前もって伝えておきますが、2章は100%、1章より長くなります。
異聞帯攻略やった後もエロ回入れるとしたら、今年中に完結するかわかんねぇぞこれ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
ドシンドシンと後ろからあたしをぺしゃんこにしようとする音が聞こえる。
逃げられるわけないのに、見つかってしまったからもうあたしは終わりなのに、それでも雪に足を取られながら必死に走り続ける。
「はぁっ──、はぁっ──、なんで、なんでうまくやれないのっ……!」
自分のどん臭さに今更文句を言っても何の意味も無い、叫んでも胸が苦しくなって遅くなるだけ……。
風邪を引いてしまったラウラの為にちょっと集落を抜け出して暖かい所に薬草を取りに行くだけだった。
巨人に見つからないように、そっと、そっ──と。
「ガア゛ア゛ア゛ァァァッッ──!!!!」
「あうっ……痛っ」
でも見つかってしまった。あたしが20歩走っても巨人は1歩で済む。逃げれない、逃げられない。
背後から耳が痛くなるぐらいの大声で驚かされたあたしは足がもつれて転んでしまう。
まだお昼なのに急に暗くなった。大きい大きい巨人。その影になった私はもう石のように縮こまって震えるしかなかった。
「やだ……やだ……」
こんな所でぺしゃんこになるのは嫌だ。こんな所で死ぬのは嫌だ。
だってちゃんと大人になって、花束をもらって、定めの日にぺしゃんこにならないと御使いに連れてってもらえない。ヴァルハラに行けない。
だから両手をぎゅっと握って祈るの。
神さま、神さま、神さま、ごめんなさい。決まりを守らず、定めの日以外に大扉から出てしまった悪い子ですか──。
どうか、あたしの魂をヴァルハラに連れてってください──。
…………。
………………。
……………………。
…………………………?
「え──?」
いつまで経っても何も起きないから、もしかしてお祈りが届いて巨人がどこかに行ってしまったのかと目を開けると。
巨人はいた。いたけど、
でもあたしは動けなくなった巨人よりも違うものに釘付けになっていた。
あたしよりも大きい人。大人と同じくらいか少し小さい男の人。
黒い髪に黒い服。御使いと正反対の色をした初めて見る人。人なのかしら……? 御使い? もしかして神さま?
大きい布がぱたぱたとたなびいてるとがった棒っこから包丁よりも長くてキレイな刃物が生えたそれを握ってる。巨人を燃やしている同じ真っ黒でキレイな炎がそこからもぼぉぼぉと。
あたしがぼ──っと見てるとその人は安心させてくれるかのように微笑んでくれた。
何故か心がとてもぽかぽかしたあたしは同じようににへらっと笑い返した。何だろう、すごく安心する。初めて会う人なのに巨人に追われてバクバクしてた胸が落ち着いてるの。
「あ、あのっ! ありがとうっ! びっくり、本当にびっくりなのだわ! 巨人に会ってもぺしゃんこになってないなんて! そんな炎を出す御使いは初めて見たの!」
「あぁん? 御使いぃ? 私が糞ったれの神様の使い走りに見えるのかしら、このガキんちょは」
「え? え? あ、あれ? お姉さん、どこから? さっきはお兄さんしかいなかったのに……?」
気づいたらあたしを助けてくれたお兄さんの隣に眉間にぎゅぅっと皺が寄った白髪の鎧姿のお姉さんがいて、こっちをニラんでいた。わ、わ、どうしよう。あたし何か気に障る事でもしてしまったのかしら。
でもお姉さんはいつからいたの? お兄さんが握ってた黒い炎を出してた棒っこも無くなってるし、もしかしてあたしを怖がらせないようにしまってくれたのかしら?
でも、でも……そんなに怖くなかったのよ? だって、とても綺麗だったもの。
「あっ! わかったわ! お兄さんが神さまでお姉さんが御使いね! お姉さんはお兄さんのポケットにさっきまで隠れてたのね!」
「アハハッ、コイツが神様とか笑えない冗談だし、私をティンカー・ベル扱いとかいよいよ燃やされたいみたいねこのガキ。こんな所に一人でいる所ワケだし、自殺志願者でしょ? 私が殺しても問題ないわよね」
「わわ、ごめんさいっ……何だか分からないけど、また怒らせてしまったのね! でもヴァルハラに連れてってくれるのなら、巨人にぺしゃんこにされるより全然良いわ、えっ──と、よろしくお願いします。黒いワルキューレさま」
「だ・か・らぁ! 御使いでもワルキューレでも無いって言ってんでしょうが。そもそも殺されそうになってんのによろしくお願いしますとかマジで頭おかしいんじゃないのこのガキ……」
今度は呆れられてしまったのだわ。でも眉間に寄ってた皺は無くなったからもう怒ってないのかしら……良かった。隣にいた黒い髪のお兄さんが尻餅をついていたあたしに手を伸ばしてくれた。そういえば、腰を抜かしたままだったわ、恥ずかしい……。
「でもブリュンヒルデにお姉様って慕われてるからもしかしたら邪ンヌも実はワルキューレという可能性が」
「無いわよ殺すわよ。……まぁ、戦乙女、ワルキューレという響き自体は嫌いじゃないわね……ヴァルハラ、山の巨人に霜の巨人、オーディンとかフギン、ムニン……フフフフフ、北欧はネタの宝庫ね。そそるじゃない。あっ、でも巨人の弱点がうなじじゃなかったのはナンセンスよ。さっきのも豆腐のように柔かったじゃない」
「巨人が跋扈してる割には集落の壁も全然高くなかったねぇ」
うぉーるまりあぁ? む、む、む……御使いの会話はむつかしいわ……。何を話してるのか全然分からないの。う──ん、御使いのお姉さんの雰囲気からするとお兄さんは神さまじゃない? そうね、二人とも御使いなのね! だって普通、御使いは神さまにすごくかしこまるものじゃない? 二人は距離も近いし、とても気安くて対等って感じがするわ!
「あっ、そういえば。あたしまだ自己紹介してなかったわ! お兄さん、お姉さん、助けてくれてありがとう! あたしゲルダっていうの! 13歳のお姉さんよ!」
「あらあら13歳。余裕でマスターの射精距離じゃない。いかが致しますかマスター? 腹ボテロリをもう一人増やしてはどうかと具申しますが」
「ハハハ、こやつめ」
? 急にお姉さんがお顔を真っ赤にして「ひゃぁんっ!」と叫んで震えてしまったわ? もしかして風邪……? ふふふ、なら丁度いいわ、ラウラの薬草を取るついでにお姉さんの分も取ってきてあげる! あたしもお姉さんなんだからキチンと恩返しは出来るのよ!
空に大きな、大きな太陽が北欧の地を照らしている。汎人類史の恒星とは桁違いのサイズで浮かんでいる。
その下に氷の城があった。外敵と戦う為ではなく、ただ荘厳に神の威厳を知らしめるが如く美しくあれと建つ城。
その城の唯一の玉座、唯一の神、唯一の王、古き神々の花嫁、スカサハ・スカディはゆったりと氷の玉座に腰を降ろして、報告を受けていた。
「なるほど。この北欧の地で跋扈する巨人達を屠り去る異形の集団か……」
「はい。ヒトの仔が住む集落の近くで生息、あるいは眠りから覚めて活発的になっている巨人を優先的に排除している模様。何やら甘い香りを漂わせる茶色の固形物で生成された使い魔が数十騎確認されています。戦闘力は統率個体である我らには及びませんが、恐らく量産個体とは同等、あるいはそれ以上──」
「よい、よいのだ。全て見ている。いたずらに我が子達を排しようとしているワケではなかろう。むしろ守る為に動いている。ならば放っておいて構わぬ。ふむ、しかし……あれが汎人類史の使い魔か、何らかの魔術であろうが一騎一騎の意匠が実に凝っている。私には理解出来ない造りだが……」
粛々と膝を付き、女王の独白を聞いているのは大神オーディンによって生み出されたワルキューレが一人。この北欧異聞帯にて魂なき使い魔ではなく、統率個体として自意識、独立性を兼ね備えたワルキューレ、スルーズ。
神の威光を知らしめるが如く眩しい金髪からは同じ色の羽根のような耳が生えている。彼女の無機質な美しさは確かに人ならざる雰囲気を感じさせる。
「
「戦闘力は巨人種を打ち破っている茶色の使い魔と比べれば、格落ちですが……。その戦闘方法は非常に厄介です。白衣の使い魔なる集団は私達に敵対行為を取り、振る舞いは非常に暴力的でありながらこちらの生命は絶対に奪わないようにしている配慮さえ感じます」
「武具なき身で翼を引き裂き、槍を折り、盾を壊す。まるで命を奪わなければどんな事でもしてやるという一つの執念を感じるな。こちらが退けば、追わない以上あれらもヒトの命を守護する側にいる者達なのだろう。うむ、ならば愛そうではないか」
「ですが、北欧の地における唯一の神。我らが女王、スカサハ・スカディ。定めの日を迎え、大人となったヒトの仔らを集落から連れ出すのはこの世界を存続していく上で必須事項。たとえ、使い魔を操る者に害意が無かったとしてもこれ以上は看過出来ないかと」
「ふふ、わかっておる。今日はやけに口数が多いな我が子よ」
「いえ、そのような事は」
神であり、主であるスカディの指令を忠実に遂行しようと機械に徹するスルーズの諫言も愛おしく思う女王は慈しみを込めた笑みを浮かべる。
自身の魔術を込めた仮面でも完全に縛り切れない巨人達を討伐する甘い香りを漂わす集団。
定めの日に迎いに来るワルキューレ達を無力化する白衣の集団。
スカディはそのどれにも一つの愛を感じていた。
だがここは既に多くの人間が生きていける地ではない。ラグナロクの置き土産、ムスペルヘイムの残り香、炎の巨人王スルトの残滓、その灼熱が残ってしまっている以上、この地で生存出来る人間達の絶対数はどうしても限られてしまうのだ。
1万の人間を百の集落に分け、増やし過ぎず、減らし過ぎず、それを3000年維持してきた。
ならば、その
「23集落の隣だったか。使い魔達と同時期に現れた移動を行う摩訶不思議なこの世界ならざる
確認されている異物は大まかに分けて三つ。
一つはバリエーションに富んだ甘い香りがする茶色の使い魔達。
一つは白衣を纏った人形の集団。
最後にその白衣の使い魔達と同じ魔力反応が検知された白き移動型建造物。
「はい。その建造物からは白衣の使い魔達と同様の魔力反応を感知しました。間違いなく、術者が中にいるかと。既に30騎の量産型
「それとオフェリアも同行させた。本人たっての希望だ」
「オフェリア様が……? ですが、彼女は」
「うむ。十数日程か? 何かに怯えるように部屋に引き籠っていた時はどうしたものかと、気を揉んだが……。ようやく外界に出る決意をした模様だ。母としても実に喜ばしい。どういう心境の変化か、自身の騎士だけではなく、つがいを希望していたあのなんとかという
まるで引き籠りの子供が自立的に外出するようになった事を喜ぶ母親のようにスカディは顔を綻ばせていた。オフェリアの内心を考えれば、そんな呑気な状況でも決して無いのだが……そこはこの世界の唯一神、人間の細かい感情の機微など気にする筈も無く。
「英断かと。神秘を有してないとはいえ汎人類史の勇士である弓兵に、魔剣使いの騎士。それに同胞達を率いるヒルドがいれば、如何なる敵にも遅れをとる事は無いでしょう」
「これ、戦いを前提にするな。異なる世界からの異邦人とはいえ、我が子らを守護してくれたのだ。何が出てこようと私は愛すると決めている」
スカサハ・スカディは見ていた。この北欧の世界に降り注ぐ、自身の魔力を宿した雪を通して──。
何かの手違いで集落の外で巨人に追われていた哀れなヒトの仔を助けた黒衣の男を。
神である自身でさえ、薄ら寒さを感じた未知の炎を司るその男を見て確信していた。間違いなく、この男がカルデアなる者達の首魁だと──。
帰り道の途中であたしは二人の名前を聞いた。
黒い髪のお兄さんはデアーお兄さん。白い髪のお姉さんはジャンヌ・オルタお姉さん。
二人とも同じ色の格好をしてるから仲良しなのね! って言ったら、またオルタお姉さん(ジャンヌお姉さんという呼び方はとても嫌がられてしまったわ)に怒られてしまった。
でもそこから落ち着きがないように髪先をクルクルしたオルタお姉さんはしきりにあたしがちゃんと付いて来てるのか確認したり、危ない道は手を引いてくれたりしたわ! 見た目は怖いけど、やっぱり優しいお姉さんなのね! デアーお兄さんも凄く優しい眼であたし達の事を見ていたもの。ぺあるっくって何なのかしら?
「わ、わ、わぁぁぁぁっ!!」
本当はラウラの為に薬草を取りに行きたかったんだけど、話を聞いたデアーお兄さんが治してくれるっていうから寄り道しないで二人に連れられて集落に帰ってきたら隣に凄い物があったの!
あたしが今まで見た事無いような大きな大きな家! あたしの家よりも全然綺麗な窓が数え切れない程いっぱいあって、見上げれば首が痛くなるぐらいに高くて。今朝、集落から出た時はこんなのは隣になかったから……もう目をグルグルにして驚きいっぱいになったあたしの口からは「わぁぁ」しか出てこなかった。
ここはお兄さんとお姉さんのお家? って聞いたら、「コイツとの新居が薬品臭いこれなんて即別居よ」ってオルタお姉さんに否定されてしまったわ。
この大きい白いお家は『病院』って言って、怪我や体の具合が悪くなった子達を直す為の建物らしいの。
中に入ったら、不思議な匂いといっしょにまるで絵本の世界が広がってたわ。火も無いのにずっと明るくて綺麗で、白い帽子と服を身に纏ったお顔の無いお姉さん達がたくさんいて、もしかしたら自分は夢でも見ているんじゃないかって思うぐらいに口をぽかんと開けたまま辺りを歩いていたら、向こうからラウラが元気に走ってきた。
熱を出して、寝込んでて、ずっと魘されていたラウラはちょっと怖い『ふちょう』さんって人に治してもらったらしいの。元気な姿を見せてくれたラウラにが集落に帰っていくのを安心して見送って、一緒に帰らなかったあたしはどうしようと悩んでいた。
「お兄さん、お姉さん。あたしの命も助けてもらって、ラウラも治していただいて、こんなに綺麗な場所も見せていただいだのに……あたしには何も返せるものがないわ──」
「そうだなぁ、じゃあゲルダの話を聞かせて欲しいな。俺達凄く、凄く遠い空の向こうから来たんだ。ゲルダのことも、この世界のこともいっぱい教えて欲しいな。まだ世間知らずなんだ」
眼を瞑って、うんうんと唸っているあたしの頭をぽんぽんと撫でてくれたデアーお兄さんはそう言ってくれたの。
空の向こう……あたしはそれをとても嘘だとは思えなかった。こんなに優しくて綺麗なお兄さんとお姉さんがあたしを騙すとは思えなかったから、うん、それぐらいの事で恩返しになるかどうかわからないけど……。
「わかったわ! たくさん、たくさん、話してあげる!」
「ふ──ん、じゃあ体で払ってもらおうかな? みたいな展開に持っていかなくて良かったの? こういう疎そうな少女の花を散らすのアンタ大好きでしょ?」
オルタお姉さんがまたお顔を真っ赤にして変な声をあげたわ。やっぱり風邪なのかしら? 心配だわ。
それに体……? う──ん、あたしはお肉もあんまり無いし、食べても美味しくないと思うの。
──旅立ちの儀? ヴァルハラ? 何を言っているのか理解不能です。死ぬとわかって外に出る貴方達の振る舞いもです。
空中を浮遊する移動型巨大病院の持ち主、クリミアの天使──フローレンス・ナイチンゲールはそう語る。
七階建て、患者一人の入院に必要なスペースを確保したワンルームが必ず与えられ、さらにその病院内には『治療、救助、生命維持、命を脅かす対象への雑菌処理』というオーダーの元、北欧異聞帯各地へ飛び立ったり、治療、折檻に励む白い看護服に身を包んだ顔無きオートマタ型使い魔が380体も存在する。名は『白き貴婦人』。
生前、数学・統計学・経済学を始めとした多くの学問を修めた彼女が追い求めた理想的な病院のノウハウをつぎ込んだ宝具。どんな困難が待とうとも命を救う為に進み続ける彼女の新たな宝具の名は──。
『
ちなみに空中移動は羽根を生やした使い魔『白き貴婦人』が数十騎持ち上げて、飛行して行っている。ワーオ、パワフル。
北欧異聞帯に舞い降りたこの地の文化レベルにおいてはあまりにオーパーツな白き病棟の中で、デアーと邪ンヌに救われた少女ゲルダは一生懸命語っていた。
二人は病棟内の広くスペースを設けられた待合室で彼女が語る当たり前を……この地の常識を聞いていた。
邪ンヌは頬杖をついて、一見興味なさげに窓の方に目をやっていたが何だかんだで義理堅く真面目なアヴェンジャー。一言一句ゲルダの言葉は耳に入れてくれてるだろう。
「はぁ、ふぅ……。こんなにたくさん喋ったのは久しぶりだわ。でもこんなので恩返しになるのかしら、あたし本当に当たり前の事しか話してないのよ? オルタお姉さんも飽きてそっぽ向いてしまったわ……」
「大丈夫、とっても為になる話だったよ、ありがとうゲルダ。後、邪ンヌは真剣に話を聞こうとすればする程、人の顔を見れなくなっちゃう照れ屋さんだから気にしなくていいよ」
「そうなの……変わってるのね」
渾身の力で否定したいがここで振り向いてもまたイジられる(性的にも)だけなのでノーリアクションを貫く邪ンヌ。「喉乾いた? あっちでお水でも飲む?」「えぇ!」と少し離れた所にあるウォーターサーバーまで二人が行ったのを確認して、誰に聞かせるワケでもなく彼女は呟く。
「ハッ! 神様の言いつけ通り、25まで生きた良い子ちゃんはヴァルハラに連れてってもらえる? 傑作、まるで家畜ね」
顔は嗤っているがその心には沸々と憎悪の炎が燃え上がっていた。その怨嗟の矛先には北欧を統べる神、どんなに長く生きてもこの狭い集落の中で25で死ぬ
ぶっきらぼうな態度には今の顔をゲルダに向けて、下手に怖がられても面倒臭いという彼女なりの優しさもあった。
「一生を集落で過ごしている喧嘩も知らなそうな人間を死後、ヴァルハラに連れていくってのも眉唾物じゃない、戦の役に立たないでしょ。ヴァルハラ云々が嘘だったとしても、どうせいつもの上から神様理論で『希望をもって死を迎えた方が救いがある』とかほざくんでしょうけど……」
集落の外を見た聡い彼女は理解していた。魔術結界から守られている集落から外に出れば、まともに人が住める環境は無く、碌に食料も得られない。強くあろうが弱くあろうがこの世界では人間は繁栄出来ない。既にどん詰まりなのである。
それを理解しても尚、彼女の感情は気に食わないの一つで染まっていた。
「異聞帯の王とかクリプターが女なら、アイツがさっさと犯して、堕として終わりにしてしまえばいいのよ」
「やはり寝取りですか……いつ出発します? 私も同行しましょう」
ブリュンヒルデ院。
「誰も呼んじゃいないんだけど」
左腕を曲げ、集中線と共に現れたのは異聞帯とはいえ、北欧とは縁深き英霊。戦乙女の長姉、古エッダやサガに語られる女神──ブリュンヒルデ・シグルドリーヴァを模した贋作英霊。
マスターとの相互槍刺しセックスと愛しのお姉様との3Pで霊基を完全に昇華させた造られた戦乙女。
その白のドレス部と黒い鎧部、オリジナルのブリュンヒルデとは違う配色も彼女の一つのアイデンティティ。
彼女は決して、もう一つのアイデンティティでもある寝取り、寝取られの匂いを察知して来ただけではない。
本物とはいえなくとも、ベースとなったブリュンヒルデの魂がこの異聞帯に来てから妙にざわついている。
彼女曰く、旧北ヨーロッパ地にそびえ立つガルフピッゲン山の山頂に行けと何かが訴えていると。どうやら同行者を求めていたようだ。
「あぁ、そう。じゃあ行きましょうか。まだまだ暴れ足りなかったし、鬱憤晴らしには丁度いいわ」
邪ンヌは可愛い妹分の申し出を二つ返事で承諾した。このイライラを発散させてくれる燃やし甲斐のある敵が現れる事を期待して。
「お姉様はこの世界がお嫌いですか?」
「えぇ、嫌いも嫌い。大嫌いよ。神も人もまとめて燃やしたくなるわ。だけど──」
一拍置いて、憎たらしくも不敵な笑みを浮かべて、ブリュンヒルデの方へと振り返った。
「私はあの人の
ブリュンヒルデは濡れに濡れた。
井戸も無いのに綺麗なお水を出す不思議な箱にまたまた驚いて戻ってきたら、オルタお姉さんはこれから用事があるからここでお別れらしい。
「また、会えるのよね?」と声をかけたら、背を向いたまま手をヒラヒラと振ってくれた。オルタお姉さんの隣にはまた見た事もないような綺麗な女の人がいたの。
「もしかして、二人ともデアーお兄さんのつがい?」
「つがい、というよりは奥さん、お嫁さんって感じかな。まぁ、夫婦だね」
おくさん、およめさん、ふうふ……知らない言葉だわ。つがいと何が違うのかしら?
疑問を浮かべているあたしにお兄さんは教えてくれた。
子供を産むつがいは男と女で呼び方が違うらしい。男は「旦那さん」、「夫」、「あなた」。女は「奥さん・お嫁さん」、「妻」、「おまえ」。二つの繋がりを「夫婦」って呼ぶ。
どうして分ける必要があるのかしら? それにそんなに呼び方がたくさんあって混乱したりしないの?
そして、産まれた子供にとって自分を産んでくれた大人は『親』と呼ぶものだって。
男の親は「お父さん」、「パパ」、「父上」。女の親は「お母さん」、「ママ」、「母上」。
子供からも呼び方がたくさんあるって教えてくれた。
そして、親と子供を纏めた繋がりを『家族』と呼ぶって教えてくれた。
『家族』はどんな形であれ、一生付き合っていく事になる絆になるって。だから『家族』になる前のつがい、お兄さんの世界では『恋人』、『伴侶』とも言うらしいの。つがいは自分の意志とお互いの意志で付いたり、離れたり、好き合ったり、嫌い合ったり、色んな選択から決めていくんだって。
……………………。
お父さん、お母さん。夫婦──。恋人──。伴侶──。家族──。分からない、ごめんさいデアーお兄さん、あたしやっぱり分からないの。
あたしを育てた大人はあたしが10歳の時の定めの日に大扉から外に出て行ったわ。お父さんもお母さんも親って言葉を言われてもあたしはまるで分らないの。だってもういないから。
恋人……。好きな人とつがいになる? 好き嫌いと子供を産む事は何か関係があるのかしら? 分からない、分からないわ……。だって15になる前につがいと子供を産む儀式をして、子供を産んで大人になって、育てて、25になったら大扉から出てって、ぺしゃんこになって、ヴァルハラに連れてってもらう。そういうものでしょう? 普通はそうなのよ。
だから分からない。好きって言葉は分かるけど、『恋』とか『愛』とかそんな言葉を言われてもピンと来ないわ……あぁ、どうしましょう。あたしももう少ししたら、子供を産まなくちゃいけないのに、こんな事じゃ良くないと思うの。
分からないことだらけでも、お兄さんは今──とてもとても大事な話をしてくれる、それだけは分かるから。
「そうだね。じゃあ例え話だ。これはあくまで想像の話、ゲルダが想像してどう思うかって話だ」
「想像……?」
「そう。何十年も一緒に生きていきたいなって思う人とつがいになって、子供を産んで。その子供を好きな人と二人で見守るんだ。大きくなっていく子供は25歳よりも長く長く生きて」
う──ん、何十年……。途方も無い話だわ……25歳よりも長く生きれるなんて信じられない事だけど……。
「年を取ったゲルダ達がその子供が一人で生きていけるように巣立つまで見守っていく。もしかしたら、その子供がまたつがいを見つけて、さらに子供を産むかもしれない。子供の子供──孫にとって、ゲルダはおばあちゃんになるね」
『孫』、『おばあちゃん』……。デアーお兄さんが言ってるのは絵本に書いてあったお年寄りの話をしてるのかしら?
想像、想像、好きな人……何十年も一緒に生きていきたいなって思う人。むつかしいわ。集落の子供達は皆良い子達ばかりよ? でも、一緒にいたいと言われると、う──ん。
そうね、想像だし、深く考えなくてもいいわよね? 例えば、今目の前にいるデアーお兄さんとつがいになって──。子供を産む。想像……あくまで想像よ?
お兄さんは優しいから、きっと子供の面倒はたくさん見てくれるわ。一緒にずっとお兄さんがいう『家族』になって何十年も生きていく。うん、うん、うふふ……。
「……………………やっぱり、お兄さんのお話はむつかしいわ」
あたしの頭があんまり良くないせいか、その想像は泡となって浮かんではすぐ消えてしまう。
あぁ、困ったわ。とても困ったの。きっとあたし、お兄さんの話はほとんど理解出来ていないのにどうしてこんなに胸がドキドキするのかしら? 巨人に追われてた嫌なドキドキじゃなくて、怖くないのに、切なくて、とってもとってももどかしいの。
「ここはお兄さんのお家じゃないのよね? もしかして、お兄さんもどこか悪いのかしら?」
病院は治す所なんでしょ? と得意気なあたしの質問をやんわりと否定したお兄さんは教えてくれた。病院は治す以外にも子供を産む時のお手伝いをしてくれるんだって。こんな大きい場所を用意してくれるなんて凄く贅沢だわ……。
だから、ここでお兄さんのつがい──お嫁さんが子供を産むらしい。お兄さんにとっては初めての子供。あたしは自分の事ように嬉しくなって祝福してあげたわ。
お兄さんも嬉しそうにありがとうって言ってくれた。でも少しだけ不安をポロっと零していたわ。父親を知らない自分がちゃんとお父さんを出来るかどうかって。
お兄さんは自分を産んでくれた本当の
自分を育ててくれたお母さんのお腹の中から出て来たわけではないらしい。
「『あなたは赤ん坊の時、橋の下から拾ってきたのよ』って10歳ぐらいの時に言ってきてさ、まぁ、確かに顔も髪も全然似てなかったから。そうなのかー、ぐらいしか思わなかったけど」
それは──とても悲しい話だわ。だって子供は生まれてから10年は自分を産んでくれた
「でも別に不幸とか思った事は一度も無くてね。変な人だったけど、十数年一緒にいて俺は胸を張ってあの人の子供だって言えるし、あの人が母さんだって言える。殺しても死ななさそうな人だから、今もどこかで元気にやってるだろうし……」
そういってお母さんの事を語るお兄さんの顔を見てると、あたしは何だか羨ましくなっちゃった。
そしてきっと大丈夫だと、お父さんを知らなくてもお兄さんはきちんと親になれるって。お兄さんの手を握って励ますように上下に大きく振る。
「デアーお兄さんは絶対素敵なお父さんになるわ! だって、あたしがもし、お兄さんの子供だったらとっても幸せだと思うもの!」
ありがとう──とお礼を言ってくれたお兄さんの顔は見惚れるほど綺麗だった。
「あら、見知らぬお客さんがここに来るなんてとても珍しいのだわ」
せっかくだからということでお兄さんのつがいに会わせてもらえる事になったわ。凄く緊張して、扉を開けたら雪のようにキラキラしている綺麗な銀髪をしたお人形さんのような娘がいたの。
あたしよりも小さい女の子が大きくお腹を膨らませて、ベッドで横になっていた。
「ミス・アリス。妊婦であるあなたへの精神的ストレスは胎児にも悪影響であるが故に多少の我儘は容認しますが、いつ出産してもおかしくない現状である事は自覚して下さい」
「ふふふ、婦長さんはとても心配性なのね。でも経過は良好なのでしょう。病室に一人でいる方が気が滅入ってしまうわ」
もう一人、薄い板をもって、ぐにゃぐにゃと動く線が描かれた不思議な箱とにらめっこしている白衣のお姉さんがいたの。ここに来るまでに会った人達と似たような格好はしているけど、今度はちゃんと顔がついてるの。目付きはするどいけど、とても綺麗だわ……この人がラウラの言っていた『ふちょう』さんって方なのかしら?
「ふぅ、本当の所はアリスが落ち着くまで異聞帯の攻略は後回しにするつもりだったんだけど……」
「それは駄目なのだわ。だってマスター言ってたじゃないあの大きい樹は早めに切れるなら、それに越したことは無いって。わたしはもう一人前の
「ありがとう婦長さん。彼女をここに連れてきてくれて」
「礼は不要です。この世界にも病が蔓延っているのですから、私は私の役目を果たします。看護師達の報告によれば、碌な設備も無いこの環境で15までの出産を強要される? あり得ません、母体が幼い以上、細心の注意と最適の環境で出産に備えるのが常識。全く、命を何だと思っているのか。旅立ちの儀などと訳の分からぬ世迷言を吐く輩の治療は
「………………」
「なにか?」
「治療ジャンキーの婦長さんが他の人に治療を任せるなんて、月でも降ってくるのかしら」
「適材適所があるでしょう。自分の限界も分からず、全てを一人でまかなう等、無謀を通り越して愚か。私とて、生前から手が回らないであろう所は多方面から力を借りましたとも、命を救う為ならあらゆるものを利用します」
「フローレンスの場合、その限界とやらが常人の遥か上を行ってるけどね」
なんだかむつかしい話をして、置いてけぼりになってしまったのだわ。
ふちょうさんって呼ばれた人もお兄さんのつがいなのかしら? …………! あたし、冴えてるわ! ここは悪い所を治す以外にもたくさんいるお兄さんのつがいの子供を産む為の場所でもあるのね! だから、こんなに大きいのだわ! ふわ──、お兄さんのつがいって何人、何十人、それとも何百人っているのかしら……。
「おっと、ほったらかしにしてごめんねゲルダ。彼女はアリス、俺の奥さんで、初めて俺の子を産んでくれる人だ」
「は、はじめっ、まして! あたしゲルダといいます! え、え──とアリス、ちゃん? さん? お姉さん?」
「普通にアリスでいいわ。よろしくね、ゲルダ。鏡の国のアリスみたいに綺麗な髪と眼をしてるのね、ふふふ、丁度いいわ。違う世界の女の子からもお話を聞きたかったの。わたしのお暇の相手をしてくれると嬉しいわ」
あたしよりも年が下であろうその女の子かはあたしがドキッとするぐらい綺麗で大人に見えたの。そして、そんなアリスのお腹を撫でて、語らうデアーお兄さんとアリスはとても眩しくて、そうあるのがお似合いに見えて、その時から少しずつだけど、夫婦とか愛とかそういう言葉の意味がわかってきたのかもしれない。
ここからだった。
ここで二人に出会った事から、あたしの人生は、ゲルダの世界は大きく変わったの。
『クルッポー! クルッポー! ご報告! ご報告!』
アリスの病室の窓に一羽の鳩がやってきた。人の言葉を発している鳩にあんぐり口を開いているゲルダだったがそれを意に介さず、使い魔は続ける。
『生体反応34! 内、サーヴァントが3、魔術師が1、残り30はワルキューレと判明。現在、視認出来る距離まで接近中!』
「
『何らかの魔術的偽装を施していると推測!一騎のサーヴァントを除き、敵対姿勢濃厚! 報告以上! クルッポー! クルッポー!』
「そっか。じゃあ、俺が出るかな」
「よろしいので?」
「うん、やっぱり何かあった時には婦長さんには
「わかったわ。すぐ戻ってきてね
「わ、え、えーと怪我しちゃ駄目だからね!」
「うん。いってくる」
小さな命をお腹に宿した
「ふ――…………報告には感謝するとして、ここに雑菌をまき散らすとは一体どういう了見でしょうか?」
『クルッポァッ!?』
「殺 菌 処 理」
二重層の袋に鳩を叩き込んだナイチンゲールは口をガチガチに結んだそれを持って部屋から出て行った。今夜はターキーかな?
『
ランク:A
種別:対患者宝具
使用者:フローレンス・ナイチンゲール
七階建ての巨大総合病院。多数の病室、治療室、食堂、リラクゼーションルーム、中庭、巨大ナースステーション等、患者を治療する為に効率的かつ理想的な設計を施された宝具。
山だろうが、海だろうが、空だろうが、どこまでも。命を救う事に境界は無く。空中移動に使い魔達で無理矢理持ち上げさせて、移動する手段は原始的過ぎるとさすがのセミラミス様もドン引き。
この宝具と380体にも及ぶ、『白き貴婦人』と呼ばれる使い魔の魔力を補給する為にもマスターと致す集中痴療室なる物も存在する。その時の婦長の正装は非常に淫靡的(ハロウィン礼装・トリック・オア・トリートメント参照)。正装の腰につけたコンドームも特注品で射精したマスターの精液の魔力を一切損なわず、保管出来る。エンジンはスペルマ。地球に優しいバイオエネルギー。
『白き貴婦人』と呼ばれる使い魔の外見は白のナース服を着たオートマタ。その使命は「治療、殺菌、及び以上の行いを阻害する一切の排除」。戦闘は基本素手。顔は無い。羽根も生えたりするので空も飛べる。サイレントヒルのバブルヘッドナースを超清潔にした感じ。それでも深夜の病院でこれがランプ片手に巡回しているのは怖すぎる。失禁してしまった子供サーヴァントがいると苦情が上がっている。
邪ンヌ:ツンデレムーブでパートナーポジションに収まってる。
ゲルダ:今回の主役、めっちゃボーイミーツガールしてる。
アリス:初懐妊。正妻の余裕。母性がストップ高。
オフェリア:今回は出番無し。勘違いとはいえ、マシュを救う為に覚悟完了。
マシュ:次こそはと意気込んで。媚薬片手にウサ耳とか首輪を滅茶苦茶厳選している。
>>デアーお兄さんは絶対素敵なお父さんになるわ!
素敵なお父さんになった結果の親子丼です(疾走する青春の桃色ジャンクフード ② 後書き参照)。
>>たくさんいるお兄さんのつがいの子供を産む為の場所でもあるのね!
おっ千里眼かぁ?