※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

132 / 146

《ネタバレがない地獄界曼荼羅 平安京 予告編(大噓)》


『ンンンンンッ――しつこい』

『あなたたちは本当にしつこい 飽き飽きする 心底うんざりです』

『口を開けばクリスマス 鈴鹿サンタ 黒ギャルおっぱいと馬鹿の一つ覚え』

『拙僧が実装されたのだからそれで十分でしょうに』

『アーゲードで3D黒ギャルサンタおっぱいと乳繰り合えるから何だと言うのです 自分は幸運だったと思いマイルームで拙僧を突き続ければ済むこと』

マスター「お前何を言ってるんだ?」

『拙僧は拙僧の責務を全うしましょうぞ』

『何も 難しく考える必要はありません。初めての相棒サーヴァントとして共に人理を修復し、苦楽を共にした拙僧を陳宮殿の弾にするなどそんな極悪非道な真似をする者はいない』

『オタクに優しいギャルなど存在しないのです いつまでもそんな妄想に縋ってないで ログボで聖晶石を稼いで静かに暮らせば良いでしょうに』

『殆どの人間がそうしている 何故あなたたちはそうしない?』

『理由は一つ カルデアは異常者の集まりだから』

『異常者の相手は疲れました。いい加減終わりにしたいのは拙僧の方ですぞ』


マスター「リンボ……お前は 存在してはいけない生き物だ」

そして、命の価値に区別なく――
次号、地獄界曼荼羅 平安京で
自爆開始(掎角一陣)!!!





カルデアコレクションにて、卑弥呼、織田信勝、ゴッホ、ネモ、伊吹童子更新。


Q:カッツは男では?
A:雌にして、姉上共々抱いてしまえば関係ありません。

Q:ネモシリーズにはまだ性別が確定していない娘がいますが?
A:関係ない。むしろ興奮する。

Q:アーケードはやらないの?
A:据え置きで出してくれれば、課金要素があっても100%買うから。

Q:前回投稿から3ヶ月経ってますが。
そ れ は ご め ん。




ポンコツ女神様、スカサハ・スカディ回になります。




スカディ様は愛されたい(スカサハ・スカディ 前編)

 元北欧異聞帯、現スカンディナヴィア半島南部。

 3000年以上冬が続いたその地にはようやく春が訪れていた。

 雪解けと共にうららかな陽ざしが大人になれなかった子ども達を照らしている。

 

 さらに付け加えれば、『春が訪れた』意味はもう一つあった。

 

 戦乙女達にも春が訪れたということ、そう今や北欧中全ての戦乙女達は浮かれていた。

 

 

 

 春、それは恋の季節。即ち、色ボケ。

 

 

 

 女王スカディの命令を機械的にこなすだけの存在だった彼女達が初めて得た『恋』『愛』『快楽』の概念。

 北欧中で人間達の守護、土地の調査、インフラ整備を行いつつも、飛行している彼女達は何かこうほわほわしていた。物理的にも精神的にもふわふっわしていた。

 

 ──もうウチの彼ピが可愛すぎて──。

 ──起きるまで頭ナデナデされたい──。

 ──見て見て、彼にもらった首飾りぃ、なんか千年生きたヤドカリの貝殻でつくったんだって──めっちゃエモくない? 

 

 統率個体、量産個体問わず、彼氏いない歴=稼働年数である彼女達がキャラ崩壊するレベルでバグり出していたのだ。もうピコピコしている頭の羽根からハートマークを飛ばしまくっている。隙あらばラブコメ臭を撒き散らしている。

 そんなボケボケ状態の戦乙女達が現在、北欧の至る所で目に出来る。加えてその空気に感化され、いつも以上にイチャついて困り刺されて、血を撒き散らしている(ガッツが無ければ即死だった)シグルド&ブリュンヒルデもいたがそれはいつものことなのでスルー。

 

 まさに今の北欧は空前のラブブーム。どいつもこいつも甘ったるい電波を垂れ流しているのであった。

 

 けれど、そんなシュガーな空気に乗り遅れてしまった者もいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──オスロ・フィヨルド北部、氷雪の城。

 

 

「いいの?」

 

 大広間で年頃の娘のように氷でできたテーブルに頬杖をついてスマホを弄っている少女がいた。

 ──アイヌの少女英雄シトナイ、北欧神話の女神フレイヤ、フィンランド神話の魔女ロウヒの三柱がある聖杯戦争において最高の出来と謳われたホムンクルスであった少女と融合し、アルターエゴとなった存在。

 

 ここでは便宜上、そして彼女自身がそう定めている以上、『シトナイ』と呼称しよう。

 

「本当に良かったの、お義母さん?」

 

 シトナイは態度こそはどうでもよさそうに見えるが、その声色だけは心配そうに汎人類史において自身の中にいるフレイヤの義母にあたる人物──否、神である女性、北欧異聞帯の女神──スカサハ・スカディに声をかけていた。

 

「何がだ?」

 

「何がって……わかってるでしょ。あの娘達(戦乙女)みんなに先越されちゃってるけど、このままでいいのって意味で聞いてるの」

 

「…………ふふ、何の話か分からぬな」

 

 ここに来てまだ白を切るスカディにシトナイは大きく溜息を吐かざるを得なかった。

 いずれ役割を失うであろう戦乙女達にカルデアのマスターという再就職先(嫁ぎ先)を用意したのは彼女だ。それは3000年もの間、彼女達を北欧存続の使命に縛り付けてしまった罪滅ぼしなのか、感謝なのかは本人しかあずかり知らぬことだが、結果として女王スカサハ・スカディは空前絶後のラブブームに取り残された形となったのだ。

 

「時にフレイヤよ。おまえが先程から手慰みにしている薄い板は何だ」

 

「スマホよ、スマートフォン。カルデアのお兄さんにもらったの。凄い便利ねこれ、この肉体が生きてた頃はなかった代物だけど、今や戦乙女達だけじゃなくて、人の子達もみーんな持ってるわ。お義母さんの分ももらってるけど──いる?」

 

「戯け。斯様な汎人類史が造った玩具に惹かれるものか。それに私は名称ではなく、どのような用途で使うのか聞いて──」

 

「これがあれば、いつでも遠く離れたデアーお兄さんと通信できちゃうけど」

 

「もらうっ」

 

 シュバババッと目にも止まらぬスピードでシトナイが取り出したもう一つのスマホを奪い去るように手に収めるスカサハ・スカディ。瞬く間にえぐい指使いで文明の利器の使い方を理解する、ポンコツ臭はするがこれでも北欧神代及びルーン魔術の深淵まで網羅する女神。一を見て百を理解する彼女からすればスマホの使い方程度マスターするのに秒で十分。

 ただ何を妄想しているのか、ニマニマ顔でスマホを弄り回している推定年齢ウン千歳な義理の母にはシトナイも白い目を向けるしかなかったが。

 

「その態度でよくもまぁ、誤魔化せると思ったよね」

 

「ち、違う……違うのだ。これは別にだな床に就く前にデアーと言葉を交わしたいとかそういうのではなくてだな……。北欧を守る為にも今後カルデアとは協力体制は必須でその連絡手段として」

 

「あぁもう、そういうのいいから」

 

「娘が冷たくて、母はつらい」

 

 杖とスマホ、それぞれ握った両手をあたふたシェイクしてテンパリまくっている姿。ご覧あれ、これが異聞帯の北欧神話において最後まで生き残った神様である、まるで家族に「好きな人できたでしょ?」と指摘される女子中学生ではないか。威厳? 彼女にはないよそんなメニュー。

 

「もう意地張る必要なんてないじゃん。このままだと本当に行き遅れで売れ残りだよ? 周りの戦乙女達がラブコメ臭撒き散らしている中で『男共は見る目がないっ!』とか言ってチキって拗らせて飲んだくれているお義母さんの介護生活なんて私ごめんだからね」

 

「あ、あの……フレイヤ、もう少し手心というものをだな……」

 

 あまりに辛辣な言葉にスカディは涙目だった。

 

「ブルチキハートの女にそんなものはないわ! 好きなんでしょ! 生まれて初めて3000年の自分の努力を労われて、敵対していた立場だったのに心の底から守りたかった(世界)も救われて惚れちゃったんでしょ! だったら遠回りな事してないで、ちゃちゃっと告白でもしちゃいなさいよ!」

 

「だ、だが……」

 

「だがもへちまもないの! 前まではあんなに『愛そうか』なんて、これ見よがしに慈愛を振り撒いてた癖に一人に向けようとした途端に縮こまるのはもうやめる! いい!?」

 

 今のシトナイの様子はまるでバツイチの母を心配して何とか良さげな男とゴールインさせようとヤキモキしている娘に見える。厳密に言えば、スカディは結婚歴は無いのでバツでも何でもないのだが。

 だがそんなシトナイの発破でもスカディは後一歩踏み出すことができない。それは伴侶がいなくても生きてこれてしまった孤独な半生が彼女を臆病にしているのだろう。

 

「よいのだ。あの男には、デアーには私などが愛を囁かずとももう周りに十分過ぎる愛が溢れている。今更、私が奴に歩み寄った所で重みにしかならぬ。いやまぁっ、例えばの話だぞ、私がそんな、生娘のようにあれに言い寄るなどそんな事あるわけなかろう!」

 

「いやいきなりそんな顔をクワァッ! ってされた所でさぁ、照れ隠しが下手糞過ぎる……。ハァ、あくまで認めないのね」

 

「認めるも何も、無いものは無いのだ。つーんッ!」

 

「つーんじゃないのよ、このポンコツ女神。じゃあ、デアーお兄さんから求愛されたらどうするのさ」

 

「デアーから、だと……!」

 

 スカディは想像する。毎ターンクリティカル100%を叩き出すレベルでキラキラしているデアーを。具体的にはかつてオフェリアの前でキャストオフした全裸をイメージし、ワールドワイドな姿で熱くスカディを口説くデアーの姿を。

 

Ti amo(愛してる)……』

 

 現在、頭が沸いた妄想をしている彼女だが、それでもかつては神々に愛され、求婚され続けた女神。だが、『神々の花嫁』と呼ばれた彼女は誰に応える事もなく、そのまま取り残されてしまった。

 そんな北欧世界最後の神が、自身と自身を取り巻く世界を救い、誰に打ち明ける事が出来なかった艱難辛苦から解放してくれた男が──憎からず想っており、本心では心惹かれてしまっている男が自身に愛を囁いてきたら──? 

 

(なんだ……? この胸の痛みは?)

 

 彼女の胸に宿ったのは初めて知る感情。痛いのに、不快じゃなくて、心臓が不安と喜びが混ざり合ったような動悸を刻んでいた。デアーの姿を思い浮かべるだけで、胸が張り裂けそうになって、でも止める事が出来なくて──切ないのに、彼の事を考えるのが止められない。

 

 3000年間使う事がなかった感情に思考を委ね、巡り回り、それは熱い炎を産み出す。

 

 そのまま思考の渦から抜ける事が出来ずにやがて、北欧の女神は胸を抑えたまま、苦し気に氷の床へ倒れてしまった。

 

「え……? ちょっと……お義母さん!?」

 

 

 それは女神が生まれて初めて罹った病であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急患です! 道を開けなさい!!」

 

 

 カルデアの廊下を時速80kmで白衣の天使が爆走していた。

 事の発端はマスターのスマホから連絡されたシトナイのSOS。

 

『お義母さんが倒れて……! 胸を抑えたまま苦しそうにしてて、私も色々調べたんだけど、魔術とか呪いとかおかしなものはかけられているようには思えなくてッ──』

 

 電話の向こうから伺えるシトナイの様子からして、事態は急を要すると判断したマスターはすぐさまどこでもドア(アビゲイル)を連れて、スカディをカルデアへと搬送した。

 

 神すら犯す原因不明の病──。

 

 ベッドごとナイチンゲールに担がれたスカディは緊急治療室へと運び込まれる。手術チームはフローレンス・ナイチンゲール、メディア、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス、シャルル=アンリ・サンソンの計4人。医術、魔術、錬金術、あらゆるジャンルから人体に精通したカルデアのエキスパート達がこの前代未聞とも言える病に挑もうとしていた。

 

 その戦いの場に部外者が立ち入る事は許されない。集まったマスター、シトナイ、3人のワルキューレ達は赤く点灯した『手術中』のランプを見つめ、ただ彼女が無事であることを祈ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──峠を越え、ようやくスカディの容態が落ち着いた頃。診察室の空気は重かった。

 

「…………生まれて初めてなのだ。突然、心臓が激しく鳴り出し、死んでしまうのかと思う程に胸が痛みを訴えたのだ。まさか、神すら臥させる病がこの世に存在するとは思ってもみなかったが」

 

 診察室で憂鬱そうに語るスカディの話をナイチンゲールを含む、手術メンバーが真剣に耳を傾けていた。

 マスターの姿は無い。命にかかわる病である以上、これはデリケートな話題。部外者が容易に関わる事を現段階においてナイチンゲールはまだ許さなかった。今現在スカディと共にいるのが許されたのは医療メンバーを除けば家族であるシトナイだけである。

 

 彼女も倒れた義母に対して、何も出来なかった無力感に打ちひしがれているのかもしれない、スカディの後ろで不安気に手を握っていた。

 

「神代には発見されなかった病、私が生きた北欧では存在し得なかった病原菌。お前達が我らが地(北欧)を救う為に連れてきてくれたこの星の空気は余程、私の肌には合わなかったのだろう」

 

 スカディは冷静に分析する。何千年も生きて病などに罹った事はない自身が急激に体調を崩したというのならば、その要因も同様に急激に変化した外的要因に絞れると。魔術や呪いの類ではないのはシトナイが証明済み。そもそも神たる自分にはそういったものが通用することはまずあり得ない。

 

 ならば、可能性としてあるのはデアー達が連れてきてくれたこの外宇宙の地球に存在していた病原菌が女神スカディとの相性が極めて悪かったこと。

 

「このような事を頼める立場ではないのは重々承知である。だがどうか頼む。私の命はどうなってもよい、あの地(北欧)に生きる愛し子達は、我が娘(ワルキューレ)達はどうか、私を犯した病からは救ってはくれぬか」

 

 だがスカディが恐れたのは自身の死ではなく、この病の魔の手が大切に想う者達へとのびる事。

 己は死んでもいい。むしろサンプルとして隅々まで有益に使って欲しいと願った。

 

「あらゆる地獄を経験し、最も進化の可能性を抱えている汎人類史(お前達)ならば何とか出来るであろう?」

 

 それはスルトを打倒し、北欧異聞帯を丸ごと救ったという奇跡を成し得たカルデアに対する絶対的な信頼でもあった。

 まるで自身の死期を悟ったかのようなスカディの発言に室内の空気がより一層冷たく、重くなったような気がした。しかし、そんな空気に臆する事なくナイチンゲールは患者と向き合い必要な事を伝える。さらに付け加えると後半からのスカディの覚悟の懇願に関しては一切耳に入れていない。

 

「診察の結果、大体の所はわかりました。ミス.スカディ、いいですか? 慌てずに聞いてください」

 

「あぁ、覚悟は出来ておる……残り短い私の命、有意義に使うことを許そう」

 

 スカディの背後からシトナイの息を呑む音が聞こえた。

 

 

それは恋の病です

 

 

 もう一度、スカディの背後からシトナイの息を呑む音が聞こえた。

 

 

「…………………………………………………………………………それは、そういう名称の病があるのだな、コイノ・ヤマァイ的な」

 

「いえ、正式名称は現在の所ありません。好きな人にドキドキする感情の事です。心身症の一つだと思っていただければ」

 

「ふ、ふふ、鉄仮面のような顔で冗談を言うのだな」

 

「冗談ではありません」

 

「ならば何だ!? 私は恋のドキドキとやらでここまで(カルデア)まで運ばれてきたというのか!?」

 

「はい、では話を整理しましょう」

 

 ナイチンゲールはとても先程『恋の病』など口にした者とは思えない至極真面目な顔で叫喚しているスカディと向き合った。全ての患者を拳で黙らせてベッドに縛り付けて、治る(死ぬ)まで治療行為を続けていそうなイメージを抱かれがちな白衣の天使ではあるが、それはケースバイケースである。

 デリケートな()の病であれば、まずは対話から試みるのも別段、珍しい話ではない。患者が言う事を聞かないと分かればその限りではないが。

 

「特定の人物のことを考えると鼓動が早くなると」

 

「あぁ、そうだ」

 

「さらに司令官(その特定の人物)から求婚された姿を妄想したタイミングで胸に突然キュンキュンとした痛みが走り……息も出来なくなると」

 

「だからそう言っておる!」

 

 ナイチンゲールは部屋にいたメディア、サンソン、パラケルススに無言で視線を合わせた後に今一度真剣な顔で北欧の女神と向き合った。

 

それは恋の病です

 

「違うと言っておるだろうッ!! 何千年も生きて、ここまで胸が苦しくなったのは初めてなのだ!!」

 

「では初恋ですね」

 

「わからぬやつめ!!」

 

 どれだけ女神が激昂しようと、ナイチンゲールは淡々と事実を述べる。カルデアの医療トップとして従事している彼女の口から「恋の病」と告げられた以上、たとえ女神いえども、いくら否定した所でそれは絶対の事実として認めなければならない。

 

 事の成り行きを黙って見守っていたシトナイがようやく口を開いた。

 

お義母さん……私、外で待ってるから、終わったら呼んで

 

 それは快活な彼女にしてはか細く震えた声だった。頬はこれ以上ない程に紅潮し、涙目になった瞳は誰とも合わせられず虚空を見つめていた。

 

もう耐えきれない……私、彼に滅茶苦茶シリアスムードで助けを求めたのに、もう二度とカルデア(ここ)に来れないじゃない、マジ最悪

 

 必死の想いでカルデアのマスターと連絡をして、手術が終わるまで義母の無事を祈っていた自分がまるで馬鹿みたいじゃないかと顔を手で覆ったままシトナイは嗚咽を漏らした。その気持ちは良く分かる、しかもついぞさっきまでは「私の命はどうなってもいいから他の者達は救ってやってくれ(キリッ」とかやってた義母の存在が羞恥心に拍車をかけているのだろう。今だけ、フレイヤの神核をどこかにやりたい気持ちに彼女はなっていた。

 

「なっ、なんなのだ……」

 

「よろしいですか。ミス.スカディ。どうやら貴女は自身の病を軽く見ていらっしゃる」

 

「軽くとは、そもそも恋の病など馬鹿げた──」

 

「その認識を今すぐ改めるように。恋の病は立派な病の一つ。人が恋をする時に放出されるドーパミンはご存知ですか? 量が適正であれば心身共にプラスの働きをしてくれる脳内物質ではありますが、それも過剰となれば、睡眠不足、食欲不振、呼吸困難、心不全と多くの症状を引き起こし、さらには心の安定を図ってくれる神経伝達物質でもあるセロトニンも減少し、多大なストレスを抱え、脳や心を不安定にし、死すらも引き起こす。恋の病というのはそれほどまでに恐ろしい病なのです」

 

「お、おぅ……」

 

 息継ぎも瞬きもせずにゼロ距離でまくし立ててくるナイチンゲールにスカディは圧倒されるばかりだった。医の道を極めた人間にこうまで強く断言されると本当に自分が重い病に罹った気さえもする。恋の病、こわいなぁ。

 

で、ではっ! 私は倒れるほど、奴の事が大好きという事になるではないか!! 

 

「初めからそう言っているでしょう。恋する相手と結ばれない不安、悲しみ、寂寥感が症状を引き起こしているというのなら、治療法としては至ってシンプルです。恋の相手(司令官)と結ばれればいい。本来なら、今すぐに貴女と司令官を集中治療室(セックスしないと出られない部屋)に叩き込む所ですが……」

 

「セッ……!」

 

 解決方法がアマゾネス過ぎる。コイツ本当に医者かとスカディは耳を疑った。

 

「ですが、この病の治療には患者の自主性が最も尊重されるのは私も理解はしています」

 

 どうやら今からデアーと一発犯ってこいという展開にはならなさそうだと、スカディは安心しかけたが、「歩く陸軍省」、「善意のタランチュラ」と呼ばれた彼女がここで終わらせるワケもなく──。

 

「ですので猶予はしっかりと与えましょう。本日中に司令官と治療行為(セックス)を行い、パートナーとなること。1秒でも日を跨げばお二人を集中治療室(セックスしないと出られない部屋)へとご案内するだけなので心配の必要はありません。もちろんベストなのは患者(貴女)の自主性ですが」

 

 残念な事にカルデアには神代の女神でも脱出不可能な面白空間を造るのに長けた変態が何人かいる。肉体は未だ処女な万能な天才とか、宝具を解放すればナース服になる小悪魔後輩とか。

 恋愛偏差値がおこちゃまレベルなスカディには酷すぎるミッションではあるが、この婦長が行けといえばイケなのだ。もう彼女の未来は二つに一つ。自ら抱かれに行くか、無理矢理抱かれるか。北欧の女神は顔を真っ赤にして泣きそうだった。

 

「あ、あの、その、だからな、わ、私は、あやつの事を……。誰か……誰かいないのか……? 私を、助ける者は……?」

 

 今にも光の粒子になって消えそうな彼女の声にサンソンもパラケルススも沈痛な面持ちで首を横に振るだけだった。ナイチンゲールは表情筋が1ミリも動いていない。シトナイはもう部屋から出て行っている。唯一メディアだけが聞き分けのない生徒を諭すか如き慈愛に満ちた表情でスカディの肩に手をのせていた。

 

「ちなみに言っておくけど、彼女(婦長)の手で集中治療室行きになった場合は最初(前戯)から最後(ピロートーク)まで余すところなく、モニタリングされる事になるわ。初めてがそんな悲惨な特殊プレイになるのは100キルケー(叔母様)レベルで憤死ものだから自力で頑張ることね」

 

「それはどういう単位なのだ……?」

 

 北欧から遠く遠く離れた南極。ここにスカディの味方はいなかった。

 愛する男との営みを資料映像として、あるいはこれからのマスターの子供達用の保健体育の教材として残される未来を否定する為には自ら婚活する以外の選択肢は示されていない。

 

 おぞましや汎人類史。おぞましやカルデア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スカサハ・スカディが集中治療室(セックスしないと出られない部屋)に叩き込まれるまで、残り11時間。

 

 

 

 スカディは食堂のテーブルで頭を抱えていた。何か目的があって今ここにいるわけではない。何をどうすればいいのか分からなくて彼女はここにいる。人を遥かに超越した頭脳をもつ女神たる彼女ですら頭を抱えるしかない、それほどまでに混乱の極致にいるのだ。

 

 

 時系列を戻すと、診察室から出たスカディを心配そうに出迎えたのはスルーズ、ヒルド、オルトリンデの統率個体達。話によるとデアーもスカディの容態が安定したと聞くまで寝ずにここにいたようだった。

 

 ──ご無事で何よりです、女神スカディ。本来ならここでマスターと喜びを共にしたかった所ですが。

 ──まぁ、仕方ないんじゃない? マスターも色々忙しそうだったし、何だっけ? 刑部姫とかいう極東のお姫様が聖杯で微小特異点だかに引き籠ったって。

 ──我々の代わりに量産個体達と向かったので大事にはならないでしょう。……女神スカディ? お顔が少々緩くなっているようですが? 

 

 まだ覚悟も出来ていないのに、いきなり想い人とエンカウントするような事態にならなくて安心反面、少し寂しい気持ちもほんの少しあるけれど、彼が自分を心配して寝ずにいたという事実で喜色満面、口角が上がりに上がってしまう表情を表に出すのを抑える事が出来なかったようだ。

 

 話を聞くと、デアーは現在、量産個体のワルキューレ達50騎と微小特異点に向かったそうだ。

 具体的に原因を述べれば、一つ目の異聞帯──すなわちロシアでイヴァン雷帝をロボットと化した城の中でマスター&アナスタシアと3Pしながら倒したという字面にすると理解不能な黒歴史というか桃色歴史がフラッシュバックしたそうな刑部姫が錯乱状態になり、偶々あった聖杯で微小特異点に引き籠るといういつもの如く小規模イベントを起こしたという感じである。

 アナスタシアの方はケロっとしているというのに、今更になってあの羞恥に耐え切れなくなったようだ……これが姫力1ケタと5ケタの差。取り敢えず、スナック感覚で聖杯が使われてしまうここ(カルデア)の危機管理意識はちょっとガバガバ過ぎない? 

 

 ともあれ、今この場にデアーがいないのはスカディにとって好都合だった。

 強大な敵(想い人)に一人で立ち向かう必要はない。有能な仲間(パーティ)を集って、挑むのも悪くはない。

 このワルキューレ達をデアーの元に向かわせて、まだほんの数日。だが他のワルキューレ達の浮かれ具合を観察する限り、間違いなく自分よりは親交を深めている筈とスカディは予想した。ならばデアーと自分の橋渡しとして、偉大なる先達として、彼女達の力を借りるのも有用な一手となる。

 

 スカディは参考がてらに、ここ(カルデア)に来てからのデアー(マスター)との馴れ初めについて問うた。

 

 

 

 ──そうですね私はお互い服を脱ぎ合い、舐め合い、触り合いながら、寝所までに情欲を高め合ってベッドに辿り着いた瞬間に昂った性器をそれはもう獣のように出し挿れをして、汗と愛液と性臭で部屋中をしっかりとマーキングするような……。

 ──陰部を丸出しにして、自分から動くつもりがない私を玩具(オナホ)のように扱って、けれど人形(マグロ)に徹するつもりの私は嬌声をあげずにはいられなくて、そしてマスターは私をとても大事にしてくれて、衣食住性、全てを彼に捧げる退廃的で怠惰な快感は一度味わってしまえば抜け出せない沼の如き……あぁ、はぁ♡。

 ──あたしは感覚器官の羽根をいやらしくシコシコされて、排泄したばかりのアソコもべっとり舐められちゃって、ギンギンにおっきしたマスターの棒でお尻の穴も好き放題されて、あぁ、お漏らししながらイッてるのを見られた時はヤバかったかなぁ……♡

 

 

 

「こいつら交尾したんだ!!」と号泣しながらスカディは女神の全権能を駆使して、その場から逃げ出した。

 ついでにその流れでカルデアからも脱出しようと目論んだのだが……。

 

 ──きゃああああああ!? うわ待って、なに、何だ何だ、怖い怖い怖いぃ! いやぁぁっぁぁぁっ──…………。

 

 ナイチンゲールがスタンバらせていた。宝具『境界無き病棟(ボーダーレス・ナイチンゲール)』の使い魔、『白き貴婦人』達、数騎に捕獲される。のっぺらぼうのナース服が四足歩行で弾丸のように追いかけてくる様は中々にSAN値が削れる光景であり、DEX判定をファンブったスカディ様は泣きながら御用となって引きずられていく事となった。女神に対する扱いが雑過ぎる。

 

 結局の所、スカディが現在食堂(ここ)にいるのも、既成事実を成すまでカルデアから脱出が不可能だという事を身をもって分からせられ、フラフラとさまよった先に行き着いたのが偶々ここだったというだけの話。

 

 

「デアーと愛を結べばよいと寄越したのは確かに私が、いくらなんでも早過ぎるであろう……。ふ、ふふふ……光の速度で置いていかれてしまったな、いつだってそう、私はいつも取り残されていく、フフフフフフフ」

 

 ワルキューレ達のノロケを最後まで聞かずに逃げたのは英断だった。最後まで拝聴していたら、女神いえども精神が汚染されていたかもしれない、ピンク色に。

 

 机に突っ伏して、陰鬱な空気を撒き散らしていると目立ちそうなものだが、生憎ここは人外英雄のサラダボウルでもあるカルデア。古今東西神様から良く分からないナマモノまで英霊達が闊歩しているので、スカディの存在は雑踏に埋まっていた。

 

 しかし、それでも捨てる神あれば拾う神があるというのなら。

 捨てられている神を拾う良い女がいても良い。

 

「げっ……スカサハ。何よ、その格好、もうバニー姿は飽きたのかしら?」

 

 スカディが顔をあげればそこには美と自信をこれでもかと体現している美少女がいた。

 ドレスと鎧と下着が複合した扇情的な白き戦装束を纏っている女の名は女王メイヴ。

 うんざりした顔でスカディを見るメイヴは彼女を「次は、私がマスターの子を孕んでやるぴょん!」とうさぎ跳びでトチ狂った事を言いだしたあのケルトバニーと誤解しているのだろう。

 

 ヘルシーなフルーツサンドをトレイの上に乗せている彼女は偶然にも空いていたスカディの目の前の席へと腰を落ち着かせる。

 

「お、おまえ……こんな往来の場で肌を出し過ぎではないかっ?」

 

「えっなにその反応。不覚にもキュンってしてしまったって事は、あなた……スカサハじゃないわね」

 

「?」

 

 判断が早い。そして判断基準が酷い。

 だが確かに刺し穿つバニー姿でマスターの腰の上でうさぎ跳びをしているようなケルトのヤバい奴(スカサハ師匠)がメイヴの今の姿の露出程度でこんな初心な反応をする筈がないのだ。

 

「あぁ、はいはい把握把握。あなたが北欧の女王とやらね。親友(マスター)から話は聞いてたけど、()は本当にスカサハそっくりね……」

 

「むぅ、な、なんだ。そう不躾に我が顔を覗くではない、不遜だぞ……」

 

 じっとりと見つめられ、恥ずかしそうに顔を俯けるスカディの反応にメイヴは恋愛的な意味とは別に心が乱された。まるで生後生まれて間もない子猫がまだ満足に歩けなくて、コテンと転ぶ姿を見たような……そう、それは()()()。少なくともメイヴが生涯スカサハには抱くことはない感情だった。

 

「顔はスカサハなのに、反応はアレとは正反対。なにコレ、スカサハなのに可愛いとか意味分かんないだけど………………。ふむふむ、素材はいいわね。よし、ちょっとあなた今何か用事はある? 無いのなら、これから私の部屋に来てもらってもいいかしら」

 

 即断即決。フルーツサンドを素早くかつ上品に胃に送り込んだメイヴはスカディの手を取る。ナンパ師のような口上だが、我が道を行くメイヴが一応とはいえ用事を訊ねるなどと他人に配慮しているのは非常に珍しく、それだけこの小動物のような女神様が何か琴線に触れたのだろう。

 

「待て待てっ! 急になんだおまえは……私にはこれから──」

 

 同性とはいえ、いきなり見ず知らずの他人の部屋に連れ込まれる暇などそもそもスカディにはなく、断ろうとしたが、上手く言い訳が思い付かず言葉に詰まる。彼女が正直に「これからお前達のマスターと本日中にベッドで一発キメていかないといけないのだ」などと口に出来るわけもなく(それをするぐらいなら死んだ方がマシだろう)、困り切っていたが、彼女の目の前にいるのはこと恋愛戦においては殿堂入りを果たしていると言ってもいい恋多き女。

 スカディから醸し出されるラブ臭を嗅ぎ取ったメイヴは察しが良かった。

 

「あなた、悩みがあるわね。ズバリ、恋の悩み──!」

 

「な、何故バレたッ……」

 

「当然よ。あなたの目の前にいるのは過去現在未来はては並行世界までフラグを回収し、恋愛においては生涯無敗と呼ばれた女よ。ふふ、運がいいわねあなた、この私の教えを受けて堕とせない男なんていないわ!!」

 

「な、なんと──! …………では、その、で、デアー……おまえ達のマスターもお、おとせるのか?」

 

Excellent(素晴らしいわ)!! 私の超親友(マスター)に目をつけるなんてセンス◎よ。私に万事任せれば、今日中に初夜どころか結納まで済ませられるわ。ここだと人目がつきそうだから、さっさとメイヴちゃんルームにGoよ!」

 

 何も知らぬ幼女の如きポカーンとした様子でメイヴの手に引かれていくスカディ。メイヴはメイヴでテンションがどんどん上がっていた。異性の初めての友がマスターなら、同性の初めての友がもしかすれば、このスカサハ・スカディになるかもしれない……そんな予感がしていた。

 可愛がり甲斐がある女友達と超絶親友(マスター)について恋バナをするというのはメイヴの密かな夢だったりもする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 性懲りも無く発生した微小特異点、その中心に鎮座するチェイテピラミッド姫路城にマスターが入れば、中は惨憺(さんたん)極まる状況だった。あらゆる物が乱雑に散らかっている部屋の奥に何かの気配を感じる。

 

「入るぞ、おっき-。大丈夫だ、俺一人だ。武器も持っていない。おっきー、終わりだ。もう逃げることはできない、ランサークラスのワルキューレ達が50騎狙っている。見ろ、この騒動を。ここはロシアじゃない、カルデアだ。戦争は終わったんだ!」

 

「なにも終わっちゃいない! なにも終わっちゃいないんだ!! 姫にとって戦争は続いたままなんだ!」

 

 カラフルなミリタリー装備で全身を武装し、アーチャークラス(水着姿)となった刑部姫が鬼気迫る表情で現れた。

 

「マーちゃんとアナちんにノせられてセックスで巨大ロボを動かした。姫も確かにちょっと興奮してたけど……。カルデアに帰ってくれば、おスケベ姫だの、マスターの操縦桿を膣で動かす女だのみんな好き放題に言いやがる。あいつら、なんなんだ!! 何も知らないくせに!!!」

 

「間が悪かったんだ」

 

「悪かった!? 姫の時代はいつ来るんだ!! ……本当は期待してた……クイック版タマモッチとしてサポートの人権になるって! でも宝具強化はバスター強化だった! 公式がむさかべを押してくるっ!!」

 

 持っていた銃を力の限り叩き付けた刑部姫は、しばらく怒りを鎮めるかのように肩を大きく上下させていると先程までの激昂はどこへやら、その場にへたり込んでしまった。手のひらで抑えられた顔は悲嘆に染まっている。

 

「自称オタサーの姫がこんなところで死ぬのか?」

 

「姫……、イベントで結構出番があるから人気キャラだと思ってた。でも、戦闘モーションで蝙蝠出す時に『臭そう』とか、水着になっても『腹をひっこめるな』とかいじられる。お外に出るんじゃなかったぁ……。ちやほやされたかった……ジャックちゃんみたいに……もう恒常星5アサシンのガッカリする方だなんて言われたくない……。だけど、引き返せないとこまで来ちまったんだ。あたしゃバラエティ英霊だよぉ……」

 

 さめざめと涙を流す刑部姫の隣へマスターは座った。彼女は体が触れ合うその距離に苦しみが幾分か救われるような気持ちになった。

 

「毎日夢を見るんだ……。SAN値が下がりそうな暗い海に何度も射出される夢……」

 

「なんか正夢になりそうだね」

 

「あと、姫の宝具に全体スキルチャージと宝具OCチャージとNP20チャージが追加される夢を……」

 

「それは欲張りが過ぎる」

 

「サポートサーヴァントの筈なのに何故か一人ぼっちで戦わされる……」

 

「ぶっちゃけ単騎の方が向いてる説ある」

 

「陰キャだからか!? そんな所で(性能まで)キャラに寄せてくれなくていいんだよ! ……最初のエリちゃんとずっ友だった設定はどこに行ったんだ! 最近まるで絡みがないじゃん!!」

 

アイドル貴族(陽キャ)と引きこもり姫(陰キャ)の差が露呈してしまったんだ……」

 

 あまりの残酷な現実に刑部姫は泣きながら、懐から聖杯を取り出した。マスターはそれを奪う事はせず、無言で彼女の頭を胸元に抱えた。その優しさが今の彼女にはひどく応えた。

 

「この聖杯では姫は生まれ変わるんだ……。真の陽キャになって、マーちゃんとの絆Lvが15ぐらいまでになる人権サポートになって……ゆくゆくはギャルゲの如く一枚絵をもらってメインヒロインになるんだ……」

 

「そうだね、もしおっきーがそうなったら孔明先生も少しは休めそうだもんね」

 

「………………………………」

 

「いやぁ、出不精のおっきーにそんな社畜精神が宿ってるとは思わなかったよ。武蔵ちゃんも喜ぶんじゃない? あ、ちなみに金リンゴと虹リンゴどっちが好き?」

 

 刑部姫は聖杯をマスターに預け、スッと立ち上がった。その顔に涙はなく、全てを悟った表情だった。

 

「やっぱり姫はありのままの自分を認めてあげることにするよ」

 

(部屋)に帰ろう……」

 

 彼女はワーカ(周回)ホリックになるつもりはなかった。

 

 

 ──閑話休題

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい? このままだとあなた、クハハうるさいアヴェンジャーとかアーサーアーサーうるさいバーサーカーとか、子ども子どもうるさいアーチャーにひたすらバフとNPを配るだけの女になるわよ。毎日毎日『ど・れ・に・し・よ・う・か・な』ってノイローゼになるまで杖を振るわせ続けられちゃうの!」

 

「お、おう」

 

 本来殺風景極まりないカルデアの一室を上品さと美しさと可愛さを黄金比でリフォームした自室でメイヴちゃんは熱く語っていた。

 雰囲気からして目の前の美女が自身と同じく王の位置に座する存在なのはスカディも察していたが、王と女の子である事を両立させかつ、誇りとして主張しているような彼女の部屋の内装と立ち振る舞いに圧倒されるばかりであった。それは北欧でも出会った事がない新鮮なタイプであったがゆえに。

 

「それで散々酷使されたあげく、今度は全クラス制覇しにきた金髪碧眼の小娘がきて、やっぱ時代は(クイック)、より(アーツ)だってポイってされちゃうわよ!? 分かってるの?」

 

「だが……デアーが私の力を欲してくれるのなら、それでも。捨てられるまでの間、傍にいれるのなら」

 

「私の超絶神親友(セックスフレンド)がそんなことするわけないでしょぉお!!」

 

「ど、どうした? 情緒不安定か?」

 

「私はあなたのそういう消極的な所を心配しているの。いいかしら? 男に都合の良い女になっては駄目なの。飯炊き女なんてそれはもう伴侶じゃなくて、オカンよ。まぁ、母親ポジでもいいとかいう連中はここにもいるけど、それは特殊な例だから割愛するわ」

 

「消極的にもなろう。奴にはもう女として私が及ぶべきもない魅力的な者達が侍っておる。今更、行き遅れの古臭い神が座れる席などないであろう」

 

 女として魅力的──きっとそれは彼女の娘達(ワルキューレ)の事も指しているのだろう。ワルキューレ達全てがデアーに喰われたと知った時は確かに取り乱したが、デアーとの逢瀬を語る彼女達の表情はスカディが今まで見たことがない程に生きた表情だった(内容は酷かったが)。同性である彼女すらも可愛らしいと表現できるレベルの彼女達の感情を目の当たりにした現実。さらにはそれをほんの少しでも引き出すことができなかった負い目があるからこそより一層魅力的に見えてしまったのだ。

 

 自分がデアーに擦り寄るのはそんな彼女達の幸せを崩す事にも繋がるのでは? 

 スカディが足踏みをしている理由は恥ずかしさもあるが、ワルキューレ達への負い目が生まれたからでもあった。北欧が平和になったから生まれた負い目。

 

 そんなスカディの内心を知って知らずか、彼女の悩みを些細なものとして吹き飛ばすようにおでこを指で弾くメイヴ。

 

「あうっ」

 

「馬鹿ね。私の冠位超絶神親友(グランドセックスフレンド)がそんな甲斐性なしなわけないでしょ。一人の女を愛するのにいっぱいいっぱいになるその他凡百とは一線を画すわよ。親愛なる冠位超絶神親友(ブラザー)は心から愛する者がいるのなら、たとえそれが何百人、何千人になろうとも全身全霊、身も魂も燃やして彼女達に愛を捧げるわ、例外なくね。今更、敵対してた神様が一柱増えた所で些事よ些事」

 

 まるでそれが世界の理だと断言するかのようなメイヴの自信にスカディはただただ飲み込まれるばかりであった。メイヴといると自身がウジウジ悩んでいた事全てが取るに足らないものだと本当に思ってしまいそうになる。

 

「スカサハ・スカディ。あなた、まだここ(カルデア)に来てからマスターに一度も会ってないでしょ」

 

「あ、あぁ……そうだが」

 

「自分の国を助けてもらったのなら直接顔を見て、まずはお礼ぐらい言っておきなさいな。それとも北欧の女王様となってしまうとありがとうも知らない礼儀知らずだったりするのかしら?」

 

「む」

 

「愛だの恋だの言う前にまずは最低限の義理は果たしなさい。それが終われば私がすぐに百戦錬磨の恋愛ノウハウを授けてあげるわ」

 

「二言はないな」

 

「えぇ」

 

 マスターを堕とせる恋愛ノウハウを授けるなどは言ったがメイヴにはそんなつもりはサラサラなかった。

 というより、その必要がない。

 そもそも、事が拗れている一番の原因として挙げられるのが、スカディが直接デアーと会うのを避けていること。

 ならばこの堅物女神が自らマスターと会いに行くに足るもっともらしい理由を作り出し、発破をかければいいだけ。

 男の方が純朴な草食系童貞というのなら、スカディもまとめて一線を越えれるようなシチュを用意してあげるのも吝かではないが、マスターであるというのなら心配はない。彼とスカディを会わせた時点でミッションはコンプリートされると言ってもいい。

 たとえどんなに面倒くさい喪女が来ようとも、パーフェクトコミュニケーション、『よし、楽しく話せたな(犯せたな)』を叩き出す唯一の神友(マスター)にメイヴは一ミリの陰りもない全幅の信頼を寄せていた。

 

「この時間なら、マスターは自室で暇をしている筈だからさっさと行っちゃいなさい」

 

 カルデアのマスターのスケジュールは常に逼迫している。

 人類悪としての第三宝具『竿繋ぎの多元性交(パラレル・セックス)』で十体の自己を並列存在させていても、女性達と蜜月の時を過ごす場合は当番表として厳密に誰がどの時間に過ごすのか管理されている程に。

 ゆえにマスターが暇をしている時間など、ほぼあり得ない。

 

「世話になったな……その──」

 

「メイヴ。女王メイヴよ。全く、名前も知らない女の部屋にホイホイついてきたの?」

 

「張本人のお前が言うのか……。だが、メイヴ、メイヴ、メイヴとな。分かった、覚えた。もう忘れぬ。また後でな」

 

 メイヴが言った「この時間なら自室で暇をしている」という台詞。本来なら、メイヴは今頃マスターと部屋で戯れている筈だった。この時間というのは、当番表に従ってメイヴに割り振りられた貴重な時間。

 だが、その時間をどう使うのも本人の自由。ならば気まぐれで恋に臆病になっている女の子に少し恵んであげても文句を言う者などいない。

 

 ▲▲▲

 

 メイヴ

【ちょっと今日、遊びにいけなくなったわ】

 

 

 マスター

【なんかあった?】

 

 

 メイヴ

【体調が悪いの。察しなさい】

 

 

 マスター

【りょ】

 

 

 メイヴ

【代わりに私の友達がそっちに遊びにいくから】

 

 

 マスター

【メイヴちゃんに俺以外の友達? 妙だな……。さてはエアとも?】

 

 

 メイヴ

【ころすわよ♡】

 

 

 マスター

【(´・ω・`)】

 

 ▲▲▲

 

 スマホから自室にいるであろうマスターに手早くメッセージを送ったメイヴは部屋の出口で何やら必死に杖を振りながらまごついているスカディに声をかけた。

 

「まだいたの」

 

「『平常心のルーン』と『魅了無効のルーン』と『体温維持のルーン』と『自己暗示のルーン』と『気絶無効のルーン』をかけて、あぁ、後は後は後は、『発汗抑制のルーン』も……」

 

「はよいけ」

 

 






いずれ、満面の笑みで笑うマスターとスカディの写真を入れたペンダントを身につけるようになるメイヴちゃん。


次回は後編(エロ)。




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。