※この作品はR-18です。

新人サキュバスと成り上がりの男   作:あるい椋

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時間が空いたので微妙に説明台詞多いです



サキュバスの勉強会と【夢】のウィズ

「カズマは『スリープ』って使えましたっけ?」

 

 水と温泉の都アルカンレティアへ向かう馬車の中。

 めぐみんの質問に、俺はどう答えるべきか迷っていた。

 

 使えるか使えないかで言えば、俺は『スリープ』を使えない。便利そうな魔法だとは思うが、他に優先したいスキルがあったのと、魔法を使った犯罪は重罪と聞いていたこともあって、実際の習得は見送っていたからだ。

 それにこの手の質問は、このパーティーではよくあることだ。俺は職業冒険者の特長を生かし数多のスキルを職業系統にこだわらず幅広く習得しているため、何のスキルを覚えていたかだとか、スキルの詳細はどんなものだったかなど、パーティーメンバーが俺に確認してくる機会は多い。

 例えば、千里眼スキルは遠視だけでなく夜目も利くようになるんだったか? とか。

 例えば、爆裂魔法を覚えるのにあと何ポイント必要なんですか? とか。

 例えば、あんたいつの間にかヒールとか覚えたりしてないでしょうね? とか。

 よって今回のめぐみんの質問も、俺という冒険者を抱えるこのパーティーではよく交わされるものの一つであって不自然ではないし、本来なら答えに迷う必要はない。

 しかし俺が今回に限って焦りを覚えていたのは、つい先日見た【夢】のことを思い出していたからだった。

 それは、めぐみんを題材とした【夢】。その中で生じた想定外の事態に対して、俺は『スリープ』を過去に習得済だったという捏造設定を咄嗟に作って事を収め、そのまま【夢】のめぐみんとセックスした。【夢】では自分の能力や姿形は自由自在であり、そのくらいの設定変更は容易だったから特に躊躇することはなかったのだが、そんな【夢】を見てからまだ数日と経っていないというのに、今回の質問である。

 ……まさかめぐみんは、あの【夢】のことを知ってるんじゃないだろうな?

 そんな疑念が頭を過ぎって仕方ない。だが、いつまでも返事をしないのは不自然だろう。俺は欠伸をまた一つ入れて、眠かったので反応が遅れましたという体を装いながら。

「いや、使えないけど?」

 そう答えた。

 焦りで回転が乱れている思考の渦の中からどうにか捻り出した、使えないスキルを使えると嘘をついて得することは何もない、そればかりか仮に戦闘に突入したときにパーティーを危険に晒しかねない、という考えからの回答だったが、言葉を発するという身体のアクションを挟んだことで心の動揺も少しずつ収まってくる。

 同時に冷静になってきた頭で考えを整理すれば、俺が勝手に焦っていただけで、めぐみんが【夢】のことを知っているかどうかなんて何の確証もない。本当にただの偶然で聞いてきただけなのかもしれないし、実は知っていてカマをかけているという展開もあるかもしれないが、それをわざわざこちらから確かめる必要はない。藪蛇になりかねないし。

 いずれにせよ、使えないと答える他ない、という結論に再度辿り着く。先程は苦し紛れではあったが、及第点に近い回答内容だったと思う。

 だが内容について安心すると同時に、自分の声色がいつもと変わっていなかったかが遅れて気になった。めぐみんに動揺を悟られなかっただろうか。

「そうですか。……ちょっと酔いまして、眠ってやり過ごせないものかと思っていたのですが」

 めぐみんは特に不審がる様子もなく、ちょっと残念そうに言った。

 その様に、俺は内心安堵のため息を吐きつつ、表情を変えずに提案する。

「乗り物酔いは遠くの景色を見てると軽くなるらしいぞ。窓際の席、変わってやろうか?」

「……そうですね。お願いします」

「ちょっとー。席変わってくれるなら私と変わってほしいんですけどー」

 いつの間に聞き耳を立てていたのかアクアが愚痴を飛ばしてくるが、俺は無視してめぐみんに窓際の席を譲った。

「どうも、ありがとうございます。……よいしょっ、と」

 めぐみんは座席のクッションに膝を立て、窓枠から身を乗り出すようにして景色を眺め始めた。そして肺の中の空気を新鮮なものに入れ替えようとでもしてるのか、深呼吸をひとつ、ふたつ。

「すー……はー……」

「ちょっとー! 聞こえてないのー? お尻痛いんですけどー!」

「すー……はぁー。…………ちぇ…………」

 抗議を続けるアクアの声に紛れ込ませるように、不満そうな音を口の中で転がしながら。

「……ぐすん。なによぉ……」

「……」

 無視されたアクアが涙目で膝を抱え、めぐみんも自ら作った腕枕に口元を埋めたことで、馬車の中を再び沈黙が支配する。

 俺にはめぐみんが何を不満に思っているのかわからなかったが、舌打ちのような音を発したのは一瞬だけ、後は澄ました表情のまま景色を眺めていた。……下手につつくとそれこそ藪蛇になりそうだと思った俺は、踏み込んで聞くことを躊躇し、やめた。

 そして席を変わったことで景色を見る楽しみが無くなってしまった俺は、馬車内を見回し。

「んー……こうなると手持ち無沙汰だな……おっ?」

 隣の席になったウィズが眠りこけているのが目に入った。体のラインがわかりにくいゆったりとしたローブに身を包んでいるというのに、それでも隠しきれない豊かな胸が馬車の振動に反応して揺れ動くのを見て、思わず凝視してしまう。

「……」

 ふと、誰かが、乳揺れは爆発だと言っていたのを思い出す。曰く、乳揺れとは、おっぱいの持ち主が何らかのアクションを起こしてから一歩遅れて追随するように起こるものであり、その様がロボットアニメなどでビーム等が着弾してからワンテンポ溜めて爆発が起こるのと似ているから……というような話だったと思う。

 そんな知識を前提に観察すると、なるほど確かに目の前で揺れ動く巨大なおっぱいは、馬車の動きと完全にシンクロしているのではなく、それより一拍遅れて揺れ動いているのがわかる。石でも踏んだのか馬車が大きく縦に跳ねれば、ウィズの身体と俺の視線も馬車と同時に跳ね上がるが、おっぱいはその段階ではまだ動かず、上がりきった俺の視線が重力に従って下へと戻り始めるときになってようやく、おっぱいも思い出したかのように上に動き始める。それくらい、動きのテンポが違う。

「おお……」

 どうでもいい知識だと思っていたが、こうして実物を目の前に再現されているのを見ると、言い様のない謎の感動がこみ上げてきた。

「……」

「はっ!?」

 俺が背中に悪寒を感じて振り向くと、ジト目でこちらを見ていためぐみんと目が合った。

「……」

「な、なんだよ……?」

 俺の問いかけに、めぐみんは何も応えずそのままプイッと顔を逸らし、景色を眺める体勢に戻ると。

「……ちぇっ! ちぇ! ちぇ!」

「んだよ、言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「お腹がすきました……」

 

 私は飲食店の机に突っ伏して、呟きました。

 カモフラージュのために着ているワンピースに皺ができているのがわかりますが、そんなことはどうでもいいと思えるくらい、飢餓感が心を支配しています。

 首だけ回して視線を横に向ければ、私が食べ終わった皿の山がうず高く積み上げられていて、店員や他の客がこちらの席を目にする度にギョッと驚いているのが気配でわかるものの。

「うう……」

 これだけの量を食べても、私は満腹にはなりません。いえ、お腹がぽっこり膨らんでいるので肉体だけは満腹なのですが、精神が、魂が、飢えたままの状態なのです。

 それもそのはず。サキュバスは男性の精気を食べて生き永らえる悪魔族であり、人間の食事――動物の死骸からはわずかな残滓程度の精気しか回収できないため、私は精気不足に喘いでいたのです。

 

 この事態のそもそもの原因は、カズマさんです。

 あの人は私を指名して大量の予約を入れておきながら、突然キャンセルして旅行に行ってしまいました。キャンセル料は全額どころか五倍のお値段をいただきましたが、金額の問題ではありません。キャンセルされたのはすでに予約を前提としたシフトが組まれた後のことであり、それが空白になるということは、私が精気を得るチャンスを逸したということで。

 すでにカズマさんが旅行に出てから数日が経過しており。慌てて調整してくれたシフトリーダーや、お客さんを譲ってくれた先輩方のおかげで、なんとか残機をギリギリ減らさない程度には精気を確保できましたが。それでも満腹には遠く、耐えがたい慢性的な飢餓感が私を蝕んでいました。

 

 そして、なんとか別口から精気を確保しようと、無駄に有り余る金銭を手にこうして飲食店に足を運んでみたのですが、最初の注文から失敗しました。

 この店で一番人気と聞いてカエルの照り焼きを頼んだのですが、これは元を辿れば産卵の体力をつけるために人里近くに現れ冒険者に狩られたジャイアントトードであり、要するに多くが雌なのです。味は確かにそれなりのものでしたが、雌肉からは精気を回収できないため、本当に無駄にお腹を膨らませただけでした。

 最初から素直に、人間に家畜として飼われている動物の肉を食べればよかったのです。それならば搾乳や繁殖など多くの選択肢がある雌と違い、食肉にされるのはほとんどが雄なのですから。

「うっぷ……」

 吐き気を催したので思わず口元を押さえ、膨らんだお腹をさすってなんとか堪えます。食事を通して精気を回収する手段は、もう肉体的というか物理的に限界のようです。ああ、本当にカエルの照り焼きは失敗でした。

「お会計お願いしますー……」

「ありがとうございます! またお越しください」

「……はい……」

 注文量に応じた多額の現金を渡し、それを満面の笑みで受け取る店員を若干疎ましく思いつつも、私は飲食店を後にします。

「うう、お腹が重い……。でもお腹すいた……」

 いつもと違う身体のバランスと回らない頭に振り回され、ヨロヨロと歩みを進めました。

 

 夜になり、担当となるお客さんの【アンケート用紙】を受け取る時間がやってきました。

 すでに先輩方は飛び立ち、部屋にいるのはシフトリーダーと私、二人だけです。

 しかし、シフトリーダーは申し訳なさそうな顔で。

「ごめんね、新人ちゃん。今日も新規のお客さん、いなかったのよ」

「いえいえ。大丈夫ですから」

 シフトリーダーが気を遣ってアレコレ動いてくれているのは知っているので、私は気丈に返事をしました。

 デストロイヤー討伐の報酬で羽振りのよくなった冒険者のおかげで、このお店は数週間先まで予約でいっぱいです。……そう、予約でいっぱいなのです。このお店を知っている冒険者のほぼすべてが複数回の予約を入れて、それを前提に先々までがっつりとシフトが組まれていた程度には。

 しかし、すでに予約済で日取りも決まっているお客さんに対して「他の日にズラせませんか?」などとお店の側から言えるわけもなく、先輩方から必要以上にお客さんを譲っていただくことも気が引けて。私の空腹を埋めるためには、カズマさんが旅行から戻ってくるのを待つか、飛び込みでやってくるお客さんや新規のお客さんに期待するしかありませんでした。ですが、今日も空振りだったようです。

 ……大丈夫。まだ残機が減るまでには余裕があります。明日に、明日に期待しましょう。

 そんな不確かな希望に縋るしかない私を、シフトリーダーは一瞥して顔をしかめると。

「……具合はよくなさそうね。精気を分けてあげるから、こっちにいらっしゃい」

「……は、はい……。ありがとうございます」

 手招きされ、私は歩み寄りました。

 シフトリーダーは王都で活動していた際に知り合った精気のパトロンがいるらしく、このお店に来るお客さんを相手にしなくても十分な精気を確保できると聞いています。そのため普段は、それこそ飛び込みや新規のお客さんが来た時に対応する余剰人員としてお店にいるそうですが。

 ともかく、頂けるというのなら、遠慮なく頂くことにします。この飢餓感から脱せられるなら。

 私は、椅子に座っているシフトリーダーの膝上に乗せられ。

 そのまま上から覆い被さられるように唇を重ねられました。

「んっふ……」

「ふぁっ」

 意図せず間の抜けた声が出てしまいました。

 粘膜同士の接触による、精気の受け渡し。自力で精気を確保できない地獄で暮らしていた頃に母からやってもらっていたのと同じ方法ですが、その頃より私が大人になったからなのか、身内以外にキスをされるということに微妙な抵抗感を覚えてしまいます。しかし、これは本当の意味で死活問題でもあるので、そのまま身を委ねました。

「んふっ、ん、んっ」

「んー……ん……」

 普通のキスと違って、お互いに口をやや大きめに開けての重なり合いです。

 一つの路として繋がった口腔を通して、ドロリとした粘性のある呼気が送り込まれているのを感じます。これは魔力によってコーティングされた精気です。

「んむっ、ん、ん……っ」

「ふー……んふー……」

 シフトリーダーから呼気が送り込まれる度に、精気が私の身体に浸透し、活力が戻ってくるのがわかります。同時に頭もすっきりしてきて、ああ、さっきまでの私はぼんやりとした意識しかなかったんだなぁ、と自覚することもできました。

 そして一方的に精気だけ頂いているのが申し訳なくなってきた私は、路の中に自分の舌を差し込み。

「んっふ!?」

「ふゅっ、ふむっ……ん、は、ふっ……」

 シフトリーダーはびっくりしたのか一瞬目を開きましたが、私は構わず、舌でシフトリーダーの口腔内を愛撫しました。舌の下側、歯茎の裏側……カズマさんに教えてもらった、口の中の気持ちいい場所です。

「ふ……ふふ……ん……ちゅっ、ちゅ……」

「んーんっ、はふ……ん……」

 最初戸惑いを見せたシフトリーダーも、そこは経験の差か、すぐに自らの舌をも私の口内に送り込んできて。

「はふっ、んちゅっ、ん……んっ」

「んふゅ……くちゅ、んむ……ちゅっ……ふぁ……」

 お互いに身を捩らせながら、舌技を楽しみ合いました。

 

 そのまましばらく精気の受け渡しを続け、私の顔色がよくなってきたことを確認したのか、シフトリーダーがゆっくりと離れていきます。

「はっ、はー、はー……」

「ふぅー……ふー……」

 お互いの息は荒く、汗だくでした。体力を無駄に使ってしまった気がしますが、それでもキスする前と比べて体調はずいぶんと回復しているのを感じます。

 私は頭を下げました。

「シフトリーダー、ありがとうございます。おかげさまでかなり復調しました」

「どういたしまして。……それにしても新人ちゃん、キス、上手ね……」

「えへへ……まだ実践の経験は無くって知識だけだったんですけど、上手くできていたならよかったです」

「その知識は、カズマさんから教えてもらったの?」

「はい。直接教えてもらったり、ノゾキミした【夢】の中にあるビデ……書物を読んだりして」

 先ほども言った通り、得たのは知識だけで頭でっかちなのですが。

「へぇ。そんなものが……。カズマさん、最近は新人ちゃんばっかり指名しているから、私は【夢】をノゾキミする機会がないのよねぇ」

「あはは……」

 カズマさんは基本的に私を指名してくれています。……だからこそ、今回のように予約をキャンセルされると困った事態にもなるのですが。

 それに、私のシフトと合わないときもやっぱりあるので、それでもとりあえずヌきたいという日は他のサキュバスが担当しているらしいのですが、シフトリーダーは機会に恵まれなかったようです。

「新人ちゃんはよっぽどカズマさんに気に入られてるのね。何か特別なことでもやってるのかしら?」

「そうですね……」

 パッと頭に浮かぶ理由は、地球のことを私が知っているということ。出身世界の情報をあまり広めたくないカズマさんは、地球を舞台にした【夢】を見たい時には、日付は遅くなってもいいからとにかくロリサキュバスを! と、ご指名頂いているみたいですし。

 ですが、他の【夢】を見たい日でも私をご指名頂いているのは――。

「――カズマさんに特化したサービスを色々考えているから、私が指名されているのかと思います」

「へぇ……どんなものか聞いても?」

 シフトリーダーはそう言いながら、なぜか私のお腹に指を這わせてきました。思わずぴくりと反応してしまいましたが、私も反撃にと、目の前にあったシフトリーダーの大きな胸を弄びます。強く揉んだり持ち上げたりするのではなく、掌を使って表面を撫でまわすようにしながら。

 あぁ……シフトリーダーの胸の形は素敵です……。今度【夢】に架空の女性を出す時はこの形にしてみましょう。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、質問に答えます。

「【夢】を見せる方法は、お客さんが心の奥底に持っている願望を自力で見れるようにサキュバスは誘導する力を送るだけのやり方――言うなれば誘導タイプと、サキュバスが【夢】の内容を全てコントロールして見せたいと思ったものを見せるやり方――言うなればシナリオタイプ、二種類があるじゃないですか。これをハイブリット方式で使ってみたんです」

 地球の【夢】を初めて見た時を契機に、このハイブリット方式が私達のスタンダードになりました。

「以前はカズマさんの書いた【アンケート用紙】の内容をなぞる形で私が【夢】の全てを演出するシナリオタイプだけを使っていて、そのために出演する女性や場所を綿密に事前調査していたんですけど、それだとカズマさんが暮らしている屋敷や、なぜか悪魔の気配に敏感な青鬼など、調査が難しいところもあったんですよね」

「ああ……あの結界まみれの屋敷と青髪のアークプリースト……」

 シフトリーダーが遠い目をして呟き、私は頷きます。

「ですが誘導タイプを混ぜることで、足りない部分はカズマさんの記憶から自力で再現してもらい、補完できるようになりました。加えて、私が知らない人や場所でも【夢】に登場させられるようになり、満足度の高い【夢】を提供できるようになったんです」

「それって、100%誘導タイプではダメなのかしら?」

「カズマさんはアレで何気にかなり現実的な価値観の持ち主なんです。それでいて【夢】に登場するのは妙に性的に敏感な女性だったり、都合のいい状況だったり、カズマさん本人すらも内心ではありえないと思ってることを出そうとするので……誘導タイプだけだと現実的な価値観の方が優先されるので、シナリオの再現性が低いんですよ」

「なるほど。それなら他の“若い”子だとムリね」

「はい。おそらくは」

 誘導タイプの【夢】しか知らないこの店の若いサキュバスだと、カズマさんの深層心理から現実的な価値観を勝手に表出させてしまい、都合のいいシナリオ展開や、アブノーマルなプレイ内容は抑えられてしまうことでしょう。カズマさんもそれがわかっているのか、他のサキュバスが担当する日は【アンケート用紙】もマイルドな内容にしているようですが。

「それに最近はたまにですけど、私にシナリオを任せてもらえるようになったり、カズマさんのシナリオに突然アドリブを持ちこんだりするのを許してもらえるようになりました」

 ロリ紅魔族の【夢】が切っ掛けだったのでしょうか。たまに、ただ女を抱きたいという欲望をストレートに――【アンケート用紙】に書く作業を挟まずにそのまま出したいという日もあって。そういうときには女性像やシナリオ展開も含めて私に全てが委ねられるようになりました。

 いずれは自分一人の手で相手を満足させたいと考えてる私にとって、これはいいステップアップとなりました。それにアドリブ展開がうまくいけば、普段以上の満足、普段以上の精気を獲得することができます。……とはいえ毎回うまくいくわけではなく、満足度が低い回もあったりして、そういう時にはがっかりした顔をされて非常に心苦しい思いをしたりもするのですが。それでもカズマさんは変わらず、私を指名してくれるのです。

「……まぁ、こういったカズマさんの要望と、私の成長と、持ちつ持たれつでやっている関係ができているから、指名を頂いているのかと思います」

「なるほど、そこまで信頼関係ができているわけね」

「はい!」

 思わず胸を張った私でしたが、シフトリーダーは一拍挟んで。

「……あー、でもね、貴女がハイブリット方式と呼んでいる方法、実はベテランのサキュバスならみんなやっている方法なのよ」

「え!?」

 シフトリーダーが淡々と口にした言葉に、私は驚きました。

「新人ちゃんは誘導タイプとシナリオタイプ、すべてのリソースを全部カズマさんの要望を最大限叶えるために使ってるみたいだけどね。ベテランのサキュバスは、男性が希望する夢を誘導タイプで与えつつ、同時に自分の希望も叶えるためにシナリオタイプを……と言った具合でハイブリット方式を使ってるのよ」

「自分の……希望?」

「精気の獲得よ」

「?」

 私は首をかしげました。

 精気の獲得。それは今でもやっていることではないでしょうか? この口振りだと、ハイブリット方式を使わないと精気を得られないように聞こえるのですが……。

 そう疑問に感じた私でしたが、シフトリーダーはやや疲れた顔になって続けます。

「アクセルだと、男性冒険者とサキュバスの共存関係が成り立っているけどね。他の街だとそうはいかなくて、冒険者に【夢】を見せている最中にパーティーメンバーのプリーストに見つかって撃退される時もあるし、王都とかだと一般人相手にしてるときでも巡回の騎士団に感知されて襲撃されることもあるわ。そうすると男性に願望どおりの【夢】を見せて、最大限満足してもらって結果的に精気を得られればいいなんて悠長な話は言ってられなくて……。素早く精気を回収できるように、早く絶頂に到達するように、こちらからも内容に介入したり、場合によっては自ら手管を駆使したりするのよ」

「それでハイブリット方式を……他の街ではそうなんですね」

 私は納得し、この街を基準に考えてすっかり成長した気になっていた自分を恥じました。

 ここ、アクセルの街では、男性冒険者が私達に気を遣って、宿や馬小屋に一人で泊まったりと女性冒険者をなるべく遠ざけて準備してくれていますが、他の街ではそうはいかないのです。本来、人間にとってサキュバスは、男性を襲う、退治すべきモンスターなのですから。

「でも新人ちゃんが、まさか自力でその方式を編み出すとは思わなかったわ。男心を知らずに勝手に介入するとクレームが増えるだけだから、若い子にはまだ教えてなかったんだけど」

 その言葉に、私が最初に担当して、クレームを入れてきたお客さんを思い出します。そして、微妙な【夢】だった時にがっかりした表情をしていたカズマさんを思い出します。……私はまだまだ未熟なのです。

「……まだまだです。もっと、もっと、成長しなければなりませんね」

「向上心があるのは結構だけど、焦りすぎないようにね。……そうね。ちょうどいいから、若い子集めてハイブリット方式の勉強会でもやりましょうか。講師は貴女で」

「えっ!? な、なんで私か?」

「ほら、人に教えられるようになれば、自分の中の理解もより深まるって言うじゃない」

 

 

 ……どうしてこんなことに。

 

 なぜか妙にノリ気になったシフトリーダーがあっという間に周知と準備を進め、開店前の喫茶店スペースで勉強会が開かれることになりました。

 先輩方がメモ帳片手にずらっと並んで座っているのを前に、店で一番若いはずの私が講師という立場で立っています。恐縮で身が縮み、汗が流れ、言葉が震えます。元々オフの予定だったのに急に呼び出されたのか不満気な様子の先輩もいて、ちょっと怖いのですが。

「――ええと、ですので、お客さんの希望どおりの【夢】を見せるのは大事なのですが、それで私達まで満足するのではなく――」

 ですが聴衆の様子を見て声の調子や原稿を変えつつ喋るなどという大層な真似が、緊張している私にできるわけもなく、ただただ事前に準備した原稿の文字を目で追って、それを声に変える作業だけで精一杯でした。いえ、緊張のあまり、もう自分がどこを読んでいるのかも定かではなくなってきました。今自分が発している言葉は、ちゃんと原稿をなぞっているのでしょうか。

 ……うう、せっかく集まってくださった先輩方の貴重な時間を、このままでは無駄にしてしまいます。

「――ですので、お客さんにもただ【夢】を見せるだけで終わるのではなく、もっとコミュニケーションを取って、要望などを聞いてみましょう。それを、誘導タイプだけでなく、シナリオタイプで――自分の手で再現できるようになりましょう。それから――」

 必死に言葉を紡ぐ私でしたが、目の前の先輩が飽きを感じているのか欠伸などを入れ始めたところで。

「新人ちゃん、ちょっとしつもーん」

「は、はい! なんでしょう?」

 流れを遮られた形になりましたが、ボーイッシュ先輩が手を挙げたので、私は飛び付きました。微妙な空気を変えようとしてくれたのでしょうか。

 しかし、ボーイッシュ先輩は平坦な表情からいきなりニヤニヤした顔に変わって。

 

「新人ちゃんはー、カズマさんとはどこまでいったんですかぁー?」

「「「!?」」」

 

 妙に間延びした、ボーイッシュ先輩の声。

 それが響き渡ったことで、空気は確かに変わりました。……いえ、変わりすぎました。

 先輩方が一気に騒ぎ出します。

「え、どういうこと?」

「ほら、あのお金持ちの常連さん、あの子ばっかり指名するのよ。それで――」

「――カズマさんとはなんでもありません」

 大げさに反応しても噂好きな先輩方を喜ばせるだけ。そう思ってなるべく抑揚を抑えて、しかし騒ぎの流れを断ち切るように返事をしたものの、ボーイッシュ先輩は気にした様子もなく。

「でもさ、そのハイブリット方式ってどうやって思いついたの? カズマさんと“コミュニケーション”取っていて、思いついたんでしょ?」

 先程私が話した内容から単語を拾う形で、牽制球を入れてきました。

「そうですけど……きっと他のお客さん相手でも思いついてました」

 これは嘘です。

 きっとカズマさんの出身地に関する特殊な事情がなければ、私は深い知識を得ることも、よりよい方法を考えようとする気もなかったような気がします。

 そんな自覚はあったものの、今は場を収めることが優先という言い訳を自分に言い聞かせつつ、ボーイッシュ先輩相手に嘘をついたのです。

「とにかく、カズマさんはただのお客さんで――」

「でも、カズマさんに禁断の24時間コースで何度も指名されたってって聞いたよ?」

「「「!?」」」

 先輩方のざわめきが一層大きくなりました。先程不機嫌そうだった先輩も妙に瞳を輝かせて噂話に参加し始めたのが、視界の隅に映ります。

 このお店にはお客さんの希望プレイ時間に合わせて、2時間コース、3時間コース……とありますが、先輩方がこのような反応を見せているのは、その中でも禁断の24時間コースには『禁断の』とわざわざ枕詞がつくくらい、特別な意味があるからです。

 人間は普通【夢】の中だろうと24時間もセックスすることはできません。それくらいヤってやる! と意気込んでいた人でも大抵は途中で飽きてしまいます。

 なので禁断の24時間コースとは実質、【夢】を見る以外の起きている時間を担当したサキュバスと過ごすためのコース――有り体に言えば、担当のサキュバスと人間がデートしたり実際の性交渉をするためのコースなのです。一見さんには公開されておらず、ある程度お店の信用を得ると教えてもらえるらしいのですが、そうなるとシフトリーダーはカズマさんを信用していたということなのでしょうか。

 それはともかく、私とカズマさんは本当になんでもないのです。

 先輩方のざわめきがなかなか収まらないのを見て、私はちょっと声量を上げ、答えます。

「確かに24時間コースでご指名いただくときもありますが、事前の打ち合わせと、実際に見せる【夢】でいつも時間は使い切っています。他には何もしていません」

 嘘は言っていません。カズマさんが24時間コースを使うときの【夢】は大抵、地球を舞台にした【夢】だからです。その際、地球の情報が広く漏れることを嫌うカズマさんは【アンケート用紙】に多くを書かないため打ち合わせにも時間がかかりますし、【夢】の中の地球で遊ぶのにだって時間を使いますから。

「へぇー……。そんな長時間をかける【夢】ってどんな内容なの? カズマさんが禁断の24時間コースを使うときに、お店に提出される【アンケート用紙】はほとんど白紙だったって聞いたけど」

「そ、それは――」

 探るようなボーイッシュ先輩の言葉に、私は狼狽えました。

 カズマさんが伏せている情報を、まさか私の方から漏らすわけにはいきません。

「――い、言えません。しゅひぎむです」

「「「!!!」」」

 焦りから妙にカタコトになってしまったのを私がごまかそうとしていると捉えたのか、先輩方のテンションは最高潮に達しました。噂話があちこちで飛び交い、きゃいきゃい囃したて、もはや収拾がつきそうにありません。

 うざい。

 この人達はあれです。何回目かの地球の【夢】で見た、中学生と呼ばれる人種です。下校中の男女が手を触れ合ったのを見かけただけでキャーキャー騒いで下世話な妄想をするような、中坊です。

 ですがこの先輩方には空腹時に精気を分けていただいたり、お客さんを融通してもらった手前、強い言葉を発することもできない私は。

「とにかく! なんでもありませんから! ありませんからね! ハイブリット方式、そうでなくてもシナリオ方式、考えてみてください! 以上です!」

 強引に講義をまとめ、逃げ出すようにその場を後にしました。

 しかし先輩方は、もはや当事者がいるかいないかなどどうでもよくなっていたらしく、開店直前までずっと騒いでいたようです。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 露天風呂へと続く引き戸を開けると、そこは湯煙に覆われていた。

 

「うおお……」

 思わず感嘆の声を上げてしまう。

 それくらい見事な、一面の白。実に濃い湯気が露天風呂を埋め尽くしていた。

 よくアニメなどで局部を隠すために『不自然な湯気』と揶揄されるようなものが描かれることがあるが、そんなレベルではない。試しに腕を前方に伸ばしてみれば、指先すらも確認できない。それくらい濃密な白が視界を遮っている。

 修学旅行で行った北海道の露天風呂を思い出す。スキー研修も兼ねていたので真冬の旅程だったのだが、湯船との大気との温度差で、ちょうどこんな具合の湯煙が上がっていた。

 とはいえ、アルカンレティアは特に寒冷地というわけではないし、冬将軍の季節も終わりつつある今、なぜこのような湯気が噴出してるのかはわからない。昨日入ったときには普通だったし。……まぁ異世界だし、湯気が出る条件も日本とは色々と違うんだろう。角度とか。

 閑話休題。

 足場を確かめながら、おそるおそると湯船に足を差し入れる。

 濃い湯気のせいで足先すらも視認できないので、どれくらいの深さなのかいまいちわからない。実はこれは底無しの湯で、このまま奈落へと落ちてしまうんじゃないか、などという益体もない妄想にかられるが、膝小僧が水面に触れたあたりでようやく指先が底に触れる。そこからおっかなびっくりバランスを取りつつもう片方の足も湯に入れ、そのまま全身を沈ませることに成功した。

 湯船に入るだけで妙に時間を使ってしまった。視界が遮られるだけで、人の行動はこうも制限されてしまうのか。

「しっかし、こうなると誰かが入っててもわからないな……」

 こんな呟きすらも、濃い湯煙の前では視界と同様に吸収されて消えてしまいそうな気がしたが。

「きゃっ……! カズマさん……!?」

「お、おう、ウィズ」

 湯船の淵にそって歩みを進めていたところ、先に入っていたウィズと遭遇した。

 ウィズは慌てた様子で水面をパシャパシャ叩き、それからハッとなって身を掻き抱くようにして乳房を隠した。

「……す、すみません。変な声出しちゃって。こんな湯気ですから、カズマさんが急に現れたように見えて、びっくりしちゃって」

「あ、ああ」

 俺は歯切れの悪い返事をしつつ、内心ガッツポーズしていた。

 なにしろ、この温泉街に来て数日、ようやく混浴する機会を得たのだ。

 観光だの調査だのでわざわざ出掛けたりせず部屋に待機し、女子が風呂に入るのを見計らって自分も入りに行けばこんなものだ。

 それにここにいるのは、男湯と女湯が別にあるというのにわざわざ混浴を選んだ男と女だ。何も恥ずかしがることはない。

 良心の呵責など何も感じる必要がなかった俺は、ウィズのカラダをガン見した。

「……っ」

 俺の視線に気付いたウィズは膝をかかえてカラダを丸めるが、その仕草で胸のふくらみと谷間が余計に強調された。わざとやっているのだろうか。

 それに、湯船にタオルをつけてはいけないというルールはこの世界でも健在のようで、カラダを丸めても、個々のパーツが作る曲線の美しさは隠しきれない。

 太ももに押されてなだらかに形を変える大きな乳房。そしてそんな脂肪の塊を身につけているとは思えない、真横から見てもヘソの窪みが確認できるほど全体的にすらっとした肉体。過去にほどよく筋肉がついていたことを思わせる、メリハリのある太さの腕や脚線……。

 過去に一級の冒険者であったらしいウィズ。一線を退いてからどれだけの時間が経っているのかは知らないが、かつて鍛え上げられた肉体が年月を経て微妙に緩み、抱きやすそうな肉がついてきたかのような――そんな、刃金のような美しさと微量の朗らかさを内包した肢体だった。

「…………」

 俺達の間を、沈黙が支配する。

 ウィズは顔を真っ赤にして俯き、水面をブクブクと呼気で膨らませながらも、チラチラとこちらに視線だけを送り反応を伺ってくる。俺がこの世界に来てから一番大人の色気と落ち着きを感じた女性だというのに、こういう初心な仕草をするところがたまらない。

 やがて、沈黙と俺の視線に耐えられなくなったのか、ウィズが口を開いた。

「あの……せっかくですから、お背中でも――」

「お任せを! 超キレイに洗ってさし上げましょう!」

「えっ!? いや違いますっ私が洗ってもらうのでなくてええっ早っ!?」

 驚くウィズを尻目に、俺は迅速に湯船から上がって洗い場を整え、ウィズを迎い入れるべく恭しく手を差し伸べる。

「さ、どうぞ」

「は、はい……あの、せめて前は隠してください……」

 俺の股間の間でブラブラ揺れる逸物に、ウィズは戸惑った様子で顔を背けながらも、チラリ、チラリと、目を向けてくる。よく、女は胸に向けられる性的な視線に敏感だと聞くが、男だって逆の立場ならわかるもんだ。

「お構いなく。背中から洗うから」

「は、はぁ……わかりました」

 リッチーと駆け出し冒険者。仮にまともに対峙するとしたら俺に勝ち目などないというのに、押しに弱いウィズは簡単に流されてくれて、洗い場の椅子に腰かける。

 背後からでもその膨らみが確認できるほど大きなおっぱいが、こちらに歩み寄る、上体を倒す、椅子に腰を下ろす、息を吸う、吐く……そんな仕草を繰り出す度にいちいち揺れて、こちらのアイボールセンサーが反応してしまう。だが、いきなりそれにがっつくようなことはしない。

「では失礼して」

 俺は石鹸をとって十分に泡立てた手でウィズの背中にそっと触れ。

「ひゃあああっ!? えっ、素手、なんですか!?」

「もちろん。人を洗う時には素手で洗うもんだ。やったことないのか?」

「ああああありませんけど、え、ええっ!? そういうものなんですか?」

「タオルや手拭いとかだと皮膚に傷がついちゃうかもしれないからな。自分のカラダだって難しいのに、増してや他人のカラダに対して適切な力加減なんてわからないものだし」

「な、なるほど……わかりました。お願いします」

 テキトーな聞きかじりの理屈、しかしやたらと自信満々に発した俺の言葉にあっさりと納得したウィズは、佇まいを正し、俺の手を受け入れる体勢になった。俺は掌全体を使って、肩甲骨のあたりから背中を大きなストロークで撫でる。

「……っ…………ふゅっ……」

 背筋に点在する性感帯のいずれかに引っかかったのか、それともくすぐったく思ったのか、ウィズが肩を震えさせた。おそらくは両方だろう。

「…………ん……」

 ウィズが肩に入れた力を抜いたのを確認してから、俺は指を広げて、指圧だけでもう一度背中をなぞる。

「あ、ああー……」

 背筋の凝っている場所が簡単に指に引っ掛かり、ウィズは背中を反らしながら気怠げな声を漏らした。

 次に、人指し指と中指だけを立て、ウィズの肩をやや強めに押し込む。他の部位を押したときとは明らかに違う抵抗感を、指先に感じた。

「んあ、ああー……き、気持ちいいです」

「お客さん凝ってますねー。首周りとかすごいですよ」

「あ、わかります……? 冒険者やめてから運動不足なのか、凝りっぱなしなんですよね……」

 押し込むのを親指に切り替えて、更に指圧を増す。

「んっ、あ、そこいいです。……でも不思議なんですよね。肩コリに悩まされてる女性ってそんなにいないんです。ひょっとしたら体内で巨大な魔力を循環させてる魔法使い限定の症状かと思ってめぐみんさんに相談したんですが、なぜか飛びかかられてしまって」

「そ、そうか」

「それでひょっとしたら大きな魔力といっても人外クラスの魔力が条件かと思ってアクア様に相談したら、やっぱりアクア様も肩コリひどいらしいんですよ。これは大発見だと思って、人外クラスの魔力を強制的に吸うような魔道具を大量に作ってカウンターに並べましょうとバニルさんに相談したら、殺人光線を放たれまして――」

 世間話を続けるウィズだったが、俺は別のことを考えていた。

 『人外』というキーワード。ウィズがそうであるという事実。

 指先に感じるウィズの体温は、冷たい。アクアが夏場には抱き枕にしたいと言うのに共感できる程度には、素肌で触れるウィズのカラダはひんやりとしている。

 今更だが、ウィズは人間ではなく、アンデッドの王たるリッチーである。

 アンデッドというと、この旅の道中でアクアに救いを求めて群がってきたメジャーアンデッドモンスター・ゾンビの印象がどうも強く、『死んでるけど動く死体』のようなイメージが今のところあるが。

 しかし地球のゲームでも、種族アンデッドで一括りにされる連中にだってその中にはいろいろ種類があった。先程述べたゾンビのような動く死体、レイスのような幽体、そしてリッチーのような元人間が死なない存在になったもの、といった具合に。

 そう、アンデッドとは直訳すれば『不死』。ならば、別の解釈もできるのではないだろうか――。

 例えば目の前のウィズは、肌こそ冷たく色もやや青みがかかっているが微妙にぷにぷにしていて、髪はふわふわ、瞳の奥には光が宿っている。汗が垂れる首元から視線を下げれば、豊かな胸を呼吸の度に上下させ、日々の生活で肩が凝って、俺のマッサージもどきで気持ちよさそうに唸り……どう見ても生きた人間だ。生きている頃を思い出してそれらしく振舞っているとかそういう次元ではなく、どう見ても現在進行形で生きている。

 ――即ちウィズのようなリッチーは、アンデッドとは言ってもゾンビのような『死んでるけど動く死体』とは別物で、『生きてるけど死なない生物』と言えるのではないだろうか、と。

 ……だからウィズとセックスしても、死姦にはならないはずだ。

 そんな風に頭の中で理屈付けたところで、世間話を続けるウィズに声をかける。

「ウィズ。肩コリは、胸が大きいとなりやすいらしいぞ」

「え? ええっ!? そうなんですか!?」

 この世界にはそういう情報は共有されていないのだろうか、それともウィズが世間知らずなだけなのか、振りかえってこちらを見てきたウィズは妙に驚いていた。

 もちろんこれは一因に過ぎないだろう。冒険者時代には凝ってなかったというから、ウィズが挙げたように運動不足というのもあるだろうし。それに人外クラスの魔力が、元は人の身だったウィズやこの世界に来たことで女神としては弱体化したアクアなどに実際のところどう影響しているのかは、最弱職でステータスも低い俺には想像の及ばない世界だ。

 しかしどうやら、胸の大きさと肩コリの関係性はウィズにも納得のいく理屈だったようで。

「それで私とアクア様が……ああっ、それでめぐみんさんは怒っていたんですね……後で謝らなくてはいけませんねぴゅっ!?」

 俺がウィズの二の腕を不意打ちで持ちあげると、指圧が中心だったところに急に別種の刺激が来たからなのか、ウィズは素っ頓狂な声を上げた。……二の腕が弱点なのか。覚えておこう。

「めぐみんには俺も一緒に謝るから、まずは身綺麗にしようか」

「は、はい……」

 ウィズの二の腕を持ちあげつつ、脇から指先まで絞るようにして洗い上げる。

 お互いの手が重なり合ったついでに、ウィズの爪先を親指から順に軽く挟むようにしてマッサージする。リラックスできるツボだ。

「あ、ああー……これも気持ちいいですね……」

「疲れが溜まってたんだろうな。せっかくの温泉街だったのに、アクアの子守をしてもらっていたみたいだし、悪いな」」

「い、いえいえ、そんなことは……」

 リラックスしすぎて喋るのも億劫になってきているのか、言葉が鈍い。

 そんな様子に苦笑しつつ、俺は手を一度水に流し、傍らのシャンプーを手に取った。

「それでは髪、失礼しますねー」

「は、はいー……」

 数少ない理容室を使った機会で出会った、妙に馴れ馴れしい店員の口調を思い出しつつ、ウィズの髪に手をかける。

 余談だが、この世界の石鹸やシャンプーといった美容品の類は妙に充実している。品質だけなら地球産のものと勝るとも劣らない。ここからは勝手な推測だが、俺より先にこの世界に来た日本人が知識を広め、充実させたものの一種なのだろう。ハーレム志向のチート連中が、隣に侍らせる女性を綺麗にしておきたいという意図もあっただろうし、異世界転生モノで中世レベルの世界にやってきた主人公がリンスやトリートメントを広めるのは割とよくある話だからだ。そして、地球の知識と転生先の世界の知識が混ざり合って化学反応を起こし結果的に純地球産よりもよい物が出来上がった、というのもよくある話で。この手にあるシャンプーはその一例なのではないかと思う。

 そんな地球産より優れたシャンプーがあるからか、この世界の女性はみんな、髪が綺麗だ。

 女神のアクアは語るまでもないが、ダクネスの煌めく金髪や、クリスの軽やかに動く銀髪。めぐみんに至っては過去に生活に苦労していたらしいが、それでもその黒髪はしっとりとした艶やかさを保っている。どれもこれも鼻先を突っ込みたくなる。

 だが、知り合いに比較的ストレートの髪が多い中で、ウィズのふわふわした髪はなかなか異質な感触だった。軽く髪先を引っ張ればその分だけ伸び、手を離せばびよんびよんとバネを戻したかのように弾み、元の形状に戻ろうとする。

 ……これは洗うのが大変そうだ。

 俺はウィズの髪を少量だけ手に取り、毛先から、ゆっくりと、少しずつ、手櫛で解かし始めた。髪が指に絡まって引っ掛かるなんて事態が起きないように、視神経と指先に注力しながら。

「あ、あの……そんなに慎重にやっていただかなくても、適当にガーッとやってもらって大丈夫ですよ?」

 慎重な手つきの俺に対してウィズが申し訳なさそうにそう言ってくるが。

「ウィズはいつもテキトーにやってるのか?」

「い、いえ、そういうわけではありませんが……」

「だったら俺が手抜きするわけにはいかないな」

 俺は強い口調で返し、髪梳きを続行した。

 ウィズは困ったような表情を見せたが、それ以上何も言うことははなく、俺が髪をとかすのを眺め続けた。

「……」

 ボリュームのある髪だ。作業には時間がかかり、神経を使う。

 自然と無言になっていき、髪をとかす、そしてとかされる、俺達の間に沈黙が流れる。

 だがこれは重かったり痛かったりする沈黙ではなく、緩やかな、どこかくすぐったい感じがする沈黙だった。

 ウィズも表面的にはまだ申し訳なさそうな表情のままだったが、この静寂の間に口元は段々綻んできていて、朗らかな感情が見え隠れしてきていた。

「…………」

 毛先から髪を解してきた指は、段階的に上へと昇っていき、とうとう根元まで辿り着く。

 俺は指の腹を使って、ウィズの頭皮を軽くマッサージした。

「ああ……そこも気持ちいいです……発明品の数々といい、カズマさんは私の知らないこと、いろいろ知ってるんですね……」

「だろー? それじゃ流しますよ―」

「はいーお願いしまーすー」

 俺の気の抜けた店員風の口調を、ウィズも真似するようにして返事をする。

 お互いにクスクス笑い合いながら、桶を取って湯を流した。

 白く泡立てられたシャンプーが、身体を覆い尽くしていた泡が、何度か湯を流す度に洗い流されていき、背中を覆い隠すほどのボリュームがある茶髪が、光沢のある肌が、再びその姿を現す。

「あー……生き返った気分です……。あれ? カズマさん、何をしてるんですか?」

「ん? 石鹸を泡立ててるんだけど」

 俺は再び石鹸を握り、手を覆い尽くさんばかりの泡を作っていた。

「あれ、でも、もう流しましたよね?」

「前を洗ってないじゃないか」

「!?」

 何を当たり前のことを、という意図を乗せた俺の言葉にウィズは目を見開いて驚愕するが、俺はウィズの前に回り込んで。

「それじゃ脚、失礼しますねー」

 足裏から丁寧な手つきで洗い始めた。

「ちょ、ちょっと……んんっ!? くすぐったいです……!」

 掌を使って泡を広げつつ、同時に指先で足裏のツボを押すようにして洗う。この動きでくすぐったさを感じることはないと思うが、まぁ、足裏を触られるとくすぐったいはずというイメージから咄嗟に出ただけだろう。

 そのまま両方の足裏を洗い、指の間もしっかり洗う。

「……」

 真剣に洗う俺の様子に気圧されたのか、ウィズは髪を洗った時のように困った顔をするだけだ。

 だがそこから俺の手が、ウィズの足の甲を通して脛を洗い上げ、太ももまで上がってきたところで、さすがにウィズも抵抗を示した。

「あ、あの、やっぱりいいですから……」

 ウィズはそう言って太もも同士をぴったりと合わせて閉じ、女性器を隠したまま、言葉だけで俺を留めようとするが。

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと洗うから」

「え、ええ……?」

 そういうことじゃないですよ、という言外の意図は感じるが、言ってくれなきゃわからないな。

 俺は念を押すようにして、口を開く。

「気持ちよくなるように、洗うから」

「っ!?」

 先程、肩や頭皮に与えられた指圧の刺激を思い出したのか、それに無防備だった自分を思い出したのか、ウィズの表情が一瞬緩む。

 俺は太ももの固く閉じられた面はあえて無視して、それ以外の面を恭しい手つきで洗い始めた。脛と比べて格段に柔らかくなった感触を掌に感じながら撫で上げ、それから指を立てて、わちゃわちゃ動かしながら表面を擦る。

「んっ、ふゅ」

 今度は本当にくすぐったさを感じているはずだ。しかしウィズは口を固く閉じ、身を捩らせて声をわずかに漏らすだけ。だがその身を捩らせる動作で固く閉じられていた太もも同士の擦り合わせがわずかに緩んだのを見て、俺は手を、纏わりつかせた泡で滑らせるようにして侵入させ、一気に門を開いた。

「あ、ああ……」

 同時にウィズの固く閉じられていた口も開かれ、とうとう見られてしまった、という諦観じみた声が流れ出す。しかしウィズは、開かれた門を再び閉じようとはせずに、俺が舐めまわすような視線を走らせるのを、呆然と眺めていた。

 その様子から、ふと、思う。ウィズは抵抗の意思を一応は示しつつも、このような展開になることを心のどこかで待ち望んでいたのではないだろうかと。

 何しろリッチーと駆け出し冒険者だ。本気で抵抗されれば俺は簡単に無力化される。だがこうして、閉じられていた顎門はあっさり開き、そして脚を再び閉じる様子も無く、門の先にある女性器は俺の視線に晒されたままにされている。

 視線を上げれば、顔を赤らめるウィズと目が合った。恥ずかしそうにしつつもこちらへの視線は外さず、むしろこれからどんなことをされるのだろうと期待するかのような目を向けてくる。

「ふー、ふうーっ……」

「はぁ、ふぅ、はぁ」

 興奮が加速し、お互いの息が荒くなる。

 一線は越えた。ここからは、性的接触の時間だ。

「ふぅーっ……!」

 俺は逸る気持ちを落ち着かせようと長めの息を吐くと、泡にまみれた指を、ウィズの太ももの付け根に添えて優しくなぞった。

「はぁっ……! あっ、ああっ!」

 何度も、何度も、太もものつけねを回るようになぞり、その度にウィズの声が跳ねる。

 性器には触れないように気をつける。女性器は内臓の一部であり、普通の石鹸の泡で洗うようなものではないからだ。だがそれでも、性器の周りには敏感な部位が多くて触れば反応を促せるし、何よりウィズにとっても性器の近くを触られているという事実、いつ性器に手が伸びて触られるかもわからないという一種の焦らしが、興奮を更に加速させるものだ。

「んっ! んくっ……んんんっ!」

 俺の意図通りにウィズの声が弾む。そのことを確かめつつ、俺は手を翻し、手の甲の部分で腰のくびれを擦る。

「おあ、あ、あ、あっ」

 俺のゴツゴツした中手骨が断続的にウィズの腸骨稜に当たる度、骨盤に刺激が伝わっているのだろう、声量が途切れ途切れに増す。

 それにしても細い腰だ。皮と骨との間にほとんど肉が入っていないとも思えるような固い感触を、俺は手の甲に感じていた。

 そしてもう一度手を翻し、掌で労わるようにして腹を撫でまわす。

「はっ……ふぅ、ふぅー」

 ここは骨盤に響いた固い刺激を落ち着かせるための、休憩ポイントだ。

 性感帯は全身に点在しその場所には個人差があるが、そのうち腹は特に感じる部位が少ない。……とてもよく目立つ、ある一部だけを除いて。

 俺は指を立て、その部位、ヘソをそっと撫でる。

「はぎゅっ!? はぁっ、はあっ!」

 敏感に反応を示してくれるウィズの姿が、見ていて楽しい。

 ヘソの窪み、そしてその周辺。これらは代表的な性感帯だ。

 指の腹で、触るか触らないかくらい微妙に掠らせるようにしてヘソの周辺をなぞると、ウィズは大きく肩を震わせ、声を上げる。

「あ、あああああ……ほ、本当にカズマさんは、私の知らないことを、たくさん知ってるんですね……」

「そんなことはない。手探りだよ」

 性感帯の場所には個人差がある以上、実際に触ってみて確かめるしかない。ヘソなど、広く性感帯として謳われている場所も人によっては感じないことなどもざらにある。まさしく手探りだ。

 それに、ウィズは感じたなら感じただけわかりやすい反応を返してくれるから、こちらとしてもやりやすいし、やる気にもなるというものだ。

 そんなことを考えつつ、俺は手を更に上へと伸ばす。

「……あっ」

 俺の手の動きを目で追っていたウィズが、短く声を漏らす。

「……やっぱり、でかい、よな」

「……はい。自分でも、実はちょっとどうかと思う大きさです」

 俺の視線は、ウィズの乳房に固定されていた。

 知り合いの女性陣の中では一番大きく、重力に従い微妙に垂れてきてはいるのはわかるが、それでも未だハリを残したまま滑らかな曲線を描き、無意識に日常生活を送っていても男を誘うようないやらしい膨らみ。そんな乳房が俺の視界を埋め尽くしていた。

 さっきからウィズが刺激に反応する度に視界の端でぶるぶると揺れてはいたが、カラダを洗っているという建前のもとあえて見ないフリをしていたその乳房を、今はしっかりと真正面から見据える。

 なぁに、カラダを洗うという建前はそのままに、今度は乳房を洗うだけだ。

 俺は手を茶碗を持つような形にして、乳房を下から持ちあげる。

「んっ…………」

 ただ、持ちあげただけ。それでも、初めての“それらしい”性的な接触に、ウィズの甘い声が漏れる。

 このおっぱいは、重い。

 ゆんゆんやアクアのおっぱいは温水入りの水風船を触っているかのようなぽよぽよとした感触で重みもあまり感じないのたが、ウィズのおっぱいはずっしりと重い。確かな質量を感じる。

 質量とは、存在を証明する力だ。

 質量の分だけ空間は歪む。そして、二つの異なる質量を持つ物体が同じ空間にあれば、発生する歪みが大きい方へともう一方は引き寄せられる。例えば、ピンと張ったシーツに二つのボールを落としたとき、シーツはそれぞれのボールの質量の分だけ歪みを発生させるが、しばらく経つと小さな質量のボールが、大きな質量のボールの方に――よりシーツを歪ませたボールの方に引き寄せられるように動く。

 かの有名な、万有引力の法則だ。

 この法則に則れば、圧倒的な質量を持ち、強烈な存在感を発するウィズのおっぱいに、俺のような矮小な男が引き寄せられるのは極々自然な話ではないだろうか。

 そんなことを思いながら、ウィズの乳房を持ちあげたり掌の上で弾ませたりして感触を楽しんでいると。

「カズマさん、私にも泡ください」

「ん? ああ」

 ウィズが声をかけてきて手を掲げたので、掌同士を擦り合わせて泡を渡す。

 するとウィズはにこりと笑って、そっと、俺の胸に手を翳してきた。

「おふっ……」

「ふふ……私も、カズマさんを洗ってみますね」

 くすぐったい感触に、思わず身悶えする。

 掌を大きく使って、俺の胸板を上から下へと長いストロークでなぞってくる。

 それから指を立てて、指圧だけで押すようにしてもう一度。

 これは、胸側と背中側という違いはあるが――。

「……俺の真似をしてるのか」

「……はい」

 照れくさそうにウィズは返事をする。

 一つ一つ手順を思い出しながらやっているような、ゆっくりとした手つき。

「カズマさんにも、気持ちよくなってほしくて」

 顔を真っ赤にしながら、俺のヘソをツンと突いてきた。

「おっ……ああ、気持ちいいよ」

 ウィズのような美人が、俺を気持ちよくさせるためにやっているのだ。その事実が興奮が加速させ、カラダは敏感になる。

「ふふ……良かったです……ふっ……ふぅっ……」

「おっ、おお……」

 言葉少なに、お互いのカラダを弄り合う。

 肩を触れれば肩を。

 腹を触れれば腹を。

 俺が指でウィズの乳輪のまわりを掠めるようにしながら円を描けば、ウィズも真似して、俺の乳首周辺を触れてくる。

「んあっ、はっ……。ちょ、直接触れないことで感じる気持ちよさもあるんですね……」

 ウィズはそう言いながら夢中になった様子で俺の動きを真似して触ってくるが、同じ行為をしていても、はっきりとした意図を以てやっている俺と、それを見様見真似で追随するだけのウィズでは経験に差がありすぎる。

「んくっ……はっ、はぁっ」

 次第にウィズの息だけが一方的に荒くなってくる。

 そしてとうとう。

「んああっ、はっ、はあっ……!」

 ウィズは一度ブルッと身を震わせると、背筋を反らして悶えた。俺の眼前で、おっぱいが視界の端から端へと埋め尽くすように大きく暴れた。

 乳首や性器に触れることなく、とうとうイってしまったようだ。

「っ…………ぷはあっ! はぁっ、はぁっ!」

 イくときには息を止めてしまう癖があるのか、しばらく無言で身悶えしていたウィズは反らしていたカラダを元に戻すと、大きく肩で息をした。

「はぁっ、はぁっ……カズマさん、いじわるです。もっと適当に、ガーッとやってもらって大丈夫ですよ?」

「そんな髪を梳いていたときにも言ったみたいなことを……」

 拗ねたような口調で話すウィズに俺は苦笑するが。

「……いえ、違いますね……適当に、じゃなくて……」

 ウィズはそう言いながら俺の胸に触れ、そこから一直線に下腹部まで手を下ろしてきて。

「適当にじゃなくて……乱暴に、ガーッってしてほしいんです……こんな風に――」

「うっ!?」

 ウィズは流れるような動きで、俺のチンポをガッと掴んできた。

 前触れを感じさせないゆったりした動きから、突如獲物に牙を向いて襲いかかるような、淀みのない緩急の切り替え。一流の冒険者を思わせるあまりにも自然な変化に、反応が遅れてしまった。

「……触れられずに気持ちよくしてもらうのもいいんですが、もどかしくもなっちゃいます。ほら、触ってください。乱暴にしてくださって構いませんから」

 ウィズは唇を尖らしながら、俺の手を掴んで、自らの乳房に、性器に宛がう。

「……焦らし過ぎたか。悪いな」

 俺は言葉に従い、乳房に触れる手に力を込めた。ずっしりとした重みを感じながらも、柔らかさも併せ持つ乳房が形を変え、俺の指一本一本を埋もれさせる。

「んぐっ!? ん、い、いいです。肩を指で押してもらったときも思ったんですが、わ、私ちょっと痛いくらいが、気持ちいいみたいで」

 ……肩コリをほぐすマッサージの『痛くて気持ちいい』と性的接触での『痛くて気持ちいい』を混同すると危険な気もするが、俺も、おっかなびっくりな手つきで真似るだけのウィズが焦れったくなっていたところだった。痛いのがいいと言うのなら、その言葉に従うまでだ。

 俺は桶に残っていた湯で手の泡をさっと流すと、ウィズの膣に指を突っ込んだ。

「っあ! んぐ、んっ!」

 微妙に痛みが混ざった声とともにウィズの表情が歪み、俺の性器を掴む手に力が入る。

 そのままウィズの膣内を、ぐちゅぐちゅと穿り回しながら。

「ほら、手が止まっているぞ。俺も気持ちよくしてくれるんだろう?」

「は、はい。んぎ、ぎっ!? ……す、すみません……あっ! んんっ!?」

 俺は、ウィズの唇を奪った。

「んぐっ、ちゅ、ちゅっ、んむゅっ、っ、んっ……!」

 舌を差し入れ、唇、歯、舌、と手前から順にウィズの口内を蹂躙しながら突き進む。

 同時に、目を白黒させながら俺にされるがままになっているウィズを見て確信する。

 この子ったら、生娘だわ……。

「んんっ! んひゅっ、ちゅっ、はっ」

 キスの経験があるかもあやしい。

 舌を絡み合わせてくるので一応の知識はありそうだが、考えてみればこの風呂で遭遇してから行動の端々に経験の無さを思わせるものがあった。

 俺の視線に対しての初心な反応、俺の逸物に興味はあるけど恥ずかしくて直視はできないとも言うようなチラチラと送る視線、俺の真似をするだけの手つき、膣内に送り込んだ指を責め立てる圧力と痛みに歪む顔。

「んぐっ……!? んんんんっ!」

 俺が女性器を指でかき回すと、その刺激を受け入れるだけでいっぱいいっぱいなのか、ウィズの舌と手の動きはあっさり止まってしまう。

 俺の性器を掴むウィズの手を、軽くペシペシと叩くと。

「ん、んん」

 ウィズは涙目になって、すみませんすみませんと目で訴えてきつつ、俺の性器を扱くのを再開する。

「ふー、んんっ、ちゅっ」

「んちゅる、ちゅっ、はふ、ちゅっ」

 お互いに性器を、扱き合う。

 唇を舐る。

 肌を弄り合う。

 性的快楽を高め合う体勢が、ようやくできつつあった。

 俺が試しに舌の動きを止めて膣内を弄るのに集中すると、ウィズが肩を震わせながらも、補填しますとばかりに舌の動きを加速させる。逆に口内を蹂躙するのに注力すれば、チンポを扱く手の動きとなって返ってくる。

「ちゅっ、ふっ、はっ、はっ」

「ちゅ、んんっ、ちゅぱっ、ちゅっ、ん……んんんっ!」

 だが経験の差はやはり如実に表れてきて。

「んっ、はっ……! はあああああっ……! っ……!」

 またもやウィズが先に絶頂に達する。

 先程と同じように一際大きく身振いすると背筋を反らし、息を止めたままプルプルと震えた。俺の指を、尋常じゃない膣圧が襲う。

「……っはぁ! はっ、はっ……す、すみません。また私だけ……」

 呼吸を取り戻したウィズは、申し訳なさそうな顔で、俺の勃起したままのチンポに視線を下ろす。そのまま肩を上下させながら息を落ち着かせようとしていたが、やがて恥ずかしそうに告げてくる。

「……ごめんなさい。私、実ははじめてで……。何をすればカズマさんが気持ち良くなるか、わからないんです……」

 背を丸めて小さくなりながら、そんなことを言う。

「ウィズ。俺は、ウィズのような誰もが振りかえるような美人が、俺の手で気持ち良くなってくれるってだけで嬉しいんだ」

「でも、申し訳ないんです。知ってるんですよ。男の人は、気持ち良くなると、おちんちんから精液が、びゅーって出るって……」

 そう言って、俺のチンポを拙い動きで扱いてくる。

「カズマさんにも、気持ち良くなって、欲しいのにっ……!」

 ウィズは再び目尻に涙を浮かべ、一心不乱にチンポを扱く。

 だが絶頂に達した直後だからか、先程カラダを弄り合っていたときよりも力は無く、俺を絶頂に導くには遠い。

「っ……!」

 さっきよりも俺の反応が薄いことに気付いたのか、ウィズが表情を歪ませいよいよ泣き出しそうになったところで。

「だったら、本当に、乱暴にしてもいいか? 俺が欲望を満たすためだけに、ガーッってさ」

 なんだかんだで俺はウィズのカラダを気遣いながら行動していたし、ウィズに気持ち良くなってもらいたいから自分の満足は二の次にしていたところが大きい。それを、今度は遠慮なく、ウィズにぶつけようと言うのだ。

 俺の言葉に、ウィズはぱぁっと笑顔を輝かせ。

「……はい! どうぞ、遠慮しないでください! 私、知ってるんですよ! 男の人は私のおっぱいを見て、興奮するって。いっぱい触って、いっぱい興奮して、いっぱい精液、出してください!」

 ウィズは一気に捲し立て、胸を寄せ上げて谷間を見せつけ、その谷間の奥から笑顔を浮かべて、俺を待ち構えた。

「それじゃ、中出しさせてくれ」

「……っ、はい! どうぞ!」

 躊躇を見せたのは一瞬だけ。ウィズは笑顔のまま脚を広げ、細い指で膣口を自ら広げた。

「カズマさん……来てください。乱暴に、痛く、してください」

「よし……!」

 俺はチンポを膣口に宛がうと。

「おおおおっ!!!」

「んぎっ!? あ、あ、ああっ!!!!」

 獣のような雄叫びとともに、一気に貫いた。

 根元まで突っ込んだところで、チンポを通じて届けられた快感の波が全身を襲い、俺は深く沈みこんだ体勢のまま、打ち震えた。

「くっおっ、あっ……!」

「あ、あ、ああ、あひっ、ひぅっ……カ、カズマさん、ど、どうしたんですか……?」

 俺が動きを止めたことを不思議に思ったのか、ウィズが不安そうな表情で尋ねてくる。

「大丈夫……ウィズの、膣内が、あんまりにも気持ちよくて、堪能してるだけだから……!」

「そうでしたか……嬉しいです」

 ウィズはほっとしたような表情を見せたが。

 俺は忘れていた。

 ウィズのカラダは、冷たいのだ。

 いつぞやの、ゆんゆんが氷水で冷やした口でフェラチオしてきたのを思い出す。あのときと同じように、いつもの熱っぽい接触とは異なる新鮮な刺激が、俺の全身を貫いていた。

 それにただ冷たいだけではない。

 初めての体験とは思えないほど、解れた膣内。その内部のヒダが、俺の逸物を積極的に攻め立ててくる。フェラチオでは味わえない、熟した女性の膣内が俺のチンポを射精へ導こうと蠢いていた。

 それに加えて眼前のウィズは、俺のチンポを受け入れた衝撃にピクリピクリと細かくカラダを震わせ、息を荒げて豊かな胸を上下させ、真っ赤になった顔に涙を浮かべながらも、同時に笑顔を向けてきて、俺の興奮を加速させてくる。

 そんなウィズのカラダを目の当たりにして、改めて確信する。

 ウィズは、生きているのだと。生きた女性を、俺は抱いているのだと。

「うっ、ぐっ……」

「ああ、んあっ……!」

 俺が全身を満たす快感に打ち震えながらもなんとかカラダを動かし始めると、そんな軽い動きで、ウィズは嬌声を返してくる。先程もそうだったが、そんな敏感な反応を返されたら、こちらとしてもやる気になるというものだ。

「ふぅ……、動くぞ。動くからな!」

「は、はいっ……! んぎゅっ、ん、んんっ、んあああっ!!!」

 腰の動きを加速させた。

 チンポを抽出する度に、ウィズの嬌声が大きく跳ねる。

 おっぱいが目の前でぶるんぶるん揺れていたので、乱暴に鷲掴みにした。

「あぎっ、ああ、あああああああああっ!!」

 ウィズは胸を襲う痛みに一瞬だけ眉をひそませるが、すぐに快楽に溺れる表情に塗りつぶされ、嬌声を垂れ流した。

 そんな様が、俺の嗜虐心を刺激する。

 俺は胸を掴む手に、更に力を入れた。いやらしく形を変える乳房が、変形の余地を無くすまでに握り潰される。

「あ、あああ、あああっ!? んぐあっ、痛い、痛いです! で、でも、気持ちい、い、あぐ、あああああっ!!!」

 痛みと、快楽の混同。

 痛みの後に、押し寄せる快楽。

 痛いのに、気持ちいい。

 痛いのが、気持ちいい。

 痛いことをされると、気持ち良くなってくる。

 気持ち良くなるために、痛いのが、欲しくなる。

「ああああああっ! あがっ……はっ、かはっ……はっ、ひっ、ひいっ」

 嬌声を垂れ流し続けてとうとう息が続かなくなったウィズが、苦しみと快楽を同時に顔を浮かべる。この息苦しさすらも、はじめての膣を襲う乱暴な動きによる痛みも、すべてが快楽につながっているのだろう。そう、勘違いしているのだろう。

 俺は腰の速度を変えないまま、ウィズに覆いかぶさり乳首を噛んだ。

「ひぎっ、はっ、んあああああっ!!!! あっ、あああああああっ!!!!」

 一瞬の呼吸と、それを無駄にするかの如く大きな叫びとともに、ウィズは絶頂に達した。

 身を反らしつつも、俺の背中に回していた手が爪をたて、痛みが走る。

 それと同時に、膣内を大きな圧力が襲い、俺も絶頂に達した。

「はっ、くっ、ぐ、ううううっ!!!!」

「あ、あああっ、熱い、痛いっ、気持ちいい、ですっ……!」

 精液が、ウィズの膣を染め上げる。

 まるで亀頭から先が溶けて、そこまで昇ってきていた精液が、栓が無くなって垂れ流しになっているかのような、そのくらい節操のない射精量を尿道管に感じていた。

「はああっ……うおおお、で、出たぁー……」

「はっ、はっ、はああっ、よ、よかったです……こ、こんな……素敵なんて……」

 顔には涙を浮かべ、胸には俺の歯型が残っているというのに、ウィズは健気なことを言う。

 そんな様に苦笑していた俺は、ふと視線を下ろし、あることに気付いた。

 精子という、アンデッドとは対を成すような生命の源を浴びたからなのか、幸福を感じたことで成仏でもしかけてるのか、ウィズのカラダはまるでアクアの涙を浴びた後のごとく半透明になっていた。

 ……精液を孕んだ、下腹部だけが。

 しかも、半透明と言ってもウィズのカラダだけが綺麗に透けて背にしている石畳が見えるわけではなく、内臓もきっちり半透明に見えている。俺の亀頭を中心に吐き出された精液、その中でうごめく膣内のヒダ……。ちょっと視線を上げれば、ウィズの荒い呼吸と連動して揺れ動く子宮の姿までが視界に映る。

 これは、あれだ。

 

「だ、断面図……」

 

 エロゲで、女の子がアンアンしてるメインCGとは別に隅っこにサブウィンドウ的な形で表示されてるような、あれだ。コンフィグ画面で表示をオンオフ設定できるような、あれだ。それが今、ウィズのカラダに半透明のレイヤーを貼り付けたように、表示されていた。

 試しに軽く腰を動かして。

「あひっ!?」

 ウィズが声を上げて跳ねれば、それに追随するように膣内は蠢き、俺を再び射精に導こうとしてくるのがわかる。目を以て、確認できる。

「カズマさん、え、えっと、二回目も、しますか?」

「あ、ああ……」

 ウィズは自らの巨大な胸に視界を遮られているためか、下腹部の様子に気付いていないようだ。

「……」

 俺は無言で、腰を動かし始めた。

「あ、ああっ! い、いいですよ。カズマさん。好きなように、私のカラダ堪能してくださいっ! んあっ!」

「お、おう」

 二回目だというのにすっかり快楽を受け入れる体勢を覚えたウィズをよそに、俺は別のところに感動を覚えていた。

 乳首を抓り、嬲る。

「あ、あああっ! んぐっ!」

 ウィズの嬌声とともに、膣内が締まり、チンポを責め立てる圧力が増す。その様子が、見える。

 次に、乳房を両方から寄せ上げるようにして、上に引っ張る。

「ああっ、はっ、あああっ……!」

 声だけなら似たような反応ではあるが、膣内の変化は少ない。これはあまり気持ちよさを感じない痛みなのか、とわかる。

 次に、腰の角度を変えて、チンポが膣の上側を擦るように突き入れてみる。

「はっ、はぁっ!? はっ……」

 今度はウィズの口から漏れるのは息だけだったが、膣内の変化は凄まじい。ヒダが一斉に蠢いて、俺のチンポを締め上げてくる。

「……」

 俺は無言のまま、ウィズのカラダを弄びまくり、チンポを様々な角度から突っ込んで、その反応を、半透明の下腹部を通して目で確認していた。

 普段は、女の子が感じるところなんて、表情のわずかな変化や、膣内の様子を手探り……いや、チンポ探りで探しているというのに、こうして断面図から直接視覚的に反応を確かめられるというのは、なんと素晴らしいことだろう。

 ついでに、口から漏れ出る嬌声の大きさと、女の子が感じている快楽は必ずしも比例していないことに気付く。敏感に反応を返してくれるウィズですらこうなのだ。だが、膣内の変化の様子は実にわかりやすく、快楽を受け取ったことを素直に示してくれる。まさに、あの言葉のとおりではないか。

「げへへ……上の口と違って、下の口は正直だな……」

「な、何を言っているんですか……? んあっ!? あぐあああっ!」

 思わず内心が口から漏れてしまったが、ごまかすためにウィズの弱い部位を擦るよう腰を突き入れると、意図どおりに、いや、意図以上にウィズは跳ねる。ウィズのカラダを手玉に取っているという、いつも以上の征服感が俺を満たす。

「ああああっ、ど、どうして、こんな、気持ちいいところばっかり的確にっ……!?」

 それに、断面図の効果はこれだけではない。

 目を以て、俺のチンポがウィズのカラダに気持ち良くされているところも確認できるのだ。

 性欲は視覚に頼るところが大きい。目隠しなどをしてあえて『見ない』ことで興奮を誘う手立てもあるが、あれはあくまで変化球であり、性的興奮には視覚情報が大事なのだ。

 いつもはチンポを通して、暗がりの中から快楽を受けているようなものだが、こうして膣内が蠢いて、俺のチンポを締め上げるような様を見せつけられ、視覚的にも興奮材料が揃ってくると、腰の動きも加速してくる。

 俺は鼻息荒く、ウィズの膣を蹂躙した。

「ふっ、ふーっ! おおおおおっ、ウィズ、ウィズ! どうだ!?」

「はい、はいっ! うああああ、乱暴にされてるのに、す、すごい気持ちいい、ですっ……! こんな、こんな……こんな素敵だなんてっ!」

 膣内の、ウィズの感じる場所と、俺が気持ちよくなる場所を、交互に突き立てる。いつもの暗中模索の性交とは違い、的確にお互いの興奮が高まっていくのを感じる。

「カズマさんっ、カズマさんっ……!」

 ウィズが俺の頭を抱えて寄せ、唇を合わせてくる。半透明の下腹部は見えなくなったが。

「んぐっ、ちゅっ、ん、ちゅ、ちゅ……」

「んちゅっ、ちゅるっ、ちゅっ、ちゅちゅちゅっ」

 もはや高まりきった興奮と、一心不乱に俺の唇を貪るウィズの淫らな表情が、トドメとなった。

「うっ、うううううっ、出る! 出す! うぐ、ああああっ!!!!」

「はぁっ……! ください、くださ……あああああああっ!? 熱い、熱いっ! 出てます、出てますよっ……!」

 いつも以上の興奮からの射精。悲鳴のような叫びとともに俺は白濁液を解き放った。

「あ、ああああああっ!!!? お腹が、お腹が、埋め尽くされっ……?」

 顔を上げて下腹部を再度視覚に捉えれば、ウィズの言葉どおりに、俺の精液がウィズの膣内を埋め尽くしていくのが見える。

 膣内はあっという間に満杯。

 子宮口を突破。

 子宮もすぐに埋め尽くして卵管も……ああ、卵管をいっぱいにするにはちょっと足りない。

「うっ……おっ!」

「はひっ!? あ、あああっ!」

 最後の力を振り絞って、もう一突き。

 不意打ちされたウィズが膣を締め上げてくれ、精液が更に絞り出された。

「ふ、ふー……」

「あ、あああああああ……」

 最後に吐き出された精液で、卵管もとうとう埋め尽くされた。

 俺は凄まじい達成感とともに、息を吐いた。

「ふはー……。ウィズ、最高だったよ……」

 こんな視覚情報も併せた的確に快楽を得るセックスは、ウィズのカラダでしかできないだろう。俺は目の前でいまだ快感に身を震わせるウィズの胸を揉みしだきながら、この誰もが懸想する熟れたカラダを堪能しきったという、征服感と達成感に満たされていた。

「はい……私も、カズマさんと結ばれて、幸せです……」

 ウィズはそう言って、再び顔を寄せてくる。

 唇を触れ合わせるだけの軽いキスを交わして、俺は果てしない満足度とともに意識を失った。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「大、満、足っ……でした!」

 

 俺は、アクセルの、宿屋の一室で目覚めた。

 飛び起きて第一声、【夢】の内容への充足感を表現したものの。

「そうですか。よかったですね」

 隣に腰かけていたロリサキュバスの声は、なんだか冷たかった。

 いつもなら、キャー嬉しいですー、みたいな感じで身震いしてるのに。

 俺は不思議に思ってロリサキュバスを視界に捉えると、カラダの一部が妙に膨らんでいるのに気付く。

「……妊娠した?」

「違います! 太っただけです! ていうか、なんで指摘するんですか! セクハラですよ!」

 プンプン怒って、取り付く島もない。

 何か嫌なことでもあって、ストレス太りでもしたのだろうか。

「わ、悪かったよ。あ、それとコレ」

 俺は大量のエリス金貨を財布から取り出すと、ロリサキュバスに手渡した。

「……なんですかこれ?」

「ん、予約のキャンセル料。明日からまた旅行に行くことになってな。今度は紅魔の里に――」

「ふっざけないでくださいっ!!」

 ロリサキュバスは大声を発して立ち上がると、エリス金貨を床に叩きつけた。

 その様に俺がびっくりしていると、ロリサキュバスは肩を怒らせながら続ける。

「いいですか!? 私達サキュバスが安価に【夢】を見せてるのは慈善事業じゃないんです! 精気が、生きるために必要だからなんです! お金なんてもらっても、お腹の足しにはならないんですよ! ここ数日留守にして私を飢えさせて……そして今度も予約キャンセルして旅行に行く? ふざけないでください!」

 一気に捲し立てたロリサキュバスが、荒い息をする。

 俺は、頭を掻きながら口を開いた。

「あー、その、すまん。知らなかったんだ。てっきり他の客の担当につくものとばかり思っていたから……」

「……いえ、私も声を上げてしまってすみません」

 一通り吐き出したことで落ち着いたのか、ロリサキュバスが頭を下げ、続けた。

「……今はどのお客さんもがっつり予約していて、それを前提にシフトが組まれてるんですよ。なのでキャンセルされた分はまるまる空いちゃうんです」

「んー、俺が旅行に行くと、また精気が確保できなくなるわけか」

「いえ、こちらでなんとかしますので。キャンセルはお店の制度としてちゃんとあるわけですからカズマさんは悪くないんです。気にせず最初の予定どおり旅行に――」

 

 

「だったら、紅魔の里、お前もついてくるか?」

 

 

「え、ええっ!? …………あっ、ワンピース皺にしちゃっ……」

 

 

 一瞬でどこまで思考が飛んだのか、ロリサキュバスのそんな謎の呟きが、くすぐったい沈黙を生んだ。

 

 

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