ぷらいべったーより転載
この本丸は、年中行事には大概乗っかる。それこそ23世紀の日本で行われているものなら大概やっていると言って良い。政府が公式に行う行事と言えば月見と年末年始と豆まきぐらいだが、この本丸はクリスマスも祝うしバレンタインデーにもホワイトデーにも乗っかる。なんならオレンジデーもやるしサン・ジョルディなんてマイナーなものもやる。なので、ハロウィンで騒ぐのも小豆は既に慣れていた。
慣れていたが。
「……山鳥毛。ひとつききたい」
「なんだね」
小豆は手作りの菓子を詰め込んだ籠を片手に、部屋を訪ねてきた恋刃を見つめる。
彼はハロウィンはこの本丸に来てからは初体験だ。たぶん大体の本丸がそうだと思う。何せはじめて来たのが去年の12月だったので。だからとりあえずハロウィンの雰囲気に慣れるためにも、仮装側か菓子を配る側か好きな方を選んでくれ、と審神者は言っていたはずだった。山鳥毛は落ち着いているし「古臭いのでな」と西洋由来の行事にはあまり参加したがらないと思っていたから、こうして仮装してきたのは小豆には意外だった。
そう、仮装だ。仮装のはずだ。首からプラカードを提げている。まるでいつもの戦装束と変わらない格好に、そのプラカードは下がっていた。
「その、『893』というのは……?」
「そのままだ。地味ハロウィン、なるものがあると聴いてな。今年は勝手がわからなかったから困っていたら、君の刀派のところの大般若に助言をもらってな。なんでも白スーツは現代のヤクザ者に定番の衣装らしい。一応いつもの陣羽織ではなくジャケットを買ってきたんだが」
そう言われて小豆が見ると、確かに上着の丈が短い。本当にそのまま白スーツだ。成る程、地味ハロウィンというには惜しいほど堅気に見えない。これは刀剣男士ならではの地味、というものだろう。
しかしそれより――小豆は眉を顰めた。
「……大般若にきいたのか」
「あぁ、丁度近くにいたからな。どうした、小豆」
何でもない様子の山鳥毛に、小豆は少しだけむくれた。顔を背ける。
「…………そこは、わたしにきいてほしかった」
小豆がそう言うと、山鳥毛はサングラス越しの目を瞬き――破顔した。
「君を驚かせたかったんだよ、小豆。他ならない君をね」
「……まぁ、あるいみおどろいた。らいねんはもっとだいたんなかそうをしてもいいとおもう」
「それで菓子はくれないのか。とりっくおあとりーと、というものだったか」
「はいはい、おかしだね」
クッキーの包みを山鳥毛の籠に突っ込みながら、小豆はやや乱暴に言うのだった。
了