花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました- 作:ダンテこったい聖司
そこから三人はそれぞれにダンテからひとりひとり手ほどきを受けながらの訓練であった。
「違うなぁ、アマリリス。そうじゃない」
ダンテはいつの間にか火を点けていたシガレットを咥えながらアマリリスに近付いて行く。
「敵さんだって動いてるんだ。そんなのんびりと狙いを付けてたんじゃ当たるもんだって当たらんよ。いいか? しっかりと両手で持って脇を締めて固定するんだ。そう、そうだ。それでスーッ点と点を結ぶように動かしていって、狙いたい場所と銃口が交わった時にトリガーを引くんだ。そうすれば自ずと当たる。銃ってのはそう出来てる物なんだ」
ほれ、やってみ。ダンテに実践を促されたアマリリスは、再度言われた通りに両手で拳銃を構えると銃口を案山子から案山子へと移し、その間に狙った場所に射線が重なった瞬間にトリガーを引いていく。
放たれた魔法は撃ち出したアマリリス自身が驚く程に見事に狙い通りに撃ち抜きつつも、彼女自身が経験したことがない程複数の目標に命中していたのである。
「う、嘘……。こんなに当たったの初めてです……」
「だから言っただろ。そう出来ているってな。暫く同じ様に射撃訓練をしていてくれ」
さて次は、と。そう呟きながらダンテはライラックの姿を探す。
ダンテがアマリリスの指導をしていた間、ライラックは黙々と訓練を続けていたようで額にやや汗を浮かべながら真剣な眼差しで矢を射ては、弓に矢を番えるを繰り返していた。
彼はライラックの邪魔にならない距離まで近寄ると声を掛ける事をせずに、じっと訓練の様子を見始める。
そこへエキナセアが所在なさ気にダンテの元へと近寄ると、
「団長、私は特に何も言われてはいないのだが、このまま訓練を続ければ良いのだろうか? 何か手伝える事などがあれば言って欲しいのだが」
「あー、そうだな……。うーん、ならエキナセアには執務室へ行って読書でもしてもらおうか」
「何? 読書、だと。訓練をするでもなく、キミの手伝いをするのでもなく、か? 」
「そうだ。ただし、読む本は俺から指定させてもらう。遅かれ早かれ副団長となる花騎士に読ませるつもりではいたからな。ちょうどいい機会だ」
「ということは……」
まぁ、そういう事だな。シガレットを咥えたままニッと笑ったダンテは目を見開いているエキナセアを面白げに見る。
「で、読んでもらう本だが、執務室にある俺の荷物の中に本が一冊入っている。そいつが読んでもらう本だ。古い時代に書かれた兵法書の現代語訳版でな。現在の戦い方にも適用できる事が数多く書かれた良い本だ。そいつを読んで、内容を理解してもらおうと思う」
兵法書を読んで理解しろ、というダンテを何故だという表情でエキナセアは見返すが、ダンテはそういう顔をされる事も予想していたかの様に余裕の表情で煙を吐くと、
「俺は現場主義でな。戦場には俺も出て行くが、俺の出す指示が必ずしも正しいとは思わない。実際に害虫と最前線で戦うのは花騎士だからな。その現場の判断を無視することも出来ない。が、その現場に冷静な目で戦況を見極められるリーダーが居なければ成り立たない話でもある」
「つまり、私にその戦況を見極める判断力を養わせるのが目的であると」
「その通りだ。俺はエキナセアにリーダーをやってもらおうと考えている。 さて、何故読書をしてもらおうと考えたのか説明をしたが、何か不満はあるか? 」
「いいや、不満はない。キミの期待に応えるのも花騎士である私の使命だ。必ずキミの期待に応えてみせよう」
「まぁ、そんなに気負う必要もない。今日明日で全てを読み尽くせとも完全理解しろとも言わない。 かく言う俺も完全に理解しているとは言い切れないからな」
そう言うとダンテは肩を竦めたが、エキナセアは微笑みを返しつつも頭を振り、「なるべく早く理解できるよう努めよう」と言い残し、執務室へと向かって行った。
立ち去る彼女を見送ったダンテは、もう一度ライラックの方へ向き直る。
変わらず訓練を続けるライラックであるが、同じ事を繰り返していたせいだろうか、精彩を欠き始めているのがダンテの目から見て明らかになりつつあった。
「ライラック、集中力が切れ始めているぞ。少し休め」
「あ、団長さん。すみません、気が抜けていました」
「同じ事を繰り返していて疲れたのだろう。休んで気分転換をした方がいい」
声を掛けられ、気を引き締め直そうとするライラックだったが、苦笑いを浮かべたダンテに促されてその場で座って休み始めた。
よっこいしょっと。年寄り臭い事を呟きながらダンテはライラックの隣に腰を下ろした。
「疲れてる所悪いが、もう少し休んだら今度はライラックの鍛錬をするからな」
「はい! 私は今すぐからでも大丈夫ですよ! 」
「まぁまぁ、そんな急ぐな。もう少しだけ休んでおけ。休む事も重要な事だからな」
「は、はい」
ダンテに諌められ恥ずかしそうに頬を染めながらライラックは俯いたが、彼はそれに気付くこと無くゆったりと煙を吐き出す。
それから少しして、ジュッ――と音を立てて吸っていたシガレットの火を地面に擦り付けて消すと、ダンテは立ち上がりライラックに向き直る。
「よし、鍛錬を始めるぞ。休憩は終わりだ」
「はい! よろしくお願いします! 」
元気の良い返事を返しながら文字通り飛び上がる様に立ち上がったライラックはどこか嬉しそうにダンテの横に並んだ。
「普通に立った状態での射撃は先程から見せてもらっていたからな。特に文句はないが、今からやってもらうのは実戦の動きを意識した射撃だ」
「と、言いますと? 」
「簡単に言えば戦闘中にその場で棒立ちして射撃という場面ばかりではないから、走り回りながらの射撃をした時の鍛錬という訳だ。ちょっとやって見せようか」
彼はそう言うと近くに置いてあった訓練用の弓矢を持ち出すと、その場からタッ――と駈け出した。
しかし駈け出したとは言えど、左脚に無理させられない彼である。悲鳴を上げそうになる直前で足を止めると素早い身のこなしで弓に矢を番えると、シュパッ――と矢を放った。
タンッ――と小気味良い音と共にダンテの放った矢は案山子の頭部に突き刺さっていた。 その一連の流れを見ていたライラックは意外なものを見たような驚いた顔をしてダンテの顔に見つめる。
「すごいです、団長さん。剣だけじゃなくて弓も使えるんですね! 」
「まぁ、少しだけな。 さて、どういう事かは理解出来たな? 」
「はい! わっかりました! 」
快活な返事を聞きながら満足気にダンテは頷くと、ライラックに鍛錬を始めるように指示し、彼女の邪魔にならない場所まで距離を取った。
「やれやれ、あの程度走っただけで少し痛むか……」
憂鬱そうにボヤきながらダンテはズキズキと痛む左脚を誰からも見えないようにそっと撫でる。その間もライラックは縦横無尽に動き回りながら矢を放っては走って、矢を放つを繰り返していた。
放たれた矢は何本も的を外していたが、自身の考える鍛錬をしっかりとこなしているライラックを見て、ダンテはそのまま鍛錬を続けるよう指示を出してその場を離れた。
さてさて、内心そう呟きつつ彼は一人の花騎士の姿を探す。
「お、いたいた」
そう言って向かう先にはぽやーんと突っ立っているセントポーリアがいた。
「どうした、サボりか? 」
「あぁ~、団長さ~ん。違いますよぉ、サボっていたんじゃなくてぇ、休憩してましたぁ」
「そうか、そりゃ悪かった。さて、時間もなくなってきたからな。早速始めようか」
「はい~、よろしくお願いしまぁす」
気合が入っているのか分かりにくい返事を返しながらセントポーリアは居住まいを正す。それを確認しながらダンテは懐から二本の木製のナイフを取り出し、その片方をセントポーリアに手渡した。
「今から俺とそいつを使って戦ってもらうとしよう。ただし、あまり本気を出してくれるなよ? 流石に勝負にならなくなるからな」
気楽そうに笑いながらダンテは言うが、セントポーリアはやや不安そうな顔をし、
「でもでも、団長さんは害虫じゃないのに戦っても、どういう訓練になるのでしょうかぁ」
「まぁ、そう思うのは最もだな。 そうだな。確かに俺は害虫じゃないが、実戦形式での訓練というのは有効な訓練でな。相手の動きをよく見て動く、というのを意識してもらいたいんだ」
「相手の動きをよく見て動く、ですかぁ。難しいですけどぉ、やらなきゃ、ですよねぇ」
「よし、始めるぞ」
そう言って、ダンテはセントポーリアから距離を取り、得物を構え一拍置くと、「来い」と発した。その言葉と共にセントポーリアは地を蹴る。
世界花の加護から得た膂力によって、セントポーリアは瞬く間にダンテに肉薄すると目の前で振り被ると縦に大きく得物を振り下ろした。花騎士である彼女の一撃はダンテに迫り、確実に捉えた――
かの様に見えた一撃をダンテはすんでのところで一歩足を引くことで躱すと、引いた足でグッと身体を思い切り前へと押し戻し、その勢いのままナイフで突きを放つ。
その一撃をセントポーリアは寸前で飛び退いて回避しつつ再び距離を取り、互いにナイフを構え直す。
ジリジリ、ジリジリとお互いに距離を保ちながら、僅かな隙が生まれる瞬間を窺う。
タッ――と痺れを切らしたかの様にセントポーリアが駈け出し、一気に距離を詰め、「いっきま~す!」の掛け声と共に連続してナイフを振るう。加速され、常人のそれを超えた速度の攻撃がダンテを襲うが、ダンテはその尽くを身のこなしのみで躱していく。それでも尚追撃を加えようとする彼女の振り上げた腕を、得物を持たない方の手で思い切り掴み上げて動きを封じると、「そんなに大振りだと、こうやって隙を突かれるぞ」と言いつつセントポーリアの頬をナイフの腹でペチペチと叩くと、掴んだ腕を離しつつ一歩距離を一瞬空けるとすぐに距離を詰める。
「浅かろうが」
姿勢を低くし踏み込み、ナイフでセントポーリアの腹、肩、腕を、
「こうして何度も、斬り付けてやればいい」
言葉通りに何度も何度も斬り付けていく。
「ナイフってのはそんなに大振りにする必要はない。相手の動きをよく見て、攻撃を躱し、相手の弱点を何度も斬り付けるんだ。分かったか? 」
「はい~。でも、団長さんってお強いんですねぇ。私の攻撃、全然当たりませんでしたぁ」
「まぁ、これでも一応、軍では部隊長をしていたし、害虫の相手もしていたからなぁ」
「なるほどぉ。だからお強いんですねぇ」
さて、と呟くとダンテはセントポーリアに歩み寄り、スッとナイフを掠め取ると中庭の出入り口に向かって行く。
「飯の時間だ! 全員今日はここまで! 」
元気な返事と共に訓練をしていた他の花騎士達も各々片付けを始めるのだった。