▼ランキングは燭台切とかも入ってると思います 歌仙はいつも怒ってそうだからあまり怖くなさそう
pixivからの転載
年末年始恒例となった連隊戦も、そろそろ終わるという頃にそれは起きた。
審神者が寝る前の読書をしていると、夜も遅いというのに乱暴な足音が寝室へと近付いてくる。夜警にしても乱雑な足音だ。怒っているような……しかし侵入者の気配は感じなかったし、と審神者が若干眠気に囚われながら悩んでいると、「主、入るよ」と障子の前から声がかかった。この6年ですっかり聞き馴染んだ声だ。返事をする前に障子が開かれる。
そこには、新撰組男士の一振り。大和守が立っていた。寝間着姿で、片手には枕を持っている。そして顔には「不機嫌です」と書かれていた。審神者は蒲団の中で本を手にしたまま尋ねる。
「どうしたの、こんな夜更けに」
「主。今日からここで寝させて」
「どしたの」
嘆息混じりに問う。理由は何となく察していたが、審神者は敢えて尋ねた。障子が開かれているから庭からの冷気が寒い。大和守はそれに構わず、障子を開いたまま言う。
「……清光と喧嘩した」
「まあ、そんなこったろうと思った」
本を閉じて蒲団から出る。押し入れから、予備の蒲団を取り出すことにした。
「いいよ。どっちも頭を冷やす時間が必要でしょ。今夜はもう遅いからさっさと寝ようね」
「理由は訊かないんだね」
「痴話喧嘩でしょ」
「……」
「全く、お前らはよく喧嘩の種が尽きないねえ。清光も俺と一緒に仕事をしてるときは冷静なのに。何にせよさっさと寝ようか」
そう話す間にあっという間に蒲団を敷き終えた。おずおずと部屋に入って来て障子を閉める大和守は、自分の枕を蒲団に置きながら、ふと尋ねる。
「主、本を読んでたんじゃないの」
「そろそろ眠くなってきたし今夜はもういいよ」
「ちなみに何て本を読んでたの」
「エルトダウン・シャーズって本。読む?」
「なんとなく正気度的なものが削れる気がするからやめておく。お休みなさい」
明かりが消えた。
翌朝。縁側を歩く音がする。携帯端末のアラームを止めたあと健やかに二度寝をキメた審神者の元に、容赦ない障子を開く音。
「主ー、朝だぞ」
「んん~~~~まだ眠い」
「あれ……もう朝……?」
そのアラームすら聞こえていなかった大和守が起き上がる。それに、ぴたりと息を吸う音がした。審神者が渋々と起き上がると、障子を開いた先に御手杵が立っていた。6年経っても変わらずに鴨居に額をぶつけそうな高身長だ。審神者がそんなことを寝ぼけた頭で思っていると、御手杵が常と変わらぬ声で問いかけてくる。
「なんで安定がいるんだ」
「ああ、昨夜清光と喧嘩したんだって」
「あぁ、痴話喧嘩」
「痴話ってつけないで痴話って」
「まあそういうわけで昨夜は俺の部屋にお泊まりだったわけよ」
「そっか~。とりあえずもう飯はできてるから早く来いよー。あ、清光はもう朝食食べてるから部屋戻っても大丈夫だと思うぞ。それじゃあな」
そう捲し立てて御手杵は障子を閉めた。審神者と大和守はきょとんとしていたが、すぐに朝の身支度に取りかかることにした。
障子を閉めたあと、縁側を歩いていった御手杵がどういう顔をしていたか知る由もなく。
大広間。そこにやって来た御手杵の気配に、朝食を摂っていた一同はぎょっとした。凄まじい怒気を背負っている。最早瘴気と言った方が近い。歴史修正主義者化してねーかあいつ、と囁かれている始末だ。
彼が向かった先は、加州が座している席の向かいだ。加州は心ここにあらずといった様子で周囲のざわめきに気付いていない。
その加州の向かいに、御手杵が座った。そこでようやく加州が気付き――ゲンドウポーズをする御手杵に目を剥いた。怖い。何だこの瘴気は。何があったのだろう。加州が思わず箸を止めていると、御手杵はひどく低い声で言った。
「清光」
「な、何」
「安定と仲直りしろ」
「えっ」
「仲直りしろ」
「そ、そんなこと他の奴に言われる筋合い――」
加州が昨晩の大和守とのやり取りを思い出し怒気を発しそうになったが――
「仲直りしろ」
御手杵の声音は飽くまで低かった。重低音だ。
「……わかった」
「いいか。せめて今日中にだぞ。夜までにはしろ」
そう付け加えると、御手杵は立ち上がり、「それじゃ俺、今日畑当番だから」といつもの声音で言って去っていった。
残された大広間の面子は、朝からどっと疲れた気配がした。特に連隊戦を回っている極短刀男士と、現在練度上げ中の泛塵は「今日頑張れるだろうか」とストレスを感じた。
「あ、御手杵。どうしたの」
「主、今夜部屋に行っていいか?」
「えっと、安定が」
「大丈夫」
「えっ」
「そっちは解決したから。だから今夜行くぞ」
「そう……?」
「あとな、主」
「うん」
「あんたと同衾して良いのは俺だけだからな」
「……いや、同衾はしてないよ? 蒲団を並べただけだよ?」
「同じ部屋で寝てるから俺的にアウト判定」
「ああ、そう……?」
了