明日香side
(全く何がどうなってるのよ。)
私は今行われようとしているデュエルの対戦プレイヤーを見てそう思った。そばにいるツァンさんや宇佐美さんの顔を見ると彼女たちも私と同じ考えのようだった。今から戦おうとしている2人は遊と雪乃。本来ならば寮の違う2人は戦うことができないはず。それなのに彼らが対戦するということはどちらかが先生に対戦相手にしてほしいと頼んだということ。そして2人の様子を見てみるとどうやら雪乃が戦いたいと望んだようだ。これで対戦相手に対する謎は解けたが、もう1つ謎ができた。
(どうして、この試験で遊と戦おうとするの?)
彼はオシリスレッドとは思えないぐらい強い。デュエルを観戦したり、実際に戦ってみて私はそのことを理解している。だからデュエルストの本能として遊と戦いたいと雪乃が考えたとして不思議はない。しかし、今は試験の最中だ。オベリスクブルーである私たちがいくら実力があったとしてもオシリスレッドに過ぎない生徒に敗北したとなると評判はガタ落ちになる。現に万条目君が十代に負けたことにより、彼に対する批判が起こっている。そのことを考えたらデュエルは誰も見ていないところでやればいいはず。なのにどうして。私はこの疑問に対する答えが出せないまま、デュエルが始まるのを待つのだった。
雪乃side
デュエル場で対峙する彼の顔を見る。とても自信にあふれている男の顔だった。特に目が輝いていた。今から彼が本物の男かどうかを確かめると思うとゾクゾクする。私が誰もいない場所でのデュエルではなく、衆人環視の中でのデュエルを望んだ理由は彼が本当の男かどうかを確かめるためだ。確かに彼は強い。デュエルアカデミアのクィーンと呼ばれている明日香よりも強い。もしかしたら、アメリカに留学しているカイザー丸藤亮、フブキング天上院吹雪よりも強いかもしれない。しかし、彼が本当に私にふさわしいのかはまだわからない。彼が今までに戦った場所はいずれもプレッシャーのあまりかからない場所だった。そこではのびのびとプレイできるからこそ、実力以上のものを発揮できたのかもしれない。本当の男ならば、どんな場所でも実力を発揮できるはずだ。例えそれが、失敗すれば容赦なく批判される場所であろうとも。この場所で自分を見失うことなく、デュエルができるか否か、それによって彼が私にふさわしい男かどうかがわかる。私は周囲の様子を見て彼に問いかけた。
「準備はいい?」
「いつでもどうぞ。」
それでははじめましょう。2つの意味での試験を。
「「デュエル」」
「私の先行。『強欲な壺』を発動。デッキからカードを2枚ドローする。そして『リチュア・アビス』を召喚。効果で『ヴィジョン・リチュア』を手札に加える。手札から『ヴィジョン・リチュア』を捨てて、効果発動。デッキから『イビリチュア・ガストクラーケ』を手札に加える。さらに『シャドウ・リチュア』を手札から捨て効果発動。デッキから『リチュアの儀水鏡』を手札に加える。」
とりあえず、ハンデスをして、情報アドを稼ぐ。
「手札から『サルベージ』を発動。墓地の『ヴィジョン・リチュア』と『シャドウ・リチュア』を手札に加える。そして『リチュアの儀水鏡』を発動。手札の『ヴィジョン・リチュア』をリリースし、儀式召喚を執り行うわ。深海の怪物よ、魂無き亡骸を糧に現れよ、儀式召喚レベル6『イビリチュア・ガストクラーケ』。」
『イビリチュア・ガストクラーケ』
儀式・効果モンスター
☆6 水属性 水族
攻撃力2400 守備力 1000
「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。このカードが儀式召喚に成功した時、相手の手札をランダムに2枚まで確認し、その中から1枚を選んで持ち主のデッキに戻す。
「『イビリチュア・ガストクラーケ』の効果発動。相手の手札をランダムに2枚まで確認し、その中から1枚を選んで持ち主のデッキに戻す。私は私から見て左から2枚目と5枚目を選択する。さあ、手札を見せなさい。」
開示された手札は『苦渋の選択』と『強欲な壺』だった。
「『苦渋の選択』をデッキに戻しなさい。私はカードを3枚伏せてターンエンド。」
雪乃 ライフポイント4000 手札1枚(『シャドウ・リチュア』)
場:『リチュア・アビス』、『イビリチュア・ガストクラーケ』、伏せ3枚
「俺のターン。ドロー。」
彼のターンが始まった。さあ、どうするのかしら。ここで彼がすることによって彼の器がわかる。
「・・・俺はターンをメインフェイズまで進めたいが、発動するカードはあるか?」
その言葉を聞いて私は微笑んだ。大抵のプレイヤーは何も宣言せずにフェイズを進めてしまう。確かに普通のデッキならばそれで構わないだろう。しかし、このデッキにそれは命取りだ。そのことを彼は理解している。私はそのことを喜んで、高らかに宣言した。
「ええ、あるわ。あなたのスタンバイフェイズに『リチュア・アビス』をリリースしてリバースカード発動。『水霊術-「葵」』。」
『水霊術-「葵」』(通常トラップ)
自分フィールド上の水属性モンスター1体をリリースして発動できる。相手の手札を確認し、カードを1枚選んで墓地へ送る。
発動を聞くと、彼は黙って手札を見せた。変な悪あがきをしないところが極めて好印象だ。彼の手札は『ハリケーン』、『RUM-七皇の剣』、『炎征竜-バーナー』、そして『強欲な壺』2枚。
「『ハリケーン』を墓地に捨てなさい。さらにリバースカードオープン『マインドクラッシュ』。私が宣言するのは『強欲な壺』。」
『マインドクラッシュ』(通常トラップ)
カード名を1つ宣言して発動する。宣言したカードが相手の手札にある場合、相手はそのカードを全て墓地へ捨てる。宣言したカードが相手の手札に無い場合、自分は手札をランダムに1枚捨てる。
彼は何も言わず、淡々とカードを墓地に送った。ふふ、つれないわね。だけどこの伏せカードを発動したときにもその表情のままでいられるかしら。私は込みあがる歓喜を必死に隠して彼のターンを待った。
「・・・俺は何もせずにターンエンド。」
彼は行動をしなかった。それに対して、会場からは大きなざわめきが起こった。中には「やる気がない」、「サレンダーをしろ」といった批判の声もあった。しかし、彼は終始無言だった。私は少し時間をとり、彼の考えを読み取ろうとした。そして彼の意図を汲み取り、ターンを進めた。
「私のターン。ドロー。」
ドローカードを確認し、勝利の盤石さを確認した。
「バトルフェイズ。『イビリチュア・ガストクラーケ』でダイレクトアタック。」
小南遊 ライフポイント4000→1600
彼は攻撃を黙ってうけた。特に反応は見られない。しかし、その眼はまだ勝利への希望を捨ててはいなかった。この男は私にふさわしいかもしれないと思いつつ、ターンを進めた。
「カードを1枚伏せてターンエンド。」
「俺のターン。ドロー。」
彼はデッキからカードをドローした。カードを確認し、少し考えていた。周囲はこのターンが正念場であることを理解しているので、声援と批判の声がより一層大きくなった。この状況なら大抵のプレイヤーは我を失ってしまうだろう。彼は自分を見失わずにいられるか。そして彼は行動に移した。
「俺は手札から『炎征竜-バー・・・。」
その言葉を聞いて私は失望した。確かに彼は素晴らしかった。しかし、この土壇場でこんなミスをするとは。彼はプレッシャーに負けた。私にはふさわしくない。軽く軽蔑をしながら、伏せカードを発動した。
「あなたのスタンバイフェイズにリバースカードオープン『マインドクラッシュ』。宣言するのは『炎征竜-バーナー』。」
宣言するまでの間に彼のプレイングを考えていた。彼がさっきのターン何もせずターンエンドにしたのは私の伏せを見破ったからだろう。私の伏せカードは『虚無空間』。
『虚無空間』(永続トラップ)
(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。
(2):デッキまたはフィールドから自分の墓地へカードが送られた場合に発動する。このカードを破壊する。
だからこそ、彼は『RUM-七皇の剣』を使わずに温存し、除去カードを引けるのを待った。そして彼は今、『焔征竜-ブラスター』を引き当ててその除去効果を使用しようとした。
『焔征竜-ブラスター』
効果モンスター ☆7 炎属性 ドラゴン族
攻撃力2800 守備力1800
自分の手札・墓地からこのカード以外のドラゴン族または炎属性のモンスターを合計2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。特殊召喚したこのカードは相手のエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。また、このカードと炎属性モンスター1体を手札から墓地へ捨てる事で、フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。このカードが除外された場合、デッキからドラゴン族・炎属性モンスター1体を手札に加える事ができる。「焔征竜-ブラスター」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
私の伏せカードを見抜く推理力、土壇場で必要なカードを引き寄せるドロー力。それは確かにすばらしかった。しかし、彼はこの土壇場で自分を見失った。フェイズ確認をするという初歩的なことを忘れたのだ。もしもフェイズ確認をしていれば、私は彼の実力を確かめるために動かなかったのに。彼はそれを怠った。プレッシャーに負けて。これでわかった彼は私にふさわしくない。
私は化けの皮のはがれた今の姿を確認するために視線を移した。すると私は驚いた。なぜなら、彼は罠にかかった獲物を狩る眼をしていたからだ。
「『マインドクラッシュ』の効果により、手札を確認して『炎征竜-バーナー』があれば捨てる。俺の手札はこの三枚だ。」
彼の手札は確認済みの2枚『RUM-七皇の剣』、『炎征竜-バーナー』、そして・・・。最後の手札を見たとき、私は騙されていたことに気が付いた。そして、自分の見立てが誤っていたことがわかった。
小南遊side
さてと、種明かしをしたところで行動に移りますか。
「『マインドクラッシュ』の効果により、手札から『炎征竜-バーナー』を捨てる。そして俺はこのままメインフェイズに移行する。」
そしてこのターンドローしたカードを発動する。
「手札から『ハーピィの羽根帚』を発動。相手の魔法・罠カードを全て破壊する。」
最後の伏せカードは俺の予想通り『虚無空間』。これで俺は展開できる。
「手札の『RUM-七皇の剣』を発動。」
『RUM-七皇の剣』(通常魔法・アニメ効果)
自分のエクストラデッキ・フィールド上・墓地の「No.10X」と名のついた モンスターエクシーズ1体を選択して発動できる。(Xは1~7の任意の数値) 選択したモンスターがエクストラデッキ・墓地に存在する場合、 選択したモンスターを召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。 この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。 その後、選択したモンスターよりランクが1つ高い「C」と名のついたモンスターエクシーズ1体を、 自分のエクストラデッキから、選択モンスターの上に重ねてエクシーズ召喚できる。
「俺は『No.107 銀河眼の時空竜』をエクストラデッキから特殊召喚し、さらにこれをランクアップ。『CNo.107 超銀河眼の時空龍』をエクシーズ召喚。そして『CNo.107 超銀河眼の時空龍』でオーバーレイ。『ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン』。『ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン』の効果発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、『イビリチュア・ガストクラーケ』を破壊。『ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン』でオーバーレイ。『No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン』。エクシーズ召喚時、効果発動。墓地に『瀑征竜-タイダル』、『嵐征竜-テンペスト』、『エクリプス・ワイバーン』を墓地に送り、相手のデッキからモンスターを3体除外する。」
この宣言を聞いて、敗北が決まっているのに雪乃は淡々とプレイしていた。なかなかいい性格をしているますます好きになった。
「『エクリプス・ワイバーン』の効果で『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を除外。『嵐征竜-テンペスト』の効果発動。墓地の『瀑征竜-タイダル』、『エクリプス・ワイバーン』を除外して特殊召喚。除外されたことにより『瀑征竜-タイダル』の効果で『幻水龍』を手札に加え、『エクリプス・ワイバーン』の効果で除外していた『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を手札に加える。場の『嵐征竜-テンペスト』を除外して『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を特殊召喚。そして効果発動。墓地から『CNo.107 超銀河眼の時空龍』を蘇生。そして『CNo.107 超銀河眼の時空龍』に重ねてもう1体の『No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン』を特殊召喚。効果発動し、『巌征竜-レドックス』、『焔征竜-ブラスター』、『風征竜-ライトニング』を墓地に送り、相手のデッキを3枚除外。そして『焔征竜-ブラスター』の効果発動。『巌征竜-レドックス』、『炎征竜-バーナー』を除外して特殊召喚。『巌征竜-レドックス』の効果で『幻木龍』を手札に加える。そしてバトルフェイズ。1体の『No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン』でダイレクトアタック。」
暗黒物質で構成された銀河龍の攻撃が雪乃を貫いた。
雪乃 ライフポイント4000→0
勝利の余韻に浸りながら、今日のデュエルを振り返ることにした。
雪乃が初っ端のハンデスで『七皇の剣』を落とさなかったことから俺はリバースカードが特殊召喚を封じるカードだと読んだ。そしてそのために何も行動しなかった。それは雪乃も理解していただろう。そしてそのうえで次のターンに自信満々で伏せたカード。俺は何かあると読んだ。そして雪乃の考えを推理することにした。
なぜわざわざ試験で雪乃が俺と戦いたかったのか。それは俺の力量、器を試すためだろう。周囲の視線がある中で普段通りの力が発揮できるか、ミスを起こさないかを見る。そして自分にふさわしい男かを確かめる。そのために試験で戦うことにした。ならば、この試験では雪乃は勝利よりも俺の能力を確かめようとしているはず。そのうえであの笑み。・・・そう考えるとリバースカードが何かが理解できた。『マインドクラッシュ』できちんと俺がフェイズを確認したうえで逆転のカードを使用するのかを見極めようというのだろう。
それを理解して俺が次のターンにドローしたのは『ハーピィの羽箒』。フェイズを確認したうえで使用すれば、彼女の試験には合格だろう。しかし、それでは俺が勝利できない。彼女にとっての合格は俺の敗北である。なぜなら、フェイズを確認して『ハーピィの羽箒』を使えば、チェーンで『マインドクラッシュ』が打たれ、『七皇の剣』が落とされる。そうすれば俺に逆転の手段はなくなる。そこまで理解したうえで俺は行動に移った。
フェイズを確認することなく、メインフェイズに移行する。そして『炎征竜-バーナー』を召喚するそぶりを見せる。そうすれば雪乃は俺が『焔征竜-ブラスター』を引いたので、効果を使用しようとしていると誤解してフェイズをスタンバイフェイズに巻き戻し、『マインドクラッシュ』で『炎征竜-バーナー』をハンデスする、そう読んだ。
結果はご覧の通り。俺の読み通りになり勝利した。そして雪乃を見ると顔が赤くなっていた。完全に惚れたな。自分の考えを完璧に読まれたうえであそこまで圧倒的に制圧されたんだ。自分が試験している相手に自分の満点解答以上の回答をプレゼントされたんだ。この世界の法則なら惚れるだろう。間違いない。これは今夜が楽しみだ。
夜遅く、レッド寮の自分の部屋に1人でいた。するとノックの音がする。相手を予想しながらドアを開けると予想通りの人物だった。雪乃だ。顔がやはり赤くなっている。俺はそれに気づかないふりをしながら部屋に招き入れた。そして尋ねた。
「どうしたの。こんな夜遅くに?」
雪乃は返答をためらい続けた。まだ羞恥心があるのだろう。しかし、意を決し、震えているがゆっくりとはっきりとした声で言った。
「私と付き合って。私を抱いて。」