100話記念&300万UA記念でどこかでやろうと思っていた主人公初夜回です。頑張れ、後輩。お前がナンバーワンだ。
一つのこと、一つの目的のために、多くを見失うもの。これを馬鹿という。馬鹿の恐ろしいところはな。多くのものを失うクセに、その大事な一つだけは決して取りこぼさない事だ。
男の話をしよう。
男には取りこぼしたくたない物がたくさん出来てしまった。馬鹿とは一つの為に他の全てを取りこぼすものの事。ならばと。一つの手でこぼれるなら
男は言う。
――俺が守るのはせいぜい自分の手が届くまでの世界だけだよ。
はてさて、ではその愛ある獣の手は一体、どこまで届くのやら。この怪物の物語が幸福な結末になるか、どうぞ皆様、最後まで目をお離しなきように――!
元異聞帯No.1。極寒の歴史に閉ざされた白岩の大地。かつて強食を信条とした魔獣と人間の混成でもある「ヤガ」が生きていた永久凍土の世界。あり得ざるロシア。
空想樹によって人類史に張り付いていたそれも白き獣と外なる神を導く巫女によって、別の世界へと強奪された事を他のクリプター達は知る由も無いだろう。
「見ろよ!兄者!
「おぉ、コメントの伸びが尋常ではない。それはそれとしてその呼称は何なのだ。弟者」
「いや、アナスタシア様のままだとウチの皇女様とごっちゃになるからな……」
「あぁ、確かにあっちの方が姉っぽいよな。大人の魅力というか余裕があってよ。デアーさんと経験済みだろ間違いなく」
「こっちの皇女様もカドックの坊主とさっさとくっつけばいいんだけどねぇ」
「くそっ、じれってぇな……。俺ちょっといやらしい雰囲気にしてきます!」
「あっちの皇女様がアネスタシアなら、こっちは?」
「イモスタシア様?」
「お前、本人に聞かれたら殺されるぞ……」
「だが、俺はそんなイモスタシア様のラーメンブログが生きがい」
「わかってるじゃないか、ヤガの」
「ロシアの世界って広大だわ」
ましてや、ヤガとオプリチニキがこうしてくだらない談笑をしている絵など想像出来る筈もなく――。
今日も今日とて、外なる世界に連れてこられたロシアは通常運行だった。
「悪役ムーブが足りないと思っている」
「いきなり何を言っているんだお前は」
カドックは目の前の人類悪に吐き捨てた。
場所はモスクワ。「雷帝vs性交ゴーレム」の戦いの余波から、王家の象徴たる城の改修も終わり、その客間にて、カルデアのマスターとマシュ・キリエライト、そしてカドックはテーブルを囲んでいた。
「というかアポ無しで来るのは止めてくれ、アナスタシアはまだお前がトラウマになっているんだからな」
「おっ、彼女の心配かぁ~~?このこのぉ~」
「うぜぇ……」
ニマニマ顔で膝をクイクイっと押し出すジェスチャーをする人類悪にカドックは眉間を抑える。デアーの前で空になったコップに心底嬉しそうに紅茶を注ぐマシュ。その姿を見てやっぱりAチームといた頃よりは断然に人間らしくなっているとカドックは思う。
そもそもそういう給仕の仕事もここのオプリチニキ共がやる筈だったのだが……アイツらと来たら、デアーを見るなり「へっへっへっ、カルデアの大将……『アダムvsダブルメカエリチャンvsアルテラマン』の次回作はいつ頃出ますかねぇ……」とか仕事もしないで雑談に耽るのでカドックが全員叩きだした。
いまこの部屋にはトラウマってるアナスタシアは当然いないとして、彼等3人しかいなかった。
「で、なんだよ悪役ムーブって。初めて、僕たちの前に姿を見せたアレで十分だろうが……。大魔王みたいだったぞ。未だに夢に出てくるんだからな」
そもそも自分は何でこんな所で敵だった連中と呑気にお茶会などしているのかとカドックは疑問に思いつつも話に付き合う。この人類悪に付き合うコツの一つとして、深い事を気にしてはいけないと彼は学習していた。
かつてのカドックならくだらないの一言で話を切っていたが、今はしない。その
「大魔王……。そう……古今東西、魔王と呼ばれる者。勇者と相対する悪の頂点。その者達に必要な物が何かわかるかねカドック君」
「あぁ……絶対的な力?優秀な部下とか軍事力とか、見るだけで心が折れそうな本拠地とかも必要だよな。後は全てに恐怖を抱かせるぐらいの悪逆とかか?」
ふぅ――やれやれと期待外れだと言わんばかりにアメリカンに手を拡げ、首を横に振る人類悪。カドックの額に青筋が浮かぶ。
「お姫様ポジだよ」
「は?」
「ローラ姫にピーチ姫。物語にヒーローがいるのならヒロインが必要なのも自明の理。確かに戦えない攫われ系ヒロインなんて古臭いかもしれないが、俺は敢えてノスタルジーに浸りたい。いいじゃない、お姫様」
「先輩、巷で話題になっているクッパ姫はどうですか?」
「特殊な例だけど、大変結構!魔王が実は美少女展開もTSも嫌いじゃないです!」
「僕はキングテレサ姫派だけどな」
「おーいぇす、
「やめろォ!確実にそこから間違いなく
何だかんだでぶつくさ文句を言っていた異聞帯のアナスタシア……妹っぽいアナスタシア――イモスタシア様はカルデアのアナスタシア――アネスタシアとSNSで交流を持っていた。姉らしく『大丈夫よ。白くて扇情的な下着でYES/NO枕でも持って夜這いかければ、あんな拗らせ童貞一発よ。いいの?このままだと貴女のマスターも童貞のまま何年も経ってキャスターになっちゃうわ。もう一人の私もそんなの嫌でしょ?』と有り難いアドバイスを実はくれていたりする。
「カドックさんは色白巨乳系が好みなんですね」
「いいだろ……色白系……照れ顔が映えるんだよ……。で、お姫様ポジってあれか?オフェリアかヒナコでも拉致るつもりか?僕的にはどっちも姫ってイメージじゃないがな。けど、オフェリアの錯乱っぷりは酷かったな……」
矛先を逸らすようにカドックは話を戻す。この世界に連れてこられて数か月……何だかんだでサブカルチャーにどっぷり嵌っているカドック少年だった。ヤガ少年に勧められたゲームは雪国系美白美少女キャスターが引けるまでちゃんとリセマラしたらしい。
「あぁ、あの眼帯っ娘ね。やっぱり初手、邪神触手はSAN値によろしくなかったかしら?もっとPCに優しい進行をすべきだったと反省」
カドックがあの時見た印象としてはどちらかといえば、この人類悪を見たせいでああも取り乱したようにも思えた。彼女の魔眼がこの獣のどんな可能性を見てしまったのか、彼はあまり知りたくなかった。怖いもの見たさにも限界はある。
「オフェリアさん……。また女の子同士で集まって、お茶会をしたいですね」
(雷帝の一撃を何度も止める奴を女の子扱いしていいものなのか)
「何か言いたい事があるのなら、その口をホッチキスでチャックしますがカドックさん」
「縫われたら、喋れないだろっ!?」
凄みのあるその笑顔に思わず、ビクついてしまうカドック。そんなマシュを見ながら、Aチームとして所属していた頃よりは随分と人間らしくなったとも思う。男女の感情の機微にそこまで鋭くない彼でも自身のマスターに向けるマシュの表情からは愛慕や親愛の感情を感じ取れる。
無機質でどこか機械的だったマシュ・キリエライトが人並みに恋をして、笑ったり怒ったりしている。それはきっと自分達Aチームでは出来なかった事だった。そういうスキンシップが得意なのはせいぜいペペロンチーノくらいだったが、彼(?)でもマシュとの壁を完全に壊す事は叶わなかった。
だからこそ、カドックは少し気になった。デザインベビーとして人工的に産まれたマシュという人間がカルデア唯一のマスターであるこの男にどういう影響を受けたのか。
「ま、こんな出鱈目や冗談を体現したような奴が近くにいたら、少なからず影響を受けるか……。ちょっとだけ気になるよ、お前とマシュがどんな出会いをしたのか」
「そんな奇天烈な出会い方はしていないんですけどね……。いたって普通ですよ」
マシュは思い返す。自身の人生の主軸となった先輩との出会いを。ドラマがあったわけでもロマンチックな出会い方をしたわけでもない。最初の印象は「ちょっとだけ変わってる人だな……」ぐらい。それがいつの間にかこうなってしまった。まぁ、けど理由とかきっかけとかはいくらでも出てくるのだろう。
だが、もし一つ挙げるとするのならば――。
マシュ・キリエライトが■■ ■■という男の後輩として、愛する女として生涯を共にしようと決意したのは一番初めのレイシフト、冬木から帰ってきてすぐの事であった。
「初めて見たのはカルデアの廊下でフォウ君と四足歩行でドクターの茶菓子を取り合っている先輩の姿でした……」
「獣か……!いや、ビーストだったな……」
「レフの言う通り、人類は既に滅びた。だが、手が無いわけではない。滅亡の外に唯一あるこのカルデアから人理焼却の原因となった過去の時空の乱れ――特異点へとレイシフトし、修復する」
ボロボロになり、未だ少ない人員で修復作業を続けるカルデアの中で緊張で強張った顔でドクターは二人の少年少女に告げる。
「過去へと戻り、人類史のターニングポイントを正しい物へと切り替える。それが人理焼却という結末を覆す唯一の手段でもある作戦名『人理守護指定グランドオーダー』」
カルデア顧問であったレフは裏切り、所長はカルデアスに飲み込まれ、マスター枠は中心となる筈だったAチームを始めとして、一人を残し全滅。スタッフの人数もとてもじゃないが満足にいるとは言えない。
絶望という言葉がこれ程まで似合う状況は無いだろう。それでも暫定的にカルデアのトップと立ってしまったロマニ・アーキマンは残酷な事実を告げないといけない。
「一般枠の君に酷な事を告げている自覚はある。半ば強制である事も理解している。だが、それでも僕は問わなければならない。
どこか苦しそうに、それでも真っ直ぐにこちらを見据えるロマニに人類最後のマスターとなった彼ははっきりと答えた。
「あるわけないでしょ!そんなもん!」
「え、えぇっ……?えええぇっ――!?」
「先輩!?」
凛!として清々しい程にそう言い切ったマスターにロマニもマシュも流石に瞠目する。
「いきなり、人類とか言われても十数年しか生きてない若造には地球儀のイメージしか出来ないっての。だからドクター、そういうのじゃなくてさ――」
その言葉はよくよく考えてみると確かに当たり前の言葉で、だけどこの状況だとやっぱり異質で、それをはっきりと芯を通して伝えている少年がどこか末恐ろしく感じるものでもあった。
「俺は自分の好きな物、守りたい物の為に戦うよ。自分の手が届く――失いたくない物の為に……人間らしく、俗人らしくね。神様じゃないんだから、世界なんて見えないっての」
彼はそう言って隣にいるマシュ・キリエライトに静かに視線を向けた。
「……あぁ、そうだね。僕もまた無用な物を背負わせようとしていたみたいだ。うん、君は君の理由で世界を救ってくれていい、そして、その手伝いを僕達にもしっかりとさせて欲しい」
人類最後のマスターとなった彼の言葉は使命感を投げ出した無責任な物にも聞こえたかもしれない。だが、それはとても人間らしくて、そこにいたドクター、マシュ、カルデスタッフの肩の力を抜けさせる不思議な言霊が宿っていた。
「確かにぺーぺーのド素人で不安かもしれないけど、大丈夫!なんて言ったて俺の隣には可憐でえちえちで強くて頼りになる自慢の後輩がいるからね!世界一――!ウチの後輩は世界一や――!」
おかしなテンションで隣にいるマシュを抱え上げ、グルグルとその場を回るマスター。
「い、いえそんな過分な評価です……。サブミッションでスケルトンを粉々にする先輩に比べれば、私なんて……あぁ、止めて下さい、先輩……!め、めがまわりましゅ――……!」
恥ずかしさで頬を紅潮させながらも、されるがままのマシュ。マスターの奇行によってカルデア内の緊張していた空気が弛緩し、柔らかい物となる。
ちなみにスケルトンの骨をバキバキに折るのをサブミッションとは言わない。
「やっぱり、先輩は凄いです。こんな状況でも自分を見失わず、しかも周りも笑顔にして」
次の特異点のレイシフトまで休息をもらったマシュは鎧姿ではなく、パーカーに眼鏡とカルデア内ではお馴染みの服装で先輩の部屋へと向かっていた。
重傷になり、危篤状態となったマスター達。レフの裏切り、人理焼却、所長の死。理解が追い付かない事項が嵐のように押し寄せてきていた。
それでも彼女が潰れずにいたのは隣にいる自身のマスターが――ただ一人の先輩がいつもと変わらない様子だったから。頼りになると彼は自分に言ってくれたが、マシュにとって先輩こそ一番頼りになる存在だった。予想だもしない言動も。周囲が驚愕するような行動も。導いてくれる足取りも。そして、不安にならないように私の手を握ってくれた温もりも――。
マシュは先輩が隣にいれば、デミサーヴァントとして未熟な自分に対する負い目も掻き消えて、十全に戦えるのだと鼓舞する。
次の特異点への作戦会議か、あるいは歓談でお互いの親睦を深めるべきか。先輩の部屋へと向かうマシュの足取りは非常に軽やかだった。
「先輩の事を考えるだけで、何だか、心がポカポカします……。何でしょう、この現象は?先輩に聞いたら、教えてくれるかもしれません」
出会ってから、まだ間もないが、この段階において、マシュ・キリエライトの先輩に対する信頼度、尊敬度は非常に高い物であった。それこそ、心のどこかで「先輩さえいれば、大丈夫」と盲目的な考えがよぎってしまっている程に。
だが――。
彼女はその考えをすぐに改めることになる。
「先輩、私です。マシュ・キリエライトです。いらっしゃいますか?」
反応はなく、近付いただけで自動的に開いたドア。どうやらロックはかかっていないらしい。不用心だと、心配になりながらも、部屋の中へと足を踏み入れた。
「ご不在……でしたか……?」
部屋に明かりは点いておらず、マシュがそう思うのも無理からぬ事であった。部屋を見回しているマシュは一度、電気を点けようかと逡巡した時にベッドの隅にいる存在に気付いた。
「あ、先輩……そこにいらして、い……たんです……ね――?」
その時、マシュは自分が見ている光景が信じられなかった。
それ程までに……膝を抱えて、虚空を見ているその人物の姿は――マシュが知っている先輩とはかけ離れている姿だったから――。
「届かなかった」
誰に聞かせるわけでも無い徒爾の言葉が吐かれる。
「せ、んぱい?」
「届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった。あんなに助けてて言ってたのに、泣き叫んでいたのに、届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった届かなかった」
壊れたプレーヤーのように呪詛の如き言葉を吐き続けるマスターの瞳は澄み切った蒼の色ではなく、全てをごちゃ混ぜにした底の見えない泥のように濁った瞳だった。
底抜けに明るいマスターのイメージにそぐわない瞳だったが、マシュは何故か強烈なデジャヴを感じた。
(同じだ、あの時と。爆発に巻き込まれて、下敷きになった私を見て――)
デミサーヴァントとなったきっかけ、レイシフト前の爆発テロ後。
彼女にとってその後、優しそうな表情で手を握られた光景の方が印象的だったせいか、記憶の片隅に追いやられていたが……。マシュの上にある岩盤を力づくでのけて、そして潰れた彼女の下半身を見てしまい、もう助からないと自覚してしまったマスターが一瞬、見せた瞳と全く同じ色をしていた。
「何で俺の手はこんなにも短い何で俺の手はこんなにも少ない弱い弱い弱い弱い話にならない話にならない話にならない話にならないあぁ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ好きな人がいなくなるのは仲良くなった人が傍から消えるのはいかないでいかないでいかないでいかないでそばにいてそばにいてそばにいてさみしいさみしいさみしいさみしい」
ベットの隅、息継ぎをしないで鬱屈とした言葉を延々と吐き続けるマスターの姿は狂気だった。誰が見ても、踵を返し、その場から逃げ去ったかもしれない。
(私は馬鹿だ――……)
だが、マシュ・キリエライトだけは違った。
(「何が先輩さえ、いれば大丈夫」だ……。所長を失って――……一番、心に傷を負っていたのは……不安だったのは……この人じゃないですか……!それを盲目的に、根拠も無く、先輩だから大丈夫だって勝手に――!)
無意識だった。気づけば、マシュは膝を抱える彼の手を取り、握っていた。あの時、死にゆく結末しか無かった自分の手を握ってくれた先輩のように。
ここは大きな分岐点。ここから彼女がマスターに対してどう関わっていくのか。どのような立ち位置になるのか、そしてこの人類最後のマスターが何に成るか重要なターニングポイント。
「どこにもいきません」
「……え……?」
ポカンと未だ泥色のまま変わらない瞳がマシュを射抜く。彼女は動じる事なく、それと見詰めあう。
「私は絶対に先輩の傍からいなくなりません。離れません。寂しくさせません。マシュ・キリエライトはここにいます」
「マシュ……?」
自分を代替品として使ってもいい、慰めの道具として使ってもいい。マシュの心にあったのはこの人を絶対に独りにしないという決意。マシュは堅硬な城の如く、マスターの体を抱き締めた。
その瞬間、彼女の精神性がある方向に成長した。滅菌室で人生の大半を過ごした彼女にとってそれは余りにも早過ぎたとも言える。
「大丈夫です先輩。弱音を吐いて下さい、私に頼って下さい、私は先輩の自慢のサーヴァントですから……ほら、ぎゅっと抱き締めて」
母性すら感じるマシュの言葉に促されて、恐る恐るとゆっくりとした手付きでマスターはマシュの背に手を回した。冬木でシャドウサーヴァントを殴り飛ばしたとは思えない程に弱々しい手付きで。マシュは先輩の頭を抱え、より一層決意を強固にする。この人は絶対に私が守ると。
「マシュは、ここにいる?」
「はい……いますよ先輩」
「マシュ……」
「はい、先輩」
「マシュ、マシュ、マシュ、マシュ、マシュ、マシュ、マシュ」
「先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、先輩」
抱き締め合ったまま、二人でベッドの上に寝転がり、所在を確かめ合うように呼びかけ合う。その輪郭すらも確認するようにマスターの手が服の上からマシュの体を這いずり回っていた。マシュもそんな先輩の動きに応えるように腕から背中そして頭と、手の届く範囲で体を擦る。
「よかった……マシュはここにいる……いなくなってない……ちゃんと俺の手の届く所に……いなくならない、いなくならない、いなくならない、いなくならない」
「んぅ……はぁ……」
強く強く、苦しいくらいに抱き締められる。それはまだ彼が不安に思っているからだろう。それと同時にマシュはどこかで嬉しくなっていた。先輩の大事な物の中に自分が入ってる事に。
だが、それでも彼の声には未だ不安の色が付いている。マシュは考える。どうすればこの人の不安を取り除く事が出来るだろう。
言葉ではいくらでも慰めの言葉を吐く事が出来る。だが、それはマスターの心を安心させるにはとても軽く、足りない。自分はここにいると彼の体に刻み込みたくなった。
狭い世界の中で読み漁った本の知識をフル動員して、どうすればいいか思考を巡らせる。
どうすれば証明出来る。私はあなたを守りますと。私はいなくなりませんと。どうすれば、伝える事が出来る――?
言葉を超えたスキンシップ――。情を交わした男女達が行き着く最上級のコミュニケーションツール――。
そこで彼女はふと気付く、下腹部に当たる硬い感触に。人理焼却という生命の危機と女の体に興奮した生理現象。
(言葉だけじゃない……先輩に温もりを与える深い繋がりを――)
服の上から程度では足りない。もっと濃密な交わりを――。原初の交わりを――。
「ちょっと、待っててくださいね……先輩――」
決意を固めた盾の乙女は静かにパーカーのチャックを下していった。
ベッドの上で生まれたままの姿で一組の男女が絡み合っていた。
特に性行為を行っているわけでもない。手足を絡ませて、服を着ていた時よりも生々しく抱き締め合っているだけ。未経験の男女が手足を擦り合わせて、互いの肌を感じ合っているのはとても淫靡な光景だった。
「はぁ、はぁ、はぁ…………」
眼鏡をかけたまま悶えるマシュは知識としては性行為についても知っていた。生殖行為としての意味以外にも、好き合った二人が、想いを通じ合った二人が、愛を確かめ合う神聖な儀式。デザインベビーとして設計された自分には雲の上のような話だと想っていたが、まさかこの人間らしい先輩を、自分からそういった行為に誘う事になるなんて想像もしていなかった。
(人生……何があるかわからないものですね)
衣服は自分で脱いだ。心ここにあらずだったマスターはマシュが脱がせた。抵抗する事の無い彼にどこか罪悪感を抱きながら、下半身を脱がせるのにとても手間取り、隠された陰茎を見た時、気絶しかけたハプニングを乗り越え、ここまでやってきた。
「……凄く、柔らかいマシュの体……」
「んっ、ふぅ……変じゃ、ありませんか?私の体……」
「ううん、とても安心する……」
暗闇に独りいた先輩を放っておけない一心でここまで来てしまったが、ふとマシュは自分がとんでもない事をしているのではと自覚する。傷心中の男子を慰めるという体の良い名目で裸にひん剥き、性的行為に及ぼうとしている自分はもしかしなくても、しかるべき機関にしょっぴかれても仕方ない犯罪者なのでは?と。
「……ありがとう、マシュ」
「あ――」
それでも自身の乳房に包まれる先輩の顔はこの部屋に入った時よりは確実に穏やかな物になっていて、自分の決断は間違いでは無かったとマシュに教えてくれる。
「あっ、んぅ……ふぅ……」
もぞもぞと動くマスターの動きに思わず艶めかしい声が漏れてしまうマシュ。恥ずかしい感情はあったが、後悔は微塵も無かった。先輩に女性としての体を見られて、そういった行為に及ぼうとしている事にも嫌悪感は無い。
(胸部の動悸が収まりません……。先輩に触られている部分が痺れて、熱く――)
「んっ、あっ……ふふ、くすぐったいですよ、先輩……」
親しみを表す猫の如く、頬を擦りつけ合う二人の表情は微笑ましいものであったが、いかんせん首から下の格好が格好なのでやはり官能的という感想が相応しい。
「マシュ、マシュ……」
(……何でしょうこの気持ちは?只、素肌を触れ合っているだけなのに頬がにやけてしまう。先輩の切ない声を聞く度に下腹部が疼いてしまう。胸は異常と言えるぐらいに高鳴っているのにそれがちっとも嫌じゃない。情事とはここまで心地良いものなのですか……?それとも――)
マスターと目が合う。息がかかるぐらいの至近距離。その瞳にはいつもの大空のような蒼の色彩が宿っていた。
瞳も睫毛も唇も吐息も鼻も耳も髪も輪郭も彼を構成する全てが愛おしい。
(あぁ、先輩としているから気持ちいいんだ――。会ってまだ間もないのに、我ながら尻が軽いかもしれませんが……。きっとあの時から、私の手を握ってくれたあの時から、この人に惹かれていたのかもしれません)
故にマシュは自身の好意の証明として、自ら顔を近付け、そのまま唇を合わせる。
「んっ、ふぅっ……んんっ!」
勢いが少々強い緊張で震えた唇を押し付ける不格好なキス。だけど、マシュにとってそれは一生忘れられない思い出になった。
「ファーストキスは柑橘系の味がするといいますが、これは――」
「どんな味がした……?」
「ん、先輩の味です」
「何か今のエッチかった」
唇を離して、お互いに笑い合う。初経験の男女としてはおおよそ理想的な初々しいやり取り。だが、マスターの体は無意識に更なる繋がりを求める。
「きゃっ……!先輩――……」
「もっと、もっと、もっと、もっと、たくさん――……マシュを感じたい。駄目かな?」
「駄目なんて事はありません。大丈夫、大丈夫ですよ先輩……私も初めてですから……もっと二人で肌を重ね合いましょう……たくさん、色んな事を勉強しましょう」
男性は何故、そこまで乳房に夢中になるのでしょうか?胸部についた二つの脂肪。男性には無い物だから焦がれる?あるいは幼き日の母性を求めているのかもしれません。
今までせいぜい、入浴か着衣あるいは保健体育系の本を読んだ時に興味本位に触ったぐらい、その時は特に何も感じる事はなく……。
「んぅっ、あぁっ……せ、んぱいぃ……」
あぁ、けどまさか好意を抱いている人に触られるとここまで違うとは本当に人体とは不思議です。
私の胸部の膨らみを揉み込む先輩の指の動きに注視してしまう。
慈しむように、そして自身の欲望を発散す獣の荒々しさが混在する手付き。
「凄いね、ちょっと揉んだだけで女の子の体ってこうなっちゃうんだ」
「そ、れはっ……先輩だ、からぁっ……」
心拍数急上昇。体温急上昇。
私の乳房が……自分じゃない人の手であんなに歪んで、凄い、凄い先輩の手……凄い――。
乳頭もこんなに膨らんで、まるで男性の性器みたく……。これは私が先輩の愛撫に性的興奮を覚えているからでしょうか……?
え、え、先輩唇を近付けて……一体、な、にを――。
「ちゅむぅぅっ」
「んひやぁぃぃっっ!!」
あ、あ、これは、これは何ですかっ……?胸の先端を咥えられただけなのに、刺激が……頭の中を何度もスパークして思わず天井を仰いでしまいます。
充血した乳首は未だ先輩の口に隠れたまま、赤子のように吸い付いていますが、そのねぶり方はとてもじゃないですが、授乳目的ではありません。
「んぅっぅ!あっ、あぁっ!まって、待ってくだひゃい!せんぱぁい……おっぱい、くるっちゃいましゅぅ……」
そう言いながらも私の腕は先輩の頭をガッチリとホールドしていました。
乳房の先端を舌先で何度も転がされて、乳輪を舐められ、焦らされて、そしてまた胸が取れてしまうと錯覚する程の吸引。
「あっ、あっ、ああああぁっ!」
先輩の乳房に対する並々ならぬ執着心というべきでしょうか。両手で搾るように揉まれ、左、右と交互に乳首を唾液で汚していく。こんな快楽、カルデアのデータベースには乗っていませんでした……。ですが、伊達にシールダークラスのサーヴァントではありません!ここで気を簡単にやってしまうようでは先輩の頼りになるサーヴァントを名乗る事は出来ません。ステータスアップ!さぁ、先輩……!どんと来てください……!
「ひゃああああぁっ!!無理、むりですぅ……!あ、あぁっ!それ、だめぇぇっ、しぇんぱいぃ、しぇんぱいぃっ!歯でコリコリしたらぁぁっ、らめれすぅぅっ!んあああぁっ!!」
駄目でした。先輩相手には耐久度バーサーカー並になってしまうへなちょこサーヴァントでした。防御デバフも五重ぐらいかかってると思います。
股から得たいの知れない水音がしているとか、初めての性的絶頂を感慨深く思う余裕も無く私は数十分先輩に乳房を愛撫され続けました。
むしろ気持ち良過ぎて、フィットし過ぎて先輩の手と口が私のブラジャーなのでは?と頭によぎってしまうほど。
「やばい、今のマシュすんごく可愛い。もっともっと見たいな」
ようやく解放されて、その手が下へと伸びていく先輩の顔を見て、私は先輩の何かとてつもない物の目を覚まさせてしまったような……そんな気がしたのです。
◇爆発テロ後マシュと 出会わない→――の獣ルート
出会う
↓
◇所長がカルデアスに 飲み込まれない→――の獣ルート
飲み込まこまれる
↓
◇冬木から帰ってきた後マシュとセックス しない→――の獣ルート
する
↓
◇冠位時間神殿ソロモンにて、ロマニが消滅 する→『親愛』の獣ルート
しない
↓
???
「初めての相手は所長ではないっ! このマシュだッ!」
後編に続く。