pixivより転載
数日前、政府から「大事な品物」を預からせられた。袋に包装されたそれは簡素なようで、何かしら「力」を感じる。それをしげしげと眺めながら、俺はそれを持ってきたこんのすけに尋ねた。
「これ、何?」
「今は申せません。ただ預かっていただきたい。そうですね、1週間ぐらいは」
「ふうん……?」
「できれば、肌身離さず」
「よくわかんないけどわかった。そもそも政府からの命令なんでしょ、今は従っておくよ」
「今は」
「今はね」
そんなやり取りをしたのが、そう、6日前のことだったろうか。
そして今日、本丸が襲撃を受けた。
「……は、はっ……」
土手っ腹に空いた穴を抑えながら、いずことも知れぬ森の中を歩く。ぎしゃぎしゃと、金属音の擦り合わされた「声」が聞こえてくる。あれは歴史修正主義者か、検非違使か。どちらにせよ今の俺の原状を回復してくれるものでもない。
そもそも落ち延びた敗将なのだ。惨めだし、情けない。腹を押さえながら、できるだけ気配を消して茂みの影を這いずる。敗将とは言っても、原因は上にある。結界の総点検と称して一時的に1部の本丸の結界をオフにした。その情報が事前に敵方に漏れていたらしい。恐らく今その結界を切られた本丸の悉くが襲撃を受けているだろう。その中でも、自分たちは最悪に近い状態で受けた。日課の任務を終えたからと、極カンストの刀剣男士も遠征に出してしまった。本丸に残されていたのは比較的低練度の刀剣男士たち。彼らは侵攻してくる敵に立ち向かいながら、「主を逃がせ!」と口々に叫んだ。
「審神者様、これを!」
言われるがまま落ち延びようとした自分に、こんのすけが「それ」を口で渡してくる。今はそれどころではない、と言い返そうとしたところで、手渡されたのが例の「大事な品物」だということに気付いた。こんのすけは口早に言う。
「それは政府にとって大事な代物ですが、今のあなたには有益なもののはず。それを持って逃げてください」
「こんのすけも一緒に」
「誰が現場に残って救援要請を出すと思ってるんですか。ほら早く! 加州殿! 他の方々! 審神者様を頼みましたよ!」
「おう!」
そうして俺たちは、適当な座標を打ち込み、どこへとも知れぬ時代へと落ち延びた――
しかし、敵はそうは問屋が卸さないと追いかけてきた。それなりに人数がいた俺の護衛団も、「ここは先に行け」と足止めをするために立ち止まって自分たちの足を急がせる。その途中で前方から急襲され土手っ腹を刃が掠めたが、御手杵が得意の槍三連撃でそいつを打ちのめした。
「有難う御手杵」
「喋るな主! 手当てをしないと」
「そう言ってる間にも追いかけてきてる。もっと安全な場所を――」
安全な場所などなかった。
最後まで残っていた第1部隊長の御手杵、初期刀兼近侍の加州。彼らもいなくなり、俺はひとりで森の茂みを走り続けた。こうすればできるだけ人目は避けられるだろう。そう願いながら――ふらついた。失血が失調を起こした。地面に強かに倒れ込む。
「……ったあ……」
――そのとき、懐から転がり出る何か。
それは、こんのすけに託された「大事な代物」。開けるな、とは言われていなかったから、恐る恐る袋を開く。
中には、変わった材質の金属の欠片が入っていた。ぴかぴかとしている。そしてなにより、審神者として「これ」に通う何かの力を感じ取っていた。
それを握りしめて、俺は願う。
「――この欠片が何かは知らない。けれど、恐らく今の俺にぴったりなんだと思う」
俺は祈った。
「俺は見ての通り、ひとりじゃ無理だ。立ち上がることもできない。ただ、力を貸してくれる存在がいれば立ち上がれる。どうか――」
握る手にさらに力を籠める。腹の傷でついた血が欠片に付着したことに気付いたが構っていられない。そして呟いた。
「助けてくれ」
――一陣の風が吹いた。
思わず目を瞑った俺の前で、まだ昼日中だというのに眩い光が放たれる。倒れ込んだまま顔を腕で覆った。
気配がする。
恐る恐る腕を外して見上げる。そこに、ひとりの青年が立っていた。
金色の髪と緑色の目をした、まるで童話の王子様のような人。手には剣が握られている。刀ではなさそうだった。腹の傷も忘れて半ば呆けながら、俺は問うた。
「刀剣男士……?」
「違うよ。私はアーサー・ペンドラゴン」
俄に信じがたい名を告げられる。驚く間もなく、彼は俺の前に屈んだ。
「助けて欲しい、と言っただろう? 君の召喚に応じた。力を貸そう」
目を瞠る。そして伏せた。希望を掴んだ、そう思えた。
「まずは手当てからだね」
剣を仕舞った彼の優しい声に、俺は意識を手放したくなるのを堪えながら手を伸ばした。
それは刹那の邂逅。砕かれた鞘の欠片による呼び声に応じてくれた異世界の騎士王との仮初めの契約を果たした。
刀剣男士は一振りも折れてはいませんが敵に洗脳されており、このあとそれをアーサーと一緒に洗脳解除(物理)(エクスカリバー)していってハッピーエンドです