決着はついた。俺はデッキを取り外して「すべてのカードケース」に入れ、ただ茫然とただずんでいる雑魚を無視して、とぼとぼと歩きだした。当然、ツァンに向かってだ。お目当てのツァンはというと信じられないものを見た、まさにそういう顔をしていた。なにが起こったのかをまだ十分に理解できずにいて、心ここに非ずという状態だった。俺が近づいている、そんな事実も理解できていないようだった。そんなツァンに俺の存在を気づかせるために声を張りあげて名前を叫んだ。
「ツァン!!!」
ツァンはビクッとして俺の方をまじまじと見つめた。それを見て今度は優しく呼びかけた。
「勝ったぞ。だから・・・」
いったん言葉を区切り、誰でも理解できるような、どんな馬鹿でも理解できるような話し方で俺は結論を述べた。
「お前はここにいていいんだ。このデュエル・アカデミアにいていいんだ。」
俺の言葉を理解するのにツァンは少し手間取った。そして表情をあまり出さないまま問いかけてきた。
「本当に?」
それが事実なのかを確かめるために問いかけてきた。
「本当に、ここにいていいの?」
「ああ。」
それに対して、俺は答えた。
「いていいんだ。ここにいていいんだ。」
ツァンは返事を聞くと、顔を手で覆った。そして泣き始めた。それは年齢よりも幼く感じる泣き方だった。よっぽどうれしかったのだろう。俺はそんなツァンを泣き止ませようとツァンのいる観客席へと向かう階段に足を伸ばしかけて、
「・・・待て。」
敗者によって呼び止められた。
「なんですか?俺は勝者としてヒロインを慰めに行きたいのですが。」
「ヒロインだと?ふん、娘をそうやすやすと男にやれるか!」
「ですが、もう賭けたでしょう。ツァンの将来を。そして俺が勝った。つまり、ツァンの将来は俺と一緒に歩むことになった。そういうことじゃないんですか?」
俺は事実を述べた。すると、その事実を受け入れなければならない敗者は鼻で笑ってこういった。
「そんなつもりはない。ツァンの将来は私たちが選ぶ。そのためにツァンを連れて帰る。」
「・・・約束を破るつもりですか?」
「約束だと?そんなものをしたつもりはない!だからツァンは連れて帰る!」
「そ、そんな横暴な・・・」
鮫島校長がその言葉に反発したのか、意見を言おうとした。しかしそれよりも早く、奴が動いた。手を上にあげて合図する。すると護衛の方々が懐から銃を取り出した。
「・・・拳銃の所持は銃刀法違反ですし、仮に許可を得ていたとしてもこのデュエルアカデミアでの使用は海馬社長が黙っていないと思いますよ。」
「ふん、そんなことを私が考えていないとでも思ったか?」
そして誇らしげに言った。
「お前たちの遺体を完全に隠す。そうすれば証拠はなくなる。簡単だろう。」
それを聞いて俺は思った。こいつ信じられないくらい馬鹿だ。殺人事件を完全に隠ぺいすることがどれだけ困難なことか理解できてない。そもそもお前は今日ヘリで堂々とこの学園に来たじゃないか。そんな状況下で2人が姿を消し、ツァンがお前のところに戻れば、お前が疑われるに決まってるだろう。そのことをかんで含めるように説明した。すると答えは
「ふん、問題ない。警察が私に手を出せるわけがないのだからな。」
・・・どうやら名家の生まれである自分にかなうものはいないと思っているようだ。まさかと思い、この学園で起こった事件なら海馬瀬人からも尋問があると思うのだがそれはどうするつもりなのかと問いただした。すると予想通りというべきか、鼻で笑ってこんな答えが返ってきた。
「成り上がり者が私に手を出せるわけがない!」
・・・・・・無知って怖いね。しかしまずいのは確かだ。馬鹿すぎるがゆえに常人では考え付かない行動をとってくる。どうにかしてこの状況を切り抜けないと。幸い、十代達にはデッキ構築をするという口実を設けて作った休み時間に連絡をしている。ツァンが父親に連れ戻されそうになっている、仲間を集めてきてくれと。未だに来ていないのが謎だが、もうすぐ来るだろう。ならば重要なのは時間を稼ぐことだ。俺は現状に怯える哀れな子羊を装って、悲しげな口調で問いかけることにした。
「・・・・・・質問してもいいですか?」
俺の口調から、俺が怯えていると考えたのか、そのために優越感を抱いたのか、顔を怒り顔から笑い顔へと変えて余裕たっぷりに言い返した。
「何かね?」
俺は俺たちをここで殺すことによって生じる最大の問題について質問をぶつけることにした。これでおそらく相当時間が稼げるだろう。
「ここで俺たちを殺すってことはツァンに人が死ぬところを見せるってことになって、それはツァンが精神的ダメージを負うことになると思うんですけどそれはどうするおつもりなんですか?」
こいつは馬鹿だからツァンが精神的にダメージを負うということを考慮していないんだろう。ツァンを見てみろよ。俺たちが殺されそうだと分かって相当不安げな顔をしてるじゃないか。お前も親なら子供の前でしちゃいけないことがあるってことはわかるだろう。しかし、こいつが言ったことは俺の想像を超えていた。
「それがどうした?」
「・・・はあ?」
「それがどうした?といったのだ。まさかそんなことで私が怯むとでも思っていたのか?」
おいおい、そんなことって。
「確かにツァンは私にとって、私たちにとって大切な道具ではある。しかし、だからと言って特別扱いをするつもりはない。」
「・・・・・・・・・」
「私たちの都合によっては心が壊れることになってもやむを得ない。」
・・・衝撃的な発言だった。こいつがツァンをデュエルアカデミアから連れて帰るのはツァンの幸せを考えてではなく、100%自分のためなのだ。そして横から怒声が生まれた。
「あなたは自分が何を言っているのかわかっているのですか?」
鮫島校長だ。教育者として許せないのだろう。自分の娘を1人の人間としてではなく、道具として扱うということに。しかし、そんな教育者としての言葉もこいつには届かなかった。それを眺めた後、俺はツァンの方を見た。ツァンは呆然としていた。まあ、当然だろう。少なくとも父親に自分が道具のように見なされていると知って、動揺しない人間なんていやしない。・・・親から見捨てられる経験は俺もしているからわかる。
「さて。」
顔を歪ませながら名門出身の人は言い放った。
「そろそろ、君たちをあの世に送り出すとするか。だが、それではあまりにもかわいそうだ。だから君には生きるチャンスをやろう。」
そして軽蔑の目を向けている俺に対してこんな一言を言い放った。
「ツァンとは付き合ったが、それはツァンを出世に利用するためだった。ツァンの心をもてあそぶためだった。そういうのであれば生かしておいてやろう。」
・・・どっちが利用してるんだか、まあ言うだけならいいか。時間稼ぎになるしな。
「い・・・」
いいだろう、そう言おうとして俺のゲーマーとしての直感が警鐘を鳴らした。そのため周囲を見た。護衛たち、鮫島校長、ツァンと血縁関係がある奴、そしてツァン。・・・・・・ああなるほど、そういうことか。俺はすべてを察し、笑みを浮かべた。その様子を見てどうやら不快に思ったようでいらだちながら再び問いかけがあった。
「どうしたのだ。返事は?」
「断る。」
「なに!?」
「だから、断る。」
俺は呼吸を整え、心持ち大きな声で言い放った。
「例え、この場を切り抜けるために必要であろうとも嘘はつけない。俺はツァンのことが好きだし、愛している。これは絶対の事実だ。」
この言葉により反応が顕著に表れた。ツァンの父はポケットに手を入れたまま、口を大きくゆがめていた。ツァンはそれまでの蒼白な顔に徐々に赤みがさしこみ始めた。俺を見る目は恋人を見るような目になっていた。
「・・・いいだろう。死にたまえ。」
ツァンの父は右手を振り上げて、振り下ろした。それと同時に護衛たちは引き金を引こうとして、とび蹴りをくらってドミノ倒しになった。
「・・・おそかったじゃないか。十代。」
「悪い、遊。お前の言ったようにツァンの退学に反対する仲間を集めるのに手間取ってさ。」
ほおをかいて十代は言う。そんな十代の後ろから1人が起き上がって銃で狙いをつけようとして
「とう!」
・・・突如として現れた雪乃の股間めがけたキックをくらい、痛そうに股間を抱えた。
「な、なんだ。お前たちは?」
「私たちはツァンさんの友達です。」
「その通りです。今日はツァンさんのお父さんにお願いがあってまいりました。」
ウサミンと明日香、そして麗華が登場した。そして麗華が代表して要望を言った。
「ツァンさんをここに残してくれませんか。それが私たちの要望です。ツァンさんは私たちにとって大切な仲間です。だから私たちから取り上げないでください。」
「みんな・・・」
「ふ、ふざけるな!護衛たちよ、とっとと起き上がってこいつらを撃て!!」
そんな怒声があがったが、最後の方はよく聞こえなかった。なぜなら、そのような声をかき消すだけの大きな声がデュエルアリーナの周りからあがったからだ。
「ツァンさんを連れ帰るなんて許せないっス!」
「その通りなんだな!」
「ツァンさんの意思を尊重してください!」
翔、隼人、宮田ゆまといった声が聞こえる。そしてその声に呼応するように「そうだ!そうだ!」の大合唱。その様子を見てツァンは驚き、戸惑っていた。自分がこれほどまでに愛されているとは自覚していなかったのだろう。その様子を見て「ツァンはやっぱりかわいいなあ」とほほ笑むのだった。
「な、な・・・」
そして親父さんはこうした会場の雰囲気に気圧されていた。体が震え、恐怖を感じているのだろう。まあ、無理もない。自分がこんな状況におかれるなんて想像すらしていなかっただろうから。さてと引導を渡すとするか。俺はツァンを連れ戻しに来たやつらが気を取られている隙をついてポケットからスマホを取り出し、写真を撮った。
「なにをしている?」
呼びかけを無視して俺はそのまま操作を続ける。その間に幾度となく怒声が飛んだのは言うまでもない。だがそれをやはり無視して、行動を続け、準備ができたところで呼びかけに答える。
「なにって準備ですよ。あなたのしていることを世界中の人たちに知らせる準備。」
「・・・なに?」
「つまりですね。あなた方がデュエルアカデミアに銃を持ちこんで俺たちに突きつけたという事実を世界中の人たちに知ってもらおうというわけですよ。」
俺はスマートフォンの画像を見せた。そこには銃を持ち行動している集団とその集団の指導者と思わしき人物が写っていた。これを見れば、犯罪行為が誰の手によって行われているのかたちどころにわかるというわけだ。そのことを理解したのか、顔を青ざめていた。
「ですけど、もしこの場を何もせずに去っていただけるならばこの写真を世界にばらまくことはやめますよ。どうします?」
「・・・・・・」
「ああ、それとあなたのポケットにおそらく入れてあるであろう録音機も渡していただけますか。おそらく、俺からツァンを利用するために近づいたという言葉を聞き出して録音し、万が一のときにはその録音を公表することで計画的にではなく、衝動的に俺たちを殺してしまったということにするつもりだったんでしょうけど無駄に終わりましたね。」
「・・・・・・」
「はやく決めてくれませんか?さもないと・・・」
俺は嗜虐心をむき出しにして言う。
「我慢できずにインターネットに投稿してしまうかもしれませんよ?」
この一言がきっかけとなってツァンの父親は崩れ落ちた。