花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました- 作:ダンテこったい聖司
彼は一人、城の前に立っていた。
そこは花騎士達が詰めている騎士団の本拠地となる城である。
あの誓いの日から数日。彼は王宮にて騎士団長任命の儀を終え、いよいよ今日が就任初日となる日であった。
さすがに大きいな。城を見上げながらぽつりと呟くと、彼は入口に向かった。
城に入った彼をまず出迎えたのはいやに高い天井の大広間だった。そしてそこに腰まで伸ばしたウェーブの入った銀髪。目を引く程の女性の象徴。そして印象的な自信に溢れた赤紫色の瞳の女性が彼を待っていたかのように立っていた。
「初めまして、キミが団長か。私はベルガモットバレー所属の花騎士、エキナセアだ。以後、お見知りおきを」
エキナセアと名乗る花騎士は自己紹介を終えると、彼に歩み寄り握手を求めて手を差し出した。
「俺の名前はダンテ・サウラードだ。 よろしく、エキナセア」
差し出された手を握り返しながら応えるダンテに、エキナセアは頬を僅かに綻ばせた。
握手を終えるなり、エキナセアはくるりと振り返り、「執務室へ案内しよう。付いて来てくれ」と背中越しに言うなりツカツカと歩き始めた。
ああ、助かるよ。ダンテもそう言うとエキナセアに続く。
「そうだ、エキナセア。執務室へ着いたら悪いのだが、既にこの騎士団に所属している花騎士達を集めてくれないか。皆の顔を覚えておきたい」
「了解した。キミの望む通りにしよう」
「すまないな、団長補佐という訳でもないのにこんな事を頼んでしまって。……ところで、この騎士団の団長補佐はどこにいるんだ? 聞いた話だと各騎士団に団長補佐が在籍しているとの事だったんだが」
エキナセアは団長補佐を探して辺りを見回しながら歩くダンテに歩くペースを合わせながら、「そのことなのだが」と前置いてから少しだけ申し訳なさ気な顔をすると、
「その、キミの団長補佐とは私なのだ」
へ? と素っ頓狂な声を上げてダンテは立ち止まって目の前を歩く花騎士をじっと見つめる。
彼が立ち止まるのに合わせて同じ様に立ち止まったエキナセアは気まずそうに視線を逸らす。
「その、本当は専属で団長補佐が来るはずだったのだがな。 なんでも人手不足だ、とかで配属が見送られてしまったのだ。 それで、キミの団長補佐として私が指名されたのだ」
エキナセアの言葉を聞いた瞬間にダンテは、はぁ……。と大きなため息と共に顔を伏せ、右手で覆った。
噂で聞いていた以上だ。ダンテは心の中でそう呟いた。
「騎士団長となりうる人材が不足している、という噂は軍に居た頃から兼ね兼ね耳にしていたが、まさかその団長補佐までもが不足しているとは……」
「そういうわけで、キミの団長としての活動の補佐は私が責任を持って務めさせて貰うので気兼ねなく申し付けて欲しい」
「分かった。そうさせてもらおう」
彼は顔を上げると、再び歩き出したエキナセアに続くようにして歩きながら、この先の事を憂いる様に肩を落とすのだった。
さあ、着いたぞ。エキナセアはそう言いつつ、他の扉と比べて一際立派な扉の前に立ち止まると、扉を開け放ちダンテを中へと促した。
中へ入るとそこには応接する為のものであろうテーブルと椅子が置かれており、その奥には執務に用いる為の大きく立派な机があり、その脇には様々な兵法書等が収められた本棚が備えられている。その他にも別の部屋への扉だろうか、扉が二つある。
そのどれもが最高級品なのだろう。豪奢な飾り付け等は一切ないが、所々に施された彫り細工や金属細工にその品質の高さを感じさせている。
見慣れない者からすれば圧倒されるであろう調度品を収め、それでもそれを備えて尚、窮屈さを感じさせないのは、それ程の広々とした空間を有したこの部屋だからこそ成せるバランスであり、まさしく騎士団を指揮する騎士団長の執務室と言って良いものであった。
「それでは、私は他の皆を呼んで来るので、待っていてくれ」
そう言いつつ部屋を出て行くエキナセアを「ああ、よろしく頼む」と送り出すと、ダンテは執務机の上に置かれた書類を手に取り、さっと目を通すとペンを手に取り手早くサインを記入し裏返しで元に戻した。
「千年も前から続く害虫との戦い。今まで俺達人間が絶滅せずに来られたのは花騎士達あってこそだった」
独りごちるダンテであるが、「しかし、それもいつまで続く? 」この言葉をグッと飲み込む。
答えは分かり切っている。この世界から、スプリングガーデン中の全てから害虫を一匹残らず殲滅するまでだ。
それは一体いつになる? そんな事が可能なのか? 多くの騎士団長や花騎士、それだけではない。民衆ですら一度ならずとも考えるであろう考えを脳裏に過ぎらせ、ダンテは頭を振る。
それを考えたところで何も変わりはしない。今はひたすらに害虫を倒し、平和な世界を目指すしかできない。
執務室の窓から外を眺め、どれだけの時間が経っただろうか。
コンコンッ――と扉をノックする音に我に返ったダンテは、どうぞ、とだけ返事をし、入口に向き直る。
そこには案の定、エキナセアの姿があり、彼女に続いて三人の花騎士達が執務室へと入って来る。
一人は桔梗色の髪を後ろで結っており、髪色と同じ色の服装は肩を露出させてさながらパーティドレスのようである。それでありながら短いスカートは彼女の快活そうな瞳とよく合わさって活発さを引き立てている。
続くのは金色の髪を後ろでアップにまとめ、モーブのマントにマルベリーを基調とした服装に身を包み、どこかぽやんとした雰囲気を持っている花騎士。彼女も彼女でエキナセアと負けず劣らずの大きな女性の象徴を持っている。
最後に入ってきたのは、まず目を引くのは赤いスカートである。そして目線を上に移せば軍服を思わせるようなデザインのジャケットに赤いネクタイに大きな胸。そして、赤い瞳と茶色がかった金髪の少女だった。
三人はずらりとダンテの前に並ぶと一様に緊張を高めたようだった。
「待たせてしまったな、団長。まずはこの三人の自己紹介をさせて欲しい。さあ」
ダンテの無言の「どうぞ」というジェスチャーにニコリと微笑み返すとエキナセアは並んでいる一番最初に入室した花騎士に自己紹介を促した。
「は、初めまして団長さん! ライラックです! よろしくお願いします! 」
緊張のし過ぎで少し上ずった声でライラックは名乗ると残像が残るのではないかというくらいに勢い良くお辞儀をした。
ダンテはその様子を微笑ましく思いながら、「こちらこそよろしく頼む」と答える。
「初めまして~。団長さん、ブロッサムヒルの花騎士のセントポーリアですわぁ。どうぞよろしくお願いしますねぇ」
ライラックに次いで、妙に間延びし緊張感のないセントポーリアはニッコリと笑いながら首を傾げた。
ああ、よろしく。ダンテは短く答えると、最後の一人に視線を移して自己紹介を促す。
「ブ、ブロッサムヒルの花騎士、アマリリスです! 貴族として恥ずかしくない様に結果を出して、見せます……」
最後は尻すぼみになりながら名乗ったアマリリスは、見るからにしゅんっ――として身を縮こまらせてしまった。
ダンテは、はて? と疑問にも思い、アマリリスの花言葉「内気」を思い出し、ああ。と納得をした。
自己紹介を受けたダンテはもう一度四人を見渡し、黙って頷くと、さて、と言いつつ、
「では俺の自己紹介もさせてもらうかな。 俺の名はダンテ。ダンテ・サウラードだ。言わずもがな、これから君達と共に害虫と戦っていく騎士団長となる。俺は軍人上がり故に騎士学校出身の騎士団長とは異なった指揮を執ったり、花騎士養成学校で教えられた事とは些か違った指示を出す事もままあるだろう。だがそれも俺なりの考えあっての事だと思ってどうか理解して欲しい。……それでは、これからよろしく頼む」
そう言うと、ダンテは短く敬礼の姿勢を取った。
ダンテは自分の挨拶を聞き、居住まいを正す花騎士達を見ながら、決して花騎士を、自分の指揮する花騎士は決して死なせたりしない。そう、固く心に誓うのであった。