花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました- 作:ダンテこったい聖司
勲章授与式の知らせを受け取ってから数日が経ち、勲章授与式当日となった。ダンテは勲章授与の為に街の広場に設けられた壇上に上がった。そこでお決まりの感謝の言葉と勲章授与を女王から受け、そこで感謝状と何かの入った小さな箱を受け取ったダンテは深々と頭を下げると、壇上を去る。
勲章授与式が終わり、街の人々からの感謝を込めたパーティが催される事になっているのを知らされたダンテは想定外の事と慣れない事の連続でややゲンナリとした気分になりながらも、好意を無碍にも出来ないと考え、出席を快諾した。
「さすがにエキナセアは、こういうパーティにも慣れっこか? 」
「こういう、というと語弊があるが貴族が開くパーティにはよく出ていたからな。パーティそのものには慣れている。そういうキミは逆に慣れていない、という感じだな」
そう言いながら少し楽しげにエキナセアはダンテを見やり、「なかなか似合うじゃないか。様になっているぞ」と微笑う。
「馬子にも衣装ってだけだろ。俺はどうもこういうのは性に合わないな。落ち着かないったら」
「騎士団長として場に合わせた衣装の着こなしはしないとな。いつも通りでいい、と言われたにしても本当にいつもの格好で出席するわけにはさすがにいかないだろう? 」
「俺はいつもの格好でもいいと思うだがねぇ。変にかしこまったりするのってするのもされるのも好きじゃないんだよ」
「はいはい、分かった分かった。女王陛下も出席されてるんだから、諦めてシャンとするんだ」
気疲れで項垂れていたダンテは、背中をエキナセアは軽く叩かれ反射的に不自然なほどにピンッと背筋を伸ばした。
その様子がおかしかったのか、周囲にいた他の花騎士達も面白げに微笑う。
「さて、と。ほら、ずっと私達の傍にばかりいないで、少しは街の人達のところにも挨拶に行った方がいいんじゃないか? 」
エキナセアにそう言われ、ダンテは観念したように自分の花騎士達の輪の中から外れ、街の人々の方へと向かうが、それを待っていたのかすぐに街の人達囲まれる結果となった。それも主に女性を中心に、である。
「私、噂で聞いたんですが、元はこの国の軍人さんだったって本当ですか? 」
「害虫を花騎士様でないのに倒せてしまう程のお力があると聞いたんですが! 」
「先日が初任務だったのに巨大害虫を討伐できてしまうなんて、さすがです! 」
女三人寄れば何とやら、であろうか。ダンテを取り囲む市民の中でもひと際騒がしい、いや元気の良い女性三人がダンテの正面を陣取ってキャイキャイと盛り上がる。
その勢いにダンテは苦笑いを浮かべつつ、助けを求めるようにエキナセアの方を見やるが、肝心のエキナセアは街の人々への応対をしており、彼のそれには気付くことはなかった。彼女の様子を見て諦めをつけたダンテは、適当に相手をすると「他の人にも挨拶をしなければ」等といい加減な理由をつけ、背中に三人娘の不満を受けながらもその場を逃れた。
(ふぅ、やれやれ。やっと逃げ出せたか)
内心安堵すると、どこか一休みできる場所がないだろうかとダンテは辺りを見回しながら会場内を散策し始める。
途中何度か街の人々に呼び止められてはその応対をしたものの、彼はようやく人気が少ない場所を見つけると、そこへ向かい一息ついた。
「ふぅ……。疲れた……。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな」
「ふふっ、お疲れね。確かに、これだけ人が多いと疲れちゃうわよねー。騎士団長さんともなれば特にそうじゃないかしら」
「ああ、こういう場は不馴れでな。余計に疲れるよ。……ん? 君は……この街の子か? 」
「子供じゃないんだから、子だなんて言わないで欲しいなぁ。それから、私は普段ウィンターローズに住んでいてね、今日は友達に誘われて来たの! 」
「そうなのか。それで? その友達とやらはどこにいるんだ? 見たところ一人のようだが」
「今はたぶん街のおエライさん達に挨拶でもしてるんじゃないかしら。最近、この街の騎士団の副騎士団長に就任した、って手紙で書いていたし」
「ほぅ、そうなのか」
(最近? 騎士団の副団長って事は、心あたりがあるのはエキナセアだが、彼女の友達って事か? いや、だが、この子からは貴族らしさがまるで感じられないが……)
ダンテは横目で話しかけてきた乾鮭色の髪色をした女の子を観察する。と、ふと湧いて出た疑問に口を開いた。
「そういえば、どうして俺が騎士団長だって分かったんだ? 」
「それはそんな格好をしていれば誰だって気付くわよ。もう全身から『自分は騎士団長ですー! 』ってアピールしているようなものだもの」
「あ、ああ。そういうことか。確かに、この格好だったらすぐバレるか」
納得したダンテは短いため息をつくと、その場を離れようと足取り重く歩き出す。
「あら、もう行くの? 」
「ああ、あまり場を離れすぎていても街の人達に悪いからな……。観念して戻るよ」
「そうなの。じゃあ、頑張ってね、騎士団長さん」
背中から投げかけられる言葉にダンテはひらひらと手を振り返すと、そのままパーティーの喧騒の中へと戻っていくのであった。
「ふふっ、あれがダンテ騎士団長さんかぁ。エキナセアの手紙にあった通り、なんだか面白そうな人だったなぁ。さーてと、エキナセアを探しにいーこうっと」
そう言うが早いか、ニコニコと笑顔を浮かべながらその場に残っていた女の子は重い足取りだったダンテとは逆に軽い足取りで彼とは別方向の喧騒へと潜っていった。
パーティーが終わり、夜が明けた翌日。ダンテは、ぐったりとした様子でベッドから身体を起こした。前の夜のパーティーの気疲れが思いの外抜けずにいたからであったが、さすがにそのままで居るわけにもいかないと、顔をパシンパシンと軽く叩き気合を入れると努めて軽い足取りでベッドから降り立った。
ささっといつもの様に着替えを済ませ身支度を整えると、ちょうど終わり際にエキナセアが部屋を訪れた。
「おや、今日はさすがにパーティーの疲れが抜けていないだろうと思っていたのだが、杞憂だったようだな」
「いや、そうでもない。疲れてはいるが、かと言っていつまでもベッドに潜っているわけにも行かないからな。無理矢理にでも身体を起こそうと頑張っただけだ」
「ふふっ、いい心がけだ。さて、ではそろそろ食堂へ向かおうか」
エキナセアの提案に短く返事を返すと、彼女と共に食堂へと向かうと、近頃では慣れた挨拶と朝食を済ませて、全員に今日一日の予定をざっくりと説明し終えてエキナセアと共に執務室へと戻った。
「ああ、そういえばまだこれを開けてなかったな。……って、何だこれ? 」
「ん? これは、特別召喚許可証じゃないか」
「なんだ、知っているのか? 」
「ああ、噂に聞いた程度ではあるが、なんでもその許可証に召喚したい花騎士の名前を記入して召喚の儀を執り行うと記入した花騎士が召喚されるらしい。まぁ、既にどこかの騎士団に所属している花騎士は記入しても許可証に書き込めず、込められた魔力でその場で消えてしまうなど制約もあるらしいが」
ざっと受け取った特別召喚許可証の説明をエキナセアから受けると、ダンテは「ほぉ、そうなのか」などと興味ありげに小箱から許可証を取り出し窓から差し込む陽の光に翳したり手触りを確かめたりといじり回す。
一通りいじり回して満足したのか特別召喚許可証をエキナセアの目の前に放り、彼女に手に取るよう催促する。
「どうした、私に渡してどうしようというのだ? 」
「誰を呼ぶかはエキナセア、お前が決めてくれ」
「何? いいのか、本来ならキミが決めるべきだと思うのだが」
「まぁ、本来ならそうなんだろうがな。だが、如何せん俺はまだどんな花騎士達がいるのか分からないからな。それなら知り合いに花騎士がいそうなエキナセアに任せた方が適任かと思ってな」
「な、なるほど。確かに花騎士の友人はいるにはいるが……。しかし本当に良いのか? 他の三人にも意見を聞いてからでも良いのではないだろうか」
「そうなると、意見が四分五裂してまとまらないだろ。まずそれをまとめるのが面倒だからな。それなら団長権限でエキナセアに一存してしまった方が楽だろうが。それに団長権限なら皆納得すると思うしな」
「分かった。そういうことなら引き受けよう。……だが、記入はキミがしてくれ。でないと許可証の魔力が受け付けてくれないからな」
「分かった。それじゃあ、決まったらまた俺の所へ来てくれ」
「いや、その必要はない。もう決めた」
「早いな。心に決めた相手でもいるのか」
驚いたような表情を浮かべるダンテに「語弊を招くような言い方をするな! 」とエキナセアは声を荒げるが、すぐ咳払いをし居住まいを正すと「まぁ、私が招くとしたら一人くらいしかいないのでな」などと恥ずかしげに呟く。
「それじゃあ、名前を教えてくれ」
「ああ、ウィンターローズ所属のサフランという花騎士だ。私と同じく貴族の身でな。だが、貴族とは何たるかをよく理解している私の無二の親友と呼んでも差し支えない花騎士だ」
「なるほど。で、そのサフランはどこの騎士団にも所属していないよな? ここまで来て所属してましたっていうオチは期待してないぞ」
「ああ、その点は問題ない。先日も手紙のやり取りをしたが、その時も特別そういう話は出ていなかったからな。そもそも、どこかに所属していれば許可証の魔力が働くのだから、すぐ分かるだろう? 」
呆れたように微笑を浮かべるエキナセアに「おおっ、それもそうか」と思い出したかのようにダンテは目を丸くすると、気を取り直しペンを手に取るとささっと許可証の記入欄に”サフラン”と書き込む。
果たしてその文字は許可証の魔力により消えることもなく、その花騎士がどの騎士団にも所属していないことを示していた。
「よしっ! じゃあ早速召喚の儀を執り行うか! エキナセア、他のメンバーをここに集めてくれ。それから――」
「分かっている。召喚の鉢植えの用意だろう? 皆を集めるついでに持って来よう」
「頼んだぞ! 」
ダンテの言葉に「では、少しの間待っていてくれ」と返すとエキナセアは執務室を後にした。
それから何分経っただろうか。十数分程後、エキナセアが腕に鉢植えを抱えながらセントポーリア、ライラック、アマリリスの三人を引き連れて執務室へ戻って来た。
「待たせてしまってすまなかった。鉢植えを探すのに少し手間取ってしまってな」
「いやいや、それは構わないさ。そういう事なら呼んでくれても良かったのに、ありがとうな」
「キミの副官として当然の事をしたまでだ」
エキナセアが鉢植えを床に置くのを確認すると、ダンテは改めて許可証に名前が書かれているのを確かめ、鉢植えの元へと歩み寄る。
この鉢植えだが、一見ただのどこにでもある鉢植えである。しかしその実、世界花の魔力を込めながら制作されており、その鉢植えに華霊石や未成熟な華霊石であるタネと呼ばれる世界花の魔力の結晶を放り込み魔力の相互作用を発生させる事により花騎士の召喚の儀を行なうのである。
この召喚の儀は通常は投入された華霊石かタネによって無作為に選定されたどの騎士団にも所属していない花騎士が召喚される。投入するのが華霊石かタネかである程度選定される強さのランクを絞り込む事が出来るとされるが、この特別召喚許可証はその込められた強力な魔力により、記された花騎士を必ず召喚することの出来る、まさしく”特別”な代物なのである。
さて、話を元に戻そう。
ダンテはさすがに緊張した面持ちで許可証を鉢植えに近付けると、そっと手を離して鉢植えに投入した。すると、許可証と鉢植えそれぞれに込められていた魔力が作用し合い、まず鉢植えが虹色に輝く。その瞬間、その意味をよく分かっていないダンテと、今召喚される花騎士が誰かを分かっているエキナセア以外の三人が色めき立つ。
そして鉢植えから視界を覆うほどの眩い光が溢れ出し、翳していた手を下ろしたダンテの目の前に立っていたのは。
「はじめまして、団長さん。ウィンターローズ出身のサフランよ。 貴族ではあるけれど、騎士団の一員として――ってあら? 」
果たして、そこに立っていたのは乾鮭色の髪に自身の名と同じ名を冠する花を模した髪飾りを付けており、ライトグリーンの瞳は親しみ深い輝きを湛えている。その身に着ける衣服は華美ではないものの彼女の持つ雰囲気とよく調和され、その手には金の雁首と吸口、紅色の羅宇が目を引く煙管を持っていた。
彼女はダンテを見るや、にこやかだった表情は一変、驚きの表情へと変わり、対するダンテも彼女を見るや「まさか」という言葉が顔に書いてあるかの様な表情になり、目を合わせたまま同時に硬直するのであった。