---シュウ---
エリカは僕と、はぐれないように、大切に抱き締めてくれている。だいぶ腫れも引いてきたけど、まだ油断出来無いレベルである。僕とリンクしているベアトリスがやって来て、やはり僕に優しく抱きついている。僕が僕であることを忘れないように、時々話し掛けてくれている。僕は幸せ者である。こんなにも不完全なのに、見捨てない仲間がいる。
漆黒に囲まれている世界にいるけど、遠くに小さな蒼い点が1つ見える。あれが、きっと帰る場所なんだろう…
---蘭---
いつの間にか眠っていた。目が覚めると、見慣れない部屋のベッドにいた。ここはどこ?窓の無い部屋。大きめのベッド以外には、机と本棚しか無い。本棚の本はどれも分厚く、知らない言葉ばかりである。あれ?どこかで同じような風景を見た気がする。どこだっけ?
「お目覚めですか?」
知らない女性が部屋に入って来た。
「あの…ここは?」
「ここは、この城の王、シュウさんのプライベートルームですよ」
朱宇さんの…そうだ、朱宇さんの家の部屋と同じだ。広さは、ここの方が断然広いけど。
「あなたは?」
「私は彼に仕える代羽深雪です」
深雪さん…あっ、遊園地であった女性も深雪さんって…
「あぁ、アレに逢ったのですね。私の劣化バージョンですよ、まったく」
劣化バージョン?苦笑いをしている深雪さん。
「どういう意味ですか?」
「シュウさんの許可無く、秘密は口外できません。もうしばらくすれば、戻って来ますよ。迷子にならないように、数名がガードに出ていますから」
どこかに出掛けているのかな?
「出掛けたというより…まぁ、そんな感じです。食事はいかがされますか?」
そう言えば、お腹は減っている。頷いて、彼女の後を付いていく。すると食堂らしき場所へ連れて行ってもらった。私よりも幼い女性が多い気がする。いや、女性しかいない…まさか…ここって、ハーレム?
「まぁ、ハーレムでしょうね。実際は、彼を慕うメンバーばかりですよ。王様らしくない王ですから、シュウさんはね。あなたも経験があると思いますが、躾というドエスプレイはしますけど」
躾って、そういう位置付けなんだ…席に座ると、普通に和食が出て来た。洋風のお城なのに、何か不思議。
「シュウさんは和食好きですから。必然的に和食が中心です。醤油、味噌、酢、みりんなど、和食に欠かせない調味料は、この城の醸造蔵で作っています」
それはコリ過ぎかと…
「シュウさんが帰ってきたら、あなたに選択を委ねます。シュウさんと生きるか、自分の世界で生きるかをね。今から考えていて下さい」
自分の世界で生きる?どういうことだろうか?親から離れて暮らすってことかな?
「でも、私…」
「ここでは、戸籍は意味をなしません。皆、戸籍なんて物は無いですから」
あぁ、心が読めるんだ、この人も…魔法使いの世界は戸籍が無いのか…
「私も魔法使いになれますか?」
「シュウさんは魔法使いじゃないですけど…」
へ?あれ?
「シュウさんは魔導戦士です。魔法だけ使える訳ではないですよ。それに、ここには魔法使いで無い者の方が多いです」
「深雪さんは?」
「私は現代魔法師です。魔法使いでは無いです」
笑顔で答える深雪さん。魔法師?魔法使いでは無いんだ。
「彼は無理強いをしません。あなたが後悔しない結論を出してくださいね♪」
朱宇さんと生きるを選ばないと、もう逢えないのかな…それは後悔しそうだ。どうすれば、いいのかな…新一…
---工藤新一---
手立てが見付からない。異世界から来た証拠か?阿笠博士と共に考えているが、良い案が浮かばない。
「新一、無理じゃな。諦めた方が良いぞ」
「そうもいかない。アイツは何をしているんだ。異世界から来て、この世界でな」
「悪事とは限らないじゃろ?」
「そこだよな。アイツは何をしに、この世界に来たんだ?」
携帯の着信音が鳴った。出ると蘭の母親だった。
「どうしました?」
「どうしたじゃないでしょ?あなたはどこにいて、蘭はどこ?」
え?蘭が戻っていないのか?
「蘭は?」
「あなたも知らないの?って、どこにいるの?責任を持って暮らすって、家に置き去りで、あなたが出掛けっぱなしで、いいってことじゃないのよ!」
蘭の母親は激高している。そうか、蘭が行方不明なのか…
「もう、いいわよ!あなたなんか頼らないから!」
通話がキレた。
「どうしたんじゃ、新一」
「あぁ、蘭が行方不明らしい。異世界へ連れて行かれたのかもな。くそっ!」
---妃英里---
彼の家を訪れた。メイドさんが応対してくれ、中に入れてくれたのだが…
「彼は戻っていないんですか?」
まだ、戦地から戻っていないそうだ。
「それでですね、蘭さんですけど、彼を追って…私達の拠点で保護していますので、安全です」
戦地へ彼を追っていったの…あの子は、そこまで彼を想っていたのね。
「いつ、戻って来ますか?」
「彼がまだ戻れそうも無いんです。蘭さんだけ、連れ戻すことは可能ですけど、無理強いはしたくないんですよ」
自分の意志で追っていって、彼を置いては帰れないよな、あの子の性格だと…
「あの子は、どこにいるんですか?無事を確認したいんですけど」
「セキュリティの高い場所にいますので、お連れする事も、場所をお教えすることも出来ません。申し訳ありません」
そうだよね。セキュリティの高い場所だと…でも…
「会話はできませんか?」
「出来ません。通信をハックされると、場所が特定されてしまいます」
軍事拠点なのね。
「手紙とかメッセージはどうですか?」
「蘭さんからのメッセージには、検閲が入りますが良いですか?」
「かまいません。お願いします」
---------
後日、私の事務所にメイドさんが来て、蘭からのメッセージを届けてくれた。
『私は元気です。皆さん、優しく接してくれています。まだ、彼は戻って来ていないので、心配ですが、彼が戻ってくるのを、ここで待ちます。後、いま選択を提示されて悩んでいます。彼と共に生きるか、家族とともに生きるか…後悔の無い選択をしてと言われて…』
メッセージペーパーの下の方は、蘭の涙で滲んでいる。悩んでいるのね。
『彼を、覚悟を持って送り出し、それでも待ち続けたいのなら、彼をとりなさい』
と、返信を書き、メイドさんに持っていってもらった。
グータラ亭主の元へ行き、その話をした。
「そうか…俺もそれでいいと思う。蘭が覚悟を持って送り出して、待ち続けたいなら、それでいいと思う。アイツは、望まないだろうけどな」
望まないだろうね。死を覚悟して戦場へ向かう彼は、待ち続けた上に、蘭へ悲しみを与えることは…でも、蘭がする覚悟はそれなのよ、朱宇君。
「難しいよな、男女の関係は…それに引き換え、あの探偵ボウズは、蘭が行方不明だと言うのに、顔すら見せないって、アイツは何の事件を追っているんだ?」
「蘭よりも大事な者を追っているんでしょうね」
---シュウ---
ベアトリスのどこでもドアの能力で、キャッスルドランへ生還を果たした。そして、固まった。ここにはいないはずの者の顔が有ったから…
「えっ?なんで?蘭がいるんだ…」
「おかえりなさい」
蘭が僕に抱きついて来た。深雪は遠慮しているのか、抱きついて来ない
「あっ…あぁ、ただいま…」
どうして…ここに?
ガブ達が、にやついている。誰かがやらかしたのか?
「落ち着いて下さいね」
出番が来たかのように、深雪が僕の腕を谷間でホールドしてきた。
「いや、しかし…なんで?蘭が?」
「あっ…メイドさんに頼んで…」
メイド?はぁ?あっ!メイビスかぁぁぁぁぁ!
『はぁ~い、正解です♪』
メイビスから念話が届いた。なんで…
『いい加減、女心とか乙女心とかを、理解しようね♪』
って…だから、何度も言うが、僕は男だから、理解できないんだよ~。気を取り直して、
「ここの説明はしたのか?」
深雪に訊いてみた。
「していませんよ。王様の口から説明してくださいね」
って、抱きついていない方の深雪が答えた。う~ん…蘭が、僕を見つめている。説明を待っているようだ。
「ここは僕の城のキャッスルドランだよ」
「どこの王様なんですか?」
僕をじっと見続けたまま、質問をする蘭。
『がんばれ~!ヘタレ王♪』
って、メイビスから楽しそうな声…みんなの顔も、にやついている。どうせ、ヘタレ王だよ…くそぉ~
「地獄と天国の2つの国の王だよ…」
「そういう、冗談はいりませんよ!」
本当の事なのに否定されているし…ガブに助けて貰おうと視線を向けると、スルーした…あぁぁぁぁ…どうすれば良いの…そうだ、見て貰えば良いのか。
「ガブ、僕は今、出禁かな?」
「解除されているのでは?」
あぁ、そうですか。蘭と二人で、エデンの園へ転移した。僕のお気に入りの場所、目の前に湖と、そよ風により揺れている草原が広がっている。
「ここは?」
「エデンの園…僕のお気に入りの場所だよ」
「えっ!エデンの園って…」
草原では、光の粒子を撒き散らして妖精達が、飛び廻っている。ここの妖精は蘭にも見えるはずだ。
「妖精…ですよね…え?」
僕のことを怯えた目付きで見る蘭。それでいいんだよ。僕は畏怖される存在、人間に好かれようと思ってはいけないんだ。
「あれ…本当のことなんですか?」
僕は僕の姿に戻った。鬼の姿をして天使の翼を展開して、頭に輪っかを浮かべた。
「これが僕の本当の姿、僕の本名はシュウ・ヨハネ・鬼門。チームシュウの団長で、天国と地獄を統べる王だ。恐いなら、もう僕に逢わない方が良い、人間よ!」
僕のオーラに飲み込まれ、怯えた顔だけど、勇気を振り絞って、僕に縋りついてきた蘭。
「突然のことで困惑をしています。でも…でもね…一緒に生きたいです。恐いけど一緒にって…私、エムかな…」
怯えながらも笑顔になろうとする蘭。どうすれば良いんだ?
「シュウ様、彼女を受け入れてあげてください」
ミカエルが現れた。
「あなたは?」
恐る恐るミカエルに訊く蘭。
「初めまして♪この規格外の王の代わりに、天界を束ねている天使長のミカエルです。シュウ様は性癖の破綻したドエスプレイヤーですが、配下の者の命を大切にし、自分の命をいつでも差し出すという、どうしようもない無茶な王ですよ♪な、の、で、戦いに出る度、彼だけ瀕死な状態です。それでも待てますか?」
ミカエルの言う事は正しいので、文句の付け所が無い…
「うっ…お城の皆さんと待ちます。だから…」
僕に泣きすがった蘭。う~ん…畏怖されようと正体を明かしたのに…う~ん。
「シュウ様、信じる者は救ってくださいね♪」
そうなるのか…
「わかった、蘭。一つだけ約束を守ってくれるか?僕の正体は秘密だ。いいかな?約束を破ったら、仲間を辞めて貰う」
「はい…よろしくお願いします」
人化して、誠の家へ転移した。
「蘭、君の両親に挨拶に行こう」
「はい♪」
僕も覚悟を決めた。
--------
「父さん、母さん、これからも、よろしくお願いします。戦地に行くたびに、ご迷惑をおかけしますけど…」
「お父さん、お母さん…わがままだけど…でもね、彼の帰りを待っていたいの…」
蘭と二人で、蘭の両親に頭を下げた。
「蘭の元へ帰る努力はしてくれ。俺からの願いはそれだ」
「孫の顔…見たいけど…無理かな?」
「父さんの願いは承りますが、母さんの願いは…ちょっと無理かな」
生殖能力に問題が…人間が母体だと危険が一杯である。
「無理の無い範囲で…」
「お母さん、それだと無理強いだよ!」
蘭が母さんの暴走を止めてくれた。蘭の両親がささやかなパーティーを開いてくれた。この世界を旅立つ前、盛大なパーティーに貴賓として招待しないとな。
問題は工藤君だな。どう出るかな?一応、プレゼントは無効にした。だけど、彼はその事実を知らない。どう出るかな?
「取り敢えず、蘭には今まで通り、ここで暮らしてもらいます。僕の住んでいる家だと、学校が遠いですから」
「でね、卒業したら、彼の家に住みます♪」
「いいんじゃないか?」
「いいと思うわ」
---蘭---
久しぶりの学校。園子と世良さんが寄って来た。
「どうしたの、結構休んでいたけど」
「うん♪彼の家で彼の帰りを待っていたの」
「あぁ、新一君?結婚したんだよ?」
「園子、その情報は古いわよ。私の彼はシュウさん。新一に戸籍を汚されたけど、彼はそういうのを気にしないから」
「シュウさんって誰?」
世良さんに訊かれた。
「え?一緒に家に行ったじゃない」
「行っていないよ…」
何かを考え込む世良さん。
「そうか…心配になって、工藤君が私に変装したんだな」
「えっ?あれって、新一だったの…あのヤロ~!」
「変装術も手に入れたのか。工藤君は侮れないなぁ」
「どこまで私の心を逆なでするんだ?あのバカヤロ~は…」
『蘭、怒りを纏うな』
彼からのメッセージが心に届いた。それが無性に嬉しい。