※この作品はR-18です。

花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました-   作:ダンテこったい聖司

11 / 19
4.

 夜が明け、朝日が差す少し前。いつもより早くに目を覚ましたダンテは独り、鍛錬場に訪れ案山子と対峙していた。

 その手には普段は提げていない長剣が握られており、その切っ先は案山子へと向けられている。

 

「――ッ!」

 

 一閃。空を切る音と共に放たれた一撃は案山子の腕を小気味良い音を立てながら断ち切る。更に横一文字の一閃で今度は首を跳ね飛ばす。

 一呼吸で案山子を破壊したダンテは、深く息を吐き出すと剣を鞘へと収める。その顔は険しく、普段の友好的な表情の多い彼らしからぬものだった。

 破壊した案山子を片付けながら、彼は紋章の刻まれた右腕を見やる。その右腕は、起きた時から一度は引いた痛みが僅かだがぶり返しており、まるで今日の害虫との戦いに何かを予期し、懼れている様にも感じ取れた。

 そんな予感めいたものを感じながら部屋に戻った彼は団長専用の浴室で汗を洗い流した。汗を洗い流し終え、風呂から上がった頃には薄暗かった空はすっかり陽が差しており、窓から覗く空には青空が広がり、雲も少なく見えた。

 さて、着替えも終え、椅子に座り朝の珈琲を飲みながら一息ついていると、執務室の扉が叩かれ、外から彼の起床を確認するエキナセアの声が聞こえた。ダンテは珈琲を飲みつつそれに応えるが、扉を開いて室内に入ってきたエキナセアの顔は特段変わったところもなく、普段通りに見えた。

 初任務の緊張感で固くなってはいないだろうか。と考えていただけに意外に感じていたダンテではあったが、反面安堵をしつつ、エキナセアにも珈琲を勧める。が、それを彼女は辞すると、悪いのだが、と言いつつ一人紅茶の用意をし始めた。

 

「そういえば、セントポーリア、ライラック、アマリリスの様子はどうだ? 今朝はもう会ったのか」

「セントポーリア、ライラックにはまだ会ってはいないが、アマリリスには先程一階の廊下ですれ違った。ひと目で見て分かるほど緊張していたし、会った場所も鍛錬場に向かう廊下だったからな。きっと、鍛錬場で訓練をしているのかも知れないな」

「おいおい、止めなかったのか? 今からそんな調子じゃ、任務で疲れ果ててしまわないかと心配になるんだが」

「勿論止めたさ。しかし、彼女の気持ちも分からなくはないからな。程々にしておくように、とは言っておいた。大丈夫、アマリリスだって花騎士だ。その辺はちゃんと分かっているだろうさ」

 

 アマリリスを信頼している、という表情を浮かべつつそう言うエキナセアは、用意した紅茶をひと口啜る。その様子を見ていたダンテも、エキナセアがそう言うのなら。と考えて少し温くなりだした珈琲をカップを仰いで飲み干す。時計は朝食へ向かうのに丁度いい時刻を知らせていた。

 

 エキナセアを伴って食堂に入ったダンテは、ここ数日で漸く彼好みの挨拶になってきた兵士や文官に挨拶を返しながら、いつもの席へと着く。そこにはいつも通りのメンバーが揃っており、それぞれ既にバイキングから朝食を持って来て待ち構えていた。

 ダンテが一人ひとりに「緊張していないか」、「訓練通りにやれば大丈夫だ」と声を掛けていると、エキナセアが自分と彼の分の朝食を持って席へとやって来た。それをお礼を言いつつ受け取り、エキナセアの着席を待つと、揃って食事を開始したのだった。

 多少の緊張感をそれぞれの表情に孕みつつ、いつも通りに朝食を済ましたダンテは部屋に戻ると普段は開かない引き出しを開き、中に収納してあった拳銃を取り出した。彼は右から左からとそれを見てから、回転弾倉を横へ振り出し、弾倉に弾薬を詰めていく。弾薬を詰め終わると、弾倉を元に戻し、右太腿に巻き付けたホルスターに収納すると、続いて長剣を腰から提げ、鞘と繋がったベルトに通してあるダガー用の鞘にもダガーを収める。

 それらの武装を装備すると上着を羽織り、準備を終えた。彼は鏡で自身の姿を見て、我ながら不必要なまでに重武装だな。と考え独り苦笑を浮かべる。しかし、それは彼の用心であるとも言えた。

 ダンテは騎士団長という立場で在るものの、その以前は一介の兵士。それも花騎士の力も借りずに害虫から民を守る為に身を挺して戦っていた様な部隊の隊長である。その経験が万が一を考えさせ、彼にこの武装をさせるのである。花騎士が傍にいるのだから臆病風に吹かていると、単に彼を謗る事は出来ない。

 身形を整えた彼は部屋を出ると、自分の花騎士達が待つ城玄関へと向かうのであった。

 

 時刻は八時頃。昨日の任務説明にて予定した任務開始時刻ほぼ同時に任務開始地点へと到着したダンテ達は、そこで一旦停止すると、ダンテを前にして横一列に整列した。

 

「これより、俺達にとって初の任務となる巡回任務を開始する。巡回ルートはここよりフォス丘陵地帯を大きく回り、反対のフォス街道へと抜ける事になる。情報によれば現在今回の巡回ルート周辺には比較的脅威となり得る様な害虫は居ないとされているが、それでも細々とした害虫は確認されている。全員、気を引き締めて、油断などせずに任務に当たってくれ」

「「「はいっ! 」」」

 

 息もぴったりに威勢の良い返事に満足そうに頷いた彼はそのまま隊列の説明と敵発見時の報告方法を教えると、降りていた馬に再び跨り任務を開始するのであった。

 隊列はダンテを中心として左側が斜め前へ、右側が斜め後ろへと続く形である。この形はどの方角から襲撃を受けたり、敵を発見して戦闘に突入したとしても最小限の動きで横隊へと移れるので、ダンテが自身のメンバーと攻撃方法、戦法に照らし合わせて戦いやすいと感じたものとして採った陣形だった。

 さて、やや遅ればせながら隊列の配置であるが、左から順にライラック、セントポーリア、エキナセア、アマリリスといった配置である。ダンテの考える戦い方は直に知れる事であろうが、これが彼の考える戦法で有効だとする配置であった。

 任務を開始して、そう時間が経たない頃だった。右側を見張っていたアマリリスが声を上げた。

 

「害虫発見しました! 二時方向! 数は四です! これで良いでしょうか……? 」

「上出来だ! 総員、戦闘準備! 二時方向、数四! 」

 

 ダンテが左側にも聞こえるよう大声で号令を掛ける。それを聞いたライラック、セントポーリアが指示された方角に向き直り、先に横隊に移っていたエキナセアとアマリリスに倣って横隊位置へと着く。その間、害虫のいる方角を双眼鏡で覗いていたダンテは害虫の種類を確認していた。

 

「カマキリ型とハエ型がそれぞれ二体ずつ。こちらにはまだ気付いていないか……。よし、全員全速力で敵に接近する。ある程度近付いたらライラック、アマリリスは止まって攻撃開始。ハエ型を狙い撃て! セントポーリアとエキナセアはその間にカマキリ型をそれぞれ一体ずつ殺れ。先に片付けた方が残っている方を援護しろ! ライラックとアマリリスは味方に当てるんじゃないぞ? 勿論、エキナセアとセントポーリアは味方の攻撃に当たるようなヘマはしないことだ! いいな! 」

「「「はいっ! 」」」

 

 返事に頷き返し、厳しい面持ちのままダンテはこう言い放った。

 

「さあ、始めようか。戦闘開始! 」

 

 その声を掛け声にダンテを含む全員が害虫に向かって走り出した。

 馬を疾走らせるダンテの真横をエキナセア、セントポーリアが駆ける。ダンテも花騎士の膂力に合わせてそれなりの駿馬を用意していたが、その脚ですらやや遅れる程の速さで駆ける二人に改めて驚愕しつつエキナセアとセントポーリアを見やるが、どちらもなかなかに立派なものを持っている二人である。しかも上半分は露出するような服装も相まってとんでもなく揺れている。

 戦闘中であるにも関わらず動揺したダンテは慌てて視線を正面へと移すと、かなり害虫に近付いたところでライラックとアマリリスに停止を呼び掛ける。それに直ぐ様応えてライラックとアマリリスが止まり、セントポーリアとエキナセアはそのまま害虫の群れへと突っ込んで行く。

 ダンテが改めて指示を出す間もなく、残った二人はそれぞれ一番狙い易いハエ型へと狙いを定めて攻撃を開始する。

 

「私の攻撃、受けてみよ~! 」

「貴族の魔法を、見せてあげますよ! 」

 

 ライラックが放った矢はエキナセア達をすぐに追い抜く程の速さで飛んでいき、寸分違わずにハエ型害虫の胸を刺し貫き、斜めに当たった矢は頭すらも貫く。たったの一矢で致命傷を受けたハエ型は力無く墜落し、真下にいたカマキリ型の背中へと落ちる。

 驚いたようにカマキリ型はそれを跳ね除け、跳ね除けられたハエ型は地面に転がるとそのまま絶命し、光の粒子、シャインクリスタルへと姿を変える。

 落下してきたハエ型を跳ね除けたカマキリ型は漸く自身の身に迫る危機に気付き構えるも、時既に遅く、猛烈な速さで肉薄していたセントポーリアにその突進力を活かした一撃で腕の付け根から右腕を切り落とされた。突然降って湧いた痛みに体液を流しながらもがき苦しむ様に叫ぶも、その間に背後に抜けていたセントポーリアに更に左腕も切り落とされ、とうとう丸腰同然となってしまう。

 

「これで倒れてくださ~い」

 

 どこまでも気の抜けた声でありながら、トドメとばかりに一飛で害虫に肉薄したセントポーリアはそのまま首を跳ね飛ばす。カマキリ型はそのまま前のめりに倒れると同時にシャインクリスタルへと姿を変えた。

 一方、右側のアマリリスが狙いを定めたハエ型は、光の尾を引きつつ放たれた魔弾に腹を撃ち抜かれ、続けて放たれていた次弾にそのまま頭も撃ち抜かれる。否、撃ち抜かれるというよりもそのままもがれたと言える様な有様となったハエ型は墜落し、その途中で空に溶けるようにしてシャインクリスタルになり、地上のもう一方のカマキリ型も突如暴れ出した仲間の様子に危機を察するも、セントポーリア以上の速さで接近していたエキナセアにろくな反応をすることも出来ずに投げつけられた苦無で首、目、とを深々と刺される。

 

「これで、終いだ! 」

 

 言葉と共に脳天を苦無で刺し貫く。その攻撃の鋭さにはカマキリ型程度の甲殻では防ぎようもなく安々と突き刺さり、崩れ落ちるようにして害虫は絶命した。

 全ての害虫を倒し終えた事を確認したダンテは、付近に別の敵が居ないかを自身でも確認しつつ全員に索敵を命じる。そして、一先ず他の害虫が居ないことを確認すると、戦闘終了を宣言した。

 宣言を聞き、全員が一息つく。だが、気を緩めるのはまだ早いとして、ダンテは注意すると全員に再度隊列形成をさせる。初の害虫との戦闘は奇襲成功により、大勝利を収めたのであった。

 

「全員、よくやってくれた! 任務終了までは気を緩めること無く、このまま勝利を収めていこう。では、外れたルートへ復帰して任務を続行するぞ! 」

 

 誇らしげなダンテを見て、自分達も誇らしく感じながら返事を返し、四人は元の陣形に戻りつつ、外れたルートへと戻っていくのであった。

 

 それから幾度かの害虫の発見、襲撃があったものの、ダンテの出す柔軟な戦法や指示、そして花騎士達はそれを日頃の訓練を活かして確実に実行することで、その全ての戦闘で一方的な勝利を収めていた。

 しかし、その勝利は一方でダンテの心に暗雲を立ち込めさせていた。それは、一方的に勝ち過ぎていたからだ。確かに、戦いに勝利することで勢い付く事は重要ではあるが、その反面油断を招きかねない一面を持ち合わせている。

 事実、今のダンテが率いる花騎士達は勢い付くと同時にどこか慢心している様にも彼には見えていた。今ここで、強敵との戦闘になったら……。そう考えるだけで朝から続く右腕の何かを慴れる様な痛みも相まって、彼の心は不安に満ちるばかりであった。

 程なく、何事もなくこのまま済めば。という彼の願いは儚くも潰えることとなった。

 馬上から双眼鏡で周囲を警戒していた彼の目に大型のカブト型害虫の姿が飛び込んできたのである。その巨体は明らかに先程まで相手にしていた小型や中型の害虫より一線を画する体格で、ダンテはひと目でそれがこの周辺では場違いな存在であると確信した。

 その大型害虫はジッとして動かず、まるで何事かを待ち構えているかの様にも見えた。未だこちらの存在には気付かれていない。そう考えたダンテは即座に全員をその場で停止させ、思考に意識を向ける。

 彼我の力量を推測し、どうするのが最も最良の選択かを自身の知識、経験を総動員させて考える。その彼の様子の変化はすぐに彼の花騎士達にも伝わり、何事かとセントポーリアとライラックは首を傾げ、アマリリスは不安そうな表情を浮かべる。だが、明らかに何かあったと確信したのだろう。エキナセアだけはダンテの元へと駆け寄り、小声で彼に話しかけてきた。

 

「何かあったのだろう。何があったんだ」

「まだお前達には見えていないんだな。十一時方向のここからかなり離れた距離のところに大型の害虫がいるんだ」

「何!? 」

「大声を出すな。俺の受けていた情報ではここいらには大型の害虫はいないと言われていたのだが、どうやら誤っていたらしい。折角の情報も、鮮度が落ちては意味がないということだな」

「それで、キミはどうしようと考えているんだ? 」

「俺の見立てでは明らかにここいらでは見かけるはずのない力を持った害虫だと読んでいる。今のメンバーでは不利だ。最悪、全滅もあり得るかもしれない。ここは交戦を回避して、アンドレイ団長とスミルノフ団長に報告するべきだと判断している」

「そうか。キミがそう言うのなら――」

 

 エキナセアが言葉を続けようとしたその時だった。大きな物音が聞こえ、ダンテは物音の方角へ双眼鏡を向ける。そこにはあろうことか、フォス街道を通って港都市方面からの輸送隊の馬車が王都に向かって進んでいた。そして、その先には大型害虫が潜伏している事には彼はすぐに気付いた。

 ダンテは急いで双眼鏡を害虫の方へ向けると、待っていましたと言わんばかりだろう。大型害虫が動き出していたのだ。

 

「そうか、そういうことか!! 」

「どうした、何があった!? 」

「大型害虫が動き出した! 民間の輸送隊の馬車が近付いているんだ」

「救出に向かおう! もう迷っている暇はないだろう!? 」

「しかしだな……! 」

 

 今すぐにでも飛び出して行きそうな勢いのエキナセアを馬から降りて腕を掴んで引き止めながらダンテは苦い顔を浮かべる。脳裏に一度は吹っ切れたはずの想いが蘇る。

 

(また全滅させてしまうのでは)

 

 動悸が荒くなり、嫌な汗が背筋を流れるのを彼は感じていた。他の三人も今のやり取りを聞いていたのだろう、今すぐにも飛び出していく態勢である。

 

「団長さ~ん、大丈夫ですよ~。私たちならきっと倒せます~」

「そうですよ、団長さん! 団長さんの作戦と私達の力があれば、勝てない害虫なんていません! 」

「そ、その通りですよ! 大型害虫くらい、倒してみせます! それくらい出来ますよ? 貴族ですから! 」

「楽観視するなッ!! 」

 

 調子付くエキナセア以外の三人に、自分でもびっくりするほどの大声ダンテはで怒鳴ると、空いた手で自身の顔を覆いつつ彼は苦い顔を更に深くする。

 

「俺は……俺はもう……部下や仲間を死なせたくはないんだ……。あの時の様な間違いは……もうしたくないんだ……」

「団長……」

 

 険しい顔でダンテを睨んでいたエキナセアも、彼の表情を見るやふと飛び出していこうとする力を緩め、彼に向き直る。

 

「団長、キミの想いは分かった。 しかし、私達は花騎士だ。必要とあれば、この身を挺して民を守らねばならない。それは、花騎士である以前に貴族としての私個人の挟持でもあるんだ。だからどうか、せめて私だけでも行かせてくれ」

「それは出来ない! エキナセア、お前一人で行くなど、ただの自殺行為だ! 貴族の挟持だろうがノブリス・オブリージュだろうが、なんであろうが、そんな事は認められない! 」

「それでは聞くが、敵いそうにないからと、民を見捨て、希望にも懸けずに逃げて。私達花騎士は何の為に存在していることになる」

「俺だって、戦力が充分なら迷うこと無く戦うさ。しかし、義務感や使命感だけでどうにもならない事はあるんだ! 俺は、お前達花騎士一人でも失えば、百人の民を見殺しにするだろう。そう考えているんだよ! それを――」

「その考えを、自分の過去の失敗を繰り返さない為の言い訳にするのは止めるんだ」

 

 慈しむ様な、傷だらけの彼の心を癒やすような表情を浮かべたエキナセアは、そっと彼を抱きしめた。突然の事で驚きの表情を隠せないダンテであるが、抵抗する気になれずになすがままに抱きしめられたままになった。

 

「キミの考えは最もだと私も思う。しかし、このかかる事態もキミの今までの指導と戦術でなら覆せると私は信じている。だからどうか、私達を信じてくれ。キミの花騎士がそう簡単に負けるわけがない。そうだろう? 」

「……死ぬ事は、許さないぞ」

 

 一言、彼はそう呟く。それに黙って頷き、エキナセアは彼を放した。放されたダンテの顔は既に覚悟を決めたもので、その目に迷いはなかった。

 

「奴を倒し、全員生きて帰るぞ! 」

「「「はいっ!!! 」」」

 

 再び双眼鏡を覗き込む。かなり時間を費やしてしまったせいか、大型害虫は輸送隊にかなり接近しており、輸送隊もパニックに陥っているのが目に入った。

 

「全員、横隊維持しつつ全速力で敵に向かう! 行くぞ!! 」

 

 馬に鞭を打ち、勢い良く走り出す。その両脇を四人の花騎士達が駆ける。ぐんぐんと近付く害虫との距離。ダンテは少しでも害虫の注意をこちらに引き付けるべくホルスターから取り出した拳銃を乱発しながら突進する。

 

「ライラック、アマリリスは距離を取りつつ援護射撃! エキナセア、セントポーリアは俺と共に敵に突撃する!! 」

「分かりました! 」「任せてください! 」

 

 それぞれに返事を返すと、その場で急制動を掛けて、それぞれの武器を構えて攻撃を開始する。その間もダンテ、エキナセア、セントポーリアは猛烈な勢いで大型害虫へと向かって突き進む。

 最初、乱発される拳銃だけでは見向きもしなかった害虫も遠距離からの攻撃と、自身に向かって突っ込んで来る花騎士を認めると、無視も出来ないのかとうとうダンテ達に狙いを移す。

 

「エキナセア、セントポーリア、戦闘開始だ! 俺は輸送隊を避難させる! 時間を稼いでくれ! 」

「了解した! 」「は~い! 」

 

 ダンテはそのまま害虫の脇を走り抜け、輸送隊の元へと馬を走らせ、エキナセアとセントポーリアは害虫の正面から攻撃を開始する。

 エキナセアの苦無が、セントポーリアのナイフが、ライラックの矢が、アマリリスの魔弾が、虚しくも害虫の堅い甲殻に弾かれていく。

 カブト型故の予想を超える甲殻の堅さにエキナセア達は驚きを隠せず、エキナセアとセントポーリアは一旦距離を離す。と、一瞬前までエキナセアのいた場所を害虫の鋭い角が大きく地面を抉りながら薙いでいく。その破壊力に前衛の二人はゾッとすると、害虫の動きにより注意を向ける。害虫も次の攻撃に移ろうと、隙を窺うように構える。

 そこでエキナセアはこの害虫がダンテの言う通りでこの辺りではまず見かけることが無いような強力な害虫であることを確信した。しかし、彼女の心は決して怯むことはなかった。その胸には貴族として花騎士としての誇り、そしてダンテにこれ以上辛い思いはさせまいとする炎が灯っていたからだった。

 と、そこで、エキナセアの脳裏にダンテが初日に行なった座学の内容が駆け巡った。

 

『これはカブト型などの同様に甲殻に身を包まれた害虫全般に言える話だが、これらの害虫は関節部分に必ず柔らかな部位が剥き出しとなる。これはどれだけ巨大になろうが、強固な甲殻に覆われようが、覆せない弱点だ。この部位を正確に攻撃することで、強力な威力の攻撃が出来ずとも絶大な効果を発揮させる事が可能だ』

 

「皆、奴の関節部分を狙うんだ! 」

 

 そう叫ぶとエキナセアはカブト型の左脚関節部に向けて苦無を放つ。その苦無は前肢の関節部に突き刺さり、血液が飛び散る。エキナセアが飛び退くと、そこへライラックから放たれた矢が同じ肢の関節に刺さり、害虫は痛みに苦しみの声を上げる。

 

「負けられないんですよぉ!! 」

 

 そこへ近くへ近付いて来ていたアマリリスがひと際太い魔弾を撃ち出した。"フォースショット" アマリリスのスキルが猛烈な速さで害虫に迫り、エキナセアとライラックがダメージを蓄積させていた左前肢を吹き飛ばした。

 左前肢を吹き飛ばされた害虫は堪らずその場に崩れる。と、そこへ輸送隊の避難誘導を終えたダンテが駆け付ける。

 

「姿勢を崩したか! ライラック、スキルを使えるか!? 」

「はいっ! いけます! 」

「よしっ! 奴の右後肢付け根を狙ってくれ! 」

「分かりました!」

 

 ダンテに命じられたライラックは返事と共に大きく跳び上がると、地面に向けて矢を放った。放たれた矢は渦巻く光の帯を纏いながら地面へ吸い込まれると一拍の後に先程と比べ物にならない程の大きな光の帯を纏った矢が害虫の足元から垂直に飛び出した。

 ライラックのスキル、"スパイラルダート"はダンテの狙い通り体勢を崩して藻掻いていた害虫をグンッと持ち上げると右後肢を付け根から吹き飛ばしながら害虫の体をひっくり返したのだ。

「ジャックポット! 」 ダンテはそう言いながら指を打ち鳴らす。賭けに勝った。そうダンテは確信した。彼は虫の体の構造をよく把握していたのだ。どれだけ強固な甲殻に守られていようと、全身が隙間なく甲殻に覆われているわけではない事、そして何よりカブト型の様な上面を堅い甲殻で守られた虫はひっくり返されれば弱点をさらけ出す事になることも。

 

「今だ!! 全員、総攻撃! 」

「「「はいっ!!!」」」

 

 発せられた攻撃命令に、待ってましたとばかりに四人の花騎士達がひっくり返り、隙だらけの害虫に殺到し、害虫は絶望に満ちた悲鳴のような音を立てる。

 ライラックの矢が腹に刺さり、再び放たれたアマリリスのフォースショットが腹部を撃ち貫く。セントポーリアのスキル、"剛力斬"が残っていた全ての肢を付け根を斬り刻み完全に動きを封じた。そして、

 

「私の本気を見よ! 」

 

 そう叫びながらエキナセアが空中を舞いながら光を帯びた幾つもの苦無を害虫の咽喉に向かって投げ放つ。苦無は過たずに咽喉に深々と突き刺さるが、それでエキナセアの攻撃は終わりではなかった。着地すると、バックステップで害虫に隣接すると手に持つ苦無を高速回転させ、あたかも回転ノコギリの様に害虫の咽喉をズタズタに引き裂いていく。

 エキナセアは自身のスキルである"飛刀演舞・爆雷散雅"で害虫の返り血を気にすることもなく容赦なく攻撃する。

 そして、エキナセアのスキル発動が終わった時には大型害虫は力無くぐったりと動かなくなっていた。と、次の瞬間には弾ける様にして光の粒子に変わり、吸い寄せられるようにしてダンテの右腕の紋章へと吸収されたのだった。

 

「――ッ!? 」

 

 大型害虫のシャインクリスタルを右腕に取り込んだ瞬間、ダンテの脳裏に何かの情景が過り、一瞬の激しい頭痛に彼は顔をしかめる。しかし、その情景も痛みもほんの一瞬で右腕の疼くような痛みと共にすぐに何事もなかったかのように引いていた。

 

(何だったんだ、今のは……。どこか、懐かしいような感じだったが)

 

 そう考えつつ、過った情景を思い出そうとしても思い出すことは出来ず、彼はすぐに諦めた。

 

「周囲索敵! 全員、怪我はないか!? 」

 

 気を取り直したダンテは辺りを見回し、他の害虫が居ないことを確認しながら四人の様子を流し見る。パッと見て大きな怪我がない事を確認し、四人からも問題なしの報告を受けると、漸くダンテは安堵の息を吐いた。

 安全な場所へと避難させた輸送隊の方を見やると、影から戦いの様子を見ていたのだろう。輸送隊の人達が嬉しそうに、そしてダンテ達を讃えるようにこちらに手を振っているのが見えた。

 

「よーし、任務も大詰めだ! 輸送隊を護衛しつつ、俺達も王都に戻る! 」

「「「了解です! 」」」

 

 ダンテの指示に従って、ダンテ達は輸送隊と合流すると彼女等を護衛しつつ王都へと向かった。

 帰り道では害虫に出くわす事もなく、無事に全員が王都へと帰り着いた。こうして、ダンテ率いる花騎士団の初任務は、想定外の事態も乗り越えて、無事完遂したのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。