※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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怪盗団になって、ガラル地方でチャンピオンにもなったので更新が遅れました。




皆様の評価や感想が力になってます。誤字報告もいつもありがとうございます。
今年中には2章のストーリー部分は終わると……思います。


週末のワルキューレ①(第2部 2章)

 ──おやおや可哀想に。愛しのマスターから入室禁止ですか? まぁ、アナタに傷心中の乙女の心の機微を察しろだなんて無理な相談でしょうが。

 

 ──何の用だ。

 

 ──手っ取り早くビジネスの話をと思いまして。今のアナタの状態で消化試合を見せられても退屈の一言ですから。

 

 ──…………………………フン、女という生き物はまどろこっしい。最初から要件だけ言えばいいものを。

 

 ──霊核を貫かれてもノーリアクションですか。自害を令呪で禁じられている以上、最低限の自己防衛ぐらいはすると思ったのですが……。あ──、なるほど♪ もうその元気すら無くなっていましたか。こっ酷くやられていましたものね~~。

 

 ──この時をずっと待っていた。先の屈辱は奴の死をもって……返す。女狐…………。

 

 ──あ──、ハイハイ。オフェリアさんを連れてこいでしょう。言われずともわかっていますとも、私はアナタを檻から解放する。その代わり、アナタは私達の敵である彼を滅ぼす。負担が大きいソチラにはそれぐらいのサービスはしてあげますとも。

 

 ──ククク、終わりだ。地も、獣も、人も、星も、愛も。全てを炎にくべよう、クク、クハハハハッ──。まずは、奴を殺す。異邦の獣ッ──! 

 

 ──行きましたか。さっさと空想樹を取り込んで欲しい所ですが……。

 北欧の神々を殺し尽くした終末装置。まさしく異聞帯の中でも最強クラス。

 それでも、依怙贔屓というわけではありませんが、彼がスルトに負ける図が想像出来ないんですよね──。おかしな話ですけど。

 まぁ、隠された力の一端ぐらいは明かして下さい。特大級の試金石として、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行かなければならない……。

 

 北欧で最も起こしてはいけない禁忌(タブー)が目覚めてしまった。重圧と恐怖で眩暈がしそうになるがそれでも倒れる事は許されない。私はマスターであり、キリシュタリア様に期待されているクリプターの一人なのだから。

 

「オフェリアさんッ! ……ッく!」

 

 一瞬、マシュの逡巡したような声が聞こえ、やがて気配がドアから遠ざかっていく。彼女がサーヴァントである以上、この尋常ならざる状況には気付いている。マスターの元へと向かったのだろう。あれに護衛が必要かと言われれば、首を傾げざるを得ないが。

 ……本当に優しい娘。すぐにマスターの元へと駆け付けたかっただろうに敵である私に少しでも気を遣ってくれたのだから。盾で峰打ちしようとするマシュなんていなかった

 

 指先の小さな震えを隠すように手を握り、ベランダから外へと飛び出そうとする。でも一体、どうしてスルトが? 自害は令呪で禁じている。カルデアの連中の仕業? 

 

 

「お楽しみの日曜日がやってきてしまいましたね~。ま、永遠に水曜日だなんて過労死まっしぐらですもの。偶には週末(休み)も必要だと思いません?」

 

「あなた……ッ!」

 

 いつからいたのかはわからない。手摺に腰掛け、口元をいやらしく三日月に歪ませているその悪女を見た瞬間、根拠は無いが確信した。この女だ。スルトを呼び起こしたのは間違いなくコヤンスカヤだと。

 

「一体ッ……どういうつもり!?」

 

「どういう、とは? なぁーんてとぼけてもいい所なのですがスケジュールが迫っているので端的に答えてあげましょう。はぁい、そうです。アナタの騎士様の大事な所をブスッ♂と貫いてあげちゃいました」

 

「どうしてそんな事をしたのと聞いているの!!」

 

「自分でもわかっていること聞きます?」

 

「…………何をっ、放しなさいっ!」

 

 呆れたようなコヤンスカヤの返答に窮していると突然、荷物のように担がれてしまった。人間を、魔術師をも超越したスピードで彼女は城を後にして、炎の巨人を目指していた。

 蒼炎盛る山嶺に氷の針葉樹がどんどん後方へと流れていく中、大きさを測る事すら馬鹿らしくなってしまう巨人達の王がいた。可能性を垣間見た時の朧気のような姿ではないその存在感は私にどうしようもない絶望を与えていた。

 

「早いか、遅いかの違いしかありませんよ」

 

 スルトの元へ辿り着いてしまった。

 コヤンスカヤの言葉の意味を一番理解している私には反抗する気力は無かった。

 最初に相対した時から、いやそれ以前からわかっていた。シグルドの状態のままでは決してデアーに、カルデア側には敵わないと。この女はあくまでお手伝いをしたに過ぎないとそう嘯く。

 カルデア側がもっと脆弱なら良かった。シグルドの状態のまま、壊滅出来るぐらいに弱ければよかった。けれど、そんな可能性はここには無い。だからコヤンスカヤの言う通り遅いか、早いかの違いでしかない。

 

「あぁ! こういう選択肢もありですよね? アナタが完全降伏し、カルデアに空想樹を切除してもらって、その後でシグルド(スルト)を殺してもらう。異聞帯と一緒にスルトの肉体(偽の太陽)が消滅した後なら、もう何も憂う事は無いでしょう。彼の上で腰を振っているだけの甘美な性活が待っていますが?」

 

「……そ、んな事、出来るわけ……ないでしょう!」

 

 分かり切った答えだった。戦いの末による決着ではなく、自ら恭順してこの異聞帯を捨てる事など出来ない。汎人類史全てを敵に回しても生存を選んだ自分自身、何より私にもう一度チャンスを与えてくれたキリシュタリア様を裏切る事になる。

 これ以上あの人を失望させるワケにはいかない。会議の場で初めてデアーを見て、狂乱し、キリシュタリア様を置いて逃げ出してしまった私に挽回の機会があるとすれば、それこそデアーを倒す道しか残されていない。

 

「えぇ、えぇ。そうでしょうとも。大好きなキリシュタリア様に期待されていますものね。彼に助けを求めても『君ならその窮地を越えられる筈だ』と告げられてお終い」

 

 分かっている。スルトを召喚した時から全て分かっていたことだ。スルトの報を耳にした時もキリシュタリア様は喜んで下さった。興味深く、星を焼却する力を前に臆する事なく、君は良いカードを引いたと告げた。キリシュタリア様は私に期待して下さっている。

 私はマスターとして、スルトを制御しなければならない。私は間違わない……私は失敗しない……。私は──。

 

 

「なんて可哀想なヒロイン……。あの傑物は導く事はあっても、決してアナタを助ける事はないわ。いえ、全てに悲観し、逃げ出す事も踏み出す事も……手を伸ばす事さえしないアナタを一体誰が助けてくれるというのかしら」

 

 ノイズが何度も走り、頭痛が私を苛む。この悪女の言葉を否定する材料が私にはない。

 あぁ、結局何も変わっていなかったのだ。カルデアに来る前から、日曜日にひたすら怯えていた頃から私は何一つとして進歩していない。

 

「私は──……」

 

【戯れが過ぎるぞ女狐。度を過ぎれば殺すと言った筈だが……】

 

 脳に直接言葉が響くような感覚。声帯による発声ではなく、これは魔術による意思伝達……! 

 莫大な炎熱で周囲を燃やし尽くしている巨人の王が私達を見下ろしていた。さすがにマスターである私に対してその炎を向けるつもりは無いらしい。

 

「はいはい、わかっていますとも。これ以上ここに長居してしまうとお気に入りのコートが煤にされてしまいそうなので退散させて頂きますね~~」

 

 場を荒らすだけ荒らしたコヤンスカヤは私のこれからの顚末を嘲笑うかのようにその場から姿を消した。

 

 スルトの姿はコヤンスカヤに攫われていた時に遠目で確認した時から変貌を遂げていた。

 左半身は炎とは対照的な蒼。彼のイメージにはそぐわない氷の肉体から蒼炎が噴き出ていた。

 

「その姿は……?」

 

【ククク、本来の力を取り戻しただけだ。空想樹を喰らってな──】

 

 女王(スカディ)が隠していた空想樹を取り込んだ? 

 本来の力……かつて封印される前に呑み込んだ終末の獣──巨狼(フェンリル)の氷の権能を取り戻したと──スルトはそう嗤う。彼の言葉を信じるなら、空想樹の接続先も既に女王(スカディ)からスルトに移ってしまっている。

 それだけではない、可能性を見通せる私にはわかる。スルトの背後にある不可視の竜の翼。間違いなく悪竜現象(ファヴニール)が発生している。

 

 フェンリルの権能に竜の翼を得たスルト? 悪い冗談だ。けれどその馬鹿げた話が今、目の前で起こってしまっている。しかもそれが私のサーヴァント。

 

【ようやくだ──。これで、あの目障りな獣を殺す。貴様に不快な物を見せつけたあの男の全てを灰にしよう】

 

 スルトの殺意は当たり前だが、デアーに一心に向けられている。

 炎の剣を手にした竜種と巨人種のハイブリッド、これなら勝てる? 

 

 私が初めてあの人類悪(デアー)と遭遇してしまった時に垣間見てしまった別のビーストへと派生する彼のいくつもの可能性。もしこの世界におけるデアーがそのビーストの内の()()()だったのなら、私はこのスルトを見てもなお、勝機を抱かなかっただろう。

 

 23集落前で戦った(デアー)は確かに規格外ではあった。けれど──。

 

 壊してしまう程に全てを愛そうとする強靱さも。

 一人の女の願いの為に世界を滅ぼそうとする狂気も。

 全ての生命を自己の快楽の為に蕩かす悪辣さも。

 

 存在しなかった……。今なら気づける。彼は私が見た可能性の中で一番優しく()()()があるビーストだった。

 

 だから本来なら喜ぶべきなのだろう。あれだけ恐れていたデアーをスルトが倒す事が出来る可能性が出て来た事を。

 

 なのに私の心は晴れる事は無かった。自分でも取り返しのつかない道を転げ落ちているような感覚。

 デアーがマシュを虐待していたのなら話は違ったのだろうか。でもマシュの話を聞いてしまった私はあの娘の最愛の人を喜んで奪うような真似はしたくなかった。

 デアー自身もあれだけ殺意を向けた私に対して敵意は見せなかった。敵意以外のとんでもないものは見せつけられてしまったが、私自身は五体満足で戻ってきている。

 自分でも何をしたいのかもう分からなくなってしまっている。マシュとデアーをどうしたいのか……。私は戦いたいのか、逃げたいのか、それとも助けて──。

 

 いいえ、いいえ。違う、今はそんな事を考えるのではなく、スルトを……。

 

【また、あの男の事を考えているな──】

 

 飛翔のルーンを私にかけたのか、気付けば私はスルトの左肩に乗せられていた。体が燃えていない以上、スルトの熱気の影響を受けないように保護はされているがそれでもひどく息苦しい。その破壊しか知らない紅蓮の瞳を私に向けないで欲しい。

 

【俺を見ろ、俺の事だけを考えろ。お前の恐怖も煩悶も崇敬も全て俺にこそ捧げられるべきだ】

 

「ふざけた事を言わないで、これからどうするつもり──?」

 

【言った通りだ。まずは異邦の獣を殺す。そこが始まりだ。そしてそこから北欧に、いや地上全てに神々の黄昏(ゲッテルデメルング)を見せよう】

 

「……そんな事を……許すと思ってるの?」

 

【あぁ、許すさオフェリア。お前の大令呪(シリウスライト)の力があれば、他の異聞帯にも侵攻出来よう。あの時の約定を果たそう。お前には星の終わりを見せてやる】

 

「あり得ないわ………………星を燃やすなんて。…………私の大令呪(シリウスライト)を使って──全ての命に終わりを…………あぁ、それもいいかもしれない、わね…………」

 

 …………。…………? 

 待ちなさい──? 今、私は何を考えてッ──。あぁ、痛い、頭が……割れるようで──。これ、は呪言? スルト、私に何を仕掛けッ──? 

 

【「悪竜の呪い」だ。お前の魂と意志を縛った。案ずるなオフェリア。お前は何も考えなくてよい……。その瞳で俺が為す事だけを見ていればよい。ククク、まずは異邦の獣の灰で俺達の門出の祝福をしよう】

 

 自分の意志も思考も全てが炎で溶かされていく。

 あぁ、違う。違うッ、違うッ! わ、たしはッ……! ………………………………………………………………………………………………………………………………………そう、ね──。それでいいのかもしれない。えぇ、燃やしましょう。全てを…………滅ぼしましょう──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苦しそうに呼吸をしているアリスの手をデアーお兄さんと一緒に二人で握る。あたしも何度か見た事があるからわかった。もう少しでアリスから新しい命が産まれる。あたし達の知らない世界からやってきたデアーお兄さん、アリス……二人の「子供」が。

 

 汗をかいて、歯を食いしばって、あたし達の手を必死に握り返してくれてるアリスに何度も頑張れ、頑張れって声をかける。顔の無いお姉さん達が周りを慌ただしく動いていた。デアーお兄さんも真剣な顔でアリスの様子を見ている。

 

 

 ふと、窓の外に目を向けると、遠くに真っ赤な人が見えたような気がした。おかしいの、巨人でもあんなに大きい人なんているわけないのに。

 

 

「あれ──? おひさまは、どこ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、巨人の足音近づいてきてない?」

 

「……あぁ、大丈夫だ。ここにはちゃんと御使いの加護がある。僕達をちゃんと守ってくれる筈さ」

 

 大地を踏み抜く足音がいくつも聞こえる。それは着実に集落の方へと向かっていた。

 女王スカディによる仮面の拘束から解放された巨人達が行軍を始める。

 戦争を──。

 蹂躙を──。

 暴虐を──。

 ラグナロクの続きを──。

 

 生きとし生ける命全てを喰らい尽そうと目覚めた巨人の軍勢が人里へ殺到し始めていた。

 言語化出来ないおぞましい咆哮は歓喜の感情に溢れていた。また大勢の命を奪えれる喜びに。

 

 眠りから動き出した巨人達の数は現在活動可能なワルキューレ達の十倍近く。女王の命によって集落の守護に回っているが彼女達だけではとてもじゃないが守り切れない。

 

 23集落にも魔の手が迫っていた──。

 

 

「おいおいおいおいっ! これもしかしなくてもマズくないかね!? 神代の巨人(ヨトゥン)とかゴメンだよ? そういう野蛮事は埋葬機関とかの仕事じゃない? 私のゴッフパンチもウェイトクラスが違い過ぎる相手には通用しないのよ?」

 

 異常に気付き、外を覗いたゴルドルフが巨人達が群れを成してこの集落に向かっている悪夢のような状態を目の当たりにし、即座に乱暴かつ迅速に住民を家屋に避難誘導させながらテンパり、怒鳴り散らすという器用な真似を披露していた。

 

『いや──そっちの方は問題無いでしょ、多分。むしろマスター君側の方がマズそうかも』

 

「はぁっ!? あのバケモノマスターが手こずる事態なんてあり得るのかね? 巨大マンモスと化した雷帝をワンパンでノックアウトする奴だぞ!? 何だ! オーディンか? フェンリルか? それともまさかスルトでも出てきたとか言うんじゃないだろうね?」

 

『お──、さすがはゴルドルフ司令官。察しが良いね』

 

「……………………じょ、冗談だよね?」

 

『冗談だったら良かったんだけどね──。ま、そっちには()()()がいるから何の心配もいらないかな』

 

「あのナマモノ達の事を言ってるのかっ? 大丈夫なのかね、アレ、ホントに戦力になる?」

 

 ゴルドルフが指しているのは虎の着ぐるみと狐耳を生やしたメイドというぱっと見コスプレコンビ。

 集落での料理中でも1言葉を吐けば、100で返ってくる。聞いてなくても100で語りかけてくる。しかもその内容が半分も理解出来ないのでとてもじゃないが理性的なコミュニケーションが取れない。完全にイロモノ枠としか思えないあれらが戦力になるとは信じきれなかった。

 

 

「オ──、そう褒めるなふとっちょ。所詮は大したモーションも用意されていない雑魚エネミー、同じバーサーカークラスでもオムライスにエッグハンバーグからのお昼寝スタンと多彩なキャットとは雲泥の差よ。スカスカシステムでNPチャージ余裕なのさな。え、キャットじゃ無理? そんなぁ」

 

「あぁん? ユー達どこ中よ? 私? 私、アステカ中。いや全然田舎じゃないし、この豹柄のマブさがわからないとかマジでか。ようし、じゃあOPからもEDからもハブられた乙女の哀しみ見せあげよっかニャ──」

 

 そういえば、あの二匹の姿が見えないとゴルドルフが気付いた時には二匹のケモノは臨戦態勢を取っていた。集落の唯一の出入口。巨大な大扉の両端、石で造られた支柱の上にそれぞれ立っている。

 

 獲物を見つけて、走り出す巨人達にそれ以上集落に近付く事はまかり通らぬと彼女達は自慢の得物を構える。

 

『あぁ、何の心配はないとも。言動、姿ともに冗談としか思えない彼女達だが』

 

「スカンジナビア風巨人の三枚おろしッ!」

「ジャガークロウッ! 敵は死ぬッ!」

 

 飛び降り、巨大化した犬の手を振るうタマモキャット、虎の手がついた謎の棍棒を振るうジャガー。ビジュアルは何とも気の抜けたものだがその威力は圧巻。

 一体たりとて集落に辿り着く事は許されず、血飛沫を上げて巨人達は崩れ落ちていた。

 

「おっ、おぉ!」

 

『片や九尾の分霊的化身。片や南米の神霊。単純な破壊力で巨人程度に遅れを取る事はないさ』

 

 

 そして今、巨人達の狼藉に最も怒りを募らせてる者がいる。『境界無き病棟(ボーダーレス・ナイチンゲール)』の屋上にて、白衣の天使はこの世界の治療にあたる。

 

 

「なんと悍ましい。司令官の子供──新たな命の誕生という祝福すべき瞬間にこうも菌がわきますか」

 

 ナイチンゲールの使い魔である『白き貴婦人』達は主の命により、30体を病棟に残し、残り350体は北欧中を飛び回った。

 

「子を産む喜びを知らなくとも、子を育てる人生を歩んでこなくとも、私がすべき事は変わりません」

 

 人を守れ。

 生命を救え。

 命を脅かす病源菌()を絶対に許すな。

 

 顔の無い看護婦達はナイチンゲールの精神性を具現化したもの。『病』と断じた物への対応は苛烈の一言。

 

 一体の『白き貴婦人』が巨人へと飛びかかる。だが体格の差は文字通り巨象とアリ。

『白き貴婦人』は巨人の掌に押し潰された。命が自分の手の中でひしゃげる感触に巨人が口元を歪ませたが──。

 

「ッ────!!?」

 

 突如として襲ったのは痛み。無謀にも自身に挑んだ小人を押し潰した筈の手の中指がへし折られている。180度折れ曲がった指の間から這い出た『白き貴婦人』は四つん這いの状態で信じられないスピードで巨人の腕から肩へと駆け上る。絵面はまるでホラー映画。

 

 痛みに悶える暇すら与えず、巨人の顔面に到着した『白き貴婦人』は敵の右目に手を突っ込み、眼球を引き摺り出した。バランスを崩し、フラつく巨人に追加の看護婦達が一体、二体と体に飛びつき、狂ったように拳を殴打し続ける。その猛攻は巨人が倒れ伏し、生命という活動を停止するまで続く。

 

 見的殺菌(サーチアンドデストロイ) 見的殺菌(サーチアンドデストロイ)

 サイズで大きく負ける巨人相手に複数で飛びつき、的確に肉体で殺菌していく彼女達の姿はまさしく細菌を分解する白血球が如く。

 

 ナイチンゲール本人もマシンガンのような注射器から殺菌・滅菌対象を消滅させるアンプルを嵐のように撃ち出し、巨人及び魔獣達を片付けていく。まさに人間戦車。あれ、看護婦なんですよと言って誰が信じようか。

 

「生者の為に施しを、患者の為に奉仕を。命の為に剣を持ち、悪菌共には死の制裁を」

 

 

 バーサーカー看護軍団が戦場へ馳せ参じているのを上空からセミラミスの使い魔である鳩が視界に映している。

 

 

『神代の兵士に対して何ともまぁ、野蛮な事よ。本当に近代の英霊かあれは?』

 

 

 呆れた様子で呟く女帝も手は回していた。自身のマスターが守ると決めた以上、一人たりとて人間の死者を出す事は許されない。万全の上に万全を期す。ワルキューレ、『白き貴婦人』、加えては自身が扱う()()()()()()()()()達。

 

 人里離れた外れの場所に()()はあった。

 何故か、魔獣や巨人さえも近づかない()()は全てがチョコレイトで出来ていた。

 成人男性程のサイズである()()は黒めでゆるキャラの没案にいそうなビジュアルの癖に見る人全てに邪悪な印象を抱かせる物体だった。

 

 頭上にチョコレイトの球体を浮かばせている物体Xはセミラミスの新たな宝具『チョコレイト・チャリス(チョコ聖杯くん)』。

 

 彼女の魔力の限り、口から垂れ流しているチョコレイトでサーヴァントを生成し続ける。紛い物とはいえ、サーヴァントの形を為したものが名状し難いゆるキャラの口から産まれ続けているのは如何なものかと思うが誰も見ていないのなら問題無いだろう。

 

 基本ここで産み出されたチョコサーヴァント達も暴走している巨人、魔獣、そして空想樹の種子の掃討に駆り出されているが()()だけ、セミラミスの命によりある場所へと向かっている。

 

『この異常事態だ。使える手は多ければ、多いほどいい』

 

()()()()()()()を模したチョコサーヴァントが向かった先には既に消滅しかけていた一騎のサーヴァントがいた。コヤンスカヤに霊核を貫かれ、座に還る寸前のサーヴァント。スルトの外殻でもあったシグルドが。

 

『本来は対シグルド用に準備させたものだったが……まぁいい。我が配下達にはこういう使い方もある』

 

 受肉していないサーヴァントすらも太らせる──まさにカロリーの暴力といえるチョコサーヴァントはエネルギーの塊。戦力以外にも回復手段として使用する事が出来る。

 

 霊基が消えかけ、指一本動かせないシグルドは摂食という行為をする元気すらないが……何ら問題は無い。今回は被食者側が自発的に食べられるように働きかけているのだから、具体的には──。

 

「オゴッ! オゴォォッ!!?」

 

 チョコブリュンヒルデが自らの片腕を突っ込み、シグルドの顎を無理矢理動かして、食べさせる。手足をバタつかせ、暴れるシグルドに馬乗りになり、抑え付け、嚥下出来るまでに回復したら、液体化し、つま先まで全てを無理矢理飲み込ませる。

「元気がないのなら、僕の体をお食べ」。愛と勇気だけが友達の正義の味方を彷彿とさせる施しの精神。美しい自己犠牲がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とまぁ、こっちの方は問題無しッ! 女王様のワルキューレ達と連携しながら、集落の子達を守っているから君達は心置きなく巨人の王、スルト討伐に集中してくれたまえ!』

 

 通信から入るダ・ヴィンチちゃんの快活な声を耳にしながら、俺達は()()()と対峙していた。

 フードを被ったワルキューレが焦った様子で報告をしたのは──スルト復活、さらに城内で消滅しかけのシグルドの発見……そこにあった魔力の残滓から下手人はコヤンスカヤとてんこ盛りだったのだが…………しばらくして、女王様の城の壁を破って、巨人に加えて、変な鳴き声がしているアイスクリームみたいなのが雪崩のように押し寄せてくる。やたらと多い。綺麗なお城だったのに……全く、勿体無い。

 

「先輩、ご無事ですか!?」

 

「うん、余裕余裕」

 

 駆け付けてくれたマシュはブーメランのように盾を投げ、巨人を切り裂き、盾が戻ってくると同時に跳躍し、そのままキャッチした盾で巨人の頭蓋を殴りつける。着地し、俺を背後にして、どんな時でも、どんな俺でも心配してくれるマシュにくすぐったさを覚えながらも状況を確認する。

 

 邪ンヌとブリュンヒルデは問題無し、ナポレオンも浮かんでいるアイスクリーム共を撃ち落としているし、スカディも杖を振るい、ルーンを刻んで対象を氷結させてから砕いていた。実は最初に「この狼藉! 許せぬ! 死せよ!」とドヤ顔で命じたのに、敵がピンピンとしていたのは内緒。俺はちゃんと見ていたぞ。

 後はワルキューレの報告でシグルドの霊基が消滅しかけている事を知って飛び出した筈のオリジナルの方のブリュンヒルデが何故か「浮気です殺します!」「誤解だブリュンヒルデ!」と様子が変わったシグルドを殺そうとしながら戻ってきてる事ぐらいだから特に問題は無いね。

 

「いや、スルーしようとしてんじゃないわよ! どういう事なのよ!」

 

「何か、セミラミスから聞いた話だと、自分とそっくりなサーヴァントをシグルドが食べているのを目撃して、浮気認定入ったとか」

 

 サーヴァントというかチョコレート? 食べるっていうのも一つの愛情表現だし、そういう考え方も否定しない。けど、俺は性的に食べるやり方の方が先があるし、生産的だと思うけどね──。

 

「おっけ! よく分からんってことだけは分かったわ! つーか、あのボケワルキューレ共も後ろで『殺れ殺れ! お姉様!』って応援してる場合じゃないでしょ! 状況見えてないの? こっち手伝いなさいよ!?」

 

「いつもは突っ込まれる側なのに、戦闘中でもツッコミ役を放棄しないお姉様素敵です!」

 

 邪ンヌはあぁ、もう全員死ねばいいと思う! と叫びながら、黒炎で敵を燃やしていく。いや器用ですね、さすが同人作家。まぁ、あの二人は特に心配しなくても問題無いって俺のビーストセンスが告げている。ほら──。

 

「案ずるな我が愛よ。当方にはお前しかいない……。お前を胃の中に入れてしまったら、当方の愛を伝える事が出来ないではないか……」

 

「シグルド……♡」

 

 数秒前はガチで殺し合ってたのにもう、抱き合って完全に二人の世界に入っているもの。黒髪と金髪のワルキューレの娘達はそれを見ながら唾吐いているけれども……女の子があんまりそういう事しちゃいけないと思うよお兄さんは。

 

「何これッ! 上が騒がしいと思ってようやくカルデアの人達とお義母さんが戦ってると思ったら斜め予想の状況なんだけど?」

 

 状況は目まぐるしく変わる。すぐ傍に白熊に乗りながら北海道で黄金探しそうな格好をしている少女が困惑しながらも戦っていた。知らない娘ではあるが顔は知っている。思わず、独り言が漏れてしまった。

 

「……あれ、イリヤ?」

 

「……ん? どこかで会った事あったかしら?」

 

「いや、ないよ。小学生で魔法少女な君を知ってるだけ」

 

「何それ!」

 

 俺が知ってるイリヤとは別か……。ドッペルゲンガーがポンポン増えても今更驚きは無い。一緒に戦ってくれてるなら味方だろうし、自己紹介は後かな。これからすぐに細かい事には構ってられなくなるからね。あぁ、でもカルデアに連れて帰ったら美遊とか悦びそう。

 

『君と対峙したセイバー……シグルドと今、ここにいるシグルド。霊基の反応は一致しているにもかかわらず、まるで別人。スルト復活のタイミングは偶然では無いだろう。つまり』

 

「何故かスルトの魂がシグルドの中にいて、コヤンスカヤがシグルドの体を壊した事で何か上手い事なって、スルトの魂と太陽の中にある体がドッキングして復活してここに来てるって事でしょ! 把握!」

 

『あぁ……うん。酷く雑だけど、大体それで合ってしまってるあたり……探偵泣かせだね君は。もうこの異聞帯における私の役目は無いだろう……』

 

 ホームズのシュンとした声が聞こえる。ごめんなさいね! 今はほら推理パートじゃなくてバトルパートだから。でもこれでセイバーと戦った時の違和感は分かった! はい、スッキリ! ありがとうホームズ! 

 

『はいはい、ヤク中探偵がナイーブになっているのは置いておいて。測定器がエラーを吐き出すレベルの魔力反応がすぐ近くまで迫っている。もうここまで言えばわかるよね、マスター君?』

 

「あぁ、もう気付いているよ」

 

 度重なる襲撃でついに城が崩壊し、氷の瓦礫が俺達へと降り注いだ。瞬間、スカディが杖を横にはらうように振って、全ての瓦礫が埃のように彼方へと吹き飛んだ。

 吹き曝しとなった城。外気を一切遮る物が無くなり、俺達が一番最初に感じたのは炎。

 

 燃え盛る剣を片手にこちらを見下ろしている炎の巨人がいた。首が痛くなる程にその頭は空高く。

 

 

【この景色から見下ろす貴様は……小さいな】

 

 

「そっちは見ない間に随分と大きくなったね。なに、成長期?」

 

 

 スカディが、ワルキューレ達が絶句していた。自らが住む世界の滅びの象徴となった存在が目の前にいる事実に。もはやサイズの差を比べるのが馬鹿らしくなってくる。まぁ、多分グガランナよりは小さいだろうけど。

 そして、視力19(自己申告)ぐらいある眼はスルトの肩に乗っている女の子も目視で確認済み。もしかしなくても、あれはオフェリアさんか……眼も虚ろだし、正気には見えない。

 

 

「それがお前さんのやり方か、仮面の剣士。自分のマスターをおかしな術で縛り付けるのがよぉッ」

 

【吠えるな、役立たずの弓兵が。オフェリアにはもはや道は無いという事だけだ。俺の手を取る以外にな……ククク】

 

 う──ん、何だろう。何故か今のスルトを見ているとキルケーを思い出してしまった。何故だか理由は全く分からないけど。

 

「そんなオフェリアさん……。私があの時無理矢理連れていってれば」

 

 バイザーで同様に確認したマシュが悔やむように唇を噛み締めていた。少なくともマシュはオフェリアが望んでこの状況を作っていない事は分かっているようだった。まぁ、見るからに無理矢理従わされているとかそんな感じの印象だし。

 

「大丈夫マシュ。取り返せばいいだけでしょ……いや取り返すという表現はおかしいか。元々は敵対関係なワケで、あっちとしては普通にマスターとサーヴァントの関係だろうから」

 

「では寝取るでいきましょう」

 

「じゃあ、それで」

 

「それでじゃないわよ」

 

 ブリュンヒルデと邪ンヌ、クソデカ巨人を前にしても全く動じていない二人が軽口を叩きながら、俺達の傍に立つ。

 

「先輩……私もっともっとオフェリアさんとガールズトークがしたいんです……。今度は顔を合わせて、だから──」

 

「分かってるよ。俺だって色々怖がらせてしまったこと、実はまだ謝ってないし」

 

 都合が良かったよ。元凶のスルトがノコノコここまで来てくれたんだから、探す手間が省けた……。ん、既に剣を振りかぶっている? あれ? もういきなり攻撃? ちょっと早くない? 

 

【雪の女神も英霊も人形も人も眼中にあらず、俺が動くだけで吹き飛ぶ塵芥よ。異邦の獣、番外の人類悪……お前を殺せば、全てが終わる】

 

『マズイッ! ここ(異聞帯)での名は明らかになっていないが、スルトが持つ炎の剣は間違いなく神造兵器! 振るわせたら、北欧のテクスチャごと消滅してしまうぞ!』

 

 その巨体に見合った剣を両手に、力を溜めている。この一撃で俺を仕留めようとする殺意を確かに感じた。宝具解放の前兆である熱気は高まり、周囲一帯を燃やし尽くす暴威となる。スカディがルーンで保護をしてくれてなければ、足場になっている城もあっという間に蒸発していただろう。

 

 うん、確かにあの剣はちょっとマズいし……北欧が消滅してしまうのも認めない。ここには俺の守りたい物がたくさんあるし。

 それに、もうこの異聞帯は俺のモノだ──。

 

「マシュ、ちょっと本気出す」

 

「では──」

 

 具体的に言わなくても察してくれる後輩、マジ後輩。

 

「あぁ、俺の第五宝具を解放する」

 

 

 






チョコレイト・チャリス(チョコ聖杯くん)
ランク:A+
種別:製造宝具
使用者:セミラミス(チョコラミス)

カーニバルでファンタズムな作品に出てくるあの邪悪なモノとは一切関係が無い、イイネ?
一定間隔ごとに口からチョコサーヴァントを産み出し続ける。短いスパンで多数産み出せば、産み出す程、使用者の魔力消耗は激しくなる。
戦闘力はシャドウサーヴァント以上、通常サーヴァント以下。だがチョコサーヴァント達の真価は食してもらえれば、霊基及び魔力回復という効果もある点。まさに戦うエリクサー。セミラミスが敵と認識した者に食された時は自動的に毒に変換されるので結構えげつない。
人里離れた所に設置されていたのは婦長さんに見つかれば、全てのチョコサーヴァントに間違いなく薬をぶち込まれるから。「お菓子が薬になる?それは実に素晴らしい」
実はマスターとセックスしながら使用すれば、ランク:EX『ヘブンズ・フィール(ホワイトチョコ聖杯くん)』モードになる。
かつての邪悪さはなくなり、ホワイトチョコとなった聖杯くんは神々しさに満ち溢れ、そこから産み出されるホワイトチョコサーヴァントは普通のサーヴァントにも匹敵する戦闘力を持ち、食せば回復に加えてステータスにバフがかかる。さらにさらにマスターからホワイトチョコを供給されている状態の発動なので魔力消耗についても心配する必要が無い。モラルとか羞恥心に目を瞑ればは欠点が無い切り札なのである。





スルト君、大令呪(シリウスライト)を使えば、オフェリアがどうなるか知らない模様。


第五宝具はちゃんと真面目なやつです。英霊編みたいなふざけたのは出しません。信じて。





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