湯気が立っていた。執務室の前。もうすぐ遠征から帰ってくる部隊を出迎える為に、審神者はこうして三日月と共に待っていた。元は部屋の中にいたのだが、「今日は俺が空に浮かんでいるぞ」と盆に茶と菓子を載せて誘い出したのが三日月だ。その中で、「23世紀には月がないそうだな」と、言い出したのも、彼だった。今なお物珍しそうに夜空を眺める審神者の姿がおかしかったらしい。苦笑混じりに、しかし、戸惑いを混ぜながら三日月は月餅を食べた。月を模った中国の菓子である。それに、審神者は苦笑を返した。

「みんな、この話が好きだね」

「というと」

「清光が安定に話したのが切欠みたいでさ。特に短刀勢が訊きたがって。月がないっていうのが、お前らには本当に信じられないんだね」

「にわかには信じがたいよ。闇討ちといえば月のない夜、というのが昔から定番だった。それが、主殿の時代では闇討ちがし放題ではないか」

「堀川みたいな事を……まあ、それだけならよかったんだけど。俺が『ここ』にいるのも、そのせいだし」

「ほう」

 三日月の物言いに、呆れた様子で息を吐く。彼も月餅を手に取ると、それを片手に頭を振った。三日月の目が細められる。

 三日月の頭に浮かんだのは、自身の名の由来にもなった「月」がなくなった事への、地球の環境への影響だ。――三日月が打たれた時代には、ただの愛でる対象だと思われていた。夜道を照らす光源だと思っていた。「竹取物語」という話のテーマにも用いられた。しかし、実際は異なる。潮の満ち引き、1日の長さも月が決めていた。海水の水位も――と、こんのすけに教えて貰ったものだ。

 それがなくなった。21世紀に何が起きたのか、詳しい事は審神者もこんのすけも知らないという。ただ、月が1度、地球と衝突しかけた。人類のプロジェクトの結果、その事態は避けられたという。しかし、「反動」が起きた――月が、地球を離れてしまったのだ。

『たった1年で、総人口が往時の1/10を失ったそうです』

 世界。人類。そこまで広い視野を、三日月は持てない。しかし、あの月へと飛び立てる程の技術を持った人類が繁栄していたというのは容易く想像がついた。そして、その反動も――

『それから200年。急激な悪環境に耐える為に、人類はその直後の世代からあらゆる身体能力を得ていったそうです。水の中で呼吸できる者、とても身が軽い者、高周波を聞き取れる者。これらは今の――ここの審神者殿の世代では一般的なものとなっています』

『主も出来るのか』

『ここの審神者殿は、“審神者”です。三日月殿』

「俺は水の中で息が出来ない方だ」

 回想を遮り、審神者はいう。三日月の、否、刀剣達の時代からすればとんでもない言葉だ。だが、本人はとても悩ましげに、眉を顰める。

「屋上と屋上を飛んで渡ったりなんて出来ないから、皆みたいに遊べなかったし。皆が聞こえる音が、俺だけ聞こえなくて話が合わない、なんて事もよくあった。三日月が打たれた頃だってそうでしょ」

「……水に沈めば溺れてしまうぞ、俺の時代の人間ならば」

「『違う』というのは、弱いっていう扱いを受けるって事だよ」

 断じる言葉は、刃だ。蜻蛉切の逸話も思わせる。思わず口を噤む、三日月に審神者は茶をすする。遠くの部屋から笑い声が聞こえた。

「俺は『ドーム』の外じゃ生きていけない人間だ。一定数はいるんだよね、俺みたいなのが。そういうのは国費の金食い虫、っていわれてた。それでも縋らなきゃ生きていけない。中々どうして、政府も俺達みたいなのに処遇に迷ったらしいよ」

「今は、主殿達のような者達に『役割』が与えられていると」

「三日月は話が早くていいね」

 そう微笑む、審神者の目は笑っていない。それに気付けたのは、彼の時代にはなき、月。それを瞳に湛える三日月だからか。湯飲みを手にする、審神者はいう。

「『審神者』の大半は、そういう無能力者から生まれてるんだ。基づく技術も勿論あるし、今の『普通』の人の中からも出てるんだけどね。必死になるんだろうね。神に縋ってでも、人間として生きたい。差別されたくない。自分達にも能力があるんだと証明したい人間が、審神者として能力を目覚めさせる事がとても多いそうだ」

「主殿も、その口か」

「限りなく近いな。何せ、俺は子供だ。『審神者』にでもならなきゃ金が貰えなかったから。今の政府としても、口減らしに少しでも多くの『無能力者』を違う時代に送らないといけないって都合もあったから。福祉とか、体面とか人材育成とか、色々ね」

 さり気なく告げられる言葉は、しかし過酷な時代の現状を物語っている。この本丸で過ごす審神者は、ごく平穏そうだ。しかし、それはここでは「役割」が与えられているからだろう。

 23世紀に戻れば、彼の居場所は、ないのかもしれない。

 そして、はた、と気付く。顔を上げた。三日月は、隣で座布団に正座する少年を見下ろした。子の少年は月を知らないという。だから、自身とはじめて見えた時、まじまじと瞳を覗き込まれたのが印象的だった。

『へえ、本当にこの本丸で見える“三日月”と一緒だ』

 鷹揚な気質と自負している。しかし、あの時の言葉の意味を今更咀嚼すると、背中に冷たいものを覚えた。刀であった頃は覚えなかった感覚。口をついて出た。

「……俺達が戦っているのは、この日ノ本の国の歴史改変を目論む輩だったな」

「ああ、わかっちゃったか」

 皆までいうまでもない。そういわんばかりに、審神者は笑った。肩を竦め、何でもないように語った。

「うん。俺はまだ弱い部類だ。だから、『月が地球から離れる』という歴史を変えようとする改変主義者と戦わせる事は出来ないんだ。21世紀は、銃器の時代だからね」

 ――日本の歴史の改変など、些細なものだ。だが、少しでも、審神者に「役割」を与えねばならない。既に、月のない環境に慣れつつある「大多数」の人類の為にも。

 少数が犠牲になる時代を、歴史を変える為に飛び出していっただろう、少なくない「無能力者」と呼ばれた歴史改変主義者達を倒す為にも。

 「政府」とやらがそう考えたのだろうという予想は、容易かった。

『審神者なる者は、歴史を変える力を持っている。否、それを目覚めさせた者達です』

 いつかのこんのすけの言葉を思い出す。憐れみすらこもっていた、その声を。

『23世紀は、彼らには、生きづらい時代です。だから、彼らには役目を与えないといけないんです』

「それでも」

 賑わいの声が聞こえてくる。遠征部隊が近いのだろう。その前に、と、立ち上がろうとする審神者の衣を掴んだ。自然、見上げる形となる。目が合った。

「それでも、俺は、主殿がいなければ、こうして見える事もなかったぞ」

 いつも緩む口の端が、自然と締まった。

 衣を掴む手を、ゆるりと解かれた。かえってきたのは、微苦笑。

「うん。俺も、『月』を知る事が出来てよかったよ。夜道は暗くてさみしいだけって思っていたから」

 三日月の瞳に、月影が揺れる。それは庭の池に揺れる月影とよく似ていた。

 ――庭に降り、駆けていく。その後ろ姿を見送った。

 自身が本当に月ならば、彼のこれからの、恐らくは暗い行き先も照らしてやりたい。息子のように想う審神者に、そんな感傷を抱いた。

 

月知らず、生まれた

(されど遡ればこそ、月を知る)

 

 

End.

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