水上でのデュエルが終わってから数日たったある日の放課後。
「いらっしゃいませ!!」
ここはアカデミアの購買部。そこで俺はレジ打ちをしている。働いている理由は攻略可能キャラの攻略に必要な情報を得るため。暇があればこうして購買部で働いているわけだ。そう考えていると早速攻略キャラの1人が来た。
「トリシューラプリン1つください。」
ツァン・ディレである。
「税込2700円になります。」
彼女は相当裕福な家庭に生まれ育ったようで毎日2700円のトリシューラプリンを買いに来る。そしてセイコさんがレジ打ちをしているときは笑顔、俺がレジ打ちをしているときは不機嫌になる。これはおそらくトリシューラプリンが高カロリーであることと無関係ではないだろう。異性に対して太っているのではと思われたくない女心ってやつだ。そのことを察してからは女心を傷つけないように努力している。レジ袋にプリンを入れ、お客様への一言をつけてツァンに渡す。
「ありがとう。」
そうした努力の甲斐あってか、ツァンは今では俺に「ありがとう」と言ってくれるまでになった。以前はただ去るだけだから大きな進歩といえるだろう。そうやってツァンを見送ると、次にやってきたのはウサミンだった。
「あ、あの、これください。」
ウサミンが求めたのはクリボーモンブラン(税込300円)。値段の割になかなかおいしく、量もそれなりであり、購買で人気の一品だ。
「300円になります。」
そういってウサミンから小銭を受け取り、レジに入れる。そして時間を見ると働くように決められた時刻は過ぎていた。
「あがります。」
トメさんとセイコさんにそう言って仕事をやめ、レッド寮の自分の部屋に戻ろうとして、
「あ、あの。」
まだ、そこにいたウサミンに呼び止められた。
「よかったら私たちと一緒に勉強してくれませんか。」
ツァンside
成績によって今いる寮が変わることになる月一試験まであと一週間に迫った今日、ボクは宇佐美さんと月一試験に備えて勉強をすることになった。彼女が来るまでの間にアカデミアに入学してから起こったことについて振り返ることにした。まず、ボクにとって一番いいことからだ。それは友達ができたこと。天上院さん、枕田さん、浜口さん、そしてはじめての友達である宇佐美さんと今のところ4人の友達がいる。これは今までのボクからは考えられなかったことだ。今までのボクは親にいつも選択を強いられていて、友達を自分で選ぶこともできなかった。入学するまではそれでもいいと思っていた。友達と過ごすことがどんなことかを知ることができたら、選択を強いられ続ける人生でもよいと思っていた。でも今は違う。自分の意思選んだ友達を作ってわかったことだけども、自分で自分の人生を選べないなんて今は考えられない。ボクは自分の人生を自分で選ぶことの楽しさを知ってしまった。だけど・・・。
「親に自分の人生は自分で選ぶなんて言えるかな。」
そのことを想像するだけでボクは恐怖にさいなまれる。子供のときから親はボクを厳しくしつけて育てた。そのため、親に対する反抗なんて考えられない。アカデミアにいきたいって言ったのだってアカデミア入学が親のボクに許せる選択肢の一つであったからという面もある。もし仮にアカデミアが許せる選択肢になかったとしたらボクはアカデミアに入学しなかっただろう。これは断言できる。そんなボクが・・・親に反抗するなんて。恐怖で体が震えてしまう。いけない。別のことを考えないと。ボクはこのことについて考えるのをやめ、気になる男について考えてみることにした。その男とは小南遊だ。
「あいつは何者なんだろう。」
アイツのデュエルは2回みた。それでわかったことがある。アイツのデュエルは圧倒的だ。2回ともどちらもワンキルで、しかも使用したデッキが違っていた。これはつまり、複数のデッキを使いこなせるだけの知識とプレイング能力、デッキ構築力があるということを意味している。1つのデッキを使いこなすことですら大変なのに、2つのデッキを使いこなせるなんて。そんなことプロですら無理かもしれない。にもかかわらず、アイツはそれをいともたやすくやってのけた。その能力もさることながら驚きだったのは自分の能力に対する小南の評価だ。「できて当たり前。むしろできない方がおかしい」そう考えているようだった。あれだけの能力を持ちながら自分をあそこまで卑下することができるのは珍しい。普通なら威張り散らすのが当たり前だ。この世界ではデュエルの実力がそのまま男の魅力になっている面があるのだから。圧倒的な実力を持ちながら謙虚な人柄。ボクは小南遊にいい意味で好意を抱いていた。しかし、その感情は友人としてではなく、今までに経験したことのない感情だ。この感情は一体…。
「すいません。遅れました。」
そうして待っているうちに宇佐美さんが来た。私は振り返りざまに行った。
「いいのよ、宇佐美さん。ボクも対して待たなかっ、たし。」
言っている途中で宇佐美さん以外にも人がいることに気付いた。ソイツは申し訳なさそうな表情を浮かべて「こんにちは」といった。
遊side
ウサミンからのお誘いを受けてツァン・ディレとの勉強会に参加することになった。しかし、ツァンは先ほどからどこかしらおかしい。ウサミンもそれに気づいたようで心配そうにしている。しかし、ツァンは「何でもない」とそっけなく言うばかりだ。・・・俺が来たためだろうか。しかし、いまさら帰るのもウサミンに悪いしな。しょうがない、試験勉強を進めよう、そうすればこの状況はどうにかできるだろう。
「2人はどんなことを勉強したいの」
俺は2人に質問した。ちなみにデュエルアカデミアのテストは筆記と実技からなる。筆記は普通の高校で習う教科に加えて、デュエル問題、錬金術のテスト。実技は同じ寮の生徒と決闘をするというものだ。俺の質問に対してはウサミンから反応した。
「あ、私はデュエルの問題が上手に解けないのでデュエル問題の勉強をしたいです。」
「・・・・ボクはデュエル問題も普通の教科の勉強もできているの。しいて言えば錬金術。」
「俺はデュエル問題と錬金術はできる。だけど、普通の教科ができない。」
話し合った結果、デュエル問題、錬金術、普通教科の順番で勉強することになった。
「コナミさん、この問題が解らないんですけど。」
『問題 次の素材で融合召喚できるモンスターすべてを答えなさい。融合召喚モンスターの融合素材も書くこと。「E・HEROフェザーマン」+「E・HEROバーストレディ」』
「ボクこれわかる。『E・HEROフレイム・ウィングマン』と『E・HEROフェニックスガイ』でしょ。」
ツァンディレはそう言った。確かに原作GXではそのように説明されていたが今は違う。
「間違ってるよ。『E・HEROエレメンタルヒーロー フレイム・ウィングマン』、『E・HEROフェニックスガイ』、『E-HEROインフェルノ・ウィング』(いづれも『E・HEROフェザーマン』+『E・HEROバーストレディ』)、『E・HEROGreatTORNADO』(「E・HERO」モンスター+風属性モンスター)、『E・HEROノヴァマスター』(「E・HERO」モンスター+炎属性モンスター)、『V・HEROアドレイション』(「HERO」と名のついたモンスター×2)、そして『始祖竜ワイアーム』(通常モンスター×2)だよ。」
すらすらと俺は回答を述べた。その様子を2人はみて驚いていた。
「あんた、よくそんなことわかるわね。」
「そうですよ。コナミさんすごいです。」
「そんなことないよ。」
実際、大したことじゃない。俺が転生する前、遊戯王W○kiの編集をしたりしていたので自然と覚えた。それだけだ。しかし、2人はそう思わなかったようで二人の俺を見る目が尊敬のまなざしへと変わった。
宇佐美side
(すごいです。)
コナミさんはデュエルに関することなら何でも知っています。あたかも私たちとは違った世界からやってきたかのようです。どうすればこれだけの知識を身に着けることができるのでしょうか。私も日々精進しなければ。
遊side
そして錬金術の勉強も終え、いよいよ普通科目の勉強に移ったのだが、
「どうしてこんな問題もできないのよ、アンタは!」
「だ、大丈夫ですよ。できるようになりますよ。」
「・・・ありがとう・・・。」
小学生のころから止まっている俺の学力が問題である。そのことに2人は驚き、俺の学力をどうにかしようと手を尽くしてくれたのであるが、いかんせん勉強に慣れていないためなかなかこれがうまくいかない。なにしろ、俺はアルファベットをAから書くのにも苦労するような人間なのだから。結局、その日は大した勉強はできず、残り1週間で勉強することを約束して別れたのであった。
そしてその翌日。
「すいへーりーべーぼくのふね・・・」
俺は寮長としてレッド生に試験上の注意をするよう、生徒会長に呼び出された。そして生徒会長が来るまでの間を利用して、成績を上げるための呪文を唱えているわけだ。
「鳴くよウグイス平安京、はっと驚く薬子の変、白紙に戻す遣隋使・・・」
しかし、こんな呪文を唱えるだけで点数が上がるのか。そう考えて呪文の効果を疑っていると、声をかけられた。
「間違ってますよ。白紙に戻すは遣唐使です。」
生徒会長である原麗華さんのお出ましだ。
「すいません。用事があって遅れてしまいました。それでは早速、注意事項について説明をします。」
そう言って説明が始まった。まあ、注意事項といってもカンニングはダメだとか、試験中は電子機器の電源を切るようにだとか、当たり前のことばかりだが。それでもその注意事項を生徒会長は丁寧に説明してくれた。俺はその説明をメモに取り、帰ったらオシリスレッドの生徒に伝えると約束した。試験に関する説明が終わると原生徒会長は俺に「時間はあるか」と尋ねてきた。俺はあると答えた。
「小南さん、あなたの入学試験の成績を失礼かと思いましたが、見せていただきました。あなたはデュエルに関する知識は素晴らしいですが、普通科目の知識はないですね。」
「ま、まあデュエルが上手ければ生きていくのにはこまらないですからね。」
「確かにそうかもしれませんが、あなたは寮長ですよ。オシリスレッドの皆さんの模範となるべきじゃないんですか。」
「・・・まあ、確かにその通りですね。」
「そこでもしもこの月一試験で普通科目が40点以下だった場合、寮長を辞めてもらうよう先生に頼みますので。」
・・・それは困るな。今後のことを考えたら寮長という立場は何かと都合がいい。第一、寮長という立場は攻略キャラである可能性が高いこの原麗華とお近づきになることができる最高のポジションだ。これをむざむざと手放すことはできない。少し考えて、俺は原麗華に言った。
「じゃあ、もし俺が40点以上取ったら俺と付き合ってください。」
「・・・はあ!?」
生徒会長は驚きの声を上げた。
「だっていいでしょ。俺はもし40点以上取れなかったら寮長の座を失うんですよ。だったらそれ相応の対価を求めたって。」
俺が寮長を失いそうなのは勉強を今までやってこなかった自業自得なのだがそれは黙っておく。
「それに、生徒会長にとっては大したことじゃないでしょ。おれと付き合うくらい。」
「な、な、なにをいっているんですか!破廉恥な!!」
原生徒会長は怒りの声を上げた。
「大体、男女の中というものですはね、長い時間をかけてお互いのことを理解したうえでなるべきであって・・。」
「会長、なにをいっているんですか。俺が付き合ってくださいと言っているのは食事ですよ。」
「・・・はあ!?」
会長は再び驚きの声を上げた。
「俺が成績を上げたら食事でそのことを祝ってもらおうとしたのですけど、だめでしたか?」
俺はあえて誤解を招くような言い方をしたとは少しも思わせずに言ってのけた。
「いえ、そんなことありませんよ!!ぜひお祝いしましょう!!」
自分が想像したことを悟られたくないのか、ものすごい勢いで肯定する。このまま、もう少しいじめてみたいが逆効果になるかもしれないので我慢する。
「じゃあ、決まりですね。それでは試験を頑張ります。」
「ええ!頑張ってください!!」
会長の勢いのある声を背景に俺は部屋を後にする。
「これで原麗華攻略の目処はたったな。」
周囲に誰もいないことを確認したうえでつぶやく。唯一の問題点は苦手というのもおこがましいほど不得意な分野で40点をとらなければいけないことだ。しかし、俺はそんな状況にありながら充実感にあふれていた。なぜなら、ゲームが困難であればあるほど、燃えてくるのがゲーマーの性分だからだ。俺はいかにこの問題をクリアし、攻略を進めるかを考えながら、ワクワクした気分で自分の部屋へと戻るのだった。