比企谷八幡がイチャラブするのはまちがっている。R 作:暁英琉
顔を上げたことで、小町の頭がすぐ近くにある。瞬きをすればさして長くもないまつげが先ほど語りかけた耳をかすめそうだ。
その耳から少しだけ視線をずらすと。
「おにい、ちゃん……」
妹の顔が、ある……わけ、で……。
ゴキュッと、どうしても生唾を飲み込んでしまう。
目の前にいるのは、間違いなく比企谷小町であるはずだ。こいつが生まれてからずっと一緒に、同じ家で生活してきた妹だったはずだ。
けれど、だけれど……。
今、俺のすぐ近くで、吐息すら聞こえてくるところにいる“彼女”は……本当にその妹なのだろうか。
わずかに目尻の下がった両の瞳はじわりと涙を浮かべて悩ましげに歪み、その下の頬はほんのりという表現では適切ではないと断言できるほど、紅い果実を実らせている。思わず漏れた嬌声を誤魔化そうと両手で覆った口からは、蜃気楼すら浮かびそうなゆだる熱を孕んだ吐息の音が不規則に聞こえてきて……。
見たことがない。こんな妹の“女を感じる表情”なんて、今まで見たことがなかった。
「おに、ちゃん……もう、やめちゃうの……?」
「っ…………」
荒い息に混じって聞こえてきたその言葉に、瞳に映し出されたドロリと金属が溶けたような情欲の炎に、否が応でも気づかされる。理解させられる。
いままでしてきた行為が、妹を嫌がらせるものではなかったことを。
妹が望んで、俺の“お仕置き”を受けていたことを。
「んぁ……ひくっ、ぁふっ……」
小町の内ももに挟まれている右手を動かすと、口元を抑えながら小さく何度もかぶりを振る。しかし溢れ出す声に嫌悪の色は見えず、ただただ熱い熱だけを孕んでいた。鼓膜を通して聞こえてくるその声は、まるで直接脳みそを熱せられるように熱くて、切なくて、そしてなによりも――綺麗だった。
声だけじゃない。かすかに見える白い喉も、涙をにじませた状態で瞼を閉じたことでまつげに水滴が絡んだ様子も、酸素を取り込もうとするたびに少し大きくなる鼻の穴も、そのどれもが綺麗で。
……ああ、そうか。
カチリとパズルのピースがはまる音が聞こえた気がした。あのうるさいほど高鳴っていた心臓の音が誰のものだったのか。わざわざ“お仕置き”を段階的にするという面倒なことをしたのはなぜか。目的がすり替わっていると自覚しても、行為を続けた理由はなにか。自分で分からなかったその答えが今ならはっきりと分かる。
簡単なことだったのだ。簡単で、単純で、けれど少し複雑で。そのせいか、ひょっとしたらあと十年は早く気付けたかもしれないその事実に、今さらながら気づかされた。
「小町、お兄ちゃんになら……いいよ?」
妹が俺のことを好いてくれているように。行為を受け入れてくれているように。
俺も、こいつのことが好きなのだと。もちろん、一人の女の子として。
いつも俺の隣には小町がいた。なんもなくても、ひたすらぼっちな生活を送っていても、惨めな思いをしても、妹だけはいつも決まって俺の隣にいて、笑いながらこの捻くれた兄貴の手を引いてくれた。
「だって小町は、お兄ちゃんのこと……」
「小町」
だからこそ、これだけは俺から言わなくちゃ。俺の声に言葉を途切れさせた妹を回していた左腕で強く抱きしめる。早く、大きく、同じ速度で鳴り響く二つの心臓の音が、片方だけその速度を上げて調和が心地よく乱れだした。
すぐ近くで少しずつ赤みを帯びていく耳にそっと口を近づけて、恥ずかしいと思う心を拾い上げて、飲み込む。別にキザったらしい言葉なんていらない。そんなの俺のキャラではないし、きっとこういう時は、思ったことをそのまま言ったほうがいいと思うから。
「その、俺も……さ、お前のこと……好き、だから……」
きっと傍から見れば、こんな告白黒歴史だろう。拙くて、途切れ途切れで、きっと間を開けて思い出したらいつかの日のようにソファの上でのたうち回るに違いない。
「――うん」
けれど、きっとその時もあの時みたいにすぐ近くにこいつがいて。何気なく話しているうちにそんな気持ちもどこかへ行ってしまうのだろう。
それなら、俺はこの告白に後悔はない。
「けどお兄ちゃん、慣れてないからってさすがに告白下手すぎだよ。小町じゃなかったら確実に振られて黒歴史になってたね」
「…………」
こんにゃろ。
「ふにゃっ!? ひん――――ッ、あふっ……お、お兄ちゃんっ……」
ムカついたので動きを止めていた右手を動かし始める。五本の指をバラバラに動かして膝をくすぐるようにいじくってみると、面白いくらいかわいい反応が返ってきた。自分でも触れたことのある場所だから分かるが、膝というのは「撫でる」や「さする」という刺激にはぞわぞわと反応するが、圧迫するような刺激にはあまり敏感ではない。だからひたすら摩擦しているわけなのだが……。
それにしてもこいつ、本当にやけに反応が大きいな。これが普通なのだろうか。もう抑える必要がなくなったからか喉の奥から響く嬌声が鼓膜を甘く揺さぶってきて、視界にチカチカと淡いスパークが散らしてくる。
何が言いたいかというと、小町の反応で俺にもダメージ――というのは語弊があるかもしれないが――が来るのだ。
その結果、自然と俺の息も荒くなってくる。肺が燃えているのではないかと思うほどの熱い吐息がすぐ近くにある小町の耳を、その先にある頬を撫ぜて、それもこそばゆいのかプルプルと肩が震える様子が生まれたての小鹿みたいで愛おしい。風が撫ぜたというのにほんのりと色づいた耳は熱が抜けるどころか、より赤さを増してしまった。
「小町、気持ちいいのか?」
「よく……んっ、わかんないよ……。くすぐったい、ような……ふわっとするような……変なかん、じ……」
本人も分からない、か。まあそうだよな。
「触られるの、いや……か?」
質問を変えてみると小町は言葉ではなく、首を横に振ることで答えてくる。つまり、変だけど嫌な感じではない、ということか。
なら、もっと触っても問題ないよな。
「はふっ、んんっ、ぁ――、~~~~ッ!」
膝頭を重点的に、何度も何度もくすぐり、撫ぜ、時々軽く揉む。不意にそこから位置をずらして太ももや膝の裏、内ももに手を伸ばすと、受ける刺激が変わったのを小町の身体がビクンと跳ねて教えてくれた。
「おにい、ちゃ……なんか、変な感じ、いっぱい来る……ひぁっ……」
ねちっこく攻めていくと、少しずつではあるが小町の様子が確実に変わってきているのが分かった。声はどんどん大きくなってきているし、がっしりと上半身を抱きしめられている代わりかもじもじと足をすり合わせたりしている。それでも俺からの刺激を逃すまいとしているのか、あまり大きく動かさないのがまたかわいくて、一瞬胸の鳴り方が大きくなった。
狭い膝の裏を人差し指を中指の腹でくすぐってから、手のひら全体で太ももを包み込む。足の中でおそらく一番肉がついていて柔らかいであろうそこは、むにむにと揉んでみると程よい弾力が手のひらを弾き返してくる。こいつしょっちゅう俺に学校送らせてるし、運動部でもないからもっとたるんでるかと思ったが、案外太ももに筋肉あるのな。これはこれで揉み心地がいいからいいけど。もみもみ。
「なんか、そこばっかり揉まれるのはそれはそれで恥ずかしいかも……」
結構気に入ってもみもみしていると、小町が実行犯である右腕に自分の手を添えて、口を尖らせてきた。本当に恥ずかしいのか、それとも刺激が弱すぎてもどかしいのか判断がつかないが、俺としてはもうちょっとこの感触を楽しみたいところ。
「俺は結構楽しいんだけど、ダメか?」
「ぅ……」
一応手の動きを止めて小町に尋ねると、首を捻って俺と目を合わせた小町がなぜか息が詰まったように呻いた。大丈夫? 首の筋捻ったりしてない?
「……お兄ちゃん、そういうとこずるいよね」
「何がだよ」
俺、何かしただろうか。いやほら、嫌がってるならやりたくないなぁと思うのは当然なわけで、だから聞いてみたのだが。……妹ですらよく分かんねえんだもん。女の子って全然わかんね。
それで結局、いいのかダメなのかこいつ答えてないんだけど。
仕方がないのでもう一度、今度は最初から小町と目を合わせた状態で尋ねてみると、また呻くような声を上げた後――
「……ダメじゃ……ない、です……」
尻すぼみに消えそうな声で了承してくれた。言葉の終わりに「バカ」とか聞こえた気がしたが、お兄ちゃん優しいから聞かなかったことにしておいてあげよう。
「っていうか、なんで足? お兄ちゃん足フェチだったの?」
「いや、そんな自覚はないし、特にフェチってわけでもない……たぶん」
そもそもついさっきまで“そういう行為”だという自覚もなかったし、案外こいつの反応がいいから今も触ってる感じだからな。フェチではない、と思う。むにむに。
むにむにと太ももを揉んだり、指を軽く沈み込ませたりしながら少しずつ手の位置を上に、小町のお尻の方へと移動させていく。同じ太ももでも触る場所によって微妙に感触の違う生足の感覚を堪能して――生足?
なんでもうそろそろ尻に到達しようとしているのに、炬燵を出すほどの寒さの十二月に素の太ももに触れているんだ?
「まさか……」
「あっ!」
ふと思い至って俺たちの胸から下を覆っていた炬燵布団をめくり上げた。いつの間にか小町の所有物になっていた俺のジャージの上からつつーと視線を下半身の方に持っていって……。
「……お前なぁ」
ジャージの上の終着点。その下に見えたのは、オレンジの小さな布地だった。いや、ヒーターの電熱線から発せられるオレンジの光のせいでそう見えるだけで、正確には白なのだろう。女子のデルタラインを覆う小さな布地。あるいはパンティ、あるいはショーツなんて呼ばれる、ぶっちゃけパンツであった。そういえば、女性用下着をパンティなんて呼ぶ人に遭遇したことがないのだが、そんな人実際にいるのだろうか。そもそも俺にはそんな話をする人間がいませんでしたね。他人の雑談盗み聞いてても聞かないんだけどさ。
小町の下半身を保護しているのはそのショーツ一枚だけ。こんな真冬にまたワンピースみたいでしょ! ファッションでもしていたのだろうかと思ったが、よく見てみると炬燵内の隅にジャージのズボンと思われる塊が転がっていた。
「だって暑かったし……」
「いや、それなら脱ぐタイミングで部屋戻って寝ろよな」
風邪引かれたら俺が嫌だし。おかげで小町の生足が堪能できたわけだが。じゃあいいか。結果的に風邪も引いてないみたいだしいいな、うん。
このまま薄い布地に覆われた小町ヒップを堪能するのも一興だとも考えたが、もう少しこの小町の足も楽しんでみたい。できればもっとたくさん、もっと激しく。
その欲求は一度溢れ出すと抑えることは困難で。
「なあ、小町」
「んー?」
「ちょっと体勢、変えようぜ」
自然と欲望のための言葉が口を飛び出していた。
時計はすでに普段家では見ない時刻を示していたが、もうこの時点で俺たちの頭に学校に行くという選択肢は、なかった。
今はただ、お互いを求めるだけ。
ちょっと現状の関係とか八幡の感情を確定させつつ、まだ足を触っている感じでした。もみもみ。
今日はせっかく昼間からSS書ける環境にあったんですが、いまひとつ筆が乗らなくてしょんぼり。というか、夜になるにつれて筆が早くなる気がします。寝る前くらいにネタが降ってくるのと同じ現象でしょうか。
それでは今日はこの辺で。
ではでは。