花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました- 作:ダンテこったい聖司
「いやいや、初めましてって。初めましてじゃないだろ」
先に硬直から復帰したのはダンテであった。彼は今自分が召喚したばかりの彼女をジトーとした目で見つめてから、ぐるっと首だけを回してエキナセアの方を向くと、
「え、何? どういうことだ? 」
「どういうことだ、とは? 」
「いや、俺、この子と昨日会ったんだよ。パーティーの途中で。友達に呼ばれて来たとかって聞いててな。やっぱりエキナセアの友達だったわけか? 」
いまいち要領を得ない彼の言葉に合点がいったのか、エキナセアは「ああ、そういう事か」と言いながら、「紹介しよう」とサフランと名乗った花騎士の隣に立つ。
「彼女はサフランだ。数ある貴族の中でも、私が最も懇意させてもらっている」
「出来レースか? 」
「失礼だな! 私もまさかキミが人選を私に任せて来るなんて思っていなかったし、そもそも特別召喚許可証があの箱に入っていることだって知らなかったんだぞ! サフランをこちらに呼んだのだって普通に私が着任した騎士団と騎士団長であるキミを見て欲しくて呼んだだけだ」
「言われてみればそうだな。すまん。――で、サフランだったか? 俺がこの騎士団で騎士団長を務めているダンテ・サウラードだ。これからよろしく頼む」
握手をしようと手を差し出したダンテに対して一瞬目を丸くしたサフランだったが、直後に嬉しそうな表情になるとその手を両手で包み込むように握手を交わした。
その様子を黙って見ていたセントポーリア、ライラック、アマリリスであったが、意を決した様にライラックは怖ず怖ずと手を挙げながら前に歩み出る。
「あ、あのー……。エキナセアさんとサフランさんがお友達なのは分かりましたが、団長さんとサフランさんもお知り合いだったのですか? 」
「ん? ああ、さっきも話したが昨日のパーティーの最中に偶然会ってちょっと話をしたんだよ。その時はお互い名乗らなかったし、サフランがエキナセアの友人だって事はハッキリとは分からなかったけどな」
「なるほど~、そうだったんですね~」
「でもしかし、まさか昨日の今日でこういう形で再会するとは夢にも思わなかった。エキナセアもひどいよな」
「だから、わざとではないと言っているだろう」
冗談でも言うようにニヤニヤとした笑みを浮かべながら言うダンテに少しむくれた様な顔になるエキナセア。そんな彼女に「分かってるって」などと言いながらダンテはサフランに対して「じゃあ、改めて自己紹介を頼む」と声を掛けた。
「ええ、分かったわ。どうも、ウィンターローズ出身のサフランよ。私も貴族ではあるのだけど、特別扱いなんかしないで欲しいな。これからどうぞよろしくね」
「と、いうわけだ。サフランを仲間に迎え、これで晴れて俺達の騎士団もようやく小隊規模ではあるが、五人一組の部隊が組める様になったわけだ。行軍時の配列も一部変更するかもしれないが、それは追って通達する。それまではサフランは技能訓練、それ以外は従来の配列での連携訓練にあたれ」
「「「はいっ! 」」」
五人は返事をすると直ぐ様執務室を出て訓練場へと向かう。それを見送ると一人執務室に残ったダンテは引き出しからボードゲームのシートと駒を取り出すと、机の上にシートを広げ、その上に駒を配置していく。その駒はそれぞれが騎士団長と大まかな武器種別の花騎士、そして種族別の害虫を模した駒となっていた。
現在の行軍配列にささっと駒を配置したダンテではあったが、最後のひと駒を置こうと転がしてある駒へと手を伸ばし、ピタリと手を止めてしまう。
「そういや、サフランの武器と属性って何だ……? 」
基本的な部分を失念していた自身の間抜けさに落胆するように肩を落とすと、「仕方ない、聞きに行くか……」と呟き、やや重く感じる腰を椅子から持ち上げて執務室を後にするのであった。
さて、訓練場へと足を踏み入れたダンテであったが、彼が訓練場へと入った気配を察したのか、まずエキナセアが。続いてサフランが訓練の手を止めて、彼の方へと視線を向け、それに倣って他の三人も彼へと向き直る。
「全員集合! 」
エキナセアの号令で小走りにダンテの元へと五人の花騎士達が集合した。
その様子にダンテは「あぁ~、別に続けてもらっていても良かったんだが」と小声で言いながら悪いことをしたといった表情をする。
「あー、集まってもらって悪いんだが、まだ隊列の話はまとまっていない。 サフラン、お前の武器と属性を聞いていなかったのを思い出してな」
「あぁ、そうだったわね! 私の武器はこのクロスボウよ。属性は突! 必殺技は"秘弓・爆散霧消”よ! 」
「クロスボウで突属性、スキルは”秘弓・爆散霧消”か。分かった。で、ついでと言っちゃなんだが、スキルを実際に見せてもらってもいいか? 」
隊列編成の参考にしようと考えたダンテはサフランに訊ねるも、サフランはやや困ったような戸惑い気味の表情を浮かべる。
「えっと、今ここで見せた方が良いのかしら? 」
「ん? そのつもりだが、何か問題があるのか? 」
「問題というか……うーん、分かったわ。じゃあ、見せるわね」
「おう、頼んだ」
不安気な表情を浮かべながら訓練場の中心へ向かっていくサフランをダンテは見送るが、直後に彼は何故サフランがここで見せた方が良いのか訊ねてきたのかその理由を知ることになる。
「スーー……。行きますっ! 」
掛け声と共に、サフランは腰に提げていた何かの薬品だろうか。液体物の詰まった小瓶三つ程を立ち並ぶ訓練用の案山子の頭上へ放り投げながら跳躍。それを直ぐ様己の武器である巨大なクロスボウから魔力で練られたボルトを三射し、放り投げた小瓶を全て違わず撃ち抜いた。撃ち抜かれた小瓶から飛び散った液体はボルトに込められた魔力と反応して霧状に変化し、案山子の周囲に一瞬で立ち込めた。
そこへトドメとばかりに跳躍から着地していた彼女はもう一度三発の魔力ボルトを霧の中へばら撒く。その撃ち出されたボルトは霧に着弾すると、なんと霧の中を縦横無尽に飛び跳ね回り、拡散し、瞬く間に霧の中は四方八方、逃げ場のないほどの濃度の弾幕となり、眩いほどの光を放ち、ダンテはその輝きに目を細める。
直ぐにその輝きは終息し、ダンテが案山子の群れがあった方へ目をやり、彼は目を見張った。そこには先程まで立ち並んでいた案山子の姿はなく、あるのはつい先程まで案山子であった木片の山だけであったのだ。
「あ、あははは……。どう、だったかしら? 」
「なるほど、爆散霧消とはよく言ったものだな。爆ぜ散り、霧に消える、か。威力もそうだが凄い迫力だった」
「それもそうだ。サフランは虹の花騎士。潜在能力はもとより、その必殺技の威力も段違いなんだ」
「なるほどな。どおりで、さっき植木鉢が虹に光った時にセントポーリア達が色めき立ったわけだ。よし、充分だ。ありがとうな、サフラン」
「ううん、どういたしまして! 」
やり過ぎたといった感じに苦笑を浮かべていたサフランも、ダンテの満足そうな表情を見るや一転、嬉しそうに笑顔を浮かべる。
その後、少しの間彼女達の訓練の様子を見てから、後の訓練内容をエキナセアに伝えたダンテは隊列を再度考えるべく、執務室へと戻っていったのであった。
それから、夕飯の時間も過ぎて後は入浴し、寝るだけとなった時間に、エキナセア、サフラン、セントポーリア、ライラック、アマリリスは執務室へと呼び出され、ダンテの前に整列していた。
「もう休む時間だというのに呼び出して悪いな。暫定的ではあるが、隊列を組み替えたので早速伝えようと思い集まってもらった。 これはあくまでも暫定的であり、今後再度変更する可能性もあるが、とりあえずはこれで暫くは任務にあたってもらう」
前置きもそこそこに、ダンテは手に持っていた一枚の紙をひょいと顔の前まで持ち上げると、全員の顔を見やる。そこにはやや緊張した面持ちの面々がまだかまだかとダンテの言葉を待っているのが見て取れる。
「あー、まず俺を中心として左側が前へ、右側が後ろへと並ぶ例の斜め隊列だ。でだ、最左翼はセントポーリア。左二番、そこはアマリリス。左中心側はライラックだ。さて、右側だが、最右翼はサフラン、お前に任せる。そしてその右中心側はエキナセアだ。一応、なるべく戦力がムラがないようにしたつもりだが、何か質問や意見はあるか? 」
全員を見回すも、その顔には特に不満そうな表情もなく、やる気に満ちているのが見て取れたのを確認すると、「まぁ、運用もしてないのに意見も何もないか」と彼は呟く。
「では、次の任務からはこの隊列で行なう。実戦の中で何か意見などがあったら遠慮なく言うように。では以上、解散だ。ゆっくり休むように」
「「「はい!! 」」」
全員の返事に応えるようにダンテも敬礼を返すとその日は解散となり、花騎士達は執務室を後にするのであった。