新規マスターがパイセンもらって人理修復するとか面白過ぎるでしょ。
引き続き、第二部二章です。今回は珍しく、主人公
──お姉様とマスターの3Pはマジ興奮しました。
そう爆弾を投下したのは我が道を行く贋作の戦乙女。
親愛なるお姉様を手籠めにしたという事実でさえ、憤慨ものだというのに他の女と並べるとは一体どういう了見だ。勇士が色事に奔放なのは理解出来るがやっぱりお姉様がそういう扱いになるのは納得いかないと、どこぞの築地市場の三代目のようなガンギマリした顔で槍を構え出したスルーズ、オルトリンデ。矛先が自分からマスターに移った事に少しニッコリした邪ンヌだったが、さすがにこの状態では話もクソも無いので誤解を解く必要がある。
もうこのやり取りもしつこくなってきたので、同じ顔の英霊が召喚されるのはカルデアでは日常茶飯事。こっちの黒いブリュンヒルデはアンタ達の大好きなお姉様とは顔と声がそっくりなだけの別人だと思ってくれと、オリジナルの方は今もシグルド一筋の清い? 身であると邪ンヌは雑に説明した。
その説明を受け入れてもらう為に一度、マスターの『白式官能』でお体に触りますよ……して落ち着かせたワケだが。
「この手に限る」
「この手しか知らないんでしょ」
ともあれ、新たな感情をインプットして下半身を震わせているワルキューレ二体。それを見て気の毒そうな顔をしているナポレオン。何が起きたのかわからないという風に首をかしげているスカディ……北欧側の彼女達もようやっとテーブルについてくれた。
本来こうして敵対している二つの勢力。それも異聞帯を統べる王直々が話に応じてくれるというのなら是非も無し。カルデアの参謀陣も情報を得るこの機会を逃すワケにはいかないとマスターの考えには同意を示していた。何故だかその声は3WAVEぐらい戦闘を行ったかのように疲れていたが。
「さて、我が娘達もこうして客人と親交を深めた事だ。そろそろ本題に入らせてもらおうか。お前達も北欧、ひいては空想樹の事を聞きたくて、ここまで足を運んできたのだろう?」
邪ンヌはもう前半部分にツッコミを入れる事は放棄している。
「女王、話を遮るようで申し訳無いのですが、貴女の傘下であるシグ……魔剣使いのセイバーはこの場には?」
「大神の娘よ、お前が一番に求めるあの男は私の配下というワケでもない。そしてあ奴はこの場には呼べんよ。間違いなくお前達のマスターと殺し合いになるが故にな、この場を血で汚す事は許さん。なので大人しくオフェリアの護衛をしていることだろう。しかし弓兵、お前も惚れた女の近くにいた方がよいのでは?」
「その張本人から部屋に入るなって言われちまっているからな。先の戦いではてんで役に立たなかったし、さすがに我は通せなかったワケだ。それにあの脱ぎ癖がある男から目を離さない方がいい気がしてな」
実の所誰一人として部屋に入る事を拒絶しているオフェリアにより、サーヴァントであるセイバーも含めて彼女の近くには誰もいない。これからマシュとのガールズトークを愉しむにあたってナポレオンがいない事は一見すれば良かったように思えるかもしれないが…………。
「シグルドに会いに行きたい?」
「いいえ。
マスターの提案にもやんわりと首を横に振って断りを入れるブリュンヒルデ。近くにいるとわかった以上会いに行きたい。だが目にしてしまえば、自制は利かなくなってしまう。
今は異聞帯の王が敵対する勢力だろうとも言葉を交えてくれている場を設けてくれている。そこに無用な暴力を持ち込むつもりは無いという彼女なりの気遣い。
先程飛び出したマシュとその友人との語らいを邪魔する無粋をおかすつもりは無かったのだろう。
──所長も何を考えているのか。あれはデミサーヴァント実験の失敗作だろう? マスターとして使い物になるのかね。
──どうやら医療部門のトップから強く押されたらしいぜ。ま、ホムンクルスが一匹増えた程度だ。俺達には関係無い話だろうさ。
──マシュ、その……ね。
──? ……現在の私に対して、彼等の意見は至極真っ当です。思うところは何もありませんが、どうして貴女が気にしているのでしょうかオフェリアさん。
「そう、いい旅をしてきたのね。顔を会わさなくとも声色でわかるわ。あなたが人理修復という旅路を楽しんできたのが」
フランスから始まり、ウルクで終わる七つの特異点。マシュの口から私達がいなかった人理修復、本来なら47人のマスターと万全のサポートスタッフで行われる筈だった偉業を代わりに一人のマスターとデミサーヴァントとなった少女が為し得た物語の一端を聞かされた。時折、ぐだぐだ粒子だのチェイテピラミッドなんとかだの聞きなれない言葉が耳に入ったがそれを詳しく尋ねてはいけない気がした。
世界を救うオーダー、簡単な筈が無い。失った物もきっとあった筈だ。けれど彼女の語りには悲壮感も絶望も感じられなかった。だから私は率直な感想を口に出す事が出来た。
良かった……無理矢理戦わせられているマシュという少女はいなかったのね。全て私の杞憂だった。コヤンスカヤが見せつけたあの映像も悪ふざけの捏造で、デアーの言葉も私の聞き間違いか何かだったのだろう。
私が知っているマシュ・キリエライトという少女は元気で明るいどこにでもいる女の子になっていた。
「あの……オフェリアさん。やはり、この扉を開けてもらう事は出来ませんか」
未だ開かれていない扉の向こうから聞こえる寂しそうな声は私の胸を締め付けた。
彼女がこんなにも色んな感情を声に込める事が出来たのを喜ぶべきか、今マシュと顔を合わせる事が出来ない自分の弱さを悲しむべきか。
「……ごめんなさい。私がクリプターであなたがカルデアのサーヴァントである以上、それは出来ないわ。この扉を隔てている間だけは只のオフェリアとマシュとして話をする事が出来る……。私の我が儘でしかないけれど、今はそうさせて頂戴」
「直接、顔を合わせてしまえば戦う以外にないと?」
「…………えぇ」
心優しい彼女にそんな選択肢を突き付けてしまった事に罪悪感が胸をよぎる。
決して好戦的な性格じゃなかった。デミサーヴァントとなろうとも英霊と戦えるような娘じゃなかった筈だ。きっとカルデアで大事な人が出来たのだろう……彼女が力を振るうのに思い当たる理由はそれぐらいしかなかった。
「つまり今ここでオフェリアさんをボコボコに負かしてしまえば、私達は顔を合わせてガールズトークが出来るのですね!」
「!!!!????」
マシュが何を言ったのか飲み込むのに数秒の時間を有してしまった。
「夕陽の河原の殴り合い。体力を赤ゲージまで減らしてからのモン○ターボール。一度痛めつけた後に起き上がった魔物は仲間になりたそうにこちらを見ている。えぇ、古今東西争いあう両者の垣根を無くすのは拳だと言っていました! マルタさんとか、ケツァル・コアトルさんとか!」
「ちょ、ちょっと待ってマシュ……落ち着いて? ね?」
「えぇ大丈夫です。私は至って冷静です。これまでの旅で盾峰打ちもマスターしましたから! オフェリアさんの立場も考慮していますとも。ですが一度ボコして捕虜という事にしてしまえば、そういう面倒臭い事情も全部ポイ出来ると思うんですよ」
「私が真剣に悩んでいる事を面倒臭いとか言わないで!」
壊れる! ドアノブ壊れちゃうから! ていうかドア自体が取れそうな勢いで揺れてるわ! 元気になったとは思っていたけどさすがにこれはアグレッシブ過ぎるわ! 知らない! こんなマシュ、私は知らないわ! 誰よ、この娘をこんなにしたのは!
「先輩だったら、きっとそうしていた筈です!」
やっぱり
それは困る。確かにさっきマシュと顔を合わせられないと言ったけど今は別の理由で合わせられないわ! こんなはっちゃけているマシュ、私のキャパを軽くオーバーしてるわ! こんな現実見たくなかった! しまいには両目に眼帯つけるわよ!
……何か、何かマシュの動きを止める秘策は無いのッッ……先輩、先輩? ハッ!
「そ、そういえば……マシュ。私まだあなたのマスター……先輩とやらについてはほとんど聞いてないわ。特異点の話ばかりだったから今度はその人とのプライベートな事について知りたいわね……」
「私と先輩の馴れ初めですか?」
「え、えぇ(馴れ初めまでとは言ってないけど)」
あんなにも荒ぶっていたドアはピタリと動かなくなった。何とかマシュの気を逸らす事に成功出来た事を喜ぶべき筈なのにどうしてか背中に嫌な汗が流れるのが止まらない。
自分は後に後悔する事になる、この選択を。
「お前達も目にしたのだろう。山嶺に拡がる蒼炎を」
雪の女王は語る。このどうしようもない北欧の
全ての始まりと終わりは巨人王スルト。かの黒き者が本来の役割から逸脱し、星の終焉を望んだ事から始まる。フェンリルを喰らい、ロキを殺したスルトをようやく封印した時には雪の女王──スカディ以外の神々は全て死に絶えていた。
戦争が終わり、残ったのはスルトの残り焔によって焼かれ続ける凄惨たる北欧の大地。
「とても我が子達が生きていける環境ではない。故に私はこの世界を氷雪で覆った。愛し子達の命にあの忌々しい炎が迫らぬように」
だがそれも全て解決とは至らなかった。死の炎を押し留める氷雪の世界には汎人類史のように大勢の人間が生きていくだけの動植物が育つ環境は無い。さらには闊歩する魔獣や巨人達の眼に付けば、弱き人間達は簡単に屠られてしまう。
「根本の脅威は去っている。天高く光り輝く巨大な太陽、あれはスルトを封じ込めた大神による牢獄だ。あの忌々しい災害が脱出する事はあり得ん」
唯一残った神として、スカディには人間達を守る義務があった。
集落には巨人が近づかず、人間が穏やかに過ごせる環境を保てるルーンを張った。神によって造られたその小さな箱庭しか知らない彼等は今の世界に何一つ疑問を抱く事なく生きていく。危険も争いも無く……。
『しかし、それでこの世界を存続させるにはいずれキャパシティに限界がくる』
然りとホームズの言葉にスカディは頷いた。
それは世界を運営し続けるただ一柱の神の限界でもあった。集落という閉じた世界で囲う以上、いくらでも養えるわけでは無い。
これは決して
だが北欧は最も手っ取り早く単純な解決方法を取ってしまった。いや、その選択肢しか残されていなかった。
器が割れてしまう前に過剰な容量は減らさなければならない。あまりに悲しくて残酷な決断、人類の足切りを彼女は下すしか無かった。
「100の人間に100の集落。あぁ、そうだ一万人の子らを守るのが私の限界であった」
その時の女王が何を想ったのかは本人にしかわからない。
これで子を産めなかった15歳と子を産んだ25歳が『旅立ちの儀』と称して死ぬとわかっている外の世界へ放り出される答えがわかった。『旅立ちの儀』は北欧を存続させる為に重要な間引きであると。
この世界の人間達は御使い達を崇拝し、このサイクルを疑う事も無い。強く、余計な知識を持った所で生きてはいけず、それは他の者達の命と和を脅かしかねない脅威になり得る。生きていく為にはここの人間達は疑う事を知らず、ヴァルハラを夢見て穏やかに最期を迎える家畜になるしか無かった。もし、この場に婦長がいれば終末期医療だと罵っていただろう。
「そうして、あり得ぬ事に3000年の月日が過ぎた」
「そんだけ経ってしまえば、今更疑うヤツも出てこないでしょうね。神様の使いがヴァルハラに連れてってくれるっていうんだもの。嘘も方便ってやつ? お優しい神様もいたものね、フフフフ」
「……ッ! あなたに何が!」
侮蔑を込めた邪ンヌの言葉に立ち上がろうとするスルーズをスカディは制した。マスターも視線で邪ンヌに釘を刺しておく。
「進歩も退行も無い、静かな時代がやってきた。だからこそ剪定される運命がやってきたのかもしれぬな」
3000年経った後には目新しい情報は無い。クリプターと名乗るオフェリアが来訪し、空想樹を育てなければ、この世界が滅びると告げられる。そして敵対勢力、剪定されなかった勝者の歴史、即ち汎人類史側に立つカルデアの存在を。
「話に聞けば、お前達の世界には70億以上の人の子が生きていると。それを破綻させる事なく生き長らえさせてきた強さ、称賛に値する」
だが──とそこで言葉を切る。神として、唯一残された神々の花嫁として、北欧の女王として、譲れない物があると神威を強くして彼女は宣言する。
「私にとって、汎人類史70億の命よりも我が北欧1万の命の方が重い。
『結局は敵対するという道しか無いっていうのかい? なら、どうして私達をここに招待したのかな? 元々、我々は己の生存圏をかけて争わざるを得ない。敵対するという当たり前の事をわざわざ宣言するには少々回りくどく思うのだけれど』
ダヴィンチは相容れない意を示すスカディからは敵意は感じられないと推測する。その推測は正しく、彼女は
「だから
「つまり、この世界で共に生きろと? 汎人類史を捨てて──」
「
ブリュンヒルデの言葉に全身に視認出来る程の魔力と神威を漲らせて返答するスカディ。サーヴァントではない、3000年を生きた実在する神。その力をまさしく見せつけられている。
『フンッ、カビの生えた古臭い神風情が吠えるわ。我もこの世界自体は気に入ってはおるが、上から物を言うその態度は気に食わんな。立場というものを分からせてやろうか』
ホームズ、ダヴィンチ同様、この場に存在しない者の声が届けられる。
セミラミスにとって非常に適した気温故、この異聞帯は嫌いでは無かった。人間達に甘味という施しを与えるぐらいには……だが自身の主を、最愛の人をいいように使うというのなら、今この場に現れてその喉元を引き裂くと殺意を乗せた言葉を送る。
『愛そうか、だと? マスターが住む世界が滅びる事を是としておきながら、よくほざいた。その代償は貴様の命で』
「はいストップ、セミラミス。俺らだって同じ事をやろうとしてるんだからそれは言いっこなしだ」
ここで初めて腕を組んでいたマスターが沈黙を破った。ボーダー内にいるセミラミスは何か言いたげに口を噤んだ。
ロシア異聞帯が消失せず、存在している事をこの王は知らない。
マスターの『白式官能』とアビィの外宇宙を繋げる能力があれば、空想樹を切除しようが北欧異聞帯は存続する。自身の主の口からその事実を言わない以上、セミラミスは自ら口を出すべきでは無いかとそれ以上は控えた。
異聞帯が滅びない術がわかったとして必ずしもそこにいる王が手を取ってくれるとは限らないのだ。空想樹を根付かせないまま、自身の国の現状すらも把握しないで他国に攻め込もうとする王。争いを無くし、全ての統一を目指して、他国を滅ぼす王。完璧を夢想し、世界を何度も滅ぼす王。
異聞帯という特殊な世界を統べるが故に一癖も二癖もある王達と和平を結ぶ方が難しい。
「お前達の力を借りれば、集落の数も200、300と増やせるかもしれぬ。我が子達の『旅立ちの儀』の上限も30、40と延ばせるかもしれぬ。愛を名に冠する獣よ、私の手を取るつもりは──」
「小さいよ。言ってることが」
マスターの言葉でその場にいる全員の時が止まったようだった。
「どういう意味か──?」
「小さい」その言葉の意図がわかっているのは張本人のマスターのみ。
もし北欧異聞帯の子供達の命を指して、発言したのなら──許すわけにはいかないと。魔力を込めた杖をマスターに向けるスカディ。返答次第では今すぐにでもその命を凍結せんと。その様子を見て、マスターの両隣にいた邪ンヌとブリュンヒルデ・オルタもすぐに動き出せるように静かに自身の得物に手を添えていた。
「根本な脅威なんて去っていないじゃないか。ベターじゃなくて、ベストを求めようぜ女王様。大団円ってやつをさ」
マスターが天井を指さした意味がわからない程、察しが悪い者はこの場にはいなかった。氷で造られたシャンデリアをさしているわけではなく、マスターの指の先には城の外、空に鎮座する偽なる太陽。その中で封印されているスルトの事をさしていた。
「この3000年間、あの炎でこの土地が焼かれなければ……。自分にスルトを倒せる力があれば……。何度も思ったんじゃないの」
「ッ!? 貴様ッ!」
「女王!」
全員がほんの少し上を見た一瞬の隙……マスターはスカディが座る隣に立ち、触れる事が出来る距離まで迫っていた。女王を守護すべくスルーズとオルトリンデが槍を首元ギリギリまで突き付けていたが、巨大鋏の如くクロスした槍に首を挟まれている彼には一切の焦りも浮かんでいない。立ち上がろうとしている邪ンヌ達を制する余裕さえあった。
「貴女のその偉大な力がスルトの炎熱を抑える為ではなく、この北欧の発展の為に行使出来れば、それはきっと希望になると思うけど」
「……お前達がかの
「あり得ないッ! そちらに何のメリットも無い! むしろ、スルト復活の混乱に乗じて、空想樹を切除しようと目論んでいるとしか思えない!」
激昂したスルーズが叫ぶ。カルデアの者達はいたずらに北欧の人間達を害するような悪心は持っていないのかもしれない。だがそれは何の意味も無い。汎人類史を彼等が捨てない以上、この男の吐いてる言葉は全て何の意味も持たない同情に過ぎない。結局はこの異聞帯を消滅させる選択しか残ってないのだから。
「ここに来て、ようやく確信を得たよ。スカディ、貴女はこの世界の在り方を良しとはしていない。
「……それがどうした。私の好悪など何の意味も持たぬ」
「この世界が剪定されると知っても諦めたくなかった。ラグナロクを生き残った人類を見捨てたくなかった。だから足掻き続けた3000年も」
「何が言いたい」
「愛を囁き、貴女が無暗に命を奪う事を嫌う理由さ──」
「愛を囁き、貴女が無暗に命を奪う事を嫌う理由さ──どうしようもない状況で命を摘み続けてきてしまったから、殺さなくてもいいという選択の余地が一欠片でも残っているなら、そちらに手を伸ばしたくなってしまった」
あぁ、よろしくない。これはよろしくない。感情というものが揺さぶられてしまっている。目の前にいる男の眼で語られている言葉が遠い昔に氷結させた我が心を融解させているようだった。
一度とて忘れたことはない。
3000年、全てを見てきた。子供達が外へと旅立つのを見てきた。その最期を──。
だから私は決して見逃さなかった。
誰一人として恨み言は吐かず、世界を呪わず、神を信じ、祈っていた。
けれど、
私には正しい死など分からなかった。あぁ、だがきっと……いくら神の言葉で誤魔化そうとも、私が彼等に与えたのは少なくとも安らかな死では無かったのだ。
これは私の責務であり、罰でもある。この世に祈る神が私しかいないのならば、せめて我が眼だけは子供達の最期から眼を逸らさずにいようと。
何十人、何百、何千、万…………子供達を見送り続けよう。ずっと、ずっと、ずっと──。
「女王様もワルキューレも、そして多分集落の子達もこの北欧にいる誰もが、この世界の在り方を良しとしてはしてないと思うんだよ。そうするしかないっていうだけでさ」
「ならばどうする? いっそ滅びろというか。家族の愛も知らず、老爺や老婆になって生きることも叶わない閉じた世界など消えてしまえと」
「……あぁ、何かもう前置きとか面倒臭いから率直に言うよ。
異邦の獣が今、発した言葉の意味に理解が追い付かなかった。
槍を構えたままのワルキューレ達も息を吞んでいた。北欧を救えると? 足を踏み入れたばかりの部外者でしかないお前達が?
「……あり得ぬ…………そんな事はあり得ぬ」
本来なら一笑に付す戯言だが、私の口から出た言葉はとてもじゃないが神としての威厳は無く、弱弱しいものだった。
ありもしない甘言に縋りたくなる程弱っているように見えたのか? 汎人類史と異聞帯が手を取り合って、互いの存在を許す? そのような夢物語を信じろと?
「今ならまだ聞かなかった事に出来ます。先の妄言を取り下げ、席へ戻りなさい。カルデアのマスター」
「貴女も同じか? 蛇属性の普通の女の子さえ、嘘を見抜けるんだ。俺が本当の事を言っているかどうかなんて神様なんだから見抜けるんじゃないのか?」
スルーズの忠告にも耳を貸さず、異邦の獣──デアーは身を乗り出して、私に迫る。首にあてがわれた戦乙女の刃先が皮膚を裂き、血が流れているのも無視して私に訴えかけていた。
わかっている。だから困惑しているのだ。この男も、カルデアから来訪した英霊達にもこちらを騙そうとする害意が伝わってこない。元々部外者であった封印されていた戦乙女の長姉を除き、彼等に動揺が無いのがこの男の言葉の真実味を後押ししていた。
「何故、そこまでする? 元々お前達からすれば、我らは突如、この星に現れた侵略者だ。懐柔しにきた私が言う台詞ではないが、お前が救う道理はあるのか」
当初はこの者達が汎人類史を諦める事はしないと当然理解していた。だがらといってすぐに殺すような手段は取りたくなかった。この者達も変わらない、我らと同じく自分達の世界を守ろうとしているだけなのだ。
だから懐柔して、拘束して、手管を尽くして、我らと同じ道を歩んで欲しいと願った。同じ色の願望を持った者達が殺し合う……それ程までに悲しい事はない。
「道理? そんなのは無い。ゲルダちゃんには死んで欲しくない。集落で遊んだ子供達にも死んで欲しくない。俺は自分の独断と偏見と良心に従って、救いたい者を救ってるだけだよ」
──これまでも、これからも、俺のやる事は変わらない。首から血を流している男はそう笑った。
「ふっ……ならば偶々、我が北欧がその中に入っていたというだけか。………………よい、スルーズ、オルトリンデ槍を下げよ。まずは話だけは聞いてやろう。我が北欧を救うという具体的な手段を」
「おっけ。その前にまず功労者は労わってあげないと」
「? …………何をっ?」
突然、頭に乗せられた手の意味が分からなかった。
王の頭を軽々しく触れるその不遜を誅する気が何故だか湧かなかった。その手付きがあまりにも優しくて、慈愛に満ちていていたから。
遠い過去に忘れ去った
「長い間、よく頑張ったね。お疲れ様」
「……ッ!」
頭を撫でられて、投げかけられたその言葉で──怒る事も、悲しむ事も、嘆く事も、許されなかった3000年間の自分が少しだけ報われたような気がした。
静かに頬をつたう滴があまりにも懐かしかった。
「こう、先輩ってふとした瞬間に下腹部がキュンキュンする言葉を投げかけてくれるんですよね。もう不意打ちで来るのがホントにズルいっていうか……。聞いてますかオフェリアさん」
「え、えぇ……。ちゃんと……聞いてるわマシュ」
マシュは大丈夫だと思ってたら全然大丈夫じゃなかった。何かしらこれ、新手の拷問? 下腹部がキュンキュンって何?
本当は耳を塞ぎたいのに、マシュがせっかく楽しそうに話しているからそれも無下に出来ないし、私は彼女の先輩トークにキチンと耳を傾けていた。そもそも振ったのは私だもの。
ま、まぁ。今の所は只の惚気話の範囲だし、さ……さすがに生々しい話は控えるわよね? そっち方面の夜の話とかはしないわよね? 信じてるわよマシュ……。
「特にそういう言葉をベッドの上で繋がり合ってる時に言われてしまうともうっ……! 先輩の子供を産みたい! むしろそれ以上の愛情表現をしたい! ってもどかしくてもどかしくて」
「グァッフッ!!」
「ど、どうしましたオフェリアさん? 凄い声がしましたが……」
「…………大丈夫、何も問題無いわ。ちょっと舌を噛み切ろうとしただけだから……」
「それは一大事では?」
「ノープロブレムよ。時計塔では日常茶飯事だったわ」
「さすがは魔術の総本山……。恐ろしいですね」
私は今のあなたの方が恐ろしいわマシュ……。よし、痛みで何とか精神を正常に戻す事が出来た、と思う……いや、ちょっと無理かも。
……フフ、だって正直体がまだ震えてるもの。助けてキリシュタリア様、友達になりたかった女の子に久しぶりに再会したら女としての『階位』が『
「あ、それで話の続きをしてもいいですか?」
「アッ、ハイ」
そして再び扉の向こうでマシュの赤裸々マシンガントークが続く。つくづく、つくづく……! 顔を合わせなくて良かった! マシュがこう色っぽい表情とかしてたら私きっと崩れ落ちるもの! 私の中のマシュはこんな事言わない!
ぺぺ……ガールズトークって恐ろしいのね。
「それで私も先輩と肉体関係を結ぶようになってから、かつての英雄達が戦場で昂った猛りをそういった行為で鎮めるというものにようやく共感を得まして」
「ソ、ソウ──。イイタビヲシテキタノネ」
「それで、まぁ。私達も特異点先で戦闘後の動悸や興奮が治まらなくて、互いに息を荒げて汗をかいているのを見てしまったら、あぁもう辛抱堪らないデシュ! って感じで野外でついハッスルを」
「『
「急にどうしました!?」
「…………気にしないで、魔眼の練習をしているだけだから。毎日、適度にしないといけないよ。『
くっ、別の可能性が発生しない!一つの道に定めきっている!何て執念!
「さすが……降霊科きっての秀才と呼ばれたオフェリアさん……意識のレベルが違いますね」
あなたは倫理観のレベルが低すぎるわ!
けれどさすがにこれは友達として見過ごせない。マシュはそう、純粋ゆえに簡単に染まってしまうから、色事に対しての分別がついてないのよ。えぇ、そうに決まってる。そんなマシュの心に付け込んで──ふふ、あくまで私の敵なのね、零の獣……デアー……いいわ、ならばここで私がマシュを正しい道へと引き戻す! ここが勝負所よオフェリア・ファムルソローネ! 絶対に負けてはいけない戦いがここにはある!
「あ、あ──、そのね、マシュ。そういうのは控えた方が……」
「そういうのとは?」
「だ、だからね、その──……えっちなのは良くないと思う……の」
「何故でしょうか? 性交なくして人類のこれまでの繁栄はあり得ませんよ、オフェリアさん。我々は皆、セックスなくして生存はあり得ないのですから。オフェリアさんもそのえっちの末で産まれてきたのですから。もちろん無理矢理や同意を得ないものは良くないと思います。ですが、私と先輩はお互いに尊重し、将来も約束した上で愛し合っています。『マシュは大事なパートナーだからそういう目では見れないな』ENDなんて焼却されればいいと思います。あっ、それともオフェリアさんは婚前交渉は否定派でしたか? 確かに計画性の無い懐妊は二人の将来に響くという点は否定出来ません。ですが私と先輩は長い時間を職場でもプライベートでも共に過ごし、今やアイコンタクトだけで意思疎通が図れるレベルです。これはもはや事実婚であり、私達は夫婦と言っても過言では無いと思います。結婚出来る年齢でもありますし。夫婦である以上、性交渉はコミュニケーションの一種であり、何の問題もありません。法的機関に書類を通して、正式に籍を入れなければ、夫婦とは言えないという考えもこれから時代が変わり、古いものとなっていくでしょう。夫婦の在り方も変わっているのですオフェリアさん。まぁ、婚姻届は女として憧れないと言われれば嘘になりますが、それもこの騒動全てが片付いてからゆっくりと考えればいいでしょう。レイシフト先の野外で致した時もキチンとその場で何分後に戻ると断った後に責任者であるドクターやダ・ヴィンチちゃんにモニターと音声は切ってもらうようにエチケットに気を配ってお願いしましたし、あぁ、ちゃんと異常がないか確認だけは出来るように生体反応だけはオンにしてましたよ、えぇ、事前報告は非常に大事です。ああいう場ではそこまで時間が取れないので手早く済ませる事となりますが……その後の戦闘パフォーマンスは目に見えて向上したと皆様からお褒めになられたので人理修復にも必要な行為だったと私は思います」
────────。
「それでオフェリアさんは具体的にどの辺りがよくないと考えになったのですか?」
「ご、ごめんなさい」
負けました。完膚なきまでに……。思わず謝ってしまう程にね。そもそもマシュ達が平穏に結婚出来る環境を奪ったクリプターである私が正論を振るえる立場じゃなかったわ。後、何かマシュが凄く怖かった……。私、泣いてないわよね……?
でも、ここまで来ると二人はいつ、どちらから告白したのか気になるわ。マシュがここまで感情を剝き出してくるという事は余程、彼にお熱だという事だし……色々と複雑だけど。目尻に浮かんだ雫を拭って、聞いてみた。
もうここまで来たら怖い物も無くなってきたわ、どうせ
「初めのレイシフト、特異点X、冬木から帰ってきてからすぐですよ。あっ、後誘ったのは私の方からです」
「若者の性の乱れ!」
噓でしょ? マシュからなの!? それにいくら何でも早すぎるでしょ……。全ては幻想だった。私の眼が節穴だったの? ……マシュってば思いの外、肉食系なのね……デンジャラス、まさにデンジャラスビースト。
それでも、せめて、せめて少しぐらいは甘酸っぱいエピソードがあってもいいんじゃないかしら、さっきから私の耳に入ってくるのがピンクなアダルト話ばっかりだなんてあんまりだもの。
男女の関係ってそれが普通なの? 狙った相手は性的に襲わなければならないの? ……恋バナ……怖い、ガールズトーク……怖い。
「へ、へぇ……そこまで、するぐらいなら……何か好きになったきっかけとか、あ、あるんじゃないかしら……?」
彼女のトークを止められないのならと、軌道修正を目論む。これ以上、そちらの話題についてマシュに聞かされるのは刺激が強すぎる。私の精神がもたない。これなら、恥ずかしがってもじもじしているマシュの方が100倍マシだった。
「え、えぇぇ……。きっかけ? ですか……先輩を好きになった所は沢山ありますけど──、一番最初のきっかけは、そう……です、ね」
「…………」
「どうしましょう? 言ってしまいましょうか? あぁ、でもいざ言うとなると恥ずかしいですねっ。けど、オフェリアさんがどうしても知りたいっていうのなら……きゃ──、それでもやっぱり恥ずかしいですっ! いやぁ、どうしましょう!」
「………………」
「言ってほしいですかぁ? 本当に言って欲しいですかぁ?」
イラッ
ハッ! してないわ、別にイラッとなんかしてないわ私! あれだけ生々しいトークを披露しておきながら何を今更恥ずかしがる事があるのかしらこの娘は(怒)なんて思ってない……! 大丈夫、大丈夫よ、私はマシュが大好き。恥ずかしがるマシュ可愛いホントよ。
「手を握ってくれたんです」
一分程焦らされた後、語り出したマシュの声は今までの会話の中で一番澄んだものだった。唐突に空気が変わった事に少し戸惑いを感じながらも私は真剣に耳を傾けた。
「記念すべき初レイシフト時に起きた爆破テロ、あの場にいて燃え盛る瓦礫に潰され、死を待つだけだった私、あの場にいなくて来る必要なんてどこにもなかったのに私の手を握り続けてくれた先輩」
宝物のようにマシュはその思い出を語る。
「もうどう足掻いても助からない。それを自覚した私の命に対して、本気で悲しみ、嘆き、憂いて、でもそれを表に出さないように優しく、慈しむように自分の命も省みず、最期の時間を共にいてくれようとしたのです」
あぁ、マシュ。あの極寒の地でどこにも踏み出せなかったもう一人の私。
「私はあの時初めて、人の愛というものに触れて──救われたんです……」
あなたは助けてもらえたのね。燃え盛る火の海から手を伸ばしてもらえたのね。自分を好きになれたのね──。
少し、いいえとても羨ましいわ。私はきっと……誰かに助けてもらえる事なんて出来ないから。
「オフェリアさん?」
「……最後にまともな話が聞けて、安心したわ」
「サイゴ? マトモ?」
「いいえなんでもないわ全く気にしないでちょうだい」
危ない、ちょっと気を抜いてしまったわ。
「フフ、何だかAチームの方とまさかガールズトークするだなんて思ってもいなかったので、凄く新鮮な気持ちです」
これがガールズトークと言っていいのか疑問を口にする事を私はしなかった。
……まぁ、色々と精神にダメージは負ってしまった気もするけど、確かにマシュとまたこうして言葉を交わす事が出来たのは嬉しいものだった。
この時間はクリプターとカルデアという敵対関係を忘れるという意味では心地良い時間だったのは確かだったのだから。マシュもあの男が関わらなければ、まともだったし。
マシュがここにいるという事は、デアーも女王と謁見しているのだろう。女王がどういった決断を下すかは今の私には知る由もないが、彼女がこの世界を愛している以上、争う以外に道は────。
「今度は先輩も交えて3人で────」
マシュの言葉が途切れた。城全体、いいや北欧全てに圧し掛かった重圧に気付いたのだろう。
そして
「あ、あ、あ……────」
席を外させた、この場にいないサーヴァントの
セイバー、
「うそ、うそ、嘘よ! そんな──どうして……!」
自害は令呪で禁じている。認めたくないように否定の言葉を吐き続けても現実は変わらないし、私の心はどうしようもない絶望を認めていた。
宙で燃え続けている中天の炎の塊が裂け始めた。
太陽ではない、恒星ではない、偽りの炎の星が胎動し、致命的なナニかを産み出そうとしている。
マグマの如き煮え滾り、堕ちて産まれたそれは巨人だった。再び、北欧に終わりをもたらそうと生命を蹂躙する炎の化身。
地上にいる全ての巨人達が仮面を砕き、大地に降り立った王の帰還に咆哮した。
明確なサイズさえも不明な炎の巨人。
火炎領域ムスペルヘイムの支配者。神殺しにして、北欧神代の終焉。
黒き者、真名をスルトと──。
一騎の量産型のワルキューレが玉座の間へ飛び込んできた。今しがたその場にいる全員が感じている魔力の元凶を。耳にしたくないその答えを。
──巨人王スルト、復活。
その者の脅威を知っているスルーズ、オルトリンデ、そして女王スカディの表情が強張った。女王の視線が緩やかにデアーの方へ動く。
「ちょっ、タンマ。今回に関しては俺マジでなんもしてないよ?」
〖 No.2:無間氷焔世紀 ゲッテルデメルング〗
異聞深度:B+
年代:BC.1000
〚Last battle〛
炎の巨人王、神殺しスルト
VS
ビースト0/デアー 親愛の獣
【次回予告】
ソード(意味深)マスターデアー、全てをアヘらせる時……!
「チクショウオオオ!くらえオフェリア『白式官能 寝取りの型』!」
「さぁ、来なさい人類最後のマスターァァ! 私の魔眼はあなたの全裸で簡単に封じる事が出来るわ!」
「キャストオフ!」
「グアァァァァ!!はれんちぃぃぃっ!! こ、この魔眼ヴァージンと呼ばれる四天王の私がこんな男に……バ、バカなアアアア」
オルトリンデ「オフェリアがやられたようですね……」
ヒルド「フフフ……奴はワルキューレ四天王の中でも最弱」
スルーズ「人類悪ごときに負けるとは戦乙女の面汚しよ」
「くらええええええ! 『白式官能』!!」
「「「あへぇえええええええ♡」」」
「やった……ついに四天王を倒したぞ……これでスカディのいる氷の城の扉が開かれる!!」
――よく来たなソード(意味深)マスターデアー……待っていたぞ。
(こ……ここが氷の城だったのか……! 感じる……スカディの魔力を……)
「デアーよ戦う前に一つ言っておく事がある。お前はこの私と戦うしかないと思っているそうだが、お前が北欧を存続する術を持つなら私には戦うつもりはない」
「な、何だって!!」
「そして空想樹を覆い隠していた氷雪の結晶は全て解いておいた。後は切除するだけだな、フッフッフッ……」
「フ……上等だ。俺も一つ言っておくことがある。このオレには血の繋がらない母親とか生まれの設定とかあったような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
「そうか」
「ウオオオ、イクぞオオオ!」
「さぁ、頑張れデアー!」
デアーの性器が異聞帯を救うと信じて……!ご愛読ありがとうございました!