---レイモンド・S・クラーク---
USNAにあるバークレーの魔法科高校へ通う魔法師である。学内ではトップクラスではあるが、この国の魔法師のトップ部隊に入隊できる程の才能は無い。しかし、フリズスキャルヴという巨大データベースシステムへのアクセス権を持つ世界に7名しかいない内の1名には選ばれている。
英雄になれる才能は無い僕は、このデータベースシステムを使い、公開できない情報を手に入れ、世界に散らばる英雄と思われる者達に、情報という恩恵を与え、一緒に冒険した気分を味わう趣味を持っている。
そんな僕にある者が接触してきた。
「君も一緒に冒険しないか?」
現時点でも、ヴァーチャル上で冒険をしている僕に向かって、その者がそう言った。
「実際に当事者にならないか?君自身、冒険したいんだろ?」
僕の心を見透かした言葉。そうだよ、才能があれば、僕自身が冒険がしたい。でも…
「君の望みを叶えてあげられるよ。僕達に協力してくれれば」
どこの者ともわからない者に協力はできない。
「君は何者なんだ?」
「僕かい?僕は君の望みを叶える者だ。そうだな…君が英雄だと思った人物に会わせてあげるよ」
僕が英雄だと思った人物?それは無理だ。彼はもういない。10年前に命を…
「神代亘だろ?」
そうだよ。なんで、知っているんだ?この世界のラスボスにたった6歳で挑み、この世を去った僕にとっての初めての英雄だった。
「死んでいない。彼は人間を辞めただけだ。あの時、人間の領域を超えてしまったんだ」
人間の領域を超えた?そんな情報はどこにも無いぞ!
「フリズスキャルヴの欠点は、電子データしか蓄積できないことだ。口伝な情報は決して収集出来無い」
口伝な情報…伝言ゲームか…確かに出来無いが、それは信憑性も無い。
「君に、人間を辞めて、真実を手にする勇気はあるか?才能は関係無い。これは君の勇気を確かめる試練だよ♪」
勇気…有るよ。
次の瞬間、僕は光に包まれた。僕を包んだ光が霧散すると、知らない部屋にいた。
「なんで、レイモンドがいるの?」
声の主を見ると、トップ部隊のエースのリーナだった。
「リーナこそ…ここは?」
「あぁ…あなたも仲間に選ばれたのね」
仲間?
「レイモンド、彼が君の英雄だよ」
僕と同い年くらいの青年を紹介された。10年前に6歳だから、計算上はあっている。
「ヤマト、彼は誰だ?」
「団長、僕のスカウトした人物です」
「う~ん…女性の方が…」
「えっ…私じゃダメ…」
「リーナも有りだけど…女性は多いほど良い♪」
イメージが違う。こんなに軽いヤツなのか…
「レイモンド…言いにくいからレイにするか。レイ、人生は愉しまないとダメだぞ♪」
彼に頭を撫でられた。その瞬間、肩の荷が降り、身体が軽くなっていく。
「団長は『安堵』能力持ちだ。触れられれば安堵感が得られる。全然、戦士向きでは無いけどね」
僕をスカウトした人物が、教えてくれた。
「あと、2名来たら、メンバー紹介をするよ」
団長と呼ばれた青年が言った。周囲を見渡すと、僕の考えて居る英雄が集まっていた。リーナ、司波達也、司波深雪。あと、神代綾香と四葉深夜が居ればオールキャストが揃うけど…無理な話だな。
呼び鈴が鳴り、メイドらしき女性が出迎えに行った。
「亘…一緒に住んでいいのね?」
入って来た女性が団長に抱きつくが、団長は受け流した。
「姉ちゃん、いきなりそれは無いだろう?他にもいるんだ。礼節は大切にしなよ!」
「亘…大人になったのね…」
「姉ちゃん、引きこもりが長すぎだよ!もっと世間を知りなさい!」
団長を亘と言う女性。団長は女性を姉ちゃんと呼んだ…まさか、神代兄妹?
「あっ!来たな」
団長…いや、亘の隣に魔法陣が発現し、一人の少女が現れた。
「おじさま、四葉深夜、ただいま到着です♪」
四葉深夜…僕の思い描いていた英雄達が、この場に集まっている。全身の皮膚に鳥肌が浮かんできた。これ、何の集団だよ~。
「じゃ、これで、今回の案件のメンバーは揃った。メンバーを紹介するよ。まず、司波達也。四葉家現当主の妹さんの息子で、次期当主候補だ。次に四葉深夜。四葉家現当主の娘で次期当主候補だ。次、旧姓闇雲深雪、達也と結婚していたが離婚し、旧姓に戻っている」
えっ?離婚したのか…その情報はアップされていなかった。
「次に、九島リーナ、元USNAトップ部隊のエースだ。次に代羽レイ、元USNAの巨大データベースのオペレーターだ。後、姫島白音、僕の妹で種族は猫しょう。オーラの扱い方を教えて貰っている。専門は浄化、治癒、妖術だ」
種族が…人間では無い…初めて人間以外の者を見た気がする。
「リヴェリア、僕の部隊のエルフチームのリーダーで、種族はハイエルフ。専門は詠唱魔法だ」
耳の尖った緑髪の女性が紹介された。
「ヤスミン、この家のメイドをしてもらっている。僕のチームで唯一の非戦闘員で、種族は人間だ」
唯一の非戦闘員?僕は戦闘員扱いなのか?
「現在、ここにいるメンバーはこんな者だ」
いや、まだ紹介がされていない。
「あなた達の紹介もお願いします」
目の前の二人の謎の人物に声を掛けた。
「あぁ、僕達か…正体は知らない方が幸せだと思うんだけど…そうだな、紹介しよう。彼は鷲尾ヤマト、僕の部隊の副団長をして貰っている。種族は神と人間のハーフだ。専門は闇系で、救世主の双子の弟に当たるんだよ」
はぁい?神と人間のハーフで、救世主の弟?僕をスカウトした人物の正体は眉唾物だった。
「そうなんだよ。眉唾物だろ?だから、紹介するのがつらいというか…でも、ヤマトはまだいいよ。有名どころだし」
「はぁ?団長だって、天国と地獄では有名人ですよね?」
更に眉唾な話が…天国と地獄では有名って…
「団長くらいでしょ?天国と地獄の両方で出入り禁止を喰らったって者はさぁ」
「ヤマトくん、あれは若気の至りだよ。ははは」
笑って誤魔化している。周囲を見ると、僕以外の者は苦笑いをしていた。えっ?本当のことなのか?
「ど、ど、どうして…出入り禁止…に?」
堂々と質問をしたつもりで有ったが、言葉がスムーズに出ていなかった。
「あぁ…エデンの園でプレイを数回したのがバレて、天国を出入り禁止になって…血の池地獄で湯治をして、閻魔の膝枕で昼寝して、地獄も出入り禁止に…若気の至りだと思わないか?なぁ、レイ」
困った顔で力説する団長。
「で、団長の紹介は僕がするよ。本人は言いにくいだろうからね」
僕をスカウトしたヤマトが、紹介のバトンを受け継いだ。
「シュウ・ヨハネ・鬼門が本名だ。この世界では神内亘、代羽周太郎、姫島朱宇の名前を使い分けている。種族は元神の天使と鬼のハーフな魔物だ。専門はエロ系だ」
元神?はぁい?いやいや、エロ系って何だ?
「そうだろ?信じられないだろ?だから、僕は神であることを否定して生きているんだよ。神だったと思い出すのは、罰を受ける時だけだし」
「反省していないんですか?」
白音が説教モードみたいだ。彼女にはタジタジの団長。
「反省?しているよ、罰を受けている最中はさぁ。だって、今回禁固100億年だよ?信じられるか?」
もはや…想像の域を逸脱している。100億年の禁固って何?
「レイ、聞いてくれるか。僕が100億年禁固したのに、この世界ではたった2週間しか経っていないんだよ。これって、差別だよね?」
僕に言われても…リーナに視線を送るが、彼女も話の展開に固まっているようだ。苦笑いしているのは、僕とリーナ以外の者達だ。
「で、このメンバーでどうすれば良いんですか?」
達也が本題に斬り込んだ。
「論文コンペのジャマ立てを防ぎ、研究成果を盗ませない。あと、ヘイグと周の排除だ。これが今回の案件の締めくくりだと思う。後、案件を終了させた折には、参加者の抱く願いを1つだけ叶える。僕が刑を受けるような願いはカンベンして欲しいけど、まぁ、叶えられることは何でもする。禁固刑は慣れているし♪」
願い…それは…
「今すぐに言わないでいい。案件が無事に終了したら、良く考えて言ってくれれば、問題ないから」
「深雪をお願いします」
達也が願いを申し出た。
「一緒に生きたいです。お願いします」
深雪が願いを申し出た。
「たまには逢いに来い!」
綾香が願いを申し出た。
「たまには遊んでくださいね♪」
深夜が願いを申し出た。
「私も…連れて行ってください」
リーナが願いを申し出た。
「僕も冒険を一緒にしたいです」
僕も願いを申し出た。
「はぁ?良く考えてからでいいのに…気が早いな…」
「だって、終わったら、すぐ撤収するんですよね?」
深雪が団長を見据えている。いや、僕達全員が見据えているのかもしれない。
「撤収って言うか、刑の執行が早いんだよ。この前も…アイツの種族変更した直後に始まったし…」
困った顔の団長。その後、説明があり、作戦遂行中以外は上下関係は気にしないでいいこと。学校で学生生活を満喫することなどの注意事項が伝えられた。USNAでの違いに戸惑う僕とリーナ。団長の部隊は、軍隊では無く、個人商店みたいな物だという説明もよくわからないし。
僕達は、団長、姫島朱宇の通う高校へ編入で、僕とリーナと深夜は、深雪のクラスに、綾香は朱宇のクラスへ編入することとなった。
---エリカ---
週明けの月曜日、編入生がいると言う。編入生が教室に入ると、しなやかそうな長い黒髪で清楚さを感じ、男性陣が色めき立っている。達也と亘以外は…
その転校生の席は、私とレオの間になった。神内綾香という名の転校生に、レオがメロメロに近い。まぁ、私は亘以外眼中に無いので問題は無いけど。
休み時間、綾香に群がる男性陣。亘と達也は、どこかいつもと雰囲気が違う。なんか嫌な予感がするんだけど…あっ…亘の本名って神代亘だったよな…って、隣の女性をちらっと見る。似ていないけど…
昼休み…群がる男性陣をかき分けて綾香が亘に近づいた。
「亘、食事はどうするの?」
「僕は深雪にまかせている。姉ちゃんはどうするんだ?」
二人の会話を聞いた男性陣の顔色が悪くなる。亘の姉だった。この学校の裏番では無いかを思われている亘の姉だった…
亘と綾香と達也は言葉少なげに教室を後にした。
「エリカ、知っていたのか?」
レオが訊いてきた。
「亘と達也の様子が変だったから、用心していただけだよ。達也は兄妹ケンカを仲裁しようと身構えていたんじゃないのか?」
「あぁ、そう言えば、そんな感じだな。今日のあの二人、いつでも戦えるって感じがしたものな」
食堂は修羅場になっているかな?除きに行く私。
--------
食堂は修羅場では無かった。亘達のいるテーブルは和やかな雰囲気だった。それ以外のテーブルにいる者達は、恐怖で震えている。何かやらかしたようだ。
「おい、亘。お前達、何かやらかしたのか?」
「森崎モブ男君が絡んできて…姉ちゃんが『百鬼夜行』を発動したんだよ。で、この有様だ」
当の綾香は亘に甘えている。迷惑そうな亘。この姉はブラコンなのか?
「エリカ、姉ちゃんを怒らすな。コイツ、手加減って物を知らないから」
手加減?お前だってしていないだろ?
「はき違えるな!僕はしていないんじゃない。出来無いんだ。僕の術と技は致死系が多いから」
「エリカ、朱宇の言う通りよ。かと言って私達も手加減できないし…」
って、深雪。うん?見かけない顔ブレがいる。何かしでかすつもりなのか?
放課後、綾香に群がる男性陣はいない。綾香を中心として、静まる教室。そこに生徒会からのアナウンス。昼休みの件で、綾香と亘が呼び出された。苦笑いする生徒会長の達也。
---シュウ---
生徒会室に呼び出された。久しぶり感がある。生徒会長席に達也が座り、僕達を尋問するのは、副会長のあずさだ。
「どういうことですか?昼休み、食堂で術を行使って!」
「はぁ?弟を愚弄した者が悪いだろ?そもそも、あちらが先に術を行使しようとしたでは無いか!」
森崎がCADを構えたのが発端だ。愚弄する言葉はいつものことだし。
「聞けば、彼は教師推薦枠での風紀委員だと言うでは無いか。この学校の教師は弟を愚弄することを許可しているのか!」
姉ちゃんは激高している。下手に口出しをすると、更に大事になりそうなので、静観する僕と達也。
「あなた、転入生ですよね?」
「そうだが、何かな?」
「いいですか、この学校では実習室以外術の発動は認めてません」
あずさの言葉にカチンと来た僕。
「はぁ?森崎はどうなんだ?アイツ、散々僕に撃ち込んで来たぞ。二科生って理由で。風紀委員なら二科生を的にして撃ち込んでいいのか?おい、あずさ!」
あっ、怒りにまかせて、オーラがダダ漏れしていた。達也以外、顔から血の気が失せている。
「朱宇…落ち着け。深呼吸しろ。霧散してくれ」
あぁ、そうだな。死を感じさせるオーラを霧散させた。
「亘…恐かったよ~」
僕に抱きつき、泣きじゃくる姉ちゃん。あずさ達は腰を抜かしているし。
「達也、裁定を下せよ」
「現場に俺もいたが、森崎に非が有るのは明らかだ。森崎にペナルティで、神代兄妹…じゃなく、神代綾香、姫島朱宇には警告だ」
「森崎に言っておけ。姉ちゃんが一人の場合、死ぬからって」
僕達がいなければ、殺しにかかると思うし。僕達は警護の練習場に急いだ。
---真由美---
彼は何者だ?彼の怒りにより、空気の質が変わった気がする。恐い…何が恐いかわからないけど、兎に角恐かった。死という物を意識した気がする。
「彼らは何者?」
現生徒会長の達也君に訊いた。
「神代家の現当主を凌ぐ陰陽師兄妹ですよ」
陰陽師の頂点にいる当主を凌ぐ?有り得ないでしょ?
「有り得ない。頂点を超えるって、どういうこと?」
「彼らは諸事情により、陰陽師にはなれないんです。ですから…」
なれない…なれれば、当主ってことなのか…
「彼らは四葉家の者です。手は出さないでくださいね」
釘を刺されたけど、欲しい人材では有る。
「無理に手を出せば、1と7は消えますよ」
4の次期当主候補の達也君から、脅しの言葉が飛び出た。何かの事情で、1、7、9、10は4に服従している。その理由は現当主達から、明かされていない。当主交代の際に、口伝で伝えるように言われているそうだ。
7…私の生まれ育った家、七草家は、前当主の父弘一は、離婚して、四葉家現当主の真夜様と再婚をして子供がいると言う。4と7は因縁が有るのだ。
その私は1の一条家次期当主の将輝さんと婚約している。これも4が絡んでいるらしい。更に言うと将輝さんは4により能力を封印されているとも言う。
達也君は知っているのだろうか?4を中心にした謎について…
「達也君、あのね…」
「七草先輩、知らない方が良い事実って有るんですよ」
私の質問の答えが先に言われてしまった。