北欧編、そのイントロです。本格的な攻略は次回から。
それにしても第2部 1章から1年以上経ってるんですが、これ3章は2020年更新ゾ。まだ本家の第2部続いてるかなー?
《ロシア異聞帯の空想樹オロチ切除から1週間後、ギリシャ異聞帯にて──》
「お──、お──、あんだけ派手に破壊されたのにもう元通りか。やっぱキリシュタリアの所の異聞帯は自力が違ぇな。それとも全知全能の神様の力か?」
髪をオールバックにあげ、眼鏡姿のインテリヤクザのような男が軽口を叩きながら立体映像姿で現れる。他にも同様に、映像が巨大なラウンド型のテーブルを囲むように4つ並んでいた。
かつてクリプター7人が集まり、暗黒円卓会議の場となっていたギリシャ異聞帯の神殿の一角にある大広間。人類最後のマスター……親愛の獣を名乗る人類悪ビースト0/デアーによって挨拶代わりに粉々にされた建造物だったが、こうして再び会議の場を設けれるように再建築されていた。
7人のクリプター。その内の
その意味を察しているのか場の空気は些か重い。敢えてその空気を無視している男、ベリル・ガットは飄々と口を開き続ける。
「カドック、オフェリアは欠席か? 俺達の中では真面目ちゃんな二人が珍しいなオイ」
「ロシア異聞帯はこの世界から消滅した。生死を含めて、カドックの消息は不明だ」
その空気にトドメを刺すようにクリプターのリーダーとして、キリシュタリアが決定的な一言を告げた。
詳細をある程度は把握している異星の神の使徒とクリプターの一人を除いたメンバーがピキリと固まった。ロシア異聞帯の消滅、即ち空想樹がカルデア勢力によって切除された事を。
「あーあー、そっか──死んじまったか──カドックのやつ。畜生、悲しくてこれから朝飯も喉を通ら無さそうだな。こりゃあ兄貴分として敵討ちしなきゃいけねぇよな? 俺達はある意味あのビースト0とか名乗るやっこさんに挑む立場だろ、んだよ結構熱血展開じゃねぇか、笑えるぜ」
「待ちなさいな。キリシュタリアは生死不明と言ったのよ。コヤンスカヤちゃんアナタ、ロシア異聞帯に最後までいたのでしょ?」
ふざけているのか本気の口調なのかわからないベリルの発言を遮るように長身の男、インド異聞帯を担当するスカンジナビア・ペペロンチーノが異星の神の使徒を名乗るアルターエゴの一人、桃色の髪に防寒性が優れた軍服を身に纏った眼鏡姿の美女へと問いを投げかける。
自由に異聞帯を行き来出来る術を持つ彼女、コヤンスカヤなら必ずロシア異聞帯の結末を知っている筈だと確信していた。
「う──ん、多分。期待しているような答えは得られないと思いますよ?」
困ったような笑みを浮かべる彼女が指を鳴らせば、NFFサービスの機材で撮影でもしたものなのかある映像を円卓の中心に浮かび上がらせた。
山すら越える巨大なマンモスのような山岳型魔獣となって目覚めたイヴァン雷帝。神霊サーヴァントにも匹敵する異聞帯の王をカルデア側のサーヴァントかあるいは宝具なのか白色の巨大ゴーレムが歯牙にもかけず、拳で撃ち抜いた──サーヴァント同士のスケールを遥かに上回るさながら怪獣映画を現実に再現したかのような戦闘が映し出されていた。
音声が入ってない事だけは唯一の救いか。まさか異聞帯の王を打倒したゴーレムのエネルギー源がその中でスピーカー越しにあんあん♡嬌声をロシア中に響かせているセックスだとは、ましてやこのゴーレムの素体がチェイテ城とピラミッドと姫路城が重なった『チェイテピラミッド姫路城』+アナスタシアの宝具でもある要塞『
その後は自ら自壊したのか不明だが、真っ二つになった巨大ゴーレムと同時に伐採された空想樹。後の結末はクリプターなら想像通りだろう。空想樹が切除された異聞帯に待つのはテクスチャの修正による消滅。
だが本来なら
デアーと名乗る青年の周囲から夥しい数で伸び続け、ロシアの大地を突き刺す白色の触手。そして吹雪で荒れ狂う空に浮かんだ深淵なる巨大な穴……文字通り一つの世界に終焉をもたらしたその光景をコヤンスカヤが目にしているかどうかは彼女のみぞ知る。
「オイオイ、一番肝心な所が映ってねぇじゃねぇか。結局この後、ロシアはどうなったんだ?」
「あれ以上あそこにいるのはマズいと乙女の勘が告げていたのでスタコラサッサとロシアからおさらばさせて頂きましたよ。後はご報告の通り、ロシア異聞帯を囲んでいた嵐の壁は消え、残ったのは漂白されたまっさらな地表。クリプターvsビースト0の記念すべき第一戦はこちらの敗北というわけですね♪ どんどんパフパフ~~」
カルデアひいてはデアーと名乗るビーストの力の一端を見る事が出来た貴重な映像ではあったが、カドックがその後どうなったのか答えを得られるものでは無かった。
異聞帯の王に対する容赦ない一撃。そしてかつて堂々と少女を連れて、ギリシャ異聞帯にも侵攻してきた好戦的とも言える性格……そこを考慮すれば捕虜としているのも怪しい。下手をすれば、この異星の神の使徒を名乗るアルターエゴがデアー側にクリプターの情報を漏らしている疑惑もあるのだから、生かされる必要も無い可能性もある。だがそれを今、ここで追求する者はいない。現状で利の無い仲違いをする程愚かではないのだ。
確定的な映像は無かったものの、カドックの安否はもはや絶望的だろうという意見でこの場はほぼ一致していた。
「デイビッド……先程から黙ったままだが、君の意見を聞きたい」
ここまでまだ一言も口を開いていないクリプター。底が計り知れないというよりは底そのものが存在しないような雰囲気を感じさせる男……デイビット・ゼム・ヴォイドはどこに目線を向けているのか不明な表情で答えた。
「アルターエゴ達もカドック及びにそのサーヴァントの残滓すら追えなかったのだろう? ならば、そういう事だ。カドックもロシア異聞帯も
「……そうか」
目を瞑り、小さく息を吐くキリシュタリア。異星の神に世界を終わらせる程の痛みと引き換えに他のクリプターの生存を願った、彼等にはそれだけの期待を懸けていた。それを悼んでいるのだろうか。
「そー、そー、俺達はあのデアーとかいう奴が苦労して救った汎人類史を滅茶苦茶にした下手人だぜ? 情けをかけられるワケねぇだろ。だからこそオフェリアも怖くなって愛しのキリシュタリア様をほったらかしにして逃げちまったんだろ? いやいや魔眼持ちってのは苦労するよなぁ、一体何を見ちまったのか……」
オフェリアが担当する北欧異聞帯が消失したという報告は上がっていない。あそこの空想樹は依然として育成中だ。だが、ビースト0/デアーである彼がかつてこの場に現れてからオフェリアは定例会議の場に姿を見せないばかりか、クリプター同士の通信も一切を拒絶している。それは醜態を見せてしまった自分が会わせる顔が無いと思っているのか、あるいは話せる精神状態ではないのか。
そんな彼女を揶揄するような発言をしたベリルに芥ヒナコから無言の批難が刺さる。
「こりゃあ珍しいもんが見れたな、ヒナコの鉄仮面が崩れるなんてよ、お前とオフェリア、そんなに仲良かったか? つーか、異聞帯に引き籠もるつもりじゃなかったのかお前さん、そんなにこの人類悪が気になるか?」
すぐにいつものポーカーフェイスに戻った芥ヒナコはベリルの問いには答えない。基本的にクリプター同士の地球の覇権争いも一切興味が無く、たとえ待つ未来が消滅だったとしても自身が担当する異聞帯に最後までいたいだけという不可解なスタンスである彼女。恐らく、前回この場に顕現した……中国異聞帯の王以外で珍しく彼女が感情を露にしたビースト0/デアーの議題でなければ、今回この場にいなかっただろう。
「……まぁ、俺もオフェリアの事は心配してんだよ、早くここにいつもと変わらない顔を見せて欲しいなってな」
「魔眼を持つ者の世界はその本人でしか理解出来ない患苦だろう。それに原則、クリプターが受け持つ異聞帯への個人的な干渉は禁止だ。彼女が通信を拒んでいる以上、今の私達に出来る事は無い」
今、この中で会議に出てこない彼女を糾弾する者はいない(ベリルの内心は不明だが)。
宝石クラスの魔眼……対象の可能性も視認してしまうその眼で一体、彼女が何を見てしまったのか憶測ですら話せない以上、彼女に対する話題を重ねる必要も心配も不要であるとキリシュタリアは会議を締めにかかる。
「子供ではないのだ。一人一人、それぞれが異聞帯という領地を持つ王とも言える。私は信じているとも、オフェリアは必ず立ち上がれると。それに──
「アナタの所のサーヴァントはまたお得意の予言はしてくれないのかしら?」
「真っ白で何も見えない──とだけだ。今、この星で行われているのは異聞帯の王を決める競争では無い。
純白の外套を翻し、会議の広間を後にしたキリシュタリア。どうやらカイニスがデアーの事を殺しに行くと言ってきかないようだ。単身で挑むのは自殺行為だとキリシュタリアはマスターとして抑えているようだが……何にせよ、不測の事態で忙殺されているのはどこの異聞帯も同じのようだ。
肩をすくめたベリルに、「最悪、本当に最悪よ……」と呟くヒナコが後を追うように立体映像を切っていく。
「皆様方、忙しそうですね~~。カルデアとか余裕余裕と思ってた所にあんなのが出て来たのだから仕方の無い事ですが、せめての救いは
意味深な言葉と笑みを浮かべてコヤンスカヤもやがて消えていった。
最後に残ったのはペペロンチーノとデイビッド。
「ねぇ、デイビッド、アナタ。いえ、アナタとキリシュタリア……実は
ペペロンチーノが指しているあの子とは当然、目下敵対しているカルデア側の唯一のマスターの事だ。
「…………一番最初に本人が語った通りだ。ビースト0──ナンバリングすらされていない番外の人類悪。今の奴はそれ以上でもそれ以下でも無い。デアーと名乗った奴の
「ふぅん、まぁ……確かにね、枠外の存在の生い立ちがわかった所で人間に何が出来るかって言われてしまえばそれまで何でしょうけど。いやホントずるいわよね──、あっちはその気になれば私達の異聞帯のどこにでも出現おーけーってワケでしょう? しかも、異聞帯の王クラスの戦闘力だしぃ、どう足掻いても後手に回っちゃうじゃない──」
コヤンスカヤからの情報だけでクリプター達と勝手に縁を繋いだ彼は『単独顕現』の類似スキル『単独降臨』で彼等のいる異聞帯へ易々と顔を出せるだろう。
諦観の念を感じさせる言葉だが、表情には暗さの欠片も無く……自己主張の激しい面貌でそう嘯いているスカンジナビア・ペペロンチーノ。彼はそういう男である。どんな苛酷な運命が訪れてもそれはそれで仕方ないと激昂する事なく受け入れる人物。今の状況に関しても比較的、落ち着いている部類だ。
「次に奴らが浮上するなら、北欧か中国のどちらかだ。……8:2で北欧といった所か」
「断言するじゃない。その心は」
「奴は言った『慢心込みで魔神王ロールプレイ』だと。その気になれば、最初の時点でキリシュタリアを始末出来たにも関わらず、ご丁寧にロシア異聞帯から攻めた。デアーと名乗ったあれの中には譲れない過程や順序があるのだろう。陳腐な言い方をすれば自分ルールというやつか……? ならばこれから攻略する順序も与しやすいとされる異聞帯から攻めてくれるだろう。正直な所、ロシア異聞帯の王は一番真っ当な部類だ」
「中国と比べれば、神代が未だ続いている北欧の方が厄介極まりないと思うけど、あそこの女王様は色んな意味で恐ろしいわよ?」
「
──場所は変わって、話題に挙がった北欧異聞帯。神々の花嫁たる純正の女神が治める旧オスロにそびえ立つ氷の城。その一室。クリプターの一人、オフェリアのプライベートルーム。
「オーフェリアちゃん──、学校に行きましょう──ウチのクラスに不登校児がいるなんて先生悲しいですよ、ヨヨヨ」
「…………」
「おやおや、いつの間にやら復帰してますね? この間なんてシーツに包まってガクガク震えて引き籠っていたのにどういう心境の変化です?」
勝手知ったる他人の家、部屋の主に許可も得ずに侵入したコヤンスカヤを出迎えたのは二足でしっかりと立っているオフェリアの絶対零度の視線だった。
ビースト0/デアーの初接触からは嫌がらせがてらこの異聞帯に不法侵入しても碌に会話にならなかった娘が知らぬ間に立ち直っている。
「い~~え、怯えは完全に消えてませんね。それを誤魔化し、隠してでも立ち上がらなければならない何かを見つけたのか……。嫌ですね~~、人間らしく健気でいじらしく実に虫唾が走るゾ☆」
「教えなさいコヤンスカヤ……あの怪物について知っている事全てを」
「怪物ときましたか……。一体、アナタがその眼で何を見たのか実に気になる所ですが……まぁ、いいでしょう。お部屋への入室代金として支払ってあげますとも、お友達価格です♪」
オフェリア・ファムルソローネが心底苦手意識を持っているこの女狐を叩き出す事をしなかったのは現状、彼女が知る中で最もカルデア側のマスターの情報を握っているのが胡散臭さの擬狐化でもあるこの女だと確信していたから。
己の中にある未知への恐怖を少しでも減らす為、自分が見てしまった男と共にいる
「本名……■■ ■■、出身は日本。母子家庭みたいですよ? …………え、そんな事はどうでもいい? はいはい、前置きはここまでにして、本題に入りますよ────」
彼女は語る。オフェリアが通信が切った後の顛末を。
彼は自身を人類悪。親愛の獣。ビースト0/デアーと名乗った。降霊科に所属している彼女も噂レベルでしか聞いた事が無い。
災害の獣。自業自得の自滅機構。人類史の癌そのもの。自称とはいえ、もしそのビーストに匹敵するというのなら間違いなく並のサーヴァントでは太刀打ち出来ない。グランドクラスの戦力が必要になる。
ふと、オフェリアは大人しく霊体化させている魔剣遣いの英雄シグルド……厳密に言えばその中に潜んでいるナニかに視線を向けたが、頭の隅に浮かんだ考えを消し去るようにかぶりを振った。
「あなたとしてはどうなのですかコヤンスカヤ……その力の一端を見せたデアーの力は」
「ふぅん、相性は悪いですね──。私も正直現状ではまともに戦いたいと思いませんし……それにまだ全然本気じゃなかったというか意図的に力を隠してたって感じはしますけどね、名乗りを上げたあの瞬間ですら、まだいい所50%ぐらいみたいな感じでしたしぃ? 変身をあと2回もオレは残している……その意味がわかるな? みたいな印象を受けましたけど」
「真面目に答えなさい。はぁ……どうして、そんなのが一般枠でカルデアのマスターとして入り込んだの…………あれは一体カルデアでどのように振る舞っているのかしら……」
「そらもう、当然
親指と中指で輪っかを作り、その中心を別の指でシュッシュッとジェスチャーするがオフェリアは分かっていないらしくクエスチョンマークを浮かべて首を傾げるばかり。
「力を持った勇猛な雄が命が掛かった状況かつ閉鎖的なコミュニティで雌とどうなるか、それは有史誕生以来証明され続けてますよねぇ? えぇ、シンプルに言えばセックスです」
「セッ……!?」
ようやくコヤンスカヤの言っている事を理解したオフェリアは沸騰したかのように顔を紅潮させた。
キリシュタリアに淡い想いを抱いてはいるが碌に恋愛経験は無い。処女たる現代の戦乙女の反応にコヤンスカヤは愉しそうにレクチャーを続ける。
「えぇ、性交、交尾、房事、睦ごと、セッ……です。まぁ、ある意味健全なのでは? 人間も含めて生物とは生命の危機となれば種を残さんと積極的にセッ……する生き物ですし。というかお子ちゃまじゃないんですから、セッ……ぐらいでそんな取り乱さないで下さいよ」
「取り乱してません! あと真似しないで!」
「我がNFFサービスの確かな取材によれば彼は約100騎にも及ぶ女性サーヴァントと肉体関係を持っているでしょう」
「ひゃきゅっ!?」
約100騎(但し全てが女性とは限らない)。
「その性豪っぷりはケルトの戦士ですら苦笑いするレベルで、王、神霊、未亡人、人妻、母、姉、妹、JK、JC、幼女、男の娘、元男、ロボット、鬼種、チョコ、本、etc……俺のストライクゾーンはコート全てだと言わんばかり。男根はアーサー王の聖槍ロンゴミニアドに匹敵すると恐れられ、本気を出せば男根の数は八本ぐらいは増やせるらしく、一回の射精で10ガロンの精液は余裕であり、異星の神によって人理が漂白されてなかったら彼の精液によって地球が白濁に染まり、マントルが孕んでいただろうと危険視され、興奮状態の彼とエンカウントしようものなら廊下だろうと食堂だろうとトイレだろうと満足するまで肉便器にされ、犯された者は皆あまりの快楽にアヘ顔ダブルピースで座に召され、間髪入れずに英霊召喚の魔法陣となった逸物から呼び戻され、イキ殺しの輪廻を繰り返すという鬼畜の所業を行い、一度犯された者が彼の半径10m以内に近付いてしまえば、股を開き、白目を剥き、滝のような潮を吹きながら、甲高い声でイキ狂うらしく、『真の英雄は眼で孕ませる』との事で彼の眼光に睨まれた者は英霊だろうと3秒以内には妊娠し、3分後には出産し、30分後には温かい家庭を築き、座に帰る事すら許されず第二の人生を生きる事を強要される事から『ゲットファッカーズ──座からの寝取屋』という異名がついてるとか」
コヤンスカヤの今の悪ふざけの中でも全てが嘘と言えないあたり、末恐ろしい話なのだが……当然、交際経験値は糞雑魚レベル。「大人の男女関係……? 知ってます。キスをする時に舌をんべぇって出すのでしょう(ドヤァ」ぐらいがいい所のオフェリアが今のコヤンスカヤの話を半分も理解は出来ていなかったがビースト0/デアーが女性関係に非常にだらしないという事だけは言葉ではなく心で理解出来た。
そしてオフェリアが最も懸念している事項は、確認したい所はそこにある。
「マシュは……」
世界を知識としてか知らなかった儚げな女の子。カルデアという狭い箱庭の中でAチームの備品、人理修復の為の消耗品として育てられてきた純粋無垢たる少女。オフェリアが何度も友達になろうとして、その一歩を踏み出せなかった相手……マシュ・キリエライト。
「マシュはどうなってるの、無事なの……?」
縋りつくようなオフェリアの問いにコヤンスカヤは北欧の雪よりも冷たい答えを授けてあげた。
「無事なワケないじゃないでしょう。あんな純粋培養で育った女の子なんて速攻、襲われるに決まってるじゃないですか」
「──」
「私もロシアで見ましたけど、えぇ、アレは実に……この私ですら目を瞑ってしまう惨い有り様でした。目元には拘束具のような器具が装着され……もしかすれば無理矢理前線に立たされていたのかもしれません。ロシア異聞帯の王、イヴァン雷帝から放たれた対軍宝具クラスの雷撃をそのか細い腕と盾で何度も何度も悶え苦しみながら耐え抜く様は涙無しでは語れませんでした」
コヤンスカヤが大根役者ぶりを遺憾なく発揮して泣き真似しながら、投影した映像にオフェリアは心臓が掴まれた感覚に陥った。
「…………そ、ん……な──」
争いとは無縁という印象しか無かった──戦場なんて似つかわしくない女の子が物々しい機械、戦う為の装備を身に纏い、盾を構えて全身を何度もビクビクと不自然に痙攣させ、頬を染めながら苦し気に口を開いては息を漏らしている様子が映っていた。音声は入ってないが、聞かなくてもわかる。きっと苦悶の声をあげているだろうとオフェリアはまるで自分の痛みかのように胸元を握り締めた。バイザーで隠れた苦痛に歪む彼女の眼を想像するだけで倒れてしまいそうになる。
「ふふ、悲劇のヒロインに酔っている所結構ですが、きっと貴女方Aチームと人理修復をしても彼女の運命は大して変わらなかったのでは? 英霊召喚としての礼装代わり、それがマシュ・キリエライトという少女に対してのクリプターの認識ではなくて?」
弄び、弱っている犬に蹴りを入れる事に一切の躊躇の無い事に定評があるコヤンスカの言葉の刃はオフェリアに良く刺さる。
(あぁ、マシュ……あなたもずっと囚われてしまってるのね……)
オフェリアは重ね合わせてしまった。日曜日という牢獄から逃げられず、とても自らの手で御し切れるとは思えない終末の巨人と契約を交わしてしまった自分と。
どこにも行けず、人理修復の消耗品として生まれ、番外の人類悪の元で縛られてしまったマシュ・キリエライトを。
(申し訳ございません……キリシュタリア様、まだそちらへは顔を出せないかもしれません……いえ、逃げた私にはその資格すら無いのでしょうけど……)
本当は自分が一番救ってもらいたいのに、誰かに手を差し伸べて欲しいのに。
こんな弱くて臆病な女が今更、一体誰を助けるというのか自嘲染みた感情もあった……だが見てしまった以上、知ってしまった以上、最初の頃のように殻に閉じこもるのはもう止めると……彼女はたった一歩だが今までの人生で一番大きな一歩を踏み出した。
空想樹を育てる。マシュも助ける。両方しなきゃいけないのがクリプターの辛い所。
「覚悟は……出来てるわ」
「おや、どちらへ?」
「私に求婚してきたあの
「オフェリア」
彼女が席を立とうとした瞬間に霊体化を解き、現れたのは紅蓮の瞳をした仮面姿の剣士。
オフェリアのサーヴァント、セイバー:『シグルド』を名乗るそれが現れだけで室内の圧力が何倍にも膨れ上がった。
「ここで大人しくしていなさいセイバー、あなたがいると碌に交渉も出来ないわ」
「俺はお前の剣なのだがな」
「なら、主である私の言う事を聞きなさい」
冷たく会話を打ち切り、部屋を出ていくオフェリア。セイバーと呼ばれた仮面の騎士は主の言いつけ通り、それを黙って見送っていた。
「何を企んでいる女狐」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいな。臆病な女の子の背中をちょこっと押してあげただけですよ? それでもたかだかサーヴァントが一騎、二騎増えた程度で戦況は変わりませんが……」
オフェリアが不在となった部屋で二人っきり、万象を焼き尽くす色をした瞳に射抜かれたコヤンスカヤはあっけらかんと答える。
異聞帯の要の一つでもあるクリプターがあぁも怯えてしまっていたら、ロシア以上にあっさりと空想樹が切除されてしまう。結果はどうあれ、せめて戦う意志ぐらいは見せてもらわないと異星の神の使徒としてここに顔を出した甲斐が無くなってしまう。
(縮こまってしまったオフェリアさんが異聞帯ごとなす術無く蹂躙され、犯され、あの獣の慰み者になるという展開もそれはそれで私好みではありますが……どうせならもう少し過程を愉しみたい所ですもの。親しい隣人も頼れる相棒もおらず、見当違いの義憤に駆られて勝ち目の無い戦へ必死に抗う
「切羽詰まったオフェリアさんがさっさとアナタの鎧を剥がして
「フン……人という脆弱な身で健気に俺を縛り付けようとしている。ククク、面白い女だ。俺に驚きと未知を与えた礼は返さなくてはならない。未だ誰も目にした事がない光景を……俺を見出したあの眼に捧げてやろう」
「アッハイ、ソウデスネ(うわぁ……硫黄臭というか童貞臭が凄いですね。今日日、『面白い女』だなんて少女漫画の俺様系ぐらいしか言わないわよね……。絶望的に噛み合ってない主従というか、さすがの私もオフェリアさんにはちょっと同情します。ストーカーに刃物とか一番アレな組み合わせじゃないですか──やだ──)」
『先輩、バニーですよバニー!』
さて、そんな渦中の
『つまりうさぎさんです! 常に排卵かつ発情しているアニマルなら命中率も100%とも言えますよ! 先輩はバニースーツはお嫌いでしょうか?』
「ふっ、まさか。マシュのバニーガール姿を想像しただけで俺は君の子宮にジャックポットをキめれるよ……」
『先輩♡』
「マシュ♡」
「おい、いい加減。その知性が下がりそうな会話を打ち切って欲しいんだが」
青筋を浮かべている青年カドックはスマホに映ったお互いの顔にキスをしながら自分達だけの世界を繰り広げているバカップル共からのストレスで胃がどうにかなりそうだった。未だ皇女様とは冷戦中の自分に対する当て付けか。しかもその理由がソシャゲからだというのがくだらなくて頭が痛い。「仕方ないじゃないか、全体キャスターだけでは3章のトロイアの英雄に勝てないのだから、そりゃあ確かにジャパンのあの女侍のロックぶりに惹かれなかったとは言えば嘘になるが……」と弁明したら普通に体半分凍らされたらしい。
偶々、通りかかった殺戮猟兵達にその氷像をSNSに投稿されてから救助されたようだが。
そんなカドック君の気分転換させる為に遊びに来た親しき隣人ビーストデアー君。
イライラしているカドックもついぞさっきまでは殺戮猟兵代表、兄者氏&ヤガ代表、パツシィ氏を交えて『朝までナマテレビ!』と題して【「あ」で始まる心ときめく女の子仕草は?】等、長時間に渡る議論を行っていたそうな。
ちなみにカドック──「アナスタシアが頬を染めながら屋外で手をあてて白い息を吐く姿」(個人名を指してるので失格)
ヤガ代表パツシィ氏──「あくびがばれて慌てて口元を隠す仕草」(食料を報酬に誘ったらあっさりと参加してくれた)
殺戮猟兵代表兄者氏──「雨に打たれてYシャツから透けてしまった下着を隠し、『見た……?』と顔を赤らめてこちらを伺う仕草」
ビースト0/デア──―「雨に濡れて、短パンだから恥ずかしくないとばかりに豪快にスカートを雑巾しぼりする姿」
誰が優勝したかはご想像にお任せしよう。
男だらけの白熱性癖議論が終わり、解散した後……現状まだ独り身には辛い図を提供してしまった事に反省したマスターはマシュとの通話もそこそこに打ち切り、今回、ロシアにやってきた要件、自分達がこれから北欧へ向かう旨をカドックに伝えた。
「はっ、真面目な事だ。こっちはお前に完膚なきまで叩きのめされた敗北者だ。今更、それを言われた事でどうしようもないさ。それに今はこのロシアをまともな国として運営させる為に大忙しなんでね…………いやホントに僕は一体さっきまで何をしてたんだ?」
「息抜きって大事よカドック君。よく学び、よく遊ばないと。人生楽しんだもん勝ちなんだから」
正直、いきなり訪問された時は北欧異聞帯あるいは同じクリプターとしてオフェリアの情報でも尋問しにきたのかと気を揉んだが、結局しょうもない遊びで数時間付き合わされただけだったか……とカドックは溜息を吐くが彼も最終的には「雪国系女の子の白い肌と紅潮のコントラストにときめかねぇとかお前等人間じゃねぇ!」とガチだったが。ちなみにこの会議の映像は全て別室にいるアナスタシアさんにリアルタイムでお届けしています。仲直りの時はそう遠くない。
「…………なぁ、お前どうして僕に何も聞かないんだ? クリプターの事とか、異星の神とか、他の異聞帯とか山ほど知りたい事があるんじゃないのか?」
ロシア異聞帯ごと、星を──世界を──移して、存続させたのは開いた口がまさに塞がらないといった所だったが結局その後カルデア側からのアクションといえば、マスターとマシュが雑談混じりに遊びに来るか汎人類史のアナスタシアがこちらのアナスタシアを通してちょっかいをかけるぐらいだった。
「え──、カドック君何も知らなさそうだし尋問しても意味が無いかなって」
「ぐっ……」
「冗談冗談。異星の神から強奪した君達をどうこうしようという気は俺に一切無いし、その必要性も感じてないからね」
「ふっ、もうお前に対しては嫌味にすら感じないな。この人理漂白、異星の神について全て知っていたとしても驚きはしないよ」
「まっさか──。何でもは知らないよ、知ってる事だけ。ネタバレいくないって俺のお母さんも良く言ってたし」
かつてクリプター全員への堂々たる宣戦布告。数百の殺戮猟兵も屠り、化け物だった雷帝すらもあっけなく破る怪物ぶりを見せ付け、最後はこのロシア異聞帯という
「未来が見れたら、救えた命もあったかもしれない。助けられた命もあったかもしれない。それでもだ……あぁ、それでもなんだ……。仮に先を見通す眼を持っていたとしても俺は未来を見ないよ。先を観測してしまったら確定しちゃうからね、誰にとっても
「ネタバレが萎える気持ちってのは最近わかるようになったよ……」
「おっいい感じに染まってきてるじゃない。ともあれ、俺のフローチャートにはクリプター尋問パートとかは無いの。自発的に語るなら止めはしないけどね、異聞帯をまともに攻略してその過程で情報を収集していきますよ。空想樹とかいう宇宙を内包しているあの樹を俺が観測するのはちょっとアレかもしれないけど、うん誤差だよ誤差」
まとも(海パン姿で炬燵ジェットと雪原を滑走)に(敵の用意した迷宮の中でくっころ系獣女子とけだものックス)攻略(セックスで巨大ゴーレム化させた複合キメラ建造物で異聞帯の王を倒す)。
「……無駄だと思うがオフェリアの無事を祈っておくよ」
口ではそう言っておきながらも早くこっちに来て(ギャグ堕ちして)、コイツから来る被害を分散して欲しいなとか思う色々と強かになったカドック君なのであった。
白い巨塔も戦乙女も出てないやん! タイトル詐欺とか……分かる? この罪の重さ。
はい、というわけで次回から本格的に北欧異聞帯、無姦氷炎性器イッテルハメルングーー消えぬ白濁の快楽児のRTAはっじまるよ――。今回は真面目だから、いやホントだってばよ。