---達也---
翌日、深雪が戻ってきた。顔色は優れない。ヨロヨロとした足取りであるが、意識はしっかりといしている。日常生活が出来るってことなんだろうな。
「お兄様、ご心配をおかけしました。シュウさん達は、2日後に戻って来る予定です」
「シュウさんとエリカは?」
心配事を訊いてみた。
「シュウさんは休養中です。エリカの事で、だいぶまいっているようです」
エリカに何かあったんだな。
「エリカの事とは?」
俺の質問で顔から血の気が引いていく深雪。青白かった顔色は、血の気が引いて白くなっていく。
「シュウさんの目の前でエリカが…手を尽くしたそうですけど…」
深雪の目尻から大粒の涙が零れ落ちていく。
「救えなかったのか?向こうの世界の俺はどうしたんだ?」
24時間以内なら救えるはずだ。死なない限り、どんな怪我でも…
「シュウさんが拒否しました。それはお兄様に多大な負担を強いるから…」
負担…そんな物…
「普通の死に方では無かった。だから…お兄様の負担を、気にされていました」
普通では無い?
「シュウさんは、『再生』使用時の負担をシミュレートされたようです」
シュウさんでも耐えられない痛みなのか…
「私とエリカは心臓を加重魔法で狙い撃ちされました。撃ち込まれる前にシールドを張ったんですが、ジャミングされて…その結果、魔法抵抗力のある私は、心臓がショック状態で意識を刈り取られ、エリカは…心臓を潰されました」
心臓を潰された…想像するだけでも激痛だ。確かにそんな痛みは…
「で、エリカは最終的にどうなったんだ?」
深雪が俯いた。最悪の事態なのか?
「人間としてのエリカは死にました。今はシュウさんの造られた人工心臓で生きています」
人間としては死んだ?人形か?まさか…
「人形か?」
「違います。シュウさんは、死体を冒涜しません!」
深雪は俺に怒りの感情を向けてきた。そのことに驚いた俺。俺の知る妹は、怒りの感情を俺に向けることは無かったから。
「シュウさんは、人間の心臓だけは造れないそうで、違う種族の心臓を与えたそうです。そのため、今エリカは転生ドラゴンらしいです」
転生ドラゴン?
「この先、治療をしていく上で、転生ドラゴンが良いそうです。だけど、シュウさんと共に生きることになるらしく、もうこの世界では暮らせないらしいです」
それは、シュウさんが旅立つ時に一緒に…深雪はその時、どうするんだろうか?
「深雪はどうするんだ?」
「一緒に生きたい…でも、シュウさんの望みは…」
哀しそうな表情の深雪。
「心配するな。一緒に連れ帰ってもらうようにするから」
「お兄様、ありがとうございます」
少し明るい表情を見せた深雪。
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エリカのアニキに連絡をした。
「達也です。妹が帰って参りました」
「うちのエリカは?」
「生きているようです」
「本当か…それは良かった…どんな状態なんだ?」
「まだ帰って来ないのは、日常生活が出来無い可能性があります」
「で、どこにいるって?」
「わからないそうです。妹も転移術で家に転移されたので、どこに今までいたのかが、わからないそうです」
事実を伝える。言えないだろう事実以外は…
「そうか…まだ狙われているのか…で、どんな攻撃を受けたって?」
言うべきか…どうする…
「シールドをジャミングされて、加重魔法を受けたそうです」
「シールドをジャミング?そうか…エリカは重体なんだな…物理攻撃は防げても、アイツは魔法攻撃は無理だから…」
「戻り次第、連絡をしますから、早まったことはしないでください。きっと亘がどうにかしてくれます」
「あぁ、そうだな。義弟も真っ直ぐなヤツだものな…」
---エリカ---
剣術が…自信有ったのに…ここでは初級クラスにいる。人間相手に最強レベルでも、ここではぺ~ぺ~扱いである。
手合わせで防戦ばかりになる。斬撃が重い。剣で受ける度、腕に激痛が走る。これ初級クラスなのかぁぁぁぁぁ~
「どうしました?その程度の腕では、彼の隣には立てませんよ」
って、ヴァイラさんに挑発されるが…
「根性だけは買います。でも、根性だけの者を彼のチームに推薦はできません。彼の負担が増しますから」
「アスナもここの卒業生なのか?」
「彼女は違います。こことは違うカリキュラムで鍛錬していました。なので、まだ2軍クラスですよ」
あれで2軍?私よりも腕は上なのだが…
「ゼノヴィアさんがトップチーム所属です」
ゼノヴィア…深雪を切り刻んだ腕か…
「1軍クラスに入るには、魔王を一人で屠れるくらいで無いとダメよ」
魔王クラスを屠る?
「あなたの世界では魔王はいないわね。う~ん、そうすると例える者がいないかな」
「ヴァイラさんはどの辺りですか?」
「私は引退した戦士…もう彼の隣では戦えない」
ヴァイラさんの表情は寂しげである。
「引退?」
「精神を病んだの。あんなに愛していた彼を拒否してしまったことで…」
亘を拒否したのか…
「なんで?」
「心ではわかっていた。決心もしていた。でも現実を前にして、目を手で被ってしまった。彼の真の姿を目にして…その日を境に、私は私が許せなくなった。そして、お決まりの自殺願望コースに…」
亘の真の姿…神としての…
「私が目にしたのは神としての彼ではないわ。戦う権化と化した彼の姿よ。彼は、私達を護るために、総てを捨ててきた英雄なんだ。戦うのに必要な物以外は捨てて、再生能力を極限まで上げて戦ってくれた…なのに…あの姿を目にして…あなたは、真っ直ぐだから耐えられるかもしれない。でも、戦闘に参加しちゃダメ。彼を壊す原因になるから」
亘を壊す原因…その夜、ヴァイラから亘の真実が語られた。
---シュウ---
今回の休養は、この世界で3ヶ月で、あちらではロス3日の予定である。一誠の鍛錬を見つめる。剣術は二刀流までは出来る。拳法も出来る。問題は魔法かな…僕のような魔導戦士を目指しているが、ガード、サポート系を教えていく。
僕の魂と寄り添っていたので、大抵の魔術文字は読み書きできる。これは利点である。式森の血も入っているので、筋もいいし。
「一緒に案件をこなす戦士になりたいです」
僕に将来の希望も言えるようになってきた。
「それにはまだ力が不足だな。綺凛ちゃんと互角になったら考えてあげる」
「はい!がんばります♪」
道場へと走り去る一誠。
「息子に負ける日も近いかな?」
って、誠。
「まだまだだろうな。戦闘経験や場数は踏んでいるけど、実際には戦っていないから、実戦経験をもっと積ませないと」
「アイツの希望は叶えられるか?」
「当面は親子3人で案件をこなしてみれば♪」
「アイツの姉と妹はどうだ?」
「翼紗とペンニーアは、僕が責任を持って引き取る。僕が誘い込んだから」
「残りの姉妹は?シュウに懐いているだろ?」
「一誠のチームメンバーにするといいだろうな」
「美奈子ちゃん達はどうするんだ?」
「時空管理局絡みで、せつなだけは引き抜きたい。美奈子は、たまに調教しに来るよ」
「後5年か…」
「先はまだまだ長いよ…」
---真由美---
父を前にして意を決して、思いを伝える。
「結婚した相手がいます。お許しをください」
「相手による。どこの家系だ?」
「魔法師ではありません」
「認め無い!」
速攻で却下だ。
「どうしてですか?」
「七草家の長女なのに、そんなこともわからないのか!」
わかる。優秀な魔法師を産む為だ。でも…
「私は子作りの道具では有りません」
「そうだよ。それだけの価値では無い。他家との交渉する為のアイテムだ」
娘を物として扱う父。
「私は物では無いんですよ!」
「七草家の看板が無ければ、単なる小娘だ、お前なんか」
立ち上がり、私の前から去って行った父。
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亘君と一緒になりたい…亘君の家に自然に足が向いていた。彼の家の呼び鈴を鳴らすが、応答が無い。三高との防衛戦以来、会っていない。学校へも来ないし。どこに行ったのよ~!
「七草、どうしたんだ?」
背後から十文字君の声がした。
「そっちこそ、どうしたの?」
「お前は、亘に用か」
お前は?お前もで無くて?
「俺は、隣に用だ」
達也君…かぁ
「一緒に行っていい?」
「かまわないと思う。達也の判断にまかせるが、いいか?」
頷く私。
達也君の家の呼び鈴を鳴らす十文字君。応対に達也君が出て来た。達也君の許しを得て、中に入ると、顔色の優れない深雪さんがソファでグッタリとしていた。
彼女の姿を見て、険しい表情になる十文字君。
「お前の妹が、こんなになるとは…」
「俺も驚きです」
深雪さんは荒々しい息づかいであった。何が遭ったんだ?
呼び鈴が鳴り、達也君が応対に向かうと、知らない二人の男性を連れて戻って来た。
「あぁ、紹介します。彼が十文字家の次期当主の十文字克人先輩で、こちらは七草真由美先輩です。で、こちらはエリカのお兄様の千葉寿和さんと、次期当主の千葉修次さんです」
お互いに挨拶をした。千葉さんのお兄さん達がなんで?まさか、あの部屋で亘君は…その場に泣き崩れてしまった私。
「おい、しっかりしろ」
十文字君に、ソファまで誘導され、座った。
「亘から伝言です」
伝言…生きているのか…
「1と7との共謀の可能性を調べてくれ、だそうです」
1と7…えっ?みんなの視線が私に集まっている。皆、狩る様な目付きで私を見ている。どうして?
「あとは、主従逆転の可能性、カーディナル・ジョージが洗脳されているか、傀儡にされていないかと、ジョージのバックを調べて欲しいそうです」
「亘は亘なりに調べているのか?」
十文字君が訊いた。
「状況証拠からの推理だけです。亘は休養中で、動けないそうです」
休養中?何か遭ったんだわ…
「おい、七草!お前、顔色が悪いぞ!」
十文字君に声を掛けられた。
「亘君は…彼に何が遭ったの?」
声が震えている…
「七草先輩は、亘が心配なんですね。戦えない以外は元気のようです」
戦えない?
「で、うちのエリカは?」
心配そうな顔付きの千葉さんのお兄様方。彼女にも何か遭ったのか?まさか、逃げ遅れたのか?
「順調に回復しているそうです。今現在、亘の自宅でリハビリ中だそうですよ」
亘君の自宅?隣では無いのか?
「そうか…回復しているのか…で、どんな状況で、どんな治療をしたんだ?」
「…」
即答出来無い達也君。言葉を選んでいるようだ。
「俺の妹ですら、こんな状態です」
まさか、深雪さんも逃げ遅れたの?
「覚悟はしている。事実を教えてくれ。妹は、どんな風にされて、どんな風に生きているんだ?!」
千葉さんのお兄様がテーブルに手を載せ、達也君の方へ乗り出した。長考している達也君。こんなに言葉を選んでいる彼は見た事が無い。
「わかりました。では、妹から聞いた内容をお話します。亘からは何も聞いておりません。たぶん、話したく無い程、自分を責めている可能性が有るので、亘のことは責めないでくれませんか?」
達也君は、千葉さんのお兄様達に頭を下げた。
「責めないよ…義弟は、絶対にエリカを見捨てないヤツだ。そんなアイツは責められない」
「わかりました。お話します。部屋でまったりしているところを、奇襲されたそうです。それも加重魔法で心臓狙撃だそうです。妹は咄嗟にシールドを張ったそうですが、ジャミングされて…」
「心臓を狙撃…暗殺じゃないか…何で、妹が…」
「亘は反撃しようとしたそうですが、緊急脱出をしたそうです。二人の容体が…」
緊急脱出…桁違いの強さの彼が、反撃を放棄して…深雪さんへ視線が向く。とても苦しそうな彼女。目は赤く腫れている。
「亘の判断は正しかった。もし反撃していたら、妹もダメだったと思います」
妹もダメ?…誰がダメだったの…
「エリカは苦しんだのか?」
耳を疑う言葉が千葉さんのお兄様の口から出た。それって…
「即死だったそうです。死に顔は穏やかそうだったと…」
即死…千葉さん…でも、さっき、生きているって…何故?
「そうか…苦しまなかったのか…不幸中の幸いだな」
「亘は仲間達に妹とエリカの蘇生と延命を依頼して、反撃に向かったそうです。亘の目から見ても、既に無理な状況だったようで…」
私達を助けに来てくれたのって…その直後だったんだ、きっと…
「寿和さんに一条将輝達を引き渡し、急いでエリカの元へ戻った…でも…」
「そうか…だから、手早く引き渡したのか…」
千葉さんのお兄様達が悔しそうな呻き声を上げている。
「亘の能力は『創造』なのですが、理由は知りませんが、人間の心臓だけは創造出来無いそうで…」
人間の心臓…出来無い?
「違う種族の心臓を創造して、埋め込んだそうです。エリカを違う種族へ転生させて…」
違う種族へ転生?どういうことだ?
「亘の選んだのは、生命力があり、しぶといと言う理由で、ドラゴンにしたそうで、エリカは転生ドラゴンとして、新たな命を吹き込まれたそうです。あぁ、姿は今まで通りだそうですから、見た目だけでは判らないレベルだそうですよ」
「ドラゴンかぁ。エリカらしいなぁ」
「あぁ、アニキ。エリゴンとでも呼ぶか?」
「エリカは心臓以外は損傷は無かったそうですが、心臓がドラゴンの物になった為、身体全体も強化したそうです」
「で、達也、お前の妹はどうなんだ?」
十文字君が訊いた。
「心臓がショック状態になったそうで、一時的に心肺停止状態になり、今は後遺症との戦いです。でも、亘が戻って来れば治るレベルだと思います」
二人は死の淵を彷徨っていたのか…