デュエルが終了すると、周りは立場ごとに様々な表情をしていた。十代達は複雑な表情を、SALは観念した表情を、猿たちは悲しそうな表情を、研究者たちはうれしそうな表情をしていた。そうした中、俺は問いかけた。
「なんで、うれしそうな表情をしているんだ?」
「うれしいに決まってるじゃないか。こうして脱走したSALを捕まえることができたんだから。」
「そうか。俺は不思議でしょうがないんだ。なんでアンタたちは悲しそうな表情をしないのかって。」
「?どうしてかね?」
「俺にデュエルで敗北したんだぜ。だったら自分たちの発明が敗北したことに悲しんでもよさそうだがな。」
「は、はは。そんなことか!」
恰幅のいい、眼鏡をかけた研究者らしい男は笑ってこういった。
「デュエルの敗北など大した問題ではない。例え、最善を尽くしたとしても敗北することがあるのがデュエルというものだからだ。」
「だったらどんなことが問題になるんだ?」
「最善のプレイをできないということだな。私たちが猿を動物実験に用いた理由は精霊の声を人よりも聴くことができる。そのため、精霊の声に従ってプレイできるがゆえに常に最善のプレイをできると考えたからだ。そして、その仮定は今まで否定されたことはない。」
予想通りの言葉が返ってきたので俺はこう返してやった。
「・・・俺は研究などといった難しいことはよくわからないが、少なくともアンタがいった猿は常に最善のデュエルをできるという考えは否定できるよ。なぜなら、このデュエルで猿はミスを犯したから。」
俺の言葉に研究者たちの表情が変わった。
「最初のターンで猿は『召喚僧サモンプリースト』を出しただろ。その際に『禁じられた聖衣』を捨てて、もう1体のサモンプリーストを出し、『エアーズロック・サンライズ』を捨てて、『レスキューキャット』を特殊召喚したが、順番が逆だ。相手が手札誘発を握っている可能性を考えるなら『エアーズロック・サンライズ』、『禁じられた聖衣』の順で捨てるべきだった。そうすれば例え手札誘発を使われても、少なくとも次の相手のターンの行動を制限することができたし、運が良ければモンスターを展開できた。」
もっとわかりやすくいえば、相手の手札誘発が『エフェクト・ヴェーラー』だったら、『禁じられた聖衣』をそのまま伏せ、『幽鬼うさぎ』だったらサモプリの効果で呼び出したモンスターと手札の死者蘇生などを組み合わせて展開が確実にできる。そのことを考えるとSALは『エアーズロック・サンライズ』、『禁じられた聖衣』の順に捨てるべきだった。
『禁じられた聖衣』(速攻魔法)
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されない。
『エアーズロック・サンライズ』(通常魔法)
「エアーズロック・サンライズ」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地の獣族モンスター1体を対象として発動できる。その獣族モンスターを特殊召喚し、相手フィールドのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の獣族・鳥獣族・植物族モンスターの数×200ダウンする。
「さらにもう1つ。佐々木こと『ダーク・ダイブ・ボンバー』が2体ならんだ場面。あのとき、『ダーク・ダイブ・ボンバー』自身をリリースしてダメージを与えずにもう1体の『ダークダイブボンバー』をリリースしてダメージを与えただろ?あの場面でも手札誘発を警戒して常に自身リリースで通すべきだった。例え相手が手札誘発を握っていないと感じててもだ。」
そこまで言って結論を告げる。主に俺の願望などが混ざった客観4割、主観6割程度の結論を、だ。
「正直に言って猿は精霊の声が人よりも聴こえるのかもしれない。だが、俺がデュエルをしてみた感想を言わせてもらうとだからと言ってデュエルが強いわけではない。猿たちがデュエルに勝てたのはただ単に機械にプログラミングされた行動を行ったからにすぎない。デュエルでの本当の強さはそうじゃない。デュエルにおける強さは天から与えられた運の良さや強く在りたいがための努力、そしてこのカードで勝ちたいという意志などが絡み合ってこそ得られるものだ。だから、運の良さも、努力も、上手くなりたいという意志すらない猿を実験に用いようともそれは何の足しにもならない。だから猿を自然に返せ!!」
俺は持論を述べた。こんな熱意が俺の中に眠っていたのかと自分でも驚いていた。それは周りも同じようだった。研究者といい、猿といい、十代達といい、ハーレムといい、俺のあまりの変わりように驚いた。しばらくの間、沈黙が続く。そして・・・
「なんと、勝手なこと抜かしておるのだ・・・」
研究者たちが最初に「怒り」という形で反応した。それを俺は冷めた目で見た。
「自分たちの研究結果に冷静に反論されたことに怒りを覚えるのか。アンタたちは研究者に向いていないようだな。」
「なにぃ!!」
そういって殴りかかってきた。ボディガードらしき2人もそれに続いた。俺はただ突っ立っていた。すると
猫が研究者の頭に落下した。
「うぉ?」
「すみませんニャー。ファラオが失礼なことをして。」
声がした方を振り向くとそこには大徳寺先生がいた。
それから、大徳寺先生が「違法かつ非道な動物実験を行っているって警察や動物愛護団体に告げましょうかニャー。」などと研究者を脅して退散させ、俺たちにもう万条目は島を出て行ったことを告げた。それを受けて俺たちは教室に戻ることにした。
その道中、俺の態度が話題になった。俺の態度をみんなが感心していた。十代と翔は「かっこよかった。」、ハーレムメンバーは「惚れ直した♡」と声をかけてきた。そんな中、麗華と明日香、ゆまの3人が俺の元に駆け寄り、明日香が代表して質問してきた。
「遊、少し質問していい?」
「なんなりと。」
「貴方、さっきのデュエル手を抜いてたわよね。『エフェクト・ヴェーラー』が初期手札に2枚あったのに1枚しか使わなかったし、使ったのもベストとは言えないときだった。それに自分のターンにおける展開。確かにあれはすごかったけれど、もっと効率の良い展開の仕方があったと思う。デュエルに対して真摯な貴方が手を抜いたのはなぜ?」
「理由は2つある。1つ目はSALがデュエリストとは言えなかったということだ。そんな奴相手に本気で戦うなんていじめみたいでしたくない。2つめは信じてるからさ。」
「信じてる?」
「そう。デュエルは楽しんでするものだってことを。だから少なくとも自分が楽しくないデュエルはしたくないんだ。」
他人が苦しむデュエルなら多少はしたいがな・・・。しかし、この言葉で3人は納得がいったようだった。ゆまは楽しそうに笑み、麗華は「やれやれ」といった表情を微笑みながら作り、そして明日香は好意的な目を向け、少し顔が赤かった。
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『パーンッ』
俺の打った球は相手コート上で跳ね、そのままフェンスにぶつかった。
「15-0」
俺たちのポイントを知らせる声が響いた。
SALとの対戦の後、麗華をものにできるかを決める学期末試験(月1テスト)、様々な工作を行った冬休みなどを経て今は新学期。新学期の体育の授業はテニスである。俺はテニスに関してはさほど詳しくはない。テニスをモチーフにした格闘技とみせかけたテニス漫画から得た知識があるぐらいである。
「30-0」
それでも、体力が向上していることやテニスの試合がダブルスで十代がペアであることなどもあってテニスの試合は俺たちが優勢に進めていた。
「ちょっとは手加減しなさいよー!!」
「その通りですわ!!殿方ですのに!!」
ちなみに対戦相手は今日の体育がオベリスクブルー女子との合同授業ということもあり、明日香の取り巻きである枕田と浜口である。
そんな4人でうるさいながらも楽しんでプレイしていると十代がボールを強打した。強打されたボールあらぬ方向、というよりも明日香に向かっていき、それを何者かが打ち返した。打ち返されたボールはクロノス先生に直撃した。
クロノス先生はボールをぶつけられた報復として名門テニス部に俺と十代を1日体験入部させた。ちなみに俺が入部させられたのは連帯責任のためである。
「立て!立つんだ!小南遊君!!今日という日は今日しかないんだぞ!」
さらに理不尽なことにテニス部部長がクロノスにボールをぶつけたやつなのである。一番責任を負うべき人間がお咎めなしってどういうことだよ・・・。そんなことを思いつつ、俺は「スポ根」に基づいたしごきを受けたのである。・・・いまどき「スポ根」って古くね・・・。
「ねえ、遊!!聞いて欲しいの!!」
しごきが終わったら、明日香が話しかけてきた。話を聞くと「万条目を見かけた人がいる」ということである。その話を聞きつつ、明日香について考えた。明日香はこれまでのアプローチの結果、俺に相当の好意を抱いている。十代がいるのにまず俺に話しかけてきたことからもそれがうかがえる。このままいけば後一押し、二押しで落ちる。後はきっかけをどうするか・・・。そう思いつつ、話しているとテニス部部長が嫉妬の炎を燃やしながら俺たちに突っかかってきた。・・・これは利用できる!!というわけで俺とテニス部部長とのデュエルが行われるのだった。
ちなみに部長はなにをとち狂ったか「明日香のフィアンセの座を賭ける」など抜かしやがった。・・・実に興味深い提案だ。自分の立場ってものをきちんと理解させてあげよう。
「うぇええええええええええええええええええん!!!!!!」
「まだまだだね。」
テニスをモチーフにした超能力者の戦いを描きたいと考えざるを得ないテニス漫画の主人公の決めゼリフをつぶやきつつ、テニス部部長綾小路ミツルとやらの逃げっぷりを見物した。ちなみに部長が泣いた理由は俺が先行1ターン目で無限ガンマンループを決めて、『ガガガガンマン』の効果を38769回ほど食らわせたからある。周りを見ると引いていた。そんな状況を無視して明日香に歩み寄った。
「明日香。よかったな。」
「え・・・」
「これで変な奴に付きまとわれないと思うぞ。」
その言葉を聞き、取り巻き2人が喰いついてくる。
『それじゃあ、アンタ(遊さん)は明日香さん(様)のためにデュエルをしたの(したんですの)!!?』
「違うな。俺のためだ。だって・・・好きな人が誰かに取られるのって嫌だろ?」
その一言でしばし沈黙が起こり、沈黙が終わると
『告白だあ!!』
絶叫が起こった。ちなみに叫んでいるのは翔、枕田、浜口の3人。
十代は「そりゃあ、友達があんなに絡まれるのって嫌だろ。そうか!フィアンセって一番の親友ってことか!!」などと場違いなことを言っていた。
そして一番の当事者である明日香はというと・・・
「・・・」
言われていることが理解できていないのか、それともどう反応してよいかが分からないのか、いずれにしても普段の態度とは大きくかけ離れた様子をとっていた。そう、顔を熱があるのかのように赤く染め、とろんとした表情でこちらを見つめるというあたかも恋する乙女のような表情を。