※この作品はR-18です。

新人サキュバスと成り上がりの男   作:あるい椋

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恋の自覚と【夢】のめぐみん

「最近、カズマが臭いの」

 

 冬将軍の季節も終わりが見え、春の息吹が聞こえはじめた今日この頃。私はめぐみんとダクネスとの三人で食卓を囲んでいた。ダイニングテーブルの中央では鍋がぐつぐつと音を立てているけど、私の言葉で全員の箸の動きが止まる。

 カズマはいない。

 カズマは今日の昼間、リザードランナー討伐のクエストを受けた際に不名誉の負傷を受け、死亡した。それを私が女神らしく即座に蘇生し、しばらくは安静にしておくようにとありがたいお告げを出したのに、カズマは外泊してくると言って飛び出して行ってしまった。

 屋敷で静養すればいいじゃないと言ったけど「トラブルメーカーのお前らがいる屋敷で俺にどうやって静養しろというんだ」などと言われてはぐうの音も出ない。

 カズマってばひどい。めぐみんやダクネスだって悪意があってトラブルを持ち込んでるワケじゃないでしょうに。

 ともかく、カズマがいなければこの屋敷は女の子が三人だけ。私はうるさい女ではないので三人揃って姦しいということはないけど、せっかくなので女子会風に、カズマがいると話しづらい話題を二人に振ってみた。

 目の前の二人は箸を止めたままきょとんとしている。話題が唐突過ぎたので、私の声が聞きとれなかったのかもしれない。なのでもう一度言ってみた。

「最近、カズマが臭いの」

「……はぁ、そうですか。夜にカズマとプロレスごっこでもしたんですか? 惚気話なら余所でやってくださいよ」

「そうだぞ。……それともカズマの下着でも拝借したのか? あの男もたまにやっているようだが、ちゃんと洗って返すんだぞ」

「ふ、二人とも何を言っているの!? 単にカズマが臭いって話をしただけなのに、どうしてそんな色気のある話の方向に行こうとするの?」

「だってですね……」

「なぁ……?」

 二人が困ったように顔を見合わせる。私にはない共通認識があるようで、仲間外れにされたみたいで、なにか悔しい。

 めぐみんは鍋に箸を突っ込んで何かを探るようにかき回しながら、続けた。

「――カズマは、体臭がきついということはありません。ああ見えてキレイ好き、且つお風呂好きみたいですからね。夜には必ず湯船に浸かりますし、朝もよほど忙しくなければ湯浴みしてから行動を開始しています。昼間ちょっと汗をかいたからと入ってることもありますよ」

「うむ。衣服を脱ぎ散らかして放置するということもなく、必ず洗濯しているしな。これは何かと奔放な冒険者には珍しい、良い習慣だ。元々清潔な環境で暮らしていたのかもな」

 なんだそんなことだったの、と私は嘆息した。

 カズマは日本ではニートだったから、運動不足で身体の新陳代謝機能が衰えていたはず。そうすると人間は自然と体臭がきつくなるので、ここでニートという人種は、頻繁にお風呂に入って体臭を消そうとするか、逆に、もう周囲の視線も気にせず突っ走って臭くなるに任せるかに二極化するのだけれど……カズマは幸いにも前者だったみたい。ちょくちょくお風呂に入っていた習慣が、この世界に来てからも続いているようだ。

 そういえば馬小屋で生活していた時期でも、少ない収入の中からお風呂の費用だけはケチることはなかった。

 ……なんだ。私の方が、二人よりもカズマのことを知ってるじゃない。

 なんとなく安心感を覚えて胸をなでおろしたけれど、めぐみんは私の変化に気付かないまま言ってきた。

「まぁ、そういうわけで私とダクネスは、カズマが特に臭いと感じたことはないのですよ。そうなるとアクアは、カズマの僅かな体臭を強く感じる場面にいたというわけで、これはもう夜のプロレスごっこだったり、下着を借りたのかと――」

「ちっがうわよ! カズマが臭いっていうのは、あのニートから悪魔の臭いがプンプンするってことを言ってるのよ!」

 とんでもない勘違い。

 私は思わず立ち上がりテーブルに手を叩きつけて抗議した。鍋から漂う熱気が顔にあたって頬が熱くなる。

 めぐみんは困惑した様子で。

「はぁ……。その、アクアがたまに言っている悪魔の臭いというのが実はよくわからないんですよね。バニルと対峙したときにも、その気配や莫大な魔力を感じ取ることで強力な悪魔だとわかりましたが、だからといって臭いなんてしませんでしたし」

 そうだったの。

 優秀な紅魔族であるめぐみんは悪魔族の魔力の波動を感じることはできたみたいだけど、種族特有の臭いまでは感じることはできないらしい。これは人間という種族の限界なのかしら。

 しょうがないので私は説明することにした。

「そうね……悪魔の臭いってのはね、悪魔や、悪魔に接触したことのある人間の魂から発せられる瘴気みたいなものなの。強力な悪魔ほどプンプン臭うし、時間経過で拡散して薄れていくところは普通の臭いと同じね。確かに人間が感じ取ることは難しいのかもしれないけれど、私は敏感に反応することができるわ。なぜならそう、私は水の女神、アクアなのだから!」

「「そうなんだ、すごいね!」」

「信じてよ―!」

 私が怒っても、二人はクスクス笑うだけ。お約束のギャグをかましてるとでも思っているのかしら。はなはだ不本意。

 私がむくれていると、ダクネスが口元を抑えながら言ってきた。

「まぁ、女神云々はともかく、優秀なアークプリーストであるアクアがそういうのなら悪魔の臭いというのはあるのだろう。実際、私がバニルに憑依された状態からでも臭いを感じ取っていたようだからな。……しかし、そうなるとカズマは悪魔に憑依されているということか?」

「いいえ。残ってるのは僅かな残滓だけだから、本格的に憑かれてるということはないわ。でもカズマは外泊してるときに限って毎回その臭いをつけてくるものだから……もしかしてこの街のどこかに悪魔の集会所みたいな場所があって、カズマはその臭いを拾ってきてるんじゃないかと思って相談したの」

「なるほど。それが事実なら、危険だな」

 ようやくダクネスが真剣な表情に変わる。私は最初から真面目な話をしているつもりなんですけど。

 それに本音を言えば、こうして話している間にもカズマは悪魔の被害に遭っているかもしれないから、すぐにでも駆けつけたい気分。でもカズマは外泊するときに付いていこうとすると本気で怒る。その様はちょっぴり、ほんのちょっぴりだけだけど怖いから、あまりやりたくない。

 カズマが自分の被害に気付かないまま街の危険を排除できるなら、それに越したことはないし。ひょっとしたらギルドから報酬ももらえて、そうなればカズマの分け前は無しで三人で報酬を分けられるかもしれないし。

 もうすぐカズマさんが三億という大金を得ることになっているとはいえ、使えるお金はあるに越したことはない。

 しばらく顎に手を当てて考え込んでいたダクネスは、キリッとした表情のまま言った。

「ギルドに調査を依頼してみるか。屋敷に襲撃してきたサキュバスの一件もあったし、この街に悪魔が潜んでいることは間違いないだろう。家屋等を一斉に調査して、潜伏場所を探って、その後は戦力を一気に投入して殲滅だな。アクア、その時は頼めるか?」

「ええ。任せてちょうだい」

 段取りを一気に決めたダクネスに、私は胸を張って応える。

 ダクネスは満足そうな顔をして頷いて、続けた。

「ことは街の安全に――冒険者だけでなく、一般人の安全にも関わることだ。ギルドからだけでなく、私の家からも報奨金を出せないか掛け合ってみるか。……いや、そうすると自分で自分の報酬を用意するみたいで変な感じだな……」

「気にすることはないわよ! いえ、もし気になるのならダクネスの分の報酬は私がもらってもいいし!」

「アクア、それは……。いや、それでいいかもしれないな。悪魔の捜索から討伐まで、アクアの力を借りない場面はないだろうし」

「でしょう、でしょう?」

 私はドヤ顔をする。

 脳裏にはいろんなお酒の銘柄が浮かび、報奨金でどんなお酒を買おうかと皮算用を始めていた。

 だけどそこで、しばらく会話に参加していなかっためぐみんがおずおずと手を挙げた。

「あのー、ひょっとして、カズマから漂ってくる悪魔の臭いとはバニルのものなのでは?」

「「あっ」」

 失念していた。そういえば私達が討伐したあの悪魔公爵は、残機を消費して蘇り、ウィズの店に居候していたんだった。

 会話の中にもその名前は出てきていたのに、カズマさんに三億をくれることになっているし、三億だし、討伐対象の悪魔という印象が頭から抜け落ちていた。

 ギルドも要観察に留めているらしいし、ご近所付き合いも上手くやっているようだし……今すぐに街をあげて討伐がどうのという悪魔とは言いづらいのも確かだった。

 皮算用は所詮皮算用なのかしら。すっかり盛り上がっていた私は消沈し、ダクネスもばつが悪そうに言った。

「そう……だな。最近は商談のためにちょくちょく会っているようだし、臭いもその時に付いたのか」

「ええ、おそらくそうかと。カズマもあれで肝心なところは誠実な男ですしね。商談も適当に済ませるのではなく、それこそ外泊時には泊まり込みでやっている時もあるのではないですか?」

「……そうね、そうよね」

 確かにそう考えると辻褄は合う。……合うのかしら? あの悪魔公爵がアクセルに住みつく前からも、カズマから臭いはしていた気がするのだけれど――。

 私がそんな考えに及ぼうとしていたところで、めぐみんが突然立ち上がった。

「ごちそうさま。……それでは今日のところは失礼しますね」

「あら、めぐみんも外泊?」

「はい。カズマが外泊するとのことで食事だけは戻ってきましたが、いつ気が変わって屋敷に戻ってくるかわかりませんし。なんでも、例の件で私に対して怒り狂ってたらしいじゃないですか。ほとぼりが冷めるまでしばらくはゆんゆんのところに泊めてもらいます」

「そうか、わかった。道中気をつけてな」

「はい。それでは」

 やや足早で立ち去っていくめぐみんを目線だけで見送って、ふと、鍋に向き直ると。

「ああっ!? お肉が全部無くなってるじゃない!」

 テーブル中央の鍋に入ってるのは、スープと野菜ばかり。めぐみんが使っていた取り皿に目を向ければ、わずかなお肉の切れ端が浮かんでいる。

「くそっ! 私とアクアが会話に夢中になってたところを掻っ攫われたか? めぐみんめ、逃げたな!」

「ま、まだ夜は寒いし、私、買い出しになんて行かないからね?」

「わ、私だって!」

 わあわあと二人で騒ぐ中で、私はさっきまで何を考えていたのかすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……カ、カズマっ……? な、何を!?」

 

 夜も更け、人々は眠り、風が窓を叩く音だけが響く静かな空間。そんな中で、目覚めたばかりで寝ぼけているのかやや頼りないめぐみんの声が、やけに耳に残る。

 俺は無言のまま、めぐみんの口元を手で塞いだ。

「むぐっ!?」

 俺はゆんゆんが借りている部屋を訪ねていた。

 ……正確には、ゆんゆんの部屋に泊まっているめぐみんを、夜這いしに来ていた。

 春がやってきているとはいえ、夜はまだまだ冷える。めぐみんは暖をとろうとしたのかゆんゆんを抱き枕にして一人だけ爽やかな寝顔を浮かべていたところを、俺は無理矢理引き剥がし叩き起こしたのだ。

「ふー、ふー……!」

 ようやく状況を認識し始めためぐみんが、目を見開き、鼻息を荒くしてくる。俺の手の平には口腔内を滞留する吐息が、手の甲には鼻息がかかって、こそばゆい。

「……あ、別に口を塞ぐ必要はなかったな。ゆんゆんと違って、爆裂魔法しか使えないんだし」

「ぷはっ! はっ、はぁっ!」

 俺が手を離すと、めぐみんは解放された口で酸素を求め荒い呼吸を繰り返す。

 鼻が空いていたので別に窒息するということはなかったはずだが、それでも口が塞がれたら呼吸ができなくなると思い込んでしまい、解放されたら必死に口での呼吸を求めてしまうのは、人の性だろうか。

「はぁっ、はぁ、はっ。……な、何をしに来たのですか」

「『スティール』」

「!? あ、ああっ?」

 紅い目を輝かせながらこちらを睨みつけてきためぐみんに、俺はスティールを行使した。

 手の中には黒いパンツが現れ、それを見ためぐみんは慌てて自分の下腹部を確かめ。

「か、返してくださ――」

「『スティール』」

 抗議の声を上げてきたが、俺は無視して今度はパジャマを剥ぎ取る。

 下にはキャミソールを着ていたが、隙間から小さな桜色の乳首がちらと見え、俺は口角を上げてニヤけた。

「!?」

 俺の視線に気付いためぐみんが胸元の布地を抑えて隠そうとするが。

「『スティール』」

「――!」

 あっさりとキャミソールも剥ぎ取り。

「『スティール』、『スティール』、『スティール』」

 そのままめぐみんを全裸にひん剥いた。

「あ、ああ……?」

 めぐみんは真っ赤になって自らを掻き抱き、必死に俺の視線からカラダを隠そうとする。

 しかし、処女は裸を見られたとき胸を隠そうとするが下腹部を隠すのを忘れるとは本当だったのか。めぐみんの両腕はその小さな胸をできるだけ隠そうともがいてるだけで、女性器は丸見えだった。毛も生えていないつるつるの肌に、ぴったりと閉じた割れ目が、ややグロテスクに目立っている。

 めぐみんは涙目になって、俺に抗議してきた。

「……ひぐっ、ぐずっ……な、なんでこんなことを……?」

「ああ? 決まってるだろうが。お前を泣かしにきたんだよ。この文字の礼にな!」

 俺は自分の服を脱ぎ捨て、下腹部に書かれた『聖剣エクスカリバー↓』の文字を見せつけた。昼間、リザードランナーに殺された俺が生き返るのを渋っていたところにめぐみんがいたずら書きしたものだ。

 俺の怒りの程がわかったのか、めぐみんは青ざめた顔をして。

「ご、ごべっ、ごめんなさい! 謝りますから許して下さい……! このとおり、私は泣きましたし……」

 べそを掻きながら謝罪してきたが、俺は収まらない。

「ああ!? 何言ってるんだ。この状況で、本当に泣くだけで許されるなんて思ってないだろ。知能が高い紅魔族ならよ!」

 俺は勃起したペニスを、めぐみんの眼前で震わせた。

「ひっ!?」

「おっと大きな声を出すなよ。隣で寝ているゆんゆんに、裸にひん剥かれた自分の醜態を晒したくはないだろ……?」

「……」

「……」

 

「ゆんゆん、起きてください! 助けて! カズマに犯されます!」

 

「ああっ!? こ、こいつ!」

 レイプ漫画でたまに見る、友達が隣で寝ているので起こしてしまわないよう必死に声を押し殺しているのを眺めながらこちらは好き放題に犯す、という状況を作りたかったのに、めぐみんはあっさりとゆんゆんに助けを求めて揺り動かした。

 ――しかし。

「なんで……なんで起きないのですか! ゆんゆん!」

 いくらめぐみんが声を上げても、ゆんゆんは目覚めない。

 俺は笑いながら、めぐみんに告げた。

「忘れたのか? 俺は数多のスキルを習得できる冒険者。ゆんゆんには『スリープ』をかけたんだよ」

「いつの間に習得を……!? い、いえ、それなら私にもスリープをかければよかったじゃないですか! ヤることに変わりがないのなら、なぜわざわざ私を起こして――」

「言っただろうが。俺は、お前を、泣かしにきたんだ」

「ひっ……!? ああっ!」

 俺はめぐみんをベッドに押し倒した。

 首ねっこを掴んで頭をシーツに押し付け、尻だけをこちらに向けさせる。

 ぴったりと閉じた女性器を間近で見て、先ほどはつるつるの肌との対比でグロテスクに見えていたその割れ目が、こうして視界全体を埋め尽くしじっくり眺められるようになると、不思議と綺麗に思えてくる。

「いや、いやですっ! お願いです……!」

 俺の密かな感動を余所に、めぐみんは再び目尻に涙を浮かべ懇願してくる。

 だが、ヤることは変わらない。

 俺は無視して、めぐみんの割れ目にたっぷりと唾液を含ませた舌を這わせた。

「ひうっ……!?」

 俺の舌の動きに連動して、めぐみんはカラダを震わせ声を漏らす。

「おうおう。尻がひくひく動いてるぞ。気持ちよかったのか?」

「気持ち悪いんです! やだ、やだっ! んっう!?」

 駄々をこねて暴れ出しためぐみんを抑え込みながら、再び女性器を舐め上げる。

 舌が乾かないよう、意識して唾液を作り出し送り込みながら。

「あぐっ、ぐずっ、ひっ……」

 悲鳴に、すすり泣く声が混じる。

 さきほどの、気持ち悪い、という言葉は本当だろう。

 ある程度セックスを経験した女性でも、クンニに対しては快感を覚えながらも同時に嫌悪感を感じる人は多い。増してやめぐみんは未経験、開発されていない女性器を襲う未知の感触に対して、快感などまず来ない。生理的な嫌悪感が先立つはずだ。

 ――だがそれでも。 

「ほら、濡れてきた」

「!?」

 俺の言葉に呼応したかのように、めぐみんの膣口がひくりと動いて愛液が漏れだし、雫がひとつ、ぽとりとシーツに落ちた。

「あ、あ……ち、ちがいます……こんなの……」

「口では嫌がってるのに、カラダは正直だな。期待してるのか?」

 などとお約束な台詞を言ってみる。

 実際のところ、これは間違いだ。愛液とは膣の保護のために出るもので、言ってしまえば『これからセックスをする』と認識すれば、例えヤっていることがレイプだろうと嫌でも出てくる。

 だが、性的な快楽を感じたから愛液が出てくる、と勘違いしている人は結構多く。

「違うんです……こんなの、私のカラダじゃありません……」

 めぐみんも、そんな勘違いをしている一人だった。

 瞳から涙を溢れさせながら、自らの愛液が作ったシーツの染みを信じられないものを見るかのように凝視している。言葉では必死に否定しながらも、頭の中では自分が感じたことで愛液が出てきてしまったのだと勘違いしているのだろう。

「そうか、それじゃ本当に感じていないか確かめてやる」

「ひうっ!?」

 俺は、膣内に舌を割り入れ、ゆっくりと焦らすようにしながら上下に動かした。

「あぐっ、ひっ……んっ……んひゅっ……」

 先ほどは悲鳴ばかりを上げていためぐみんの口に、喘ぎ声が混じってくる。

 こうなると人間は不思議だ。『性的な快感を得たから愛液が出てきた』という脳の錯覚に対して、カラダが逆に“そうなるように”対応してくる。

 割り箸を当てて火鉢だと思いこませると火傷の痕がつくという催眠術の話と同じで、先ほどは生理的嫌悪を感じていたはずのクンニが、脳の錯覚で、本当に性的な快感を覚えるようになるのだ。

「ああ、ひあっ……ぐっ、んんっ! んっ!」

 めぐみんは慌てて自分の口を覆い隠して声を塞ごうとするが、それでも俺の舌の動きに合わせて律儀に反応が漏れ出てくる。何より、口どころか、カラダ全体がヒクヒクと動くのだ。もう隠しきれない。

 俺はめぐみんの割れ目から舌を離し、嬲るような声色を意識して口を開いた。

「おやおや、どうした? レイプされて感じているじゃないか。めぐみんはエッチな子だなー」

「ふー、ふー……」

 めぐみんは、訪れた束の間の休息に息を整えるのに精いっぱいなのか、反論してこない。

 しかしその間も愛液は女性器から漏れ出てきていて、細かく震えるめぐみんの細い足にいくつかのラインを描いている。

 俺はそのラインの終端の一つに人差し指を優しく添え、ラインを辿るように太ももをつーっと撫で上げ。

「っっっ!?」

 一際大きくカラダを震わせためぐみんを確認しながら、指を女性器まで辿りつかせ、クリトリスを弾いた。

「んぐっ、はっ、はっはああああああっ!!!???」

 めぐみんは一瞬だけ、我慢しようと口を塞ぐ自らの手に力を入れたものの、喉の奥から込み上がってきたのであろう嬌声を抑えきれずとうとう解き放った。絶頂の瞬間だ。

「かはっ! はひいいっ、んあああっ!」

 カラダ全体をビクビクと震わせながら、大きな喘ぎ声を上げる。カラダを襲い続ける快楽を、声を出すことでしか制御できないのだろう。

 涙と鼻でぐしゃぐしゃになった顔。

 みっともなく大きく開けた口の端からは唾液が垂れ。

 汗に濡れて振り回されたことでぼさぼさになりつつある黒髪。

 何かから逃れようと必死に捩らせる贅肉が少ないカラダ。

 まるで誘ってるかのように俺の眼前で小さく震える尻。

 ……隣ですやすやと寝息をたてているゆんゆんとは対照的に、ひどく乱れていた。

 そんな様に、俺は我慢できずに逸物を持ちあげると――。

「はっ、はあっ……いや、いやです……」

 めぐみんが気付いて、涙目で首を振ってくる。

 俺は獰猛な表情を浮かべて。

「言っただろ。俺はお前を泣かして――」

「いやです……。カズマとは、もっと、普通に、愛し合いたいんです……」

「っ!?」

 予想外の言葉が飛んできたので、俺は止まってしまった。

「カズマ、カズマ……」

 めぐみんは、動揺して動けない俺の顔にそっと手を添えて、引き寄せ。

 そのまま、唇を合わせてきた。

「ん、んむっ……ん」

 唇を、触れ合わせただけ。

 擦れ合う角度を、変えるだけ。

 漏れ出る息を、くすぐったく思うだけ。

 俺が普段やるキスならばここから舌を割り入れて、口の中の性感帯を探し当てて刺激し、同時にカラダもあちこちペティングして、本番への下準備とするところなのだが。

 めぐみんが、キスの間の息の仕方がわからないのか時折苦しそうな声を出しながらも、唇が触れた状態を維持しようと一生懸命になっているのを見て、俺はされるがままになっていた。

 長い、長い、キスだった。

「ふっ……ふはあっ」

 とうとう息の限界が来たのか、めぐみんが離れる。

 火照った頬と、とろんとした目が、乱れたカラダと相まって、とてつもなく綺麗だった。

「はっ、はっ……」

「はぁっ、はぁっ……」

 俺の息もいつの間にか上がっていた。

 恍惚とした表情でこちらを見つめてくるめぐみんの視線が、なぜかひどく気恥ずかしい。

 めぐみんは、自らの唇を何度か指でなぞり、それがどうやって言葉を発していたのかを思い出しているかのようにしながら、ゆっくりと言葉を並べた。

「……カズマ。私は、いつかカズマと、こういう関係になれたら、と思ってたみたい……です」

「はぁっ、は……ふー……ふー……」

 俺は、呼吸が乱れてるので落ち着かせてますよ、と言わんばかりにわざと長い息を吐いて言葉を返さなかったが、めぐみんは構わず続けた。

「――と言っても、曖昧な想いだったんでしょうね。こうしてカズマに襲われるまではっきりと自覚はできなかったんです。でも、考えてみれば、私からカズマを挑発していた場面もいっぱいあるんですよ」

「……ふー……」

「カズマ。カズマは、爆裂魔法を撃って動けない私をおぶるとき胸の感触を楽しんでいましたよね。お尻を触って、私がびっくりして声を漏らすとニヤけてましたよね。……私は、そうされるとわかってて、毎日あなたと散歩に出かけていたんですよ」

「……」

「カズマ。実は、最初はセクハラされるの嫌だったんです。でも私をパーティーにいれてくれた恩人なんだからこれくらいは――と思って我慢してんですけど、いつの間にか『しょうがないなぁ』という思うようになって、そして次第に、楽しみに思うようになっていたんです」

「…………」

「カズマ。私は今日、はじめて自分の気持ちを自覚できました。でもそれは、カズマに襲われたいんじゃなくて、愛し合いたいって気持ちなんです……」

「………………」

「……カズマ」

「……おう」

 

「私は、『やめて』なんて一言も言っていませんよ?」

 

「……しょうがねえな。泣かしてやるって目的は、もうとっくに達成できてるわけだしな」

「はい。しょうがないんです」

 めぐみんはそう囁いてくすりと笑い、再び唇を寄せてきた。

「んっ、ふっ……」

 今回も長いキスだったが、めぐみんは呼吸のコツを早々に掴んだのか、もう苦しそうな声を紛れさせることもなく唇の感触を楽しんでいる。さすがは知能が高い紅魔族だ。

「んひゅっ……んむっ」

「ん……うっ!?」

 だが逆に、今度は俺が声を上げる番だった。

「……んふふっ……」

 いたずらっぽい目で微笑むめぐみんは、俺のチンポを両手で掴んで扱いてきたのだ。

 動きは拙いが、めぐみんの滑らかで細い指が妙に絡みついて、一回、二回と扱き、カリに、亀頭に、指が触れるだけで、あっという間に射精欲が高まってくる。

 俺は慌てて唇を離した。

「ふぅっ……! よし、そろそろ挿れさせろ!」

「はい。私を……私をカズマの女にしてください」

 手玉に取られつつあるのを誤魔化そうとやや乱暴な口調になっていたが、めぐみんは優しい声色で応じ、ベッドに横たわって脚を開く。

「よし……やってやるからな! うっしょっ!」

「んぐっ!? ぐっ!」

 俺が、めぐみんの中に、入りこんでいく。

「うお、おお、おおお」

「かっ……はっ……! んくっ!」

 めぐみんの膣内は、極上の感触だった。

 狭い、キツイ、柔らかくない部分がある、とマイナス面はいろいろと頭の片隅に浮かぶが、そんなのは些細なことと無視できるくらい、内壁が生み出す滑らかな感触が俺の満足度を上げてくる。

 人の肌とは粘膜を通してカラダの内側まで繋がっているものだ。顔の肌が、唇を通し、口腔内、喉、食道、そして胃へと繋がっているように、そこに切れ目は無くひとつながりの存在なのである。それはつまり、外皮の状態が、内臓の状態にも繋がっていることを意味する。

 だからこそ、めぐみんやゆんゆんのようなロリっ子特有の瑞々しい肌の感触は、内臓である膣の内壁にも続いていて、それがこの甘美な感覚を生み出していた。

「うおおおおっ……いいぞ、すごいいいぞ、めぐみん!」

「ああっ……! あ、う、嬉しい、ですっ……!」

 そして内臓とは、不随意筋の塊である。

 めぐみんの膣は、本人の意識とはおそらく無関係に、侵入してきた俺のペニスを締め上げ快楽を与えてくる。先程から愛液という涎を垂らし続けていた膣は、待ってましたとばかりに俺のチンポにしゃぶりつき、射精を促してくるのだ。

 俺は了解したとばかりに、腰を振りだした。

「ふうっ! ふっ! ふんっ!」

「はっあっ! あぐっ、んあっ! あっ……!」

 そんな俺と膣とのやり取りなどもちろん知らないだろうめぐみんは、ただただ苦しそうに唸ってシーツを握りしめ、俺が乱暴に膣を貪るのを必死に耐えていた。

「ふっ! はあっ! はっ!」

「かはっ! ひはっ……! はがっ、あ、あああ、あっ!」

 静かな室内に、めぐみんの喉から苦悶の声と空気が漏れるような音だけが響く。

 俺が逸物を突き入れる度に、めぐみんの未成熟な膣では受け止めきれずに内臓がまるごと圧迫され、中に入っていた空気が逃げ道を求めて喉から抜け出て行っているのだ。穴のあいたゴムタイヤに外圧を加えたら空気が飛び出していくようなもので、これは、呼吸と呼べるものではない。

「はっ! はふっ! かっ、んぐっ!」

 口を開けば抜け出る一方の空気に対して、めぐみんはなんとか吸う作業を紛れ込ませ息をつなごうとするが、それでも追いつかないのかどんどん表情が歪になっていく。

 さすがにまずいと思って俺は腰を振る速度を落とそうとするが――。

「ダメです! 動いてっ! くださいっ……!」

 めぐみんはイヤイヤと首を振り、求め、そして自らも腰を動かしてきた。

 ……歪んだ表情を無理矢理矯正してこちらに笑顔を向けてまでそう言われては、こちらも動かざるをえない。

「しょうが、ねえな……っ!」

「そうです! しょうが……っ……ない、んですっ……! 私が、かっ……私が、欲しがっ、てる……だけなん、ですからっ……! んぅっ! カ、カズマは、好きに、好き、に……動いて、くださいっ!」」

「わかったっ! いくぞっ!」

 俺は腰を振る速度を上げた。

「ふうっ! ふっ! ふうっ!」

「あぐっ、ああああっ! んあっ! んむっ! あぐっ!」

 セックスとは、女性に傷を与える行為だ。

 カラダの中に異物を刺し込むことからしてそうだし、処女に対しては処女膜を破る、それなりに慣れた女性相手でも膣に裂傷を与えることもある――例を挙げればキリがない。日常的に手首に赤線を走らせているような女性が、自傷の代替行為としてセックスを選ぶこともあるくらい――セックスは、カラダに傷を与えるに等しい行為なのである。

 そして傷は、カラダにつけられる物理的ものばかりだけでなく、心にも刻まれる。

 めぐみんはまだ幼く、目の前には無数の道が開かれている。今後どのような道を歩むのかは未知数だ。もしかしたら、俺の元から離れることもあるのかもしれない。ひょっとしたら、他のパーティーに入ってまだ見知らぬ誰かと交流を深めることがあるのかもしれない。

 だがこれからどんな道を歩もうとも、誰と関わろうとも、その度に思い出すのは今日与えられた『傷』――俺の顔だ。俺のチンポの感触だ。そこで感じた痛みだ。

 今日の俺の行為が、幼いめぐみんにとっての呪いとなり、今後の人生にはその影がずっとちらつくこととなる。

 未成熟なカラダと心にとってセックスは、それほどまでに深い傷。

 仮に、妙齢の女性とのセックスがその人が今まで育ててきたカラダや培ってきた経験など『過去』を頂く行為であるならば、ロリっ子とのセックスとはその子の『未来』を奪う行為なのである。

 俺は今、取り返しのつかないことをしている。

 そんなことはわかっている。

 しかしそんな背徳感があるからこそ、めぐみんの未来を奪う行為に、自らのものにする行為に、魅力を感じるのだ。

「ぐっ、あぐ、あぐっ! ああっ! あっ!」

 俺が腰を動かす度に、めぐみんは律儀に跳ねて声を漏らす。

 俺の思い通りに、動くようになっていく。

 俺の色が、めぐみんを染めていく。

 ロリっ子を指して熟れる前の果実とはよくいったものだが、一度熟してしまった果実は、もう熟れる前に戻ることはできない。未成熟である期間は有限なのだ。そんな人生の限りある期間を俺の色に染め上げることができるという、そして、今後の熟れゆく人生においても俺につけられた色は決して消えることなく残るという、これ以上ない征服感。

「あっ、あっ、あくっ、あああっ! んあああっ!」

 俺の腕の中で、めぐみんが色香を纏って乱れる。

 呼吸の苦しさと、同時に訪れる快楽に、表情を歪ませながら。

 それでもなんとか俺を愉しませようと、汗に濡れたカラダを試行錯誤して捩らせながら。

「ふぅっ! ふうっ!」

「はっ、はぁっ、カズマ、カズマっ!」

 俺の背に爪を食いこませながら。

 脚を絡ませながら。

「カズマっ、出してくださいっ! 膣内に、膣内にっ!」

「おう! 出してやる! 出してやるからな!」

「や、やったぁ……」

 突然、子どものような声に戻って喜びを表現しためぐみんを見て、俺の理性は限界に達した。

「う、うおおおおおっ! ふううううっ!」

「あ、あああっ!!? ひゅっ、出てる、出てますっ、出てますよっ!」

 征服感と達成感に後押しされた射精。

 精神的な充実感が迸る精液の熱と量になって現れ、めぐみんのカラダに注がれていく。

「あ、ぐっ! お、おおおっ!」

「んんあああっ! あ、熱い、お腹が、お腹の中がっ……熱いですっ……あ、あああっ……」

 めぐみんの柔らかな腹が、内側から押されて膨らんでいく。

 幼いながらもスラッと細いカラダの中で、その曲線だけが異様さを見せていた。

「あ、あああ……」

 そして腹の膨らむ度合いに正比例するかのように、さっきまで苦しそうだっためぐみんの表情が次第に穏やかになっていく。

 呼吸もそれに伴って落ち着きを取り戻しつつあった。

「ふ、ふー……ふー。やっべー、すげー出た……」

「えへ……え、えへへ……まるで一瞬で妊娠したみたいで……す……」

 めぐみんはそう言いながら、ぽこりと膨らんだ自分の腹をヘソの辺りからそっと撫でた。

 僅かな刺激に反応して膣口から精液が溢れだしてくるが、めぐみんはそれを指で浚って顔の前に持ってきて。

 うっとりとした表情で指から垂れる精液を眺め、呟いた。

「……妊娠……そうですよね、いずれはカズマと結婚しなければなりませんね。そして、子どもを作って……みんなに祝福されて……みん――」

「……」

「……」

「……めぐみん?」

「…………すひー……」

 突然将来予想をやめたのを不思議に思って声をかけたが、すでにめぐみんは寝息をたてていた。めぐみんとゆんゆん、二人の静かな呼吸音だけが部屋を支配する。

「……おやすみ、めぐみん。また明日」

 俺も、めぐみんを抱き枕にして眠りについた。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 俺は宿屋の、自分で借りた部屋のベッドで目覚めた。

 

「……ふー」

 やりきった心持ちで長い息を吐く。

 もちろんベッドにはめぐみんやゆんゆんの姿はない。二人は隣の部屋で、今も幸せそうに寝ているはずだ。

「カズマさん、お疲れ様です」

 声の方向に視線を向けると、ノゾキミしていたロリサキュバスが窓枠に腰掛けていた。

「ああ、お疲れ。……うーん、なんか結局和姦ムードになっちゃったな」

「わ、私のせいじゃありませんよ!?」

「わかってるよ」

 慌てて手を振るロリサキュバスに苦笑いしながら返事をして、息を吐く。

 今回めぐみんをお仕置きする【夢】を見るにあたって、いつもと違い厳密なシナリオは組まなかった。【アンケート用紙】にプレイ内容を書き連ねるというワンクッションを挟むことで怒りが無駄に薄れるのを嫌ったのもあるし、怒りに思考を委ねたままめぐみんを目の当たりにすることで、きっと普段は思いつかないようなひどいプレイをひらめき、めぐみんをより凄惨な目に遭わせ、効率のよい憂さ晴らしができると思ったからだ。

 ――しかし結局。

「なんかめぐみんの顔を見たら躊躇しちまった……。【夢】の中くらい好き勝手に暴れ回りたいんだけどなぁ」

「ふふっ。きっとカズマさんは、元々悪人にはなれない人なんですよ」

 俺は【夢】でも思い切った行動が取れない自分自身にがっかりしていたのだが、ロリサキュバスはなぜか嬉しそうな表情を浮かべ、続けた。

「その気になれば隣の部屋で寝ているロリ紅魔族にも同じ【夢】を見せられるとも言ったのに、それはダメって言いますし」

「……だって、もしそんなことしたら俺とセックスする【夢】を見ためぐみんと明日どんな顔して会えばいいかわからなかったし……俺が憂さ晴らししたいだけなんだから、俺だけ【夢】を見ればいいだけで、めぐみんにまでわざわざ痛い目に遭う【夢】を見せつけるのはなんか可哀想だし……」

「ほら、そういうところですよ」

 ロリサキュバスはクスクス笑う。俺は照れ臭くてそっぽを向いた。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「ぐずっ、うえ、うえええ……」

「め、めぐみん……? どうしたの?」

 

 宿屋の一室で目が覚めた私は、ゆんゆんにしがみつき、泣いていました。

 涙が溢れる瞳では視界も滲み、混乱して思考がまとまらず、起こしてしまったゆんゆんに何か言わないとと思いつつも、喉から出るのは嗚咽だけ。

「うえええっ、ずっ、うえ、ぐずっ」

「……」

 そんな何も言えないでいる私を、ゆんゆんは優しく抱きしめてくれました。

 痛くない程度に背中をぽんぽんと叩かれ、髪をゆっくりと撫でられ、そんなゆんゆんの優しさに包まれ、私は更に大泣きしました。

「うああああああ……っ! わたっ、私っ、カズマの、カズマがっ……!」

「うん、うん。大丈夫。大丈夫だからね。怖い夢でも見たの?」

「ちがう、違うんですっ……! ぐずっ。……夢自体は、とても幸せだったんです! でも――!」

 見たのは、カズマと結ばれる素敵な夢。

 気付いてしまったのです。

 カズマと“そういう関係”になりたいと心の奥で薄々思っている自分がいること。

 気付いてしまったのです。

 “そういう関係”になった後私達のパーティーがどうなるのか、ということに。

「うああ、私がっ……カズマと、付き合いはじめたらっ、夢のような関係になったら、パーティーは終わります……ぐずっ……終わってしまいますっ……!」

 俗に言う、パーティークラッシャー。パーティーの中の男女が付き合いだしたことから全体の仲がギクシャクし始めて崩壊。そして結局、パーティーを崩壊させた気まずさから最初に付き合った男女も別れてしまう、という何度も聞いたことのある話が頭に浮かびます。

 私がカズマに抱く想いを他の誰かに知られれば、きっとあの鍋をつつき合う居心地のよい空間は終わってしまうでしょう。そうなったらカラダもロクに育っておらず女としての魅力に欠け、爆裂魔法に命をかけるめんどくさい女であると自覚のある自分には、あのパーティーを、カズマを繋ぎ止める自信なんて、ありませんでした。

 なぜ今まで自分の気持ちに気付かなかったのか。いや、なぜ気付いてしまったのか。

「こんな夢なら、見なければよかった……! 自分の気持ちに、気付かなければよかった!」

 そうすればこんな苦悩はしなくて済んだのに。

 何が『知能が高い紅魔族』でしょうか。お笑い草です。……いえ、私は一般的な紅魔族と違ってかしこくはないのでしょう。爆裂魔法というネタ魔法を嬉々として選ぶような、バカな女ではありませんか。

「ははっ……なんて、愚かな」

「めぐみん……」

 自嘲する私を、ゆんゆんが優しく髪を撫でてくれました。

 ……目の前のゆんゆんのような魅力溢れる『優秀な紅魔族』ならば、こんな苦悩はしなくても済んだのでしょうか。ライバルを名乗る関係でありながら、その実、私はゆんゆんにいろんなところが負けているのです。色気ある肢体、上級魔法の利便性……。

 そう思っていると、ゆんゆんは意を決したような表情で口を開きました。

「あのね、めぐみん」

「……なんですか?」

「私も、カズマさんといい関係になる夢を見たことがあるの」

 …………。

 

「は?」

「あの夢は凄かったなぁ……。最初はレイプされてびっくりして抵抗してたんだけど、あっという間に気持ちよくされちゃって、それからカズマさんと気持ちが通じ合って、最後はお互いの合意のもとに……ってそれはどうでもいいの!」

 この女は何を一人で盛り上がってるのでしょうか。

 目の前で一人で顔を赤くして照れたり慌てたりするゆんゆんを見て、なんだか私はバカらしくなって急に冷静になってきました。

 私がジト目で見ていることに気付いたゆんゆんは慌てて。

「つ、つまりね! 私も、カズマさんのことを夢に見るくらい、カズマさんが……す、好きなの!」

「なっ!?」

 顔を真っ赤にして、衝撃の事実を告げてきました。

「さぁ、どうするの? 私はカズマさんにアタックするかもしれないわ! カズマさん、私の、お、おっぱい、いつも見てくるし! 成功率は高いと思うし!」

「ゆ、許しません! ゆんゆんはやっぱりチョロいですね! どうせちょっと優しくされたからとあんなダメ男に引っ掛かったんでしょう!? あんなクズ、やめておきなさい!」

「痛い痛い! 胸を引っ張らないで! って、そうじゃないわよ! 私がやめるとかそんなのはどうでもいいの! めぐみんは、どうするの!?」

「そんなの全力で阻止します! ゆんゆんがどんなアプローチをしようとも、私の溢れる魅力でカズマを振り向かせて付け入る隙を与えなければ――」

 そこまで言葉を発したところで私はようやく、ゆんゆんの意図に気付きます。

 私が胸を掴んでいた手を力無く下ろすと、ゆんゆんはにこりと微笑んで言いました。

「……だよね。いいじゃない。障害があっても、困難があっても。私に渡したくないって思うくらい、カズマさんが好きなんでしょう?」

 ゆんゆんはずっと、私を発奮させようとしていたのでしょう。

 実際に私は気を持ち直しつつありました。

 この恥ずかしがり屋な子が、男への好意を口にしてまで私を立ち直らせようとしてくれたのです。ゆんゆんの友情と心遣いに、感謝の念が溢れ出てきて堪えません。

 ……ですが私は、ゆんゆんがパーティー外の人間だから、付き合うのを阻止する、私が振り向かせる、などと気軽に言えたのです。

「……私は、あのパーティーを崩壊させたくないんです。私がカズマと付き合ったら、きっと終わってしまう」

 先ほど泣いていた際に断片的に口走った言葉を、確かめるようにしながらもう一度並べます。

 一言一句を発する度に、胸を締め付けられるような感覚が襲ってきますが、ゆんゆんは優しく諭すように言ってきました。

「だったら崩壊させないように動けばいいじゃない。めぐみんが頑張って、めぐみんとカズマさんが恋仲になってもパーティーが別れないよう、繋ぎ止める力になればいいじゃない」

「でも私はカラダも未成熟な女ですし、爆裂魔法しか使えないネタ魔法使いですし、引きとめられるとは思えないんです」

「今はダメでも、引きとめられるよう成長すればいいじゃない。カズマさんやアクアさん、ダクネスさんの方から、めぐみんから離れるなんてとんでもない、どんなことが起こっても仲間のままでいたい、って思わせるような存在になればいいじゃない。最初から諦めるなんてめぐみんらしくないよ」

「……そうですね。そうですよね」

 ゆんゆんのおかげで、心の中で方針がまとまってきました。

 私はカズマが好き。

 でも今の段階ではそれを告げても、パーティーが崩壊しかねない。

 だったらパーティーが崩壊しないような成長をすることを自分に課す。

 ――それなら。

 

「わかりました。私は、私は……上級魔法を習得します」

 

「……えっ?」

「聞こえませんでしたか? 私は上級魔法を習得します、と言ったんです」

「ううん、聞こえてたけど……い、いいの?」

 私を発奮させておいて、ゆんゆんは今更何を怖気づいているのでしょうか。

「以前から少し考えてはいたんです。上級魔法を使える『優秀な紅魔族』になれば、パーティーに――カズマにかける負担を少なくできるのではないかと。今、ゆんゆんのおかげで心が決まりました」

「あ、あれっ!? 私!?」

「そうと決まれば、上級魔法の習得に不足しているポイントを稼がなくては! ゆんゆん、明日からレベル上げに付き合って下さい!」

「え、ええ!?」

「それでは明日の朝は早いですよ。おやすみなさい!」

「ちょ、ちょっと! めぐみん――!」

 ゆんゆんが何か言ってきていましたが、無視して毛布を頭から被り耳を塞ぎました。

 以前から考えていた事とはいえ最後は勢いで決めたという自覚はあるから、ゆんゆんの言葉で決心が鈍らないようにしたかったのです。

 それでもやっぱり、本当は怖い。

 上級魔法を習得することが。爆裂魔法だけに生きてきた自分が、爆裂魔法を捨てることが。

 それまでの私を捨てるようで。

 ……いえ、私は、新しい私になるのです。

 ポイントを貯めたら、上級魔法を習得するための冒険者カードの操作はカズマにやってもらいましょう。

 カズマの手で、新しい私に――『優秀な紅魔族』にしてもらうのです。

 そこまで考えたところで、私は泣き疲れていたのか深い眠りに落ちていきました。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「水と温泉の都、アルカンレティアかぁ」

 

 数日留守にしていためぐみんが、屋敷に戻ってくるなり旅行を提案してきた。

 バニルから三億という大金がもらえることを聞いてすっかり出不精になりつつある俺だったが、温泉と聞いては日本人の血が騒ぐ。

 俺は提案に乗り、今は道中、馬車の中だ。

 じゃんけんに負けたアクアが荷台でめそめそ泣いているのをBGMに、馬車の窓から見慣れぬ異世界の景色を眺めつつ、温泉街はどんなところだろうと思いを馳せていると。

「カズマ、カズマ」

 めぐみんが声をかけてくる。

 俺は欠伸を一つ入れて、聞き返した。

「なんだ? トイレに行きたくなったのか? 無駄に音が鳴って辺りが洪水になるという魔道具は買ってないから、したくなったら御者のおっちゃんに言うんだぞ。『私、トイレに行きたいんです……!』ってもじもじしつつ恥ずかしそうに言えばイチコロだ。この規則正しく並んだ馬車の列を自分から乱してでも止めてくれるだろうし――」

 

 

 

「カズマ。カズマは『スリープ』って使えましたっけ?」

 

 

 

 俺は、肝が冷えた。

 

 

 

 

 




最新刊を読んで書きたくなったので。
次は夏の原稿が終わる一ヶ月後くらいに。
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