---シュウ---
こそこそ調べていた藤林響子に『這い虫』を発動して、全身を探った。意外な縁を見つけた。エリカのアニキに少し気があるようだったので、結ばれるきっかけをプレゼントしてあげた。これで、大人しくなるかな?
で、僕の案件のターゲットだけど、聖杯を使っていたのは、覆製体だった。本体を探すが、名前も所属も不明で、姿形も判らない。覆製体の顔や体型を聖杯で弄っていたのだ。まぁ、これで相手も魔導師ってことだな。問題は何系の魔導師かだ。ネクロマンサー系は、死体を操るので嫌いである。召還も出来るしなぁ。そう言えば、九校戦の移動時に召喚されたっぽいのと、リビングデッドだったよな…あぁ、僕と同じでヒネた性格だと厄介だ、
まぁ、何か事件が起きないと、手がかり無しだ。困った…
翌日、気配を薄くして教室に入った。今日もモブ男君で過ごしたいものだ。しかし、名前が割れているので、そうはいかなかった。
「姫島朱宇だな?」
達也に声を掛けられた。達也の声でエリカ達が僕を注目した。
「お前、昨日の…」
しょうが無いなぁ。
「だから、クラスメイトだと言っただろ?」
「おい、お前は何者だ?」
エリカには関わりたく無い。スルーだな。どんなに罵られようが、エリカの元気な声を聞けるのはちょっと嬉しい。
「スルーだと?お前なぁ!」
あっ…コイツ、前回はスルー攻撃がキーだったんじゃないのか?僕の動揺を達也は見逃さなかった。
「エリカと因縁でも有るのか?」
こういう場合、エリカの鋭い勘と達也の冷静な感性は、大敵である。スルーする。
「そうか…」
達也がエリカに何かを耳元で囁いている。何をかますんだ?をい!
「えぇ~。なんでだよ…レオにもしたこと無いんだぞ!」
何を言ったんだ?レオにもしたことない事って?ドキドキするが、平静を装う。
ビクッ!
全身に電流が流れる感覚がした。背中にエリカの柔らかい乳房の感覚がある。耐えないと…
「ねぇ、教えてくれない?ふぅ~」
僕の耳元で囁き、耳に息を…ダメ、逃げよう!僕は転移して逃げた。
---エリカ---
達也に言われた通りすると、アイツの姿が消えた。
「やはり、エリカと因縁が有るようだな。堪らず、逃げたようだ」
逃げた?
「どうやって?」
「転移術だ」
転移術?あぁ、移動系の魔術か。
「魔術師か?」
「現代魔法師では無いと思う。問題はエリカとどんな因縁があるのかだ」
「嫌いじゃないと思いますよ。むしろ…」
美月が何かを言おうとして止めた。
「まさか…ごめんなさい。用事ができました。今日は休みます」
美月が教室から出て行った。なんだ、アイツ?
---美月---
家で見つけたスクラップブック。私が作った物だ。どうして、忘れていたのだろうか。ある事件の記事をまとめておいたのだ。
この記事によると、九校戦の宿舎を襲撃されて、生徒三名が行方不明とある。彼らの部屋は目を見張る惨状だったらしい。生死すら不明の三名。千葉エリカ、神代亘、鬼門深雪の3名だ。
深雪の名字が聞き慣れない物だったので、みんなに知らせなかったけど、姫島君は神代亘という人物では無いかと思う。神代亘が姫島君と同一人物なら、教室から逃げたのと同じように、襲撃から二人と逃げたはずだ。
記事は発生時の物しかない。二人の生還は新聞記事に載ることが無かったのだろう。これが隠したい事なのか?
「亘君…教えて…」
えっ…今、私は何て言った?彼の名前を呼んだ。何で?知り合いだったから?幹比古君と付き合い始めた経緯を思い出せない。亘君がそうしたの?ねぇ!教えて!
次の瞬間、私は神社の境内にいた。
「新聞の記事をスクラップか…そこまで手は回らないよな」
項垂れている亘君。
「ねぇ、どういうこと?教えてください」
「秘密を護れるか?」
頷く私。
「護れなければ、今度は記憶を刈り取る。記憶障害が残るが、覚悟しておけよ」
やはり、彼が記憶操作をしたんだ。
「わかりました。で、どうして、記憶操作をしたんですか?」
「エリカを助ける為だ…」
「エリカを?」
「アイツを僕は護れなかった。目の前で…」
嗚咽を漏らして言葉にならない亘君。それって…そういうことだよね?
「だから、生き返らせた。やってはいけないことだけど…」
死者を生き返らせた…やってはいけないこと…だから、記憶から消した…
「そう。僕の悪事がバレるから。それだけだ。理由は…」
「何で、名前を変えて戻って来たの?」
「やってはいけないことは罰を受けるんだ。エリカには別人として再会。それが僕が僕に与えた罰だ。今度は裏舞台から護る。だから、秘密だぞ、美月」
---シュウ---
美月には嘘半分真実加工済みを教えた。受けた罰が禁固刑100億年なんて信じて貰えないだろうから。
「わかった。秘密にする。でも、協力したい。私にできる事は無い?」
「今は無いよ」
「記憶が戻っているのは?」
「美月、深雪、雫、ほのか、克人だ」
「わかった。で、ここは?」
「姫島神社だ。僕の住んでいる場所、雫とほのかが鍛錬している場所だ」
「あぁ、あの神社かぁ。わかりました。私も出入りしていいですか?ここって、精霊が一杯いるし」
あぁ、不可視化能力持ちだったな。本来見えてはいけない者が見えてしまう。翼紗と同じ能力だな。
「放課後、おいで」
「今日は学校を休みます。ここに居ていいですか?」
「僕も休むから。同罪だな♪」
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翌日、教室へ…待ち構えているエリカとレオと幹比古…
「おはようございます。亘さん」
「あぁ、おはよう、美月」
うん?今亘って呼ばなかったか?エリカの顔がニヤっと笑っている。マズい。でも、二日連続逃走では、良く無いよな。今日こそ、スルーで押し通すか。
自分の席に座り、授業の準備をする。
「ふ~ん、今さぁ、美月に亘って呼ばれてなかったか?」
エリカがねちっこい言い方で訊いてきた。
「気のせいだ」
「何で、昨日は逃げたんだ?」
「言いたく無い」
「美月、いつコイツと仲良く成ったんだ?」
標的を美月が変更か?
「おい、クソ女!美月を虐めるなよ」
「誰が、クソ女だ?」
「お前だよ!」
「おい、俺の彼女をクソ呼ばわりするなよ!」
レオも参戦か?
「レオパレス君だっけ?」
「俺は賃貸アパートじゃない!」
授業開始で、これ以上の騒ぎにはならなかった。昼休み、速効で逃げる。と、見せかけて、空気と同化♪
「くそっ!また転移されたのかぁ…」
エリカが悔しがっている。
「あの野郎!おい、達也、どうすればアイツを倒せるんだ?」
「倒す?無理だぞ、レオ。格が違いすぎる」
うん?達也は何かに気づいたのか?
「格?何のだ?」
「剣の使い手で最上級聖戦士だぞ。その上、魔術師だし。レオが足掻いて勝てる相手ではない」
バトンソードから最上級聖戦士ってバレたか。やらかした…凹む僕。
「でも、攻略方法は有る」
攻略方法?
「どういう方法だ?」
「アイツの弱みは判っている。エリカと深雪だ。その二人を危険な目に遭わせれば、助けに来るぞ」
こ、こ、コイツ…無茶な攻略方法を提案しやがって…どうする…考えるよりも先に行動してしまったバカ神の僕。達也達の心臓を舐めて、エリカを抱えて転移した。
エリカを安全な場所に…
「ここはどこだ?」
スルーする。
「これって、誘拐だよな?」
スルーする。
「おい、答えろよ!」
僕の胸倉を掴むエリカ。顔が近い…固まる僕。
「お前、私の何だったんだ?」
スルーする。
「記憶が曖昧になる前、お前は私の何だったのか、訊いているんだ」
授業開始時刻一分前、教室に転移して、自分の席に座る僕。
「お前…」
その後、先生に注意され、渋々自分の席に戻ったエリカ。
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放課後、速効で校門前に転移して、深雪達を待った。しかし…深雪達の他にエリカ達がいた。行動が読まれている。達也か?ならば、エリカ達を教室へ強制転移させた。
「エリカ達をどうしたんですか?」
深雪に訊かれた。
「教室に、強制転移した。うざいだろ?深雪達に貼り付くなんて」
「ダメですよ。オーラが漏れています」
深雪が僕の腕を谷間でホールドして、僕を宥める。うっ、ノーブラか…そう来たか。抵抗出来ず、神社へと向かう僕達。
---エリカ---
教室に飛ばされた。双六でゴール直前で、スタート位置へ戻るを喰らった気分である。
「やはり、達也の言うことは正しいな」
「そうだな。私を避けているようで避けていないし。記憶が曖昧になる前に、私と何か遭ったんだな」
達也は生徒会の仕事でいない。
「で、美月は、昨日何があったんだ?」
「何も無いですよ」
「朝、アイツのことを、亘って呼んだよな?」
「呼んでません」
「ミキ、アレを頼む」
「あぁ」
ミキが自白を促す術を美月に行使した。しかし、次の瞬間、ミキが美月に告白をし出した。なんでだ?
「お前ら、やることがえげつないな?」
十文字先輩が、教室に入ってきた。
「大丈夫か?」
美月を気遣う十文字先輩。
「はい、大丈夫です」
「そうか。おい、ソイツは術をリバースカウンターされたんだ。自白を自分に掛けたようだな」
あぁ、そういうことか。
「十文字先輩がしたんですか?」
「俺はそんな術を持っていない。彼女を護りたいナイトが護ったんだろ。アイツは護り切る為に手段は選ばぬ。もう、詮索はするな。命を粗末にするな!」
そういうと教室を出ていかれた。先輩は何かを知っているみたいだ。先輩の後を追った。
「俺に何か用か?」
私を待ち伏せしていた先輩。
「何を知っているんですか?」
「アイツがお前の為にしたことを無にするな。それだけだ」
「どういうことですか?私は、アイツに何をされたんですか?」
「いいか。知って良い範囲は決まっているんだ。ラインを超えるなよ。アイツの行為が無になるから」
「ですから、何をしてくれたんですか?」
「悪いが言えない。自分で思い出せ。アイツの想いが生きているのなら、思い出せるはずだ」
先輩はそれだけ言うと去って行った。アイツの想い?思い出す?何をしてくれたんだ?
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家に帰り、物思いに耽る。先輩に言われたことを頭の中で繰り返す。
『自分で思い出せ。アイツの想いが生きているのなら、思い出せるはずだ』
何をしてくれたんだ?それでどうして記憶が消えたんだ?ムシャクシャする。う~ん、こういう時はアイツを頼ろう。
夜分の訪問だったけど、快く家に入れてくれた達也。
「どうしたんだ、エリカ?」
十文字先輩とのヤリトリを達也に伝えた。
「う~ん…エリカの記憶を読んでもいいか?」
「いいよ。頼む」
達也が私の記憶を読んだようだ。その顔は、血の気が失せていた。
「どうしたんだ、達也」
「そうだった…忘れていたよ。なんで、こんな大事な事を…」
悔しそうな顔付きである。私の記憶に何かあったのか?
「何か手がかりがあったのか?」
「あ…いや…」
態度がおかしい達也。
「おい、怒らないから言ってくれ。モヤモヤしていて、気持ちが悪いんだよ!」
「済まない…言えない。だから、記憶を…エリカ、彼の想いを無にするなよ」
十文字先輩と同じ様なことを言う達也。
「おい、ズルいぞ。私の記憶から、何を見いだしたんだよ。教えろよ!」
「彼はエリカを救う為に、この世界の人々の記憶をいじったんだ」
…私を…救う為に…みんなの記憶を犠牲にしたのか…何で?
「何でだよ!達也、頼む、教えてくれよ!」
「彼はたぶん、代償を払ったはずだ。たぶん、一番大事で大切な物を捧げたんだと思う。だから、彼のことは詮索をするな。頼む、エリカ」
達也が頭を下げた…何で?何で、そうまでして護るんだ?アイツは何を失ったんだ?
「なぁ、達也…アイツは何を失ったんだ?」
「俺と深雪を結婚させた…つまり、深雪に対する想いだ…だから、彼は俺に深雪を返そうとしていた。既に深雪に対する想いが無いから…」
えっ…深雪に対する想いと引き換えに、私を救ったのか?何でだ…?
「何で、私を救ったんだ?深雪を想っていたのなら…あっ…」
アイツが私に縋って泣いている…いつの記憶だ?何で、泣いているだ?深雪は、ぐったりとしている。なんで、深雪に寄り添わないんだ?何で私にずっと寄り添っているんだ?
アイツが誰かと話している。
「いいの?本当にいいの?ダブルで罪を犯すの?」
女性のようだ。黒髪が綺麗な見た事のない女性。
「コレしか無い。大罪に隠れて大罪を犯す。枝を隠すなら森だよ、姉ちゃん♪」
アイツのお姉さん…神代家の門の前で見た女性とは違う。なんでだ?
「ダブルだと、100億年は確定だね」
100億年…私の為に…
「そうだねぇ。まぁ、禁固刑は慣れている。しばらく逢えないけど…ごめんね、姉ちゃん」
「まったく、ペナルティー神と名前を変えたら?」
神…
「エリカ、もう逢えないかもしれないけど、元気で生きろよ」
アイツが何かをすると、私の身体は人間に戻っていく。えっ?人間に?私は何だったんだ?訊こうと思うのだが、笑顔のアイツは闇の世界へ引き込まれて行った。最後の時まで私を見据えて…
「おい、エリカ!大丈夫か?」
瞼を開くと達也が心配そうに、私を見つめていた。
「あぁ、大丈夫だ。記憶の断片が見えた。私はどうしたんだ?人間の前は何だったんだ?私は誰なんだ?」
「落ち着け、エリカ。そうか、見たのか…」
考え込む達也。私に言うか迷っているのか?本人を目の前にして隠す事って、なんだよ?そして、ついに達也の重い口が開いた。
「お前は殺されたんだ。アイツの目の前で…心臓を狙撃されたんだ」
殺された…アイツの目の前で…だから、あんなに泣きすがってくれたのか…深雪を放置してまで…