※この作品はR-18です。

花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました-   作:ダンテこったい聖司

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3.

 報告書の提出から数日、毎日鍛錬に次ぐ鍛錬を重ねていたある日であった。城の廊下を歩いていたダンテは兵士の一人に呼ばれて歩を止めた。

 

「王宮の人間がわざわざ? 分かった。執務室へと通してくれ。俺もすぐに向かう」

 

 王宮からの遣いが来城したとの報告を聞いたダンテは初任務の話だろうか、はたまた別の用件だろうかと思案しながら執務室へと急いだ。

 

 ダンテが執務室へと到着し、数分。彼が自らお茶を用意するかと考えていると、扉を叩く音が聞こえたので、返事をすると扉が開き中に如何にもといった服装の文官が一人中へと入って来る。彼はソファを勧めつつ、扉の外で控えていた兵士に下がるよう言うと、文官の対面となる席へと腰を下ろした。

 

「この度はわざわざお越し頂いて。お呼び立て頂ければこちらから出向きましたものを」

「そうおっしゃらないでくださいな。本来なら王宮へとお越し頂くのですが、今回は女王陛下から直々に様子を見てくるようにとのご命令でこちらから伺ったのです」

「なるほど、そうでしたか。では、鍛錬場などを見て回られますか? よろしければ私がご案内致しますが」

「いえいえ、それには及びません。私が様子を見てくるよう命じられたのは、騎士団長殿、貴方様の事ですから」

 

 穏やかな笑みを浮かべ、頭を振りつつ答える文官にダンテは眉にシワを寄せ、訝しげな表情になるが、文官はそんな事を気にする様子も見せず、続ける。

 

「陛下は、”あの日”の事で傷心した貴方様の事を大変憂慮しております。先日王宮にお越しになった時には、貴方様のお顔を見て大変安堵されておりましたが。しかし、勲章授与式の時の貴方様の様子がまだ気に掛っていたらしく、今回こういった形で貴方様の様子を見て来て欲しいと命じられたのです」

「ですが、それなら……いえ、尚の事王宮へと出向く形でも良かったのではありませんか? 」

「そうなれば、貴方様が陛下の前で仮面を被るだろうとお考えになったのでしょう。違いますか? 」

「それは……」

 

 返事に窮するダンテを責める様子もなく、ただ穏やかな口調のままに文官は続ける。

 

「ともあれ、陛下も騎士団長殿の御心を心配なさっての事ですので」

「そうでしたか……。陛下のお心遣いには深く感謝します。ご覧の通り、私は大丈夫でありますので、どうぞ御安心頂くようお伝え下さい」

 

 そう言うなり深々と頭を垂れるダンテに文官は「はい、そのように」と答えると、懐から一通の書簡を取り出すとダンテにそっと手渡した。

 ダンテは渡された書簡を開封し、中身に目を通すと文官に視線を戻した。

 

「これは……」

「はい、騎士団長殿。貴方様の騎士団の初の任務をお伝えする命令書です」

「確かに、承りました」

 

――明日、騎士団長ダンテ・サウラードは騎士団長アンドレイ・コーラムバインの元へ出頭し、任務の詳細の説明を受け、明後日、任務を遂行せよ。

 

 こう記された指令書をダンテは自身の懐にしまい込むと、文官に対してせっかくだからと城の案内を提案するが、文官は「女王陛下がお待ちですから」とそれを辞し、帰り支度を始める。

 帰り支度を整えた文官を城の出口まで送ったダンテは、帰り際の「それでは任務の成功をお祈りします」との文官に頭を下げて見送った。

 

「さて、準備をしなければな」

 

 そう一人呟くと、踵を返しエキナセアを探そうと考えるがその前に、とふと思い立ち、ダンテは城の中でも滅多に人が立ち寄らない様なベランダへと足を運んだ。

 そこにはポツンと灰皿が用意してあった。とはいえども、こうして灰皿がここに置いてあるのを知るのはこの城でも恐らくダンテ、彼一人であろう。

 それもそのはず。この灰皿はダンテが夜な夜な仕事をする合間にこっそりと持ち込んだものであり、あまり周囲に迷惑をかけずに煙草を楽しむ為に用意したものなのだ。

 彼は周囲に誰も居ない事を確認すると灰皿の前に行き、懐から取り出したパイプから栓を抜くと、ライターで火を点けてゆったりと煙を口に含んだ。

 煙を口に含むと舌に煙草葉の持つ甘みがゆっくりと広がっていく。そしてそのまま煙をパイプへとゆっくりと吹き戻し、またゆっくりと吸い込む。

 ゆっくりとゆっくりと楽しむ、この時間がダンテは大好きである。何も深く考えず、ただ煙の香りを楽しむ。そうしていると余計な考え等が抜け落ち、見えていなかったものが見えてくる。純粋に煙の香りを好む彼であるが、考えが煮詰まったり、落ち着きたい時に彼はパイプを咥えるのである。

 そうしてゆっくりと煙を楽しんでいると、ベランダから見える鍛錬場にエキナセアの姿が見えたので、彼はベランダから声を掛けた。

 最初、どこから声を掛けられたのかとエキナセアは周囲を見回したが、「こっちだこっち! 」という声に釣られて顔を見上げ、二階の滅多に人が寄らないベランダでパイプを咥えるダンテを見つけると、「今すぐそちらへ行こう! 」とだけ答えて駆け足で城内へと入って行った。

 程なくして、特に息を切らした様子もなくエキナセアはダンテのいるベランダへと姿を現した。

 

「すまないな、後で執務室へ来てくれ。とお願いするだけのつもりだったんだが」

「いや、良いんだ。私を呼び止めたということは何かあったのだろう? 」

「そうだな、あるにはあるんだが。先に執務室へと向かっていてくれ。俺はもう少しコイツを吸ってから戻る」

「そういえば、どうしてこんな所で吸っているのだ? 執務室にも灰皿はあったはずだろう? 」

「あぁ~、そうなんだけどな。執務室には頻繁に花騎士や兵士が出入りすると聞いていてな。中には煙草が苦手な奴もいるだろうし、そうでなくてもここは吸わない者が殆どだ。そんな環境で人の出入りが頻繁になるであろう執務室で吸うのはどうにも気が引けてな」

「そんな、執務室はキミの自室のようなものだろう。そこまで気にすることもなかろうに」

「いやぁ、身体には毒でもあるしな。いくら執務室が俺の自室のようなものだと言っても、そこまで自分勝手には出来んよ」

 

 気恥ずかしそうに首の後ろを撫でるダンテを見て、エキナセアはクスリと笑うと「分かった。そういう事なら私は先に執務室に向かっているよ」と言い残し、ベランダを後にしていった。

 残されたダンテは気恥ずかしさを紛らわす様にいつの間にか消えてしまっていたパイプに再度火を点けると、またゆっくりと煙を口に含むのであった。

 

 それから暫くして。程よく気恥ずかしさも紛れたダンテは、エキナセアが待つ執務室の扉を開けると中に入った。

 そこには来賓用のソファーに腰掛けながら、紅茶を飲みくつろぐエキナセアの姿があった。その丁寧でまるで芸術品であるかの様な仕草に一瞬見惚れてしまったダンテは、そんな自分に気付くとハッとなり、小さく首を振ると見惚れていたことを気付かせまいと平然を装いつつ彼女に声を掛けた。

 

「待たせてすまない。 ああ、そのままでいい」

 

 声を掛けられ、ダンテにもお茶の準備をしようと立ち上がるエキナセアを制しながら懐から指令書を取り出すと、それをエキナセアに手渡す。カップをテーブルに置いた彼女はそれを受け取り中身に目を通す。

 

「初任務の指令書だ。詳細こそ書かれていないが、明後日には実施される。作戦規模になるとは思ってはいないが、俺達にとって初めての討伐任務となるのは間違いないだろう。 俺はそこに書かれている通り、明日はアンドレイ・コーラムバイン団長の元へと行って来る。明日は一日、連携の確認をしておいてくれ」

「了解した。 しかし、私も行かなくて良いのか? 」

「そうだな、確かに本当ならば顔見せとして付いて来てもらった方が良いとは思うんだがな。だが、今は俺達は人手不足。エキナセアには残って皆の指揮をお願いしたい。まぁ、コーラムバイン団長はこの王都常駐の騎士団長だ。顔合わせならまた違う機会にも出来るだろうさ」

「そうか、分かった。では、明日の皆の指揮は私に任せてくれ。キミの期待に応えてみせるよ」

 

「頼んだぞ」とエキナセアに告げると、ダンテはエキナセアから指令書を受け取り机に放り投げると、戸棚から自身のカップを取り出し紅茶を注ぐ。

 それを飲みつつ、自身の椅子に座るとふーっと息を吐く。

 

「疲れているのか? 」

「いや、大丈夫だ。ただ、初任務だと思うと俺でも流石に緊張もする」

「そうなのか? てっきりこういうのには慣れていると思ったが」

「軍属だった頃の様な普通の警戒任務じゃないからな。当然の事、相応に弱い敵とはいえ、やはり直に害虫と対峙する討伐任務だ。あの日のことを思い出してしまうからな」

「す、すまない。私としたことが」

 

 申し訳無さそうな顔で視線を逸らすエキナセアに「気にするな」と声を掛けながらも、ダンテは物憂げな表情で瞳を閉じる。すると、あの日の情景が鮮やかに蘇り、ダンテは拳を固く握る。

 その様子を知ってか知らずか、エキナセアは立ち上がり彼の傍に歩み寄ると、そっと彼の手を握った。

 

「大丈夫だ。大丈夫、私達は花騎士だ。きっとキミを守ってみせよう。だから、そんなに心配しなくても大丈夫だ」

「あ、ああ。……ありがとう」

 

(お前達は……俺はもう部下を死なせたりしない。今度こそ、俺の命に代えてでも……)

 

 そう一人、心の中で固く決心を新たにするダンテであったが、その事にエキナセアが気付く由もないのであった。

 

 翌日、ここ数日で日課になりつつあるエキナセアによる目覚ましで目を覚ましたダンテは、やはり恒例となってきた様にエキナセアが持って来てくれた朝食を食堂で済ます。

 流石に何日も同じことを繰り返していれば誰しもが慣れて来るのか、もうエキナセアがダンテの分の朝食を用意しても「甲斐甲斐しい」だのという冷やかしは出なくなっていた。

 そして、数時間が経ち、城中のほぼ全員が訓練に励む中、ダンテはエキナセアと執務室の中に居た。

 

「それじゃあ、行って来る。後の事はエキナセアに任せたぞ」

「ああ、任せてくれ。きっちりキミの期待に応えてみせよう」

「あー、遅くなる事はないと思うが、もし遅くなったら俺を待たずに食事は済ませてしまってくれ。それから――」

「分かった、分かった。ほら、急がなくて良いのか? 時間、無くなってしまうぞ」

 

 まるで関係の深い男女の様なやり取りを繰り広げつつ、エキナセアに背中をぐいぐいと押され、ダンテは執務室から押し出されてしまう。さすがは花騎士。あっさりと押し出されたダンテは、急ぎ足で城の玄関まで向かい、そこで既に用意されていた馬に跨ると、目的地であるアンドレイ・コーラムバインの待つ城へと向けて馬を出した。

 

 それから十数分だろうか、さほど時間も掛からずに目的地の城へと到着したダンテは、城の兵士に馬を任せ、玄関で控えていた兵士に用件を伝えると、その兵士に案内されて執務室へと通された。

 執務室の中には髭を蓄え、その顔付きに似合う筋肉質で大柄な大男が待ち構えていた。

 

「おお、よく来たな。俺の名はアンドレイ・コーラムバイン。知ってるとは思うが、このブロッサムヒル王都常駐の騎士団を仕切ってる」

「ダンテ・サウラードです。本日は指令書に従い、明日の任務の詳細の説明を受けるべく出頭しました」

「そんな固くならんでくれ。君の噂は聞いているよ。元軍属の騎士団長……年齢こそ俺の方が君より上だが、こういった軍事に携わる職務に就いている年数は君の方が長い。いわば先輩という奴だ」

「しかし、先任ですので。個人的な付き合いなら兎も角、こういった公務ではきっちりとケジメを付けませんと、花騎士や兵士に示しがつかないでしょう」

 

 肩を竦めつつ冗談っぽく言うダンテを、アンドレイは目を丸くして見やってから、その巨体に似つかわしい大声でガハハハと大笑いをし、一頻り笑うと「すまない」と未だ湧き上がる笑いを堪えつつ、

 

「いやはや、噂には聞き及んでいたが、確かに軍人特有のお硬さはないな! 」

「恐縮です。 では、早速で申し訳ありませんが」

「おおう! 今回が初任務だったな。まぁ、そんな身構える必要はない。ただ決められたルートを巡回して戻って来るだけだからな」

 

 そう言いつつ、アンドレイは机の上から一枚の地図を摘み上げると、それをダンテに手渡した。

 その地図をダンテが見ると、ブロッサムヒル王都近辺の詳細な地図にフォス丘陵地帯をぐるりと回るように矢印が書き込まれていた。

 

「その矢印が任務で回ってもらう散歩コースだ」

「散歩コース、ですか」

「ああ、確かに細々とした害虫はうろついてはいるが、それも駆け出し騎士団でも容易に倒せる程度の雑魚ばかりだ。言葉の通り、ちょっとした散歩コースみたいなもんさ」

「そう、ですか。では、大型の害虫等は? 」

「そんなもの、うろついてなんかいないさ。先日もスミルノフのとこの部隊が危険そうな奴を掃除したばかりだからな」

「スミルノフ、と云いますと……スミルノフ・モンクスフード団長ですか」

 

 ダンテがそう呟くと「お、知っているのか! 」とアンドレイは殊更嬉しそうな表情になる。

 スミルノフ・モンクスフード。このブロッサムヒルでアンドレイと共に王都常駐騎士団の団長を務める美丈夫で、その容姿端麗さから女性兵士を中心として女性市民と広く支持を受けている人物である。人気の割には浮いた話を聞かない事でも有名な男ではあるが、それはまた別の話である。

 

「まぁ、そうだ。スミルノフの奴が任務地一帯の強力だと思われる害虫は討伐しているはずだからな。明日は安心して任務に望んで良い」

「そうですか。……了解です。では明日はこの地図の通りに」

「ああ、よろしく頼むぞ! 」

 

 任務の内容を聞き終え、執務室を辞したダンテは明日の任務に備えるべく、早足に自分の城へと戻ると、その足で花騎士達が訓練を続けているであろう鍛錬場へと向かった。

 

 鍛錬場へと足を踏み入れると、そこではエキナセアを中心として四人の花騎士達が連携を意識した訓練に励んでいる最中だった。

 その様子を暫く扉の横で眺めていた彼に気付いたエキナセアが訓練から抜け出して近付いて来る。それに気付いたセントポーリア、ライラック、アマリリスが倣って近付いて来る。

 四人に「そこでいい」と手で制しながら、壁から離れた彼は何も言っていないのに横一列に整列している四人の花騎士達の前で止まると、手を腰の後ろに回し仁王立ちになる。

 

「エキナセアから聞いているとは思うが、明朝八時、俺達にとって初めてとなる任務が実施される。急な話ではあるが、鍛錬での成果を活かし、常に冷静に対処すればいかなる状況となっても勝機を失うことはない。仲間を信じ、そして何より、自身の力を信じて、明日の任務に励んで欲しい」

 

 一旦区切り、「質問は? 」と問い掛けるダンテに、手を挙げたのはセントポーリアだった。

 

「あのぉ、討伐任務などはほとんどが最低でも五人一組の部隊で任務を行なうと騎士団学校では聞いていたのですがぁ」

「そうだな。だが、今回はこの四人での任務となる。一人欠けているのは……俺の努力不足と思っておいてくれ。どのみち、任務を直前に控えた状態では召喚も出来ないからな。本当に申し訳ないと思うが、頑張ってくれ」

「は~い、頑張ります~」

 

 相変わらずの調子で返すセントポーリアを頷きつつ見やってから、「他にはないか」と問うが「特には」という皆を代表してのエキナセアの返事に頷き返す。

 

「さて、それでは鍛錬の最中にすまなかった。続きを再開してくれ。 それから、今日の鍛錬はエキナセアに伝えた内容のみだ。後の時間は明日の任務に備えて体を休め、英気を養ってくれ。以上、解散! 」

 

 最後の言葉と号令と共に敬礼の姿勢を取るダンテに、四人はそれぞれに敬礼を返す。姿勢もタイミングもバラバラではあったが、それを特に咎めることもせずダンテは踵を返して鍛錬場を後にするのであった。

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