---シュウ---
新婚初夜…特に感慨は無い。深雪にとっては…感慨深いようだけど…
「シュウさん…」
僕と見つめ合って、軽く目を閉じた深雪。彼女の額に軽く口づけをした。意外だったのか、驚いて僕を見つめている深雪。
「どうして…」
瞳にジワジワと涙が浸み出していく。
「夜明けまでには帰る。これから大切な用事が有るんだ」
「私よりも?」
「深雪よりも…いや、深雪と同じくらいだ。朝までに終えないとダメな用事だ。手遅れになると…たぶん、僕は耐えられない」
僕の肩に縋る深雪。
「わかりました…待っています…戻って来てくれますよね?」
「当たり前だ。戻って来るよ」
僕は彼女の唇に軽く口づけをしてから転移をした。
---エリカ---
ミキからメールが届いた。亘と深雪が婚姻したという知らせだった。涙が止まらない…叶わぬ…心にぽっかりと穴が空いた。これからは、彼から受けるスルーは、別の意味なんだろうな。散々怒らしたからなぁ。しょうがないのかな…脳裏では、彼との思い出がゆっくりとかみ締めながら流れて行く。
心を落ち着かせてから、シャワーを浴びる。皆に見られても、問題無いように身体の隅々を清めていく。バスタブにお湯を張り、身体を湯に鎮める。そして、手にはカミソリを持ち…精神を統一し…
ドン!ドン!ドン!
精神統一をしていたのに、ドアを荒々しく叩くヤツがいる。彼か?な、訳無いか…もう誰にも会いたくないし。
ガチャ!
鍵を解錠したのか、ドアの開く音。そして…ドカドカと複数の者達が入って来る音…
「エリカ!何をしているんだ、お前は!」
目の前にアニキと兄様が現れた。えっ?どうして?なんで?
「弟の言う通りだったな。アニキ」
「あぁ、危なかった…はぁ~」
弟?私にはいないけど…私の知らない弟がいるのか?
「お前、思い詰めると一直線だもんな。コレを着て、こっちへ来い!」
兄様からバスローブを渡された。どうして?戸惑う私。なんで、ここにいるの?
バスローブを着て、兄二人の前に。二人とも私を睨んでいる。
「弟からお前に、贈り物だ!」
1通の封書が渡された。弟?誰のことだ?封書を受け取り、中身を確認する。1枚の紙切れが入っていた。何かの書類の写しのようだけど…行政の受け取り印がある。なんだ、これは?
『婚姻届け』
って、文字が目に入る。誰の?二人の名前が並ぶ…えっ?何かの間違いだろ?いや、悪戯なのか?
「これって…悪戯か!」
怒りを二人の兄に向けた。有り得ない夫の欄の名前…
「悪戯?警官の俺が文書偽造なんかするわけないだろうが!」
アニキの言葉…でも、有り得ない。だって、彼は…
「彼の裏技だ。多重戸籍持ちの弟のな」
と、兄様。あ…弟って、そういう意味か…彼は兄二人にとっての義理の弟になったのか。
「夜中に突然現れて、エリカが危ないってさぁ…まぁ、彼には恩があるから、彼の言う通りにしたけど」
「夜勤中に、いきなり拉致されたぞ。おかげで、大切な妹を失わないで済んだ。また、彼に恩を…まったく、俺達の自慢の弟だよ」
立ち会い人欄には兄二人の名前が記名されており、役所の受領印が押されていた。
「だから、早まるなよ。エリカ…」
兄二人が暖かいオーラで私を包んでくれている。
「あぁ、彼にお礼を言いに行くなよ。これから新婚初夜だそうだから。新妻を明け方まで待たして、お前なんかの為に動いてくれたんだ。今日は接触するなよ」
そうか…深雪を放置して…アイツはバカか?私なんか、いつのも様に、スルーすれば良いのに…
---シュウ---
明け方戻ると、深雪が…寝ていた。泣き疲れたのか、ベッドの上で正座して寝ている。その目は真っ赤に腫れているし。彼女の隣に座り、天使の翼を展開して、彼女を包み込む。
嫉妬という心の闇を浄化していく。目の腫れを癒やしていく。横にして、隣に添い寝した。
目覚めると、有り得ないシチュエーションの渦中にいた。両サイドに誰かがいる。一人は深雪だと思う。もう一人は誰だ?真由美にしては胸が小さいけど…
僕の両耳には何か柔らかい物が押し付けられている。それからは、生暖かい液体が染み出ている。僕が普通の人間だったら、中耳炎確実だと思う。
僕の括れ部分には、たぶん胸だと思うんだけど、2つの谷間にホールドされている。気持ちいいのだが、なんでこんな状態に?
そして、僕のアレは2枚の舌で舐められている。2枚の舌が競う合うように舐めている。気持ちはとてもいい。夢なら醒めないでって感じだけど…
ドンドンドン!
ドアが激しく叩かれていた。あの音で目が醒めたんだな。
「亘君、急用よ!起きなさい!」
真由美の声だ。僕は僕をホールドしている者達を透過して、ベッドを抜け出し、バスローブを着た。僕がベッドから居なくなったことに驚く深雪とエリカ…えっ?なんで、エリカがいるんだ?はて?
「亘君!どうしたのよ~!」
真由美が五月蠅い。ドアを開けて対応する。
「ごめんなさい。新婚初夜なのに…」
二人から見えないので、真由美に軽く口づけをした。
「落ち着けよ、真由美。どうしたんだ?」
僕の唇があった場所を指でなぞっている真由美。
「あぁ、10分後に作戦会議室に来て!15時からもう1試合に出て貰うから」
言い終わると、割と濃厚な口づけを返して来た真由美。
「頼むわよ♪」
僕に笑顔を向けてから、去って行く。なんだろう?シャワーを浴びる。深雪とエリカも乱入するが、3人で入るには狭いシャワールーム。水気を拭い、制服を着て、会議室へと向かう。
「あれ?エリカもか?」
達也が、エリカに気が付いた。
「あっ…まぁ…色々と…」
口ごもるエリカ。勘のいい達也は、何かを感じ取ったようで、僕に笑顔を返して来た。
「九島閣下のご希望でね。モノリス・コードの決勝に出て欲しいの」
新人戦では無く、本戦の決勝?
「だって、代表選手がいるでしょ?二科生の、それも補欠でも無い僕が出るのは、失礼だよ。あんな爺の要望でさぁ!」
爺のワガママに抗議してみる。
「本来のメンバーは、亘と達也なら、問題無いって結論だ」
と、服部。
「どうだ、亘。俺と達也と亘で参戦しないか?」
と、克人。
「一瞬で終わらせてもいい?」
「あぁ、殺さなければな」
「了解だ、克人」
--------
徹夜明けに近いので、速攻で行こうと思う。達也も克人も好きにしていいって言っているし。対戦フィールドに行き、作戦タイム中に、相手の位置を捕捉した。そして、対戦開始の合図と共に『天の裁き』で天空から3筋の稲光を落とし、相手を全員狙撃した。直後、終了の合図が鳴り響いた。
克人と達也でさえ、呆気に取られている。
「じゃ、寝るから…後は頼む」
僕はその場から転移した。
---エリカ---
兄二人と兄様の女の摩利の4名で、亘の試合を観覧していた。見るからに不機嫌な亘。作戦タイム中なのに、亘も達也君も十文字先輩も口を開かない。あの3名は仲が悪いのか?
そして、試合開始の合図。いきなり、空から3筋の稲光…開始の合図が鳴り響いている上から、終了の合図が鳴り響いた。
時間が止まったかのように、観客、達也君、十文字先輩が固まった。何が起きたのだ?呆気に囚われる全員。
「なんだ、今の…速攻だよな」
アニキが口を開いた。
「あぁ、あんな攻撃あるのか…って、誰が撃ち込んだんだ?3名とノーアクションだったぞ」
と兄様。
「たぶん…亘君…ノーアクションから撃ち込めるから…」
と兄様の女。
「あんな暗殺者がいたら、捕まえるなんてできない」
アニキが目を見張っている。観戦用のモニターに、何度も今の試合のシーンが再生される。微かに亘の指が動いただけだ。
「エリカ…とんでもない男を旦那にしたなぁ…」
「えっ?旦那?エリカ…亘君と…」
兄様の女に尋ねられたが、スルーだ。私は再生シーンを見るのに忙しい。
---シュウ---
夕食の時間に合わせて、宿泊場所に戻ってきた。僕専用フィールドで、睡眠を取ってきたのだ。部屋には深雪とエリカがいた。
「ただいま…」
僕の声に反応した二人…
「おかえりなさい♪」
「どこに行っていたんだ?」
「一人で寝られる所。徹夜明けで、一仕事って有り得ない…」
「どうして、言ってくれないんですか?エリカとも籍を入れたことを!」
深雪が猛抗議してきた。
「言う時間というか、余裕が無かった。すまない」
深雪を抱き締める。
「お前、今後どうするんだ?」
って、エリカ。
「ノープランだよ。だって、深雪がこんなことするなんて、予想外だったし」
青天の霹靂だ。姉ちゃんにやられた感が強い。あっちの世界の司波兄妹も関与している気がする。
「ごめんなさい」
暴走状態では無い冷静沈着な深雪が謝って来た。
「勢いで…まさか、エリカが…ごめんなさい」
エリカにも謝る深雪。
「いや、謝らないで…私もこんなことになるって、思わなかったから」
「そうだな…大きな家が欲しいな。深雪とエリカ、後達也と住むには、あそこでは狭いし。雫とほのかが下宿するしなぁ」
そこに内線電話で夕食の連絡が来たので、三人で食堂へと向かった。
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ケーキをお皿にてんこ盛りして、食する。
「そういや、エリカ、バイトは?」
「あ?あぁ、アニキ達にな、バイトするなって…仮にも神代家の嫁が何をしているんだって…」
真っ赤な顔で俯くエリカ。
「えっ?千葉さん…亘君と?亘君、重婚?」
真由美が驚くように声を上げ、仲間達が僕を注目した。
「重婚ってことは無いよ。戸籍には配偶者は1名しか記入できないし」
「じゃ、どういうことよ!」
バン!
テーブルを叩く真由美。どうした?エキサイトしすぎだぞ。
「たぶん、今夜辺りに、各家の当主宛に連絡がいくと思うけど…深雪は鬼門家名誉当主の妻で、エリカは神代家当主相当の妻だよ。僕…戸籍が3つあるから…」
僕のドロップアウト発言で、皆驚きの声を上げた。
「はぁ?3つ?」
「だって、一人で当主を3つも兼務できないでしょ?」
真由美だけに言い訳する僕。
「なら、残り1つは空いているのかな?」
真由美の目が妖しく光った気がした。狙っているのか?
「まぁ、空いているけど、止めた方がいいよ、代羽家は…粛正対象だし」
「おい!粛正ってなんだ?」
克人が喰い付いた。
「言葉の通りだよ。僕が代羽家最後の一人…粛正から逃れたんだ」
僕の二度目のドロップアウト発言に固まる仲間達。
「化け物って言われるのはその辺だよ。粛正包囲網から逃れてきたんだからね」
固まるみんなを尻目に、ケーキを頬張る僕。
「それでも、名乗りたいって言ったら?」
って、真由美。
「後悔させる自信は有るけど、いいかな?」
「ふ~ん、後悔ねぇ…させられるのかな?亘くん♪」
真由美が笑顔を浮かべた。僕の本質に気づいているのかな?真由美のくせに…
--------
翌日、ミラージ・バット新人戦の決勝が開催され、深雪が圧勝した。そして、今夜エキシビションマッチが行われる。それをもって、全試合終了になるらしい。
「どう?深雪さん対策は出来た?」
真由美に訊かれた。
「どういたぶるかな…」
「いたぶるのか?」
って、エリカ。
「だって、試合は勝て無いから…」
いや、勝てる方法は見いだした。深雪の動きを封じながら、得点を重ねるのだ。
「お嫁に行けない姿にしようと思っていたんだけど、もう嫁になっているしなぁ…」
ずっこける二人。
「お前…何をしでかすつもりだったんだ?」
「衣装を切り刻んで、全裸に…」
「それは惨すぎるから、ダメよ!」
ダメだろうな…だから、コチラからは衣服には撃ち込まない。ふふふ
「うっ、悪そうな顔だな、亘」
エリカが引いている。
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試合開始5分前、キャッスルドランから、ゼノヴィアと共に降下した。徐々に会場の灯りが見えて来て、大きくなっていく。
そして、着地。
「おまたせ♪」
まさか、上から入場するとは思っていなかったのか、達也と深雪を含めた全員が驚きの声をあげた。
「上から入場って…有り得ない…」
深雪の精神にダメージを与えたかな?ふふふ♪ゼノヴィアは既に、飛行ユニットを装備済みである。
「その背中のユニットがそうですか?」
達也に訊かれた。
「そうだよ。ゼノヴィア、作戦通りに行け♪」
「了解です。団長」
「作戦?」
怪訝な顔になる達也。
「チームシュウの戦闘能力を見せてやれ」
「はい♪」
達也と深雪に死を感じるオーラを放っていく。顔色が悪くなっていく兄妹。いや、小細工無しだと勝て無いと思う。ハンデ代わりの小細工だ。
そして、開始の合図。ゆっくりと上昇する深雪。それに対して一気に目標高度に達するゼノヴィア。そして、目標高度に達すると、姿が見えなる。
「見えない…何をしたんですか?」
「ホログラム投影できる範囲の周囲を、高速で周回させているだけ」
「周囲を?」
「深雪は大体中心辺りにいるよな?周囲からスティックによる飛ぶ斬撃を中心に目がけて撃ち込む。深雪はどうなるかな?」
僕の言っている意味を理解した達也の顔から血の気が失せていく。
「あぁ、達也。手出しはさせない。結界で封じ込ませてもらったよ。介入されると、ショウが不発になるから」
「深雪の味方では無いんですか?」
「僕は性癖の破綻したドエスプレイヤーだよ♪」
「こんな時に…何を…」
「それにこれくらいの攻撃から生き残れないと、連れて歩けない。言っている意味わかるよな?」
「これで戦闘不能になれば、この世界から連れ出さないってことですか?」
頷いた僕は上空を見上げた。