※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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毎度、感想、評価、お気に入り、誤字報告ありがとうございます。

実はアガルタ編とか剣豪編とかもざっくりプロットだけは思い付いてるんですけどね、絶望的に時間が足りない。本編も英霊編もアポ編も更新せなあかんし。毎日更新してる人ってマジで化け物だと思います。これでも頑張って更新してる方なんだけどね、つーかこれが限界(ノブナガ風)。












白色ビーストドロップ(第2部 1章 完結)

「あっっ!!あぁぁ……!!きた、キたぁっ!!ダーリンの入ってきたぁぁっ……!!」

 

「んひぁぁっ!!姫、まだぁ、状況も何もつかめてないんだけどぉぉ……!!せ、せめて説明をぉぉんぅぅぅっ!!」

 

 

 いつの間にか、刑部姫のマイルームは魔術らしい神秘さと科学らしいメカニックさを足して2で割ったような機械然としたものと変わっていた。周りのモニターにはよくわからない数字の羅列、アナスタシアと刑部姫の興奮具合によって変化しているようなグラフ。

 

 真正面のモニターには。女型ゴーレムの瞳に入っている景色がそのまま映し出されていた。対峙するのは突然の事態に固まっているイヴァン雷帝。

 

 そして、その部屋の中心で四つん這いになって、刑部姫を下に重なって並んでいる二人の女。彼女達の濡れそぼった女陰を肉棒と『白式官能』で再現した張形で同時に突き続ける人類悪デアー。

 

 そう、おわかりの通り、ここがコックピットだ。

 

「余と同じ目線で立つか……。なんだ……なんだ……!その巨人は……!その身から溢れる終わりの見えぬエネルギーは……!!」

 

『これが貴方の夢の終わりを『あっ、ぁぁっ……!!ダーリンのすごっ……!!きもちイイわぁぁっ……!!』……異聞帯の終わりを告げ『ひぅっ……!!や、あんぅっ、マーちゃんのがぁぁっ……流れ込んでぇぇ……』…………ちょっとごめん。彼女達のマイクだけ切るね』

 

「貴様ぁあああああああ!!戦場でナニをしてるうううッッ!!!」

 

 スピーカーから漏れる艶声からナニをしているか察したイヴァン雷帝は激怒した。皇帝(ツァーリ)は賢い子。

 今までマシュの貞操盾を攻撃し続けていた雷撃に更なる力を込める。目の前の不埒者を仕留める為の完全一撃を。

 

 先程、漏れ出てしまっていた喘ぎ声を無かった事にしてシリアスボイスでデアーはこの異聞帯の王に語り掛ける。

 

『イヴァン雷帝……。力を持ち過ぎて、度を過ぎてしまった個っていうのはいつか絶対どこかで普通に生きる人達にとって不要になってしまうんだよ』

 

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!余は……余の国は……ロシアは終わらん!!剪定され、何もかも無かったなど、誰が認められる!?……余は、この国を導くのだ!!」

 

『貴方は確かに一度、この国を救ったんだろうさ。けど、退き際を見誤った。自分の力が暴虐しか生まないとわかった瞬間にこの国から去るべきだったんだよ』

 

「余がいなくなれば、誰がこの国を守る!?貴様のような侵略者に、人類悪に……!!滅ぼされるのを黙って見てろと言うのか!?否!!断じて否!!余は皇帝(ツァーリ)ゆえに!!」

 

『なら――守ってみせろよ。寝坊助さん』

 

 デアーの挑発に乗るように、天高く掲げた鼻先に魔力が集い、嵐が吹き荒れ、神霊クラスの雷撃を放つ準備が整う。

 

「我が国は終わらぬ、我が行軍は永劫に続く。踏み砕かれろ……人ならざる獣よ――!!」

 

 刹那、音さえ消えたような気がした。ヤガ達が思わず拝んでしまう。雷の天罰が女型ゴーレムに降り注いだ。余力を許さないイヴァン雷帝、渾身の一撃は目も開けられない程の衝撃を伴って、巨人に襲いかかる。

 

 その破壊の余波はマシュの宝具が防ぎ切る。だが、白光の中にいるゴーレムの様子は窺えない。ロシア全体に轟く雷の音。普通に考えれば、終わったと思うだろう。ゴーレムもその中にいるマスター達も。()()()()()()()()()であれば。

 

 

「聖なるかな!聖なるかな!人類を滅ぼす獣など、余は断じて許さぬ!!あぁ!見て下さったかよ師よ!!余の光を!!天から賜れたこの怒りをぉ!!おぉ――おぉぉぉぉっ!!余は愛すべきロシアを守り――――」

 

 

 光が、破壊の余韻が晴れる。雷帝の瞳に映った景色が山肌を震わせた。

 

 

「…………馬鹿――な――――」

 

 

 イヴァン雷帝が出し得る最高の一撃を直撃したゴーレムは腰を屈め、左拳を思いっ切り引き、構えた状態というおおよそ女らしからぬ勇ましい状態で健在だった。

 体勢からわかるように、それは防御の姿勢ではなく攻撃の姿勢。マスターは、そのゴーレムはイヴァン雷帝の一撃に一切の防御体勢を取らなかった。

 

「冗談だろ……あんな世界さえも滅ぼしちまいそうな攻撃を受けて、無傷だと……?」

 

「無傷ではない」

 

 今日一日で来世分までの驚きをしているヤガ達の漏れた声にアヴィケブロンが答えた。

 

「なるほど、怒りで倍増されたとはいえ、確かにイヴァン雷帝の一撃は強烈だった。彼の攻撃は間違いなく僕の最高傑作にダメージを与えた。だが――」

 

 グッと人差し指と中指の間に親指を挟めて、ゴーレムマスターは力説する。

 

「彼の破壊速度よりも、こちらの回復速度が優った。それだけの話。何せ、女性サーヴァントを受肉させ、強化し、新たな宝具を生み出すきっかけにもなる精液を持つ男のセックスだ。エネルギーとしてこれ以上に上等な物はない」

 

「冷静に考えるとあれじゃのう。シリアス風味で戦っているように見えて、マスターはあの中で腰を振ってるんじゃろ?ちょっちぃ、雷帝が可哀想なレベルなんじゃが」

 

「とんだ不健全ロボね」

 

 ノッブと邪ンヌのツッコミは至極真っ当なものだった。

「ファンネル!!余のファンネルはいらぬかマスター!?」「せんぱーい!!無手は寂しいと思うので頼り甲斐のある盾とか欲しくないですか――!」「盾では首を落とせません!主殿――!!何でも言う事を聞く刀はいりませぬか――!!」って羨ましさを持て余して、叫びながらゴーレムに突っ込もうとしている一部の女性陣がおかしいだけで。

 

「成程。イヴ役が増えれば、またゴーレムの外見は変わる……。むしろ人数が多くなる方が炉心たるsex enegyが増すのでは……」

 

「止めなさい」

 

 武蔵が頬を赤らめながら、よからぬ事を考えるアヴィケブロンの肩に手を置いて、なんとも言えぬ顔で首を横に振っていた。恋愛雑魚侍にはまだちょっと過激な話だったのかもしれない。これ以上の魔改造は勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

『一発は、一発だ』

 

 左拳に力を込め、右手は開かれ、照準を決めるように雷帝の方へとかざされていた。宝具『ダーリン・イン・ザ・セックス』は中で行われる性交の興奮と快感が増幅すればする程、力を増す。

 

「んぅぁあぁあっっ……ナカ、えぐれてぇぇ……奥何度もノックしちゃああぁっ……あんぅぅぅ!!」

「ひゃああぁっ!!あんぅ!あんぅぅ!!マーちゃんの魔力おちんちん、姫のナカであばれてぇぇぇ!!」

 

 端的に言えば、今バックで膣奥を突かれ続けている二人とマスターが絶頂に達し、膣内に思いっ切り射精する瞬間こそが最も爆発的なエネルギーを生み出す。

 

 左肘がロケットの噴射口のように開き、3人のセックスエネルギーによってブースターがかかる。

 熱く熱く、より熱く濃厚に。愛し合う男女のエネルギーは無限大。

 

「あっ、あっ、んんぁぁ゛ぁぁっ……!!い、イクゥ、イ、クゥ……い、くわぁ……!!ダーリン……イッくぅぅっ――!!!」

「姫も、ひめもぉ……イッちゃうぅぅっ!!あぁぁっ!!あんぅ、あん、あんぅっ……!!マーちゃんの白チンポでぇぇっ……イッちゃうぅぅっ……!!!」

 

 

 

 深く結合し、二つの子宮に注ぎ込む射精の解放感。彼女達のエクスタシーは爆発的な破壊力を産む。セックスとは生命の始まりであり、エロとは此れ力。それを炉心としたゴーレムの一撃はたとえ、ただのパンチでも絶対破壊の一手となる。

 

『夢から覚めろ雷帝。(ヤガ)が生きる世界に我ら怪物住まう場所無し、だ』

 

 シリアスな声で何か言ってるけど、こいつ今女二人に思いっ切り射精してるからな。うん、彼女達のマイクを切って正解でしたね。

 

 

 握りしめた左拳はロケットのように加速し、巨躯を持ったイヴァン雷帝の鼻っ面に最初で最後の殴打を叩き込む。

 

 

『ホワイトインパクトオオオオォォォッッ!!!』

 

 ただのパンチ。だがあまりにも美しい軌跡を描いたその拳は巨大な怪物を沈めるに足る物だった。

 

 

「おぉ――神よ――」

 

 

 ただただ目の前の事象が信じられない。今までこの国を必死に守ってきた余がたったの一撃で全てを終わらせられた。しかも笑える事に相手は性交しながらだ。夢から覚めたと思いきやどうやら自分はまだ悪夢の中にいたらしい。

 イヴァン雷帝のその言葉にはそんな想いが込められていたような気がした。

 

 山の如し巨体を紙のようにひしゃげさせた拳は衰える事なく進み続ける。振り切った拳は何もかも置き去りにして、山岳型魔獣と一体化したイヴァン雷帝の巨躯を粉々にした。

 

 頭上にある王冠が外れ、本体であるイヴァン雷帝が大地へと失落する。暴虐の化身、その姿だけで全てのヤガ達の心を折った皇帝(ツァーリー)はより理不尽な存在に打ち滅ぼされた。王冠が破壊された王は消えゆくのみ。

 ヤガ達はそんな神話の再現のような光景を見開き、時には涙を流して見守っていた。

 

「なんて、神々しい……」

「あれが天使というやつなのか……?」

「いや、救いの神。女神だ……」

 

 堂々と佇む巨大女型ゴーレムは多くのヤガ達から畏敬の視線を浴びていた。

 

 

 まぁ、中ではまだヤッてるんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぁ、ホームズ君。何かイイ薬もっていないかね?持ち合わせの胃薬が底をついてね』

 

『胃薬ではなく、吸うだけで気分が楽になる薬ならたくさん』

 

『ほぉ……そりゃあ――……いいなぁ……』

 

『はぁい、ホームズ。ヤク中仲間を増やそうとするのは止めよーね』

 

 

 カドックは戦意喪失。アナスタシアは一度目を覚ますが、巨大ロボットから自分の喘ぎ声が流れたタイミングで再び気絶。雷帝は完全に無力化。

 この異聞帯におけるおおよそ敵と呼べる物の打破は達成出来たのだろう。

 

「何かじっとしたまま動かないわね……あのゴーレムはいつになったら解除されるの?」

 

 イヴァン雷帝をぶっ飛ばした後、身動きをしない巨大ゴーレムを見て、武蔵がその制作者に尋ねた。

 

「それは彼等のセックスエネルギーを炉心にしているのだから、当然、彼等が性交を止めない限りはあのままさ」

 

「はい?」

 

 武蔵の疑問に答えたアヴィケブロンの返答に女性陣の半数が嫌な予感に汗を垂らす。

 

「えぇ……それっていつになったら終わるんかって話になるんじゃが……」

 

「シミュレーションルームと同じ感覚でヤリ続けてたら、日は暮れそうね」

 

「むむむぅっ……。派手な巨人の中で行われる退廃的で淫蕩な宴……余も混ざりたいのだが――」

 

「二人程度だと先輩も中々、満足まで時間がかかると思います。ここは一番絆値が高い後輩に参加を……」

 

 もし彼等が時間の概念が狂っているシミュレーションルームと同じ様に性交にまだまだ耽っていたら、このゴーレムはいつまで経ってもこのまま。恐らくアナスタシアと刑部姫の二人の体力が尽きる結末で宝具が解けるだろうが……それは一体いつになるのだという話になる。

 

 どちらにせよ素材に刑部姫の城を使っているだけあって、一度閉めたらその拒絶感は尋常じゃない。さすがは引き籠りの姫。下の門はマスターに無血開城のくせにここはガッチガチのようだ。

 

 巨大ゴーレムと化した『ダーリン・イン・ザ・セックス』に入り口らしい入り口は見つからない。辺りをウロつく女性陣は力技で事に及ぼうとしてもそこは雷帝の一撃でもピンピンしていた回復力。徒労に終わるだろうと思われる所だったが――。

 

「ま、おっきーも割りとむっつりな所あるから。この状況を役得だと思って楽しんでるじゃないの?」

 

 

「ほ――おぉ――?」

 

 

 エリちゃんの何気ない一言が大剣豪武蔵の琴線に触れた。

 目元をひくつかせて、その手は既に鞘に添えられている。

 

 

 彼が色んな娘と関係を持っているのは知っている。一人だけじゃ、抑えきれない程の性豪の者だという事も身を以って痛感している。

 しかし、あの怠け癖の引き籠り姫と密閉された城で人目憚らず耽美な伽物語……?

 なんて羨ま……じゃなく、気に食わない。特に武蔵にとっては刑部姫の出不精スタイルにマスターを引き込もうとしているのは前々から一言申したい気分だったのだ。

 

「いいわ……。あんたが出てこないというなら好きにしなさい。ただしその頃にはあんたの城は真っ二つになっているだろうけどね」

 

 両脇に差してある。二刀の鞘にさらなる力が籠められる。

 腕を交差させ、今にも周りに斬りかかりそうな武蔵の背後には不動明王像の幻覚が思わず見えてしまう程に。

 

「武蔵さん……?」

 

 マシュの声に反応しない武蔵から途方も無い剣気が溢れ出してくる。

 

 色恋などの雑念は剣の道には不要と斬り捨てた未熟者はここにはいない。

 禁欲の果てにたどり着く境地など高が知れたもの。我が二刀は何の為か、恋と剣の道、その両方を極める為。

 

「一刀三拝、無限を破り零に至り――――その先にて、零の獣の愛に達する」

 

 最強なんて最愛と比べればタカが知れていると吠える乙女の恐ろしさを特とご覧あれ。

 女心は秋の空。女の嫉妬は猛嵐。湧き出る恋心は灼熱地獄。

 

 さぁさぁさぁさぁ、下総国で色んな意味で達した剣豪の一撃を喰らうが良い。

 

 

「『真恋――――……ッッ仏陀斬りぃぃぃぃぃいいいい!!!』」

 

 

 飛びたつように刀を抜く両手からそれぞれ解放される二刀。

 振り払われる斬撃は二刀にも関わらず、一撃だった。

 

 二天一流。あまりにも速く、巧く、狡い武蔵の剣は完全に別個の斬撃を一つと重ねた。

 

「僕のゴーレムが……」

 

「「「斬れたぁぁぁあぁああっ!!?」」」

 

 飛ぶ斬撃。

 一人の剣士の領域を遥かに凌駕しているそれは大きさも距離も関係なくあれだけ無敵の回復力を誇っていた。女型巨大ゴーレムを胴体から真っ二つにしていた。

 

 

 

 いや……それだけには()()()()()()()

 

 

 

 ずっとずっとこの異聞帯の謎として鎮座していた巨大な大樹のような物。

 

『空想樹』と呼ばれていたそれが斬撃の射線上にあったせいか。

 

 それもゴーレムを斬るついでと言わんばかりに()()()()()()()()()()()

 

「うっっそだろ…………?」

 

 今日一番の驚愕の声を上げたカドックの前には信じられない光景があった。

 

 武蔵の唯我独尊な斬撃の元に斬られたそれは真っ二つになるだけで終わらない。

 完全に斬り分けられた瞬間に()()()()()()()()のだから。

 

「斬り捨て――御免」

 

 ”私が斬ったんだから死ね”究極の一、無二を超えた零の剣。そんな武蔵の剣はあらゆる可能性を斬り伏せ、そのただ一つの無慈悲を叩きつける。

 

 恋の道はまだまだ精進中。未だ本人も使いこなせていない新宝具の名は『真恋 仏陀斬り』。

 

 

「空想樹の完全消失……確認です」

 

「うっへぇ――……い、やぁ――……ジャパニーズの侍って本当におっかないね。君の時代はあんなのが跋扈してたのかいノブナガ」

 

「馬鹿言え。あんなバスターゴリラそうそういて堪るか。沖田の方がまだ可愛げあるわい」

 

 雪のような白銀のゴーレムの残骸と共に舞い降りるマスター達の一見幻想的にも見える姿に安堵しながら、ビリーと信長は軽口を挟む。

 

 異聞帯の王は討ち取られ、そこを担当するクリプターとサーヴァントは無力化、楔として打ち込まれた空想樹も伐採された。

 

 こうなってしまった以上、この異聞帯――ロシアの結末は決まっているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハ、ハハハ、結局……こうなったか」

 

 茫然と空想樹が砕け散っていく様子を見守る。雷帝が死した以上、『非常大権』はアナスタシアに移り、彼女がこのロシアの皇帝になったそうだがこの状況でそれの何の意味がある。そもそもアナスタシアは絶賛気絶中だ、まぁ、自分とそっくりの喘ぎ声が常識外れのロボットから流れてくれば、気を失うのも仕方ないだろう。僕もあの声を聞いた瞬間に……何か悪夢のような物を思い出し――ウッ、頭が……いや、止めておこう……これ以上考えるのは。

 

「最初っから気付いていた……勝ち目が無いって事は。それでも目を逸らし続けないとやっていけなかった」

 

 あの元人類最後のマスター……人類悪と邂逅してから、驚きとツッコミの連続によるストレスのせいで胃がどうにかなりそうな毎日だったが、それでも勝てる策は、手段はあると自分に言い聞かせてここまでやって来た。心の奥底では無理だと諭すもう一人の自分を無視しながら。

 

「その結果がこれだ」

 

 自嘲するように俯く。

 マスターとしての能力以前の問題だった。アイツ自身の力もそのサーヴァント達も雲泥の差があった。僕達の手札と人類悪の手札では。

 それでもアイツは全力で僕達を滅ぼしにこなかった。本気で遊びにかかった。むしろその方がえげつなかった気がするが。

 

「カドック……?」

 

 うっすらと目を開けるアナスタシアの視線に気付きながらもつい、無駄とわかっている独白を続けてしまう。今更、『大令呪(シリウスライト)』を使っても只の焼き直しになるだけだ。

 

「アイツぐらいの力を持ったら、世界を救うなんて容易かったんだろうな……」

 

 

「そんな事はない」

 

「……ッ!」

 

 いつの間にか隣に立っていた男の声に無駄だとわかっていても身構えてしまう。

 黒い長髪をなびかせて、袖が短いカルデアの礼装と思わしき黒いジャケットを身に纏っている人類悪は僕の敵意なんてどこ吹く風だった。

 傍にいたアナスタシアがアイツを見た瞬間に真っ青と真っ赤を混ぜ合わせた不思議な顔色になって再び「うーん」と気絶してしまった。彼女は聡明だから、もう一人の自分とコイツがあのゴーレムの中でナニをしていたのか気付いていたのだろう。

 

 別に自身のサーヴァントと何を致そうが、マスターの勝手だろうが……僕は若干、いやかなりの気に食わない気持ちを込めて、デアーを睨み付けていた。それも只の強がりだと気付いていながら。

 

「僕達を殺しにきたのか?」

 

 

「……結局の所、俺に世界なんてものは良くわからなかったよ」

 

 どうやら、質問に答える気は無いようだ。それよりも僕の先程の独白をしっかりと聞いていたらしい。アイツの口から出た言葉に思わず鼻で笑ってしまう。

 

「嫌味もいい所だな……良く分からなかったけど、救ってしまいました……ってか?」

 

 もしコイツが本当に何の魔術的素養が無い、数合わせのそれこそ本当の補欠マスターだったら僕はもっと激昂していたのかもしれない。殴りかかってしまう程に。

 

「フランス、ローマ、オケアノス、ロンドン、アメリカ、エルサレム、バビロニア。新宿……っとここからはちょっと特殊なケースだから省くとして、まぁ、人理が焼却されてからそれなりの国を見てきた。それでも俺が見てきたのは世界のほんの極わずか、一部でしか無かった」

 

「何が言いたい?」

 

 デアーは先程、空想樹があった場所。今はもう既に何も無い空の場所を見つめていた。

 

「俺には今でもなお世界のイメージが出来てないんだよ。あまりにも壮大過ぎて、さ。そして分からないもの、知らないものは救えない。当然の帰結でしょ?」

 

 こちらに視線を向けないコイツの瞳がどこを向いているのかが分からない。

 だが言葉の意味は理解できる。世界の全てを詳細に把握している者なんていない。もしいるとするならばそれはきっと神……いや、神様にでも無理だろう。

 

「俺が人理焼却に立ち向かったのは自分の大好きな嫁さん達とカルデアの皆と離れ離れになりたくなかっただけ。皆と生きたかっただけ。ざっくり言えば、俺にとっての世界は()()だったんだよ」

 

 ――俺は俺の手が届く世界を守ろう。

 

 クリプター達の会議所に突然と現れたコイツの言葉を思い出す。

 そうか……この人類悪にとっての世界とは縁を結んだサーヴァント達とカルデアの連中だったのか。

 

「個々が抱える世界なんてそれぞれだろうさ。大小関わらずね」

 

 何故、コイツがここでこんな話をしているのかがわからなかった。

 

「なぁ、カドック先輩……いやカドック」

 

 ただ、きっとこれは予感だ。今からコイツは僕にとって致命的なナニかを――。

 

「君は一体()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「――――」

 

 自分でも間抜けな顔をしていたかもしれない。コイツの問いに何故か答えを返せなかった。

 

「そ、そんなの決まって――」

 

『もちろんこのロシアだ』という当然の言葉が出てこなかった。

 そうだ。確かに僕は世界を救いたかった。けど、それは――――。

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』……だろ?」

 

 心を読んだように囁かれたコイツの言葉を否定出来なかった。

 あぁ――。その通りだ。

 僕は自身の存在を証明する為に、自らの手で成しえた功績を打ち出す為に、世界を救おうとした。

 もし別の異聞帯が担当でも同じ事をしようとしただろう。

 

「ヤガの人達がさ。どんな時に怒って、どんな時に笑って、どんな時に泣くのか、知らないでしょ」

 

「…………それを知ってなんの意味がある。僕以外のクリプター達はサーヴァントも異聞帯の王も含めて、化け物揃いだ。そんな非効率的な事をしていたらいつまで経っても天才達には追いつけないッ……!!」

 

「そもそも天才相手に効率勝負してどうすんのさ。同じステージで追いかけっこしても追いつけるワケないじゃん。周りが無駄、無意味と笑う『余分』こそに下克上の秘訣があるのにさ。君はちょっと、余裕が足りない」

 

 じゃあ、何か。僕が散々虐げられてきたヤガ達ともっと親しくなっていれば、彼等と近しい距離になっていれば、この結末は変わっていたとでもいうのか?下らない、この異聞帯を生きるヤガ達の情報は全て必要な分は取り揃えている。それ以上の何かを得て、意味があるのか?

 

 そこに僕が失敗し続ける理由が、天才に追いつけない理由があるとでもいうのか?

 

「知らない物は救えない。見えない物は救えない。ただ漠然としている世界という代物全てを救ってやろうという願いはいつかどこかで絶対に破綻する」

 

 何一つ言い返せなかった。コイツ自身は否定するだろうが、コイツは数多の特異点(世界)を救ってきたプロフェッショナルだ。それに関しては僕達クリプターより格段に経験値が高い。僕が世界を救ってみせると息巻いていたのはコイツからすれば、滑稽だったのかもしれない。

 

「……なら、なら僕はどうすれば良かった……?何をしたら良かったんだ……」

 

「まずは自分とその周りを幸せにする事からでしょ。それすらも出来ない奴が世界を救うだなんて臍で茶が沸くぜ先輩(ルーキー)

 

 

 こっちを見て、そう笑う人類悪はムカつくぐらいに幸せそうな顔だった。

 

 

「…………空が崩れているな……もうじきこの異聞帯も終わる…………聞くまでもないが人類悪。お前にとってはぬる過ぎる第一ステージだったか?」

 

「はははははは、まさかここで終わりだと思ってる?まだまだこの俺の悪辣さを理解していないと見える。伊達に人類悪はやってないよ」

 

 

 デアーを中心に魔力の嵐が吹き荒れる。突然の衝撃に僕とアナスタシアは軽く吹き飛ばされた。一体何を――――。

 

 

「『白式官能 唖摩多の手』」

 

 

 コイツらと戦ってから、一生分の驚きを堪能した僕はこれから先もう驚く事は無いだろうなという言葉を撤回する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、消えちまう俺たちの世界が……」

「あの魔術師の言ってた通りか」

「けど、仕方ねぇ。俺たちは弱かったんだから」

 

 世界が崩れていく状態でヤガ達は嘆く事もなく、ただ力無くうなだれていた。超展開の連続でもう悲しむ元気も無くなったのか、あるいは強食の世界で染み込まされた精神があれだけの強さを見せられたら仕方ないという諦めを生み出しているのか。

 

 このまま、ヤガ達は異聞帯と共に星屑のように消え去るだろう。

 

 

 だが、零の獣はそんな綺麗な展開を許さない。

 

 

「おい……なんだありゃぁ?」

 

 

 ヤガの一人が呟き、皆が視線をそこに向ける。

 

 人類悪の体、周辺から伸びる数え切れない程の数多の白手が顕れ、このロシアの大地のあらゆる場所へその魔手を伸ばし、突き刺していた。

 

 カドックは思い返す。キリシュタリアの根城を崩壊させたあの白手を。あれだけのエネルギーを異聞帯の存在証明に費やしているのかとエネルギーラインのように白手を増やし続けるデアーの方を信じられない顔で見る。

 

『崩壊が止まった……?いや、これは崩れかけている異聞帯が修復されているのか』

 

『確かに人類悪と開花している君が持つエネルギーなら不可能な話じゃない……けど、それはあくまでそこで永遠にエネルギーを供給し続ければの話だ!空想樹の代わりに君が楔になるつもりかい!』

 

 通信から来るダ・ヴィンチの叫びは最もだ。

 仮に世界を維持し得るだけのエネルギーを与えたとしても既に空想樹は切除され、テクスチャは剥がされる。この地球があるべき姿に戻そうと後ろ盾が何も無くなった異聞帯を排除しようとするだろう。

 

 なら、どうする?

 

「答えは簡単。この世界じゃない所に移せばいい」

 

 それこそ、人類の全てが滅亡し、ただ地球という土台だけがある世界。元からまっさらならページから上書きするなら文句を言われる筋合いは無い。

 

『そんな都合の良い世界が――』

 

 

 

 ――世界の可能性はいくらでもあるわ。それこそ樹木のように、枝葉のように、一つの世界に多くの可能性は存在出来ないけど、私は世界ごと繋げ合わせる事が出来るの、だから私が繋げたのは『カルデア以外の全てが滅んでしまった世界』。

 

 ――随分と都合の良い世界もあったもんだね。いやはや全くもって末恐ろしいよ、君がそこまでの力を持っている事がね

 

 

 

 言葉に詰まったダ・ヴィンチちゃんの脳裏にはシャドウボーダー内でのある少女との会話が浮かんだ。

 

「さぁて、エピローグの時間だ。アビー、後は任せた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は禁断の秘鑰、導くものなり」

 

 マスターの声に応えるようにロシアの吹雪が収まった上空数百メートルで一人の少女がいた。

 少女というにはその姿は余りにも奇抜で禍々しかったが。

 

『降臨者』アビゲイル・ウィリアムズ。彼女は鍵のような杖を振り回し、構え、空へと刺す。

 

「イグナ……イグナ……トゥフルトゥクンガ………我が隣に白の獣あり。零より現れ、その指先で触れ給う。我が父なる神よ、我はその親愛なる獣を結び付ける現身とならん」

 

 大仰な呪文を並べ、鍵が捻られる。

 

「開け。門よ」

 

 空に大きな、大きな穴が空いた。あまりにも大き過ぎて、遠目で見ないと穴だとわからない程の虚穴が。それこそ、ロシアの地全てを飲み込むに足る大きさだった。

 

 

「ふふ、フフフフフフ、いけない。私ったらイケナイ子だわ。他の側室の方々も頑張っていたのに、最後にこんなおいしい所を取ってしまって、笑みが止められないの。えぇ、えぇ……やっぱり大事な役割を任せられるのは正妻の証……」

 

 もし、下の連中に聞かれていたら戦争間違いなしの独り言を吐きながら、アビゲイルは開いた門の端から概念触手を降ろす。

 

 その触手はビーストデアーの白手と淫らにきつく絡み合い、力を込める。

 既にロシア中に突き刺さっている。彼の『白式官能』はアンカー代わりとなるだろう。

 

 存在しないロシアをこの星に縫い付けていた楔はもう無い。

 アビーの触手はマスターの白手を持ち手として、この異聞帯を引き上げる。

 

『う、浮いたぁぁああああっ!!?』

 

 ゴルドルフの叫びが通信越しに響く。

 デアーの宝具からエネルギーを供給され続けられているロシアの大陸は釣り上げられた。

 空から城が降り、城がゴーレムに変形し、終いには自分達の国が浮き、空の門へと吸い込まれていく。

 

 あまりにも現実離れした光景。驚愕続きのヤガ達はまるで自分達が夢の中にいるような気分に陥ったのかもしれない。

 

「ふむ、ダイスでも振っておくか?」

 

「いや、SANチェックの必要も無いじゃろ」

 

 そんなアルテラと信長の言葉を最後に、ロシアの異聞帯はこの世界から完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれから、どれぐらい経ったんだろうな……」

 

 

 最初っから最後まであの人類悪に翻弄され続け、気づけば、僕とアナスタシアはこのモスクワの城にいた。

 アイツの言葉を信じるのなら、ここは人類が滅び、ただ星というステージだけがある完全なる異世界。ロシアの異聞帯はその世界にサルベージされた。

 

 僕とアナスタシアは生きている。見逃されているのか、殺す価値も無いのか。

 

 ヤガを脅かす吹雪も、魔獣も無く。この極寒の地はこれまでと比べると格段に生きるのに容易い温い環境となった。それこそ僕が知る本来のロシアと同じような形へと。

 

 ――後は好きにしなさい。

 

 突如として姿を変えたロシアの地で茫然としている僕とヤガ達を前にそう言い残して、カルデアは消えた。

 

 

「なるほど、確かにあれは救世主なんかじゃないな。紛うことなき人類悪だ」

 

 皇帝の力を持ったアナスタシアは混乱の中にあるロシアを纏め上げようと奔走している。僕もマスターとして彼女に付き添い、共に尽力している。完全に敗北した僕達に他にやるべき事が思い付かなかったからだ。

 

「おい今日のインスタ皇女の更新見たか?」

「あぁ、見た見た。白色のカーディガンとか尊みがやべぇな。森ガールならぬ雪ガール」

「ウチの皇帝(ツァーリー)もあれぐらい愛嬌があればなぁ……」

「ばっかお前、あのツンツンっぷりがいいんだろ。俺も今日、スマホ弄ってサボってたの見つかった時の極寒の眼差し……!堪らねぇぜ」

「あぁ、だからお前、腕凍ってんのか……」

 

 人手はいくらでも必要になってくるので、『非常大権』で召喚されたオプリチニキは何かおかしくなってるし、あの人類悪からもらったのか、どこから手に入れたのやら、スマホに夢中になっている奴らがここ最近、見受けられる。お前ら、ちょっとキャラ崩壊が酷くないか?

 

「カドック!!LINEでもう一人の私からまた不埒な画像が送られてくるのだけど!!何であの女はあんなはしたない画像を平気で何枚も送ってくるのかしら!!なまじ、私と同じ体だから、羞恥心で座に帰りそうよ!!」

 

「ブロックするなり、ミュートするなりすればいいだろ。僕に言われてもどうしようもないぞ」

 

 怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしてスマホ片手に僕に駆け寄るアナスタシアが息を荒げていた。君も使ってるんだな……。というよりも僕はもうカルデアの連中とは縁を切ってるわけだから、アイツらの行動をどうこうする手段なんて持ってないぞ。

 

だって男に抱かれて、自分と同じ顔であんなに幸せそうにされたら、気になるじゃない……

 

「何か言ったか?」

 

「……何も言ってないわヘタレ」

 

「うぐっ」

 

 どうしてヘタレと言われたのかわからないが。その言葉は心に突き刺さるから勘弁して欲しい。アナスタシアは頬を膨らませて、自室へと戻った。

 僕は傷んだ胃を癒す為か、何気なく改修中の城を後にして、外に出る。

 

「ネットの海ってすげー!」

 

 スマホを持った子供のヤガが元気そうに街の広場で走り回っていた。

 オプリチニキだけじゃない、ヤガ達もスマホを所有していた。まるで普通のロシアのような風景。彼等の外見に目を瞑ればの話だが。そもそもネット環境とかあるのか?いや、あれだけのキチガイっぷりを発揮してた連中なら別にこの世界に用意してもおかしくはないのか。

 

「考えるのは止めよう。胃の次は頭が痛くなる」

 

 何気なく、自分のポケットにいつの間にか入れられていたスマートフォンを取り出す。ベンチに腰かけ、特に意味も無く操作をしていたら、後ろから子供のヤガに覗き込まれていた。

 

「……なんだ」

 

「魔術師の兄ちゃん、何もアプリ入れてねーじゃん。だっせーの」

 

 まっさらなホーム画面を見て、邪気なく子供が笑う。

 

「なんなら、オレが何個か面白いの入れてあげよっか?」

 

 いつもの僕なら間違いなく断っていた誘いだったが、ふとあの時のアイツの言葉が甦る。

 

 

 ――ヤガの人達がさ。どんな時に怒って、どんな時に笑って、どんな時に泣くのか、知らないでしょ

 

 ――周りが無駄、無意味と笑う『余分』こそに下克上の秘訣があるのにさ。君はちょっと、余裕が足りない

 

 ――まずは自分とその周りを幸せにする事からでしょ。それすらも出来ない奴が世界を救うだなんて臍で茶が沸くぜ先輩(ルーキー)

 

 

「……今は何が流行ってるんだ?」

 

「んーとね、母ちゃんはインスタとかに夢中になってるけど。俺はこれかな?『FGO』ってゲーム!すげぇんだぜこれ!キャラメイクとか滅茶苦茶凝っててさ!あ、もし始めるならフレンドになろうぜ!兄ちゃんの名前は?」

 

「カドック……カドック・ゼムルプスだ」

 

 

 興奮気味に俺の肩に乗りかかり、始め方を教える子供のヤガの毛がくすぐったい。本当に楽しそうに笑う子供だ。

 

 

 面白いのか……?これ。

 

 

 





『真恋 仏陀斬り』
ランク:A++
種別:対人宝具
使用者:宮本武蔵(恋愛雑魚侍)
一見すれば、腰に差した二刀による同時抜刀攻撃だが。距離大きさ関係なく、一つの斬撃に重なったそれは武蔵が斬りたい対象だけをぶった斬る。私が斬ったんだから死ぬという傲慢とも取れる武蔵の剣士としての矜持が押し付けられたそれはあらゆる可能性から斬った以上は朽ち果てる零の結末を叩きつける。
武蔵の嫉妬心や恋心が一定基準に達さないと使用出来ない宝具なので使い所は限られる。
下総国でマスターである零の獣と恋し、愛し、犯り合った侍がたどり着いた剣を極めし先にあった恋の道。かつては雑念と斬り捨てていたその感情を武蔵は受け止め、彼の剣に貫かれ、存在を確立させた彼女はもうあらゆる世界を放浪する浪人では無くなった。彼女の居場所はここにある。



























【あるヤガの独白】

「じゃあ、言ってくるよ母さん」

「気を付けるんだよ。怪我……しないようにね」

「はっ、こんな世界で怪我のしようがねぇよ」

後ろからかかる言葉に笑いながら、家を出る。
ついこの間まで俺の顔もわからなかった癖に、世界が文字通り変わってから、急に正気になりやがった。窓からあの出鱈目な光景でも見てたんかね。ショック療法ってやつか?

ま、あんな光景見せられたら頭のおかしさが一周して正気に戻りそうだがな。

正気に戻った母親はまず泣きながら、俺に謝罪と感謝を繰り返した。

そんな姿を見せられて、自分でもわからず涙を流していた。
何となくだが、その時、どうして自分が息子の顔もわからなくなった母親に必死に食料を分け与え続けていたのか理由がわかった気がした。

正気に戻ったとはいえ、俺の母親の寿命はそう長くはない。それでも、例え残り僅かだったとしてもこういうありふれたやり取りが欲しかったんだろう。


カルデアとかいうやつらの口車に乗って、オプリチニキ共に叛逆して、流れ流れてやって来て俺達がたどり着いた先がここだった。



「やはりいつ見ても素晴らしい!! この完成された女神像の美しさよ!! 本物にはまだ遠く及ばないがな!!」

村に出ると、雪で造られた像の前で何人かのヤガ達が熱く語り合っているのが見えた。雷帝をぶっ飛ばした巨人を模した雪像の前で楽し気に。

「拳を振り切ったあの勇ましさ!! 一撃に込められた平和に対する願いと虐げられた者達への慈しみが私には伝わってきたわ!!」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、若い衆は見る所が甘いのう……。儂は斬られ、崩れゆく女神に滅びの美学を感じたぞ。朽ちてなお損なわれぬ美しさ……あれを見た時は10年程、若返った気分になったわい」

どいつも勝手に独自の解釈を述べながら談笑し、新たな女神像を造ろうとしていた。

「暇人どもめ」

その呟きは言葉とは裏腹に自分でも驚くぐらいに優しい声色だった。

今までは散々、生きる為に、飢え死にしない為に、食料を求め、狩場を求め、弱者を切り捨て、隣人を騙し、強者に媚びてきたヤガ達が生きる事とは直接的に関係無い物事に夢中になり、笑って生きている。あぁ、そういや母さんもインスタ?とかやらに最近夢中になっていたがな。俺はどっちかっというとツイッター派だ。

栽培やら、養殖やら、農耕、酪農やら、気候も変わり、食うものを得る手段が増えた事によって余裕が生まれたのか。何の冗談か、あのオプリチニキ共も手伝ってくれるからな。「お前は誰推しだ?」とかフレンドリーに声をかけられた時は正気を失いそうになったが。

「おいパツシィ!」

「なんだ?」

知人に声をかけられる。顔は知っているが、名前は知らないその程度の関係。

「どこに行くんだ?」

「釣りだ。凍った湖に穴をあけて、糸を垂らす」

「よし! 俺も付いて行く! どっちが多く釣れるか勝負だな!」

「……好きにしろ」

何が楽しいのか、顔を輝かせて、道具を取りに戻るヤガ。前までなら「取り分が減るからついてくるな」で終わりだった筈だが……。

「……なぁ、父さん。これが俺達ヤガが遠い昔に忘れ去ったものなんだろうか」

(ヤガ)は死なない為だけに生きるのではない。弱者が滅び、強者こそが生き残るみたいな物々しい法則に縛られるんじゃなくて、生きるってのはもっとこう、余分があってもいいんだ。

スマホに夢中になったり、毒にも薬にもならない話で花を咲かせたり、腹が膨れるわけでもない雪像を作ったり、狩った獲物の数で勝負したり、生きる過程の中にある色んな楽しみってやつを見つけていく。

多分、幸福ってのはその積み重ねなんだろうな。

ふぅ――っと白い息を吐き、ふと空を見上げる。本日は快晴なり。


「空ってのは青かったんだな……」
















【空  想  強  奪】


第2部 1章 完結。


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