▼「【刀剣乱舞】お稲荷さんは好きですか【男審神者+小狐丸】」(https://syosetu.org/novel/85876/7.html)を先に読むと意味が分かる感じです
pixivより転載
いつかのように、審神者は厚を近侍にして待っていた。96時間前、修行に送り出したある太刀男士を迎えるために。
「まだかな……」
「あとちょっとだって」
答える厚も、既に修行して久しい。心の余裕があった。果たしてあれから6年経って、事情があって姿形は少年のまま変わらずとも、心は成長したはずの審神者が落ち着かない様子だった。もっとも、刀剣男士を修行に送り出したあとは毎回こうなっているが。江雪の時もこうだったな、と思い出しながらふと障子を見遣ると――人の気配。否、これは刀剣男士の気配だ。
「大将」
「あ」
障子が開かれた。
そこには装いを新たにした、小狐丸が立っていた。立ったままだった審神者が呆然と見遣った。
「狐と修行してまいりました。小狐丸、復帰いたしまする」
「お」
「お、とは」
「お帰りなさいいいいいいいい」
抱きつかんばかりのいきおいで、審神者は叫んだ。なお、修行を終えた刀剣男士を迎える時は毎回この調子である。それを見てきた小狐丸なので、6年前この本丸にやって来たときに大歓迎を受けて途惑ったときよりも落ち着いて受け入れられた。彼は、「ただいま帰りました」と微笑んだ。
審神者は上座で、ソフトドリンクを片手に笑って言った。
「そう言うわけで! 今夜はお稲荷パーティーです! いつもだけど今日は特に厨番の刀たちに感謝するように! めっちゃ手間かかるからね稲荷寿司! それじゃいただきます!」
「いただきまーす!」
号令と同時に、刀剣男士たちは目の前の大皿から稲荷寿司を小皿に取っていった。吸い物や小鉢はあるが、今夜の主菜は稲荷寿司である。小狐丸は審神者の至近の席でほくほくと小皿に稲荷寿司を取り寄せていた。そして一口囓る。目を瞠った。
「! これはちりめんじゃこが入っておりますな。ちりめんじゃこを擂ったものでしょうか」
「他にも漬け物を刻んだものとかも入ってるよ。俺のウチの弁護士の先生から教わったレシピでね。厨番に手間かけてもらって色々バラエティに富んでもらったんだ」
言いながら審神者ももぐもぐと稲荷寿司を食べている。その姿に、ふと、変わったな、と小狐丸は感じた。何がどう変わったのかはわからないが――
ふと、新たに口にした稲荷寿司の食感にまた驚いた。甘辛い、独特の味。しゃりしゃりとした食感。これは。
「おや……これは、紅ショウガでは……?」
「ああ、それも入れてもらったんだよ」
「しかし、ぬしさまはこれがお嫌いだったのでは?」
そう尋ねると、審神者はにやりと笑った。
「俺も成長したんだよ。紅ショウガ稲荷の味も悪くない、ってね」
「それはそれは――良いことでございますな」
小狐丸は微笑んだ。
付喪神の身で成長するとは思っていなかった。けれど、人の子もこうして成長するのだ。人の身を得た己が成長するのも不思議ではないのかも知れない――小狐丸は甘辛い稲荷寿司の味を堪能しながら、そう思うのだった。
了