pixivより転載
一文字則宗は気になることがあった。
最初は口に出すまでもないかな、と思っていたことだった。しかしこの本丸に馴染んでいくにつれ、人間関係の疑問点が湧いていく。それは彼らの顔色を見るなりなんなりして解消していったが、どうにもそれでは済まないことがあった。
審神者の蒲団である。
基本的に、この本丸は時間軸の季節に従って景趣を変えるらしいが、冬場でも蒲団を干したいときはある。そういうときは暖かい季節の景趣に変えて蒲団を干すのだが、則宗が来たばかりのとき。偶々その蒲団を干す日で、わいわいと蒲団が運び出される中、ふと見た。
審神者が自ら自分の蒲団を運んでいた。現代日本では平均的な背丈の少年なので危なげ自体はない。この本丸に来る前に監査官として洗った情報では着任当初は病弱だったらしいが今はほぼそんな様子もない。だから手を貸す必要もないか、そう思いながら眺めていたのだが――運ばれていく他の者の蒲団と比較して見て、気付いたのだ。
(大きくないか?)
繰り返すが、審神者の身長は平均的。確か陸奥守と同じはずだ。小柄ではないが決してとても大柄ではない。なのに、蒲団はやけに大きいように思われた。首を傾げる。はて、はて。気になる。いや、口に出すほどのことでもないか……。……。
「主、蒲団、やけに大きくないかい?」
「えっ」
結局突っ込んでしまった。
夕方になり、各々の蒲団を片付けはじめた頃。自分の蒲団を運んでいく審神者に、自身は訊いてしまった。蒲団を抱えたまま、審神者は固まる。それにはてと首を傾げる。
「何かまずいことを訊いてしまったか?」
「えっ、いや、そういうことはないけど。えーと、そうだね。ほら、大は小を兼ねるって言うでしょ。だから俺の蒲団も大きいの」
「そうなのか?」
「そうなの。じゃっ、俺はまだ仕事あるから」
そう言って蒲団を抱えた審神者は足早に去ってしまった。残された自分は、他の刀剣たちが蒲団を取り込む騒ぎから身を躱そうとして――ぽん、と肩を叩かれた。
「ん? 誰だ」
「俺だよ俺。なーにしてくれちゃってんのジジイ」
加州だった。手ぶらだったから自分の蒲団は既に片付けたらしい。内番着の彼は、どこか怒ったような雰囲気を醸し出している。否、実際怒っているのか。則宗が怪訝に思っていると、加州は自分の腰に手を当てる。
「ジジイ、あんまりそういうことつっこむなよな」
「そういうこと、とは?」
「さっき主に言ってたでしょ、蒲団の大きさについて」
「……先程主も狼狽えていたが……何かまずかったか?」
「これ素で気付いてないの? マジ? 老人性痴呆症?」
物言いの酷さに則宗は閉口する。そこまで言われる憶えはない。しかし加州は「しょうがないな」と溜息を吐いた。
「いいか、口は出すなよ」
「?」
「口を出さずに、主を観察してな。そうすれば自ずと正解は見えるだろうから」
そう言って、加州は去っていった。則宗は首を傾げていたが、相手はこの本丸の初期刀兼近侍だ。その言に従ってみることにした。
答えはその晩には得られた。
気配を消しながら審神者を観察していた、夕食の席。鮭のホイル焼きに舌鼓を打ちながらも審神者を見ていると、遅れて夕食の席に着いた者がいた。――第1部隊長の御手杵だ。彼は審神者の座る上座の、隣の席に座った。その目の前には加州がいる。近侍と第1部隊長の固定席だと聴いていた。この本丸の基礎知識を思い出しながら眺めていると、何事かを笑顔で話していた御手杵が、不意に審神者の耳に顔を寄せる。
このとき、則宗の監査官時代に築いた読唇術が火を噴いた。
『こんや、へやにいく』
そして全てを察した。
(成る程。槍男士と同衾するならあの蒲団の大きさも納得だわな……)
これは余談だが、後日審神者の執務室にも置かれている蒲団を見る機会があった。そちらは審神者が病床にあっても仕事をしなければならないときに使われるものらしいが、そちらはごく平均的な大きさの蒲団だったので、「仕事の時と病気の時はそういうことはしないんだな」と審神者と御手杵の価値観への知見を得た。
了