※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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カルデアコレクションにて楊貴妃、両儀式(剣)更新。

マテリアルⅦのスルトの所を見直して、「週末のワルキューレ②」の後半部分を若干改訂。やっぱりスペックだけ見ると壊れですねスルト君は。キリシュタリア様も期待かけますわこれ。原作カルデア勢は一体、これにどうやって勝ったんだ……。






エデンの庭(第2部 2章 完結) 

 ひとりぼっちの氷の神さま、それにしたがうたくさんの御使い、そして1万人の人が住むそんなおうち(世界)がありました。

 

 そのおうち(世界)には絶対にやぶってはいけない決まりごとがありました。

 

 •子どもを産めなかった人は15さいになったら集落から出なければならない。

 •子どもを産んだ人は25さいになったら集落から出なければならない。

 •それ以外で外に決して、出てはいけない。

 

 門から外へ出ていった人たちは誰ひとりとして戻ってきませんでした。

 みんな、ヴァルハラへ連れていってもらえるように御使いに決められたつがいと、子どもを産んでいこうとがんばります。

 

 しんしんと雪がふります、さむいねって白い息がにげていきます、高い高い木のかべの向こうに何があるのだろう。

 

 それでも人間は慎ましく、幸せに暮らしていました。

 

 

 

 そんな、ある日。お空のおひさまが大きな巨人となって大あばれをしたのです。とても長い剣をふって、火のたまをたくさん落して、うでから狼を生やして、口から炎をはいて、みんなのおうち(世界)をめちゃくちゃにしようとしたのです。

 

 氷の神さまや、御使い、神さまの娘や、たまたま遊びにきていた大きな大砲や剣や槍をもったお客さんたちも悪さをする巨人を止めようとしましたが、まるでかないません。

 

 

 そのとき、別のおうち(世界)からやってきた神さまが悪い巨人をこらしめたのです。

 大きな盾を出して、槍をのばして、空をとんで、かべをつくって、けりを入れて、竜になって、もうめちゃくちゃです。

 

 巨人がいなくなって、めでたしめでたしとはいきません。

 あまりに巨人が大あばれしたので、君たちはここから出ていってくれと地球さんが怒りはじめたら、さぁたいへん。

 

 氷の神さまは今までおひっこしなんてしたことがありません。ひとりぼっちだったので、ひっこしが出来るおうちをおしえてくれる友だちもいませんでした。

 

 困った、困ったと泣いていると別のおうち(世界)からやってきた神さまがじゃぁ、うちにおいでよとおひっこしを手伝ってくれたのです。

 

 お空にびっくりするぐらい大きな穴が空きました。鍵をもった別のおうち(世界)の神さまのみこ様がたくさんの手をうねうねとそこからのばしていました。

 

 別のおうち(世界)の神さまは白い手をたくさん生やして氷の神さまの世界を持ちあげると、彼女にわたしました。

 

 みんなのおうち(世界)は大きな穴を通って、遠く遠くへ。はじめてのおひっこしを簡単に終わりました。

 

 

 新しいおうち(世界)はこわい巨人も獣もいません。前いた所より緑が多くて、あたたかく、ぽかぽかとようきな風がふいている、のどかな所でした。

 

 さて、新しいおうち(世界)に来たので、これからはそのおうち(世界)のルールに従わなければいけません。

 

 •長生きできるように頑張ること。

 •集落の外に出るのは自由。ただし、小さい子どもはひとりで出ないように。

 •自分がうんだ子どもをいつくしんであげること。

 

 そして──

 •これからは御使いに決められた人ではなくて、自分の好きな人とつがいになること。

 

 引っ越したばかりのみんなは新しい決まりごとにお互いの顔を見あいます。何をしたらいいのか分からないと門の前で途方に暮れていました。

 

 出ちゃ駄目だよとずぅっと言われていたものが、いきなり出てもいいと言われて困ってしまったのでしょう。

 

 しばらく、だれも動けないままでしたが、ひとり、またひとりと好奇心には勝てず、門の外へと出ていきました。

 

 門の向こうがわにはきらきらの宝ものがたくさんでした。

 

 知らない草、知らない花、知らない動物、知らない川、知らない山、知らない風、知らない色。助けてくれたここのおうち(世界)の神さまは(はる)がきたとおしえてくれました。

 

 (はる)──はじめて聞く言葉にひっこしてきたみんなはわくわくです。

 

 楽しそうに跳ねて、駆け出していきました。

 

 それはそれは嬉しそうに──。

 

 

 ぴょ────んと。

 

 

 

【月曜日に生まれた子供(世界)は】 著者:アリス から抜粋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この絵本は何だ」

 

「北欧異聞帯……元異聞帯かしら、そこで暮らす全ての人間に頒布する予定の本よ。新しいルールに適応する為に簡単で馴染みやすいものを使うって」

 

「どうせあの(デアー)の考えだろ。真面目なのか、ふざけているのか……まぁ、お互い生きていて何よりだ」

 

「それはこっちの台詞よ。あなた、多分クリプター(私達)の中で死んでるものと扱われているわよ」

 

 彼女がこの世界に来てから一週間後。

 元ロシア異聞帯。モスクワの王城、その貴賓室にて二人のクリプターがテーブルを挟んで、座り心地の良いソファに腰をかけて向かい合っていた。

 カドック・ゼムルプス、オフェリア・ファムルソローネ。二人の共通点を挙げるならば、同じ男に敗北し、空想樹ごと強奪された点だろう。いや、救われたという面ももしかすれば、あるかもしれないが──。

 

「そうだろうな。そして君もこれからは僕と同じ扱いだ。死体が見つかっていない以上MIA(行方不明)って所かだろうが……。しかし、あいつと初めて会った時、あれだけ取り乱していた君が随分と落ち着いているな。最悪、廃人になっていてもおかしくはないと思っていたよ」

 

「縁起でも無いこと言わないで頂戴。けれど、そうね──この右眼で色々と可能性を垣間見てしまったから、あなたの懸念も正しいと言えば、正しいわ。しばらく引き籠っていたわけだし、具体的に私が何を見たか、知りたい?」

 

「結構だ、好き好んでSAN値を削りたいとは思わないからな。ただ、北欧異聞帯で何があっただけは聞いておこう。ロシア異聞帯(こっち)の話と情報交換といこうじゃないか」

 

 ロシア、北欧それぞれ、凍てつく気候が支配する異聞帯を担当した二人は事の詳細を話した──具体的にはあのビーストが来てから空想樹が切除されるまで。さすがにイヴァン雷帝を破った巨大ゴーレムの中でセックスしていたとか、魔眼でデアーの○○○(輝いている)を焼き付けてしまったとか、お互いの恥部にあたる部分は意図的に隠したようだが。

 

「ムスペルヘイムの王、スルトか。ちっ……あいつめ、僕の時は一体どれだけ手を抜いていたんだ……」

 

「軽んじられてはないと思うわ……。ただ、全てを賭して排する敵とは認定されてなかっただけよ。きっと彼にとって私達二人はあくまで挑戦者の域を超えてなかった……」

 

「フン、随分と理解しているようなことを言うんだな。それもあいつとパス(回路)が繋がったおかげか?」

 

 デアーに対して訳知り顔で話すオフェリアの心境の変化を訝しんだカドックは彼女の手の甲に残った最後の令呪の一画を指す。パス(回路)の先は番外の獣……自分達に辛酸を舐めさせた男がいるのだろう。だがあくまでそれはパス(回路)という道が繋がっているだけで、二人に魔力のやり取りは一切無い。

 

 そもそもからして、平気でサーヴァントを受肉させる魔力と言っていいのかも分からないナニかを無限に等しい量で内包している()のデアーにとって、魔術師からの魔力供給など必要無いだろう。

 

 右眼に輝く遷延の魔眼も接続されている弊害か、未だにこの世界線では無い別の可能性のデアーを何度か夢に見る事があるが、以前と比べれば少しは慣れたようだった。ただピンク色系統の夢に対しては耐性など出来るワケも無かった。

 

 主従の関係では絶対に無いのだろう。あちらもこの繋がってしまったパス(回路)に関して、破棄することもしなければ、特に言及もしなかった。

 自分から言い出せば、全ての繋がりを消してくれるかもしれないが……何故だかオフェリアはそうする気が起きないまま、今に至っている。

 

「試しにそれで何か命じてみればいいんじゃないか?」

 

「通じると思うの?」

 

「いや、思わない。……で、どうするんだオフェリア、今の君がカルデア側につくと言い出しても僕はそこまで驚かないが」

 

「それは……ないわ。えぇ、クリプターとしての責務も果たせず逃げ出してしまった女だけれど、やっぱりキリシュタリア様の邪魔は出来ないもの」

 

 期待には応えたかった──そこに偽りは無い。けれど、その願望に対して、力量も精神も何もかもが足りていなかった。あの輝きには魅せられた…………しかし今の自分を冷静に見つめるとよく分かる──きっと自分はキリシュタリア様が進む道を最後まで共に歩む事は出来ない。間違いなくどこか中途半端な所で斃れるだろう。そして期待はかけられていたとしても、キリシュタリア様にとっても私という存在は必須では無い。仮に私がいなくてもあの人の歩みに陰りが生まれることは絶対に無いだろう。それが寂しくもあるし、嬉しくもある。憧れではあったのだろう、だが理解には程遠いと──オフェリアは自嘲めいた笑みを浮かべた。

 

(私達二人は助かった。けどそれはあくまで(デアー)にとって私達が脅威じゃなかったから)

 

 オフェリアは近い未来で必ず、デアーとキリシュタリアはぶつかると確信する。

 キリシュタリアが治めるオリュンポスは七つあるロストベルトの中でも頭一つ抜きん出ている。ベリルが出来レースと言ってしまうぐらいには神々が未だ健在する星の都市は()()であった……汎人類史を凌駕する程に。

 

 彼女が知るキリシュタリアは魔術師としては傑物。魔境極まる時計塔で君主(ロード)相手にも引くことは無い姿はまさに王と言えたが──戦闘技量に関しては彼女に劣るレベル。

 当然、どれだけ戦闘力を高めたとしてもそれはあくまで魔術師の範疇であり、サーヴァント相手には何の意味も持たないだろう。英霊相手に戦える人間など()()といえる、滅多にあることではない。

 

 あぁ、仮にキリシュタリアが従えるサーヴァントがどれだけ優秀だったとしても盟友ゼウスと呼ばれる存在が規格外だったとしても、異聞帯という特殊な環境でキリシュタリアが強大な力をもったとしても──。

 今のオフェリアは妄信的にキリシュタリアが絶対に勝つと断じることは出来なくなっている。

 

 デアーが七人のクリプター全員の前に初めて姿を見せたあの日、錯乱して消えてしまった彼女は見ていない。デアーがクリプターの会議の場に使われていた人類の技術を凌駕した建造物を崩壊させた惨状を。

 

 見ていないその彼女だけが──そしてデアーの可能性を垣間見て、今なお繋がりを持っている彼女だけがクリプターの中で最も彼の力量を正しく理解している。

 

 だから、オフェリアは危惧する。デアーがもし、キリシュタリアを排除すべき敵だと認定してしまったらと──。

 

 片や同じ仲間であり、自分を導いてくれた男、片や敵でありながら、自分を救ってくれた男。両者とも()()()()()()を見せてくれたという共通点はあるが、その二人がこれからぶつかり合うということを考えると何とも憂鬱な気分にさせられてしまう。

 

(もし、私が彼にキリシュタリア様の助命を嘆願したら……聞いてもらえるのかしら?)

 

 きっと効力なんて無いであろう令呪の一画。デアーとオフェリアを繋げている証をぼんやりと目にしてそんな益体の無いことを少し考えて、首を振る。いくら何でもこれ以上無償で助けてもらうのはさすがに甘えが過ぎるだろう。仮にきかなかったとしても令呪で強制するだなんて恩を仇で返すような真似は敵であってもしたくは無かった。

 

 何かを願う以上、こちらもそれ相応の対価を差し出さなければならない。

 

 ならばこの体でも捧げるか? とオフェリアの思考にふとよぎった。コヤンスカヤの言う事を信じるならば、好色家とも言えるあの人類悪は自分の身内()には存外に甘いと。

 

(って……なんでそっちの寄りの思考になるのかしらねっ! あぁ、これも全部、彼のせいね間違いなく!)

 

 

「なら、どうするんだ?」

 

 カドックの至極真っ当な問いが少し頬を熱くさせていたオフェリアを現実へと引き戻す。

 

「そうね……。どうしましょう?」

 

「おい」

 

「困ってるのよ。『何をしてもいいし、何を為さなくてもいい』って結構、難しいのね」

 

「君の所の女王様は何て言ってるんだい」

 

「『好きにせよ』って」

 

 

 

 

 

 

 オフェリアの網膜に今も焼き付いている決着の光景。デアーが生み出した黒炎の竜がスルトを同化した空想樹ごと喰い破り、上空で巨人王の残滓を一切残さず消滅させた。

 

「決着ぅぅぅぅぅ! いぇえええええい!」と彼とマシュ、そのサーヴァント達がハイタッチしている(メルトリリスだけは手を下げて控えめだった)中、スカディは呆けていたオフェリアを強く抱き締めていた。

 

 ──よくぞ、無事に戻ってきたっ……

 

 慈愛深い女神だということは元から知っていたが、それはあくまで超越した高みから人間を見守るという神としての愛だと思っていたので、まさかこんな人間のように心配されていたとは……オフェリアからすれば、自分に対する好感度の高さも含めて全くもって予想外ではあったようだ。

 

 3000年北欧を苦しめていた炎もスルトと共に消え、配下であった巨人や魔獣たちも二匹のナマモノ(虎と猫)や看護師団やチョコサーヴァントの群れに掃討されていった。

 もはや女王スカディが氷雪の魔力で凍てつかせる必要も無く、文字通り世界が変わった北欧には3000年ぶりの春がやってきたのだ。

 

 当然、全てが順風満帆とはいかない、何せ千年単位で続いた管理方法をいきなり変えていくというのは無理な話、環境も慣習も生き方もこれから北欧は少しずつ変えていくのだろう。

 だがきっと焦る必要は無い、何せ人々の時間は前よりもたくさんあるのだから。

 

 そしてスカディもスルトという呪縛から解放されたオフェリアをこれ以上、北欧に縛り付けるつもりは無いから「好きにせよ」という言葉を送ったのだろう。育成する空想樹すらないのなら、元々部外者であった彼女にこちらの事情に付き合ってもらう義理は無く、自由に生きて欲しいというスカディの願いも籠められていた。

 

 シグルドは自身の肉体が迷惑をかけた償いとして残り、北欧の管理に尽力すると……ブリュンヒルデも当たり前のようにそれに付き従うようだ。シトナイも斜め方向の結末に色々とぼやきながらも義母の手伝いをしているようだった。退去するだろうと思われていたナポレオンも「あくまで勘だが……俺達の役目はまだ終わってない気がしてな……何なら俺と契約してもらっても構わないぜ!」とこの世界に居残る事を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、お互い敗北して、あいつの箱庭に拉致られた身だ。細かいことを考えても仕方ないだろう。ここは神秘というのすら烏滸がましいぐらいに滅茶苦茶なルールがまかり通っている世界だ。君はここ(ロシア)まで、あの摩訶不思議な()()()()で来たのだろう?」

 

「えぇ……あれは一体なんなのかしらね? 外見は不安になるぐらいに簡素なのに乗っただけで勝手に目的地まで進むし、屋根も無い剝き出しの乗り物だったけど、あれだけスピードを出してもまるで屋内にいるように風の影響も無かったわ。魔術による結界が張られているわけでも無かったし……」

 

 カドックの消息を知ったオフェリアが一応同じクリプターのよしみとして直接に会いに行こうと決めた時、デアーに見せられたのがその木で出来たトロッコだった。もう本当に人一人ぐらいしか入れないTHE・トロッコ! としか表現出来ない外見であった。

 線路も当たり前のように引かれていて、モスクワまで続いていると教えられた。いつこんなものを造ったのかとか、そもそも勝手に線路を引くな(スカディに即許可をもらえたと言われ、押し黙ったが)とか言いたいことが山のように出て来たが、善意から来る行為ということで無下には出来ず、お礼を口にして乗った──。

 

 さすがにいきなり時速200kmでスタートした時や、宙に浮いた線路の上を走り出した時は命の危険を感じたそうだが、それでも彼女自身の言う通り、特に身の危険は無く、目的地には辿り着いた。冷静に振り返ると、動力も絡繰りも一切不明な乗り物に体育座りで半日近く揺られていたのは結構な恐怖体験な気もするが。

 

(途中途中で休息出来る停留所があって助かったわ……。まぁ、そういう気遣いはしてくれるのよね──)

 

 疲労は溜まったが、人類がまだほとんど住み着いていない大地という景色を独り占めした時は思わず感動の溜息が出ていた。

 ロシアに入ってからも獣人達がハンマーやピッケルを持ちながら、狂ったように柵で囲われた畑を耕したり、女の人の像を建て、拝んでいるというまず神秘薄れた汎人類史では絶対に見れない光景も含めて貴重な経験を彼女に与えた。

 

 余談だがまた半日揺られてロシアから帰ってきたオフェリアがデアーに「今度は宿泊出来るぐらいな豪華列車を造る(ビルドする)から! っていうかわざわざトロッコ使わなくとも俺の単独降臨で即連れていけたよね」とサラッと言われたときは一発どつきたい気持ちになったのはこれからの話。

 

「あぁ、あれは大地母神(ポール・バニヤン)からの奇跡(クラフト)だ」

 

「ポール・バニヤンって確か、北米のほら話に出てくる……」

 

「例のごとくあいつのサーヴァントだよ。君も見ただろう。畑も馬鹿に多く、寒冷な気候のロシアしてはやけに作物が育っていたと」

 

「そのバニヤンっていう彼……彼女? が創ったというの?」

 

「いや……厳密には違う。あの()()()木こりの巨人が手を加えたのは最初だけだ。未開の原住民に文明を教えるように見本を見せた。土や岩がブロックみたいに簡単に崩れるんだぞ? 土を変えて、少し鍬を叩いて、種を植えるだけで気候関係なく作物も育つし……そしてまぁ、それを見て、デアー曰く物造りの喜びに目覚めたものがビルダーズ(造り手)となり、大地母神(ポール・バニヤン)奇跡(クラフト)の一端を扱えると。つまり、多くのヤガ達が狩猟以外で食いでを稼ぐ方法を知ったわけだ」

 

「凄いわね……。飢饉で苦しんだ為政者達が聞いたら卒倒しそうだわ……」

 

 カドックの言う通り、この空っぽだった星を開拓しているポール・バニヤンの新たな宝具『驚くべき奇跡(マーベラス・クラフト)』は彼女が槌を振るえば、土も岩も木も削れ、削ったものは同じ質量の立方体のブロックとなって残る。ブロック同士を掛け合わせて新たな物を産み出すのもよし、削った大地に作物が育つ土を埋め込むのもよし、自分達の力でそれを行えるのは常に食料関係で悩まされているヤガにとってはまさに天の助けだった。

 

 バニヤン以外にも「いやーマインクラフトとか完全にニート(選ばれし者)の神器。やることが無限に出てくる……時間泥棒はいい文明だ」と開拓をしている白い巨人の姿が見えたとか何とか。

 

「お陰で、雷帝を倒した巨大ゴーレムに続いてロシアは巨女ブームだ。女性はより大きく、包容力があるべきだと熱弁している奴らがあちらこちらにいる。あぁ、まったくどうかしている」

 

「えぇ、そうね。女性の魅力を一つに決めつけるのは──」

 

「白髪片目カクレ色白皇女系がナンバーワンに決まっているだろうが。いや具体的に誰かとは言ってないが。まぁ、一時期は気の迷いで薄桃二刀流のジャパニーズサムライも悪くはないと思ったこともあるが……」

 

「えぇと…………カドック?」

 

 

「その通りだともメカクレ深度Dの少年よ!」

 

 

「誰!?」

 

 なんか色黒の伊達男(変態)が出て来た。

 

「んんぅ、失礼。芳醇なメカクレの匂いに惹かれつい単独顕現を。私の名はバーソロミュー・ロバーツ。独ッ!! 身ッ!! 以後お見知りおきを……運命の女神よ。あぁっ、私はあなたの眼帯になりたい──」

 

「ひっ」

 

 ナポレオンといい、スルトといい、これ(変態)といいオフェリアという少女はあれな男に言い寄られる星の下にでも産まれているのか。悲鳴を上げてドン引いているオフェリアにも変わらずのイケメン(変態)スマイル。この男のメンタルは強すぎる。

 

「おいお前、どこから入ってきた」

 

「あぁ、私はこの国の皇女のファンクラブ一桁会員なので、殺戮猟兵(彼ら)とも顔馴染みだし、ここは顔パスなのだよ。ところでカドック君、もう少し前髪を伸ばす予定はあるかな? そしてメカクレ同士で絡み合うという楽園(エデン)を私に──」

 

「つまみだせ」

 

 部屋の外で控えさせていた殺戮猟兵(オプリチニキ)数人がかりで連行される変態。「ロバーツ死すともメカクレは死せず!」と拘束されながら迫真顔で頭のおかしい事を言っている。

 王族が住む城なのにセキュリティガバガバ問題。殺戮猟兵(オプリチニキ)も雷帝のモノだった頃よりは融通がきくようになったのは良いのだが、いかんせんフランク過ぎる……キャラ崩壊のレベルで。

 絶対に自分のサーヴァント(アナスタシア)がデアーとか汎人類史のアナスタシアが扱う筋骨隆々のヴィイに遭遇したショックのせいだとカドックは信じて疑わない。

 

 

 

「はぁ……色々と話が逸れたが、捕虜とも言える僕にはここで彼女(アナスタシア)皇帝(ツァーリ)にするぐらいしかやることは無い」

 

「でも今はそれがやりたいことなんでしょ?」

 

「ま、あいつに御膳立てされた状況に関しては一言ぐらい申したいがな。……実はデアーが異星の神だったとかいうオチは無いか」

 

「笑えない、ジョークね」

 

 かつては目下の隈を濃くさせ、常に何かに切迫されるようだった男が随分と余裕のある顔をするものになったとオフェリアは感慨にふける。さっきの白髪片目カクレ色白皇女系がどうこうも含めて場を和ませようとするジョークも言えるようになったのだから、ペペが見たら口を開けて大笑いするだろうと懐かしいかつての仲間の顔を思い出す。

 

「でも、そうね……。やりたいことが出来たっていうのは私も一緒よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▲▲▲

 

 

 

 

「ほら、湖の白鳥さん(メルトリリス)。わたし達の子ども、しっかりとその手で抱いてくれないかしら?」

 

「正気? 私の感覚障害の事は知っているわよね、そんな女の手に大事な赤ん坊を預けるとか……」

 

「ふふ、大丈夫よ。この病院を守ってくれていたあなたなら信頼出来るわ。きっとありす(わたし)もお礼を言いたいだろうし」

 

「産まれたばかりで何を喋るっていうのよ……。……………………あぁ、はいはい抱いてあげるから、安静にしてなさいっ」

 

境界無き病棟(ボーダーレス・ナイチンゲール)』の一室、アリスとありす(赤ん坊)がいる病室にはナイチンゲールの厳格な面会スケジュールの元、多くの者が訪れた。純粋に祝福する者、羨ましがる者、赤ん坊の可愛さに頬を緩ませる者、次こそは自分だと意気込む者、興奮で痙攣する狩人等々。

 

 マシュに何故か連れてこられたオフェリアの目の前で自身のサーヴァントを圧倒した下半身の防御が薄い女性が汗を滲ませながら、絶対に落とさないように……これ以上無い程に真剣な顔で託された赤ん坊を抱いていた。

 マシュはマシュで感極まって、震えながら、胸に両手を当てて嗚咽を漏らしていた。

 

「マシュ、アンタ……今でそんな興奮してたら、自分の番の時、死ぬんじゃないの? もう少し落ち着きなさいよ」

 

「落ち着けるワケないじゃないですか! だってッしぇんぱいぃのぉッ、えぐっ、こどぉ……ひくっ……グスッがぁぁっ」

 

「あぁうん。何言ってるかまるで分らないわ。あぁもうほら、鼻チーンしなさい」

 

 ティッシュを持った邪ンヌに介護されるマシュちゃん。

 感情豊かになった事を喜ぶべきなのか、Aチームにいた頃のクールさの影すら無くなってポンコツになった事を悲しむべきなのか、オフェリアは何とも微妙な気持ちになったが……それを差し置いて一つ気になることがあった。

 

「そこにいる、アリスさんと言ったかしら? 赤ん坊っていうならお父さんは誰なの?」

 

 病室には男がデアーしかいない。だがマシュとの惚気を聞かされたオフェリアはデアーの女性遍歴はコヤンスカヤの虚言だったと思っている。まさか彼では無いだろうと考えていた……この()()()における彼はいたって好青年だと。

 アリスと呼ばれる母も随分年若く見えるが外見通りの年齢では無いのだろう、さすがに二桁もいっていない幼い娘が出産するなんてまさかそんなと……ちょっとした疑問のつもりで聞いていた。

 

 周りの「え、コイツなに言ってんの?」という空気には気付いていない中、一人の男が手を挙げていた。

 

「俺、この娘のお父さんなんだよ」

 

 それはさながらスチル(一枚絵)が用意されそうなぐらい眩しい笑顔で今すぐにでも──大丈夫だよ、俺も、これから頑張って行くから──をしそうな程に澄み切っていた。

 

「は?」

 

 認知したくない現実がオフェリアを襲う。ピシリと石像になった彼女に畳み掛けるようにアリスがベッドにかけながら、傍らにいたデアー腕を抱き締めていた。

 

「彼、私の旦那さんなの」

 

「え、え、え? いや、その、じゃあ、マシュは……?」

 

 その質問に答えるように回復したマシュが渾身のドヤ顔でデアー空いている方の腕を抱き締めていた。

 

「私、先輩の奥さんなんです」

 

「私、彼のプリマドンナ(伴侶)なの」

 

「あ、あたしもお兄さんのつがい(予定)なの!」

 

「じゃ、じゃあ私は……コイツの相棒、いやパートナー……じゃなくて、こ、こここ」

 

「お姉様、見切り発車は如何なものかと思います」

 

「うっさいわね!」

 

 あぁ、何ということだとオフェリアは天を仰ぎたくなってしまった。噂は真実であったと、自身を除いてこの部屋にいる女性は皆、彼の毒牙にかかってしまったと……。いやここにはいないだけでまだ他にも何人かいるのかもしれない──。

 オフェリアに宿ったのは決意。それはデアーに立ち向かった時同様、心の内から踏み出した彼女本心のエゴ。マシュを守護(まも)らなければ……という胸に宿った炎は彼女の膝を折ることはしなかった。

 

 

「不潔! え、え、……えっちなのは良くないと思うわ!」

 

 絞り出した言葉は何ともまぁ、目の前の男に言うのは3年程遅かった気もするが。マシュをデアーから引き剝がし、雛鳥を守る親鳥のように抱き締めこちらを威嚇する姿は健気で本来なら先輩とのスキンシップを邪魔する者は盾で峰打ちKO確定なマシュでさえも苦笑してしまうものだった。

 

 マシュとの話を聞いた時、彼女の豹変ぶりに押されてしまった時もあったが……オフェリアは心の片隅では二人はお似合いだと思っていたのだ。

 だから今はマシュを守るだけではない……。立場的には後輩にあたるこの男を更生させると。大事な友達と後輩をどこに出しても恥ずかしくないボーイミーツガールにして見せると彼女は誰でも無い自らの心に誓った。

 

 その決意が人理修復の100倍難しい偉業であることをこの時のオフェリアが気付けば、違う可能性(未来)もあったかもしれないが──。彼女自身がピン留めしないというのなら、後はもうなるようにしかならないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▲▲

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はマシュとデアーをきちんと健全な男女の道へと更生してみせるわ。これは誰に決められたわけでもない、私自身のやりたいことよ」

 

 瞳に炎を宿し、強く宣言したオフェリアを見て、カドックは「こいつは自殺志願者か」と戦慄した。オフェリアの頭上に無謀というデバフが異常に重ね掛けされている。

 

(デアー)も根は悪い人ではないのよ。女癖の悪さを正せば、きっとマシュとお似合いの男になるわ」

 

 なんかDV夫に洗脳されている妻みたいな事を言いだした同僚にカドックは頭が痛くなってきた。こうガソリンを被って火口に飛び込もうとしているかつての仲間を止めるべきかカドックは数秒悩み、出した答えは。

 

「ウン、ガンバレ、オウエンシテル」

 

 安定のスルー。本人がやりたいというのなら止めるのも野暮だろうともっともらしい言い訳を思い描きながら放任を選んだ。巻き込まれるの怖いもんね。触らぬビーストに祟りなし。

 

「デアーの本質は繋がりの強さ、関係を持った女性の数だけ強くなるというのなら、これ以上彼の毒牙にかかる女性を増やさないように私が監視する事は彼自身の弱体化──つまり私のこの行為も残ったクリプター、ひいてキリシュタリア様の為にもなるということよ!」

 

 ならねぇよ馬鹿──というツッコミをカドックはグッと飲み込んだ。

 

 まず、デアーの第三宝具『竿繋ぎの多元性交(パラレル・セックス)』がある時点で彼はマルチセックスが可能なので、肉体が一つのオフェリアが常に見張っていた所で彼がオフェリアと一緒にいる事もセックスだと判断してしまえば、複数体で存在したデアーはいつも通り、至る所でライフワーク(エッチ)に臨めてしまう。一魔術師が覚悟を決めた程度であの男が止まるのなら、まずカルデア最後のマスターはビーストになっていない。

 

 どうしてあの男に関わると誰も彼もがおかしくなるのだろうか……。本人じゃなくともストレスの種を持ってくる元凶を一発殴りたい気持ちになった。殴った所でカドックの拳が負傷するだけだろうが。

 

「マシュも今は恋に盲目だけど、きっと分かってくれると信じているわ。吉報を待っていて頂戴」

 

(いや、盲目なのは君だ。眼帯を両眼にでもつけているのか)

 

 やりがいのある目的を見つけ非常に生き生きとしているオフェリアはその後、退室した。彼女の背中を苦虫を嚙み潰したような顔で見送ったカドックは残された部屋で独りごちた。

 

「木乃伊取りが木乃伊にか……。千里眼なんてなくても、どうなるか分かるな」

 

 吉報ならぬ凶報が来るのはいつだろうな──と彼は小さく溜息を吐いた。

 

 

 

 

 





驚くべき奇跡(マーベラス・クラフト)

ランク:EX
種別:対民宝具
使用者:ポール・バニヤン
大地を削り、木を伐採し、かまどで生成し、住居を建て、作物を育て、家畜を増やし、村を造り、開拓を進める。破壊と創造は表裏一体。人理における全ての人間はそうやって繁栄してきた。物造りの道に終わりは無く、さぁ民よビルドの時間だ。
ポール・バニヤン振るう槌、それが産み出す奇跡(クラフト)奇跡(クラフト)を目にした人々に同種の力をもたらす御業。その全てが彼女の宝具である。破壊の後に産まれる、小さく立方体となったブロックの山で彼等はいつまでも創造の楽しみに悩むだろう。マインクラフトなのか、ビルダーズなのか……。
オフェリアを運んだトロッコとレールはデアーとバニヤン共同作。
試作品として上空2000mからのジェットコースター加速トロッコに乗せられたカドックは口から虹を吐き出した(一緒に乗った異聞帯のアナスタシアは地味に楽しんでいた)。



ロシアでは空前の巨女ブーム。
雷帝を打ち破った白石のゴーレム――救済の女神。
鋼鉄の化身、巨大メカエリチャン――守護の女神。
怠惰こそ文明、アルテラマン――文明の女神。
創造の喜びを。ポール・バニヤン――開拓の女神。
くぅくぅお腹が鳴りました。キングプロテア――渇愛の女神。

この五柱の誰推しかでヤガ、殺戮猟兵(オプリチニキ)達は日夜、SNSで激しい戦いを繰り広げている。バーソロミューは渇愛の女神推しらしい、死ぬほどどうでもいいね。














【空  想  転  居】

第2部 2章 完結




次回はロリ抱きます。







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