▼このシリーズに入ってますが今作は番外編です 本筋には出て来ないと思います たぶん きっと
pixivより転載
それは、特に理由のなかった飲み会。つまりいつものこと。未成年の審神者が就寝し、御手杵(部隊長)と加州(近侍)がそれについていったのを見送った刀剣男士たち。宴もたけなわ。すっかり酒の進んだ彼らが話すのは色恋から下世話な話題に推移していった。やれ万屋街のあの店の看板娘は評判が良い、やれ花街のあの店のあの遊女が具合が良い、など。
その話になったのは、何が切欠だっただろう。とにもかくにも、笑いながら杯を傾けていた薬研が言い出したのは確実だ。
「ははっ、そうかそうか。そういや、この中でウチの大将が好きって奴はどれぐらいいるんだ?」
そう言いだしたとき、やや場の空気が変わった、とのちに1部の刀剣男士は語る。薬研の発言でざわ……ざわ……と顔を見合わせた。薬研はと言えば、白皙を酒でやや赤らめながら笑っている。
「どうした。酒の席なんだし無礼講無礼講。大将も寝ちまったし、保護者(加州)も彼氏(御手杵)もいないんだ。ぶっちゃけていこうぜ。それで改めて聴くが、大将が好きって奴は手ェ挙げろ。……ははっ、全員か! 大将好かれてんな!」
薬研が笑いながら日本酒を呷った。それにやや戸惑い照れたような空気が充満し、それで終わると思った、が。
薬研の攻めは止まってなかった。彼は言った。
「で、ぶっちゃけ大将を抱けるって奴はどれぐらいだ?」
空気が強張った、とのちに1部の刀剣男士は語る。しかし、おずおずと手が挙がったのはやはり既に泥酔に近い域で全員が酔っ払っていたためだろう。その数――
「おいおいマジか、全員か! ま~大将見てくれいいしな~。まぁそれだけじゃないんだろうがな。で、更にぶっちゃけると、実は大将を愛してるって奴は?」
今度こそ空気が凍った、とのちに(以下略)。それでも、ここまできたら毒を食らわば皿までと言う雰囲気が場を覆った。それに、ここで本音を出すのも一興、と思ったのも少なからずいただろう。
薬研は笑った。
「これも全員か! なんだ大将、好かれて愛されて抱きたいと思われてんのか! モッテモテだな! はは、こりゃ負けてられねぇな。俺も――」
「楽しそうだな」
――底冷えする声。
それが、閉められていた障子の、開け立てられた細い隙間から聞こえてきた。
それで薬研までもが黙り込む。その場にいた者は、皆その隙間を見ていた。正確には、その隙間の向こうにいる、背の高い青年――暗闇の縁側で室内の明かりに照らされた御手杵が、緩く口の端を釣り上げていた。
ただ、その目は、笑っていない。とてもではないが、笑っていない。いつもの優しく朗らかな彼はすっかり鳴りを潜めている。気の弱めの刀剣男士が「ヒェッ」と息を飲んだ。それぐらいの気迫だった。
御手杵は、そのままの立ち位置で語りかけてくる。いっそ優しいほどの声音で。
「そんなに酒が進んだんだな。俺たちがいなくなってから随分と」
「いやぁ、その」
「それで、酔っ払ってるんだな? お前ら」
「えっ」
薬研が杯を握ったまま見つめ返していると、御手杵は微笑んでいた。相変わらず、目だけは笑わずに。
「酒の席の冗談。そうだよな?」
その場にいた面子は、その副音声を聴いた。
『そうでなければ、わかっているよな?』
「………………ハイ」
「そっか! それならよかった」
そう言って笑う御手杵は、いつもの彼だった。そのあとから「主寝たよー御手杵風呂入ろう。あれ? どしたの」と加州の声が届く。そんな彼に「飲み会の様子はどうなってるかなって思っただけ。それじゃ風呂入りに行くかぁ」と御手杵は歩み去っていった。
足音が遠離っていき、やがて聞こえなくなったとき。どっと緊張が解けた。
「……やっっっっべ……」
「彼氏怖いな……」
「いや~不用意なことは言うもんじゃないな。肝に銘じとこう。……まぁ御手杵がいなくなったところで、最後にこれだけは聴いておきたいな」
「まだあるのか」
「おう。――大将が御手杵と付き合ってなかったら、攻めに行く奴は?」
沈黙。しかし、挙手はされた。
「……これも全員か。まぁ大将が御手杵と別れることはまずないだろうからな……そうなったら御手杵は神隠しする可能性が高いし……万が一があった場合……そのときは戦争だな」
「内ゲバとか勘弁してよね~」
乱がカシスオレンジを呑みながら嘆息した。
それでもう、全員の酔いが醒めてしまったので何となくこの日の飲み会はお開きになった。
その後数日に渡って、審神者に対して刀剣男士の態度が余所余所しいということがあり「俺なんかしたかな……」と審神者が落ち込むことになり御手杵が密かに激昂する事態が発生する。
了