---深雪---
彼の身体が弾けていく…私は何にも出来無い…何で…
えっ?夢かぁ…彼?お兄様では無かった。誰だっけ?大切な人を忘れている。思い出さないと…
思い出せない。でも気になる。部屋の中を探す。痕跡が無いかを…記憶を辿る…誰かにキスをされた。無理ヤリ…抵抗していたけど、彼と接触していると心の重荷が分解されて消えていく。後ろからお兄様の声…彼は誰だっけ?
お兄様の部屋に行き、お兄様を起こし、見た夢の話を聞いてもらった。
「そうか…記憶がフィードバックし始めたんだな」
お兄様の表情は嬉しそうだ。こんな嬉しそうなお顔は見た事が無い。
「無理に思い出さないで良い。徐々に思い出してあげてくれ」
お兄様は彼のことを知っているようだ。
「彼はどなたですか?」
「俺達にとっての恩人で、英雄だよ」
お兄様に頭を優しく撫でられた。その瞬間、記憶が走馬燈の様に流れて行く。その映像を見ていると、涙が自然に溢れ零れ落ちていく。そうだ…忘れてはいけない人だ。なんで、忘れていたんだろう…
「お兄様、シュウさんは?」
「思い出したんだね。今日から学校へは一緒に通おう」
戻って来られたんだ…
---シュウ---
記憶の戻った深雪…通学中の甘え方が半端ない。僕の腕を自分の胸の谷間に挟んで抱きついて居る。頬を僕の肩に載せ、髪の毛は僕の耳と頬を刺激している。達也を見ると、苦笑いしているし。僕の狼狽える姿を楽しそうに見ているゼノヴィア、アーシア、アスナ。これは、何の拷問だ?
「あっ…おはようございます。亘さん♪」
と、ほのか。今、記憶が戻ったようだ。
「おぉ、久しぶりだな。どうしていたんだ?」
と、雫。こっちも今戻ったようだ。う~ん。深雪の甘える姿がキーだったのか?
「ちょっと、長患いで…その結果、これだよ~」
と、甘えまくる深雪を指す。
「「あぁ~」」
納得する二人。
「もうすぐ、九校戦の季節ですけど、亘さんはどうされるんですか?」
ほのかに訊かれた。
「どうもこうも…二科生だし。CADのメンテは出来無いし、使えないし。選抜メンバーには入らないんじゃないかな?」
「応援には来てくれる?」
雫に訊かれた。
「行かないと、深雪の甘え病が恐い」
「あぁ~だよね。逢えないと、再会時に危ない予感だね」
「そういうことだ、雫」
空いている手で、雫の頭を軽く撫でてあげる。
「え?髪型が乱れるよ~」
そんなにイヤそうでは無い雫。
「ず、ずるい…雫…」
ほのかが雫を睨む。
「ほのか、おいで」
近づいて来たほのかの頭も軽く撫でてあげた。
「このくらいなら、いつでもいいよ。こういうのは苦手だけど」
甘えまくる深雪を指す僕。
「「ですよね…」」
苦笑いする雫、ほのか、達也。
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教室に入ると、エリカ達は達也とアスナ達だけに挨拶をしている。僕はスルーされ、自分の席に着いた。
「いいんですか?この状況で?」
達也が訊いてきた。
「問題無いよ。孤独は慣れているし、気を遣わない分、楽だよ」
「しかし、なんで、お前のアニキは俺にケーキをワンホール頼んだんだ?俺は甘い物は余り食べないんだけど」
「あれ、そうだっけ?お前、以前にもアニキの前でワンホール注文しただろ?」
はぁ?エリカのキーはそれか?ケーキ屋を新たに開拓しないと、ワンホール喰いの現場を見られたくない。
「していないぞ。お前、誰かと勘違いしていないか?」
「えっ?私のカレはお前だけだ…そうだよな、達也…」
達也はスルーしている。えっ…まさか…キーはそっちか?
「スルーするなよ。日夜スルー攻撃されていたことを思い出すぜ…えっ?なんで?どういうことだ?誰にされていたんだ?」
あぁ、エリカの記憶のフィードバックが始まった。
「亘…お前…いつ戻って来たんだ?」
「あっ、亘君…」
エリカと美月の記憶が戻ったようだ。それに伴い、相方達の記憶が戻っていく。あぁ、騒がしい日常が戻っている…
「亘…久しぶり~」
僕に力一杯抱きつき、頬を擦り合わせるエリカ。楽しそうにそれを見ている弟子3名…いや、達也もだ。こいつ、いつ、そんな表情が出来るようになったんだ?
「亘、俺はエリカと間違いは起こしていないぞ」
レオが言い訳を言う。
「起こす訳無いだろ?私は亘が…あっ…」
僕から急に離れて、顔を紅潮させていくエリカ。今更恥ずかしがるなよ。散々恥ずかしい甘えをしていたんだからな。
「あぁ、達也はしっているけど、レオ達にいっておく。彼女達は僕の弟子達だ。セクハラするなよ」
と、ゼノヴィア、アーシア、アスナと紹介した。アスナ以外は、逆に喰われると思うけどな。忠告はした。後は、お前達次第だ♪
「弟子って?なんだ?」
エリカに訊かれた。スルーしてみる。
「おい、スルーするなよ~」
「で、レオ、エリカとどこまでやったんだ?」
真っ赤になるレオ。はぁ?やったのか…
「おい、誤解されるだろ?何もしていない。なぁ、信じてくれよ、亘」
スルーする。
「師匠がスルーするのは問題無いですよ。スルーしないときの方が問題あるし」
と、アスナがエリカに、僕の取り扱い方を説明している。
「なぁ、アスナはやったのか?」
エリカの問いに、真っ赤になるアスナ。コイツは正直だからな。
「言えません…そういうことです」
やっていないって言え無いって、やったと自白しているんだが…
「えぇぇぇぇ~そうなのか?亘、お前は黒髪の女性がいいのか?」
「どうかな?エリカはエリカのままでいいと思う。お前、髪を染めるなよ!」
「あぁ、スルーしないで、貴重なご意見をありがとう…」
えっ?僕がスルーしなかったことで泣いている。どんだけ、レスポンスが欲しかったんだ?
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記憶の回復した者が多いと聞き、克人に生徒会へ来るように言われた。いや、甘える深雪に拉致されたとも言うけど。生徒会室でも、僕の腕に抱きついて離れない深雪。
「深雪さん!彼は誰?ここは部外者立ち入り禁止なのよ!」
真由美が文句を言っている。
「七草、彼は俺が呼んだんだ。彼女は悪くない」
克人が口を挟んだ。
「どういうこと?十文字君」
「お前、本当に覚えていないのか?」
「えっ?何を?」
「覚えていないのであれば、別にいいんだ。気にするな。彼を呼んだのは、九校戦の時のガード要員に入って欲しいからだ」
「ガード要員?彼は優秀なのか?」
摩利が訊いた。
「あぁ、優秀だ。俺と司波を倒せるのは、彼だけだ」
「えっ!十文字君と達也君を倒せる?まさか…」
「有り得ないわ」
摩利と真由美は、克人の言葉を疑う。まぁ、それでも良いんだけど。
「そうか、生徒会として認めないのであれば。十文字家の次期当主として、彼にガードを依頼する。それなら良いな?七草よ」
「どうして、そんな待遇をするの?」
「俺が見込んだ男だ。亘になら、命を預けられる」
「亘…って…」
そこまで言って石化したように固まる真由美。
「どうした?」
「…」
記憶のフィードバックか?固まったまま、目から涙を流し始めた真由美。そして、
「ごめんなさい…亘君…警告を受けたのに…命がけで助けてくれたのに…何で、わすれていたのかな…」
えっ?真由美が駆け寄り、僕の胸で泣き始めた。なんで?
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」
そんな真由美の姿を見て、現彼氏の服部が動いた。
「お前、真由美先輩に何をしたんだ?」
五月蠅いので、アイツの心臓を舐めて、意識を刈り取る。その場に崩れるように倒れた服部。その姿を見て摩利の記憶も…みるみる青ざめていく摩利。
「克人、どうするんだよ。この展開?」
「すまない。こんなことになるとは…」
達也を見ると、微笑ましい表情をしている。いつから、そんな表情が出来るようになったんだ?僕のいない間に、誰かが何かをしたのかぁぁぁぁ~。
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翌日、甘える深雪を腕に付けたまま、皆で登校。途中、ほのかと雫が合流した。いつもの風景になるのかな?昨日の時点で、あずさ以外の記憶は戻ったようだ。あずさとは関係性が薄いから、スルーでもいいんだけど。
記憶の戻った真由美と克人の後押しで、九校戦時の生徒達のガード要員に正式に決まった僕、ゼノヴィア、アーシア、アスナ。達也は技術スタッフになり、ほのか、雫、深雪は新人戦のメンバーに選ばれた。
「亘さん、練習相手になってくれますか?」
深雪達に頼まれた。競技はアイス・ピラーズ・ブレイクだ。これは氷柱の棒倒しで、相手の氷柱12本を先に倒した方が勝ちの競技だ。
深雪と対戦。自陣の氷柱をダイヤモンド柱に代えて、ミラーリング仕様にした。魔法でやる分には違反では無いはずだ。深雪からの攻撃をミラーリングで反射させて、オウンゴールさせていく。
「えっ…反射魔法?自分の攻撃でやられるなんて…」
深雪を凹ませてしまった。次の相手…ほのかと雫は、今の対戦を見て辞退してきた。
「その魔法はどうやるんですか?」
深雪が研究モードになっている。よほど悔しかったのか。
「深雪では無理だ。達也にCADに組み込んでもらうか…どうするかな…達也と相談してみるわ」
「それって、達也さんが担当エンジニアじゃないとダメですよね?」
「そうなるな。担当者がセッティングするんだから…」
雫とほのかが真由美の元へと走って行く。エンジニア交代を希望するんだろうか。
結果、僕は呼び出しを喰らった。
「亘君…どういうこと?彼女達に何を吹き込んだの?」
「練習相手をしていて…まぁ、そういうことです」
「もしかして…彼女達に勝っちゃったの?」
「言いにくいんですけど…深雪にも…」
「はぁ~?」
「亘らしいな」
って、克人。
「らしいで、済まない問題よ!亘君、責任をとって、彼女達の担当になりなさい!」
「えっ?僕はガード要員ですけど…」
「勝っちゃたんだよね?それって、実績だよね?」
怒った表情で目が笑っている真由美。あぁ、僕をエンジニアにしたいんですね…達也同様に…はぁ~。やらかしてしまった…仕事が増える~!
「で、どういう感じで勝ったのかな?」
練習場所に、ほのか達と克人、真由美と共に戻る。そこでは、達也と深雪が、ミラーリング対策をしていた。
「達也君を悩ませるって、凄いよ!ねぇ、亘くん」
僕に抱きつき真由美。
「でも、あれって、簡単に突破できるんですよ」
『ダイヤモンドダスト』でダイヤモンド製ミラーリング仕様の氷柱を破壊した。その光景に達也を含めた全員が驚いている。
「絶対防御って出来無いと思って下さい。あれはあくまで深雪対策の術ですから」
「え?私対策?」
「いや、深雪対策っていうより、魔法師対策ですね。魔法師が出来無い攻撃で、破壊できるようにしただけの防御です。まぁ、子供ダマシですよ」
「何をしたんだ?」
克人に訊かれた。
「氷をダイヤモンドにして、周囲を反射タイプのミラーコーティングで固めただけ。だから、今みたいにダイヤモンドを撃ち込めば簡単に破壊できるんです」
「えっ?キラキラ見えるのはダイヤモンドの破片?」
嬉しそうな雫の声。
「後で拾えば?たぶん、売れるはずだよ」
「錬金術か?」
克人に訊かれた。
「まぁ、そんな感じだ。現代魔法師には錬金術を出来る方もいるだろうけど、複数系統の術は使えないはずですよね?達也を除いて」
「達也君って、複数使えるの?」
「達也は『分解』と『再構築』だけ使えます。それに対して僕は『創造』と『破壊』です。似ているようで少し違うのがミソです♪」
「錬金術ではなくて、『創造』なの?」
真由美が確認するように訊いてきた。
「そういうことです。ですから、CADで再現は難しいですよ。CADエンジニア向きでは無いんです。どっちかと言うと術式プログラマーですから」
「魔法師では無くて、魔導師ってこと?」
「ですね。僕のジョブは魔導戦士ですから」
「ねぇ、私も魔導師になれますか?」
いきなり雫が訊いてきた。
「まぁ、鍛錬次第であるが、九校戦には間に合わないぞ。どうする?」
「習いたいです。CADに頼らずに魔法を使いたいです」
真由美を見ると軽く頷いている。
「わかった。伝授しよう」
「あの~私も」
「私にも」
ほのかと深雪も習いたいみたいだ。
「わかった。でも、つらくて遠い道のりになる。途中で投げたら、そこでお終いにする。いいな」
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週末、ほのかと雫は近所に引っ越して来た。魔導師になる為、移動時間を惜しみたいそうだ。近くにいなくても鍛錬は出来るのだけど…基礎鍛錬は白音に丸投げ。まず、気の操作から覚えて貰う。現代魔法師の魔法は、魔導師で言うところの魔法とは違い、超能力に近い。なので、魔法陣や呪文や詠唱での発動では無く、CADというデバイスが必要不可欠になるのだ。
まぁ、僕達のチームでも全員が魔力を持っている訳では無いので、気、所謂オーラを使い、最初の内はそれをコンバートして魔力にして発動できるようにするのだ。
魔力は魔法を発動することで、少しずつ芽生えるのだ。
「う~ん…」
鍛錬場所として九重寺の一角を借りた。ここなら安全だし。八雲が興味深そうに見ている。女性達の身体を…
「若い子はいいよねぇ♪」
エロ住職へプレゼントとばかり、ゼノヴィアをけしかけて、八雲を襲わせた。
「もう無理だぁぁぁぁ~亘、助けてくれぇぇぇぇ~!」
「精魂尽きても、出涸らしが出るまで喰らうからね♪」
本堂の中から八雲の叫び声が聞こえる。まぁ、BGM代わりってことで…
「ここで練習しているのか」
って、エリカの声。あれ、何で?
「うん?達也君に教わったんだよ。週末、合同で練習するって♪」
達也…誰に何を聞いたんだ?記憶を読めないようにブロックされているし。確実に誰かに何かを聞いた達也。涼しげな笑顔を浮かべているし…
「な、手合わせしてくれない?」
「アスナに勝ったら考える」
アスナが得物を手にして、エリカに襲い掛かった。
「えっ?アスナさんに?負ける訳ないだろ?」
どうかな?綺凛ちゃん達に鍛えられているアスナに勝てるのか?二人共スピードタイプだけど、アスナの方が力強い。
「アスナさんの周囲に精霊がいるんですね」
って、美月。レオと幹比古もいるし。
「なんで、いるんだ?」
「エリカに誘われたんだ。で、俺の相手は?」
レオが相手を物色している。では…キャッスルドランから立ち技最強女を召喚した。
「弟子のモモヨンだ。レオの戦闘スタイルに似ているからいいだろ?」
モモヨンのケリと突きを避けきれずに、喰らいまくるレオ。しかしダメージが通っていないみたいで、直ぐに立ち上がる。
「ほぉ、久しぶりに燃える戦いになりそうだよ、団長♪」
戦闘狂がスパートしていく。