いつも誤字報告、感想、評価ありがとうございます。助け&励みになっております。
尻の描写に力を入れるアニメは神作。よってバビロニアは神アニメ。
デアーは感動していた。
大自然で真っ裸になる事がこんなに気持ち良かったのかと。いや、シミュレーション内で青姦なんて数え切れない程ヤった事はあるがその時は目の前の女体に夢中になっているので落ち着いて自然を堪能した事は無い。まぁ、駅弁態勢で山頂から見える日の出とかなら堪能した事があったか。
とはいえ、肌をくすぐる外の空気はシミュレーション内では味わえないもの、異聞帯とはいえ彼がナイスtintinを披露しているのは現実世界。「Foooooo~~!」とついはしゃいで山びこを響かせてしまっても無理はないだろう。
「風呂上がりに裸になって散歩するのはマジきもちい」と教えてくれたアンデルセン先生には感謝しかない。この清涼感。自分が自然の一部となった解放感。知恵の実を食べる前のアダムになった気分。争いなんて下らないぜ、俺の裸を見ろ。葉っぱ一枚なくてもいい、生きているからLUCKYだ。
──と彼が艶めかしいポーズを取りながら、以上の事を考えるのに有した時間、僅か0,2秒。
「ば、ば、ばばばばばばばば──、ばばばばばばばばばばばばばばばばばば」
魔眼処女を奪われ、膝に力が入らず、その場にへたり込んでしまったオフェリアはバグっていた。煙を出して、オーバヒートするマシン一歩手前のように。
魔眼とはランクによってはピンからキリまでだが、魔術世界において人生を容易に左右する程の高値で取引されるものだけあって、価値は高く、それを持つ物を評価する重要なファクターの一つである。
しかしランクが高い魔眼程、扱いには細心の注意を払わなければならない。
魔眼は自分の体についた独立した魔術回路。身の丈に合わない魔眼を持っていれば、使用者の
宝石クラスでもある『遷延の魔眼』で意図せず刺激的なモノを見てしまったオフェリアがこの瞬間、魔眼を自由に扱う事は不可能。
眼帯越しですら彼が別のビーストになる可能性を見てしまった衝撃的な初見の邂逅、今度は直接しかもそそり立つ肉槍をしかとその眼に焼き付けてしまったのだから。
意図せず、だかしかと彼女の脳髄に浮かんだ身に覚えのない思い出。
「あ、あ、あぁぁ……………」
──人理修復という旅路を経て、恋する乙女のようにベッドの上で服を纏わない彼に向かって手を伸ばす光景。
──後ろから、何かに突かれて道具のように乱暴に犯される光景。鏡には見た事のない表情の自分とデアーの姿が。
──そして、友達になりたかった、助けたかった誰かと手を握りながら、彼に抱かれる光景。
距離も関係ない数多の未来の可能性が映画のワンシーンのように切り取られ、彼女の瞳に勝手に流れ込んでくる。しかも性質が悪い事にその全てが濡れ場。
「恋愛偏差値たったの5か……初心め」クラスのオフェリアが洪水の如き迫ってきた自身を題材にしたリアルAVを前にして、正気を保ってられる筈もなく──。
「きゅぅ……」
白銀の北欧の地によく映えるぐらいに真っ赤な顔の彼女は口から魂を吐き出して仰向けに倒れた。脳が防衛機能として気絶を選んだのだ。
全裸の男に気を失った女……やべーぞレイプだ!! 展開待ったなしかと思ったが、ここでようやく他の者達も固まった空気から回復して、行動を起こし始めた。
一番早く、動いたのは男の全裸など見慣れた傾国の獣──コヤンスカヤ。彼女の指示を受けた巨人達はその質量で押し潰すようにデアーの元へ殺到した。
その中身は埒外であろうとも、身長に関してはあくまで日本人の平均サイズに留まるデアーの体躯は20m程の巨体×10であっという間に埋もれてしまう。
「『模倣英霊──
だが今や彼の宝具発動を邪魔する者はおらず、対巨人の模範解答ともいえる英霊を彼は模倣する。模倣とはいえ、上半身にはしる傷跡は巨人グレンデルに数多のドラゴンを屠ってきた証。
髪は金髪に、肌は浅黒く染まっていく。下には金のバックルが眩しい青色のジーンズ、安心してください、穿いてますよ。
「アンド、『白式官能 九十の掌
第二宝具に合わせて、第一宝具も発動。密集し、肉団子のようになっていた巨人達の塊が全方位に吹き飛んだ。
白式官能の九十の触腕を十掌ごとに一つの巨大な腕として束ねた彼は九つとなった白の豪腕と自身の拳、合わせて十の攻撃手段として律儀にも一匹ずつ、巨人達のどてっ腹をぶち抜いた。針鼠の如く伸びる白の豪腕に、常軌を逸したその膂力に、物理法則に真っ向から歯向かう飛び方をした巨人達は腹に大きな風穴を開けて、一匹残らず、倒れ伏した。
「腹筋の鍛え方が足りないな」
『まぁ、こうなりますよね。ですが、時間稼ぎとしては上々では?』
落下した巨人達によって地震のような小さな揺れが北欧を襲う。それによって引き起こされた雪崩をもしかしたら、集落まで届くかもしれないと危惧したデアーは巨人達を打ち抜いた白式官能の豪腕で押し止めていた。倒れているオフェリアを巻き込まない為にも白式官能から過剰な生命力を送り込み、雪の波を蒸発させていた。
自慢の商品を壊されてもコヤンスカヤの声には焦りの欠片も浮かんでいない。予定調和だと。訪れた絶好の隙、オフェリアの魔眼を使わずとも宝具を使用するだけの時間は整っていた。
「魔剣疑似展開。我が炎、太陽を簒奪せり──」
この瞬間まで秘めていた性能を全開放。魔剣グラムが雷鳴の如き、唸りを上げて切っ先をデアーに向けていた。シグルドは握ってすらいない、自身の目の前に浮いたグラムの後ろで拳を構えている。剣としては正しくないこの使用法こそが彼の宝具『
グラムの性能を全て引きずり出した上でそれに全力の拳を叩き込んで敵に投擲する対城宝具。無防備なデアーの背に向けて、今放たれようと──。
「もらった──朽ちろ異物よ! 『
「もらう? 馬鹿言いなさい。あの人の毛先一本としてアナタなんかにあげるものはなくてよ」
鈴のような声と共に突き出したシグルドの拳と魔剣ごと飲み込む巨大な水柱が突如として現れた。
水流に阻まれ、魔剣グラムは見当違いの方向へ飛んでいった。白雪の大地には不似合な水柱。その頂点、そこに舞い踊る一匹の白鳥がいた。起伏が無く貞淑に隠された胸部と局部。バレリーナのような白いドレス姿で凶悪な程に尖った義足一本で水の上に立ち器用にくるくると回っている一人の女性が。
持ち主の手に自動的に戻るように設定されている魔剣グラムは不規則な軌跡を描いてシグルドの手に戻った。意志があるように蠢く水流と共にこちらへ滑空する女を迎撃する為に。他人の命を貫くその鋭利なハイヒールによるフライングキックをシグルドは真正面から剣で受け止めた。
「魔剣グラムね……美しさはこっちのジゼルの圧勝として、頑丈さはどうかしら」
「ちっ、混ざり物が……そこをどけぇっ!」
乱入者の名はメルトリリス。経緯は複雑なので省くがある月の困ったちゃんAIの分身。アルテミス、レヴィアタン、サラスヴァティーの女神三柱を複合しているハイ・サーヴァント。
デアーの第四宝具『通い妻オーバーラン』によってこの場に呼び出された──というよりは無理矢理コンタクトを取って現れたというべきだろう。
この零の獣の真に恐ろしいのは単体でも圧倒的な力を持っておきながら、他人の力を借りる事に躊躇が無く、そして彼に力を貸す愛情深き者が大勢いる事。主人公補正があるラスボスといえば分かりやすいだろうか。
「新手かっ……! いよいよ、大ピンチだな! だがっ……窮地にこそ、人の可能性は輝くっ! 『
魔力が収束する巨大大砲。偉丈夫が片手で支える可能性の弓が輝いていた。
メルトリリスとシグルドが戦り合っているのを尻目に少し遅れてナポレオンも宝具を解放──虹色の光線が婚約者に不埒を働いた下手人を飲み込んだ。
ナポレオンという知名度、人の可能性の象徴、数多の伝説といったバックアップを受け、後付けされた彼の宝具の威力はたかだか近代ヨーロッパの皇帝が出すものとしては強力過ぎる。成程、確かにまともに直撃すればビーストだろうとももしかすればダメージは期待出来るかもしれない。
──
「わかってるよ。この程度で打倒出来るだなんてお花畑な事は考えてねぇさ! 油断なく、間髪入れずに二射目と行こうか──」
虹の砲撃が捉えたのは残像。瞬間ナポレオンの背筋に寒気が走った。数多の戦争という死地を経験してきた直感が彼を瞬時に振り返らせた。
「『模倣英霊──
「ッッ──! 悪い冗談だぜ!」
黒い稲妻と蒼白い炎で構成される怨念の化身がいた。政略と謀略に巻き込まれ、嫉妬によって監獄に堕とされ、恩讐によって甦った復讐鬼──今、デアーに宿りし力はアヴェンジャー、モンテ・クリスト伯爵。「クハハハハ!!」と本人に似すぎている笑い声を上げて、超高速移動をもってナポレオンの背後を取っていた。
『英霊を呼び出し、さらには英霊の力を我が身に宿しますか……。まるでアナタの存在そのものが英霊の座のようですね。今のアナタにとって英霊召喚システム「フェイト」も無用の長物では?』
「力と宝具さえあれば英霊たるか……違うよね。本人が歩んだ歴史と重ねた月日こそが英霊たらしめる。だから俺のはあくまでごっこ遊びなのさ」
『ごっこ遊びにしては些か真に迫り過ぎていますが……』
ガトリング方式に切り替えたナポレオンの無数の弾丸を躱し続け、デアーは虎のように吠える。残像の高笑いがエコーして非常にやかましい。
「俺の持ち味は
砲身を蹴り上げ、一時的に射撃の手段を封じる。ここまで戦い抜いた弓兵に敬意を込めて、渾身のファリア神拳・改をデアーは捧げた。ムワァッと胸元が開いている上半身めがけて、深緑のマントをたなびかせた黒拳の乱打が叩き込まれる。
「がぁっ……!!」
本気の連撃では無かったのかあるいはナポレオンの耐久力が優れていたのか、吹き飛んだナポレオンは原型を留めており、霊基は崩れていなかった。だがこれ以上の戦闘続行が不可能なのは明らか。すぐ隣にメルトリリスに大分痛めつけられたシグルドがボロ雑巾のように転がってきた。
「人形風情がァァァッ──!」
死に体で叫ぶ魔剣の剣士。そもそも前半戦でデアーからのダメージを負っているシグルドは万全の状態では無い。それでなくともマスターからホワイトエリクサーをドレインしているメルトリリスの戦闘レベルはカルデアの中でもトップクラスに位置する。
相手になる所か、死なないギリギリのラインでいたぶってきたメルトリリスに対するシグルドの激昂は凄まじいものだった。
(なんと煩わしい──。英霊の肉体……! これから解き放たれさえすれば、こ奴ら程度ッ……)
「ありがとう。助かったよ、メルト」
「ここに来たのは暇していたからよ。別に私の助けなんていらなかったでしょう?」
「必要か必要ないかじゃなくて、来てくれて嬉しいのありがとうだからいいの」
「そ。で、その格好は何かしら?」
「巌窟王スタイル! 超ハイカラでしょ! クハハハハハ!! 俺を! 呼んだな! 黒き怨念! 絶望の淵から」
「死ぬ程似合ってないから、いつもの姿に戻りなさい」
「ふぁい(´・ω・`)」
シグルドの怒りもどこ吹く風。ドSの本領を存分に愉しんだメルトはホクホク顔で彼氏とのトークに没頭している。というか合流したこの二人なんて当たり前のようにお姫様抱っこ状態なんですかね。いつもその状態なんですかね。
そして暇していたとか言っておきながら実はこのメルト、病院で妊娠しているアリスに思う所があるのか、屋上でちゃっかり護衛もどきをしていたり。好意というよりは一種の罪悪感、あるいは罪滅ぼしのような。
メルトには残念ながら不評だった巌窟王スタイルから極地用カルデア制服に戻ったデアー。
そこに最後の奇襲が迫った。
「『
魔剣使いはまだ諦めていなかった。その執念深さだけは感嘆に値する。談笑し、一見隙だらけに見えた二人に死に体だったシグルドがこの場で出せる最後の一撃を繰り出した。ようやくまともな形で使用出来た宝具。投擲された魔剣グラムは轟音をあげ、直進して──。
「アン!」
二人を──。
「ドゥ!」
貫く事は──。
「「トロワッ!」」
無かった──。
奇襲に動じることなくメルトリリスは当然のようにマスターの右腕を胸に抱き、両足を一つに合わせた。体幹が一切ブレない剣と化した彼女を武器として迷う事なく切り上げたマスターに魔剣の投擲はあっけなく弾かれてしまった。
「馬鹿──な……」
ここまでの一連の行動にアイコンタクトすら挟まなかった二人。電子の海にて128騎が織り成す狂った聖杯戦争を勝ち抜いたコンビネーションプレイは随一。さらにサーヴァント及びに彼の番いとなった彼女達はマスターの近くにいればいる程にステータスは跳ね上がる。苦し紛れに放った宝具が通用する筈も無かった。
「見るに堪えないわ。1+1=2以下よ、あなた達。それと眼鏡の男、嫌な眼ね。暑苦しくてねちっこい眼。この状況でもそんな眼が出来る事だけは褒めてあげてもいいけど」
次に眼を覚ました時は全てが終わっていた。
砲台を支えに立ち上がろうとしているアーチャー。地べたに伏せたまま敵を睨み付けるだけのセイバー。ピクリともしない巨人達の残骸。
これ以上ない程に分かりやすく勝者と敗者の図を私の瞳に映し出してくれていた。彼等の霊基が崩れていない事も何の慰めにもならない。
コヤンスカヤの気まぐれの手助けも期待出来ない。
完膚なきまでの敗北、こちらに眼を向けた満身創痍ともいえるセイバーの表情が何を望んでいるのか理解した。残った令呪で最初の召喚の時に命じた自害禁止を解けと言うのだろう。
だがそれは出来ない。セイバーの中にある
キリシュタリア様はその存在がいる事を喜んで下さった、私が上手くコントロールする事も期待してくれているだろう。
けれど、とてもじゃないが私の手には余る。この北欧の地に日曜日が訪れてしまう未来を想像しただけで血の気が失せる。
「コヤンスカヤはもういなさそうだな」
「あぁ、あの駄狐の亜種ね。ぽこじゃが増えて恥ずかしくないのかしら?」
「…………」
「何よ」
デアーの隣には見知らぬサーヴァントが一騎。英霊召喚システムを有してるカルデアなら驚く事でもない。突如として立った建造物の主しかり、ビーストの元には数多のサーヴァントが付き従っている。それをどういう手段で異聞帯に連れてきてるのかは不明だが……。
「……ッ!」
一歩デアーがこちらに近づく度に尻餅をついたまま身を引く。足は震えたまま立ち上がる事すらままならない。動悸がやけに激しい。
コヤンスカヤからもたされた好色家である情報。目の前の男には殺意も敵意も感じない。もしも、女である私に
意図したわけではないが、気絶する直前に流れ込んだ可能性の幻視のおかげで自分がされるであろう
怖気づくな。怯えるな。マシュを助けるのに必要の無い感情は押し殺せ。
「いいいいいわ、わわひをちゅれててくというのにゃら、しゅきにしゅれれれればいいいいいわ(いいわ、私を連れていくというのなら好きにすればいい)」
「なんて?」
ふっ、私の突然の申し出に困惑してるようね。
こうも容易く身を差し出すとは予想していなかったみたい。ワルキューレ達を悶絶させた術をこちらに使用してこないあたり、やっぱり私には魅了の類は通用しないと見たわ。なら問題ない。私は誇り高きクリプターが一人、オフェリア・ファムルソローネ。古のノルドの血を受け継ぐ降霊科の魔術師。今更、男女の情で絆される事はあり得ません。
デアーが私を抱え込んで、現在所属しているカルデアに攫っていけばそこでマシュと接触出来るチャンスはある。この戦いも彼はマスターを狙う事はしなかった。コヤンスカヤの言葉を信じるなら、女に対しては命の保障はしてくれるという願望に縋るしか無い。どうせ今ここで無謀に抵抗しても殺されるだけならその可能性に私は懸ける。
囚われたマシュを救い出す為なら、いくらだってこの体を汚されても構わない。えぇ、そういった男と女の関係など下らない話をする段階はとうに超越しているのです。大業の任を負っているクリプターである私にとっては。
だからデアーに何をされようが、心を動かす事は無いでしょう。あの魔眼返しだけは意表を突かれましたが、わかっていれば何て事はありません。次に見た時は「お可愛いこと」と言ってあげますとも。
「どどどどどどどうひらのふぁひら? ふぁさか、わらひみふぁいなほふへにおひへふひふぁわけけけににゃないでひょ? (どうしたのかしら? まさか、私みたいな小娘に怖気づいたワケじゃないでしょ?)」
「訳、お願いメルト。Intel入ってるでしょ?」
「私にわかるワケないじゃない。気の毒になるぐらい呂律が回ってないし、顔も真っ赤よ。お手本のようなテンパリ具合ね。この娘、自分の事を客観視出来ていないんじゃないかしら? マスター、あなた一体この魔術師に何をしたのかしら」
「魔眼返しでヌードを披露してあげた」
「膝」
「いたい」
……な、中々乗ってこないわね? まさか、私の魂胆が見抜かれた? いえ、そもそもこの作戦もデアーが私に女としての価値を見出したらという前提で成り立っているワケで……。
もしかして私……自分の事を過大評価し過ぎていた? デアーは数多の英霊を抱いてるというのなら、私程度の貧相な体には女としての価値は見出さないという事?
「正気になれ、オフェリア! ソイツはきっと口にも出せないような変態プレイを強いてくるぞっ!
誰がAカップよ。
人の胸部を揶揄するなんて本当に失礼なアーチャーね。本気を出せばCぐらいあるわよ。
…………それでも女としての魅力なんて確かに自分には無いのかもしれない。瞳の色は左右で異なり、現代の戦乙女だなんて可愛さの欠片も無い異名を付けられ、想い人には全く振り向いてもらえないと思えば、頭のおかしい既婚者のアーチャーにプロポーズされる……何なのかしらね、私の人生って。
「君が何を言ってるのかはわからないけど。このまま帰ってくれるなら特にどうとかするつもりは無いよ。只の正当防衛だったし、まぁ、ここの異聞帯の王様に会いたいってのはある。この北欧に対してどういうスタンスなのかなって」
──ほう、私に会いたいとな。異邦の獣よ……その言葉に偽りは無いか。
これ以上の攻撃行為をするつもりは無い……そう言ったデアーの言葉を聞いていたかのように荘厳で聞きなれた声が何も無い宙から響いた。
オフェリア達とデアーが激突している頃、ほぼ同時刻、ヒンダルフィヨルの山頂にて──。
「オーディンの呪いによって、炎に囲まれた館で王女ブリュンヒルデは深い眠りにつく事になりました……ハッ、わかりやすいわね」
呆れたように言う女の前に炎で囲まれた氷の城が建っていた。熱く滾る炎に包まれてながら決して溶ける事のない不思議な城。まるで空間に固定されたかのような炎は来訪者を拒んでいた。
「で、アンタの言葉通り、ここまで来たけど十中八九いるわよね。モノホンのブリュンヒルデが。汎人類史か異聞帯か、どちらかは知らないけど」
来訪者は二人。黒炎の魔女ジャンヌ・オルタ。贋作の戦乙女ブリュンヒルデ。ジャンヌ・オルタと同様の黒い鎧に身を包んだ彼女、便宜上ブリュンヒルデ・オルタと呼ぼうか、彼女の魂はこの場にオリジナルがいると訴えていた。
「ヴォルスンガ・サガを知っていましたか、さすがお姉様。博識ですね濡れます」
「下の栓もう少しちゃんと締めなさい。こんなの常識よ常識。観光地に行く前に予習ぐらいはするでしょ普通。で、この鬱陶しい結界は解除できるワケ? 出来ないなら私が無理矢理ブチ破るけど」
「いえ、恐らく私なら問題無いかと。この手の結界は内から破るのは骨が折れますが外からの干渉に対しては思いの外脆いものです」
「いや、やっぱ私がやるわ。別に力づくでもいいんでしょ?」
「お姉様……?」
獰猛な笑みを浮かべて、邪ンヌが旗を構えていた……炎の結界を乗り越えて現れた複数の巨人達を迎え撃つ為に。ゲルダを助けた時とは別種の巨人。火山を彷彿とさせる黄土色の肌に幾重にも刻まれた傷痕から炎が噴き出している。身の丈に合った巨大な溶岩の槍を片手に火の巨人が数体侵入者を排除しようと姿を見せた。
「あ……? 何よ、コイツら」
敵は巨人だけではなかった。血気盛んに巨人達を駆逐しようとする彼女に水を差すように宙から
逆円錐の底面部から四方に球体が繋がれている。それは常識的には生物とは思えないような構造をしていた。だが確かな攻撃性と凶暴性をこちらに向けていることだけはわかった。
鳴き声なのか不明な音を発して、くるくると回っている。もしこの場に北欧を統べる女王がいればこう名付けるだろう。『種子』と──。
「実はこれが異聞帯のワルキューレとかオチじゃないわよね。アイスクリームみたいな外見しちゃって、サーティワンに帰りなさいよ」
「ワルキューレではありませんね……。そもそも北欧由来のものですらないかと」
「ふ──ん。まぁ、どうでもいいわ。邪魔なら等しく燃やし尽くすだけよ。丁度新技も試したかった所だし。手ぇ出すんじゃないわよ」
火の巨人、五体。宙から降ってきた生命体、六体。
臆することなく邪ンヌは自身を象徴とする旗を目の前に突き立てる。たなびく旗はその動きを激しくし、黒炎へと変化した。渦を巻いた黒炎は彼女ごと包み込み──そして、彼女がいる場所を基点として新たな世界が造り出された。
「『領域展開
白銀の地も、巨大な太陽が拡がる蒼空も、突き刺す寒さも失われた。
対峙する敵に加えてブリュンヒルデ・オルタの目の前に拡がった世界。果ての無い不毛な大地に夥しい程の十字架が全て黒炎にくべられながら、建てられていた。十字架の下には縋るような骸骨が重ねられ、空は竜の憤りによって灰色に染め上げられている。
邪ンヌが造り上げた炎には神代の生物が理解出来ない人間の恨みつらみ妬み憎しみが呪いの領域に至るまで込められている。
「この炎は神々の叡智も奇跡も及ばない人間の怒りと悍ましさが生み出した炎。そしてこの世界は我が憎悪で構築した生得領域。術式の極致とも言えるここは我が領域、この空間で繰り出される技は全て必中必滅……故に領域展開」
「……………………固有結界では?」
「違います、領域展開です」
そこは譲れない何かがあるのだろう。オサレ空間でテンション爆上げの邪ンヌの手元に旗は無い。この固有結界もとい領域展開を維持する要となっている魔女の旗は世界そのものと言ってもいい。
だからこそ、この領域で旗無き彼女が振るうのは剣。邪ンヌが吠えれば、腰に据えた西洋式の剣が何故か刀へと変貌を遂げた。
「喝采をあげよ『荒覇吐七十二閃』! 鏖殺なさい『大黒毒竜万破』!」
剣が二つに分かれ、両手それぞれに刀を抜くと同時に鎧と黒衣のマントは炎へと変化し、燃えるヴェールを脱ぐが如く、炎の中からアヴェンジャー姿からビキニ姿となった狂戦士が産まれた。
ブリュンヒルデ・オルタは鼻血を必死に抑えていた。この領域の暑さにあてられてしまったのだろうか。
弾丸となって飛び出した邪ンヌが目指すは北欧神話で語られる巨人達の駆逐。大地を踏み揺らして、前線に出てきた神代の生物達と激突する。
「『竜の呼吸 壱ノ型
揃えた二刀を上から担ぐように振りかぶり、胴体目掛けて袈裟斬りにする。竜の巨大な爪痕をつけられた火の巨人は傷から噴怨の黒炎を噴き出し、息耐えた。
「まずは一体」
仲間がやられた事に激昂しているのか空間を震わす雄叫びをあげて、巨人が一体、家屋サイズの足で小人を踏み潰そうとしていた。だが遅い。その巨体故に動きが鈍すぎる。この領域において、邪ンヌは全ステータスにバフがかかっている。巨人が彼女を圧殺するよりも先に──。
「『竜の呼吸 伍ノ型
彼女の刃が天へと飛翔する竜が如く、巨人の足だけにとどまらず、上半身、頭蓋も含めてその身と共に舞い上がりながら斬り上げた。縦に三枚におろされた巨人の頭上を飛び越え、荒ぶる愛刀を鎮めるように一度鞘へと仕舞う。ブリュンヒルデ・オルタも法被とハチマキと愛しのお姉様の顔がプリントされた団扇を両手に大興奮の模様。
「二体ッ!」
しかし、宙へと浮いたわずかな時間、その無防備な隙を巨人達は逃さない。
残り三体全員が大槍を両手で握り締め、三方向から迫る。蝿を叩き落とすように質量の暴力が隕石のように迫る。
「『邪道の六十三
大槍と衝突するよりも早く胸の前で火球を造り出した邪ンヌはそれを両手で押し潰した。外から過剰な力を加えられてしまった火球は弾け……内包していたエネルギーは行き場を求めて百近くの炎の棘となり、周囲にいる巨人達目掛けて、爆発的な勢いで突き刺さった。
呪いと化した炎の榴弾を全身に受けて、神代の炎を掻き消す怨嗟の黒炎が巨人達の肉体を喰い破る。二種の炎が混ざり合いながら巨人達は朽ちていった。
「これで五ッ! はっ、大したことないわねっ──ッッ」
「お姉様ッ!」
巨人達の駆逐は完了したがその奥には奇妙な鳴き声をあげる生命体──『種子』がいる。球体に浮かんだ十字の模様は狼煙のように不気味な赤色を帯びて点滅し、一迅の光線を放った。邪ンヌの着地を狙った六体同時に伸びるレーザーは人体の急所を突くように彼女の体目掛けて止まる事は無い。
「馬鹿ね、気付いてるっての。『血竜術
邪ンヌが人差し指をくいっと上げれば、地面を突き破り、黒炎を纏った銅鉄の杭が幾重にも重なって現れ、彼女を守る城壁となっていた。ヴラド三世の
厨二臭さプンプンの技名は名前負けはしておらず、『種子』の光線は完璧に業焔の壁が防いでいた。
「飛ぶ斬撃って知ってるかしら?」
杭の壁が無い角度に回り込もうと『種子』達が飛行を開始するよりも早く着地した邪ンヌは──攻撃を防いだ時点でもう刀を抜き、次の攻撃の段階に移っていた。何度も妄想した技を実践で使う事が出来ている邪ンヌのアドレナリンはもうドバドバ。そして、それを見ているブリュンヒルデ・オルタもラブジュースがドバドバ。ツッコミ役は不在。
「『百八
交差された手で握る刀から放たれた斬撃は二匹の黒竜となり、先程自身を守った杭壁さえ粉々にし、『種子』達の元へ肉薄する。燃える二つ首の竜は獲物を喰い破るようにうねり、飲み込んでいく。そのまま『種子』達は決して消える事の無い炎の薪となり朽ちていく。逃れたように見えた一匹だけが同胞を見捨てて上昇していたが──。
「避けきれてはないわよ。もう
直撃ではないが『種子』に付けられた小さな掠り傷。そこから黒炎が噴き出し、回避したと思い込んでいた『種子』を呆気なく飲み込んだ。火の巨人達を三体同時に仕留めた時と同様、この固有結界において自我の薄い者が彼女の炎による傷を受ければ、容易くそこから呪いという名の炎が燃え盛る。人間の怨嗟を知らない対象には抜群の効果を発揮する宝具。邪ンヌが語った『必中必滅』というのもあながち嘘では無かったりするのだ。
「ふっ、この領域は闇がよく見えるわ……」
手で片目を抑えて意味深に邪ンヌがそう呟けば、世界は切り替わった。一切完勝。今のキメ台詞で綺麗に戦いを終わらせた彼女が何を思っているのか、エスパーでなくとも分かる。
(ヤバい……今の私、カッコ良すぎる……! 領域展開で竜で黒炎で紅蓮で竜撃鳳とかどんな人生送ったらこんなセンスが生まれちゃうのかしら──!)
もし数年後、彼女が所帯を持って落ち着いたのなら今の自分を見て同じ事を思えるかどうかは未来の彼女しか知らない。少なくともこの場に異を唱える者は誰一人としていないのだから。
──もちろんこの女も。
「お姉様ァァァァァァァアアッ!」
「ギャアアアアアアアアアァァッ!」
飛び魚如きルパンダイブ。捕食者の眼光に涎をまき散らして、愛しのお姉様の勇姿に子宮を射止められてしまったブリュンヒルデ・オルタがもう辛抱堪らんと邪ンヌを押し倒し、襲いかかっていた。馬乗りになって滅茶苦茶腰を艶めかしく動かしている。
「困ります……困ってしまいますお姉様。そんなに艶姿を魅せられてしまったら、もうこうするしかないじゃないですか……!」
「馬鹿じゃないの!? アンタ馬鹿じゃないの!? 普通ここで盛るッ!? TPOを考えなさいよ!! マスターでも弁えるわよっ!?」
「大丈夫です! マスターも今頃、
「クソッ! 否定出来ないわねっ! ウギギギギギギギ、はなせぇ……離しなさいよぉぉぉぉっっ」
「魔力供給! 魔力供給ですから! 卑猥はありませんから!」
「アンタの言動全てが卑猥なのよ! ヤメロォォ! ビキニに手をかけるなぁぁ! 脱・が・す・なぁぁぁぁっ!」
「あっ、もしかして私から先に脱いで欲しかったのですか? じゃあ、はいもう脱ぎました。もうお姉様のえっち……」
「マジで頭おかしいんじゃないの!! 絶対アンタの方がバーサーカーよね!?」
全裸になって邪ンヌの服を全力で脱がしにかかっているブリュンヒルデ・オルタ。ちょうどこの瞬間デアーもオフェリアの前でおtintinランドを開園していた頃だった。このマスターにしてこのサーヴァントあり、こんな所でシンクロニシティを起こして欲しくなかった。
話は少し逸れるが邪ンヌが発動した宝具『領域展開
そして、先程の戦闘の最後に放った『百八
つまり、当然
「あの……困ります。本当にどういう事態なのか意味不明で心底困ります……」
カルデア側が来る以前に汎人類史側のサーヴァントとして彷徨っていたブリュンヒルデはオフェリアとワルキューレ達の手によって炎の館を再演した類感魔術による結界の中で封印され、眠り続けていた。
まさか封印からおはようした一発目の光景が自分のそっくりさんが全裸になって知らない女の上でレズセッ……とか最悪の目覚め過ぎるだろう。見た事のない顔で固まっている。
「いい所に出て来たわねオリジナル! コイツを引っ剥がすの手伝いなさい!」
「例え本物の私でも邪魔はさせません! 誰かに負けるのはいい……けど、自分には負けられない!」
「台詞の使いどころ絶対間違ってるわよアンタ!」
「…………この瞬間ほど、説明責任を果たして欲しいと思った事はありません……」
北欧に百騎以上存在するワルキューレ達を統べる統率個体の三姉妹。
スルーズは現在、氷の城を警備中。ヒルドはデアーとの戦闘後、敗北。その後痙攣している他ワルキューレ達とまとめてナイチンゲールの使い魔である『白き貴婦人』達の手によって『
三姉妹の中で唯一手が空いていたオルトリンデにその役目が与えられた。
こことは異なる北欧世界で存在していた──けれど間違いなく自分達の愛しの姉君。
自らの手で彼女を閉じ込めた炎の館が突然消失した事に加えて、そこにはカルデア側と思われるサーヴァント二騎の姿が確認出来たとの報告を受けたオルトリンデは量産個体のワルキューレを数騎を連れて現場へと向かった。
性能限界のスピードで飛行している彼女の顔には機械らしからぬ焦りが浮かんでいた。
(駄目……間に合って……お姉様には全てが終わるまであの結界の中で──)
──思考媒体に深刻なエラー発生。修復実行中……不可能。
──統率個体オルトリンデ、目の前の現象に対する早期解決と我々のエラーに対する指示を。
──ヒルドとは同期不可能。他量産個体30騎とも同期不可能。直ちにスルーズと他量産個体との情報共有の必要有りと判断。
──統率個体オルトリンデから量産個体へ不許可。お姉様の痴態を他ワルキューレ達と同期する事は断じて許しません。
到着したオルトリンデが目の当たりにしたのは封印した筈のお姉様とそのお姉様の同じ顔をした者が
見ようによっては二人のお姉様が見知らぬ女を取り合っているようにも思えてしまう。
「何故ですかお姉様!! まさかオリジナルの方がイイと言うのですか!? それならそれでヨシです。私は邪魔にならない所にいるのでどうぞ二人でよろしくヤッちゃってください! もう一人の自分に好きな人を寝取られるとか中々出来ない経験ですので……!」
「ぐっ……! なんて力! まさか異聞帯の私が存在しているなんて……ですがワルキューレらしからぬこの激情、そこまでこの女性を追い求めているという事は
「違うっつーの!」
──結界の破損確認。あれは間違いなくブリュンヒルデお姉様。ならば、もう一人のお姉様は一体何故全裸……エラー修正。
その日、機械じかけの戦乙女は生まれて初めて、人目憚らず声を出して泣いた。
『領域展開
ランク:A+
種別:対陣宝具
使用者:ジャンヌ・ダルク・オルタ
竜の魔女の旗を化身として展開する。同人作家になったり、女優になったり最近忘られがちだか、アヴェンジャーとしての彼女の原点が詰まった固有結界(本人曰く領域展開、ここ重要)。別に水着になる必要は無い。
本人が語った通り、必中必滅というワケではないがこの結界内において邪ンヌの全ステータスにはバフがかかるので今までわりかし雑だった命中率も上昇している。加えて彼女の攻撃により傷を負えばそこから噴き出す黒き炎による火傷&呪いによるダメージも入り、雑魚エネミーならそのダメージだけ打破可能。格上にはただのスリップダメージ。
作中で披露した技はこの固有結界内でしか使用出来ない(らしい)。実の所声に出す必要も無いが、その方が威力が三割増しになるというのは本人談。最近何の週刊誌にハマっているのかよくわかる。
邪ンヌの㊙ノートには技名とかこの手の宝具の設定が30ページにわたってビッシリと書き連ねられている。
「何々、追い詰められたら、”私に三刀目を抜かせるか……”という台詞の後、『卍解!
「イヤアアアアアアァッ!!」
「ねぇ、邪ンヌ。他二つの刀の名前がやたらと長いんだから、最後の刀の名前はもう少しシンプルの方がオサレだと思うよ。『
「もっと他に言う事あると思うんだけど!? やめなさいよ真面目な顔でツッコミを入れるの! 今、滅茶苦茶変な汗出てきてるわ! でもその名前はいいわね、私の宝具に合いそうなので採用!」