花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました- 作:ダンテこったい聖司
ああ、そうだ。――挨拶が終わり、解散をしようとしていた中で、思い出したかのようにダンテは呼び止めるように声を上げると、
「俺達の騎士団にはまだ任務は来てはいないが、そう長く待機ということは無いと思う。 そこで、だ。任務が来るまでに俺の今までに培った害虫との戦い方などを少しでも教えておきたいと思う。早速ではあるが、今日から鍛錬を始めさせてもらうぞ」
ダンテは人が悪い笑顔を浮かべながらそう言うが、それを聞いたアマリリスとライラックは「え!? きょ、今日からですか! 」などと息もピッタリに叫び声を上げ、エキナセアは満足そうに頷き、セントポーリアに至ってはペースはそのままに「あらあらぁ、急ですね~」とダンテの方に向き直った。
「そうだな、まずは全員で腹ごしらえだ。食事と食休み含めて二時間だ。二時間後に再度ここに集合するようにな」
「なんだ、今すぐではないのか? 私は今すぐでも構わないのだぞ」
ダンテの指示にエキナセアはやる気十分に答えるが、そんな彼女を「まぁ、そんなに急くな」と嗜める。
「腹が減っては何とやら、だ。それに、俺だって準備をしたいからな。だからこその二時間後だ。遅刻はするなよ? 遅刻をした奴は、そうだな。城内マラソン三周の刑だ」
これまた悪人顔と言っても良い様な笑みを浮かべながら言い渡すダンテに「えー!? 」という抗議の声が聞こえて来るがダンテはそれを無視すると、「さて、じゃあ飯を食いに行こうか! 」と全員を連れて食堂へと向かうのであった。
「ふぅ、食った食った」
「少し端ないぞ、団長。兵士も見ているかも知れんのだ。もう少し威厳というのを気にした方がいい」
軍人時代には味わいたくても味わえなかった絶品の昼食に舌鼓を打ち、満足そうに腹を擦りながら歩くダンテの横を歩きながらエキナセアは咎める様に口を尖らせる。
「良いんだよ、少しラフなくらいで。 ただでさえ俺は一部の兵士から『花騎士でないにも関わらず害虫に対抗していた伝説の隊長』、なんて噂されて変に尊敬視されてるんだ。そこに花騎士の騎士団長、なんて肩書が乗っかったらもっと尊敬視されるだろ? 俺、そういうの苦手なんだよ」
「ふむ、そういうものなのだろうか。私は貴族として、高貴なる者の務めとして民を守る為に花騎士になったからな。民達からの尊敬は私の誇りでもあるし、これからもそうありたいと考えている。だからこそ、キミの尊敬を向けられるのが苦手だ、という考えは理解し難い」
「俺からしたらエキナセアは尊敬されて当然だと思うな」
ダンテはそこで一度言葉を切ると、歩みを続けながら視線をエキナセアに向ける。
「エキナセアは貴族であり、別に害虫と戦わなくても良い選択を取ることだって出来たはずだ。それを敢えて捨てて市民を守る為に、と戦う事を選んだ。その心意気というか覚悟は誇って良いものだと思うし、尊敬されて当然だ。……俺は最初から軍人、つまりは兵士だったし、そういう必要に迫られたからこそ必死に害虫に対抗する術を身に着けただけだ。それは別に誇れるものでも尊敬されるものでもない」
だから、俺は尊敬されるのが苦手なんだ。とダンテは続け、肩を竦めた。
そんなダンテにエキナセアは「それは違う」と語調も強く反論した。
「団長、キミは何故害虫に対抗する為の術を身に着けたのだ? 自身の身を守る為か? それとも民を守る為か? 私は、キミが騎士団長に任命される前に軍人であった事、そして何故キミが軍を退役したのか、その経緯も王宮から聞かされている。……キミは、キミの部隊はあの害虫の大襲撃の日、騎士団の手が回らず逃げ遅れた集落の人達を逃がす為に害虫に戦いを挑み、そして――」
「ああ、その通りだ」
ダンテはエキナセアの言葉を遮ると深く息を吐きながら肯定した。
「なら、キミの行為は尊敬されて当然の事だ。それを、それを尊敬されたくない等と」
「だが、俺は、俺を信じて付いて来た部下を全員死なせちまった。そんな男のどこを尊敬しろと? 俺はどうせ尊敬されるなら、これからの行ないで尊敬されたいねぇ。俺の、俺にやれる事を見て評価して欲しいんだよ。それには今の尊敬なんて邪魔でしか無い」
「団長……」
「ほれ、早く行くぞエキナセア。この後の準備が待ってるんだからな。団長補佐として、しっかり働いてもらうぞ? 」
そう言うが早いか、歩調を早め、ニカッ――と笑うダンテをエキナセアはクスリと笑うと、「待たないか」と言いつつ追いかけるのであった。
食事が終わり、ダンテとエキナセアが準備を終えてから数十分後。食事をし気分が入れ替わったのだろうか、軽快な足取りのライラックを筆頭に、足取りの重いアマリリス、そして安定のマイペースさでセントポーリアが時間ピッタリに執務室へと再集合していた。
「よしよし、全員時間内だな。よーし、それじゃあまずは全員適当に座ってくれ」
そう言いながらダンテは用意した黒板の前に移動するとチョークを手に持ち、花騎士達に向き直った。
「まずは座学だ。とは言ってもそう難しい話をする気はないし、簡単に済ましてすぐに鍛錬場に移動するからなー。寝るんじゃないぞー」
笑いながら彼は言いつつ黒板にチョークの音を立てながらさらさらと些か歪ながらもカマキリ型害虫の絵を描いた。
「さて、これから教えるのは、ようは自分達が如何にして有効な攻撃を敵に与えるか、という視点で話をしていこう。ここに描いたのは地上を走る害虫の中でも特に素早く、強力で割と厄介な部類に入る大型のカマキリ型害虫を例に取るとしよう」
ダンテは黒板が全員に見えるように脇に避けながら続ける。
「この大型のカマキリ型害虫はそれなりに強固な甲殻に全身を包まれていて、生半可な攻撃は一切通用しない訳なんだが。さて、こういった強力な甲殻などで身を包んで守りを固めている害虫に対して有効な攻撃手段はなんだろうか。アマリリス、答えてみてくれ」
「ぁひゃい! え、ええっと。お、大型のハンマーや大剣などで物理的に甲殻を打ち破る事、でしょうか……」
「うむ、そうだな。強固な甲殻を叩き割れるだけの威力を持ったそういった巨大な武器を用いたり、魔法を使ってそんな甲殻なんて無視した攻撃なんかも有効だな。だが、残念ながらこの騎士団にはそのいずれも存在していない。 エキナセア、お前の武器はなんだ? 」
「私か? 私の武器はこの苦無だ。この苦無を用いた突属性の攻撃が私の攻撃手段となる」
指名されたエキナセアはスカートの中から一本の苦無を取り出すと、それを全員に見せながら説明した。
それに満足気にダンテは頷くと、今度はライラックを指名する。
「私の武器は弓矢です! この弓矢で遠距離からの突属性の攻撃ですね! 」
「ああ、ありがとう。では、セントポーリア」
「はい~。私の武器は短刀ですねぇ。この短刀での斬属性が私の攻撃方法ですよ~」
危なげなく短刀を見せながらぽやんとした様子で答える。
「アマリリスの武器はなんだ? 」
「私の武器はこの拳銃です。 私の攻撃は魔属性ですよ! 突属性じゃないので間違わないでくださいね? 」
ああ、分かった。そう答え、さて。と前置くと、
「見てもらった通り、この騎士団には先ほど挙げたような巨大なハンマーや大剣を持った花騎士が所属していないわけだが。さて、この場合、先ほどの様に強固な甲殻を持った敵に対して真正面からでは有効なダメージを与える事は難しい。 そこで、どうするか。という話になるが、今更だがそういった事は養成学校で習ったりしただろうか? 」
「いえ、詳しくは習っていません。ただ、弱点を見極めて攻撃すれば良い、とは教わりましたが」
不安そうに聞くダンテの質問にライラックはスッと手を挙げて答える。それに対して、よしよし。とダンテは呟き、自身の描いたカマキリ型害虫の関節部分の全てにバッテンを書き込んでいく。
「これはカブト型などの同様に甲殻に身を包まれた害虫全般に言える話だが、これらの害虫は関節部分に必ず柔らかな部位が剥き出しとなる。これはどれだけ巨大になろうが、強固な甲殻に覆われようが、覆せない弱点だ。この部位を正確に攻撃することで、強力な威力の攻撃が出来ずとも絶大な効果を発揮させる事が可能だ」
そこで一旦言葉を切り、ダンテは黒板に向き直ると、今度は害虫の口の部分にもバッテンを書き加えて、皆に向き直る。
「また、相当なリスクを背負う手段ではあるが、上手くすれば一撃で敵を絶命させられる方法として、口内を狙う。という方法もある。過去の文献を漁ってみると分かるんだが、虫達がまだ益虫として人間と共存していた頃に書かれた物の中に、虫達の身体内部には人間の骨にあたる部位がほとんど存在していないとされる研究資料が幾つか見つかっていて、害虫となった今でも基本的身体構造は変化していないのではないかと考えられている。 つまり、身体の中は柔らかな筋肉や内蔵が詰まっているだけ、という事だ。そこを敵の噛み付き攻撃などのタイミングを狙うことで窮地を脱する事も出来るだろう。積極的に狙うのは危険ではあるが、覚えておいて損はないからな。頭の片隅には留めておけ」
全員の真剣な眼差しに、満足気にダンテは頷くとチョークを置き、粉を払うように手を叩く。
「さーて、話が少し長くなったな。今の話で分からない事はあるか? 」
ダンテの問いかけに手を挙げる者は居ない。そうか。そう呟くと、
「よし、それじゃあ次は鍛錬場に場所を移して実習訓練だ。ほれほれ、移動だ移動! 」
急かすように手を叩くダンテに促される形で四人は立ち上がり、執務室を後にし、中庭の鍛錬場に場所を移したのであった。
「団長、ここでは何をすればいいのだ? 先ほどの関節を狙え、という話だったが、ここには普通の案山子しか用意されていないぞ? 」
エキナセアの訝しむような視線に答えるかの様に、ダンテは乱立する案山子を指差しつつ
「今から各々順番にあの案山子の関節にあたる部位を攻撃してもらう。まずはエキナセア! 」
「分かった。キミの期待に応えてみせよう」
エキナセアは、スッ――と精神研ぎ澄ます様に目を閉じる。
「エキナセア、参る! 」
タンッ――という軽快な地面を蹴る音と共に世界花の加護によって得られた膂力を活かして猛烈な速さで案山子へと迫り、そして両手に持つ苦無をすれ違い様に案山子へと投げ放った。
投げ放たれた苦無は、膂力によって生み出された加速力も加わり、案山子の腕の付け根を目にも留まらぬ速さで貫き、貫かれた場所には綺麗な風穴が穿たれていた。
「さすがだな。……狙いも正確だし、文句無しだ」
「期待に応えられたようで安心したよ」
「期待以上だ。……よし、次だ。アマリリス! 」
「は、はいっ! 」
名前を呼ばれたアマリリスは肩をビクリと跳ね上げると返事と同時に一歩前に出た。
「今度はお前の番だ。さっき教えた内容に基づいてこの案山子を攻撃してみろ」
「分かりました! ……大丈夫、きっと出来る。きっと大丈夫」
小さな声で自身を鼓舞し、アマリリスは手に持つ拳銃を両手で構えるとゆっくりと狙いをつけ、
「やってみせます! 貴族ですから! 」
掛け声と共に引き金を引く。それと同時に銃口から光となった魔法の奔流が撃ち出される。
撃ち出された魔法は光の緒を引きながら真っ直ぐに突き進むが、直撃はせず案山子の頭部を掠るのみであった。
魔法が外れたのを見たアマリリスは一瞬ショックを隠せない様な表情を見せるが、直ぐ様狙いを付け直し、次の魔法を放つ。放たれた魔法は先程と同じ様に光の緒を引きながら突き進み、今度は過たず案山子の腕に直撃し、綺麗に吹き飛ばしていた。
「や、やったぁ! やりましたぁ! 」
「よしよし、良い狙いだ」
今にも飛び上がりそうになりながら喜ぶアマリリスの様子を見ながら、腕を吹き飛ばされた案山子に改めて目を向けて満足気に頷くダンテは、次にライラックの名を呼ぶ。
呼ばれたライラックは大きな声で返事をしながら所定の場所へとやや駆け足で向かうと、すぐに弓に矢を番えて構えを取ると、グッと弓を引き絞り一拍置き放った。
ヒュンッ――矢が風を切り、木の棒を砕く音と共に案山子の腕は吹き飛ばされ、矢は後方の案山子へと突き刺さった。
「団長さん! どうでしょうか!? 」
「文句無しだ。良い腕をしているな」
では。と、そう切り出したダンテはセントポーリアの方を向くと、
「セントポーリア、最後は君だけだ。準備はいいかな? 」
「は~い。いつでも大丈夫ですよぉ」
「よし、じゃあやって見せてくれ」
「ではでは~、いっきまーす! 」
スタッ――と普段のおっとりとした雰囲気からは想像も出来ない速さで案山子に一気に詰め寄ると手に持った短刀で大振りに斬り掛かる。
セントポーリアの放った一閃は狂いなく案山子の腕を切り落としていた。
それを見届けたダンテはセントポーリアも先の三人と同じ様に褒めると、顎に手を当てて考えに耽り始めた。
(四人共、俺の話はきちんと理解はしていたし、みんな筋は良い。だが、やはりまだ実戦的とは言い難いな……。何とか初任務までには形にしたいところだが……)
「団長、どうしたのだ? 考え込んでしまって。もしかして、私達に何か不満点でもあっただろうか」
「いや、んー……。不満点という程でもないんだが……。うーん……」
「歯切れが悪いな。 どんな事でも良い。何かあったら遠慮無く言って欲しい。私達はキミの指揮する騎士団の花騎士であり、キミは私達の騎士団長なのだから」
「そう……うん、そうだな。エキナセア、その通りだ」
ダンテはエキナセアの言葉に小さく頷き、顔を上げる。そこには彼の言葉を今か今かと待ち侘びる四人の花騎士の顔があった。
「……この際だ。ハッキリと言うと、エキナセアを除く三人には不満点がある。まだまだ実戦に出て行けると俺は判断しない。ので、これから夕餉の時間までその不満点改善の為の教練時間とする! 」
ダンテの、彼の言葉にエキナセアを除く三人の顔が一様に絶望とも焦燥とも取れる表情に染まる。しかし、その顔を見てダンテはふっと表情を緩め、
「別にエキナセア以外の三人にセンスが無いと言っているワケじゃない。いや、むしろ三人共にいいセンスをしていると思うし、現状でも良い腕だとも思っている。 が、しかしだ。動きがな」
実戦的とは言い難いだけだ。彼はそう付け加えた。
その言葉を聞き、アマリリス、ライラック、セントポーリアの三人は見て分かるくらいに表情を明るくすると、「よろしくお願いします! 」と三者三様に頭を下げるのであった。