1 油断
「きゃっ!!」
大都会の一角を占める森のような公園。健康づくりを日課としている住民が、数多くウォーキングやランニングにいそしんでいる、その公園の一隅に、女性の小さな悲鳴が響いた。。
「はぁ…ふぅ…はぁ…ふぅ…大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……んっ……あいたた……」
ロングスリーブのTシャツに、派手なジョグスカート、ブラックのタイツを身をまとった年若い女性がタイルを敷き詰めた通路に、しりもちを着いている。ショートヘアに童顔、愛らしく目がクリッとしている。その表情がしかめっつらに歪む。体格は、小柄で引き締まり、スポーツを日常的にこなしているとうかがわせる。いかにも長距離ランナー然とした、細身で、軽快そうな体つきだ。
彼女のそばには、その直後で走っていた男が、自分の走りを中断して、心配そうにのぞき込んでいる。
「脚、つっちゃったんですか?」
「そうですね。油断しちゃったなあ……いたた……」
その女……大貫芳美は、しりもちを着いたまま、無理矢理気味に右脚を延ばす。シューズが覆う右足の先に、右手を伸ばし、手の指の先を引っ掛け、クイっと引き上げる。
縮こまって硬く攣った筋肉が伸び、徐々に弛緩していく。ロングタイツの上から、ふくらはぎの筋肉を自分の手で軽くもみほぐすが、軽い痛みが残る。
「肩、貸しましょうか? 冷えちゃうとよくないですし、もしよければ送りますよ」
男の顔には見覚えがある。この公園で、ほとんど毎日のように顔を合わせている。男は高身長の痩せ型。メガネをかけ、マジメなサラリーマン然とした風貌で、目鼻はスッキリと整っている。
――あら、改めて間近で見ると、好みかも――
そんな風に思ってしまうあたり、芳美も「健康な女子」だ。
あまり男運はない。高校時代にすでにHの体験は済ませているのだけど、基本的には陸上一筋。故郷では県大会の決勝レースの常連の長距離ランナーだった。
だけど大学では泣かず飛ばずで、卒業と伴に本格的な競技からは引退。25歳の現在は東京で普通にOL生活を送っている。 元々走ることは好きだ。今もランニングは日課である。市民マラソンにも出場していて、長期休暇の際に海外の市民参加マラソンに出てみようかとも思っていた。
男性も含めた公園ランナーの中で、芳美のスピードやフォームの安定感はズバ抜けていた。
だが、このところ仕事が忙しく、思うように走る時間が取れなかった。なまっていたところへ、ペースを上げすぎ、足下への注意がおろそかになった。 石を踏んで転ばないように踏ん張った拍子に足をつらせ、へたりこんだ。
――やさしそうな人ね――
競技を引退しても、男とは縁らしい縁がなく、Hとも長らく縁がない。
会社の同僚以外で異性と話すのは、いつ以来だろうか。思わず積極的に厚意に甘えてしまう。
「どうしようかな……ご迷惑じゃありませんか?」
「ええ、気になさらないで」
「すみません……。わたしんち、あっちの入り口の目と鼻の先ですから……。えっと、毎朝、この辺、走っていらっしゃいますよね?」
「はい。やっぱり同じコースですから、やっぱり顔を覚えちゃいますよね」
男が伸ばす手を取ると、「よいしょ」という掛け声とともに、芳美の身体が引き起こされる。つった右脚に体重をかけないように。そして、右手側に寄り添った男の身体に、自分の半身を預け、身体に手を回す。
――あ、なんか気持ちいい……こういうの久しぶりだっけ――
くっついた男の体温が心地よく、自分の左の腰に回された男の手の感触も、特に気にならなかった。
2 無警戒
「へえ、すごいなあ。普通の市民ランナーのレベルじゃないですよ、これ」
こぎれいに片づいた芳美の部屋。彼女はベッドに腰掛けて、前にしゃがむ男に向けて足を伸ばしていた。男は爪先立ちの正座。腿の上に芳美の右足を乗せて、ふくらはぎを左右から手で包み込むような状態で、揉みほぐしている。
彼の言葉は、芳美の筋肉に感心して出てきたものらしい。
公園から芳美の部屋までの数分に、話は弾んだ。
男の名は渡辺俊輔。芳美より年下の大学生だったが、トレーナー志望で、鍼灸師の資格を取るための専門学校にも通っているという。
彼はナイロン地のウインドブレーカーの上下に、大きなヒップバックという出で立ちだが、そのバッグの中が驚きだ。テーピング用のテープやバンテージ、さらにはコールドスプレーやマッサージ用のオイルまで持ち歩いていた。
まだまだアスリート気分の抜けない芳美でも「トレーナー志望というよりも、マニア?」と苦笑してしまう。
でも、目の前にカッコいい男の子がいて、自分にかしずいてくれるなんと思うと、嬉しくなってしまう。
誘惑、色仕掛け……というわけではないにせよ、彼に近づきたくなってしまう。
「ね、渡辺さん。ついでに、足の具合、看てもらうわけにはいきません?」
「あはは…こっちが年下なんだし、『君』でいいですよ。なんなら呼び捨てだって。プロじゃないですけどいいんですか、ボクで……」
冗談めかしながら微笑みを見せる彼に、芳美はますます好感を抱いてしまった。
――こんな風に接近してても、ガツガツした様子もないし……うん、大丈夫よね――
実は、恥ずかしくないといえば、ウソになる格好している。
Tシャツは、芳美のボディラインにピッタリ。下に着ているスポーツタイプのブラのラインも浮かんでいる。
巻きスカート風のジョグスカートとブラックのタイツの組み合わせだが、実は、その下にショーツは着けていない。
その方が動きやすいし、無理やり覗きこまれでもしなければ、バレるわけがない。
そんなわけで、相手がおとなしそうな年下ということもあり、芳美は物怖じせずにマッサージに身を委ねた。
ごつごつしていない、しなやかな長距離ランナーの筋肉は、脚をほっそり見せる。渡辺はふくらはぎを揉んではさすり、揉んではさすり……。
芳美は、心地よさに溜息をつく。
「ふぅ……」
お尻の後ろに両手をつき、上体を後ろに少し傾け、リラックスしている。
「うん、さすがに上手なものね」
「まあ、こう見えても一応は、スポーツマンですし、ツボは心得てますよ~」
「あ、そうなの? 何をやってるの?」
「フットサルです。ほら、ミニサッカーみたいなやつ。下手ですけど……ははは」
「ああ、いいじゃないの。草フットサル……ふふふ。あれキツいでしょ~? すごい心肺使いそう」
「ええ。でもね、ヘットヘトになるまで体を追い込むのが好きで…」
「あはは、わかる。私もそうだから」
「あ、じゃあ、ランナーズ・ハイってなったことあります?」
その一言、「ランナーズ・ハイ」という言葉に、芳美はギクっとなる。ランナーズ・ハイ……ランニングなどの運動の疲労のピークで感じる擬似エクスタシー……。
「うーん、ない…。一度、体験してみたいんだけどね~」
くちごもりながら、ウソをついた。芳美はそのランナーズ・ハイのいわば“常習者”だった。
3 走る恍惚
「あはは…さすがに、そういう経験はないですよね……あ、今度はベッドにうつ伏せになってもらえます?」
「はーい」
表向き打ち解けた軽い調子で返事をしたが、芳美は内心で少し気まずさを感じていた。
ランナーズ・ハイになった経験は何度かある。それこそ高校生のころから。
ハードに走りこみ、筋肉に無酸素状態が続くと、意識が軽く遠のき、ふわふわと雲の上を走っているような気分になる。他の部員の話を盗み聞きした限り、そこまでは、それなりの部員が経験していた。
でも、芳美の場合、それよりもう一歩、強い快感が襲ってくる。
気持ちよすぎて、足をすぐに停め、しゃがむなり、かがむなりしないと、転んでしまいそうなくらいに。その感覚は、Hや1人Hの時のエクスタシーの感覚に近かった。
ゾクゾクッと腰の方から背骨へ、脳髄へと電気のように這い登っていく快感……。そして、頭が真っ白になり、胸がどうしようもなく切なくなって……。
――でも、他の人は、そこまで気持ちよくないみたいなんだよなあ……。本やインターネットで調べても、わたしみたいには、誰も感じてないみたいだし。やっぱ特異体質なのかな?――
枕を腕に抱え込み、顔を埋め、そんな考え事にふける芳美……。
「周りにも経験した人いないんですか? ランナーズ・ハイ……」
渡辺が質問を重ねながら、左右の脚へのマッサージを繰り返す。ソーッと手を滑らすように撫でたり、指先で筋肉をフニフニっとほぐしたり。
「ん……あっ……うん、あれってけっこう、稀にしかならないんでしょう?」
そんな風に受け答えする芳美だったが、ますます内心は穏やかではなかった。
――ちょっと、やばいかも……少し感じてる……――
履いているジョグスカートの裾はタイトだが、かなり短いし、巻きスカートタイプだから、脚を広げようと思えば、まったく邪魔にならない。
渡辺の手はスーッと腿の裏筋や内腿を這い登って、裾口に入り込みそうになったり……。
あるいは腿の内外に指が沿って、筋肉を揉みほぐしながら腿の上側へと上ってきたり……。
「大貫さん、すごい疾走したあとに、芝生の上でかがみこんだり、しゃがんだりしてたから、あれ、ランナーズ・ハイになってるかと思ってました」
「え?…ぁ…違う、違う…んっ」
会話に応じながら、少し声が上ずってしまう。 特に指先が、スーッと内腿をなぞって裾口に少し入る。 そして、親指が内腿に、他の指が外に添い、親指の先が肉を押さえ、クリクリッと円を描く。
なぞるときのくすぐったさ。肉を捏ねられるのにつれて、アソコが開くような感触。
これまで仲間同士やトレーナーでは、何気なくやっていたマッサージに、妙な意識を持ってしまう。それは、やはり見知らぬ男にされているせいなのか……。
――ちょっと、どうしよう……やめてもらおうか……――
迷ってる間にも、内腿の中ほどからショートパンツの裾口まで、何度も指先がなぞる。そして、また親指が内腿の肉をクリクリ……。
「ん……そ、そこ……ちょっと、くすぐったい……んっ……あんっ……んっ……んっ」
芳美は枕に顔を埋め、大きな声……よがり声がでないようにするのが精一杯……。
くすぐったいというのは、辛うじての拒否の意思表示だった。
だが、背後にいる渡辺の手の動きは停まらない……。なぞっては、クリクリ……指先はだんだんと裾口から、さらに奥へ。 うつ伏せになった芳美の背後にいる渡辺は、下卑たニヤニヤ笑いを浮かべていた。
4 巧妙なイタズラ
「くすぐったいですか?」
「んっ……うんっ……あっ……やっ……」
どことなくわざとらしさを帯びた質問に、喘ぎ声混じりに答える芳美……。
「ゴメンなさいね。筋肉をほぐすのだけじゃなくて、リンパマッサージもついでにって思ったから」
確かにリンパマッサージは、芳美の感覚ではくすぐったく感じてしまうし、特に脚の場合には、腿から股関節付近へのさすりが中心になる。
だけど、渡辺にされているマッサージは、度を越して、指先がきわどいところへと迫る。
「まあ、少しの間だけですから、ガマンしてくださいね」
朗らかな声で、渡辺はそういう…。彼の手はスーッと膝の方へ滑り、また腿の付け根の方へ。
そして、指先が何気なく、ショートパンツの裾口に潜って、親指が内腿の付け根の肉をクリクリ、グリグリ……。
さらに、少しずつ芳美の膝と膝の間が広げられていく。
「んっ……ゃ……ゃ……やん……あっ……あん」
「大丈夫ですか?」
白々しい質問と共に、キシッとベッドのマットレスが、かすかにきしむ音がして、少し沈み込む。
どうやら渡辺がベッドの上、芳美の真後ろの膝と膝の間に、座ったようだ。
同時に、スッと芳美の両膝の内側に、渡辺の膝小僧がくっつく感触。
――やだ……脚が閉じられないじゃない――
一段と気恥ずかしくなり、耳まで真っ赤になっている自分に気が付く。
枕に一段と強く顔を埋め、「んっ……んっ……」と規則的に喘ぎを押し殺した鼻声だけを出す。
付け根の肉をグリグリっとこね回されると、アソコがパクっと開いては閉じ……。
それがしばらく続くと、また腿を撫でられ、なぞられ……。声を押し殺しても、腰がピクンと持ち上がってしまう。
「少し、マッサージしやすくさせてもらいますね」
「んっ……えっ?……ええっ?……」
持ち上がった腰を、左右から渡辺が捕まえて、心持ち、お尻をさらに上に突き出させる。
すぐに彼の手は腰から離れ、芳美がお尻を元に戻す前に、掛け布団を下腹部からおなかの下に、押し込んでしまった。
「ちょ、ちょっと……何?」
「いえ、ほら、リンパ節は、股関節の前側にあるから……そこに指が届くように……」
冷静な渡辺の声。ちょっと立ち気味に開いた芳美の腿に、再びツッと彼の手が滑り、また親指が裾の中へ……グリグリと付け根の肉をこね回し……今度はスーッとショーツの股間を追おう布のすぐ外のを何度も何度もなぞる。
「んんっ……あっ……うっ……うぅ……んっ……んー……ん~っ」
芳美は、渡辺の手と指の動きに抗議できず、さっきより強く枕に顔を埋めてしまう。
もっと大きな声がでそうになるのを、辛うじて、意味のないうめきに抑えこむ。
――そ、そんな……こんなの、マッサージじゃないよ……でも……でも……気持ちいい……どうしよう……――
持ち上がった腰が小さく左右に、そして、上下に動く……。
時折、ピクン、ピクンと腰が跳ねるように、持ち上がってしまう。
「んっ……んっ……んっ……」
自然とさらに腰が持ち上がってしまう。
――本当にやばい……濡れてる……腰動いちゃう。やらしい女だって思われちゃう。もっとして欲しくなってるなんて言えないし……――
「痛かったり、くすぐったかったりしたら、言ってくださいね。強さとかやり方とか変えますから」
「えっ……あっ……あんっ……うっ……うん……んっ……んっ」
なまじ答えようとして、一旦、顔を持ち上げた芳美。だけど、ゆっくりジワーッとアソコのすぐ外を、渡辺の親指の先になぞられてしまう。
腰がさらに持ち上がって、膝が立ち、その間が広がる。
スカートの奥に見えるタイツの股間の布は、一段と黒っぽく変色し、縦に筋が浮かび上がっていた。
次回以降の予定は、まだ決まってません。