pixivより転載
主が軍議室で映画を観ていた。
「……主~~?」
「えっ清光? ちが、今日の仕事はちゃんと終わった!」
「仕事の問題じゃないんだよね~~」
そこを訪ねたのは偶々だ。主におやつを差し入れに行った先で、執務室にも私室にも姿が見えないから本丸を捜し回っていたのだ。そこで音が漏れてきた軍議室を見つけ――軍議室はその性質上完全に障子が閉じられていたら音漏れは決してしない構造にも関わらず音漏れしていたので――、中を覗いたら主がコーラ(2リットル)とポテチ(大袋)をお供に、軍議で使うスクリーンで映画鑑賞に興じていたのだった。俺は呆れながらも後ろ手に障子を閉めた。これで完全に防音だ。ハァヨッコイショと主の隣に座る。そしてポテチの袋に手を突っ込んだ。
「軍議で使うスクリーンは私用しちゃダメでしょ。せめて俺かこんのすけに許可を求めて」
「だって却下されるでしょ」
「わかってるじゃん。ちゃんと映画用のシアターもあるのになんでそっち使わないかな」
「こっちの方がスクリーンが大きくて迫力あるし……あとあっち予約制だから順番待ちがつらい」
「それもわかる。で? これ何の映画?」
「あ、観ていくんだね」
主のコーラ用グラスを引っ手繰って一口呷る。俺たちが話していた間にも映画のストーリーは進んでいた。ぱっと見は何の映画かわからなかったので尋ねると、主は「スパイものかな」と俺から取り返したグラスでコーラを飲んだ。
どうやら俺が来たときは映画はまだ序盤だったらしく、内容は徐々に飲み込めていく。中盤に至るとのめり込んでいた。なかなかに面白い映画だ。そう思っていると、主はふと思いついた様子で呟いた。視線はスクリーンに固定されたままだ。
「そういえばさ、こういう諜報機関の人事異動ってどうなってるんだろうね」
「って言うと」
「ほら、諜報機関っていうか情報部って大事な情報を扱うわけじゃん? 時として国家間のパワーバランスを揺らがしかねないような……そういう情報を知っている人間は少ない方がいいんじゃないかなって。でもそうなると人事異動って気軽にできないよなって」
「それもそうだね」
ここまでは、俺も世間話の一環として聞いていられた。ポテチをバリムシャァしながらコーラで流し込んだ。
しかしウチの主は意外性No.1の男。
「いざというときに情報を持ってる奴がやらかしたらぶっ殺せばいい話だけどさ」
俺は思わずポテチを取る手を止めた。
「でも無能な奴もいるだろうし長いことその立場にいることを利用して情報を流す奴もいるだろうし、やっぱそこらへんは公務員らしく定期的に人事異動すんのかな。私腹を肥やす奴も出るだろうし……清光? どうしたの」
「……主……」
俺は呆れ半分恐怖半分で主を見つめた。
「そういうことは、他所では言わないようにね」
「えっ、何が?」
「何がじゃないよ。怖いよ。素で言ったの今の。これだから主は政治家か悪党向きって言われるんだよ」
「心外なんだけど。えっマジで何が?」
「そういうところだよ……」
映画は終盤に入ろうとしている。コーラは尽きかけていたしポテチも底をつきそうになっていた。
了