---シュウ---
翌日、教室に向かうと、僕の顔を見るなり、抱きついて来たエリカ。
「ありがとう…凄く心配してくれてぇぇぇぇ~」
「してないよ」
「そんな、テレないでも…私と亘の間柄でしょ?」
「単なるクラスメイトだよ」
「膝枕してくれたでしょ~」
「あぁ、あの場に枕が無かったから、使える物を使っただけだ。気にするな」
「気にするって」
う~ん、寧ろ気にしたいのは、エリカの涙と鼻水で、汚れた制服なのだけど…
「まぁ、お前の実力はわかった。お前にまかせた僕の戦略ミスだ。今後、レオと行動でもしていろ。護ってくれるはずだ」
「おい…俺を巻き込むなよ」
レオが抗議するがスルーしておく。
放課後、達也と共に生徒会室に…
「やっと、業務内容が話せるわ♪」
って、嬉しそうな真由美。頬を赤らめた摩利、不思議そうな目付きで見るあずさ。三人三様な反応だ。
「達也君、亘君には風紀委員の仕事を頼みたいの。この季節、クラブの新入部員勧誘でトラブルが多いから、見回りをお願いしたいの。深雪さんには生徒会の仕事を手伝ってもらうわ」
見回りか…達也とか…摩利の下か…僕達は、風紀委員の部屋に連れて行かれた。
「風紀委員には、生徒会からCADを貸与できるけど」
達也はCADの並ぶ棚を物色して、2つほど借りていた。で、見回り…地味な仕事だ。仕事としては、トラブルを見つけたら摩利に報告して対処、応援要請を受けたら現場に急行して対処である。摩利への連絡用の無線機を渡された。
構内を練り歩く。で、トラブルを発見。摩利に連絡すると殺さないように言われた。そんなことした学校にいられなくなるだろうに、まったく…
女の子二人が頑強な男子に囲まれて、入部届けにサインを求められている。
「風紀委員です。強引な勧誘は禁止されていますよ」
僕の方を見るなり、
「はぁ?ウィードが風紀委員になれるわけ無いだろ?」
って、僕に襲い掛かってきた。面倒なので、『スリープ』を発動して眠らせた。CADで僕を狙っている奴らがまだいる。『リバース』を発動して、CADに内臓している術式のベクトルを逆方向に書き換えた。自分で自分の術で倒れる者多数。僕は女の子達の手を引いて安全な場所まで誘導した。
「あ、これに学年とクラスと名前と被害状況を書いて貰えるかな?」
彼女達に被害届けの紙とペンを渡した。それに記入してくれる彼女達。光井 ほのかと北山 雫で、クラスは深雪と同じだった。
「深雪のクラスメイト?」
二人に訊いてみた。
「え?深雪さんを知っているんですか?」
ほのかに訊かれた。
「深雪の兄貴の達也とクラスメイトなんだよ」
「なぁ、名前は?」
雫に訊かれた。
「神代亘だ」
「神代…あの?」
ほのかは知っているようだ。
「どのかは知らないけど、まぁ、そんな感じだ。じゃ、仕事があるから、またな♪」
二人と別れて、見回りを再開。で、すぐに知り合いが巻き込まれていた。もみくしゃにされ、衣服はズタズタだし。
「美月大丈夫か?」
「あっ、亘さん…」
「おい、亘!私の心配は?」
エリカが手足を抑え込まれ、あたふたしている。スルーだな。どうするかな?『男根喪失』1時間モードという悪戯をしてみる。二人をどうにかしようとしていた全員が、股間の違和感を感じ、下腹部を触っている。この隙に、二人を救出。で、安全な場所に連れ込む。
で、被害届けの紙を書かせた。
「うぅっ…服が…」
美月が蹲り泣いている。彼女達に手を翳し、服を再生させた。布地はシルク地にして…
「えっ?あれ?シルク地になっている…亘君…ありがとう」
「おぉ~シルクってこんな着心地なのか、亘、サンキュー」
二人に抱きつかれた。
「まぁ、再生するなら、良い布地の方がいいだろ?手間は同じで済むし」
「いったい、お前はいくつの魔法を使えるんだ?」
エリカに訊かれた。
「現存するほぼ総ての魔法、魔術は使える。魔力の上限問題で、まだ使えないのもあるけどな。あぁ、仕事に戻るわ」
二人の元を去り、見回り続行。で、時間になり摩利の元に戻った。摩利の前に被害届けの紙の束を置く。
「こんなに対処したの?」
「まぁ、目についた案件は、総て取り締まりました」
達也は剣道部絡みの案件の援軍に行ったそうだ。そっちの方が良かったなぁ。
「で、対処方法は?」
「え?」
あっ…被害届けの紙には、担当した委員名と対処方法を書く欄があった。気づかなかった。
「今回は何をやらかしたの?ふふふ」
楽しそうに、僕の答えを待つ摩利。
「う~ん…眠らせたり、CADをリバースさせたり、男根を喪失したと思わせたり…」
楽しそうに頷く摩利、苦笑いしている達也。
「CADのリバースだと?このウィードの嘘に騙されてはいけませんよ」
って、誰だっけ?モブ君かな?
「森崎君、彼なら可能なのよ」
「なら、実演しやがれ!」
森崎はCADを構え僕に放とうとした。では『リバース』を発動。自分のCADからの攻撃で、その場に倒れる森崎。
「えっ?ノーアクション?」
楽しそうだった表情が、一変して恐怖を感じた表情になった摩利。達也は目を大きく見開き、僕を見ていた。
「あぁ、ものぐさなだけです。アクションするだけ、無駄だし。じゃ、帰りマス。お先に~♪」
達也と摩利を残して、校門へと向かう。
「亘さぁ~ん♪待ってくださぁ~い」
って、深雪が追いかけてきた。
「一緒に帰っても良いですか?」
その時の深雪の笑顔に堕ちた僕は頷いた。彼女の肩を抱き、自分の方へと引き寄せ、校門へ向かう。
「えっ?深雪さんと…そういう関係なんですか?」
あれは、ほのかだっけ?
「ほのかさん…」
ほのかと雫の登場で、顔を真っ赤にして、僕から少し離れる深雪。
「あ?お前、学校に通うたびに取り巻きが増えていないか?」
って、エリカと美月が寄って来た。待ち伏せか?
「エリカさん…制服の布地が…」
深雪がすぐに気づいた。
「いいでしょ~♪亘が再生してくれたんだよ~」
自慢げに言うエリカ。悔しそうに僕を見る深雪。
「あぁ、新入部員勧誘トラブルで、衣服をはぎ取れていたから…裸で返す訳に行かないだろ?」
「えっ?そこまでひどい状況で無かったですよ~」
美月が指摘してきた。
「じゃ、深雪にも」
その場で、深雪の制服と下着を最高級シルク仕立てに置き換えた。
「一瞬で…」
雫達が驚いている。
「ありがとうございます。亘さん」
僕の頬にキスをした深雪。それを目撃した4名の女子達が真っ赤な顔になった。
「大胆な…」
クラスメイトの大胆な行動に驚きを隠せない雫。
「さて、帰るか」
深雪と並んで帰り始めると、ゾロゾロと付いてきた。
「はぁい?」
振り向いて、美月に声を掛けた。
「いやっ…あのですね…今日もケーキ行きませんか。美味しいお店を調べてきました♪」
って…6名でケーキ三昧をして帰宅した。
-------
その日の夜、珍客がやってきた。この世界では初対面だけど、見て直ぐにわかった。この世界の姉ちゃんだ。
「亘…生きているなら、連絡をくれれば良いのに」
突然僕に抱きついて、泣き始めた姉ちゃん。この世界の姉ちゃんは、玩具にすると壊れそうな雰囲気である。
「僕は死んだ事になっている。連絡なんか取れないだろ?」
「でも、当主…お父さんには連絡をしたでしょ?」
まぁ、協力要請だけどな…
「なぁ、鍛錬を辞めて、引きこもっているって聞いたけど、どうして?」
この世界の姉ちゃんは、この世界の僕よりも遥に上のレベルだったらしい。討伐隊に入らなかった理由は、僕の姉ちゃんと同じく、野ぐそをするのがイヤだという理由だそうだ。まぁ、女性ならそうだよな。その理由で、どうのこうの言うことは無いが…
「なんで、鍛錬を続けていない。なんで、僕を見て何も思わない」
当主は僕を見るなり人札だと見破り、並行世界から来た亘だと認識できていた。なのに、目の前の姉ちゃんは…
「思わない?こんなに感情が爆発しているのが、亘にはわからないの?」
いや、それはわかる。う~ん…苦手なタイプだ。スマホで、神代家へ連絡をすると、姉ちゃんのお付きの者達が、すぐに訪れて姉ちゃんを引き取ってくれた。
「若、ご迷惑をおかえしました」
総代の者が声を掛けてきた。
「僕を見て、当主と同じことが言えるようになるまで、ここには連れて来ないでください。あの状態では護れない」
「はぁっ!当主にお伝えします」
と、帰って行ってくれた。
---達也----
「特尉、あれからどうなった?」
亘のことだな。
「彼の術の発動は、俺でも止められないです。彼はノーアクションで多彩な術を使えるようです」
「そうか…あぁ、こちらでも調べた。彼は最強な陰陽師らしい」
そこで、通信が突然途絶えた。
「こそこそと、僕を嗅ぎ廻るのは辞めてくれないかな?お義兄さん」
いつの間にか、俺の真後ろにいる亘。気配が薄い。ここで撃たれたら、たぶん…
「深雪の兄を殺すわけ無いだろ?」
そうだと思うが…
「僕を信用しきれていないのか?」
次の瞬間、知らない湖の畔にいた。ここはどこだ?何の術だ?まるで術の発動がわからない。一つ確かな事は、俺を殺せるのはこいつだけだと確信は持ててはいる。
「ここはエデンの園。人間風情が来られる場所では無いので、盗聴、盗撮の危険は無い」
目の前に穏やかな表情の亘がいた。エデンの園だって?ここは天界か?
「そう、天界だ。ここは僕の好きな場所の1つさぁ。エロいマネすると出禁になるので、注意は必要だけどね」
出入り禁止になるほど、来ているのか…
「で、何を知れば、信用をして貰えるのかな?」
「お前は何者だ?」
「う~ん…どこまで言おうかな。引き受けた案件上、あまり明らかにはしたくないから」
引き受けた案件だと?
「誰からか?この世界を見守る最高神達からの依頼だ」
神からの依頼だと?何者なんだ?
「う~ん、それは答えられない。君に名乗っても、信じないだろうし、存在を知らないからね」
知らない存在?
「人間には知って良い限界がある。ソレを超えるには人間を辞めることだ。達也、お前にその覚悟があるか?」
あぁ、亘は人間を辞めたんだったな。俺は…深雪を残して辞められない。覚悟は無い。
「じゃ、知る権利は狭まる。それでいいな」
「あぁ」
「これから話すことは、深雪以外他言は無用だ。契約できるか?」
約束では無く契約?そのいい回しに違和感を覚えた。
「わかった。する。だから、教えてくれ」
目の前に羊皮紙が浮かび上がり、添えられたペンでサインをすると、燃えがり消えた。
「神との契約だ。無断で破棄すれば、お前には神の呪いが降りかかる。注意しろよ。後、深雪には良く考えて話すか決めろ」
温和な表情なのに、言葉に恐怖を感じる。そもそも声が聞こえない。直接、心に語りかけているのか?
「そうだよ。じゃ、話せることを話そう」
彼の口から信じられない事実が告げられた。深雪は人間では無く完全調整体であること。俺は人造魔法師であること。彼が阻止したいことは、俺と深雪の脳を用いたソーサリアンブースターの開発…
「どう?信じられないだろ?だから、話さなかった。深雪と達也は結ばれても問題は無い。四葉家当主は二人が結ばれることを望んでいるかもしれない。それこそ、完全なる魔法師が産まれる可能性があるからね」
深雪は単なる妹では無いことはわかっていた。深雪のDNAには、俺には無いDNAが多数混じっていたから。それはDNAを弄った調整体で有る証拠なんだと思う。
「どうする?僕は2択しか持ち合わせていない。案件を完了させるか、深雪と達也だけ救済し、この世界を消すかだ。どちらでもいい。達也が決めろ」
そんなこと決められない…俺達二人だけが助かれば良いのか?そんな時、先日の亘の言葉がフィードバックしてきた。
『護りたい者だけが護れればいいんです。世の為とかそんなお題目は要りません』
彼は、俺と深雪だけを護れれば良いんだ。そんな気がした。