朝食の際に昨日の雪乃との情事を生徒たちがどれだけ知っているかをそれとなく聞いてみた。どうやら昨日のことは生徒は誰も知らないようだった。それに安心していると大徳寺先生から栄養ドリンクをプレゼントされた。理由を聞いてみると。
「昨夜はお愉しみでしたからニャー。」
・・・この先生は地獄耳だ。
そんな朝の出来事があってから数日たち、今日はいよいよ試験の点数発表日、寮の入れ替えが行われる日である。俺と十代は実技がよかったものの筆記の悪さから寮の昇格はなし。そしてその日の放課後、俺は自分の敗北を告げるためにわざわざ生徒会室に出向いていた。
「それでどうでしたか?」
結果はもうすでに自分の勝利でわかりきっているが、まあ万が一いや億が一ということもあるから念のために聞いておいてあげよう、そう感じさせる雰囲気を醸し出しつつ事務的に原麗華は述べた。それに対して俺は事実を率直に述べた。
「100点中36点でした。・・・賭けは俺の負けです。」
「・・・そうですか。」
ひたいに手を当ててため息をついた後、彼女は淡々と告げた。
「残念ですが、約束通り寮長を辞めていただきます。異存はありませんね。」
「・・・はい。」
「それにしても約束の日の試験に遅刻してくるなんて。もしそれで賭けに勝ったとしてもあなたのその態度は寮生の模範としてふさわしい態度であるといえるとおもうのですか。」
静かな怒りを込めた口調で彼女は告げる。ああ、生徒会室に入ったときから不機嫌なのはそれでか。人の模範となるべき者が模範となっていない。生徒たちの模範であることが求められる生徒会長からすればむかつくだろうな。そう思いながら彼女の言葉を聞く。彼女の怒りがこれ以上燃え上がらないように考えながら俺は言った。
「弁解する気はありません。勝負は結果が全てですので。」
「・・・そうですか。」
勝負における真理をただ述べたのがよかったのか、それともこんな奴と話を続けても無駄だと悟ったのか、反応は実に淡々としたものだった。それがより一層距離感を感じさせる。
(うーん。これは選択肢を間違ったかな。トメさんを見捨てて試験を受けに行くのが正解だったのか・・・。だからこの手の人生におけるゲームは一度選択肢を間違ったら取り返しがつかないからいやなんだよ。)
自分の選んだ選択に対する後悔が生まれ始めたとき、生徒会室のドアが開いた。そして・・・
「すいません。頼まれたコピー用紙を届けに来ました。あら。遊ちゃん。」
トメさんがやってきた。
トメさんがやってきたので俺はもう行こうとするとトメさんが何の脈絡もなく事実を述べてきた。
「遊ちゃんにはいつも助かってるよ。いつも朝早くから手伝ってもらったり、試験の日にも試験に遅れるのをかまわずに手伝ってもらったりしてさあ。」
「待ってください。」
緑髪の少女は驚いて話に割り込んできた。
「その話詳しく聞かせてもらえませんか。」
するとトメさんは試験の日にあったことをペラペラとしゃべった。トメさんを助けたために試験に時間通りに行けなかったことをだ。そして俺が試験に行かずにトメさんを助けた理由がなぜか生徒たちの楽しみにしていた新しいパックがきちんと時間通りに入荷できるようにするためということになっていた。・・・トメさん、誤解しすぎだよ。まあ、メリットしかないからこの誤解を受け入れるけど。
「・・・そうですか。話してくれてありがとうございます。」
「はいよ、それじゃもう行くよ。コピー用紙はここにおいておくからね。」
トメさんはそういうと出て行った。しばらくの間沈黙が続いた。
「「・・・・・・」」
沈黙を破ったのは、俺に破る気が無い以上、当然彼女になる。
「・・・どうしてそのことを言わなかったんですか?」
彼女はまた怒っていた。しかし怒る理由は別の理由からだ。俺は怒りを増やすことになると感じながらも事実を述べた。
「関係ないですから。」
「関係ないことはないでしょう!!あなたは正当な理由があって試験に出れなかったんでしょう!!だったらこの勝負は無効です!!」
「・・・そんなことは決めてませんでした。」
「何を言っているんですか?決めていなかったとしてもこの場合は引き分けに決まっているでしょう?!」
その発言に対して心の底で笑いながら言った。
「本当の勝負では後からルールを変更するなんてことはできません。例え、それが人助けであったとしてもね。」
「・・・ッ!!」
普段とは違った雰囲気で言ったためか原麗華は気圧された。しかし、すぐに気を取り直して彼女は尋ねる。
「あなたは一体どうするつもりですか?」
「どうもこうもありません。あなたがおっしゃられたように俺は寮長を辞める。それだけです。」
「私は辞めてほしくありません。」
「さっきまで辞めろ、辞めろ言っていたくせにいまさらなんですか?」
「さっきまでとは状況が違います!私はあなたのことをさっきまでは生徒たちの模範にふさわしくないと考えていました。しかし、今あなたは自分のことを差し置いてまで他者に尽くすことができる人間であることがわかりました。だから私はあなたにやめてほしくないです!」
・・・実にすがすがしい正論である。しかし・・・。
「じゃあ、俺のプライドはどうなります。勝負に負けて敗北の代償を味あわない。これによって傷つけられる俺のプライドは?」
「そんなもの気にしないでください。」
「気にしますよ!俺は今までこのことを大切にして生きてきたんですから!!」
勝負に負けたものはただ黙って去るのみ、ゲーム好きだからこそ絶対に譲れない一線だ。
「・・・・・・」
俺の頑固さにあきれたのか、それとも説得する手を模索しているのか沈黙した。そしてまた口を開いた。
「あなたは勝負に随分とこだわっていますが、あなたは勝負に負けたのですよね?」
「そうですよ。何をいまさら。」
「私が勝ったのですよね。」
「その通りです。」
「だったら・・・・」
息を止めて力強く告げる。
「だったら、勝者である私に敗者であるあなたが従うべきではないのですか?」
「ッ!!」
正論である。俺は沈黙した。それを見て彼女は話を続けた。
「もちろん、ただでとは言いません。あなたと一緒に食事するという報酬付きでいかがでしょう。」
そう言うと彼女はそれまでのマイナスの表情とは違ったプラスの表情を見せた。その表情は美しかった。俺はその表情に見とれそうになりながらも自分を保ち、返答した。
「・・・わかりました。寮長に留まりましょう。しかし、その報酬は結構です。欲しいものは自分で手に入れる主義ですので。」
言い終わると返事を待たずに部屋を出た。
生徒会長とのやり取りがあった翌日、俺は購買で働くために廊下を歩いていた。すると翔君がいた。彼は泣き顔で今にも泣きそうだった。それを見て疑問に思い、彼に質問をした。
「どうしたの?そんな泣きそうな顔をして?」
「あ、ゆ、ゆうくん・・」
「ボク、ボク・・・・カードをとられちゃったッス。」
・・・これは話を詳しく聞く必要がありそうだ。
話を聞くと教育実習生の龍牙先生にとられたらしい。ここデュエルアカデミアでは講師になるために生徒50人と対戦し、勝利することが条件として求められている。翔君はその対戦相手に選ばれ、そして敗北した。その際にカードを奪われたらしい。
「・・・とられちゃったんすよ。兄さんからもらった『パワーボンド』・・・・。」
泣きながらそう言った。
「・・・・そう。ところで龍牙先生は今どこにいるかわかる?」
「・・・たぶん、次の生徒と対戦するためにデュエル場だと思うッス。」
「わかった。」
俺はその言葉を聞くと、トメさんに今日は遅れるという連絡を入れ、翔君を連れてデュエル場へ向かった。
デュエル場ではデュエルが行われていた。教育実習生の龍牙、そして茶髪の女子生徒とがデュエルしていた。
龍牙:LP1200 手札1枚
場:『サイバーダイナソー』(漫画版効果)
女子生徒:LP700 手札1枚
場:なし
「私のターンです。・・・龍牙先生。私が勝ったら今までに生徒から奪い取ったカードは返してもらいますからね。」
「ふん。負けたら君のデッキをいただくという約束も忘れないことだな。」
どうやら俺がやろうとしたことを先に実行している生徒がいるようだ。しかも自分の身を犠牲にして。その勇気に少なからず、心を動かされつつデュエルを見守ることにした。
「ドロー、よし。『E・HEROエアーマン』を召喚。召喚時効果発動です。デッキから『E・HEROバブルマン』を手札に加えます。そして『融合』を発動します。」
女子生徒は勝利を確信したかのようにプレイを行った。そして俺も彼女の勝利を確信していた。この状況で『融合』から出てくるのはおそらく『E・HEROGreatTORNADO』だろう。そいつの効果で『サイバーダイナソー』の攻撃力を半減させ、攻撃すれば龍牙のライフポイントは0だ。
『E・HEROGreatTORNADO』
融合・効果モンスター
☆8 風属性 戦士族
攻撃力2800 守備力 2200
「E・HERO」モンスター+風属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動する。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。
「・・・あ、あれ。」
しかし、女子生徒と俺の予想は外れた。『融合』のカードが発動できなかったのだ。まさか遊戯王特有の現象「俺はこのカードを発動していた。」か?しかし、龍牙がカードを発動したそぶりはない。・・・まさか、ディスクの故障?
女子生徒があわてている様子を見て何かを思い出したかのように翔君は語り始めた。
「そういえば、ボクのときにもこんなことがあったんだ。」
「『融合』のカードが発動できなかったのかい?」
「ううん、『融合』だけじゃなく、魔法カードが全て発動できなかったんだ。」
「・・・・・、それって。」
女子生徒は『融合』のカードを発動しようと四苦八苦していた。
「どうしたんだ?早くターンを進めてほしいね。私は君と違って忙しい身なのだからね。」
「ちょ、ちょっと。待ってください。」
彼女はカードを発動しようとさらに四苦八苦した。
「待てない。あと10秒で行動しなかったら、私のターンだ。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・。私のターンだ、ドロー。」
デュエリスト特有の一方的な宣言により龍牙のターンになった。
「終わりだな。『サイバーダイナソー』で『E・HEROエアーマン』を攻撃。」
『サイバーダイナソー』の口から放たれた光線が、『E・HEROエアーマン』を消し飛ばした。
女子生徒 LP700→0
「私の勝ちだ。さあ、デッキを渡してもらおうか。」
「ああ。」
龍牙が女子生徒に近づき、女子生徒が後ずさる。それを見て俺は乱入することにした。
「やめろ。」
「誰だ君は!」
「オシリスレッド1年の小南遊だ。」
「ほう。君があの。」
「知ってるのか。」
「もちろんだとも。オシリスレッドの割には強いらしいね。しかもレアカードを持っている。」
「あんた弱いやつからカードを巻き上げて楽しいのかよ?」
「ふふ、強いデュエリストが持っていた方がカードも喜ぶだろう。」
「少なくともあんたが強いデュエリストには見えないがな。」
「なんといった。オシリスレッドの落ちこぼれが。」
「だったらデュエルしようぜ。俺が負けたらお前にレアカードをやるよ。さらにアカデミアに講師としてきた際にはアンタの奴隷になってやる。だが、俺が勝ったら今まで巻き上げてきたカードすべて返せ。」
「ふん、いいだろう。ちょうどこれで50人目だ。ちょうどいい。」
そういうと俺たちはデュエル場に対峙した。するとすぐに十代たちが駆けつけてきた。
「遊。お前、龍牙と戦うのか?」
「ああ、その通りだよ。」
「アイツは生徒たちからカードを巻き上げたやつなんだ。頼む俺にやらせてくれ。」
「だめだ。カードを巻き上げたことに関して許せないのは俺も同じだ。だったら早い者勝ちだ。」
「・・・そうか、わかった。勝てよ、遊。」
「当然だ。」
「あ、あの。」
女子生徒が話しかけてきた。
「すいません。私のせいでこんなことになってしまって。」
「君が気にすることはない。はじめからこうするつもりだったんだ。それよりも聞いていいかな。」
俺は自分の仮説を確かめるために彼女にいくつか質問をした。
「そ、その通りです。よくわかりましたね。」
そうか、だったら。
「準備はいいか。さっさとはじめようじゃないか。」
「ああ、アンタみたいなデュエリストの風上にも置けない奴なんかけちょんけちょんにしてやるよ。」
そして互いにディスクを構え宣言した。
「「デュエル」」