※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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新年あけましてあけましておめでとうございます(2019年中に2章、完結するってて噓ついてごめんね)。

今年も当作品にお付き合いを(ゆるして、ゆるして)よろしくお願いします(あと、去年はエロを3キャラしか書いていないのもゆるして、ゆるして)。


第五章でコルデーを見た時は膝を叩いたよ。ヒロインレースにおいて、あれも一つの答えだと。そうきたかァァァ~~と刃牙の烈みたいに唸ったね。





今年の目標:エロを去年よりも増やす。






陽滅の刃(第2部 2章)

「さて契約は断ち切った。愛しのマスターを取り戻したいのなら、俺を殺すしかないよ、スルト」

 

【貴様ァァッ……】

 

 固有結界『領域展開 讐骸憤竜園─炎葬式(しゅうがいふんりゅうえんえんそうしき)』を維持していた邪ンヌにも限界が訪れ、恩讐の炎で彩られた世界が崩れ、見慣れた北欧の景色へと戻っていく。

 

 隔離された固有結界から元の世界へと帰還した事により、配下である巨人達が再び殺到し、襲い掛かる。今までスルトに宝具を打たせまいとしていたスカディを始め、他サーヴァント達もそちらの殲滅に追われる。

 

 セミラミスがスカディ達に語った言葉に偽りは無く、最後の決着は親愛の獣の手に委ねられる。

 

 巨人の王と巨根の王の戦いは文字通り、最終局面へと移行した。

 

「本当は私一人で十分だけど、初の国外遠征(異聞帯)、折角だし、ステージを彩るライト()ぐらいはいてもいいわよね」

 

「はいはい。病院の屋上でソワソワしてた奴が憎まれ口叩いても、あざといだけよ。無駄口叩いてないでさっさと片付けてしまいましょ、劇場版ヒロイン女」

 

「黙りなさい。後方彼女面」

 

 軽い口撃の応酬をしながら、デアーの周囲に女が三人。

 黒衣はためかせるジャンヌ・ダルク・オルタ。

 白いドレスと貞淑な衣装で蠱惑に微笑むメルトリリス。

 口を開かなければ正統派美女、ブリュンヒルデ・オルタ。

 

 固有結界を解いた邪ンヌ、実の所はもう一度ぐらいはまだ宝具を発動出来るが……その余力を残す理由がデアーの第五宝具『S (スピリット) E (エンゲイジ) X(ザナドゥ)』にあった。

 

「『Sex code:ジャンヌ・ダルク・オルタ』……んっ、これ……発動する時に変な感じになるの何とかならないかしら……」

 

 マシュの時、同様──恥ずかしそうに体をもじらせ、邪ンヌがマスターとの一体化を遂げる。光が晴れた後、彼が右手に握るは黒炎が焚かれている刀。彼自身の腕の長さ分ある刀の柄半分からは邪ンヌを彷彿とさせる邪竜の黒旗がたなびいていた。

 

 魔力が高まる。

 

「セックスとはコミュニケーションの極致。ここは痛くないかな? この人は気持ち良くなってくれているかな? って不安と期待に胸を膨らませて手探りで進んでいく開拓の旅。自分の欲望をぶつけるだけではない、相手を労わり、察し、気持ち良くさせ、言葉と肉体と魂の全てを使って愛を確かめ合う繊細な儀式」

 

『急に彼は何を話し出しているんだい?』

 

「しっ! 大事な所ですから黙ってて下さいダ・ヴィンチちゃん」

 

「こんな衆人環視でお姉様との共同作業(複数プレイ)なんて……あぁ、困ってしまいます。『Sex code:ブリュンヒルデ』」

 

 小気味よく語るマスターの左隣には贋作の戦乙女の姿が。ブリュンヒルデ・オルタも光の粒子となり、彼の身の丈以上ある大槍となって左手に握られる。柄は蒼銀。刃先の色はまるで邪ンヌとデアーを示すかのように黒と白に左右均等に別れている。

 

 さらに魔力が高まる。

 

「性癖を吐露するのは時に本音を明かすよりも苦しい事かもしれない。だがそれを受け入れられ、互いに通じ合った時の悦びは一際輝かしいものとなる。愛とは物質として存在しない(ゼロ)なるもの。けれど、確かにそこにあるのさ。人にいつだって絶大な力と勇気を与えてくれる」

 

【何の話をしている……?】

 

アナタ(童貞)の知らない話よ。『Sex code:メルトリリス』」

 

 仕上げはプリマドンナ。快楽のアルターエゴ、メルトリリス。人形のような白いドレスを摘まみ、一礼。滑り出す前のフィギュア選手のような上品さを見せて、マスターと一つになる。その瞬間浮かんでいるメルトリリスの隠しきれない喜悦の表情。かつて恋した人と溶け合い一つになる事を望んだ夢がまさかこんな形で叶う事になるとは思っていなかったのだろう。

 

 その報酬は鋼の具足。サファイアの如き輝きを持った刃の踵に膝の棘を持った、凶悪なスケートシューズがマスターに履かされていた。

 

「そして4Pも別段、珍しい話では無いという事だ!」

 

 三連()着完了。手足に彼女達の愛を完全武装したマスターの魔力がさらに、さらに──加えて、得体の知れない圧のような物も高まり、黒髪が生きているかのように荒々しく浮かび上がっていた。

 

『一騎という制限は無いのか!』

 

「はい、先輩にとって乱交は日常茶飯事です!」

 

『そんな事は聞いてないよ!』

 

 思わず、叫んでしまったダ・ヴィンチちゃんだが、かの宝具『S (スピリット) E (エンゲイジ) X(ザナドゥ)』は彼自身が不可能と思わない限り何人いようが()着が可能という事かと推測する。デアーにとって10P、20Pなんのその。賢者には最も程遠い男なのだから。

 成程、愛の結晶と表現するに相応しい造形美と強さを秘めてはいると彼女も認めてはいた。もし、自分だったらどんな形態になるのかつい想像してしまうぐらいには。

 

『(杖、篭手、変化球で戦車もありか……いやぁ候補が多過ぎて思いつかないなぁ。万能ってのはこういう時に困りものだよね!)』

 

『取らぬ狸の皮算用という言葉を知っておるか芸術家』

 

『うるさいよ! そろそろ私の番だろう絶対!』

 

 マシュ、ダ・ヴィンチ、セミラミスの阿保なやり取りについては一切、スルトの耳に入っていなかった。いやこの瞬間に限り、あれだけ固執していたオフェリアの事も瞬く間とはいえ、思考から消え去った。

 

(この俺が恐れ……? あり得ん。奴に纏わりついた女共は紛い物に贋作に混ざり物──。だというのに今すぐ奴から離れろと本能が訴えている)

 

 巨人の王の脳を埋め尽くしてるのは女を三人纏った親愛の獣に対する悪寒。根拠不明の危険信号。

 

 愛、愛、愛。獣の域まで昇り詰める人の愛はそれを知らぬ者にとっては理解しがたい悍ましい物として映る事もある。愛欲の獣ビーストⅢ/R(ラプチャー)にすり潰された魔神柱の一柱のように、例えそれが超常的な存在だったとしても──。

 

 スルトを襲った悪寒は彼を幾ばくか冷静にした。攻撃ではなく、不可視の竜の翼を拡げ、距離を取るという選択肢を与えてくれる程に。

 

『飛んだ──?』

 

「……い、けない。スルトは……悪竜現象を起こしている、今のあれは……飛行手段を持っているわ……それだけじゃないフェンリルの権能も……」

 

「オフェリアさん!?」

 

『おいおい、あのスペックで制空権を取られるとかちょっと笑えない冗談だぜ。スルトに加えて、悪竜(ファブニール)巨狼(フェンリル)? ちょっと設定盛り過ぎじゃないかな!?』

 

 マシュの腕の中で目覚めたオフェリアが途切れ途切れに伝えた情報に一部を除いて驚きを隠せない一同。スルトは1km、5km、10kmと雲がかかる高さまで上昇していく。

 

「くそったれが!!」

 

 ナポレオンが自慢の砲弾を打ち上げるが、届く事は無く、途中で燃え尽きる。自身の霊基を犠牲にした宝具ならば、届く事だけは出来るかもしれないが──。

 尽きる事なく湧いてくる巨人と空想樹の種子達がナポレオンだけではなく、他の者達にも対処を許さない。

 いや、彼等が戦ってくれているからこそ、デアーだけが集中してスルトを相手取る事が出来ていた。

 

【当たるものかよ、貴様の豆鉄砲など。そして当然俺の攻撃が外れる事はあり得ぬ】

 

 ワイバーン、ドラゴン。幻想種の頂点とされる竜種が恐れられているのはその単純な魔力の膨大さ、凶暴性も当然だが、飛行手段を有しているからとも言える。

 

 空を翔ける術を持たない生物にとって、上空から襲われるというのは脅威以外の何物でもなく、ましてやそれが大陸一つを軽く吹き飛ばせる程の力を持ったナニかだというのなら、もはや只の人間に許される事は祈るという行為のみ。

 

 悪竜現象(ファブニール)はスルトという神すらも殺せる兵器が空という知覚外の領域からその剣を振るい続けるという絶対に許してはいけない権利を持たせてしまった。

 

 スルトは宝具『太陽を超えて耀け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)』を先程のデアー一体に対する狭域集中型ではなく、広域殲滅型に変更、対象は北欧全域。直接斬らなくとも、振るった時に生じる余波、炎の斬撃だけで氷の女王の国は跡形も無く灰となるだろう。業腹だが、デアーの近くにいるオフェリアならば守られるだろうという算段もあった。

 

【『太陽を超えて(ロプトル)──】

 

 

 だが巨人が見下ろすは只の小人にあらず、人類悪。番外の獣。ゼロのビースト。

『白式官能』に用心する? 不用心だ。『S (スピリット) E (エンゲイジ) X(ザナドゥ)』に用心する? いや、それでもまだ不用心だ。空が落ちる、大地が裂ける、あらゆる不運に対する用心の遥か上に彼はいる。

 

「嘘──」

 

 それは誰の呟きだったろうか。

 

 スルトの炎の剣が振るわれる事はなかった。

 

 剣を振りかざしていた右腕が不可視の竜の右翼ごと、デアーの自慢の巨槍に貫かれていた。虫を針で固定する標本の如く、地上から伸びた巨槍はスルトを逃がさないように縫い付けていた。その太さはスルトの腕半分以上を貫く程。

 

「おい、誰かあの槍が大きくなったのを見たか?」

 

 ナポレオンの質問に誰も答える事が出来なかった。

 気付けば、いつの間にかという表現が真に正しい。瞬きをしたら、もう槍がスルトを貫いていたのだから、巨大化するという過程を一切吹き飛ばして。

 

「13kmや──なんつってね。もう、お前のターンはないよ」

 

『シグルドはブリュンヒルデに貫かれた。なら、そのシグルドを偽っていた貴方(スルト)が贋作である私に貫かれるのも当然の摂理と言えてしまいますか?』

 

【グ、ガァッッ……!!】

 

 今やブリュンヒルデ・オルタそのものと化した黒白(こくはく)の槍。その特性は『死がふたりを分断つまで(ブリュンヒルデ・ロマンシア)』同様、使用者が抱える愛によって増大する巨刃の槍。そしてこの槍の真髄は巨大化による破壊力ではなく、巨大化自体が知覚出来ない程の速度で襲いかかること。

 だが原典である宝具の()()()()()()()()と異なり、デアーが手にする黒白(こくはく)の槍は使()()()()()()()()()によって増大する。

 

 つまり、デアー自身が抱える彼女達に対する愛の大きさ故に──この槍の増大の限界は13kmどころではなく、成層圏を貫き、宇宙空間まで届き得る。

 

 巨大化した黒白(こくはく)の槍から手を離し、スルトまでの架け橋として、水飛沫を上げ音速でほぼ垂直といっていい槍の上をメルトの脚で滑り出すデアー。

 置いてかれ、自身を足蹴に別の女と進んでいくシチュにブリュンヒルデ・オルタはどちゃくそ興奮していた。

 現在のブリュンヒルデ・オルタのように『S (スピリット) E (エンゲイジ) X(ザナドゥ)』によって()器化した彼女達はたとえ、彼の手から離れても当人達の意志が無い限り解除される事は無い。

 パートナーによっては独立で動く()器と化すパターンもあるというのは余談。

 

 

 宝具は封じられた。とどめを刺さんと親愛の獣が天へと駆ける。

 

 だが、彼は煉獄ムスペルヘイムの支配者。神殺しのスルト。

 

 

【まだ、だ。この程度で、終わって堪るものか……】

 

 

 終末の炎として産まれた巨人は剣が封じられた程度で折れる事は無い。破壊を止める事は無い。自身が持ち得る全ての手段を尽くして、生命を屠るという絶対的な意志が消える事は無い。剣は無くとも生命を殺し尽くす手段を彼は百と有している。

 デアーが辿り着くよりも早くスルトは行動を完了していた。

 

『ッ!? スルトを中心に莫大な熱源反応! 測定器が壊れる勢いだぞ!』

 

 スルトの肉体に浮かび上がったのはルーン文字。それも一つではない。

 千にも及ぶ原初のルーンが不気味な光を灯していた。スルトが扱うルーンは炎。だが英霊が扱うルーンの威力は優に超え、一文字が一文字が宝具に匹敵する。

 夥しく書かれたルーンの羅列に全てを察したスカディが悲痛めいた叫びを上げていた。

 

「貴様ッ……貴様はッ! ふざけるなよスルト!! それ程までに、この世界を滅ぼそうとするか!! 何故だっ! 何故そこまでして炎をこの大地に向ける!? 世界が! 人の子が! 貴様に害を為したか!? 一体何をしたと言うのだ!!」

 

 全ては防ぎ切る事は到底出来ないと理解していてもスカディは魔術障壁を構築しながら、問わずにはいられなかった。

 3000年、彼の巨人の残り焔に苦しめられ、挙句の果てには三度も北欧が滅んでもおかしくない炎を見せられたスカディはここまで執拗に北欧を燃やし尽くそうとするスルトに我慢の限界が来ていた。

 例え、その問いが無意味なものだとわかりきっていても。

 

 

【必要か、理由が】

 

「ッ──!!」

 

 理由も、理念も、大儀も存在せず。彼はただ、時代を終わらせる終末装置として生まれたが故に。

 

【あぁ──だが。貴様ら神々、人間を含めた生物に価値があるとするのならば、その悲嘆だ。命が費える目前の絶望と怒号と悲鳴こそが命の価値だと言えよう】

 

 見下ろす地上全ての者を、そしてこちらに全速力で向かっている──決して間に合う事の無い獣をスルトは嘲る。

 

 

 

【一手、足りなかったな。守れなかった世界の上で貴様はどんな顔をするのか】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張ったアリス──。本当に、本当によく頑張った、産まれてきてくれてありがとう、産んでくれて、ありがとう──」

 

 アリスの顔に幸せが浮かんでいた。目元に涙を見せて、こっちが泣いてしまいそうになるぐらいな笑顔を見せてくれていた。

 二人の子供が産まれた、新しい命ができたのをあたしはこの目でしっかりと見た。

 

 腕の中についさっき産まれた小さな、小さな命を抱えて。絶対に二度と離さないって決めたように優しく、力強く抱いていた。

 あたしと変わらないアリスのそんな小さな手をデアーお兄さんも掴んで、溶けてしまんじゃないかって思うぐらいに緩んだ笑みを見せていた。

 

「ふふ、ありがとうはこっちの台詞よマスター。わたしの我儘を聞いてくれて、本当は別宇宙のカルデアで安全に産んで欲しかったのでしょう? でもわたしはどうしても、アナタと同じ世界でこの娘を産みたかったの」

 

「世界線を挟んでの『竿繋ぎの多元性交(パラレル・セックス)』は出来ないから、本当は異聞帯に行かないで、アリスが落ち着くまで待つつもりだったけど」

 

「それは駄目よ。だってこれからきっとたくさんマスターの子が産まれてくるわ。その度にアナタの歩みの枷に皆もなりたくないわ。ふふふ、今の台詞って理解のある大人の奥さんみたいな台詞ね」

 

「アリスはもう立派な奥さん(レディ)だよ」

 

「嬉しいのだわ、嬉しいのだわ。でもわたしはナーサリーライムだから、聞き分けの良い大人にずっとなるつもりはないの。だからここまでついてきてマスターの子供を産んだのだから」

 

 涙を見せて、笑いながらお話をする仲良しの二人。デアーお兄さんがお話ししてくれた夫婦とか、親とか、愛とかの意味が二人を見ているとやっと分かりそうだった。

 あたしもおめでとうって叫んで、二人に抱き着きたかった。嬉しいのに、とっても嬉しくて、喜ばしいことが起きてるのに。

 

「予感はあったの、わたしがこの寒くて大人になれない子供達の国に今いる意味がやっと分かった」

 

 でも今、とても怖いの。空に急に現れたおひさまみたいな巨人。

 あたしが襲われた巨人が可愛く思えるぐらいに大きな巨人。

 今もおひさまよりも輝いて、眩しくて、それが怖くて怖くて仕方なくて、空が気になってどうしようもないあたし。何かよくないことが起こるんじゃないかって震えてしまうの。

 

「ゲルダ、こっちにおいで」

 

 そんなあたしをデアーお兄さんが近くに来るように手を引いてくれる。

 情けないくらいに震えているあたしの手を包み込むように優しく暖かく握ってくれて、「大丈夫」って言ってくれた。

 

「本当は色々と不安だった、初めて父親というものになるのが。でも一人じゃなかったから。俺よりも小さい女の子が隣で必死にアリスに声をかけてくれたから、それが力になってくれた。ありがとう、ゲルダ、会って間もないのに俺達の助けになってくれて」

 

「そんな、あたしは何も。お兄さん達の方がたくさん助けてくれたわ……」

 

 当たり前のことしかしていないのに、お兄さんは本気であたしに感謝している。それがとても恥ずかしくて、嬉しくて、誇らしい気持ちになった。

 

 だから、あたしは必死に口を動かそうとした。お外に、お空に、この暖かくて幸せな時間を壊そうとする巨人がいるって。逃げましょうって、その赤ちゃんを連れて──遠くに遠くにって。

 

 あたしが口をぱくぱくしているのを見ていたアリスが微笑んでいた。全部分かっているって何も不安がる事はないって安心させてくれるように。

 

「ふふふ、だからこれはお礼。マスター(旦那様)だけで不満って事は絶対に無いけど。やっぱり、わたし(絵本)は子供達の声援があると嬉しいのだわ。ねぇ、マスター、ゲルダ。もっと近づいて、うん、力が湧いてくるわ」

 

 

 ──わたしはナーサリーライム(子供達の為の英雄)だから、ちゃんとあなたたち(子供達)を守ってあげる。

 

 

 そう口にしたアリスは目を瞑り、とても赤ちゃんを産んだばかりとは思えない元気な様子で、綺麗な声で不思議な言葉を口にし続けたの。

 

 

 ──悪い夢はおしまい。あたらしいわたし(アリス)を見つけてくれた愛しいアナタ。さぁ、栞を取って、物語の続きを見に行きましょう。

 

 

 アリスとデアーお兄さんと、そして赤ちゃんが優しい光に包まれる。綺麗な泡がいくつも浮かんで、まるで夢のような世界。

 

 

 ──おかえりなさい、もう一人のわたし(ありす)。えぇ、そう。ありす。あなたの名前はありすよ。ロックバイバイ、ベイビー。ゆりかごを揺らして、楽しい夢を見ましょう。

 

 

 さっきまでの怖い気持ちがうそみたいに無くなっていく。暖かくて、わくわくして、とても安心するような感覚。むかし、似たようなことがあった気がするわ。

 あぁ、思い出したわ。あたしがもっともっと小さくて、育ててもらっていた人に 寝る前に絵本を読んでもらったこと。もう顔も、どんな絵本かも思い出せないけど──。頬が濡れていることだけはわかったの。

 

 

 ──くるくるくるくる回る世界! 行き着く先は渦の中!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨人の王自ら、生成された北欧原初のルーン。炎の流星と言うべき、千にも及ぶ火炎弾は破壊のカーテンとして、世界に降り注いだ。

 

 間違いなく、今度こそ、疑う余地なく、()()へと着弾した。

 

 

【なん、だと──】

 

 だがそれは彼の巨人が望んだ光景ではなかった。

 スルトの眼下には見たこともない世界が拡がっていた。残り少ない人が残存する白銀の地ではない。北欧では無い。ここは一体、どこだという困惑。

 

『これは一体、何が……?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんやホームズだけではない、オフェリアやスカディ達、ほぼ全ての者が魔法のような奇跡に言葉を失っていた。

 

 それは世界というにはあまりに現実離れしていて、整合性が無く、チグハグで、まるで子供が見る夢のような世界だった。

 

 クリスマス風味に飾り付けられていた雪景色があった。常夏としか表現しようがない無人島があった。赤い薔薇が舞う巨大なコロシアムがあった。森と洞窟と氷と火山の先に城があるRPGのようなフィールドがあった。谷を越え、川を越え、車で何日もかかるような広大な土地があった。和洋ファラオごちゃ混ぜにした頭の悪い建築物とロボットがあった。ファンタジックなお菓子の街があった。

 

 幾つもの想い出が折り重なったような世界が北欧に直撃する筈だった災禍を全て受け止めていた。

 

 アリスとその身から産まれた小さな命によって織り成された宝具『世界の果ての物語(ワールド・エンドコンテンツ)』。

 

 彼女の中にある思い出を一つの世界として再現する宝具。思い出の欠片として、ビスケットゴーレム、チキン、スノーマン、トナカイマン、ヤドカリ、数多のエネミー達がスルトの僕と化した、種子や巨人達と争いあっていた。

 

 空想具現化にあらず、固有結界でもあらず。これはアリスが己が夢に従い、世界そのものを産み出す異界創造。

 

 重なるように現れた敷物(世界)北欧の世界(子供達)を確かに守っていた。

 

 

「情を交わし、セックスをし、子供が産まれる。そうやって命は紡がれ、助けて、助けられる。本当に俺は恵まれている」

 

【ガ、アァァアアッ!?】

 

 呆然としていたスルトを夢から覚ますようにみぞおちに加虐的な膝蹴りが叩き込まれた。

 絶望的なまでに体格の差があるにも関わらず、スルトの体はその瞬間、くの字に曲がった。

 

【貴、様! 何をしたァッ──!!】

 

『それはこっちの台詞よ。よくもまぁ、無粋な事してくれたわね。相手の事がまるで見えていない盲目な悪質ストーカー。貴方に恋も愛もレクチャーする義理は無いわね。私を無性にイラつかせてくれた慰謝料はしっかりと取り立ててあげるわ』

 

 跳ねるように、踊るように、白鳥が炎の巨体を蹂躙する。

 

 鋼の具足がメルトの怒りを表現するように苛烈なスピードでスルトの体中を駆け回り、切り刻んでいく。

 

 加速し続ける斬撃の嵐の中で──肉体を苛んでいるダメージ以上に、このまま攻撃を許してはいけないという焦燥感がスルトを駆り立てていた。あの男の足に斬られる度に、自身の中のエネルギー()が失われてゆく感覚。

 

【俺から、離れろッ──!!】

 

 自身の肉体を飛び回り続けるデアーを排除しようと、槍に貫かれていない無事である左半身──巨狼(フェンリル)の氷の権能が色濃く現れた左腕から、膨大な魔力を含んだ氷で構成された巨大な狼の顎がデアーを噛み砕こうと生えだした。

 

 しかし、スルトのその行動は一手どころか二手、三手遅れていると言わざるを得ない。

 

 女神の複合サーヴァントであるメルトリリスが変化した鋼の具足の特性は狙った物を必ず射殺するというクリティカル率が高くなるアルテミスの権能、レヴィアタンを彷彿とさせる水の権能、流体の如き舞うサラスヴァティーの権能。

 

 最後に彼女自身が持つ固有能力『オールドレイン』。斬り付けた傷から対象の魔力やスキル、容量を抽出する経験値吸収能力を持つ。

 

 メルトの毒は今までの攻撃の中で奪ったスルトの莫大な炎をエネルギーとして、自身の糧としていた。

 

 そして今のメルトは一人では無い。デアーを通し、邪ンヌとも繋がりあっている。流れ流れて、邪ンヌそのものである黒旗刀へ。

 メルトが好き放題吸収した神殺しの炎は確かなエネルギーとして()()()へと変換される。

 

「もう、お前のターンはないよって言ったよね」

 

『私はこんな暑苦しいもの使うつもりは無いから、しっかりと有効活用しなさい』

 

『言ってなさい──! 竜骨炎陽!』

 

 ムスペルヘイムの王の理解の外にある人が産み出す炎。悍ましき復讐と怨念が渦巻く業によって黒炎が膨れ上がる。メルトの具足を起点としてフィギュア選手のように回転するエネルギーはさらなる攻撃力を産む後押しとなる。

 回転の勢いをそのままに、吸収したスルトの炎を薪とし、尋常ならざる破壊力を秘めた黒旗刀の斬撃は噴火そのものだった。

 

 黒炎は獲物を喰らおうと開いていた巨狼を砕くだけには留まらず、氷で構成されたスルトの右半身を溶かし尽くしていた。

 

【ガァ、アアアアァァッッ、バ、バカなッ──!?】

 

 ゲルダを助ける時にも使用された黒旗刀。

 その特性は神、あるいは神に属し、信奉する対象への超特攻。加えて、竜の魔女を支配していた彼女らしく竜属性に対する特攻も存在する。

 

悪竜現象(ファブニール)だったっけ? そりゃ、悪手だろ巨人ンコ」

 

 

 ──模倣英霊──原型モデル:ジークフリート

 

 

 第二宝具開放。その身に体現するは竜殺しの英雄。黒から灰色と変貌した長髪。背中に菩提樹の葉の紋様。上半身裸から胸元と背中が大きく開いた鎧を身につけ、露出度が減る。

 無手だった左手に握られているのは竜殺しの大剣、バルムンクの模造品。

 

 スルトの肉体から降り、距離を取ろうとしたデアー。その時、彼が感じたのは浮遊感。

 すぐに地上からスカディが飛行のルーンをかけてくれていたと察する。ここまで距離があってなお手堅いサポートをしてくれる彼女に感謝した。

 最悪、ドレインしたエネルギーでメルトの脚からジェット噴射の如く飛行しようと思っていたから──。

 

 頭を上げれば──マスターを奪われ、炎の剣を翼ごと封じられ、内包する炎を半分以上吸われ、さらには氷の半身も黒炎で炙られたまさに満身創痍といった巨人の王がデアーを睨み付けていた。

 

【貴様はッ──! 貴様だけはッ──!!】

 

 何千年、屈辱の時を過ごしたと思っている。ようやく、地上へ降り立ったというのに、何も為せていない。何一つ命を壊していない。全て、全て、目の前の男に妨げられた──スルトは怒りで頭がどうにかなりそうだった。槍に貫かれた左腕を引き千切り、握り殺したい。だがそれが叶わないのを何より自身が一番良く理解している。

 

 

 戦乙女のコピー、聖女の贋作、硝子細工の人形、そして竜殺しの模倣。今のデアーの武器全てが有り体に言ってしまえば偽物で構成されていた。本来ならスルトが歯牙にもかけないような木端の戦力。だが、追い詰められていた、圧倒されていた。あらゆる破壊を断固として砕かれてしまった。

 

 両手足に偽りの太陽を滅する刃を纏い、最後の一撃が放たれる。

 

 

【なんだ──、貴様はなんだ――?愛とは、愛とは一体、なんなのだ──!?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──俺は絶望していたのだ。

 

 ──剪定を待つこの世界で燻り続けるこの俺に。

 

 ──あの女はそんな俺、を見つけたの、だ。

 

 ──哀れな女、愚かな女。嗚呼、オフェリア・ファムルソローネ、俺はお前に一体何をしてやれ

 

 

 

 

「お前の回想に割く尺はないぞ」

 

 

「おのれぇえええええええ!! デアァァァァァァアアアア!!」

 

 

 親愛の獣が重なるように大剣と黒旗刀を構える。白銀に輝く竜殺しの魔力を竜を統べる魔女の黒炎が覆う。竜特攻の二重掛け。神代の炎に遅れを取らない人間の情熱が際限なく膨れ上がる。

 

 

「邪悪なる竜は舞い昇り、世界は今落陽に至る」

 

 

 炎は刃だけに留まらず、デアーの肉体全てを包み込む。黒炎で生成され産まれたのは悪竜を殺す邪竜。

 足から噴き出している水が渦を巻いて上昇し、黒炎へと変化する様子はグラデーションのように美しく、その美は推進力となり、より早く、より強い、斬撃となる。海の魔獣が吸収した炎は黒竜の炎に捧げられた。

 

 

「撃ち落とす──」

 

 

 まだ終われない、なお足掻こうと、スルトが残存する魔力の全てを行使して、口から大炎を吐き出した。宝具も、ルーンも、取り込んだ権能も封じられた王に許された最後の抵抗。

 そして、偽りの太陽が吐き出す炎に飲み込まれてなお、歩みを止めない黒竜と化した大斬撃。

 黄昏に終止符を打つ刃が破壊の炎全てを掻き消し、巨人の王の肉体へと達する。

 

 

「『邪竜円舞』!!」

 

 

 炎が消える音がした。太陽がひび割れる音がした。世界が変わる音がした。ようやく、春が訪れる音が──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリスとデアーお兄さんに挟まれて、夢心地な気分。光の中で不思議な物を見た気がする。怖くて、大きくて、ぼぉぼぉ燃えている巨人をまたぼぉぼぉ燃えている黒くて長い生き物が真っ二つにしていたの。

 

 同じ火なのに、何故か黒い方は怖くなくて、むしろ安心感があった。それはあの炎の色を見たのが初めてじゃないからだわ。

 

 あぁ、きっとデアーお兄さんとオルタお姉さんがまたあたしを助けてくれたのね。

 

 消えていく怖い巨人を見て、あたしは二人と初めて会った事を思い出していた。同じようにあたしを襲っていた巨人を真っ二つにしたあの時と。

デアーお兄さんはここにいるし、あんな高い所にオルタお姉さんが行けるわけがないのに、それでもあたしはあそこに二人がいるって信じて疑わなかった。

 

 だってあんなに綺麗な炎を出せるのなんて二人しかいないから──。

 

 太陽が無くなって、新しい命が産まれる。

 

 あたしはこの光景を一生、忘れることはないだろう──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




世界の果ての物語(ワールド・エンドコンテンツ)

詳細はグダお英霊編『疾走する青春の桃色ジャンクフード ②(第4章)』を参照。
【捕捉】
英霊編においてはアリスとその娘が暮らしているカルデア島を一つの世界として再現していたが、今回はアリスが体験してきた今までの旅路が合成キメラのように一つとなって再現された。彼女自身の印象に左右されるので、特異点がほとんどなく、イベント時空が多いのはそういう事。産まれたばかりのありすの力も借りている。
その時々の彼女の内面の変化によって再現される世界もガラリと変わっていく。固有結界のように固定化された世界では無いが、スルトのルーンから北欧全てを守る程の規模で展開出来るので普通に魔法の域。













【没シーン:スルト決着】

「…………おめぇはすげぇよ。よくがんばった……たった一人で……今度はいい奴に生まれ変われよ……一対一で勝負してぇ」

オフェリア「ぜったいやめて」

「待ってっからな! 俺ももっともっと腕を上げて……」

邪ンヌ「もうこれ以上はいいでしょ」

「またな!」








次回、2部2章メインストーリー部エピローグ。



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