※この作品はR-18です。

花騎士と騎士団長-騎士団長、始めてみました-   作:ダンテこったい聖司

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弐の花:光~力と呪いの証~
1.


 鍛錬場を離れ、玄関口の大広間を抜けると用意させていた馬車の客室に乗り込むと、御者の少女に「出してくれ」と声を掛け、ドカッと椅子にもたれかかるように座り込んだ。

 想像以上に昨晩の仕事の疲れが残っていたのか、些か眠気もある。王宮までの時間だけでも寝ることにすると、御者に寝ることを伝えてダンテはゆっくりと瞼を閉じた。馬車の揺れはさほど激しくもなく、心地の良い揺れは直ぐ様ダンテを眠りへと引きずり込んでいった。

 それから暫くして、御者の少女の自分を呼ぶ声に引き上げられるように眠りから覚めると、まだ意識にこびり付く眠気を払うように頭を振ると、徐々にハッキリして来る意識の中、客室から降りた。

 数日ぶりに訪れた王宮は相変わらずの荘厳さでダンテを出迎えた。

 ダンテは、御者の少女にお礼を言うと王宮の中へと向かった。

 任命式の時とは打って変わり、人の少ない謁見の間で待つこと数分。裏手から女王が数人のお付きと共に姿を現し、ダンテも儀礼に則って恭しく跪き頭を垂れる。

 

「今日はよく来てくれましたね、騎士団長ダンテ・サウラード。顔をお上げなさい」

 

 女王の言葉に短く返事をし、顔を上げる。ダンテの顔を見ると女王はフッと優しげな笑みを口元に浮かべる。

 

「良い顔になりましたね。騎士団長となって二日目と聞いています。花騎士達の様子はどうですか? 報告なさい」

「はい。いずれも士気は高く、良い花騎士達です。ですが、如何せん戦いの技術等は未熟な点や荒削りさが目立ち、現在は訓練を基礎力の充当に重点を置いて行なわせております」

「なるほど、分かりました。では、後日再度報告書を提出なさい。……さて、今日の本題に移りましょう。大臣、説明を」

 

 呼ばれた大臣は何処からともなく現れ、女王に一礼をすると、

 

「畏まりました。本日、ダンテ殿をお呼び立てしたのは、ダンテ殿に騎士団長として更なる力を与える為であります。仔細は省きますが、その力を得ることで害虫との戦いに於いて、より優位に戦えるようになるというものであります。その力を会得するか否かの選択は自由であり、その選択で騎士団長の地位等を剥奪されるものではありませんので、ご安心ください。以上です」

「という事です。 どうですか? 更なる力を望むか、否か。今この場で答える必要はありません。よく考えて、今日中に答えをお出しなさい」

 

 女王は優しく言うが、ダンテは意志強く覚悟の篭った瞳で女王を見返すと、

 

「いえ、この場でお答えします。私、ダンテ・サウラードは、更なる力を望みます。どうか、よろしくお願い致します」

 

 そう言い切ると、再び頭を垂れた。そんなダンテを見て、女王は小さく笑うと、「良いでしょう。さあ、彼を案内して」と、脇に遣えるお付きに命じると、スッと玉座から立ち上がる。

 

「それでは、これからの活躍を期待していますよ」

「ご期待に沿えるよう精進します」

 

 その答えに満足すると、女王は一人のお付きを残して裏手へと消えていった。

 完全に去ったのを確認すると、ダンテは頭を上げて立ち上がった。そこへ残ったお付きが近寄り、「付いて来てください」とだけ言うと、先立って謁見の間の出入り口へと向かって歩き出したので、ダンテもそれに続いた。

 王宮内の広い通路からやがて少し狭まった通路へ移り、やや古びた扉の一室の前でお付きは止まった。

 

「この部屋の中で最終的な説明と施術が行なわれます。どうぞ、お入りください」

 

 勧められ扉を開けて室内に入ったダンテを待ち受けていたのは、ひと目では何の装置か予想も出来ない様な装置が所狭しと設置されていた。

 その装置の前で何やら操作をしていた白衣を着た女性は、ダンテに気付くと振り返り彼へと近付いた。女性から漂う薬品の臭いにダンテはそこはかとない不安を掻き立てられるが、それは顔に出ないよう、表情を引き締めた。

 

「貴方が新しい騎士団長様ね? 噂は聞いてますわ。元軍人だとか」

「そうだ。早速だが本題に移ってくれるか」

「せっかちなのね。もっとゆっくりでも良いじゃないですか」

「すまないな、他にも仕事を残してな。そこまでゆっくりもしていられない。連日徹夜は御免被りたいんだ」

「あら、そうだったのね」

 

 女性は口元に手を当て、「ごめんなさい」と言いつつダンテから離れる。そして装置の前に戻ると腕を組み「それでは」と切り出す。

 

「施術の細かい説明と、それによって得られる力の説明をしますわね。まず、この施術は騎士団長様のお体の一部に刺青、というより刻印を刻み込むものになります。その性質上麻酔の類は一切使用できないので激しい痛みを伴う事を予めご了承いただきますわね。施術後も暫く、おおよそ一日から長ければ数日痛みが続きます。その間は特別に調合した痛み止めを処方しますけれど、それでもかなり痛むので、それも併せてご了承くださいね」

 

 さて、と一拍置き、女性はその目つきを鋭いものへと変えてダンテを見据えた。いよいよ力の説明だろうとダンテも気を引き締め直す。

 

「施術によって得られる力、それはつまり”極陽解放<ソーラードライブ>”の力です。元来、最初の花騎士と共に害虫と戦った魔術師の血筋にしか使えないとされていた力を、ある意味無理矢理それ以外の騎士団長でも行使可能にするのがこの施術になりますわ。でも、無理矢理行使可能にしていますから、当然リスクだって伴います。この力は騎士団長様、貴方の生命力を媒介として発動されます。ですから、過度の力の行使は最悪の場合、貴方の命を奪い取る結果を招きます。それも、力に侵食された肉体が、恰も倒された害虫の如く光の粒子となって消滅する形で。過度の力の行使は控える様、予め言っておきますわね」

 

 それから、と付け加えつつ女性は言いづらそうに続きを切り出す。

 

「この刻印は騎士団長様の肉体に深く刻み込まれるもので、この施術を受けた場合、命尽きるその時まで、騎士団長の任に縛られる事になりますわ」

 

 ふぅ、と息を吐くと、女性は組んでいた腕を解くとリラックスした姿勢に直り、穏やかな目つきに戻る。

 

「騎士団長様、この説明をお聞かせした上で再度確認しますわね。貴方は、この施術を受けて力を得たいと願うかしら? 」

「無論だ。この命、既に一度は失いかけたものだ。花騎士達の助けになるというのなら、この命、喜んで捧げよう」

 

 自身の胸に手を当て、なお揺るがない覚悟の表情を見て取った女性は、ニコリと微笑むと人が一人ゆったりと寝そべる事が出来そうな台座に向かって歩き出す。

 

「そこまで言ってもらえる、貴方の花騎士達はきっと幸せね。さあ、上着を脱いでここに横になって。施術を始めます」

 

 ダンテは黙って頷くと、上着を脱ぎ台座横の籠に脱いだ服を放り込むと、台座に仰向けで横になった。

 それを確認した女性は、痛みでダンテの身体が暴れないようにだろうか、手足を台座に縛り付けてゆく。やがて、しっかりと手足を台座に固定されると、いよいよ施術が開始された。

 と、施術開始直後からダンテは右腕に走る予想を超える猛烈な痛みに顔を歪ませた。

 その痛みは突き刺す様な、焼き焦がされているかの様な、押し潰される様な、あらゆる痛みを一緒くたにして一斉に与えられている様な痛みであった。

 あまりの痛みに、ダンテの身体は彼の意思と反して跳ね上がり暴れ回ろうとする。が、縛られた四肢が邪魔をしてその痛みを逃しようもない。固定されていない身体はしきりにビタンビタンと跳びはね、首はそのままねじ切れてしまうのではないかという程に振り被る。口からはとても人のものとは思えぬような獣の様な言葉にもならない苦悶の絶叫が放たれ、室内に木霊する。

 いっそ気を失った方が楽だっただろう。しかし、施術の激痛が遠のくダンテの意識を無理矢理に覚醒させ、気絶することを許さない。

 永遠とも思えるような痛みの苦しみの中、どれだけの時間が経っただろうか。漸く、その猛烈な激痛に終止符が打たれた。

 息も絶え絶えに自分が痛みで息絶えていない事を不思議に感じながら、ダンテは呆然と目の前に映る天井を見上げていた。そこへ女性がやって来て、

 

「お疲れ様でした。この施術で気を失わずに最後まで保っていたのは貴方が初めてよ。大体は途中で気を失ってしまうのだけど」

「そ、そう……なのか……」

「ともかくお疲れ様。さっきも説明した通り、暫くは痛みが続くでしょうけど、施術の痛みほどではないから安心して頂戴。……それから、はい。これが痛み止めの薬よ。数日分を渡しておきますから痛みが完全に引くまで飲み続けて。足りなければまた出しますわ」

 

 そう言われ、差し出された薬を受け取ったダンテであったが、まだ尾を引く痛みで返事をすることもままならないままに部屋を後にした。

 部屋を出るとそこには先程の付き人が控えており、外に馬車を用意してある事を告げてきたが、ダンテは痛みに顔を歪めながら返事をする。そしてふらつく身体を付き人に支えられながら、王宮の外で待たせていた馬車に乗り込んだ。

 御者の少女は変わり果てたダンテの姿に驚きを隠せない表情になるが、付き人から「心配はいりません」との一言にただ頷くしか無く、そのまま城へと向けて走り出した。

 客室で揺られる間も、行きでは心地よく感じられた揺れすら右腕に残る熱を持った痛みに響き、ダンテは呻きながらただただその痛みに耐え続ける他なかった。

 

 それから暫くして、城へと帰り着いたダンテは御者の少女の手を借りながら客室から降りると、痛む右腕を押さえながら、先程より幾分マシになった足取りで少女からの手伝いを断りつつ、一人執務室へと向けて歩き出した。

 そして何とか部屋へと辿り着くと、懐から薬を取り出し、震える手で水を何とか用意すると一刻も早くと言わんばかりの手つきで薬を口に放り込み、水で一気に押し込んだ。

 すると、即効性の薬なのだろうか、スーッと痛みが引いていき、かなり痛みが和らぐのを実感した。

 痛みは完全には引かないものの先程までに比べれば遥かにマシになり余裕が生まれてきたダンテは、右腕をそっと上げて見やった。

 右腕には施術前にはなかった刺青の様な模様が浮かんでいた。なるほど、確かにこれは刺青だ。とダンテは内心納得する。ダンテ本人も事情を知らずに他人のを一見すれば刺青とも見紛うだろう。

 

「こいつはエキナセアにだけはおいそれと見せられんな」

「何が私においそれと見せられないのだ? 」

 

 突然の訪問者に驚きつつ、ダンテは咄嗟に右腕を机の影に隠し、捲っていた袖を伸ばすことで完全に腕の刻印を覆い隠す。

 

「ああ、いや、何でもないんだ。気にしないでくれ」

「ふむ、何か隠しているみたいだが……。まぁ、深くは詮索しない。 キ・ミ・に・も、隠しておきたい事の一つや二つくらいあるだろうからな」

「トゲのある言い方だな。本当に大したことじゃないんだ」

「大したことじゃないなら教えてくれても良いと思うのだが? 」

「………………」

「………………」

 

 ジッとエキナセアは睨む様な、ダンテは見つめる様な視線を交わし、妙な沈黙が訪れる。が、沈黙を破ったのはダンテであった。

 

「はぁ……。仕方ない、隠しておいてもいずれ見せる事になるか」

 

 ジト目で自分を睨むエキナセアに根負けしたダンテはやれやれといった様子で右腕の袖を捲り上げると件の刻印を見せた。

 

「団長……これは……」

「これが隠したものだ。極陽解放、だったかな。騎士団長のみが得られる力だとかどうとかってな。さっき王宮でこいつを授かる為に施術を受けてきたんだ」

「なっ!? 何故、キミはその施術を受けてしまったんだ! 私だってその施術の噂は聞いたことがある。強大な力を得る代償に身体は蝕まれ、力を使い過ぎれば死をも招く、と」

「ああ、その通りだ。施術をしてくれた技術者にも過度に力を行使したら命の保証はしない、ってな。警告されたよ」

「どうして! どうしてキミはそうやって自分の事を蔑ろにするんだ! どうして、どうしてキミはもっと自分の事を大事にしないんだ!? 」

 

 エキナセアは机を回り込み、ダンテに近付くとそのまま彼の肩を掴みその端整の取れた顔を歪ませて詰め寄る。そんなエキナセアをダンテは「落ち着け」とそっと制す。

 

「全ては、お前達花騎士の助けとなる為だ」

「私達の、助け……? 」

「そうだ。この力だって使い過ぎなければ害虫との戦いにおいて大きな助けとなるだろう。使えるカードは一枚でも多い方が良いだろ? 」

「だからって……自分の命すら懸けてなんて……」

「いいや、それは違う」

 

 ダンテの強い否定にエキナセアは「え? 」と彼の顔を見返す。

 

「お前達花騎士も、理由は様々だろうが命を懸けて害虫と戦っているだろう。俺も、お前達も、一緒だ。俺の命は一度失いかけた。だが、花騎士に助けられた。そして今、俺は騎士団長として此処にいる。なら、俺は救われたこの命を花騎士の為に使おう。そう決めたんだ。やり方は違っても、やっている事は同じだ。お前達花騎士が命を懸けて害虫と戦うなら、俺は命を懸けてお前達を守る」

 

 ふっ――とダンテは優しげな目でエキナセアを見つめると、

 

「これからも花騎士の事を第一に考え、お前達を無事に帰還させる事。これを騎士団長として、何より俺の使命と考え行動していく。分かってもらえるか? 」

 

 ダンテの言葉に、エキナセアはぐっと目を伏せる。そして再び目を開くと、彼の肩を掴んでいた手に再び力を入れる。

 

「それなら、私はそんなキミを守る事を花騎士として、貴族として……いや、違うな。私自身の使命として考え行動しよう。分からない、とは言わせないぞ? 」

「っははは。分かった、これからもよろしく頼むとしよう」

 

 降参だと言うかのように肩を揺らして笑うダンテはエキナセアの右肩に手を掛けると、「ありがとうな」と囁いた。

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