pixivより転載
加州はそのとき、近侍を務めていた。否、ここの審神者が就任したその日から初期刀兼近侍としてほぼずっと務め続けている。この日も例外ではなく、刀剣男士から提出された報告書を審神者のパソコンに同期していた。この本丸の大半の刀剣男士は電子での報告書に既に順応したが1部の者は適応できておらず、本丸が開かれて6年以上経過した現在も紙で報告する者がいる。そう言う者の書類をデータベースに同期させるのが近侍の仕事のひとつだった。審神者は無言でキーボードを叩いている。その視線はホロモニターに固定されている。彼は無心にキーボードを叩き続け――
不意に、その手が止まった。
「主?」
それを不審に思って加州が声をかける。審神者は動かない。背中に定規を入れたようにぴくりともしない。その視線は、モニターの向こうを見つめていた。虚空を――
途端、横向きに倒れた。
「主?!」
すわ病気か。主に気管支を患う審神者だが、他の内臓疾患あるいは脳の病気かも知れない。そう思った加州が書類を放り出して近寄った。
審神者は無事だった。体は。
「あー……」
「……あぁ、駄目だこりゃ」
横たわったまま微動だにせずしかし空気が抜けるような声を上げるという奇態。しかし加州は慣れたものだった。彼の横を通り抜けて、縁側に出る。
「御手杵ー。御手杵いるー? いなかったら誰か呼……」
「おーなんだ。どうした清光」
果たして、尋ね人は庭を歩いていた。御手杵は内番着姿だった。特に用がないときは軽装を着ない傾向にある。軽装というくらいだから気軽に着られるものであるはずだし実際御手杵も気に入っている。しかし「いくら普段使いのための結城紬と言ってもやはりそれを普段使いはちょっと」と周りから止められており、良い奴である御手杵はなぁなぁとそれを受け入れていた。なので、内番のとき以外も寛いでいるときは今まで通り内番着姿だった。閑話休題。加州は室内を示しながら御手杵に言う。
「主の電池が切れたから充電してあげて」
「おーわかった」
あっさり承諾した御手杵は、「よー主」とそこの沓石から縁側に上がった。
この本丸に就任して3ヶ月。慣れないこともあったけれど卑屈な自分も概ね受け入れてもらえたと思う。なんでも「よくある」ことらしい。
『それもお前の歴史、物語だよ。そこに価値はつけられない』
そう答えてくれた少年が審神者だと言う。正確には既に少年とは言い難い年頃らしいがこの辺りは難しいというかややこしいシステムが絡んでいるらしい。閑話休題。
その恐らくはそこそこいい年をした少年の姿が、庭から遠目に見えた。縁側に横たわっている。そう――御手杵の膝枕で。
「……あれ、何? 雨さん」
「定期的にこの本丸で見られる光景、らしいです」
一緒に手合わせをしたその上がり、風呂に直行しようと近道をした先でのことだ。道場から審神者の執務室の前を通るのが1番近い。それで先程の光景を見てしまったわけだ。五月雨の言葉に更に眉を顰めていると、言葉が足りないことに気付いたらしい。五月雨は続けて言う。
「主の充電です」
「じゅうでん……? ただの膝枕に見えるけど……」
「あれが主の充電なんです。ほら」
そう言われてそちらを見遣る。そこでは審神者が膝枕をされたまま御手杵の服を引っ張っている。そして耳を欹てた彼が肯くと、擽り笑いながら――口づけした。それも一瞬のことで、けらけらと笑っている。
「……バカップルがいちゃついているようにしか見えないんだけど……」
「あれがウチの主の充電法なんです。他にも短刀男士たちと戯れたり打刀や太刀とゲームしたりしてもいいそうですが、あれが1番手っ取り早いらしくて」
「手っ取り早い?」
俺は顔を歪めた。
「いちゃつきたい口実じゃないの?」
「まぁ、それも否定できないでしょうね。それでは行きましょうか」
胸焼けを堪えながら、自分たちは大浴場へと向かうのだった。
「おーてぎね、御手杵、御手杵ー」
「はいはい、ここにいるよっと。もう1回キスするか?」
「もっとー」
「はいはいっと」
「主、普段は有能な働き者なのにたまーに電池が切れるんだよな……御手杵がいて助かるけど」
了